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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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9――helping hand


「……思ってること言っていいすか、ルカさん」
「察しはつくけど一応言ってみろ」
「……バカですよね、この国」
「正確にはこの国の王様だか何だか知らないけどトップの奴な。賢いのはゴマンといるだろ」
「いや、許容してる時点でヤバいですって」
「それは一理あるけど言わないでおいてやれ」

 昨日の夕方頃オアシスの町を出てから、もちろん時折は休んだが、全速力で馬を走らせ、日付を跨ぎ、真夜中に辿り着いたのがこの城である。
 ルカとシンゴは馬を下りた。人が少しでも少ないところを、と思って裏門にやってきたのだが、裏門のくせに豪華すぎる装飾が施され、それまではまだいいのだが、門には『裏門』とルビ付きで大きく掲げてある。バカ丸出しではあるが何とも親切である。
 その上ここの門番は、大きな柱に体を預けて眠りこけている。こうもラッキーなシチュエーションにはこの後にきっと罠があるのだろうが、ここまでぱっと見アホでいいものだろうかとルカは考えてしまった。

「うおっ、すげー運いいっスね、ルカさん! 門、鍵掛かってないですよ!」
「マジか……」

 冒険にあるまじき気軽さだ。一般民家に強盗しに来た奴だってここまで簡単に侵入はできまい。しかし、やたらと強い門番にいられても困るので、これは活用しない手はない。意気揚々と進むシンゴの後ろに付いて門を抜けると、内側からしっかり閂をして、先を急いだ。



「……牢屋までの道順が全部看板になってるなんて……」
「要らない苦労が省けて助かりましたねー」
「普通こういうのって罠なんだよな……。行った先に敵がしこたまいるとか」
「地下牢の雰囲気バッチリですよ? しかも静かですしそれもありうるかも……。あ、けど、敵がいたとしても『清掃の下働きで雇われてるんですよー』とか言えばどうにかなりますって」
「なるかアホ!!」

 雰囲気バッチリの石造りの螺旋階段。暗い地下へと続く階段を、なるべく音を響かせないよう努めながら、二人はゆっくりと下りていく。ところどころに掛けてあるろうそくの齎す灯りだけが頼りで、だんだんと暗くなる地下は今までのアホな看板を忘れさせるほどに嫌な雰囲気を醸し出していた。
 全く使い慣れてなどいない腰の剣の存在をぐっと手で確かめながら先へと進む。長い階段の終わりが見えた時に緊張が一気に増したのは、シンゴも同じようだった。一層慎重に歩を進めていくが、階段が終わった奥に人の気配を感じてルカは息を呑んだ。続いてシンゴも黙らせる。

「ルカさんっ、どうせ突撃しなきゃなんないんですからここで黙ってやり過ごせるわけないですって!」
「るさい、わかってるッ」

 そんなことわかっているのだが、外で寝ていた門番やらとはきっと違うだろう。何せこんな牢屋の看守を務める人間だ。そして、その牢屋に入っているのはあの2人。何かあった時に対処できる人材が配置されているに決まっている。武闘派かもしれないし、あの細い男――救出のメインの人物――のように奇怪な術でも使えるのかもしれない。
 ともかく、普通に考えて、普通の人間がここの看守をしているはずがないのだ。加えて自分たちは数日前まで貧乏ながらも至って普通の暮らしをしていたのだ。刃物なんて料理をするときの包丁やら細かい作業に使うナイフがせいぜいで、こんな剣、持っているだけでは意味がないとわかっている。今、ここで、使えなければ意味がないのだ。
 そこまでわかっているのにどうして踏ん切りがつかないんだろうか。ついこの間、生きて帰るために強くなりたいと思ったばかりなのに。

「っ、行きますよルカさん!」
「ちょ、待てよシンゴ……!」

 痺れを切らしたのかシンゴがルカの手をぐっと引っ張って、一段飛ばしで階段を下りる。
 遠慮なしに響く靴の音と、近づく最下部。それと、人の気配。 
 足が安定した平たい地面についた。ルカがぐっと目を瞑るのと一緒に聞こえてきたのは、自分たちの存在を咎める怒声ではなく、

「ひッ」

 という何とも情けない声だった。
 しかも声の主は槍に縋りつくように縮こまっている。

「お、おお、お、お前ら、な、なな、何者だ!!」

 一応決まりきった台詞を吐いてはいるが、その台詞に含まれるニュアンスは糾弾というよりも寧ろ助けを乞うもの、のような気がして、さっきまで足が竦んでいた自分をルカは恥じた。

「俺たち地下牢の清掃の下働きで雇われてるんスけど、今捕まっててもうすぐドナドナの如く隣国の拷問狂のとこに連れてかれるって噂の凶悪犯の檻ってどこですか?」

 シンゴは怯えまくってる看守相手にさらっと大声で言ってのけた。清掃用具を持たない清掃員がどこにいるのか、と普通はツッコミを入れられるべきところなのだろうが、何だかもう精神的にいろいろ限界らしい看守はそんなことはどうでもいいらしい。 
 それよりもルカが気になったのは、やたらと挑発的なシンゴの台詞だった。
 
「……シンゴ、お前あの金髪に腹蹴られたの相当根に持ってるだろ」
「当然です。内臓全部口から出るかと思ったんですから」

 今なら断然俺有利ですしね、と明るくシンゴが言ったのとほぼ同時に、一番奥の牢から騒がしく音が聞こえて、ルカとシンゴは顔を見合わせて、ああ、と声を上げた。
 ちなみに看守は再び「ひッ」と声を上げて縮こまった。

「ほらね、ルカさん。飛び込んだ方が楽なこともあるでしょう?」
「本当だな。探す手間が一気に省けた。……お前、後で腹蹴られても知らないからな」

 と、いうことで。
 シンゴはにっと笑顔を作ると、始終怯えっぱなしの看守の腹に、一発拳をお見舞いした。何が何やらな状況のまま倒れる看守を不憫だなあと思いながらルカは取り合えず懐を漁ってみる。内側の胸ポケットに仕舞われた小さな鍵を見つけると、いただきマス、と一礼して先に進んだ。



「おー、いいカッコだなお二人さん?」
「ほんっと、ざまーみろって感じっスね! 小一時間は観賞してたい気分です」
「こんな劇的悪党、とっとと処刑すりゃいいのにどこまでバカなんだよここの君主サマは」

