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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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現実逃避。
いやーっはっはー、ヤバい。(笑)(笑えない)
そして現実逃避にフォルダを漁る。
随分前に書いたタっくんと紗央の話が出てきた。
大和と紗央とか。
とかく私は紗央とあの兄弟を絡めるのが好きらしい。そっくり兄弟。
何か、大和がタっくんに似てるほど、紗央は大和とルミを見るのが複雑なような嬉しいようなよく分からない気持ちになるんだろうなあと思って現実逃避。(笑)
17歳紗央とかさ、単なる乙女ですよ。砂吐けるくらい目の前のものしか見えてない感じがああ若いなと。(何)
阿部くんが素直クールだと知ってから大和フィーバーが起きてます。阿部くんの過去というよりも、榛名先輩に禿萌えました。マジでカッコいい。

何かもう、タっくんは再会したら紗央に半殺しにされればいいと思うよ。
別にそこまでされるようなことはしてないけど、それでも半殺しにされればよいと思う。
けどタっくんが戻ってきたら可愛さが3倍以上になると思う。
タっくん以外の相手だと2倍程度に留まる気がする。
可愛くなっても殴ります、蹴ります、味噌汁を頭にぶっかけます。
そんなダメ兄貴を遠くで見ながら、

「いやー、何つーか、あの人可愛かったんだな。今のあの人なら彼女にしたいな」

とか不用意な発言を大和がし、しかしルミは、

「うん、あたしもそう思う」

とか言って、

「だよなー。いやホントに我が兄ながらあれにやるのは勿体無い」
「単体で見ればあの人も結構いいんだけどねー。少なくとも弟より性格良いし」
「ははははは、お前、性格悪い奴が交番でおまわりさんしてんの嫌だろ?」

とかいうめちゃめちゃ緊張感のない会話をしそうな気がする。
ルミっていつ怒るんだろう。いつも怒ってる気がするけど、嫉妬とかいうものの類で怒ることはない気がする。大和じゃない奴が相手だったらそんなんで怒ることもありそうだけど、少なくとも大和相手ではありえない。奴はいつも強気に本気だ。(どこぞのジャンヌだ)(しかし大和に似合う言葉です)
多分、大和が人間としていかんことを口走ったり性格悪いこと言ったりやったりするときに怒るんだと思う。あとは売り言葉に買い言葉な感じで。

ルミと紗央は基本的に仲良しなので、そんな2人を眺めつつ、

「あー、俺なんであんなのにひっかかったんだろうなー……」
「着眼点は間違ってなかったと思いますけど? 予想外だっただけで」
「だよなあ、俺は悪くないよなあ」
「いえ、彼女が怒ることに関しては6割方兄様が悪いと思います」
「ちょ、お前っ、弟なら兄貴の身の上を心配してみろ!!」
「生憎と兄様の記憶なんてものはこれっぽっちもないもので。これだけ友好的に接していられる自分を褒めてやりたいくらいです」
「……その性格、誰に似たんだよお前」
「自己開発です。それと、俺別に後悔してませんし?」
「畜生、性格悪いくせに素直で爽やかスキルなんてどこで売ってんだアホー!!」
「ははははは、いいじゃないですか、兄様は少し頭が足りないだけで性格は悪くありませんから」

兄は負ければいい。
ていうか、絶対負ける。大和にはきっと勝てない。
タっくんと紗央とか、どっちも素直になれない中学生だし。
料理と裁縫ができないのはきっと遺伝なんだと思う。タっくんは加えて整理整頓もできない。ということはお姉さんも酷いんだろうな。大和撫子なのに。
大和は掃除くらいはできるらしい。

勉強もせずに延々と設定を打ち込んでみる。
部屋は綺麗。
その代わり冷蔵庫も飲み物以外ほぼ何も入ってない。
下手に物を入れておくと、好奇心と向上心から何をしでかすかわからないと家の人もわかっているらしいので第一食材を買うということがない。全部お手伝いさんと佐久間氏任せ。
学校では毎日お弁当。和食。
普通に教室で流風と「はい、あーんv」とかやって名物になってそう。(1年の時からやってるからもう抵抗ナシな気がする)
文系だけど理数クラス。でもできないわけじゃない。選択教科は全部文系の取って、担任とかに変な顔されればいいと思う。
けど担任はケレス先生なのでそこまで変な顔もしないかなとも思う。
(寧ろ理数に進むときに変な顔されてそう)
「ほら、カラダとココロは正反対って言うじゃないですか?」
とか意味不明な理論を持ち出しそうだと思う。
国語全般と日本史が得意だけど、実際好きなのは世界史な気がする。(またもう面倒なくらい細かいな)
この人どうやって家庭科の単位取ったんだろう。練習に次ぐ練習かね。
3回に1回指に針刺してたりすると楽しいな。流風と特訓か。
「お前よくこんな器用なことできるな……」
「ヤマトの方が逆に器用だって。技術の時間とかの作業は細かくてもできるじゃんか」
「あれとこれは別物だ!」
「キレんなよ」
とか言うててほしい。

いつか書いた文化祭の劇の続編の一部を発掘。
黒流風さんが学校荒らして回るような話だけども(もう書けない)、

「けど、どーすんのお前。下手なことすると学校追い出されるぞ。この妙な学校のことだからどっか編入しようと思っても変な手回しされるに決まってる。当然、俺はそういうのノータッチだからな」
「んなこと気にするんだったらそもそも戻ってこねぇよ」
「……っかー、いいねぇその潔さ。俺そういうの大好きだ。死ぬ時は黙って死ねよな、流風。ぐだぐだ騒いだら幻滅する」

という会話を見つけ、
え、大和さんその台詞微妙にリュークくさくない?(笑)
とか思った。流風がもっと貪欲になったら大和は見てるのすごい楽しくてわくわく超えてぞくぞくするんじゃないだろうか。
そういう大和は私も見てて楽しい。
取りあえず流風に、「……俺は近い将来破滅すると思う」と言わせたい!!(笑)
この流風はきっと潔く死んでくれると思う。黒髪に目真っ赤。孤独。

何かもう、もっとガキでもいい気がするんだけどな! 椅子に座ろうとしたとこ椅子引いてみたり(最低)。
いろいろ大和とルミのこととか考えてて、結局行き着いて思いついた台詞が、

「あれは王である我のものだ!」

だった時は自分に心底失望した。(笑)
どうしようもないな。文化祭話はどっかの誰か書いてくれないかなあとかわけのわからない期待をしています。
現実逃避長くないか。え、でもこれでも勉強したんですよ、1時間半ほど。
教科書まとめてました。しかもまだ終わってないという。(死)
4章の「連邦制度」書いてる先生、まとめるの下手。その上文章も下手。読みにくい意味分からないどうしようもない。
けど出そうな気がするから明日やります。明日から図書館バイトなのですが7時起きなのですがもう4時過ぎというカオス。
今KinKiのアルバムとビタXのカオスキャラソンを入れてます。もっと早くやっとくんだったな。(勉強でなく音楽の転送を)

そろそろ寝ないとまずいなあ。
寝よう。ツッパリー! ゾッコーン!!(笑)
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2007.07.23(Mon) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

interlude-Ⅱ―――on the way



「殺そうとまで思ってた奴を助けなきゃなんないなんて、皮肉っていうか残酷っていうか、……ここまでくるとあの女王、ここまで計算してたんじゃないかと思えます」
「さすがにここまでは考えてないだろ。運が悪かったんだ」
「あの兄貴も兄貴ですよね!! あの盗賊の居所知ってるヨー、ってだけなら親切な人で済んだのに!!」
「在り処が分かっただけありがたいと思わないとな」

