プロフィール

軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.--(--) | スポンサー広告 |

終わらなかったので



「どうして流風にばっかり背負わせようとするのよ」

 家に帰ると、ソファーに腰掛けた紗央がじとりと俺を見て言った。
 紗央はずっと椿はうちで引き取ればいいと主張していたのだ。それを却下して、俺は水城流風に話を持ちかけている。それが今でもまだ気に食わないのだろう。

「……流風の人生めちゃめちゃにしちゃうのよ? 子供ひとりいるだけで大変なのに、男手ひとつで、その上他人の子供まで育てさせるなんて」
「案外楽しそうに見えるけどな」
「そういう問題じゃないのよ。大和はもう、新しいことなんて考えられないだろうけど、……流風はまだ結婚とか考えるかもしれないし」
「……それは、嬢ちゃんは薄情だっつってるみたいに聞こえるぞ、紗央」
「そうじゃないわ。そんなこと思ってない。流風、帰ってきた頃からずっと言ってたもの、今は結婚とか考えられないけど樹理に母親が必要なら考えるって。考える余裕をなくしたのは椿も育てなきゃいけなかったからでしょ?」

 紗央の隣に座ると、紗央がふっと軽く俯いたのがわかる。

「こういう言葉は使っちゃいけないのかもしれない。でも、樹理のため椿のため大和のためルミのため、って、疲れる時間も恋する時間もなく生きてる流風が可哀想じゃない。樹理のために生きるのは当然よ、けど、結局大和と流風は他人同士なんだからそんなに背負わなくてもいいじゃない。流風の人生は大和のためのものじゃないのよ?」

 ともだち、なんて軽い言葉で人生をめちゃめちゃにされる流風は可哀想だと紗央は言う。
 ……確かに、俺と紗央が互いにまたいつか出会えることを期待して人生を送っていたのとは、訳が違うだろう。手がかからないといっても子供がふたりだ。楽なわけではあるまい。それはうちにも真紘とみのりがいるからよく分かる。もっとも、うちの二人は手がかかる子供だったが。

「これは流風が選んだんじゃない、あたしたちが押し付けたのよ。可哀想なのは盥回しにされる椿だけじゃない、受け入れなければ友情を否定される流風も一緒。……流風だって、今は両親もなく暮らしてるのと一緒なんだから。失ったものが多いのは大和や椿だけじゃないわ」

 水城流風は、子供を連れて帰国した時から勘当を覚悟していたという。そりゃあそうだろう、反対を押し切って留学しただけでなく子供を連れて帰国、その上母親は他界となれば縁を切られても仕方がない。実際勘当されているわけではないが、なんとなく疎遠らしい。幼い樹理を育てるのにはルミに話を聞いたりすることが多かったと聞く。頼る親がいない、そして孤独な自分を受け入れてくれた大和やルミも今はどこか遠くに居る。奴は孤独に見える。だからこそ、樹理や椿が必要なんじゃないか、とも俺には思える。

「……そんなに嬢ちゃんのことばっか心配されると妬けるな。俺だって元長男、頑張ってんだけどなあ」
「何よ、大したことしてないくせに。第一大和のこと可愛いわけでもないくせにどうしてそんなに躍起になるのよ」

 それは単純だ。ソファーの背もたれに深く寄りかかり、腕を伸ばして紗央の肩を引き寄せる。

「嫁に死なれたら俺もああなるから」

 大和を弟だと認識することは少ない。寧ろ今だって自分は第三者の位置にいる。弟だからどうにかしてやりたいんじゃない、単に気持ちがわかるからだ。大和に対して家族愛を抱くことなどこれまでもこれからも一切ない。ただ、映画の登場人物に共感するように、本を読んで涙するように、俺には奴の気持ちが痛いくらいにわかる。多分、同じことが起きれば俺も大和のように日々を過ごすのだろう。
 焦がれて、焦がれて、何度も諦めて、それでもずるずる引きずった。相手のことをどうしても忘れられなかったのは俺も大和も同じだ。何でも手に入る世界で、すべて捨ててでもそれだけ欲しいと願ったもの。何でも手に入る世界を捨ててただひとつ求めたのだから、求めたそれは俺や大和にとって、世界そのものだ。大和の世界には今、必要のないものばかりで溢れかえって、たったひとつあればいい、そのひとつだけが欠けている。その痛みは、想像することも恐ろしい。俺が今、突然、隣にあるこの温度を失って、それでも前を向いていけるだろうか。否だ。恋人を失った水城流風を薄情だと思うつもりは少しもない。ただ、流風と俺らとじゃやはりバックグラウンドが違うのだ。失う覚悟があった人間と、ない人間とでは、向かい方もそれからも段違いになる。

「……真紘とみのりが許さないわよ、そんなの」
「知ったこっちゃねぇな」

 紗央がふと口元を綻ばせる。それから、最低、と嬉しそうに呟いた。

「……どーでもいいけどそういうのリビングでやるのだけはやめて欲しいんだけど? 一応思春期なもんで」

 すると背後から呆れた声音が届く。紗央はびくっと体を震わせて俺を突き飛ばす勢いで離れる。振り向いてみれば風呂上りの真紘だった。紗央と同じアイスブルーの右目と、日本人らしい黒い瞳が一緒になって何か汚いものでも見るかのような視線を送ってくる。貴重な時間を邪魔しといて何だその態度は。

「おい真紘、その空気読めねぇ能力どっかに捨てて来ねぇと締め出すぞ」
「はぁ!? 何だよその無茶振り!! やるなっつってんじゃねぇよ、場所考えろっつってんの!」
「お前が出てくるタイミング考えりゃ何てことねぇだろうが」
「無茶言ってんじゃねぇよ、ドア閉めたら見えねぇのにどうやって確認しろっつーんだ!」
「家族だろ雰囲気読め」
「ざけんな親父てめぇさっき俺もみのりも知ったこっちゃねぇとか言っといていきなり家族扱いか!!」

 俺に牙を剥く真紘に、紗央が苦笑して「やめなさいよ」と声をかけると、怒られるべきなのは親父だろ! と猛反発。
 可愛げのないガキだ。紗央に似て性格がこれでもかってほど捻くれている。みのりにはこう育ってほしくないもんだ。
 隣に心底愛する女がいて、可愛くないがガキもいて、この温度の中で弟のことを思うと、そりゃあ第三者的に同情しかできない。この温度を失うことは、さすがに俺でも耐えられそうに無い。

「……俺もいよいよ人間染みてきたな」

 呟くと、はぁああああ? と明らかに馬鹿にしたような息子の声。
 青と黒の瞳はさっきより嫌悪感を露にしていた。 

「馬鹿親父、喋るなら日本語喋れよな。理解できねぇ」
「うっせぇ黙れ油売ってる暇あったら勉強でもしてろ」
「残念ながらあんたらより勉強してるし賢いんで。オアイニクサマ」
「いやに勉強できるよりも紗央みてぇに馬鹿で性格悪いけど家事だけは完璧、くらいの方が人間的にいいぞ」
「さっきと言ってること食い違ってるけど!?」
「しかもさり気なくあたしを侮辱するのやめなさいよ、怒るわよ?」