 自分が優位に立つというのがここまで気分的に素晴らしいものなのだとルカは思い知った。もちろん、本気になればこの牢屋くらい抜け出せない二人ではないだろう。それでも大人しくここに監禁されているということは、薬を盛られたか、あるいはそこまで体力を消耗するほどの拷問を受けたかだが、後者はないだろうと判断する。遠目に見ても、外傷が酷いようには見えない。服もさして破れていないようだし、砂漠での自分たちの方が酷い仕打ちを受けていたのではないだろうか。
 しかし、薬を盛るにしても、だ。この男を無力化できる薬とはどんな代物だろう。一度会っただけだが、性格だの目つきの悪さだのからして並の男ではない。体躯のしっかりしているシンゴに一発の蹴りで膝を折らせたのだ。象の致死量分くらいの毒薬だろうな、とルカは心の中で思った。

「つーか、あんたらみたいのがどうしてこんな雑魚兵しかいない国に捕まれるわけ? ああ、でかいと逃げ足遅いってこと?」
「……ルカさん、それ俺も入りますか」
「……や、お前ちょっと黙っとけよ」

 牢の格子にかしゃんと手をかけて、その向こう側で鎖に繋がれている2人の男、まあ特には金髪の男を見た。
 自分はかなり性格が悪かったのかもしれない、と思うくらいに、優越感に浸れる光景だった。
 ここに飛ばされなかったとしたら、あの国でああやって繋がれていたのはきっと、自分だったのだ。女王の性格からして、繋がれるだけじゃ済まされなかったかもしれない。それも、ただ殺すのではなく、嫌と言うほどに痛めつけられて、ゆっくり息の根を止められる、きっと。
 
「……エイイチの差し金ですか」

 細く聞こえる声は、本日の救出のメインのものだろう。
 そうだけど、と返すと、なら早くこれを外して貰えますか、と割と控えめな台詞が返ってきた。助けないと自分たちもどうなるかわからない。看守から奪った鍵――ご丁寧に『扉』と印がつけられていた――で牢の扉を開けると、中に入った。

「流石にバレたら誰か来ますよね。面倒だしとっととあれ外して外出ましょう、ルカさん」
「ああ」

 まずはさっき助けを求めてきた男の枷を外す。細い手足は、無理をすれば脱出も可能だったのではないかとルカに思わせた。やっと鉄の荷物の外れた手首を軽く回しながら、助かりました、と素直に口にする男を見て、盛られたのは自白剤の類かとルカもシンゴも顔を見合わせた。

「一応お礼とか言えるんスね、あんたも」
「ええ、最低限の礼儀は重んじるべきでしょう」
「まあこっちも命かかってるからな。あんたら助けないとあの兄弟に内臓だの髪の毛だの血の一滴まで残らず売りさばかれそうだ」
「エイイチらしいですね」

 後のことを考えて雑談もそこそこにルカは、

「――返せよ」

 目的を果たすべく、男の前に立ちはだかった。
 それがなければ、ここにいる自分を正当化できない。 
 それがなかったら、きっと今にも全身が痛み出して立ち上がれなくなる。国になんか帰れなくてもいい。あんな国、勝手に滅びればいい。
 けれど、彼女のいた国だ。彼女がいたから、あんな国でもどうしようもなく好きだった。離れられなかった。理由を奪われたら、立ち上がる気力なんて一滴も残らない。
 金髪の男は睨むように、笑うように、鎖に繋がれたままルカを見ていた。

「っ、」

 どうして、負けた気になってる?
 絶対優位だ、殺そうと思えば殺せる、後ろの男はこいつを助けるほど人情派ではないと見ている。
 強い方が正義なら、自分は絶対に正しい。一度深呼吸をしてぐちゃぐちゃになった頭の中を整理すると、ルカは片膝を床につけて、限りなく乱暴に男の服を引っ張って時計を探した。音がする、しゃら、と流れる金の鎖。あの音。
 やがて懐から目当てのものを見つけ、ひったくるようにして奪い取ると、今度は絶対に盗られまいとそれを首にかけ、この牢を出るために憎い男の枷も外すために鍵穴に鍵を押し当てた。

「――さっさと売っとくんだったな」

 明らかに挑発だった。
 それがわからないほどルカは子供ではない。けれど、ことこの時計に関しては冷静でいられなくなる。
 かしゃんと鍵を取り落とし、端整な顔が一瞬にして憎悪に歪んだ。
 ――お前に何がわかるのか。毎日毎日この時計が知らせる時間だけを光にして生きてきた苦しさが。嬉しさが。彼女の歌声の優しさが。ひとつもわかってたまるものか。
 
「ッ、あ、あぁああああああああああ!!!」

 感情に任せて腰の剣を引き抜くと振りかぶって暗い牢の中にその切っ先を煌めかせた、が、重い剣を振り下ろそうとするルカの細い手首を、シンゴが強く掴んで制止する。尚もルカは剣を振り下ろそうと腕に力を込めていたが、体格差から生まれる腕の力にも差は当然あるようだった。
 
「殺す気でいるのはいい、けど、ちゃんと返って来たんだから、殺しちゃダメです……! その時計持ってるなら、あんたは穢れちゃいけない、だろ!?」

 そう言い切るとシンゴはルカから手を放す。
 ルカは唇を噛み締めた。
 まだ穢れてないみたいな、そんな言い方すんじゃねぇよ。
 黙るルカを牢の出口に押しやって、シンゴは鍵を拾うと残る枷の鍵も手際よく外す。

「……あんたもさ、あんまりあの人壊すようなこと言ってると俺が殺っちゃうよ? つーか、せっかく助けに来てやったんだから大人しくしてりゃいいのにさ。立場理解しろって」
「誰が頼んだ。お前らだってここに来なけりゃ死んでんだろ。優位に立った気でいるんじゃねぇよ」
「まあ確かに。……けど、あの兄弟に会わなくたって俺らはあれ、取り返しに来ましたけど? ルカさんが言ったんスよ、あんた殺す気で行くって」
「はッ、なら何で止めた。殺してとっとと逃げりゃよかったじゃねぇか」
「――……やっぱそう思うよな。俺も、そう思う」

 シンゴの呟いた声は本当に微妙な大きさで、ルカに聞いて欲しいようにも、聞かせたくないようにも取れた。



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2007.08.27(Mon) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