 思ってもいないことをよく言えたものだ、とルカは思う。
 助けると約束した。助けてやってもいいとは思う。あんな人間でも、必要とされているのだから、必要とされている場所に戻る義務がある。必要とされるだけで人は救われるものだ。そのありがたみも、ルカはよく分かっていた。
 少し前ならそれで納得していた。ずっと決められた枠の中で生きていたから、それにはみださないようにしていた。国に対してそこまで従順ではないと自分では思っていたが、そんなのも子供の甘い考えだったと思い知らされた。反逆者として、確実に枠からはみ出してしまった今、自分を縛るものはひとつもない。それは選択の幅が広がることを意味しているが、何かに縛られなければ暴走してしまう。自分でルールを決めていかなければ。

「……それにしても、……国ってのは広いもんなんですねー……。馬で北に向かって丸一日って、どんだけなんですか」

 商人兄弟の兄にさらりと『真北に向かって丸一日も馬を走らせれば城があるよ』などと言われた時は流石に殴ってやろうかとルカも思ったものだが、馬という基準を出すからにはきっちり馬二頭を二人に貸し与えてくれたので、そこは目を瞑ることにした。

「時間の勘定間違えてるな、あいつ。一日かかって城に向かって、助け出すの何分だと思ってんだか」
「警備はザルだって言ってましたけど、普通城って警備ものすっごいっスよね。俺あの時城忍び込むの結構苦労しました」

 あの時、というのは『あの時』しかないだろう。相手が残酷な女王とわかっていながらその目の前に立ちはだかった、あの時。 
 隣で馬を走らせるシンゴを横目で見ながら、あの時のシンゴを思い出していた。
 同じ道を辿ったのなら流石にあの時のルカでも気付くだろうし、そもそもシンゴがルカと同じ道を辿れたとは思わないのだ。

「……あの時お前、どっから入ったんだよ」
「へ!? え、えーっと、どっからだっけ、……ルカさんと同じかもしれないです!」
「馬鹿言うなよ。そんだけでかいお前が城壁登れるなんて思ってない」
「え、……ルカさん、城壁を……? ……てっきり俺、同じとこ通ったとばっかり……」

 忍び込むと決めたから、誰よりも冷静になったつもりでいて、その実一番冷静でなかった。他にも手はあったのかもしれないのに、高い城壁を登るなんていう無謀な手しか思いつかなかったのだ。やってやれないことはなかったが、相当な高さのある壁を登っていくのには体力をかなり消耗して、そのせいで簡単に捕まってしまったという言い訳さえ思いつく。
 ルカより身長も高く、体も大きいシンゴが同じ手を使えたとは思えない。なら、シンゴはどうやってあそこに辿り着いたのか。

「で? どうなんだよ。隠しても仕方ないだろ?」
「そうですけど、えっと、………あれ、……あはは、こっち来たとき頭打ったのかな、覚えてないです!!」
「はぁ? 何言ってんだよお前さっき、」
「あははは、いろんなことありすぎてすぱーんっと抜けちゃったんですね、うん! つーかルカさんが城壁登ったなんて驚きですよ! 城壁登るなんて危ないし、確実じゃないのに。……ほんっと、冷静じゃなかったんですね」
「う、うるさい! そんなこと分かってる!」

 シンゴが何かを隠したがっていた。
 何を、どうして? 隠していたって仕方ないことなのに、シンゴは努めて明るく笑いながら、話題を逸らそうとする。
 これ以上話を続けたら、シンゴは怒るだろうか。知りたいと思うのは、我侭だろうか。自分はシンゴに迷惑ばかりかけているというのに、シンゴが困るだろうことを突っ込んで聞こうとするなんて、そんなの薄情だ。

「……ったく、……何かあったらちゃんと話せよな。俺お前よりずっと頼りないけど、俺がお前のためにできることなら何だってするから」
「……なーに言っちゃってんですか! ルカさんは頼りになります! 無茶するけど賢いし、無理するけど大人です。……俺は、ルカさんを守ってあげることくらいしかしてあげられないですけど、それなら俺でも精一杯できます」

 シンゴは、言葉もその視線もいつも真っ直ぐなのに、時折それが曇って寂しそうに見える。それに、シンゴはルカほど賢くはないが、とても勘が冴えることがある。今乗っている馬だって、単に馬が利口なだけではなくて、シンゴはすぐに乗りこなしてみせていた。知識勝負をさせたらルカが勝つかもしれないが、人間的な面でルカはシンゴにきっと敵わないと自分でも思っている。だから、そんなに卑下することではない。シンゴにはもっと、いつものように胸を張って真っ直ぐ前を見ていて欲しいと思う。

「……嬉しくないぞ、それ」
「けど、俺がそうしたいんです。そのために俺くっついてきたんですし! よっし、ほら急ぎましょう! 遅くなったらあの兄貴何言い出すかわかったもんじゃないですよ!!」

 シンゴが馬の速度を上げた。
 ルカもその後を追う。シンゴは真っ直ぐ前を見ていた。
 ルカはシンゴがいてくれなければ立つことさえままならなかっただろうに、シンゴは、一人で立って、何かを見据えて、時折絶望しながらも、目を逸らすことだけはしていないようだ。

「……ほんと、強いなお前は……」

 ここへ来てからもう何度目かになる言葉を、ルカはそっと呟いた。


2007.07.17(Tue) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

ちょっとした反動で。

ツキ高の慎吾とrebellionのシンゴは全くの別人なので、その反動だと思うんですけど、すごく青春してる話が書きたい! と思って書いてたけど、長くてだらだらしたからやめた。
流風と慎吾と大和と風哉君でたまに遊びにいったりしないかなーとか思ったり思わなかったりして。
男4人で映画行ってー、昼はジャンクフードでー、服とか物色してー、ゲーセンで2対2でホッケーとかしてー(バスケ部VS真っ黒でもいいし、2年VS1年でもいいし)(流風に余裕がないと遊びに行かなそうなので、1年前設定です)、負けた方がジュース奢ったりしてー、っていう、ありそうなものすっごい普通の青春したこいつらが見たい。
カラオケ行くんでもいいけどね!! 大和とか歌わなそうだけど。電波曲とかネタ曲ばっか入れて慎吾に振りそう。
スポーツ用品店とか言って流風と慎吾がやたら話し込んでたりして、大和と風哉君は遠くで眺めてたりして、
「お前暇ならバレー部入れよなー」
「あっはははは、嫌やわー、これ以上俺を束縛しようとするなんてっ」
「おう、そうだ。俺からの熱烈ラブコールを受け取れないなんて、本当にお前って奴は素手で首絞めてゆっくり苦しめないと分からないか?」
「そんなそんなぁ、大和先輩やぁっぱり過激やわーv 先輩がそうなら俺かて楽には死なせんようにアイスピックで、」
「「単なるネタなのか物騒なのかどっちかにしろー!!!」」
ってな感じで流風と慎吾に全力でツッコミ入れられればいいと思う。

この4人なら、どう2人組組んでも結構力は均衡しそうです。
流風と風哉くんとかあまりにも合わないけど、知略コンビかなとも思う。
大和と慎吾なら多分、大和は本気で味方つぶしに掛かると思う。(笑)
そんな青春な話が書きたいが、青春の代名詞、テストが迫っている。うわぁん。