 そこで二階からみのりが騒ぎを聞きつけて下りてくる。どうやら仲間はずれにされたように感じたらしく、紗央に良く似た顔で頬を膨らませている。

「なんでみんなで仲良くしてんのー!? あたしだけ除け者なんてずるいっ」
「違ぇよ馬鹿、親父が意味不明な言語で絡んできたんだ!」
「え、お父さん日本語以外も喋れるの?」
「おう、敬意を込めてバイリンガルパパって呼んでもいいぞ」
「タク、それ言ってて恥ずかしくないの……?」
「うおおおお、聞いてる俺の方が恥ずかしくなってきた……! マジで親父もう外出んな!」

 家なんつーモンにこれ以上縛られてたまるか、と思っていた。今でもまだ家に縛られている大和はご苦労なことだ。実体の無い肩書きに縛られることほどくだらないことはねぇだろうが。人間そのものに嫌気が差した時期もあったが、死にそうになりながら生きていた紗央がいて、親に良く似た馬鹿なガキが二人、俺はこいつらにだけなら縛られていいと思えている。
 水城 流風は失う覚悟のあった人間だ。だから、今ある幸せを掴んで絶対に離さないだろう。樹理と椿と、絶対にその手を離さない。それ以上はもう求めないに違いない。

 
 なあ大和、羨ましいだろう?




スポンサーサイト

2009.10.10(Sat) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

手を差し伸べるのが自分であれたら。



「……僕、お父さんには一生言うことないだろうなと思ってたんだけど、」

 風呂上りの温まった腰にひやりとした湿布を丁寧に貼り付けると、樹理は深く深くふかーく息をついてから、

「お父さんも老いるんだよ」

 とぼそりと呟いた。

「……お前いい度胸だな、樹理くらいでかい息子いんだから老いるに決まってんだろ!」
「いやそうでなくて」
「そうでなくて何だよ! お前生まれた時点で大人の階段上りきった清清しい気分だったよ悪いか!!」
「そんなことも聞いてないって」

 呆れた顔でまたため息をつく息子を睨みながら流風は起き上がった。バスケ部の指導中にあろうことか腰を痛めたのだ。自分としても年齢を実感せざるを得ない。自他共に認めるアイドルばりの若さを誇っていたために、ショックも普通の人の倍以上だ。

「腰を痛めると老いてしまうのですか?」
「椿、腰ってのはいろんな意味で年齢を実感する部分なんだ……」
「よくわかりません」
「年取れば嫌でも分かるって」

 子供ならこれくらい可愛らしくいてほしいものである。ひとりで育ってくれて大変ありがたい気持ちはあるけれども、要らんことまで言わなくてよいというのが流風の本音で、樹理はつまり真っ直ぐお節介な子供に育ったようだ。
 樹理が冷湿布を冷蔵庫に戻しに行ってすぐ、ドアベルが鳴った。この音はロビーからの音ではない。玄関前に誰かいるのだろう。僕が行くよ、と率先して樹理が玄関へと向かう。ドアの開く音、それから廊下を歩く足音で、誰が来たのかは大体見当がついた。

「よう、嬢ちゃん」
「子供の前でやめてもらえますか、通報しますよ」
「悪人なら俺に任せとけ、これでも本職でな」
「ああもう頭痛くなるんで帰らないならせめて黙っててください」

 手に何やら紙袋を持った桜井 拓海だった。拓海の後ろをついてきた樹理は今日何度目かになるため息を再び。椿はいつも通りの笑顔で、お久しぶりです、と礼儀正しく頭を下げた。

「紗央がクッキー焼いたんだが、癖で大量に作りやがってな。とてもうちだけじゃ消化しきれん」
「はあ、じゃあそれ置いて帰ってもらえますか」
「なんだよ、俺と嬢ちゃんの仲じゃねぇか」
「大した仲じゃないですからね、帰ってもらうのも当然かと」

 冗談が通じねぇな、と苦笑しながら拓海は椿の頭をくしゃくしゃと撫で、その手に紙袋を握らせる。
 
「これ持って部屋戻れ。子供は一緒に遊んでろ」

 どうやらその紙袋は子供を追い払う道具だったらしい。樹理にしろ椿にしろ、空気の読めない子供ではないから、部屋へ戻れと言われれば何か用事があるのだと察することくらいできるのだが、おそらく紗央がクッキーを焼きすぎたのも事実のようだ。聞き分けのいい子供たちは揃って階段を上がっていく。その背中を見送ってから、拓海は流風に向き直った。

「せっかくだから酒でも飲みながら話すか」
「その酒とやらは誰が出すんでしょうかね」
「俺は客人だ」
「いいえ、単なる荒らしです」

 まだ痛む腰を摩りながら、流風は立ち上がって冷蔵庫へと向かった。






「随分いいもの飲んでんじゃねぇか」
「ほとんど飲みませんよ。料理に使うくらいで、毎日子供の世話と仕事とでそうそう飲んでる暇もないですしね」
「健康的だな」
「ええ、部活で腰は痛めましたけどね」
「そりゃご愁傷様」

 冷蔵庫にあったのは栓を開けていない白ワインのボトルだった。飲む暇がないというのは嘘だが、ひとりで飲んでもあまり面白くないので普段あまりアルコールを飲むことはない。最近は来客や宿泊客が多いからか、いつもに比べれば飲んでいる方だ。料理に使うためのワインでも、一応美味しく飲めるものを選んでいてよかった、とグラスに口をつけながら流風は思った。一応つまみのつもりで、これも冷蔵庫にあったカマンベールチーズを出した。安物は選んでいないはずだが、おそらく拓海は銘柄や値段などはあまり気にしないだろう。いくら芹沢の長男といっても、家を出てからの方が長い。大和にしても、いやにジャンクフードを好んだりしていたし、不味いものにはいろいろうるさかったが安くて美味いものには文句は言わないし、それに一般家庭育ちのルミの手料理なんてどんな高級料理を出されるよりも喜んでいた。多分、そういう家系なのだろう。

「……それで、椿に何か?」

 この男が流風に接触する時は、芹沢の人間として椿の話をする。そう頻繁に芹沢邸を訪れることができない流風にとっては、芹沢の代弁者としての拓海の存在はとても助かっている。だが、いい話を持ってくるとは限らない。そこだけが問題だった。

「前置きは要らねぇな」
「貴方の前置きなんてあってないようなもんじゃないですか」

 軽口は叩くが、砕けた話ならこんな断りは入れない。あまりよくない話らしい。聞く前に喉にワインを一口流し込む。

「椿が中学に上がるまでにあの馬鹿がどうにもならなかったら、椿を正式に引き取ってくれ」

 流風はグラスに残ったワインを飲み干すと、はあ、と返事ともため息とも取れない声を出す。
 椿を正式に引き取るということは、法律上正式に親子になるということだ。流風としても、その点に別に問題はない。今の関係に法律が後押しをくれるだけだ。
 