暗いのかなー



 かえってこないんだって。


 クラスメイトからの慌しい連絡網を話半分に受け取って、3日後の夜。
 そいつが本当に、もう永遠に、家に帰らないということを知った。
 誰にやられたのかわからないけれど、誰かにやられたということは分かる。そんな状況だった。
 明後日の日曜、試合とか言ってなかったか? 一番最初に考えたのは、そんなことだった。
 制服を着こんでそいつの家に行く。土砂降りだったけど、家には何人も同じ制服の奴がいて、うちの夏服はとてもこういう場には相応しくないな、と思った。
 家のすぐ外で、髪の長い、俺が好ましく思っていた女が、号泣していた。知ってたよ、お前があいつのこと好きだって。声なんか掛けられずに、俺は中へ進んだ。
 黒い額縁に飾られる笑顔のあいつの写真。その傍らに、あいつを大人にした顔をした男。一瞬びくっとするくらい、憂いを含んだその横顔は似ていて、現実主義を気取ってる俺でさえ、あの連絡網は嘘だったんじゃないかと、思った。
 焼香を済ませて、家族に一礼する。
 礼を返されることはなかったが、それでよかった。
 女はいなくなっていた。降る雨粒が、地面に勢いよく跳ね返るくらいの大雨だったから、早く帰って正解だろう。俺も黒い傘を差して、早く帰ろうと歩き出したとき、後ろから派手な足音が聞こえた。ばしゃばしゃと。一度途切れたと思ったら、また足音とは別の派手な音。転んだのだろう。
 振り返ると、あいつを一番慕っていた後輩が、傘も差さずに夏服を泥まみれにしながら走っていた。あの分だと家からずっと傘は差していないのだろう。ここから2時間弱はかかるのに。
 おいおい、お前立場的にいろいろやんなきゃいけないこと、できてんじゃないのか? それどころじゃないだろうけど。
 俺の姿を視界に捉えると、まずは俺のところまで来て、今にも俺を殴ろうとする勢いで、俺の胸倉を掴んで勢いよく喋りだす。

「あ、あ、ああ、あ、あの、俺、変な、で、んわ、もらって、イタ電だと思った、んス、けど、あの、あ、はは、はははははっ、俺、はは、なんで、俺、雨なのに、傘も差さないで、こんな遠くまで、はは、何やってんだろ、ははは、は、ははははははっ」

 流石に、何も、言えなかった。
 もう何も映していないこの瞳、雨の音しか聞こえていないこの耳、今のこいつに何を言っても、理解されないだろう。

「あは、はははははは、ヤ、マト、先輩も、これから、朝練、ですか?」
「………ああ」
「お、お、れ、俺、も、そうです。っはは、俺、早く行かないと、また、あはは、怒られるから」
「……誰に」
「言わせんなよそんな事!!!」

 虚ろだった目に一瞬だけ光が戻って、すぐに消えた。
 はははは、あはは、あ、怒鳴ってすみません、俺、急い、でて。
 取り繕うようにまた何も無い笑顔を撒いて、ふらふらと。

「俺はですね、流風先輩、大好きなんです。超ほっとけない。人のことうるさいくせに自分には呆れるほど無頓着で、俺いないとぶっ倒れるくらい練習やっちゃうんです。その上顔も良くて勉強もできて、友達も多くて、授業サボることはあったみたいだけど、練習は絶対サボんなくて。嫌いなとこもある。けど、嫌いなとこも含めて、大好きなんです。俺がいなくちゃダメなあの人がいて、あの人がいなきゃここにいない俺がいて、すげー大事なんです。……ヤマト先輩は、どー、ですか?」

 それだけまともに言い切ると、そいつは、本来の目的地に、ふらりふらりと吸い込まれるように歩いた。
 俺はそいつに背を向けて歩いた。きっと悲鳴が聞こえる。吠える声かもしれない。とにかく俺は、聞きたくなくて、初めて、現実を受け入れるのを、ひどく面倒だと思った。

『ヤマト先輩は、どー、ですか?』

 俺はどうだろう。
 どうだったんだろう?
 どう思って、どう思われてたんだろう? 
 親友なんてふざける時の言い訳で、そうじゃなくて、俺はどうだったんだろう。
 あいつの生き方が可笑しくて、見下していた。
 面白いとも思っていた。
 いなくなったのが俺だったら、お前はどう思っていたんだろう。
 さっきのあいつみたいに号泣か?
 生憎と俺はそんなキャラじゃないぞ。
 ――こんなことを帰り道ずっと考えていられるくらいには、あいつのことを気に入っていたんだ。
 長いこと考えて、やっとそれに気付いて、俺は、黒い傘を落とした。
 拾おうとしたけれど、全身にまったく力は入らなかった。
 夏の雨は生ぬるいな、と思った。




2007.08.24(Fri) | 未分類 | cm(1) | tb(0) |

大和+慎吾で未来話。


 慎吾が大和に『娘』を紹介されたのは、自分の息子がもう小学校6年生になろうかという頃だった。
 そもそも、大和は高校を卒業して附属大に上がったが、慎吾は外部の体育大。それだけでも十分疎遠となる条件は揃っているのに、加えて慎吾は国を代表するバスケプレーヤーとして国内外を駆けずり回っていたのだ。マネージャーとしていつも側にいてくれたパートナーと、できちゃった結婚などという若気の至りの一言で済まされてしまいそうな一大イベントもあり、大和と顔を合わせるのは、息子が生まれた時以来だ。10年以上の月日が経っているというのに、大和からはほとんど変化が見受けられない。ガキ大将がそのまま大人になった、ってこういうことを言うんだろうな。と慎吾は思って、自身の妻にもそう言われたことを思い出す。俺はガキ大将じゃないですよ、と何度も言い返したけれど。

「娘の椿だ」

 広い和室の畳の上で正座をして待っていると、貫禄ある大和の後ろから、艶やかな赤い着物を着た少女がそろそろと歩いてくる。
 長い髪は軽く波打っていて、ああこれは母親似だな、と遠い記憶を手繰り寄せて、思った。自分の息子の一つ下だと聞かされていたけれど、余程大人びて見える。子供っぽくも見えるし、大人っぽくも見えるのはこの時期の女の子にはよくあることなのだろう。授業で何度かそんなことを聞いた気がする。