2007.07.12(Thu) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

extraⅠ――the Star Festival

 広大な砂漠の端、そこに小さなオアシスと洞窟にも似た岩場が存在していた。

「ヒサさん」

 砂漠が一気にその気温を下げ始めた頃、ルカはその奥に足を踏み入れる。
 一番奥で、寝台に腰掛けて書物を眺める男が名を呼ばれて顔を上げた。
 何となくこの冷えた感じが苦手で、そう親しくなれそうはない――なるような理由もないが――とルカは思いながら、相手に軽く頭を下げた。

「何か?」
「少し本を眺めさせてもらえないかと思って」
「ほう、学がおありとは。意外です」
「俺に学なんてあったって使い物にならない。薄汚くて狭い世界で生きてたガキだからな」
「無いよりはあった方が良いでしょう。知識の一つもないと力押ししか能のないああいう大人になりますからね」

 ああいう、という言葉にルカが首を捻ると、外から盛大なくしゃみが聞こえた。次いで、くしゃみの主を笑うシンゴの声。

「なるほどね。確かにああいう大人にはなりたくないな」
「真っ当に生きてなれるものではないですが、心がけておくに越したことはない」
「肝に銘じておくよ。……で、ここには俺でも読めるような本はあるか?」

 ヒサはいつも、ルカにとって『難しい』の範疇を軽く飛び越えたような本を読んでいる。文字として認識できるなら内容の難しさはルカは問わないのだが、そもそも文字かどうか怪しいような本を熱心に読んでいるのだ。あれがただ文字を崩しただけのものなのか、異国の言葉なのかは判断がつかない。

「そうですね、…………………ああ、その一番隅に」
「……随分考えたな」
「普通に考えて貴方が読める本がここにあるとは思いませんから」
「そりゃそうだけどさ、……隅って、こっちの?」
「いえ、一番左です」

 一番右を指差していたルカは、左と指示されて一番左の棚を見る。 
 本当に様々な本が並んでいるのだが、大体意味が分からないタイトルばかりだ。自分に学がなさすぎなのか、ヒサが超越してしまっているのか、……おそらく後者だろう。
 棚の一番隅に、もう長いこと触れられていないのだろう黒い表紙の本を見つけ、抜き出す。これか? と表紙を見せて問いかけると、相手は頷くことで肯定の意を示した。

「子供の頃読んだきりの神話の本です」
「子供って何歳くらい?」
「さあ、貴方より下だったことは確かですね」
 
 壁に寄りかかって、表紙を開く。久しぶりに活字に触れた気がした。
 本があると、内容の難易に関わらず、本当に自分は狭い世界で生きているな、と痛いほど実感する。知らないことがありすぎる。それなのに、ただでさえ狭い世界で、決まりきった毎日を送る自分は何てつまらないんだろう。本を読むことは、ルカにとって世界を知ることだった。
 ……が、しかし、

「……これを俺より若い時に読んだって……?」
「ええ」

 この男のいう事だから、単に『若い』というのは極端に捉えた方がいいだろう。十になるかならないか、くらいで考えてもとてつもない。ルカにも読めないことはないが、文体が古すぎるし、言い回しがやたらと難解だ。神話なのだから仕方ないのかもしれないけれど、これをそんなに若い頃に読んだとは。やはり超越している。

「ちょっと借りてくな」
「どうぞ、御自由に」
「ありがとう」
 
 ヒサは読書中だ。そう長いこと邪魔しているのも悪いのでルカは本を手に早々とその場を去った。
 暗がりの洞窟を出ても、外はやはり暗い。日も落ちて、嫌になる肌寒さを感じた。

「あ、ルカさん!! なかなか戻ってこないから生気でも吸い取られたのかと思いました!!」
「どんな化け物扱いだよ」

 夜でも陽気すぎるくらい陽気なシンゴの声にため息をつきながらルカは砂の上に腰を下ろした。今夜はいつにも増して星が輝いている気がする。
 シンゴもルカの隣に腰掛けて、そのまま後ろに倒れこんだ。馬鹿みたいに星が綺麗ですね、とシンゴが言うので、馬鹿はお前だろ、と苦笑交じりに返す。
 そのうちに、砂漠に足音が響いた。

「お酒と食料、持って来ましたよー!!!」

 聞き覚えのあるその声は、あの商人兄弟の弟――イチのものだろう。ラクダと共にこちらに向かう影は二つ。兄弟揃ってのお出ましか。
 酒や食料を運んでくるのはいつものことのようなのだが、何だかラクダの背によくわからないものが載っている気がして、ルカは目を細めた。が、暗くてそれが何だかわからない。
 影がもっと近づくのを待つと、段々その形状がはっきりしてきた。植木か何かの類らしい。
 ケレスが兄であるエイイチと二、三言葉を交わし、イチはお決まりのことのように洞窟へとヒサに会いに行く。
 ルカも立ち上がってラクダの側へ歩き出し、シンゴも慌てたようにその後に続いた。

「……笹?」
  
 ラクダの背に載っていた植物は細い笹の枝だった。
 手にとって揺らすと、さらさらと流れるような音が鳴る。
 そのうちイチが洞窟から出てきて、今日は七夕らしいから飾りにきたんだ、と付け加えた。

「たなばた……? ……ルカさん、通訳通訳」
「七夕っていうとあれか、牽牛と織女が年に一回会えるとか会えないとか、星に願掛けすると叶うとか叶わないとかいう」
「どっちなんスかそれ!!!」
「俺だってどっかで読んだだけだから知るか。伝説なんだから本気にするなよ」
「や、でもやっぱりそういうのにも縋ってみたいじゃないですか!」

 縋ったって、叶うか叶わないかは星が決めることではない。結局は自分の行動力なのだ。
 願掛けすることが自分の中で誓いになるなら、願いを唱えてみるのもひとつ意味があるのかもしれないが。
 
「よし、僕も願い事するよ!!」
「え、うおっし、俺もするー!!!」

 イチとシンゴが砂の上へ駆け出し、満天の星空に向かってまずシンゴが叫んだ。

「俺の願い事が叶いますようにー!!!!!!」

 何だそれ、とルカは苦笑した。
 卑怯くさいがシンゴは満足なようで胸を張っていた。
 続いてイチが、

「ヒサ先生が周りの人間を踏み台にしてでも長生きしますようにー!!!!」

 などと物騒なことを叫んで、シンゴにツッコミを入れられていた。
 
「……あんなこと言われてるけど、どーなの?」

 隣をちょうど通りかかったヒサに、ルカはイチを指差しながら問う。

「踏み台にして生きることができるならばそうしますよ」
「じゃ、あいつの願いは叶うわけだ」

 ずる賢く長く生きる――それも一つの道だろうか。 
 なら尚更早く帰らなくては。
 借りた本の表紙を撫ぜながら、できるだけ早く帰れますように、と心の中で呟いて、自らの誓いを強くした。