「……それじゃあ、ヤマトはどうなるんだ」
「椿が手元にいなければあいつも自由に死ねる」
「俺はヤマトを殺したくなんかない」
「生きてないなら死んだ方がいい」

 拓海の声は淡々としている。
 拓海の言うことは、わかる。どんな事情があるのかもある程度理解はしているつもりだ。でも、流風の心はそれに追いつかない。

「確かに大和には時間が必要だったんだろう、……だが流石に生きてない人間を何年もトップに据えとくわけには行かねぇんだ。俺が継がない以上、芹沢も新しい当主を考えなきゃならん」
「なら椿に継がせればいい、……花を習いたいと俺に言ってきた、花に興味もある、それに直系だ」
「しかし教育を受けてない。それに娘である上にどうしようもない父親と、一般家庭生まれの母親との間に生まれた。分が悪い」

 ルミのことを蔑んでいるわけではないのだ。ルミが一般家庭の人間だったことは紛れもない事実。
 どうすればいい、どう答えたらいい、どう答えれば大和は、そして自分の心は納得するのだろう。どうすれば大和も椿も幸せに生きてくれるだろう。
 自分が大和に貰ったものを、どうやって返せばいいのだろう。

「……椿から父親を奪うことになる」
「嬢ちゃんがいる」

 流風にも、自分が椿の父親になっているという自覚はできている。何年も自分が育てた娘だ、椿の父親になることが嫌だという訳ではない。そうではない。

「ヤマトから椿を奪うのは、残った時間を奪うのと同じことだ……!」

 大和にとってルミは、幸せな過去であり幸せな現在。なら椿は、大和の幸せな未来の象徴。大和が芹沢家で生きる理由。椿が『芹沢椿』だからこそ、大和は芹沢家で生きることができる。
 過去を、現在を、そして未来を奪われたら、大和は本当に命を絶つしかなくなってしまう。あんなに広い屋敷でも、大和の居場所はどこにもなくなってしまう。
 しかし、搾り出したような流風の悲痛な声を、拓海は相変わらず淡々と切り捨てる。

「生きる気があるならとっくに戻ってきてるはずだ。……あの馬鹿にとって、椿は永遠に二番手だ。下がらないが、繰り上がることもない。椿の存在は大和を死なせなかっただけだ、生かすことはできない」
「ッ、椿は父親を待ってるのに、」
「待ってるなら尚更、早くお前が父親になってやれ。芹沢の娘じゃなく、普通の家庭の子供として育ててやれ。椿自身、大和よりもお前に傾いてる愛情の方がでかいだろう」

 声が詰まった。それは、椿自身も言っていたことだ。俺に寄せる気持ちは大きいのだと。
 それでも、見捨てるつもりはないとも言っていた。小学五年生が、だ。

「椿のことを考えても、父親があんな状態の芹沢にいるより、普通の家庭で普通の娘として育った方が幸せだ。恋愛ひとつするのにも、大和が苦労したようにはならないだろう」
「その苦労があったから椿がいるんだろ……」
「その苦労を受け入れられるのは大和本人だけだ。娘にまで同じ経験させたいとは思わねぇよ、俺だってそうだ。嬢ちゃんだって、恋人に先立たれる経験を樹理にもさせたいとは思わねぇだろ」
「俺と大和じゃ考え方も立場も違う!」
「一緒だ。ガキを育てなきゃならねぇ立場に考え方もクソもねぇんだよ、義務なんだから」

 流風が黙ると、拓海はグラスの中のワインを飲み干し、ボトルをグラスに傾けて新しく液体を注ぎいれる。
 
「なあ嬢ちゃん、これでも俺が一応働いたんだ、条件呑んでくれねぇか。そりゃあもちろん芹沢は椿を引き取るって言ってる、でもそれじゃさっき言ったように椿が可哀想だろ? ならいっそ今の生活を続けさせることが一番いいとは思わねぇか」

 直系を手放させるよう、拓海が働きかけているのだという。やはりそうか、という思いがよぎる。
 長男とはいえ、勝手に一族を飛び出した拓海が意見を主張し、それを通すのは簡単なことではないはずだ。その上、大和の代わりに家を継ぐ気もないとなれば意見など言える立場にないことは明らか。
 それでも、拓海はこうして流風に椿を頼みに来ている。簡単なことではないことを、拓海は成そうとしている。
 
「……嫌なんじゃないんだ、椿がずっと手元にいてくれるなら、俺は嬉しい」

 でも、与えられた自分が大和から何かを奪うなんて、気持ちが許さないのだ。

「どうして椿じゃダメなんだ、全部無きゃダメなんてわがままが過ぎる! どうして椿ひとり愛してやるために戻ってこれねぇんだよ、ヤマト……!」

 樹理を連れてこの国に帰ってきた日のことをまだ流風は鮮明に覚えている。雪の日だ。両親にも結局言い出すことができずにその日を迎え、行く当ては芹沢邸しかなかった。事情を知っていた大和と、知らされずに驚いていたルミと、穏やかに眠る椿。幸せそうな家族だと思った、自分は樹理に永遠にこの暖かさを教えてやることはできないのだと。 
 自分は大和に受け入れてもらったからこうして今も樹理を育て、生きることができている。なのにどうしてその大和から今度は大事なものを奪わなければならないのだろう。ルミがいなければ椿は生まれなかったのと同じように、大和がいなくても椿が生まれることは有り得なかったのに。どうして椿のために戻ってきてくれないのか、居場所ならいくらでも作ってやる、けれど、世界がそれを許してくれない。
 大和のことを考えても、椿のことを考えても涙腺が緩む。滲んだ涙を拭う流風を、拓海はグラスに口をつけながらただ眺めているだけだった。

「……もちろん、椿が中学に上がるまでにどうにかなるならそれでいいんだ」
「……けど、二年なんてあっという間だ」

 これまで椿を育ててきた時間もあっという間に過ぎたというのに、その三分の一の時間なんて、きっと星が流れるように一瞬の出来事だ。

「……いいよ、わかった。……それまでにヤマトが戻ってこなかったら、俺が椿を引き取る。堂々と保護者会も参加して、運動会も出て、休日にはデートして、結婚式には一緒にバージンロード逆走する」
「ああ、そうしてやれ。バージンロード逆走すんのも大和よりお前の方が映えるだろ」
「褒められると照れる」

 精一杯の笑顔はどうしたって乾いたものになってしまう。
 全部、大和がルミとしたかったことだ。椿を奪うことで、自分は大和に何を与えてやれるだろうか。答えは出ない。
 何が大和にとって本当に幸せなことになるのだろう。死なないでいる状態から切り離してやることは、本当に大和の幸せに繋がるのだろうか。
 それで本当に、椿は幸せになれるのだろうか。それは不幸にならないだけではないのだろうか。死なないでいるだけの大和と、変わらないんじゃないだろうか。
 
「……なんか、ダメですね、俺、樹理よりも椿とかヤマトのことに頭使っちゃって」
「そんなだから可愛くねぇガキに育つんだよ、樹理は」
「はは、ごもっともです」

 一口に片付けられるものか。
 順序などつけられない。大和のように一番を永久欠番にしておくことは、流風にはできなかった。流風にとって、今の自分を支えるものすべてが一番。
 どうすれば自分も幸せでいられるのか。ワインの白い水面が揺らめいても、答えは出ない。


