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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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死にゆく僕等に最後の痛みを 4



「え、え、ぇ、えと、そんな、絶対ダメだよっ」

 昼休み、視界の端っこで奈央が真っ赤になって何か友達に訴えかけている。
 昔ならばいじめられてるんじゃないかと勘ぐっただろうが、この奈央は至って普通の女子高生だ。特別に卑屈なわけでもなく、俺より劣っているところがあってもそれはそれで仕方ないもので、気にしすぎるポイントではないとわかっている。だから単に、何か友達にからかわれたとか、その程度のことなのだろう。
 弁当をつつきながら、横目で廊下の奈央を見ていた。俺と一緒に昼食を取っていた瀬川が俺のその行動に気づいて、顔を俺の視界に割り込ませる。

「やっぱり奈央なら何でもいーの?」
「黙らないならもう一度死なせてやるぞ、お前」
「いいよ。知りたいし、俺。どうせもう死んでるし、一度死のうが二度死のうが大差ない」

 菓子パンを頬張りながら言う瀬川の口調は、決して軽いものではない。
 その真面目な口調が、視線が、俺を追い詰めようとしている。
 妹なら何でもいいのかと。奈央なら何だっていいのかと。あんなことにならなくても、いつかは手を出したのかと。

「……っ、違う、俺は、」
「違う? ただのシスコンってこと? ――どんな奈央だって、奈央は奈央なのに? 卑屈で、内気で、お前にすげー甘い、そんな奈央はガキの時のお前が作ったようなもんなのに。そんなの奈央が可哀想だ」

 ――俺が作った奈央。
 俺がそうさせた。俺がそうさせなければ、奈央はこんな風に、普通に友達と接して、俺をお兄ちゃんと呼んで、普通に生活して、普通に誰かに恋をして、そういう風に生きていったのに。
 わかる。それもわかる。でもそれは結果論にすぎない。俺たちはああなる運命だった、とまでは言わないが、それでも二人で生きていかなきゃいけない環境にはあったはずだ。俺は奈央に甘くならなければならなかったし、奈央だってそうだった。
 弁当を食べ終わらないで片付け、席を立つ。どこ行くの、と瀬川の声。

「お前と話してたら気分悪くなった。屋上でも行く」
「へえ。今外出たら、もっと気分悪くなると思うけど?」

 瀬川の発言はスルーして、後ろのドアから教室を出る。隣のクラスの奈央は、うちの教室の前のドアの近くで何か話しているらしい。
 奈央は気づいていなかったようなのでそのまま通りすぎようとしたが、

「絶対瀬川も奈央のこと好きだってー!! 告白しないとすぐ夏休みだって終わっちゃうんだから!」
「そうそう、それですぐ三年になって受験、ってなるんだよ? 瀬川、あれで結構成績いいから地方の大学狙ってたりしてっ」
「え、あ、それはやだっ」

 焦る奈央の声。
 瀬川に、いなくなってほしくない、と言う、奈央の声。
 ああ、もう、この心臓が既に鼓動を失っているのなら、今すぐ俺の意識をここではないどこかへ。

「瀬川って奈央には特別優しいし! ていうか奈央可愛いとか公言してるしっ」
「か、可愛くないのにぃ……」
「傍から見たら何で付き合ってないのかおかしいくらいだって! 向こうから来ないならこっちから行くのみだよ奈央!!」
「う、でもっ、……あ、」

 奈央の瞳が、俺を見る。
 俺はどんな顔をしているんだろう。どんな表情をして立っていたらいいのかわからない。どうすれば普通の兄として反応したことになるんだろう。
 ――最初から、ダメだったんだ。奈央が普通の妹でも、俺は違う。俺は最初から、どんな奈央でも手元に置いておきたかったんだ。

「お、お兄ちゃん、聞いてた!? あ、あのっ、言わないで、瀬川くんには絶対、言わないでね!!」
「……別に、言うようなことじゃないし」
「ほんと!? 信じるからね、絶対だよ!!」 

 言うようなことじゃない。だってあいつは、――知ってたから、忠告した。
 この奈央が自分に好意を持っていること、を、知っていて、俺に廊下に出るなと言った。
 言っただろ、と瀬川の声が頭に響いてくるようだった。痛い、痛い、痛い、奈央を失うことが、痛い。



「結局お前は奈央のカタチをしているものなら何だっていいんだろ」
「……お前はどうだって言うんだよ」
「俺は理央とは違う」

 夕暮れの迫る通学路で、瀬川は静かに言った。 
 俺は立ち止まる。俺が後ろで止まったことに気づいたのか、俺より少し前で瀬川も自転車を止めた。

「……どう違う。お前だって同じだろ」
「同じじゃない。俺はお前みたいに、奈央ならいいとか奈央のカタチしてるから、声してるからとかじゃない。どんな奈央でも全部好きだ」