「芹沢 椿ですわ。野島様、お初にお目にかかります」
「あ、えっと、初めまして、で、ございます、です!!」
「ふふっ、もっと砕けてくださって構いませんわ。私は単に好んでこのような話し方をしているだけですから。親戚の子供、くらいにお相手してくだされば嬉しいです」

 とは言われても。この家柄だからこの口調、何だか納得だった。
 そういえばあんなひょうきんな性格をしていた大和でさえも、「母様」「父様」「姉様」という言葉を使っていた気がする。慣れ親しんで小さい頃から使っていた言葉だから、人前でも出てしまうようで、面倒なので直そうともしていなかった。
 椿が大人顔負けの穏やかな微笑みを作ると、慎吾も懸命に大人らしく笑ってみせようとした。が、所詮慎吾なので徒労に終わる。

「しっかりしてますねー。とてもヤマト先輩と血繋がってるとは思えないっス」
「いや、人型してるから俺似だと思うんだよな」
「……ヤマト先輩、それでよく不仲になりませんね、葉山先輩と」
「愛あるジョークだろ?」
「うちでそれ言ったら千咲さん100%出て行きますね、ルカ連れて」
「お前のところは今そうなってないのが不思議だ」
「ちょ、何スかそれっ」
「俺の冗談は聞き流すことも受け取って返すこともできるけど、お前の本気はそのどっちもしたくないくらい厄介なことがある」
「そんな、もう小6になろうかという子供がいるのに今まで結婚生活継続できてるのが不思議みたいな言い方やめてくださいよ!! 千咲さんだって俺への愛はあります!」
「………そうだよな。」
「何ですかその、そう思いたきゃ思ってろよな視線は」
「お、人の視線読めるようになったんだなお前」
「あーちくしょうッ、何年経ってもヤマト先輩とサシでちゃんと話できる気になりません!!」

 慎吾が叫ぶと、大和が笑い、続いて控えめにくすくすと椿が笑った。
 お前笑われてるぞー、と大和が茶化すと、誰のせいっスか、と控えめに慎吾が膨れた。
 それにしても。
 椿に視線を移して、慎吾は思う。
 長い黒髪の可愛い子。ヤマト先輩のお姉さんも確か美人だったし、葉山先輩も悪くないよな(千咲さんほどじゃないけど!)。とか思いながら、自分の息子もいつかこんな彼女を連れてくるのだろうかと感慨深くなる。普通そこは娘を持つ父親が持つ気持ちだろうが、野島慎吾に世間の理屈は通用しないのである。
 これだけ可愛ければ見た目は合格点だが、芹沢大和と、その男のもとに嫁いだ女との子供だ。一筋縄で行くわけがない。

「で、何で今頃俺に紹介するんスか、椿ちゃん。普通なら生まれた時とか、幼稚園くらいとか」
「人間なんだからまともな言葉喋れるようになってからじゃないと仕方ないだろ」
「すいませんね仕方ない親で!」
「いやいや、お前のとこのルカはさ、喋るとこよりも外見に価値があるからいいんだよ。あのふざけた顔どうした? 整形した?」
「させませんよそんなこと!」

 自分の子供のはずなのに、昔憧れた先輩(男)に顔がそっくりという異例の事態を現在進行形で実感中の慎吾は軽く拳を震わせた。
 そりゃあ自分だって多少心配した。どう考えたって自分より流風の方がいいに決まってる。だから自分の知らないところで、とかいろいろ考えてはみたが、あの時期に他の男と会ってる時間なんてまずありえないことは慎吾が一番分かっていた。だから消去法で今は納得している。それより、似てる似てないを大和に言われることの方が何となく腹立たしかった。きっと娘も素敵な性格をしておいでなのだろうが。

「中学一緒になるかなー、とか思って」
「中学? え、私立行かせないんスか? 寧ろ今からエスカレーターだと思ってたんですけど」
「小学校なんて私立も公立も変わんねーだろ、とか思ってさ。中学は選ばせようと思ってたけど、私立なんて面倒ですわvで一蹴だ。な、椿」
「ええ。わざわざ電車通学なんて。通学のために車を出されるのも煩わしいですわ」
「な? だからお前のとこのルカの後輩だ、多分」
「ちょっかい出させないでくださいよ。俺に似て純粋なんですからっ」
「自分で言ってりゃ世話ねぇな、若気の至りのくせに」
「そーゆーこと小学生の娘がいる前で言いますか普通!」

 父様は私のことなど気になさいませんわ。
 フォローするように穏やかに言える椿は自分の息子より相当大人だ。年下とは思えない。というより、慎吾もこの子に勝てる気がしない。真面目に。

「そっか、でもヤマト先輩の娘さんと中学一緒か。楽しそうです。つっても、後輩の女の子となんてあんま接点なさそうですけど」
「どこぞの水城流風は後輩の女子ともものすごーく仲良かったけどな」
「ルカは俺に似てじゅ・ん・す・い、なんです! 千咲さんたまに呆れますけど!」
「あー、お前の嫁さん面白いよなー。流風に顔そっくり。超クール。何で別れないのか不思議でしょうがねぇよ」
「だからそういうこと言わないでくださいってば!」

 

 流風の名前が出るといつも思う。
 彼はどうしているだろうか。母校で、元気にやっているだろうか。
 大和と椿に見送られて大きな門へ向かう途中も、ずっと懐かしい先輩の面影が頭から離れなかった。近いのだから会いに行けばいいのだが、それもなんだか憚られる。帰国した流風は、自分の知っている流風ではない気がして、少し、気が引けてしまう。会いたい気持ちは変わらないが。

「会いに行かないの? 水城に」
「え、うあ、お久しぶりです葉山先輩!」

 もう芹沢という苗字なのはわかりきっているが、それ以外に呼び方を見つけられない慎吾はいつもルミを旧姓で呼んでいた。ルミも、慎吾とそこまで親交が深いわけでもなかったのでそれを許容していた。
 学生時代は髪を茶色くしていたりして結構今時な女生徒で、どうしてこの人とヤマト先輩が付き合ってるんだろうと慎吾は不思議に思ったものだが、性格的な相性も傍から見ていてとてもよかったし、今こうして和服を着こなしているルミは、制服、というより洋服を着ているよりずっと似合っているように見えた。