2009.09.19(Sat) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

ひさびさに

「これ、椿ちゃんと樹理くんに」
「子供にばっか優しくて俺に優しくする気はない、と。上等なスーツの一着もプレゼントしてもらえたら夕飯も張り切って作るってのに」
「なんで僕がお前にまで優しくしてやんなきゃなんないんだよ」
「そりゃあ昔からの付き合いってことで」
「却下」

 最近は入れ替わり立ち代わりで人が来る。今日の来客は樹崎 ミナトだ。椿と樹理に渡して、と手渡された紙袋の中身を見れば上等なブランドの服だった。サイズが合っているのかどうかは知らないが、そういうミスをする男ではないだろう。来客のため、樹理と椿は自主的に部屋に下がっている。夕飯のときにでも渡そう、と流風は紙袋を床に置いた。
 今日の夕方のことだ。流風が勤務する月見ヶ丘高校に、ミナトがふらりと立ち寄った。流風自身も、そして流風やミナトが学生だった頃の担任なども酷く驚いていた。当然だろう。ミナトは親の仕事の都合でアメリカに引っ越し、そちらで就職したと聞いていたからだ。

「今度から東京の支社で仕事任されることになってさ。下見かねて小旅行、みたいな」
「みたいな、じゃねぇよ。連絡くらい入れろ」
「水城に会う気はほとんどなかったんだから仕方ないだろ」

 ミナト用と自分用、ふたつのマグにコーヒーを注ぐ。砂糖とミルクはどうする、と問えば、いらない、との返答が聞こえ、流風はそのままマグをミナトの目の前に置いた。ネクタイをきっちり締め、眼鏡のよく似合うミナトは典型的なインテリに見える。それでも俺の方が頭はいい、と声には出さず流風は思った。

「芹沢の屋敷行ったら拍子抜けしちゃってさ。水城にでも会うか、って」
「俺は息抜き用でもなんでもないぞ」
「けど、……ルミに線香あげるついでだったのにさ、相変わらずあれじゃあ気が抜けるって」

 マグを両手で包むように持って、ミナトは苦笑した。大和に会ったのだろう。葬儀からもう六年、あの葬式の時と変わらない大和を見、未だに椿が流風の元にいるのを見て、ミナトは気落ちしているに違いなかった。 
 
「……死にそうな顔してた、芹沢」
「あの頃の豪傑はどこへやら、だろ?」
「何言っても聞きそうになかった。何も考えてない目で、ぼーっと椿の木見てるだけでさ。椿ちゃんいないみたいだったし、住んでそうな感じもなかったから多分いないんだろうなって思って。……芹沢にとって椿ちゃんって、娘でしかないのかな」

 手のひらを暖めるようにずっとマグを手にしているミナトを目の前にして、流風はコーヒーを一口啜った。舌に伝わる熱と苦味。それから流風もミナトのように目を伏せる。

「……水城には全然わかんないのか? 芹沢の気持ち」

 それは、流風もまた伴侶を喪う経験をしたことを知っているから出た質問だろう。同じ質問はたくさんの人にされた。拓海にも、紗央にも、奈央にも、空にも、椿にも。
 
「解らない」
「同じじゃないってことか」
「同じじゃない。――樹理の母親は、遠くないうちに死ぬことがわかってた。樹理を産めばそれまでの時間がもっと短くなることも」

 そう、だから、訪れた死が突然であったとしても、受け入れることができた。何もしてあげられなかったけれど、それでいいと彼女が言ったから。樹理と流風と三人で、家族になることができたのだからそれでいいと。けれど大和は違う。無限の未来を描いて、これから三人の時間をもっともっと作ろうとしていた矢先だ。立ち直れない大きな傷になるのも致し方ない。

「……それに、葉山は芹沢の生き方を変えた。自分さえ良けりゃいい、自分が生きてりゃどうにかなる、って奔放に生きてた奴だったのに、」
 
 結婚の許しを請う時、大和は言ったのだという。
 葉山がいなければ、真っ当に生きていくことができない。だからこの人が必要だ。
 と、戸惑うことなく言ったという。

「……俺が樹理の母親のことを愛してなかったとか、俺が薄情者だとか、そういうことじゃないんだ。ただ、金持ちのぼっちゃんは基が脆いからな、耐え切れないんだと思う」
「それは解る。理解はする。……でも、納得はできないし、ルミも天国で離婚届に判押したくなってると思う。……椿ちゃんを放ったままなんて、どうかしてる」

 ミナトはルミの近くにいて、大和のことを良く知らない。ルミの側に立った意見を言ってしまうのも仕方がないこと。
 ミナトの発言を流風は理解はするが、とても納得はできない。離婚届に判など押さない。ルミはきっと、ほんっと仕方ないわね、と大和が自分で立ち上がるのを気長に待っているはずだからだ。

「芹沢に言い分があるのも分かる、ルミが大事だったのもわかる、すごくわかる、でも、椿ちゃんはルミが勝手に産んだ子じゃないだろ」
「……そうだな」

 どうして椿を連れて行かなかった、と泣きながら叫んだ大和を、流風はまだよく覚えている。
 その声は悲哀に溢れていて、病院に駆けつけた流風も紗央も思わず目を背けた。ただ、痛ましかった。父親の慟哭を聞く椿のあどけない表情も、正直、流風には直視できなかった。
 一人になれば死ぬことができたのだろう。妻と娘を一度に喪えば、大和も後のことなど全く気にせず、自分勝手に死ねばよかった。でも、椿を殺すことはできない。椿を生かすことは、ルミと、他の誰でもない大和が決めたこと。椿を殺すことはできなかったのだ。

「ヤマトのこと、庇うわけじゃないんだけどさ」

 マグが段々ぬるくなっていく。

「……ヤマトは、本当に本当に、葉山のこと愛してたんだ。逆もそう、どんだけわがままでも、葉山は受け入れてくれた。葉山だってヤマトのこと、すごく好きだったと思う。俺はああはなれないな、ってよく思ったよ。だからさ、やっぱりヤマトの中で、椿は二番なんだ。一番はずっと葉山だ、死んだって繰り上がるわけじゃない。そう思ってたから、葉山が死んだ時ヤマトもすぐ死ぬんじゃないかって思ったんだけどさ、結局今まで生きてるんだよな」
「……当然だろ、父親なんだから」
「そうでもない。ヤマトは基本的に自己中心的なんだよ、自分さえ良きゃいい。本当はいつ自殺したって全然おかしくない、でも生きてる。ってことは、」
「一応椿ちゃんのことを考えてる、だから生きてるって? あんなの、生きてるうちに入らない」
「俺もちょっとはそれ思った。いやあ、だけどさ、これで俺が育てた大事な椿に母親の影を見出して変なことでもされたら、と思うとぞっとするんだよな。ヤマトには悪いが可能性を否定できないもんで」

 流風の言葉に、ようやくミナトはぷっと吹き出した。
 
「ま、それやられたら僕も怒る」
「だろ? そういう俺の父親的事情もあるわけで、ヤマトが全部整理できるまでは時間をやってもいいのかな、と思う。何よりも椿がそう言ってる。だから平気だ」