2007.07.07(Sat) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

8――atonement


 俺にだって、守れる。
 俺にだって、助けることくらい、できる。
 夢の中と知っていながらも、シンゴは声を出さずに強く思った。




 窓から差し込む光の眩しさで目を覚ました。一度大きな欠伸をして、ここが見慣れた世界でないことを思い出す。窓の外はもう既にかなり明るい。朝などもうとうに過ぎているのだろう。いつも朝早くに起きて仕事をしていたシンゴにとって、ここまで長く、そして深く眠ってしまった経験はなかった。とにかく、この一日か二日で、いろいろなことがありすぎた。
 立ち上がり、窓の外で賑やかに活動する人々の姿を確認してから、シンゴは部屋を見回した。質素で狭い部屋に並ぶ二つの寝台。ここは宿屋である。手当てをしたとはいえ、刃物で傷つけられた肩が痛んで患部を軽く押さえた。しかしそんな痛みも、もう一つの寝台の上に人の姿を確認すると安心感から吹き飛んでいく。シンゴは再び自分の寝台に腰を下ろした。
 あの後盗賊が去って、気がつくと夜が明けていた。シンゴとルカは一言も交わさずに砂漠を歩いた。どこに向かう、とかの計画は皆無。というよりは立てようがなかったのだが、それでも、行き倒れても構わないという思いは少しもなく、寧ろ生きることへの執念が二人を歩かせていた。朝にあの木のもとを出て、先日シンゴが辿り着いたのと同じオアシスについたのは夕暮れ前。多少進んだ道は違うとしても、この前の自分のスピードが異常だったことに気付く。あの時は、ルカがもしかしたら死ぬかもしれないと思って、必死だったのだ。
 奪われたあの時計はきっと、今のルカの命なのだろう、とシンゴは思う。あれがなければ今、自分達がここに存在する理由さえ見失ってしまうのだ、多分。夜の暗さでも認識できる、あの美しい金時計。あれが何なのかは、想像はつくが知りたくない、とシンゴは思う。ただ、あれがずっとルカの手元にあるということは、ルカにあれを手放す気がないことを意味している。
 ルカはとても綺麗な顔をしていて、顔に似合う、茶色くて長めのさらさらした髪もやはり綺麗で、シンゴよりもずっと賢く、運動能力も同年代の子供の中では群を抜いていた。要するに、普通ではなかった。普通でないのは容姿や能力ばかりではない。家庭環境がとにかく劣悪で、父親が多額の借金を作って蒸発し、母親はその借金を返済するためにまた借金をし、最後には、まだ親の庇護が必要な年齢だったルカを残して病気で死んだ。それが数年前のことで、両親が共にいなくなってからの数年間、ルカは自分に全く返済責任のない親の借金を返すために、毎日毎日――シンゴが覚えている限り、それは夜が多かった気がする――シンゴも目を背けたくなるような仕事を続けていた。 
 ルカがそんな仕事をするのは、早く楽になりたいからだと思っていた。早く楽になりたいなら、あの金時計を売ってしまえば早い話なのだ。そうすれば、肉体的にも精神的にもそれ以上傷つくことはない。あれを手放せばきっと町にはいられなくなるが、借金を返済して余りあるほどの金と、自由が手に入るだろう。
 それでもまだルカはあの町にいて、時計を持っていた。体の痛みより、心の痛みより、何より、あの町で、シンゴやあの王女といることを選んだのだ。だから、ルカがあれを諦めることは絶対にない。あれを諦められるなら、最初から自由を手に入れていたはずだ。あれを諦めることは、ルカが自分の生き方を諦めることになってしまう。そんなの、シンゴが許せるはずはなかった。

「……シンゴ……」

 ルカの声がシンゴを呼ぶ。
 久々のルカの声に、シンゴは明るく、はいっ、と返した。

「……外で何か食ってきた方が、いい。腹減ってるだろ」
「え、あ、いや、」

 否定しようとしたが、図星だった。シンゴは言葉に詰まった。

「そうですけど、行くならルカさんも一緒ですよ。俺一人じゃ行けません」
「俺はいい。今、ちょっと気分、悪いから。……この前お前が買ってきたパンだの何だのあるし」
「じゃあ俺だってそれで大丈夫です! それにっ、気分悪いなら尚更外で診てもらった方がいいです!」
「平気だ。……慣れてるから。……それより、そこの剣、持ってけよ」
「剣?」 

 寝具にくるまったままのルカが、布から腕を出して指差す先を、シンゴは目で追った。部屋の隅に立て掛けられていたのは、二本の両刃の剣。こんなもの昨日はなかった。宿屋に着いたときには疲れきっていたから、二人ともすぐに眠り込んだのだ。それに、何故さっき部屋を見回した時に気付かなかったのか、本当に不思議なくらい、その二つは部屋に馴染まない、異質なものだった。

「ここらで一番の刀鍛冶が作ったものだ。どこだかの国の軍も御用達の代物だそうだし、質は確かだと思う。盗んだわけじゃないから首狙われたりしない、安心しろ」
「……ルカさん、……これ、慣れてるって、……ルカさんッ!!」

 ――こういうことを平気でするから、自分はルカに敵わない。
 シンゴは強くそう思う。どんなに嫌でも、本当に、どんなに拒絶したいようなことでも、ルカは生きるためならやってのける。死ななければ上等だ、と思っているのだろう。シンゴには真似できることではない。シンゴなら、嫌なことは嫌だからやらない。それが生きるための手段だったとしても、最後までプライドは捨てられないのだ。

「……女王が俺たちを反逆者だ、って、罪人だ、って、思っても、俺はそうは思わない。お前が言うみたいに、自分の思うことを信じてみる。俺の罪は女王に歯向かったことじゃない、お前をこんなところまで連れてきたことだ。女王にじゃなく、俺はお前にこそ償わなきゃいけない。どれだけお前が謝るなって言っても、本当に申し訳なくて仕方ないんだ。だから俺は、お前を生きて、早く国に帰すためならどんなことだってする」

 小さく呻きながら、ルカが体を上げる。昨夜最後に見たときより幾らかやつれているように見えて、シンゴはとても悲しくなった。
 あれだけ疲れていた昨夜よりやつれて見えるなんて、こんなことがあってたまるか。

「そんなの、要らない……!! 俺は、償ってほしいなんて少しも思ってない!! 俺は俺の意思でここにいるんだ!!」
「お前は本当に優しいからそうなんだろうな。けど、何もしないでいるなんて、俺がおかしくなりそうなんだ」
「あんた、っ、やっぱ筋金入りの馬鹿だろ!! 自分痛めつけて何がそんなに楽しいんだよ!! せっかく町から離れたのに……!! 嫌なものは嫌だって思えよ、痛いなら痛いって言えよ、逃げろよ!! こんなことしなくても、金なら、盗られてないんだし!!」

 ルカが、ふ、と笑った。

「商人って汚いんだ。町のああいう気前いい奴とは訳が違う。その金貨の価値がここでどれくらいになるのかはわからないけど、明らかに砂漠の人間じゃなくて、しかも子供の俺たちにいいもの売ってくれると思うか? もっともらしいこと言われて騙されて終わりだよ。騙されない自信はあるけどな」

 それから、はあ、と大きく肺から息を吐き出して、続ける。 

「方法がこれしかなかったとは言わない。楽な方法だとも思わない。でも、それは今の俺たちに絶対必要なもので、俺たちは早く帰らなきゃならないんだ。だから、俺は自分がしたことを間違っていたとも思ってない。俺とシンゴが生きるためにどうしても必要なものだから」

 シンゴは剣を手に取って、その刃をすっと指先で撫ぜた。
 それと同時に、一筋の赤い液体が流れていく。切れ味はかなり良いのだろう。

「……けど、俺にできるのはここまでだ」
「……これを渡されるからには、することがあるってことですよね」

 ルカが頷く。
 その瞳はどこまでも真っ直ぐで、盗賊と会っていたときのような動揺は少しも見られない。
 
「――殺してでも取り返す。腕が捥げようと、目が潰れようと、自分が生きていれば構わない。あの時計を、あの男を殺してでも絶対に取り返して、国に帰る……!」
「……生きるか死ぬかですからね。ルカさん、生きるために手段選ばないって好きですよね」
「事実だからな。生きてればどんなことだってできる。だから、生きるためにもどんなことだってできる」
「……上等です。強い方が正義っつったのあいつらですからね。正義の名の下に殺してでも取り返しましょう」

