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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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お手をどうぞ、good loser   1



(ああ、またコイツだ)

 郵送されてきた模試の成績表を見て、俺はまた、息をつく。また。まただ。試験場の地名は俺が受験したところとそう離れていない。でも、こんな名前は知り合いにはいない。少なくとも、俺の中学にはいない。
 全国規模の模試を受け始めたのは三年に上がってからだ。塾などにも通っていなかったから、単に受験対策として模試だけ受験していた。ひと月に一度のペースで行われる模試は自分の実力を知る良いパラメータになる。月に一度日曜を犠牲にしても、これからのために必要な情報が揃うわけだ。
 その名前を見たのは四月の試験結果が最初だった。その時は特別気にしていたわけではない。総合得点が同じというのは印象的だったが、名前については印字がカタカナだったため、どんな字を書くのかもわからない。ただ、試験場の地名が近いな、と思っていただけ。そんな近くに全国トップレベルの頭脳を持つ同級生がいる、というだけで興味の対象だった。
 名前を覚えたのは夏の試験が返却された時だった。夏休みだから、という理由でいくつかの模試を受けた。恐ろしいことに、俺が受験した模試の成績表すべてにそいつの名前が印字されていた。総合得点は、同じだったり、俺が僅かに上だったり、下だったり。全部の模試の得点を考えれば、ちょうど同じくらいだった。これにはさすがに背筋がぞっとした。
 特別にそいつの名前を意識し始めたのはその後、秋に入ってから。科目ごとの成績をよく見て、俺の方が相手より劣っていることが痛いほどよくわかったのだ。いくら総合点が同じでも、俺の方が、劣っている。親近感が対抗意識に変わった。
 もう今は師走の初め。この寒い中玄関で突っ立って成績表を見ていたら風邪を引きそうだ。早々に紙を閉じると俺は松葉杖を突きながら家に上がる。もうほとんど癒えているとはいえ階段を上るのはキツいので、まっすぐリビングへと向かった。 母は外出すると朝に聞いている。誰もいないリビング。床に鞄を適当に置いて、ソファーに腰かける。

(ま、一緒の高校なんて有り得ないだろうけど)

 本当は、スポーツの実績が全国でもトップクラスの高校にスポーツ推薦で進学する予定だった。その審査も兼ねていた試合の直前、事故って足をやってしまった。当然推薦の話は流れてしまって、俺は進路を真面目に考えることをやめた。これでプライドだけは高い自覚はある。一般で受けりゃいいだけの話ではあるんだろうが、今もまだ怪我を引きずって自暴自棄になってる感じはあって、もう俺の中ではその道は完全になかったことになった。進学も近場の私立高にするつもりで勉強している。担任や学年の先生には、もう少し上を狙った方がいいと散々いわれたが、別に、偏差値低い高校でもないし、近いし、その方がいい。
 だから、毎回成績表に載るあいつは、俺と違って、そういう上を目指すんだろう。国立大の進学率がいいとことか、一流大の付属高とか。俺が進学を考えている高校だって、別に偏差値低いわけじゃないし、エスカレーターで大学にも上がれるし、大学は文系キャンパス、理系キャンパスに加えて芸術系までカバーしている、そう悪くない学校だ。バスケは全く強くないどころか弱小みたいだが、多分、のびのびはできるだろう。何かに執着すれば、折れた時の喪失感は半端なものじゃなくなる。俺はもうそれを味わうのが嫌で、自分のレベルよりも低いところに目標を設定して、そこで一番になれればいいと思っている。
 あの学校ならもちろん推薦で受けられるんだろうが、それも癪だからそれくらいは一般受験しようと思っている。母さんは教師と同じように横槍を入れるが、父さんがフォローしてくれている。こういう時は割と使える父親だ。

(――……イガキ ソウヘイ、か)

 あいつはどこに進学するんだろう。模試は、いつまで受けるんだろう。
 俺とはきっと違う道を歩むんだろうそいつのことなんて全然わからないのに、何故だか少し羨ましくなった。





 担任から呼び出しを受けたのは卒業式も近い三月の頭。二週間ほど前に高校の合格は決まっていたので別段憂うこともなかった俺は呼ばれた通りに放課後職員室へと出向いた。足に怪我をしてから自棄になって染めた茶色い髪はまだ戻していないし、ついでだからと両耳にひとつずつ空けたピアスホールも塞がることなく空いたままだ。担任は予想通り、ため息交じりで俺を迎えた。
 話を聞けば、次の土曜に合格先の高校に行って来いとのことだった。入学式の式辞をしてほしい、との話のようだが、担任はかなり後ろ向きだ。そりゃあこんな見た目の新入生に挨拶なんざさせたくないだろうな。

「なあ水城、なんとかなんないか、その髪。耳まで戻せとは言わないから」
「……ヤです」

 そう言われて戻すようならとっくに戻している。髪の色も服装も、これはこれで俺には似合っていると思うのだ。やれることはなんだってやってきた。少しくらいハメ外したって誰にも迷惑かけてねぇし。
 それ以上担任と話すことはなかったので、その日はそれで帰った。
 次の土曜には、言われた通り合格先、月見ヶ丘高校へと足を運んだ。
 受付で事情を話すと来客用の下駄箱に案内され、来客用のスリッパを履いて、受付の人の後を歩いた。この学校は土曜も授業があるせいか、土曜の午後でも生徒の姿は多い。一際人の多い場所に来て、職員室が近いのだとわかる。受付の人は職員室の前を通り過ぎ、しばらく歩いて、『英語科教員室』の前で立ち止まって、その部屋の中に俺を通した。……何故に、英語科教員室。