 テーブルに肘をつき、ミナトは感心したようにため息をついた。
 ルミを大事に思っていた者が、大和を生かしたい気持ちは分かる。そして芹沢の人間が当主を生かしたいという気持ちも、わかる。
 だが、それでは大和の味方が誰もいなくなってしまう。突然樹理を連れて帰国した流風を、笑って出迎えた大和だからこそ、流風は自分だけでも味方にならなくてはならないと今痛切に感じた。
 他の誰が大和を急かそうとも、自分だけは傍で味方になってやらなくてはならない。傍に誰も必要ないというのなら、残された椿は責任を持って自分が育ててやろう。
 椿を引き取って育てているのが、同情ではないことが確かにわかった。どうして自分だけが本当に椿を愛してやれるのかもわかる。芹沢大和という人間が、歪な形をして生きている水城流風をそのまま受け入れたからだ。

「……ヤマトのこと許せとは言わないよ」
「……いいよ、ちゃんと話せるようになったらぶん殴る。水城に愚痴っても仕方ないもんな、他人の子ここまで育ててるお前には言っちゃいけないよな。悪かったよ」
「いや、それはいいんだ、別に」
 
 それ以上、流風とミナトの間に大和の話題は出なかった。マグの中のコーヒーを飲み干すと、ミナトは話題を切り替えるように明るい声を出す。

「椿ちゃんと樹理くんに会わせてよ。ちゃんと会うの葬儀以来だ」
「そんなになるか……。椿は母親似だぞ、かなり」
「ルミに似てもいいことなさそうだけどね。……話に聞く限りじゃ両親に似ず聡明だね」
「そこは俺の影響」
「流石は二児の父。否定はしないよ」

 今日は水城家に宿泊するというミナトに、どんな夕飯を振舞うべきか。
 喋りたいのなら鍋物にでもするべきだろうか。そんなことを考えながら、流風もまたマグを空にすべくコーヒーを喉に流し込んだ。



2009.09.18(Fri) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

きみをひとりにはしないから



 どうしてつばきをつれていかなかった……!!




 一ヶ月に一度は必ず、この夢を見る。
 こころをなくす前の、父様の最後の叫び。こころからの叫び。
 父様にとって、私は生きていくのに邪魔なのだろう。私もあの事故で母様と一緒に死んでしまえれば、父様はもう少し楽だったかもしれない。






「あら」

 ドアを開けて、最初に気付いてくれたのは紗央おばさま。紗央おばさまは、父様のお兄様の奥様で、私にとっては義理の伯母さまだ。小さな喫茶店を従妹の奈央おばさまと営んでいらして、料理の腕はお二人とも天下一品。私はまだ小学生だけれど、調理実習も苦手だからお二人にはいつかいろいろ教えていただきたいなと思っていたりする。

「椿ちゃん! 珍しいね、いらっしゃい」

 奥から奈央おばさまが出てくる。私ひとりで来ることなんて無いから、驚いた顔をしている。ぺこりとお辞儀をすると、カウンター席に案内してくれた。お店はあまり広くない。奥に一組、女の人が二人組みでケーキを食べながらお茶をしている。それくらい。

「学校終わったんだ」
「はい、先ほど一度家へ帰りました」
「そっか。樹理くん中学生になって時間合わなくなっちゃったもんね」

 奈央おばさまがそう言う。当たっているから、私は苦笑した。
 去年までなら樹理さんが大体家にいてくれたけれど、中学生とでは時間が合わない。私は家に帰ってもしばらくひとりになってしまう。宿題をしたり本を読んだり、することがないわけではないけれど、広い部屋にひとりというのはやっぱり、どこか寂しいから。

「ここにだったらいつ来てくれてもいいから。好きなだけ食べて行って」
「そんな、私そんなつもりでは、」

 私はただ、寂しいから誰かに一緒にいて欲しいだけで。甘いものが目的だと思われたらそれも少し寂しい。けれど紗央おばさんがカウンターの向こうで首を振る。

「いいのよ。こっちだって余っちゃうのは困るし、流風が来た時割増で請求するんだから」
「それはおじさまのご迷惑になってしまいます」
「あんたの父親なんだから、それくらいしたって当然でしょ?」



 どうしてつばきをつれていかなかった



 と叫んだ父様の声が甦る。あれ以来聞いていない父様の声。毎日聞いているのは優しいおじさまの声で、私が何を考えていて、どう思っていて、今どんな気持ちなのか、気付いてくれようとしている人。大好きな人。
 私のおとうさんって、誰なんだろう。
 ふいにそんな疑問が生まれて黙り込むと、奈央さんがふわりと優しく笑って私の肩に手を乗せてくれた。

「それよりも、椿ちゃんは紗央ちゃんの可愛い姪っ子だもん。心配しないで」
「そうよ、姪っ子に何ご馳走しようといいじゃない。ご好意ってやつ」

 そう言って紗央おばさまは私の前にパイの乗ったお皿を出した。おばさまの作るレモンパイは大好きだ。
 今紅茶淹れるね、と奈央おばさまもまた奥へ戻っていく。フォークを刺して、一口頬張ったパイの甘酸っぱさは、なんだか今の私の気持ちと似ている気がした。





「なんだよ椿。どこ行ってたんだ?」

 マンションに戻ると、樹理さんが帰宅していた。普段私は帰宅してからあまり出歩かないから、樹理さんも不思議だったのだろう。

「紗央おばさまと奈央おばさまの喫茶店にお邪魔していました。お土産まで頂いてしまって」

 紗央おばさまと奈央おばさまは、余っちゃったから、とパイやタルトをケーキボックスにつめてくれた。色とりどりのケーキは見ていて飽きないけれど、こんなに食べきれるかわからない。おじさまも樹理さんも、男性にしては小食だと思う。それを告げると、あたしのケーキが食べられないなんて流風が言うわけないじゃない、と紗央おばさまは自信満々で言い、樹理だって育ち盛りなんだし賢いんだから糖分取らないと、とも付け加えていた。

「まあ、美味しいから食べられると思うけど。取りあえず今晩のデザートには困らないな」
「ええ」

 出かけるのに肩にかけていた小さなバッグをリビングの椅子にかけ、ケーキボックスを冷蔵庫に入れるためキッチンへ向かう。ケーキボックスは小さいとはいい難いから、ちゃんと仕舞えるかどうか心配だったけれど、ちょうどいいスペースが確保できそうだった。ボックスを仕舞って、冷蔵庫の扉を閉めると、夕飯どうする? と樹理さんが問いかける。

「夕飯?」
「あれ、お父さんからメール来ただろ? 今日遅くなるんだって」

 急いで鞄から携帯を取り出してみてみると、確かにメールの着信があった。マナーモードもサイレントにしてあるし、喫茶店でながなが話してしまっていたから気付かなかったのだと思う。

「冷蔵庫、何かあった?」
「私に聞いて何かわかるとでも?」
「使えねぇ奴」

 樹理さんが冷蔵庫を確認して、ああ何もないな、とぼやいた。子供が料理をするのに使いやすい食材は確かに見当たらなかったかもしれない。

「じゃ、何か適当に見繕ってくるから」

 樹理さんは自分の通学鞄から財布を取り出すとズボンのポケットに無造作に仕舞う。留守番よろしく、とその足は玄関へと向かっていく。ああ、ダメだ。これじゃあ何の意味も無い。またひとりになってしまう。
 