 瀬川がゆっくり振り返る。見える、勝ち誇ったようなその顔。
 一度だって俺にはそんな顔、見せたことなかったのに。
 つまりそういうことかよ。奈央のこと、今まで俺が独占してたから、環境が変わって自分が俄然有利になったら態度変えようって、そういうことか。

「奈央があの奈央と違う道を歩いたかもしれないってことは、俺にも、理央にも、全然違う道があったかもしれないってことなんだ。――所詮は全部IFだけどな。俺もお前も、どの世界にもいなくて、それでもただ夢を見てる。こうだったらいい、こうだったら、もっと幸せだったかもしれないのにって」
「……どの世界にもいないのに、夢なんか見られないだろ」
「そうだよな。……不思議だ」

 それから瀬川は、何かを諦めるみたいにため息をついた。

「それでも俺は、可能性のたくさんある奈央を好きでいられるよ。お前みたいに、今までの奈央に固執したりしない」

 強い声だった。俺を見下すような、蔑むような、力強い、声。

「俺さ、奈央に告白されると思わない? あの感じから言ってさ。そうだよな、俺このままだと地方大受験しちゃうし。二人で思い出作るなら高二の夏だよな」

 にっと笑って見せて、じゃあお先、と瀬川は再び自転車に跨った。
 遠ざかるその背を見ながら、俺は絶望して膝を折る。
 ――だから俺は瀬川に勝てないのか。どんな可能性を秘めた奈央でも、どの道に進んだ奈央であろうと好きでいられる、そんな瀬川だから奈央は。
 俺には真似できない。だって、俺の人生はあれきりなんだ。あの二十数年の人生が全てで、そこに存在した俺が、そこに存在した瀬川が、そこに存在した奈央が俺の全てなんだ。あれ以外の奈央なんて知らない。あれだから奈央なんだ。何万、何億もの可能性や選択肢があった中で、ああなった奈央だから奈央なんじゃないか。
 俺は、そういう風にしか考えられない。あの奈央だけが、俺の中で本当の奈央。なのにどうして、姿かたち、声が奈央であるだけで固執するのか。大人しく譲ればいいのに。

「っ、……仕方ない、だろ、双子は離れちゃいけないんだよ……!!」

 この奈央はきっと知らない、幼い頃の思い出が、俺をがんじがらめに縛り付けていた。




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2008.04.28(Mon) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

死にゆく僕等に最後の痛みを 3



 デニム地のミニスカート。
 紺と白の太いボーダーの薄いニット。
 じゃらじゃらと音を立てる、存在感ありすぎるくらいのネックレス。
 ……似合わないわけじゃないが、やっぱり奈央ではないな、と思う。
 変に暑い屋外のプール。そのギャラリーで、奈央はプールに視線を釘付けにされていた。
 普通の妹。親が傍にいて、ああ卑屈にならなくて、そうだったら俺の妹はこんな風になってたのか。ミニスカートなんて恥ずかしくて穿けないよ、といつか言っていた奈央を思い出した。

「ね、瀬川くんの出番いつかな?」

 期待を込めまくった視線で奈央は俺を見た。さあ? と答えると、不機嫌そうに頬を膨らませる。

「お兄ちゃん何それ! 親友でしょ!?」
「知らないものは知らない」
「聞いておいてよぅ!!」
「関係あるのお前なんだから自分で聞きにいけば? 今から」
「それじゃ遅いのっ」

 まだ高校生のはずなのに、二十歳を超えていたあの奈央よりも大人びて見えるのは服装のせいなのか。ともかく奈央は白や桃色とか黄色とか、薄くて万年春みたいな色合いの服が多くて、裾や袖にいつもレースかフリルがついていた気がするから、余計子供っぽく思えるんだろう。今思えることであって、当時は違和感なんてなかったけれど。

「瀬川くん、一番になるかな?」

 今度は心配そうな声。
 そんな心配しなくても、瀬川は速い。馬鹿みたいにいつもいつもがむしゃらだ。

「なるよ」

 だから俺はそう答える。
 短いホイッスルの後、瀬川が飛び込み台に立つ。
 更にホイッスル。選手が一斉にばしゃんと飛び込む音がして、俺は目を閉じた。



「どーだった、今日の俺! ぶっちぎり優勝!」

 夕方、会場からの帰り。瀬川はいつものように自転車を引き、俺と奈央はその横を歩く。奈央は心持ち俺より瀬川寄りを歩く。ここで近づいても変だから、俺はそのままの間隔を保っていた。
 瀬川は予想通り一位。本人が言うようにぶっちぎりだった。隣で応援する奈央も終始「すごいすごい」と声を上げ、拍手を送っていた。