「担当の先生がすぐ来るのでここで待っていてください」

 受付の人はそう言って去っていく。腕時計を見ると、約束の時間まであと十分ほどある。本棚を軽く見物して、部屋全体を見回す。

「!」

 目の前に広がった光景に、俺は思わず息を呑んだ。
 部屋の奥にソファーがあった。二対二で腰かけられる対面のソファだ。真ん中にはテーブル。その片側に先客がいた。
 そいつは、俺の通う中学とは違う、近所の公立中の制服を着ていて、我が物顔で、この教室のものであろう本を読んでいる。驚いたのはそんなことにではない。そいつの髪が、フィクションの世界でしかお目に掛かれないような、とても鮮やかな、青い色をしていたからだ。

「……隣、いいっスか」

 その声を絞り出すのに、ほんの少しの時間を使った。俺の存在に気づいて、そいつは本に落としていた視線を上げる。目を合わせてみれば驚いたことに、こいつは瞳までもが薄い青だった。
 髪はおそらく染めているのだろうし、瞳にしたってカラーコンタクトだろう。でも、ここまで徹底しているというのは、都心の繁華街などならともかく、この辺では珍しい。しかもこの鮮やかな青が、こいつにはとてもよく似合っているから何とも言い難い。似合わないのならちょっとネジが五本くらいどこかへ飛んで行ったのかと嘲笑もできようが、控えめに見ても整った顔立ち、その理知的な空気に、青という色はひどく馴染んで見える。
 ……あれ、こいつの制服そういや中学のだ。他にも入学式でやる仕事ってあるんだろうか。

「ああ、どうぞ」
「どーも」

 そいつの隣に腰かけると、大体目線は同じくらいだった。身長も多分同じくらいなんだろう。 
 座ったところで特に会話があるわけでもなく、隣のそいつはまだ黙々と本を読んでいるし、俺は俺で暇つぶしにガムを噛んでいた。なんて居心地の悪い空間だろう。現実離れした青い髪、青い瞳の男。その隣に、リアリティある不良生徒が座る光景。担当の教師が来たらきっと目を丸くすることだろう。
 その予想は、程なくして現実のものとなる。がらりと扉の開く音。急いでいるんだろう、ばたばたと部屋を駆けてきた人間は、俺たちの姿を一目見て、本当にその目を丸くして、「え」という一文字の後ダッシュで部屋を一度出て行った。俺にとっては想像済みの出来事だったが、隣に座る男は人が来たことすら気づかず読書に没頭していたらしく、「何かあったのかい?」なんて俺に聞いてくる。俺もこの後どうなるのかはわからないから、単に「さあ?」とだけ短く答えた。隣の男は本を閉じ、立ち上がって傍にある棚に本を戻す。俺は俺で、味のなくなったガムを包み紙に出して、すぐ脇にあったゴミ箱に捨てた。
 そうこうしているうちに、もう一度扉が開いた。そちらに目を向けると、先ほどダッシュで出て行ったのと同じ男がやってきていた。身長はまあ、平均的な日本人青年って感じで、年はおそらく二十代後半だろう。見た目は特別カッコイイってわけでもないが、やたら苦労してそうな空気を纏っている。二十代って年齢で、学校の一大イベントである入学式の式辞云々の制作や指示だとかの責任ある仕事を任されるのは不自然だ。でも、ここにいるのが俺とコイツってことを考えると、上の人間に面倒を押し付けられたのかもしれないな、なんて推測はできる。その証拠に、やってきた教師は盛大な溜息をついていた。なんだって俺がこんな目に、とでも言い出しそうだ。

「なんだって俺がこんな目に……」

 と思ったら本当に言った。そこの本音は隠しとけよ、とは俺はもちろん、隣の男も思ったことだろう。
 教師は俺たちの目の前の席に腰かけると、手にしていた出席簿や教科書の類をテーブルに置き、こほんとひとつ咳払いをした。

「俺は安藤圭一。担当は英語。で、今日は何でだか俺に入学式の式辞の指示出しをしろとお達しがあったので、その説明をさせてもらう。まあまず、その前に簡単に自己紹介でも」

 安藤先生の視線がまず俺に振られたので、俺から先に話し始める。 

「香山中の水城 流風っす。よろしく」

 簡単な挨拶なんてこんなもんだろう。続いて、隣に座る青い男が口を開いた。

「香原中の伊賀奇 創兵です。よろしくお願いします」

 見た目通り落ち着き払った、それでいて凛と通るその声に、ざらりと背筋を悪寒が走った。
 こいつが香原の生徒なんてのは制服でわかっていたけれど、でも、それでも、こんな偶然の一致はそうそう有り得ないだろ。この辺の人間で、イガキ ソウヘイって名前で、しかも中学三年生。このすべての項目を満たす奴が、そう何人もいるわけがない。
 怪訝な表情で俺が視線を送っていたことに気づいたらしい伊賀奇はこちらを向いて、「何か?」と俺に問う。 
 
「いや、別に、何も」

 まだ頭が混乱している。それと同時に、憤りも覚えている。
 ――なんで、お前くらいの頭の人間が、こんなところにいるんだよ……!
 誰にも見えないよう、ぐっと力を込めて拳を握ると、手のひらに爪が食い込んだ。知らず、強く歯も食いしばっていた。



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2011.12.08(Thu) | お手をどうぞ、good loser | cm(0) | tb(0) |

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