「何ででしょうね。遠くなったように思ってんのかな、俺も」
「多分水城もだよ。野島ってばんばんメディア露出するんだもん。あいつと飲んでるといっつもぼやいてるよ、慎吾が会いにきてくれないー、って」
「ええっ、マジすか!? 俺の方こそ行きづらいのに……」
「あんた有名人なんだからさ。来週うちに来るみたいだから、来てみたら? 怒りながら喜ぶよ、多分。会ったら多分すっきりすると思う。思ったより変わってないから」

 そう、流風は月に一度くらいの頻度でここを訪れているという。知っていて足を運べないのは、怖いからだ。流風が変わっているのを見るのが。自分が変わったと思われるのが。

「はは、……じゃあ、都合ついたらお邪魔するかもしれません。何せ代表チームのコーチに決まっちゃって。断然流風先輩優先なんですけどね、心だけは」
「変わったねー、水城が自分を必要としていると思ったら突っ走ってたのに」
「これくらいには大人になったってことっスかね。葉山先輩こそ、高校の時はあんなギャルっぽかったのに今や家元夫人、でもぱっと見極道の妻なんてすごいですよ」
「……野島ってさー、ほんとに先輩にいじめられんの好きだよねー……。もしかしてドM? あいつと相性いいんじゃない?」
「ちょ、何物騒なこと言ってんスか、手ぇバキバキ言わさないでくださいよ怖いですって!!」

 ルミとの距離も、成人してから少し近づいた気がする。
 流風がいなくても、自分はそれなりに誰かとコミュニケーションを取れるのだ、と思い知った。結婚がその最たるもので、流風しか見えていなかった自分がものすごく、遠く感じられた。自分はあの頃の自分とは違うのだと、息子に彼と同じ名前をつけたのは、勝手に贖罪がしたかったのではないだろうか。だから、そっくりに育ってしまったのではないだろうか。遠い流風に責められている気がして、何となく、居た堪れなかった。
 椿は、大和がとても好きな花だ。聞かされはしなかったが、夏祭りで出会った時のルミは大体椿柄の浴衣を着て、椿の簪を挿していた。そんな、自分が一番好きな花の名をつけた娘は、第三者から見ても、しっかり両親の血を継いで、物怖じしない凛とした子に育っている。
 なら、自分は。ルカは。

「会いなって。好きでしょ、水城のこと。子供に同じ名前つけちゃうくらいにさ」
「………言われなくても周知のことですよ、未だに大好きです」
「けどちょーっとブランクあったからね。埋めなおしなよ。ぎくしゃくしてる水城と野島なんて見てて気持ち悪いよー?」
「わかってますよー……。……葉山先輩がヤマト先輩と違ってサシで話せる人でよかったっスよ」
「まあねー。あれと一緒にされたらあたし人間辞めるっきゃないわ……。あれでも結構丸くなったと思うんだけど」 

 あれだけ反発しあっていた大和とルミだったのに、今こうして穏やかに苦笑できる程度には、みんな大人になったということか。
 ならば、流風も変わって当然だ。自分もそうなのだから。同じくらい変わっていれば、全体的にはあまり変わっていないことにならないだろうか。
 全部、会ってみなければわからない。

「……っし、はい。来ます。来週絶対来ますから、流風先輩には内緒にしといてくださいね。サプライズゲストってことで」
「了解。言っとくよ、あの性悪に」
「ヤマト先輩に言ったら言いふらされるっていうかマスコミとかにあらぬことリークしそうですよ」
「あはは、確かに?」

 もう夜が迫っていた。
 ひとつお辞儀をして、じゃあまた来週に、とお互いに告げ、慎吾は門に背を向けた。
 少しだけ怖いけれど、やっぱり楽しみだ。それだけ自分は流風が好きだった、とても。
 まずは家に帰って、彼によく似た顔で仏頂面を作る我が子の顔でも拝もうか。
 万年反抗期のせいかどうせ拒絶されるだろうけれど、それでも、進む足は速かった。



2007.08.22(Wed) | 未来話 | cm(0) | tb(0) |

結局何がしたかったのか。



「あ、ヤマト先輩! おはようございます!」
「おー、野島じゃん。おはよ」

 まだ始業まで1時間近くもある時間、校門で慎吾は大和と出くわした。この早い時間に大和と出会うことはほとんどない。大和は部活で朝練をしないし、自主練をするほど殊勝な性格でもない。かく言う慎吾も今日は朝練と言うわけではないのだが、それを抜きにしても、この時間に大和と会うのは本当に珍しいことだった。いつも、流風との練習の終わり頃になって、そろそろ時間だぞー、と登校ついでに声を掛けるのが大和だからだ。

「今日、早くないスか? 先輩」
「いっやー、俺としたことがさ。今日化学のテストだってのに教科書机に入れっぱなしで」
「あー、俺と一緒っスね! 俺も今日古典のテストなのにプリント置いたままで!」
「うーわっ、野島と同レベルかよ……」
「何スかその言い方はー!」

 冗談冗談、と大和が明るく返す。
 これが流風ならば8割方マジだ。まず流風が慎吾と同レベルに落ち込むことなどまずないのだが。流風は教科書やプリントを学校に置き忘れるなんてことはまずない。忘れる、どころか、実技系の教科書以外は資料集だろうと何だろうと大体毎日持って帰る。理科系の教科、歴史は資料集などが重いしかさばるし、それで荷物も重くなるだろうに、それに加えて部活用のシャツやら飲み物やらタオルやら、で遠足並の荷物になりそうなものなのだが、それでも流風がいつもスマートに見えるのは詐欺だ、と慎吾はよく思っていた。

「あーあ、流風は今日も満点狙いかなー……。あ、いや、うちの担任って解けそうに見えて解けないようなやっらしい問題出すんだよなあ、最後の方」
「うわー、あのハゲのやらかしそうなことですね。んっと腹立ちます。まあ、解ける問題があるだけ古典よりいいっスよね」
「2年の古典も扇谷先生なんだっけか」
「そーですよ。おかげで板書とかマジでキツいっス」