 剣の立て掛けてあった場所の近くに置かれていた、帯剣用のベルトを身につけると、剣をそこにしっかりと固定させて、二、三度抜きやすさを確認してから再び口を開いた。

「……俺は、ルカさんにここまでの決意をさせたあいつらを許さない」

 憎しみも入り混じった声で呟いて、拳に力を入れる。
 
「……じゃあ俺、下で話とか聞いてきます。ちゃんと休んでくださいよ。次倒れたりしたら本気で怒りますからね」
「分かってるよ。……気をつけてな」

 心配そうなルカの声を弾き返すように笑顔を見せると、シンゴは部屋を出た。
 腰の剣の重さが、シンゴを少し苦しめた。




2007.07.06(Fri) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

interludeⅠ―――knight and sovereign


 ――とある日。


「お」

 とある村の入り口で、毛並みの良い馬に乗った騎士の姿を捉え、青年は馬を急がせた。長い間青年と連れ添っている馬は主の言うことをよく聞き、速度を上げつつも体をあまり揺らさず、とても利口である。そんな馬が傍にいるからこそ、一週間近い長旅も青年にとってはそんなに苦ではない。この村は、ここ数日の彼の目的地であった。

「ケイさん」
「ん、ああ、ヤマト君か。また会ったな」
「やっだなあ、ちゃんとヤマト様って呼ばないと俺怒りますよ?」
「……ヤ、ヤマト様?」
「いい加減冗談本気にするのやめてくださいって」

 彼は度々冗談を本気で返す。青年の冗談が、やけに真剣みがあって笑えないというのも問題なのだが、青年は自らが悪いと考える機能を生憎と持ち合わせていない。
 彼は、名をケイという。青年の国からそう近くない国で、執政官をしている男である。地理的には離れた場所で生活している二人が何故顔見知りなのかと言えば、

「偶然ですね。そっちも視察ですか?」
「そう。怖がって他にやる奴いないし」
「まあその気持ちも分からなくはないよなあ。よっ、名誉の汚れ役!」
「嬉しくないな、それ。本気で」

 といった具合に、とある事情と自らの仕事上の都合で同じ場所に居合わせることがたまにあるからだった。
 本来、ケイは騎士として戦うのが仕事なのだが、騎士という役職自体能天気な君主が勝手に創設した機関であり、ケイの国は国土がやたら広く、つまり国にいる人間の絶対数が多いために、軍に割く人員も少なくない。なので城まで攻め込まれるようなことは極めて稀であるし、そもそも国の周辺にそんな物騒な民族はいない。そんな要因が、ケイの騎士としての仕事を奪い、騎士としての仕事が皆無であるがために執政官を兼職するという事態になっているらしい。元々はどこかの国の騎士だったらしいのだが、青年は詳しい話を知らない。昔から騎士だったのなら、それなりに誇りがあってもいいものだが、たまにケイは、こうして視察に来るために乗ってくる馬を撫でながら「馬に触れられる貴重な時間だ」などというものだから、青年の中でケイ=騎士という等式は薄れてきていた、というよりも、最初からなかったのかもしれない。

「今日はツヅキ君は一緒じゃないんだな」

 ふと思い出したようにケイが青年に声を掛ける。

「自分の首狙ってる奴そうそう連れて歩かないですって。さすがにまだ死ねないわけだし」

 青年が笑顔で返すと、ケイはあからさまに呆れた表情を見せた。

「まだそんなこと言ってるのか。よく飽きないな」
「何言っちゃってるんですか。俺にとっては文字通り死活問題ですよ。命狙われてんですから」

 涼しく笑いながら、青年は村の中へ馬を進めた。その後に続いて、ケイも馬を歩かせる。
 ツヅキというのは青年のすぐ傍にいつもいる部下(という扱いになっている)だったが、実際はなぜか青年の殺害を目論む謎の人物である。自分の命を狙う者を傍に据え置くというのも妙な話だが、青年は、通常まず起こりえないような妙なことが大好きで、進んでそんな要素を取り込もうとしている。故に、ツヅキという男は、自分が標的としている相手に雇われる形でよく行動を共にしていた。
 ツヅキの性格と、本来の目的に大いに問題があるが、青年はそれらをとても好ましく思っているし、問題点を除けば優秀な人材で、青年が諸々の事情から国を留守にする時は一切の権限を彼に預けていた。もちろん、権力者として青年が国にいなければならない時は国を代表してツヅキを派遣することもよくある。なので、青年とツヅキが共に国外にいる状態を知っているケイの方が普通でないのだ。

「しかし、よく全権限委託なんてできるな。血の繋がりどころか国とも接点ないような子を次席にするなんて」
「次席って意識はないですけど。いやあ、皮肉なことに俺の考え方一番分かってるのがあいつなもんだから」
「遠征中に国荒らされるかも、とか考えないわけだ」
「どうして? あいつが狙ってんのは俺の首。国は関係ない。それに、そんな下らないことするような奴なら雇うどころか最初に殺してますって」
「仮にも権力者が。言うなあ」
「権力者だから言えるんですよ。あとですねー、“こんなこと”するような権力者サマよりは余程健全な考えだと思いますけど?」

 確かにな、とケイが答え、村の中央で二人は馬を下りた。民家の並ぶのどかな村の風景。ただ異質であるのは、音もなければ人もいないことだ。人がいないというのは本質的には誤りで、村の遠くで逃げる人影を青年は見つけていた。が、放っておく。村がこの状態では、逃げたくなるのも全く無理のない話なのだから。
 音のない村。二人はもう慣れつつあるその風景に、足音を響かせていく。

「……相変わらず、惨いな」
「毎度思うけど、しばらく肉食える気しないですしね。まあ、気がしないだけで生きるために食いますけど、……今回はどんだけ生きてたんだか」

 青年は民家の一つを覗き見た。壁一面が真っ赤に塗りたくられて、少しも動く気配のない人影が二つ。攻撃を受けたのは一週間ほど前だということだが、むせ返るような死の匂いが立ち込めていた。死体の異臭につられてやってくる小さな虫を手で払いながら青年は民家に背を向けた。ケイは他の家を見て回っているらしい。
 これまでの経過から推測すると、きっとどこかの家にあるだろうものを青年は探している。どこにあるかはわからない。生き残りも多少はいたのだろうが、怯えてきっと逃げてしまっているのだろう。一軒一軒見て回るより他はない。青年は次の家屋の扉に手をかけた。

「ヤマト君」

 少し離れた民家から出てきたケイが青年に声をかける。青年が視線をそちらに移すと、ケイは軽く手招きをした。

「ありましたか」

 馬を連れて、ケイの呼び寄せた民家まで歩く。その民家は別段金持ちそうなわけでも、際立って貧しいようにも見えない。至って普通の家だったが、ただ、不気味に少しだけ開いた扉の向こうにどうしようもない闇が広がっているように見えた。

「あちゃー、今回も酷いな、こりゃ」
「どんな恨みがあったらこんなことできるんだか」
「もう恨みとか通り越して楽しくなってそうですね。関節ごとにぶつ切りなんて普通じゃできないですよ。前回は首、回ってましたし?」

 青年はつい二週間ほど前に見た情景を思い出して、バラバラになった“人間だったもの”を見ながら口元に笑みを浮かべた。自分でも人間として最低だと思うが、こんなことをする、あんなことをする、どんな正当な理由があるのだろう。それを是非とも伺いたい。とてもそんな高尚な理由が存在するとは思えないが、その本当の理由が下らなければ下らないほど、青年の欲望はどんどん高まっていく。
 ――できることなら自分もやってみたい。持てるあらゆる力を駆使して、ひとつの地域を真っ赤に染め上げ、音を消し去る行為を。