「ほんとすごかったよ!! 見ててびっくりしちゃったもん」
「マジで!? カッコよかった?」
「え!? え、えっと、」

 明らかに狙ってる瀬川の質問。お前それ卑怯だろ。実際の高校時代はそんなこと絶対聞けなかったくせに。
 奈央はあたふたして視線をきょろきょろと彷徨わせてから、うん、と小さく頷いた。白いパンプスの低いヒールがアスファルトを控えめに叩く。

「そっか! 奈央にそう言われると自信つくし! 第一、奈央が応援してくれたから今日勝てたんだ。さっすが俺の勝利の女神!」
「え、あ、そんなことないよっ、……あ、でも、……あたしも、瀬川くんが聞きに来てくれたから、頑張って歌えたんだよ」
「じゃあお互い様だな。相互補完っていうか」

 『理央と瀬川くんが聞きに来てくれたから、頑張らなきゃ、って思ったの』
 奈央がいつか言っていた言葉。
 今の奈央の考えの中に、俺の存在はどこにもなくて、俺の居場所も、奈央の中にはまるでないのかもしれない。
 自然と歩みが遅くなる。
 普通、俺はここにいるべきじゃないんだろう。奈央が瀬川を好きで、瀬川も奈央を好きで、それを俺は知っているんだから、察して家で本でも読んでいるべきだ。この奈央は本当に“今”に夢中で、それは普通の女子高生で、とても可愛いと思う。受け持った生徒なんかよりは余程可愛い自信がある。

「理央、あんま遅いと置いてくぞ」
「二人で先に帰ればいいだろ」
 
 自棄になっていたわけではないが、そうすればいいと思った。二人ともそうしたいだろうとも思う。
 奈央は俺の提案にまたあたふたしていたが、そんな奈央を気にすることなく瀬川は足を止めると、振り返った。

「待つよ。三人で帰んの!」
「そ、そうだよお兄ちゃん! 三人で帰るの!」

 本当は少しがっかりしたくせに。
 奈央ではないけれど、この奈央はとても可愛い。やっぱり瀬川に渡すわけにはいかないな。そう思いながら、仕方なく歩く速度を上げた。



2008.04.18(Fri) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

死にゆく僕等に最後の痛みを 2



 懐かしい、やわらかい陽の光。
 この眩しい陽射しは、実家の自室によく似ている。窓の位置が東側だったから朝日の光がやたらと入るのだ。ああ、そういえばこの枕の感触も、自分の部屋のものにとてもよく似ている気がする。このやわらかさを、俺は知っている。
 こんこん、と控えめに音がする。……ノック? 心地よさに俺は音をそれ以上気にすることなく枕に顔を埋めた。ノックの音は段々大きくなり、最後に痺れを切らしたかのように、がちゃりと扉が開かれた。

「寝坊なんて珍しいね、お兄ちゃん! 早く用意しないと瀬川くん待たせちゃうよ」

 泣きたくなるほど懐かしい声。ゆっくりと目を開けると、そこには、……そこには。

「ほら、早く起きて? お母さんが朝ごはん片付かないって言ってるから」

 奈央の声。奈央の瞳。懐かしいセーラー服。少し拗ねたような顔。
 ――『お兄ちゃん』と呼ぶ、何の悪気もないその響き。
 体を起こしてみると、奈央と揃いで買ったパジャマではなく、高校時代に寝るときに使っていたジャージを身に纏っていた。そんなものも懐かしい。
 こんなに痛い夢を見るなんて。
 高校時代の夢。もしかしたら一番幸せだったかもしれない頃の――、……?

「っ、おい、奈央!」

 セーラー服姿の奈央は、肩までの髪を緩く巻いていて、それも俺の記憶の中の奈央と結びつかなくてなんだか不思議だった。
 けど、何より不思議なのは。

「……母さん、って、言った?」
「え? うん。あたしもう朝ごはん食べちゃったから、早く行かないとお母さん怒っちゃうよ?」
「じゃなくて! 母さんは父さんとアメリカに、」

 そのはずだ。
 父さんは外資系の企業の重役で、海外の長期出張に母さんもついていった。だから俺と奈央は残されて。
 なのに奈央は、何か変な話でも聞くような目で俺を見ると、あははは、と明るく笑った。