 わたしもつれていって



「……一緒に行っては迷惑ですか?」

 靴を履く樹理さんの目の前に立って、勇気を振り絞ってそう言うと、

「ちゃんと献立考えるの貢献しろよ」

 と返された。

「ば、バッグ取ってきます!」
「なんだよ、来るつもりなら始めから持ってこいよな」

 くるりと方向転換してリビングに戻る。小さなピンクのバッグから白いつるつるの携帯電話を取り出す。
 マナーモードのサイレントは解除して、樹理さんの待つ玄関へと急いだ。





2009.06.17(Wed) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

ちょっとまえのつづき



「樹理、お前そろそろ春の保護者会の案内とかもらってんじゃないのか?」

 夕食の最中、目の前でハンバーグを頬張る樹理に流風が声をかけると、樹理はあからさまにぎくりとした表情で視線を逸らした。この反応では隠していることがバレバレで、樹理の隣に座る椿もその様子を見てくすくすと笑っていた。

「何だよ、別にお前が嫌がるようなことひとつもしてないだろ。役員とかだってできるわけないんだし」
「お父さんが保護者会来ると翌日蜂の巣になるから嫌なんだよ……」
「光栄に思え」
「思えないって」

 中学に上がってそろそろ二ヶ月が過ぎようとしている。保護者会の案内が来てもおかしくない時期。何よりも、自分も教員をしているために保護者会の案内を作成中だったりするのだ。
 樹理の保護者会にもできるかぎり毎回参加をし、椿の保護者会にも代理で参加しているのだ。参加の頻度としては椿の保護者会の方が高いかもしれない。特別しゃしゃり出て発言したりするわけではないが、子供の頃から何かと人目を引く容姿で、現在もそんな悪癖は直っていない。こればかりは直そうと思っても直せない、致し方ないものではあるのだが、樹理はそんな父親を恥ずかしく思うようだ。

「そんなこと仰っても、おじさまと同じくらい樹理さんも人目を引きますわ」

 椿がそう言う。流風も頷いた。樹理の母親も整った顔をしていたが、その母と父である流風の血を引いているのだから、遺伝の力だけでも相当なものだろうに、樹理は母親譲りの緑色の瞳に金髪だ。流風以上に人目を引いていてもおかしくない。

「僕はいいんだよ、慎ましく生活してるから」
「俺だって慎ましく出席してる」
「お父さんは身から滲み出るオーラがアイドル的なんだよ」
「何だそりゃ」
「僕が受験する時、絶対ツキ高の倍率これまでの倍以上になるよ、お父さんのせいで」
「受験料たんまり頂けてありがたいな」
「うっわ、最低だ」

 軽蔑するような目で樹理が流風を見、流風もまた上から目線で樹理を見る。その態度の違いに折れて先に視線を逸らしたのは樹理だった。いいよ、あとで出す。と諦めたように言うと、そのままかき込むように食事を続けた。
 贅沢な悩み持ちやがって、と陰での人気者なのだろう息子に思いを馳せながら椿に視線を移すと、何か声をかけたそうにこちらを見ている瞳にぶつかった。

「椿? どうかしたか?」
「あ、いえ」

 いえ、という表情ではないのだが。なおも何か言いたげな瞳で食事を続ける椿に、そうか、とだけ流風は返した。何かあれば樹理のいないところで声をかけてくるだろう。





「……あの、おじさま」

 その日の夜。
 部屋でひとりコーヒーを飲みながら小テストの採点をしていると、控えめなノックの後に扉の向こうから椿がひょっこり顔を出した。入っていいよ、と声を掛けると、パジャマ姿でてくてくと部屋の中に入り、ベッドの縁に腰掛ける。

「何か話あるんだよな? どうした?」

 樹理は今頃部屋で勉強しているか、もしくはもう寝ているのかもしれない。椿もいつもならばこの時間には床についているはずだ。流風自身は中学生の頃から就寝時間などまちまちだったから、子供にもあまり強くは言わないことにしている。言われずとも翌日に支障をきたさないよう自主的に行動してくれる子供たちで、流風はあまり親らしいことはできていないのが現状だ。
 ならば子供が何か相談があるときくらい親らしくせねば、と流風は椅子ごとくるりと振り向いた。椿は俯き加減でこちらの様子を窺っている。

「……な、習い事、を、させていただきたいな、と思いまして」
「? なんだ、それくらい言えばいいのに。何を?」

 すっかり乾いた黒髪が、ぱさりと落ちた。

「……お花を」

 一瞬ぽかんとしてしまい、椿が不安そうな表情で流風を見つめていた。我に返ってすぐ、なんでもないよ、と苦笑いを浮かべてしまう。
 ――いつか言い出されることだろうとは思っていたけれど。
 それでも流風には意外だったのだ。椿が五歳の頃からずっと面倒を見てきている。椿は自分がそういった家の生まれであることは知っているだろうが、詳しいことはほとんど知らないのだ。それまで稽古をつけられていたわけでもないようだったし、単に花を愛でるのが好きなだけなのかもしれないとも思っていた。

「……椿、それはもう少し待たないか?」

 嫌なわけでもない。いずれ椿が芹沢を継ぐということになるのなら、早い段階からちゃんと稽古をつけてもらうべきなのだろう。けれど、それならば父親に教わるのが一番だろうし、流風は詳しいことはよくわからないが、下手に別のところで教わるわけにもいかないのだろう。大和が落ち着くまで、もう少し待たせたいのが本音である。

「そう言われると思っておりましたわ」

 流風の言葉を聞いてすぐに椿はそう言って顔を上げた。椿も自分の置かれている状況は把握しているのだろう。それならば今こうして花を習いたいと申し出たのは、ちょっとした我が侭のようなものなのだろうか。

「……樹理さんがおじさまと仲良くされているのを見て、ほんの少し羨ましくなってしまって」

 今度は腰を上げて、笑う。
 夕飯の時のやり取りでそう思ったのだろうか。それとも、

(ずっとそう思ってたんだよな、椿)

 そういうことなのだろうか。多分、そうなのだろう。椿はずっとそんな思いを抱えて生きてきたのだろう。心から甘えることもできず、本当の母親を亡くし、父親も今はまだ遠いところにいる。寂しさを抱えてどうしようもない椿を、どうにかしてやれるだろうからこうして引き取ったのに。

「お仕事邪魔して申し訳ありませんでした。おやすみなさい、おじさま」

 ぺこりと頭を下げる椿の手を、そっと握ってやる。
 驚きと戸惑いが入り混じった表情だ。椿、と名前を呼んでやると、律儀に返事がきた。
 ――こんな時に、流風が父親としてしてやれることなど限られている。