 こう、イトミミズみたいで。毎回の授業で黒板に書かれる(慎吾にとっては)意味不明の象形文字を空気に指で描くと、まあ確かになー、と大和が笑った。
 俺もあれ苦労したよ、書道の教科書引っ張ってみたりして解読した。
 え、そんなんでどうにかなるんスか?
 や、ならなかった。
 じゃーダメじゃないスか。 
 そんな感じで、割とスムーズに会話が進む。
 ヤマト先輩とサシでこんなに話進むの、初めてかもな。ふとそう思う。
 大和と喋るときはいつだって流風が真ん中にいて、いつも上からひょうひょうと笑っている大和と、下から流風を見上げては真っ直ぐな言葉ばかりぶつける慎吾と、その間を流風が取って、当たり障りのない言葉に直していく。
 ……つーか、ヤマト先輩、普通に喋れんじゃん。いつも人おちょくったみたいなことばっか言ってるけどさ。

「あ、」
「なんだよ」
「けど、ヤマト先輩って古典得意でしょう? 去年の冬の実力テスト、流風先輩と競ってたって聞きましたけど」
「まあ、国語は強いな。それ以外は敵わないけど」
「とーぜんですよ、流風先輩相手なんですし」
「お前いっぺんシメられたいみたいだな?」
「ややややや、違います、違いますってー!!」

 シメられたいわけじゃないが、流風に敵う人なんてきっといないと思っているのもまた事実。そう簡単に、あの人を超せる人が出てきてたまるか。俺なんてバスケで追いつくだけで精一杯だ。

「じゃあ何で扇谷先生の授業ダメだったんスか?」
「読めないモンでどうやって点数取るんだよ。読めりゃできんだよ」
「なるほど……。じゃあ俺」
「お前は違うと思うけど?」
「あーもうっ、最後まで聞いてから言ってくださいよ! 第一っ、違うなんてわかってますって! 俺の勉強ピークは中学で終わったんです! そんだけできんなら俺に教えてくれたっていいじゃないスかー!」

 まあ、軽いジョークだ。教えてもらうなら流風の方が断然いい。断然可愛い。
 しかしそう簡単に教えてくれる流風ではないから、少しくらいぶうたれたっていいだろう。
 慎吾のことを思って教えないというのはわかる。わかるけれど、本当に考えてくれているのなら、まずは留年回避を考えてくれないだろうかと思うのだ。今度ある実力テストもそれなりの結果にしないとまるで親のように教師のようにお説教が始まるだろう。そうならないためにも。

「俺なんかに聞くより身近にもっといいのいんじゃねーの? 都筑とか都筑とか都筑とかさ」
「アイツはダメっスよー。教えてー、なんて言おうもんなら何を対価に要求されるかっ」
「なるほどねえ。……いーよ、そんなに俺に教えて欲しいなら、教えてやっても」
「え、……え、マジですか!? うっわ、超意外! ぜってー断られると思ってた! ……まさか都筑並に対価要求したり」
「俺あいつほどがめつくないし。俺の欲しい対価なんて、都筑に払うよか何十倍も楽だぜ、多分」
「えー、怪しすぎですよヤマト先輩。背後に暗雲立ち込めてますよ?」
「ほー、お前勉強教わろうという先輩にそういう口利く? お前の大好きな流風先輩に、野島って礼儀なってないぞ体育会系のくせに、とか言いつけてやる」
「ああああああああ、それやめてくださいって!! 流風先輩って説教始まると長いんですから!」
「それもついでに言っとく」
「うっわ墓穴ー!!!」

 けど流風の説教が長いのは事実だし、暗雲立ち込めてるのも事実だし、一体どこを否定したらよいのやらで慎吾の頭が軽くぐるぐるし始めた時、ちょうど3年の校舎と1,2年の校舎との分かれ道に差し掛かった。
 ラッキー、と小さい声で呟いて、じゃあ俺こっちなんでっ、と勢いよく足を踏み出した。

「何かあったらメールしろよ」
「あ、マジでいいんですか? 俺ウザいくらいメールしますからね」
「10通に1通くらいしか返さないけどそれでいいなら」
「……だから流風先輩がヤマト先輩と連絡取るときっていつも電話なのか……」
「じゃあ、ま、楽しみにしてっから、お前の救難信号」
「何スかそれー。俺だってめちゃめちゃ頼りにしてますからね!」

 そこで、慎吾は大きく手を振る。分かっていたけれど大和が振り返すことはない。流風は律儀に後ろ姿でも振り返してくれるのだが、そこがやっぱり違うなあ、と慎吾は苦笑した。

(……あ。)

 そして、ひとつ、気付く。

(いつものヤマト先輩だ)




2007.08.20(Mon) | 未分類 | cm(0) | tb(0) |

ブームらしいよ。



 あの女は、びっくりするくらいに、学校では普通だ。
 口調から家柄の良さを推測することはできるが、それがなければ誰も華道の流派の総本家の娘だなんて思わないだろう。かくいう、俺もそうだったからわかる。
 まあ、そんなこと、クラスが変わって随分する今では何の意味もないことだけれど。
 人間を理解する、というのはとても苦いことだ。俺は、一番最初の恋で大打撃を受けて、そこから立ち直れないでいる。女とかもうみんな性格悪いんじゃないか、とか思ってしまう。どうせみんな知らないところで誰かとよろしくやってるんだ、何かこの言い回しはオヤジみたいだけどさ。
 そんなことを、教室移動中に思っていた。次は美術。あの女のクラスと入れ違いで、毎週この時間、俺はあいつとすれ違って、その瞬間に、いつも、あの雨の日を思い出す。

「何物思いに耽ってんの、お前。キモいぞー」
「べっつに」
「お前、音楽好きでも美術嫌いだもんな」
「音楽っつってもリコーダーとか嫌いだけど? ガキくせえ」

 下らない話をしながら席に着く。普段の教室の机より幾分か低い気のする机に、クロッキー帳と2Bの鉛筆を転がす。授業を真面目に受ける気はない。真面目でいようという気などとうに消えうせてしまった。真面目にやらなくても、要領さえ掴めばそれなりの成績が取れることも分かったし、何よりも、真面目に生きたら損をするような気がして。

「3組の芹沢って知ってる? お前」
「え? あ、あー、まあ。1年とき同じクラスだった」
「マジで? どんな感じの子?」
「いや、口調おかしいだけでマジふっつーだけど? 何、お前あいつ好きなの?」
「いやいやいや、俺じゃなくてさ。4組の奴が何か気になるー、とか言うから」