「ちゃんと顔洗って目覚ました方がいいよー? お父さんは専務さんで本社勤務でしょ? お母さんはしっかり家庭を守る専業主婦! いて当たり前だよ。お父さんとお母さんがそんな遠くに行くなんて言ったら、あたし泣いちゃうかも」

 えへへ、と照れ隠しのように奈央が、笑う。
 奈央は、そんなこと、絶対に言わないのに。
 早く着替えてね、と告げて部屋を出ようとする奈央をまた引き止める。何? と振り向くその顔は少し面倒そうだった。

「……髪」
「え?」

 緩くふわりと巻かれた髪を指差すと、今度は嬉しそうに顔を綻ばせる。

「ちょっと頑張ってみたの! こうしたら可愛いかもよ、って部活で先輩が言ってくれたから。似合うかな?」
「似合うよ」

 奈央が、目を丸くした。
 似合うと思った。いつもと雰囲気は違うけれど、似合わないことなんてない。俺にとってみれば何でもなくさらりとそう言うことが当然で、奈央もそれに笑いながら礼を言うというのがいつもの俺たちだ。

「び、っくりしたぁ……。素直に褒めるなんて気持ち悪いよ? あ、もしかして新手の作戦? ひっかかったぁ」

 この奈央は、誰なんだろう。
 父さんも母さんも好きで、俺の言葉を簡単には受け入れなくて、少し、子供っぽくて、明るくて、

「でも嬉しい。ありがとね、お兄ちゃんっ」

 俺を、お兄ちゃんと呼ぶ。
 


 懐かしい学ランを着て、見慣れた角で待ち合わせ。俺と奈央は徒歩、瀬川は自転車登校だ。最初はマウンテンバイクだったけど、ママチャリにチェンジしてるってことは、今は二年か三年ってことか。奈央後ろに乗っけたいしー、とかほざいてたのを思い出す。
 ママチャリに跨る瀬川に近づいて、最初に奈央が手を振って「おはようっ」と明るく声をかける。おう、と瀬川が奈央に視線を合わせた。

「お、髪いつもと違う! かわいー」
「あ、ほ、ほんと? ほんとに?」
「俺奈央にはぜってー嘘つかねぇよ?」

 奈央が、何かを噛み締めるように、そしてすごく嬉しそうに笑った。
 そりゃ可愛いだろう。髪形が違わなくたって、この奈央は可愛いと思う。これは、誰も知らなかった奈央だ。
 毎日毎日俺と穏やかな時間を過ごした妹じゃない。こいつは、俺の知ってる俺の妹じゃない。
 奈央の鞄を自転車のカゴに入れ、奈央が瀬川のママチャリの後ろに横向きになって座る。奈央がスカートの裾を直しているとき、瀬川は俺を見た。

「……やっぱ制服似合うな、理央」

 そう言った瀬川の顔は、あの、赤い密室で白い服を着ていた、あの瀬川の顔だ。
 俺の夢じゃない。俺の妄想じゃない。もし夢や妄想だったとしても、そこに瀬川が入り込んでいるんだ。
 ――そんなに俺が嫌いか、憎いか。俺の愛した奈央を奪って、自分だけが好かれて満足か。どうせお前も俺ももう死んでるのに。
 自転車がゆっくり前進する。落ちないようになのか、奈央は瀬川の背中に肩を預けていた。この奈央は俺の知る奈央じゃない、そう思っているのに、触れ合ったその部分を引き裂きたくてしょうがなかった。
 醜い、醜い、醜い。違うとわかっているのに、奈央であるというだけで執着する。だって、あの声で、あの姿で。鈴城奈央を名乗るのなら、俺以外の男と親しくするなんてやめてくれ、とまで思う。あれは、知らない奈央なのに。
 あんなにもあからさまに瀬川への恋情を示す奈央なんて、奈央じゃないとわかっているのに。

「あ、あのね瀬川くんっ」
「ん? どした?」
「この前コーラス部の発表会来てくれたでしょ? えっと、そのお返しじゃないけど、今度の水泳部の大会、応援しに行ってもいいかな?」
「え、マジで!? 大っ歓迎! 奈央に応援されたら絶対いいタイム出るって!」

 水泳の応援なんて行っても仕方ないんだぞ、と言ってやりたかった。昔、声援は耳には入るけど言葉として認識できない、って瀬川自身が言ったのだ。そんなに気張って応援なんてしなくても、瀬川は速い。
 頼むから、そんな顔を他の奴に見せないで欲しい。さして暑くもないのに、頬を紅潮させるのもやめてほしい。
 ――これ以上俺に醜さを自覚させないで欲しい。どす黒くて汚くてどろどろしている心を、これ以上抉ったら俺は瀬川を殺してしまうかもしれない。今ここで、どうにかして。そして瀬川を失って泣き叫ぶ奈央を奪ってどこか遠くへ行ってしまいたい。別人だと分かっているのに!!