「いや、そんな狂ってれば迷わず皆殺しにしてると思う。実際はどうかわからないけど、家の数から村の人口考えて、それと死体の数考慮すると、一番最初の時は十人近く生きてるんじゃないかと思う。前回と今回はそれより少し少ないくらいだろうな」
「確かに、そうかもしれない。その人数差も謎だよな。夜にすることなんてないんだから、たまたま村の外にいたとかは考えにくいし、村をほぼ皆殺し状態にしといて微妙な数だけ見逃すってのもよくわからない」
「本当はもっと細かく調べて手がかりのひとつも見つけるべきなんだろうけど、仕事上そうもいかないからな。今回もあった、って報告さえすればうちの君主様は満足らしい」
「問題ありまくりの主人持つと大変ですねえ」
「君に言われたら笑うしかないな」

 分断された死体から目を逸らすように、ケイは苦笑し、民家を出た。青年もその後に続く。
 ケイのいる国の君主はかなり問題がある。という噂を青年はよく聞く。あれが君主で、国として成立しているのは執政官の果たす役割がとても大きいとも言われる。その執政官が彼なのだから、そう何日も死体だらけの村での骸の観察にかけている時間はないのだろう。

「まあ、暇を見つけて、今まで見に行った場所の生き残り探し出して話聞いてみようと思う。明らかに惨い殺され方してる人は絶対に共通点がある、と思わないか?」
「単独で頭のイカれた奴なら単に習慣とかまじないの一種で一人だけ特別可愛がって殺してんのかもしれないですけど、村一個潰して回ってるわけだし、ここ一ヶ月でこれで三度目だし。明らかに集団だよな」

 どんな田舎の小さな村でも、一応国家の管轄内に入っている。反乱を起こすような民族が仮にいるとしても、その情報を国が掴んでいないわけがないし、国が情報を掴めないほど小さな集団で、村一つを潰せるとも思えない。その上、最初、二度目、今回と場所はてんでバラバラだ。村をいくつも殺して回れるような集団に、普通でない力が働いている。そう結論づけるより他無い。

「……あ、ケイさん」
「ん?」
「あの馬鹿みたいに広い砂漠って、ケイさんの国が管轄してんですよね、一応。毎度お世話になってるんですけど、どこをどこが管轄してるって面倒だから覚えてなくて」

 突然の青年の問いかけに、ケイは驚きながらも頷いた。

「ああ、下手に踏み入るとこっちも危ないからほぼ放置だけどな。俺は忙しくて手が回らないからあそこで起きた問題に関しては取りあえず置いてる軍隊に任せてるよ。噂の盗賊さんのことだろ?」
「いやいや、それはそれでぶっ殺したいですけど、そうじゃなくて。一番最初、あの砂漠を抜けてすぐの集落、潰れましたよね。来週かな、あそこの生き残りに会いに行くんです」
「本当か? 若いのに意外とやるな」
「話聞かないと始まらないですからね。ツヅキに調べさせて、逃げた生き残りの場所突き止めさせて、ちょっと行って話聞かせろって凄んで来いって頼んだらあいつ相当やらかしたらしくて。それで口割る気になってくれたみたいです」

 に、と青年は笑ってみせる。青年の年齢はケイより少し下だが、今の青年の笑顔は新しい玩具を見つけた子供の顔そのものだった。

「悪い権力者だな、ほんと」
「馬鹿言わないでください。ボクを信じて命を預けてくれてる国の皆の命を守るためじゃないですか!」
「相当胡散臭いな、その台詞」
「うーわ、酷いなあ、良い権力者してんのに。まあとにかく、その場でツヅキに突っ込んで話聞いてこさせてもいいかなあと思ってたけど、流石にその辺は礼儀通そうと思ってね。あー、俺って大人だな」
「突っ込んで話聞いてこさせてもいいかなあと思ってた、って、それくらいやらかすって前から分かってたってことだろ、おい……。大人かどうかは置いておくにしても、ちょっとは進展しそうなんだな」

 青年は頷いて、馬に跨った。馬の頭の毛並みを軽く整えてやりながら、青年は「当然でしょう」と続ける。

「今後の参考になるような為になるお話聞いてきますよ」
「それなら、こんな所来てないで早くそっちに行けば良かったのに。こんなところで死体の観察なんて下っ端に任せればいいんだし、そもそも立場からいったらこんなところにいるような人じゃないだろ、君」

 そう返しながら、ケイも馬に跨る。
 青年は口角を上げた。

「――楽しいんだから仕方ない、でしょ」
「は?」

 きょとんとした顔のケイにまじまじと見つめられたが、青年は満面の笑みを浮かべ、はぐらかすように、それじゃあまた、と付け加えて馬を走らせた。



2007.07.04(Wed) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

7-2   one's justice

「――その年で反逆者なんて、どんな下らねぇ事情かと思えば」

 不意に響く、声。
 それと一緒に、ちゃら、と、流れるような軽い金属音がして、反射的に振り返る。
 なんだか聞き慣れている音のような気がする。それは、ルカ以外のところから響いてはいけない音だった。ルカの、ズボンのポケットという場所以外から、聞こえるはずのない、音。全身から血の気が引いて、そっと布の上からポケットに手を当ててみる。
 ――あの時か!!
 ルカが気付いて男の顔を見ると、その顔はさっきシンゴを蹴ったときにように歪んでいた。楽しそうに。

「おや、今日の収穫はもうないと思っていたのに、思わぬ幸運ですね」

 後ろでずっと事を静観していた華奢な男が言った。
 思わぬ幸運なんかにしてやるものか。何を捨ててもいい、さっきまで言われたくないと思っていたことをいくら言われてもいい。自尊心だの何だの、命以外なら全て捨ててもいい。あれは、あの町にいても、どこにいても奪われてはいけないものなのだ。

「っ、それを、返せ……!!」

 返せと言われてほいほい返すような奴なんていないことはルカにだってわかっていたが、そう言うより他はなかった。
 金髪の男が、まるで見せびらかすように金時計を揺らす。あれは、ルカが今ここにいて、いつか国に戻るための“理由”。あれがなければ、前に進むことなんてできない。

「王女でも攫おうとしたか? ……こんな時計、お前みたいな薄汚いガキが持ってていいもんじゃねえだろ」
「返せ!! お前らに渡していいようなもんじゃない!! 返せよ!!」
「……お前、自分ばっかり悲劇の英雄ぶってんじゃねぇぞ」
「っ!? ざけんな、そんなんじゃ!!」

 金髪の男が馬の背に乗る。行かせるわけにはいかない。ゆっくり歩き出す馬を追ってルカは走った。あの時計は、彼女との待ち合わせに使うもので、彼女と会うため以外に使う必要なんて、ない。彼女がルカに与えてくれたもの。彼女のおかげで、暗かった一日に一筋の光が射した。あれを失ったら、もう彼女と会えないような、そんな気さえする。
 馬が歩き出したのを見てか、もう一人の男もここを離れるらしい。何とも表現できない“何か”がまた空に舞う。

「なら、お前が世界の正義か? 国を追放されて、こんなところでくたばってるお前が?」
「違う! そんなこと誰も言ってない!!」
「違わないな。人のことは盗賊だの悪党だの糾弾するくせに、国に背いた自分たちは正しいと。――笑わせるな、オママゴトしてるんじゃねえんだよ」