 あいつの何見てそんなアホなこと言ってんだか、ご愁傷様だ。
 ……って、そりゃ俺か。ご愁傷様なのはどう考えても俺の方だ。
 はあ、と息をついて、付き合ってる奴いんじゃねーの、とそれとなく伝えた。

「何、何か知ってんの?」
「いーや? 前隣町の高校の男と歩いてるとこ見かけたことあるってだけ」

 それはあの冬の雨の日であり、去年の夏であり、つい最近。
 そう、最近はうちのマンションの近くで見かける。黒髪に長身の男と歩いていた。
 よく見かけてる気がするな。今更痛む傷ではないし、終わったものだから目撃しても別に何も言われないだろう。
 誰があの黒髪に触れようと、あの声を聞こうと、俺にはもう関係のない話。

「うっわ、じゃあ噂本当なんだなー。他校の男とは付き合ってうちの学校の奴は全拒否ってヤツ」
「……は? ……そーなの、あいつ?」
「らしいぜ? 本人も別に隠そうとしてないみたいでさー、度胸あるよなあ」
「ふーん……」

 そうだな、度胸だけならいっそ男前と言ってもいい。
 右から左へと通り抜ける教師の台詞をぼんやりと聞き流しながら、さっきの友人の台詞を反芻する。

 うちの学校の奴は全拒否?

「……流石にやりにくいっつーことかよ、オイ」

 俺はそれを気付かせた貴重な存在ってか。何だよそのご都合な存在。
 つーか、あんな冷静なんだったらそんくらい俺と付き合う前から気付いておけよ。
 ――俺だけ特別みたいに、思うじゃねぇか。
 ……確信犯でやってんだろあいつ。いっぺん地獄見てくりゃいいのに。

「――っ」

 地獄見てくりゃいい、なんて思ったからだろうか。
 もう一年以上前に、どうしようもなく心が揺れた、あいつの表情を思い出して、息が詰まる。
 もう授業に集中しよう。今日は何かダメだ。
 幽霊にとりつかれるってきっとこんな気分だ。理性で考えるだけ無駄。これ以上真面目に考えたらパンクしそうだった。
 クロッキー帳に鉛筆をざかざか動かして、黒鉛が擦れて手についたけれど、今日のこれは、なかなか取れそうにない。




2007.08.18(Sat) | 未分類 | cm(0) | tb(0) |

そんな感じ

そんな椿さんを書いてみたかったんだ。
そんな主人公くんを書いてみたかったんだ。
最近いろんな小説サイト巡ってたからあんな感じの学生2人の話書いてみたかったんだ。
是非是非クールに育ってください。
もう女なんか信用できないとか言ってください。(中1でか)
卒業しても何故か椿さんが忘れられないみたいなどこの二次元な子に育ってください。
その頃椿さんはエンジ君追っかけまわしてるから。
椿はツキ高行くから、主人公くんはホシ高にでも行って、たまーに見かけたりして、「……キャラ違」とか思ってりゃいいと思う。
実はルカのとこと同じマンションに住んでてルカとかと顔なじみだったりすると何そのサプライズ、ということになるけれどもややこしくなるからもういいや。
私の妄想の中でだけ活躍してくれ、主人公くん。
(何かこの展開は絶対アベハルの影響だよなあとか思ってみる)(え、椿さん榛名ですか)(寧ろ主人公君阿部ですか)(……あんな変態じゃないよ?)(あ、けどボイスは中村悠一でいいかもしれない)(注:椿さんのボイスは松風さんではありません)(笑)
仕方ないじゃない、アベハル好きなんだよ。
きっと主人公くんはあの一件で、今までの椿の仕草とか言動の真意が全部見えちゃった気がしたんだな。ああそりゃ楽しかっただろうな、そりゃあよお! とか思い出して壁に当たっててほしい。
もう何よりも、この子<太>好きな子の写真を待ち受けにして3週間(略)を実践した上でのこの結果ぽいから、ね!!(爽)
どんなバッドエンド。(笑)
満月をさがしての光理さんとタクトみたいな感じもするなあ。
紗央のとこの子供はガサツでぶっきらぼうで素直じゃない、でもって変な遺伝の仕方をしたために右目だけ青い、という設定を作った。真紘くんというお名前。出さないキャラの名前は考えるのになあ。
でもね、椿が中3のときに大学入るので接点があまりない。椿と従兄弟、ってくらいでしか出せない。(もはや私の中でタっくんと大和が兄弟なのはオフィシャルなようです)
中3か高1の、すっげー冷めてる椿と主人公くん書いてみたいかもしれない。
「お前って年上好きだったのな」
「ええ、最近の同級生にはレベルの低い方が多いので」
「そりゃあ失礼しました」
「あら、別に貴方のこととは言っておりませんわ。年上の方でも吐き気のするくらい低レベルな方はいらっしゃいますし」
主人公くんはやたらと眼鏡の似合う子になってるといいな。
主人公くんの隣の家のおばさんになりたい。(願望まで意味不明になってきた)



……けど阿部ボイスなんて結局変態じゃ、(略)
大らかそうに見えてキレると手つけられなさそうだけどね!
我慢強そうだけどね!
杉田→小野→中村の流れは、本当に何を考えてるのかわかりません。
そろそろ鍵は私を笑い殺す気なのだろうか。
ていうかPS2版も主人公声つけておきゃいいのに。
そしたら吹くのに。
つーかナギか!! ナギの声か!!!!!
ナギ倒れんでいいから阿部倒れればいいのに!!
うっわー、ナギか!! ナギだったのか!!(うるさい)


クラナドってTBSでも放映するんですね!(爽)
放送時期、今年の10月4日からですか! 木曜日ですね!
…………あれ?
間違いなくおお振りの後番じゃね……?
1年間キモベとお付き合いしなきゃいけないんですね、よかった、リアルタイムでおお振り見てなくて!
BLゲーからいきなりギャルゲーに転身したみたいだよ。渚の声代永がやればいいのに。(無理)
絶対そんなパロ出てくる。


冷めてる奴好きなんだなあ、私。
名前考えてあげようかなあ。
何故適当に決めた主人公にこんなにハマってんだろうか。私が作るキャラなんて大体同じなのに。
「貴方の制服は中学とあまり変わりませんのね」
「公立なんてそんなもんだろ。まあしかし、私立はグレードが違いますこと。可愛いな、制服」
「私でしょう、可愛いのは。貴方の中で」
「何その冗談。食えたもんじゃないんですけど。」
出会いがしらにそんなやりとりしないかなあ。
ちなみに主人公くんのキャラソンはスキマスイッチの「view」とか「僕の話」とかです。

さて、あとは秋臼さんが頑張ってくれれば!