「今日は一緒に寝ようか」




2009.06.10(Wed) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

またつづき、ていうか回想



 芹沢 大和が自我を取り戻すことができないのは、自らに全責任があると感じているからなのだろう。
 あの日彼女は家にいて、ちょうど昼食を取った後の幼い椿を寝かしつけ、自分も一息入れているところで我がままな夫から連絡が入った。大和の我がままに振り回されることには慣れっこの彼女は、仕方ないわね、と椿を家政婦に任せて腰を上げる。そうして大和がいる場所へと車で急いだ。
 芹沢家の運転手が法を逸脱する運転をするはずがなく、たまたま大きなトラックがそこを通りかかり、たまたまその運転手が長距離の運転で疲れていたためか寝不足だったのだろう、居眠り運転をしていた。大通りでたまたまぶつかった。大和はルミを呼び出しただけだ。誰も事故が起こるなどとは考えていない。
 それでも、この事故を大和の引き起こしたことだと感じる者も多いのだろうことは、流風もわかっている。誰よりも大和自身がそう感じているのだ。昔からの自分の我がままで、ついに最愛の妻を喪ってしまった。椿から母親を奪ってしまった。幼い頃に母を亡くしている大和だから、幼くして母を失うことの辛さは一番わかっている。その引き金を自分で引いてしまった。その悲しみと絶望は、流風が樹理の母を失ったのとはまた違う種類の悲しみなのだろう。
 事故の連絡を聞いたその瞬間から、大和は茫然自失としてなかなか言葉を発さなくなった。彼女の葬儀も、喪主として語ることはひとつもなかった。実質葬儀を運営したのは彼女の実家と、大和の兄夫婦である。


 葬儀は雨の日だった。


 華やかに笑う彼女の遺影を抱きかかえたまま、大和は雨の中を立ち尽くしていた。
 まだ幼い樹理の手を引き、黒い傘をさしながら、流風はそれを眺めていることしかできない。

「よう、嬢ちゃん」
「……この度は、」
「んな挨拶聞きたくて声かけたんじゃねぇんだよ、こっちは」

 聞き飽きた、と欠伸を噛み殺しながら彼――桜井 拓海は言う。
 実質的な喪主としてあいさつ回りをしたのは彼である。元は芹沢家の長男としてある程度の常識と帝王学を叩き込まれた拓海をこの場に擁立したのは、他でもない芹沢サイドだった。大和があのような状態にあってはまともな葬儀など期待できない。しかし現当主夫人の葬儀である。彼女の実家にすべて任せるわけにもいかず、家としての体裁を保つためやむなくという話らしい。

「嬢ちゃんは、何だ、学者さんだって聞いたけど」
「まあ一応。今はいち教師ですけどね」
「で? 国飛び出して海渡ってガキ連れて帰ってきた、と」
「八つ当たりなら余所でやってもらえますか? 子供のいる前でする話じゃないでしょう」
「いや」

 ばたばたと大粒の雨が傘を叩く。

「椿を引き取っちゃくれねぇかと思ってな」

 拓海の声はいやに通っていた。激しい雨の中でも、すっと耳に入る声。それは大和の声によく似ている。

「……どうして俺が。第一ヤマトがいる」
「あれが今ガキ育てられるように見えんのか?」
「でも俺ができるわけない。どっちかって言ったら親戚だし年齢も貴方の方が適任でしょう。紗央さんが母親代わりになってやればいい。同い年の娘もいるんだ、家柄だってそっちの方がずっといいんだし」
「俺より、信頼おける人間が預かる方が奴も安心すんだろ。ついでに言えば、うちはガキ二人育てんので手一杯なんでな。出来も悪い、家も狭い。お嬢様ひとり養える環境じゃねぇよ」
「それはうちだって、」

 傘の柄をぐっと握って反論しようとしたが、拓海にびしりと指を突き付けられて一瞬怯んでしまう。拓海はにやりと口角を上げて、いやな笑みを作った。

「調べないで打診するわきゃないだろ? お前さんの年収、これまでのキャリア、そんでこれからのステップ、住居、芹沢の元長男舐めんなよ?」
「厄介払いするのに昔の権力振りかざしたんですか」

 これでは椿が可哀想だ。芹沢の後継ぎになるかもしれない一人娘を芹沢に置いておけないという事態。引き取ることを桜井家が拒否するのなら、このままだと椿はいずれ盥回しになるかもしれない。それだけは避けてやりたい。でも。
 きゅっと樹理の手を握れば、ペリドットの瞳が不思議そうに流風を見上げる。
 今まで、この手を引いて生きていくので精一杯だったのだ。雨風に晒され、片手で傘を持ち、片手で樹理の手を握る。樹理が辛くならないように傘を差してきたのに、この手で傘を手放してまた別の子供の手を引いていくことなどできるのだろうか。子供を育てることだって、自分の子供相手にも手探りなのに。

「……どうして、俺なんですか。……樹理に母親を教えてやることもできない俺が、手探りで生きていくのが精一杯の俺が、他の誰かを育てるなんてできると思ってます? 本気で」
「他の誰かじゃなく、椿はお前の娘になる。他人じゃねぇよ」
「それでも他人だ」
「正直、今一番椿を愛してやれるのはお前しかいない」
「無責任なこと言うな、一応あんたヤマトの兄貴だろ!?」
「だが、他人だ」

 あー、とやる気の無い声を出しながら、拓海は内ポケットから煙草の箱を取り出した。雨の中、煙草の先に点けられた火が煙を作り出す。

「向こうの実家でもいいだろう、別に。だが、父親が健在なのに椿だけを押し付ければ向こうには蟠りができる。ガキが知らなくてもいいことを椿が飲み込むかもしれない。芹沢に置いとくんだってそうだ、どこにいたって椿は十分愛されない。どちらにも同情できるのはお前さんだけだろう、なあ、嬢ちゃん」

 大和が自分を失ってしまうことにもある程度共感はできる。その上で、椿を可愛がってやることもできる。確かにそういう人材はこの近くでは自分しかいないのかもしれない。けれど自分では足りないことも多すぎる。金銭的な面などの問題ではなく、もっと根本的なところから、自分にこんな役目は無理ではないかと思うのだ。

「……でも、母親は教えてやれない」
「それはあのバカがああなってなくとも同じことだ。椿の母親は、」

 ふう、と煙を吐き出して、拓海は目を伏せた。

「死んじまったんだから」

 彼女が焼かれて生まれた煙が、雨の中曇り空に昇った。



2009.05.29(Fri) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

そのまたつづき


「――椿はどうしてる、って、言ったよ」

 椿と入れ替わりに樹理が風呂に入った。ふわふわの桃色のタオルで髪の水滴をとりながら、椿は少し驚いたように目を見開いて流風を見た。
 薄いオレンジのパジャマに身を包んだ椿は、そのまますたすたと流風のいるソファーに近づくと、流風の右隣に遠慮なく腰を下ろす。ふわりとシャンプーの香りが漂った。

「父様が?」
「そう」

 驚きとその他諸々の気持ちが入り混じった複雑な表情で、椿は髪を拭く。
 実際本当に複雑なのだろう。椿だって父親に会いたくないわけではあるまい。

「……お前が会いに行ったら、少しは何か変わるのかもしれない。ここまで母親に似て育ったんだから」
「おじさまの育て方が良かったのですわ」
「んなことないって。お前も樹理も勝手に育ってくれて俺はありがたかったよ」
「おじさまの手を煩わせずに済んだのなら、それは嬉しいことです」
「煩わす、なんて言葉小五が使うもんじゃないぞ、椿」