 ルカは立ち止まった。
 正義の剣を振るうのは常に強者だ。ルカもシンゴも、その名の下に制裁された。強者が正義なら、正しさはいつも強者によって定められる。
 あの国で、正義の場所が覆るはずがない。もう長く、王国として、王族という正義の象徴が統治してきた場所だ。それでも、町に対して悪政を行ったわけではない。ただ、あの女王は、短気で残虐なだけ。不穏分子を排除するのに何の躊躇いもない。ルカは、王女を追放した、という点に関してのみ不満をぶつけて逆らっただけだ。
 正しかったのだろうか。ふとそんな疑問が頭をもたげてくる。逆らわない限りは、城下の町に悪い影響などなかった。

「俺たちが商人を襲うことが百歩譲って公平でなかったとしても、今は違う。お前らも俺たちも悪人。資格としては平等だ。なら、生きるか死ぬかを懸けてるこの砂漠で、お前が物を盗られたとしても、文句は言えないな?」

 強い者はいつも、正義を振るう。
 振るわれる側として生きてきたから分かっている。
 生まれた時、幼い時から家庭環境が他と違った。他より貧しかった。他より容姿が多少優れていた。長所だろうが短所だろうが、弱者は全て批判される。今までは、それも仕方ないと受け入れてきた。そうであるのは事実で、変えようがない。少なくとも、ルカには変える力がない。他より弱いのも仕方ない。
 ――今度も、仕方ないのだろうか。
 相手が強いから、自分達が子供だから、仕方ないのだろうか?
 分からない。判断がつかない。確かに向こうも悪人で、自分は反逆者で、秤にかけたらもしかすると、自分の方がより罪深いかもしれないのに。

「………は…………きに………………ってんだよな……」

 シンゴが、何かを呟いている。馬を追っていたルカからシンゴまでの距離は近くもなければ遠くもない微妙な間合いだったが、ところどころ音として聞き取れるところからすると、ルカに聞かれてもいいような言葉なのだろう。少なくとも、独り言では、きっとない。
 え、とルカが振り向いたときにはシンゴは立ち上がって、遠目にもわかる満面の笑顔をルカに見せていた。

「正義だろうが真理だろうが理屈に流されてたら帰れませんよ、ルカさん? 理屈から言ったら追放なんて帰ってくるなってことなんですから。それでも帰ろうとするのは、そんな馬鹿げた理由からじゃない。ルカさんが信じてるのは、国の方針だとか女王の考えじゃなくて、自分の思うことでしょう? 確かに俺たちは女王に背いた反逆者で、国外追放されちまったけど、俺はちゃんと言いましたよ、ルカさんが正しいと思ったことを、俺も信じてる。それが正義じゃなくても構わない。正義じゃないってんなら悪党上等反逆上等です! 俺馬鹿なんで、ルカさんと違ってルカさんのこと疑いませんから!!」

 今度はルカにも一言一句聞き取れるように、大声で言い切ると、シンゴは砂の上を駆けた。ルカよりもずっと長い間この砂漠を歩いたために多少慣れたのだろう。砂に足を取られる事もなくルカの元へと辿り着くと、すぱんっ、とルカの手を叩く。 
 ルカの手からナイフが滑り落ちた。それを素早く拾うと、ルカが止めるような暇もなく金髪の男が跨る馬へと突っ込んでいく。

「ルカさんの、っ、返せぇえええええええッ!!!」

 いくら走れるまで慣れたとはいっても、普通の土の上を走るのとは訳が違う。普段ならルカと張れるくらいの脚力を誇っているシンゴも、このままスピードを上げられたのでは敵わないと悟ったのか、手にしたナイフを、無防備に見える背中に思い切り投げつけた。

「使えねえ主人を持つと犬も大変だな」
「そうですね。些か哀れでもあります」

 シンゴの放った刃は金髪の男のフードを掠めて砂に落ち、それとほぼ同時に男によって放たれた別のナイフが綺麗にシンゴ目掛けて飛んでいく。

「づ、っ……!」

 男は馬に乗ったまま後ろ向きで投げたはずなのに、ナイフは見事にシンゴの右肩に刺さり、シンゴはそこで膝を折った。
 盗賊二人はその様子を振り返って見ることもなく加速していく。
 今殺さなくてもしばらくすればくたばるだろうと声が聞こえた気がして、シンゴに駆け寄りながらルカは唇を噛み締めた。
 シンゴが肩のナイフを抜いて、それでもなお立ち上がろうとするのをルカは制止する。

「……もういい、……いいよ、シンゴ」
「いい、って……!! いいってどういうことっスか、ルカさ、っつ……」
「お前は俺の盾じゃないだろ。今はもう、いいから、今はもう、それ以上傷つかないで、頼むから……」

 その言葉を聞いて、ふ、とシンゴの瞼が閉じた。死んだのかとルカは少し心配になったが、小さく上下する胸が眠っていることを教えている。 
 シンゴは何故かこんなにも必死になって、身を挺してルカを庇っている。前から仲は良かったのだが、ここまでさせるわけにはいかない。もし、今後似たようなことでシンゴが命を落としたりしたら、と思うと気がふれそうになる。
 
「正義は、いつも強い者に、………」

 静かに、思い出したようにその台詞を呟く。
 なら、なってやる。
 自分が正義だと。正しいのはこちらなのだと。
 あの二人に、あの国に知らしめたい。
 そのために、またきっと力を借りなければならなくなる。それでももう傷ついてほしくないとも思う。相反する感情の中で、ルカはひとつの決意を固めて、死んだように眠るシンゴの手を取った。 

「……強くなるから、俺のこと、許して……」

 小さく呟くような声が、段々と冷えていく砂漠の砂と一緒に風に流れた。



2007.07.04(Wed) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

7-1   one's justice


 
 砂漠というのは、とことん視界が悪い。
 昼間も思ったが、こうして日が沈んだことで更に強くルカは思った。
 昼間は昼間で光を砂が反射して眩しく、いつも顔に影を作らなければ前に進めない。
 夜は高低差のやたらある砂山がいくつも連なっているために深い影が出来て、暗くて前がよく見えない。
 頭上に“何か”がいる。それだけじゃない。砂を踏む音が、少し離れたところから聞こえてくる気がした。

「ガキが二人……?」

 しかも、向こうにはこちらが見えているらしい。シンゴと背中合わせの状態になりながら、ルカは息を呑んだ。シンゴの体も強張っているのがよく分かる。普通じゃないものが今目の前に現れようとしているのだ、無理もない。今まで普通でないものに出会ったことがないから、上手く切り抜けようにも頭に何も思い浮かばないというのもとても歯痒かった。
 頭上の影が濃さを増して収縮していく。空気の流れから、砂に下りようとしているのだろう事がわかった。ほぼ同時に、砂を踏む音の主も姿を現した。
 黒い雲が、冷たい突風に流されていく。新月からそう日にちも経っていないであろう細い月の弱い光が砂を淡く照らす。だんだんと見えてくる人影に、ナイフの柄を握る力を強めた。

「この木に人がいるのがそもそも珍しい。その上子供など四半世紀振りですね」
「はッ、てめぇ以来かよ」
「おや、貴方が子供をよく見かけるほど子供好きだったとは驚きです」
「んな曲解しかできねぇてめぇの方が余程ガキだ」

 馬“らしいもの”から下りた誰かと、“何か”から下りた誰かは、そんな妙な言い争いをしながら、被っていた深い色のフードを外した。ルカもシンゴも、それに合わせて砂を踏む足に強く力を入れる。