2007.08.17(Fri) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

中学生の恋愛。


 芹沢 椿、という女と付き合っていたことがあった。
 中1の冬だった。
 同じクラスで、長くて癖のある黒髪を2つに結っていて、それなりに可愛くて、とても個性的な口調をしていて、成績はずば抜けているわけではなかったけれど、悪くはなくて、大人しそうに見えるけど、ちゃんと誰とでも話ができて、合唱部では綺麗にアルトのパートを歌っていて、家柄がとてもよくて。
 入学してすぐの頃から、なんかいいな、と思っていた。全部完璧に出来る完璧な人間なんかいない。それなら、彼女は完璧なんじゃないかと、思った。
 手を繋ぐどころか、一緒に帰ったこともほとんどなくて、俺も芹沢も部活で忙しくて、ああ、そういえば名前で呼ぶなんてことももちろんなかった。ただ、俺が告白して、芹沢がそれを受けて、それだけで、何かが成立していたんじゃないかと思っていた。中学生なんてそんなもんだろうと、思っていた。


 だから、あの雨の日の帰り道に見たものを、信じたくなくて。
 隣町の高校の男。すらっと背が高くて、肩にスポーツバッグを掛けていて、女物の赤い傘を手に、傍らに女を侍らせて、その女は、黒髪を2つに結った、俺の彼女だった。
 会話してても、少し内気そうに見えて、可愛らしい上目遣いに何度心が揺れたか知れない。その男の隣でも、その方針は変わっていないようだったが。無地の紺色の傘をさしたまま、俺は立ちすくんでいた。曲がり角で、男は何か芹沢に話しかけて、芹沢は笑顔で頷くと、ゆっくりと背伸びをして、当然俺がしたことのないキスを、その2人は平然と俺の視界でやってのけた。それから、男は家が近いのか、傘を芹沢に返すと、ばしゃばしゃと無遠慮に水溜まりを蹴飛ばしながら、走っていった。

「あら」

 芹沢が振り向いて、俺に気付き、一歩ずつ近づいてくる。
 俺はすごく気まずくて、顔を逸らした。

「……貴方には度胸も面白みもありませんもの」

 その一言で、俺はやっぱり顔を上げた。なんだ、その言い訳。なんだ、その言い方。
 
「――っ」

 でも、その言葉を吐いたのが、この表情だったから、納得した。
 こいつは、本当はこんな冷たい顔ができる奴だったんだと。
 全部、シナリオだったのだと。
 
「……度胸があったら、何してもよかったってのかよ」

 俺の方こそ、言い訳だった。
 言い訳だけれど、半分本気だった。
 俺だって、お前がこんな面白い女だったなんて知ってたら、もっともっと、本気だったかもしれないのに。

「ええ、もちろんですわ。嫌ではないからお付き合いしていたのですし、その方が断然面白いでしょう? 貴方も、私も」

 過去形になっているところがいやにリアル。ああそうだよな、普通終わるよな、こんな現場見たらさ。
 雨が一層強くなった気がした。芹沢の赤い傘にも、俺の紺色の傘にも、ばたばたと雨だれが落ちる。芹沢は冷たい笑顔を崩さなかった。
 目の前で揺れる、癖のある黒髪。なんか聞いたら耳から離れない口調。綺麗な声。よく見ていたはずなのに、近くで見ると、いつもよりずっと可愛く見えて、別れ際って嫌なもんだな、と思った。 

「人間を見る目が養われたでしょう。貴方の人生の糧になりますわ」
「…………」
「けれどやはり面白さは必要だと――」
「椿」

 続くはずだった芹沢の言葉を遮って、俺は初めて、芹沢の下の名前を呼んだ。
 声が少し震えていたかもしれない。それくらい、俺は緊張していた。俺はそれだけ、こいつの名前を、呼んでみたいと思っていたんだ。ドラマの登場人物のように、漫画の展開のように。それがどれだけ少女趣味だって構わない、中学生の恋愛なんて、一般的にはそんなもんだろ。男も女も。こいつが、そうじゃないってだけで。

「――――っ」

 それから、傘を落として、乱暴に口付けた。
 芹沢は驚いているみたいだった。
 俺が今こいつに見せることができる、精一杯の度胸だった。
 初めてなのに勢いづいたもんだから、歯が当たるみたいになって、これじゃギャグだろ、と自分の中の冷静な部分が呟く。
 顔が離れると、ぽつん、と芹沢の長い睫毛に雨粒が落ちた。それから、また芹沢は同じ笑顔を作って、

「背水の陣、ですわね」

 そう言った。
 濡れたアスファルトに落ちた芹沢の赤い傘が、やけに映えて目に映った。
 椿は地に落ちても綺麗なんだと誰かが言っていた気がする。
 なるほど、こいつのためにあるような名前じゃないか。
 芹沢は落ちた傘を拾い上げると、御機嫌よう、と穏やかに告げて去っていった。

「っ、………」

 こんなに虚しくなるなら、あんなこと、しなければよかった。
 キスなんて、漫画やドラマの中で言ってるみたいに、甘くもなんともない。 
 誰だよ、ファーストキスはレモンの味っつった奴、出て来いよ、ぶん殴ってやるから。
 あんなの、ただ冷たいだけだった。冬の雨の味しかしなかった。
 ジャケットが濡れて重みを増すのがわかっていても、俺は傘を手に出来なかった。風邪引いてもいいや、そう思った。どうせ明日学校行くの、なんか気まずいし。行きたくないし、学校。

「っ、そ………」

 こんなことに改めて気付かされて、痛い思いをするのなら、それがわかっていたなら、最初から告白なんてしなかったのに。
 あの癖のある黒髪も、耳から離れない口調も、綺麗な声も、今さっき見た、あんな冷えた表情さえ、俺は好きで仕方なかったんだ。
 思ってても伝えられないなんて、そんなもんだろう、中学生の恋愛なんて。
 そう思って、少し、俯いた。



2007.08.16(Thu) | 未分類 | cm(0) | tb(0) |

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