 右手の人差し指で、椿の頭をつんと突いてやると、うう、と椿がじとりと流風を見る。
 流風も金持ちというわけではない、お嬢様らしい育て方などできなかったから、椿は口調だけがお嬢様じみているがその他の反応は一般家庭の女の子と変わらない。そこがまた、外見と相まって母親を思わせるのだ。

「……だって、卑怯ではありませんか。父様はおじさまと同い年で、おじさまだって生涯の伴侶を失われて、なのに樹理さんと私を一人で育ててくださいました。なのに父様だけがああして一人でいつまでも悲しみに暮れて、私は五歳で一人でこちらに来たというのに、戻る時もまた私からなんて。それではいつまでも父様は戻ってこないような気がして」
「……そりゃ、ごもっとも」

 そして正直、椿の考えの深さにも驚かされてばかりだ。
 確かにここで椿が会いに行っても、何も変わらないのかもしれない。一時的な変化は訪れても、芹沢大和という男はきっと、椿の中にどこまでも自分の妻を見出すだろう。それではいけない。それでは、誰よりも椿が可哀想だ。

「父様には長い長い時間が必要なのだと思います。……私は父様を見捨てる気は毛頭ありませんわ。離れていても生みの親ですもの。もちろん、おじさまに寄せる気持ちが大きいのは致し方ないこととしても。ですから、私は今の生活に何の不満も抱いておりません。父様がいつか、“私”を必要としてくださるなら、父様がきっと迎えに来てくださると信じています」

 ほんの少し照れくさそうな表情で椿は微笑むと、軽く首を傾げた。純粋にこの子は可愛いと思う。こうして一般の家庭に育てられてなお、いつか芹沢に戻るためと自分でたくさん勉強をしていることも、流風は気付いている。年齢に見合わない言葉遣いを頑張ってしているのも、おそらくはそのためだろう。いつか戻ったときには、全力で父の手伝いをするつもりなのだ。

「……手放すには惜しい、いい娘だよ」
「愛するおじさまにそう言っていただけて光栄ですわ。父様が戻られた際には、行かないでくれ! と泣いて縋っていただけるようにこれからも精進いたします」
「今大和が戻ってきても俺は泣けるね。俺の娘持ってくな、って」
「まあ。楽しみですわ」

 くすくすと上品に笑う椿の、まだ湿った髪をくしゃくしゃ撫でてやると、椿は嬉しそうに身を捩った。
 樹理が風呂から上がったのはその直後で、椿や流風と揃いのライムグリーンのパジャマ姿で大きな叫び声をあげると、急いで二人の間に割って入った。

「なんだよお前、ちゃんと髪拭けよ樹理」
「うるさいっ、何お父さん娘に手ぇ出してんだよ!」
「血繋がってないし」
「カンケーない!!」
「樹理さん、私がお母さんになるのがそんなに嫌ですか?」
「とーぜんだろ!!!」

 これはこれで随分ひねくれて育ったもんだと苦笑していると、不意に携帯の味気ない着信音が響いた。流風のものだ。
 じゃれあっている椿と樹理はそのままに、電話に出て自室へ向かう。ディスプレイに映った名前は、

『流風先輩! 俺です!!』
「わかってるよ」

 高校時代からの後輩、野島慎吾であった。





 その週の土曜、慎吾は自分の息子であるルカを連れて水城家へ遊びに来た。椿が一番下、その一つ上がルカ、椿の二つ上、ルカの一つ上が樹理で年も近く、こうして会うことも少なくない子供たちは話に遊びに盛り上がってしまい、結局慎吾もルカも宿泊する運びとなった。こういう時だから子供は風呂に入ったら二階で好きにすればいいと二階を開放し、今はどこかの部屋でゲームでもして遊んでいるのだろう。椿の部屋は散乱しすぎておそらく入れないからそれ以外の部屋で。

「樹理君の中学入学祝い! と思って来たんですけどね。泊めてもらっちゃってすいません」
「いいよ別に。たまにはいいだろ」
「先輩が寂しいってんなら毎週でも!」
「たまには、っつっただろ! た・ま・に・は!」

 流風は慎吾と向かい合って缶ビールを手に近況を語り合っていた。子供は子供、大人は大人の時間というわけだ。体育会系だけど酒あんま好きじゃないんですよねー、と笑いながら慎吾は缶を口に寄せる。でも大学時代に相当鍛えられたのだろう、高校時代の慎吾のままなら酒も強くなかっただろうが、現在の慎吾は酔っている素振りさえ見せない。

「樹理君、もう中学生ですか」
「ああ」
「なんか、だんだん先輩に顔似てきますね」
「そうか? 俺はお前の子供の方が自分に顔似てて不気味だ」
「それは俺と先輩が前世からの縁で結ばr」
「はい黙れよお前」

 慎吾の中身は相変わらずで、これだから昔からうざったい部分も当然あるのだが、これ故に救われている部分もある。
 帰国当初は樹理の存在を誰にも知らせるつもりはなかった流風だ。こうして今樹理の話題を慎吾とできているのも、不思議な感じがする。

「……葉山先輩が亡くなって、お葬式で初めて樹理君見て、あれからもう六年くらいですか。早いですね」
「……ああ」

 樹理を知り合いの目に晒すことになったのは、椿の母が亡くなったことがきっかけだった。流風自身動揺していたこともあって、樹理を隠すなどという選択肢が頭の中から消えうせたのだ。葬式で樹理の手を引く流風を見て、慎吾はひどく驚いていた。

「先輩が金髪の子連れてんですもん。そりゃあビビりますって! 独身だからいい人いないかなー、とか軽口叩いてたし余計に」
「独身なのは事実だ」
「そりゃないですよ。強がりにも程があります」

 流風が馬鹿ではないことを一番知っているのが野島慎吾で、だからこそ慎吾は樹理の存在をただの“若気の至り”などという言葉で片付けようとはしなかった。大和と同じように、樹理を自分の子供のように可愛がってくれる。慎吾は仕事柄休みが不規則で、平日家にいたりすることがたまにある。樹理がまだ幼い頃はそういう日に構ってもらったりもしていた。使い勝手のいい後輩という言い方もできるのかもしれない。

「……ヤマト先輩は、まだ?」
「何か動きがあればお前に一番に報告してるよ」
「……俺たちはともかく、椿ちゃんだけでもどうにかしてあげられたらいいんスけど」
「いいんだよ、いざとなったら俺の愛娘だ」
「あは、お父さん板についちゃったんですね。でも先輩が父親、って、高校の頃は全然考えられなかったけど意外と似合ってます」
「そりゃどーも」
「どこぞの事務所のアイドルみたいな生き方すんのかと思ったら、あそこの一流タレントみたいな人生送っちゃって」
「自分の子供はいても養女はないだろ。俺の方が賢いしスポーツもできる、格上だな」
「否定しません」

 そう言う慎吾の表情は、どこか子供の自慢話をうまくスルーする親のようで、お前の方が余程板についてんじゃねぇの、という気持ちを流風はビールと一緒に飲み込んだ。




2009.05.28(Thu) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

/
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。