「……理央、気分、悪いのか?」

 瀬川はわざとらしく横目で俺を見て、低い声で言った。
 俺は少しも迷わずに返すことにする。

「最ッ悪だ」

 

2008.04.17(Thu) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

死にゆく僕等に最後の痛みを 1


「理央」

 激痛が引いたように感じられた頃、声を、聞いた。
 気がついてみるとそこは、四方を真っ赤な壁に囲まれた密室。起き上がった俺は全身を黒い服で覆い、目の前には、真っ白な服を着た、

「……せ、がわ、……」

 瀬川がいた。
 ああ、夢だ。と思った。
 そうでなければここが生の向こう側なんだろう。
 確かに俺はさっき奈央に刺されて、倒れて、痛みを感じながら目を閉じたはずだ。瀬川はトラックに撥ねられて死んだ。きっと俺も、もう。

「……久々、だな。理央」
「……説教でもしに来たのか? お前が俺と一緒にいられるはずないだろ」

 瀬川が行くとすれば天国だろうし、俺が行くとすれば地獄だ。
 瀬川はただ純粋に奈央を愛していただけで、俺は、みっともなく、何をきっかけにしてでも奈央を手に入れようとした、汚い男だ。

「……やっぱお前、単なる兄ちゃんじゃなかったんだな。俺の一番のライバルだったわけだ」
「お前らが付き合うって言い出した時、本気で吐くかと思った」
「理央の望み通り結局どうにもならなかったけどな」
「当然だ。誰がさせるか」

 こんなの、負け惜しみだ。
 瀬川は奈央と手を繋ぐくらいしかできなかったのかもしれない。
 でも、それだけで十分だったんだ。奈央の心に居座り続けるには、その手の温もりがあれば、それで十分だった。

「……理央は、俺になりたかったんだよな、きっと。で、俺は理央になりたかった」
「……そう、なんだろうな」
「理央は俺になれれば奈央のこと、ちゃんと好きでいられたと思うんだろ? 俺は、理央になれれば奈央とずっと一緒にいられると思った。俺は思ったよ、お前と奈央をずっと見てて、あの状態の奈央の心の穴を俺は綺麗に埋めてみせる、って。ま、俺がいなくなったからああなっちゃったんだよな。可哀想、とも、可愛い、とも思ったよ」
「趣味が悪い」

 瀬川は、ははは、と笑ってから、おそらくはこれまでで初めて、俺を本気で睨みつけた。

「――俺がいろんな気持ち抑えてんの、わかんねぇの……?」

 殴りたければ殴ればいいと思った。
 どうせもう死んでいる。死んだ後にまた殺されそうな気がしたから、それ以上は言わなかったが、瀬川は当然不機嫌そうだった。

「お前は分かんないからそう言えるんだよ。俺には、奈央の態度はいつも拒絶にしか見えなかった。それでも一緒にいたいと思ったのはもちろん俺のエゴだけど、……お前がいなければもう少し違ったんじゃないかって思ったことは何度も何度も何度もあった。せめてお前が普通の兄貴なら違ったんじゃないかって」
「変わらないと思うけどな。お前だから、こうだったんだ。もし俺とお前の立場が逆だったとしても、お前は自分が思うような行動に出られない」
「それなら、」
 
 瀬川が笑った。

「奈央があくまでも、本当に普通の妹だったら? お前と多少の能力の差異はあるかもしれない、けどそれを個性と認めて素直に生きる、普通の妹なら? お前はそうやって勝ち誇っていられる?」
「………っ」

 瀬川の真っ白なシャツが、眩しく見えた。
 声にならない。
 俺が思っていた血縁の強み。それはすごく脆くて、結局は、血縁なんて言葉を借りながら、奈央の心の暗い部分を利用していたにすぎなかった。

「お前にも味わってほしいんだよ、理央。俺とおんなじ痛み。心がこっちを向いてくれないことが、拒絶が、どれだけ苦しいか知って欲しい」

 瀬川がぱちんと指を鳴らすと、光が弾けた。
 閃光の眩しさに目を細める。光の中に、瀬川の白い服と俺の黒い服、それに赤い密室が融けていった。


2008.04.17(Thu) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

eternal damnation あとがき。




これも一応追記で。




2007.12.28(Fri) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

16 (これがラスト、これでラスト)



ふう。



2007.12.28(Fri) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

15




ずっと思ってたんだけど、この宗教の教義って。(謎)



2007.12.28(Fri) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

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