「……っ、こいつらですよ、ね、多分っ、盗賊って」
「ああ、だろうな」

 シンゴの集めた情報はあまりにも少ないが、まず、普通なところが見当たらない。異常の塊だ。普通の旅人などではないことは明らかだった。

「会話聞いてる限りじゃ相当アホっぽいですけど」
「お前に言われたらあいつらも怒るだろうよ」
「な、何スかルカさん、この非常時にその言い方!」
「はいはい、悪かったよ」

 ルカは視線を盗賊であろう二人に移した。未だに二人はよくわからないやり取りを繰り広げている。
 ――片方は、そこまで背は高くなく、とても華奢だ。だが絶対に頭のきれる冷静な人間だろう。そうでなければ、力押しが得意そうに見えるもう一人と釣り合いが取れないし、この容姿だけで砂漠で恐れられるというのは無理がある。
 もう一人は、いかにも、な風貌をしていた。背はシンゴより若干低いかもしれないが、それでもルカよりは高そうだ。そして何より目を引いたのが、流れる金色の髪。弱い月明かりが、見たこともないその色を照らして、男の金髪はより輝いて見えた。あんな色の髪は、見たことがない。初めて王女に会った時、その瞳の青の深さに驚いたのと同じ気分をルカは味わっていた。
 
「……で、どこの国の咎人だ、お前ら」

 鋭い目でそう問われる。
 ――俺たちは咎人なんかじゃない。少なくとも、お前に、お前達に言われる筋合いはない。
 腹立たしくて喉までそんな言葉が出かかったが、勝ち目など最初からないことが分かりきっている。この二人がもし例の盗賊でなかったとしても、ルカがまだ万全でない今の状況ではどうあっても太刀打ちできないだろう。
 今はこの場を乗り切ることだけ考えればいい。そう思ってルカは言葉を飲み込んだのだが。

「……ルカさん、“とがびと”って何スか」
「……空気読めよ、お前」
「全員が言葉の意味分かってなかったら話が進まないじゃないスか!!」
 
 この展開で真面目にそんなことを質問できるシンゴは並の神経の持ち主ではない。
 少し離れたところから、華奢な方の男がくすくす笑っていた。
 笑われて何となく恥ずかしさを覚えながら、ルカは口を開き、なるべく目の前の盗賊に声を聞かれないよう小声で告げる。

「……咎人ってのは、罪人だ。悪い奴」
「ッ、俺たちはそんなんじゃない!!!」
「ちょ、シンゴっ、黙ってろって!」

 気の短いシンゴはやはり大声を出して反論した。ルカも同じことを思っていたとはいえ、下手なことを言って怒らせてはどうなるかわからない。しかしシンゴは止まらなかった。
 ずんずん歩いて二人の前に立ちはだかると、くるっと振り向いてまた大声を出した。

「何で反論しないんですか、ルカさん!! 悪いのは俺でもルカさんでもない! 悪いのはあの国で、あの女王です!!」
「――反逆者か、お前ら。……それくらいしねぇとこんな砂漠のど真ん中にいねえな」
「若いのに謀反とは微笑ましい。たった二人で王国の転覆を謀りましたか」
「だから!!! 俺たちはそんなんじゃないって言ってるだろ!!」

 シンゴがいくら喚いても、客観的事実はひとつも変わらない。
 ルカは女王に逆らって、シンゴはその巻き添えを食らって、国外に追放されて、ここにいる。
 反逆者として十分資格があるのかもしれない。けれど、そう思いたくない。ぎり、と歯を食いしばると、ぽろりと本音が零れ出た。

「……っ、俺たちは、責められることなんて、何も、っ」
「貴方に罪を与えるのは貴方ではない。正義か悪かを定めるのもまた、貴方ではない。正義やあらゆる権力はいつも強者に付随するもの。それすらわからないでこんな所で立ち往生とは、青いですね」

 涼しげなその言葉に、違いない、と金髪が笑う。
 その笑いが、あの女王の笑いよりも余程怖くて、ルカはシンゴのようには動けなかった。自分を見られていない。全く相手にされていない。それが、よくわかる。

「……お前、」

 笑っていた金髪が、馬を引きながらゆっくりシンゴの脇を通り、立ち尽くしたままのルカに近づいた。一層体が強張るのを感じて、それを悟られまいとルカは視線をきつくして金髪を睨む。今までに見たことのない色をした細い髪が目の前で流れ、相手の骨ばった大人の指がルカの顎にかけられた。

「……無駄に綺麗な顔してるな。……下手なものよりお前の方が金になりそうだな」
「っ、るさい……!」

 ルカは腕に爪を立てた。どうしても、それだけは言われたくない。あの町から離れたのだから、それはもう、考えたくもないことなのに。
 ルカが苦悩する様子を見てか、金髪の男は笑っていた。見下したように、ではなく、完璧に見下している。そうやって見られていることもわかっている。悔しいと思うし腹立たしいと思う。なのに動けない。あの時、女王に歯向かった、あの時のような威勢のよさを今一番欲しいと思った。

「私は嫌ですよ。連れて行くにも売りさばくにも手間がかかりすぎる。貴方が全て面倒を見ると言うなら止めませんが」
「んなかったりぃこと誰がやるかよ。冗談くらい素直に受け取れねぇのか」

 ――こういうガキ行くところにしか行けねぇんだから、わざわざ手ぇ貸してやることもない。
 金髪の言葉はそう続き、こいつの指を噛み千切ってやろうかとルカが思った瞬間、先に声を荒げたのはシンゴだった。

「っ、お前らッ、ルカさんにそういうこと言うな!!! ルカさんにだけは言うんじゃねぇ、この盗賊野郎!! 人の物盗んで、迷惑かけてっ、お前ら人として最低だ!! そんな汚ねえ手でルカさんに触んじゃねぇええええええ!!!」

 激情に駆られたシンゴが砂を蹴って向かってくるのが分かる。舌打ちの後に顎を放されると、ルカはやっとのことで砂の上を一歩だけ後ずさった。踏みしめた砂が流れて、少し足がもつれたが、視線を男から外すことだけはしなかった。
 シンゴの声が男のすぐ後ろまで迫った時、はっとしてルカは大声を上げた。

「や、やめろシンゴ、止まれッ!!」
「何でですかルカさ、――あ、っ、ぐ、」

 この年になって、久々に大人を怖いと思った。
 さっきのこの男の口元は、笑っているというよりも歪んでいて、ルカが、なんだか楽しそうだ、と認識するよりも早く、男の長い足がシンゴの腹部をものの見事に蹴り上げていた。シンゴは眉間に深く皺を刻んで、声も出さずに歯を食いしばり、目の前の男を睨みつけていたが、

「っ―――」

 間もなくして、ルカの目の前で砂の海に倒れた。

「シ、ンゴ……?」
「全く大人げのない。子供相手に」
「余程相手して欲しかったみてぇだったからな。これで満足だろ、ガキ」
「シンゴ!!」

 ルカは、先ほどまで動けないくらいに緊張していたのも忘れて、転げるようにシンゴの元へ向かう。砂に足を埋もれさせながら進み、途中で転んで起き上がるとどうやら金髪の男に足を引っ掛けられたらしい。相手の性格の悪さに苛立ちは抑えきれないほど高まっていたが、そんなことよりもずっとずっとシンゴが心配だった。

「シンゴ、おい、シンゴっ、平気か!?」
「っつ……平気、です……! すいません、俺……」
「謝るなっつったのはどこの誰だよ!! 黙ってろ!!」

 腹を押さえたままのシンゴだったが、命に関わるようなほどの重傷ではないようで、ルカは心から安堵した。シンゴが無事でいてくれれば、自分はまだ動ける、まだ生きていける、そう思えていた。


2007.07.03(Tue) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

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