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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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スノウメモリー 4



 俺の両親は、かなり仲の良い方だと思う。
 かなり、というか、未だにバカップルと呼んでも差し支えないんじゃないかと思うくらいには、仲が良い。はとこにあたる黎と櫂の両親もすごく仲が良いけど、あそこのとはまたちょっと質が違うように、俺は思っている。
 もちろん、両親の仲が良いのに越したことはない。その方が望ましいのも分かっている。けれど、一応思春期の男としてはそういうのは少し微妙なわけで、母さんが大体正しいことを言っているのも、加えてそこらへんでは簡単には見つからないような美人だということも客観的に理解していて、ババアと呼んだりする。まあ、ババアに限っては自分がどれくらい綺麗かとかわかってるみたいだから別にいいんだろうけど。
 みのりは、これでいいという。こんなに仲がいいお父さんとお母さん、他じゃなかなかいないよ。そう言う。そうだろうか。俺は、母さんに置き去りにされているような感覚が、少し前から拭えずにいる。
 俺が中3の頃だったか、ちょうど高校受験を控えている時期で、家族が寝静まった後でも勉強していた。俺はそんなに偏差値も高くないから、ツキ高を狙うなんて言った時、教師に笑われそうになったのを覚えている。だから、睡眠時間を削って勉強、ってのが効率悪いと言われようと何だろうと、俺は勉強しなくちゃいけなかったから勉強していたのだ。
 途中で席を立って、空になったマグカップを手に、眠気覚ましのコーヒーを淹れるために階下のキッチンへ。両親の部屋は一階。階段からキッチンへ向かう途中にある。その日はたまたま薄くドアが開いていて、冬だし寒いだろうと親切心でノブに手をかけた。廊下の明かりが部屋に少しだけ入って、照らし出された暗い部屋の向こう、寝そべるふたつの影。俺はその姿を見て、ドアを閉めることなく、その上コーヒーも淹れずに部屋に戻り、すぐに電気を消してベッドに入った。
 
 母さんが、父さんの手をきゅっと握って眠っていた。

 その映像は俺にとって衝撃的で、いつももっと老けて見えるはずの母さんが、みのりくらいの、少女と形容してもいいくらいの表情に見えたから、余計だった。こんなの、子作りの現場目撃した方がまだショック小さい。本気でそう思った。きっとあの母さんの中に、俺やみのりはいない。俺やみのりの存在なんか考えもしなかったような若い頃の母さんがそこにいたんだと思う。一度失くして、やっと見つけたもの。それを離すまいと必死になっているようにも思えてきて、これじゃ絶対受験失敗する、なんて考えて泣きそうになった。もし本当に失敗しても、その理由なんて言えるわけがない。だからこそまたショックが大きくなって、思春期ってこういうもんかと悟りまで開けそうだった。
 高校に入ってから、幾分か落ち着いて、ぺらぺらよく喋る叔父さんの話を聞いてやっと合点がいった。母さんは高校の頃父さんと出逢って、すぐに離れてしまって、父さんとどこかで会いたくて警官になって、十年近くそうやってすれ違っていたのだという。母さんが父さんと再会できたのが、黎と櫂の両親の結婚式だとかで、なのに黎と櫂より俺の方が年上なんてそれどういうことだよ、とも思うけど、それはそれで置いといて。その頃からたまに母さんのから自分の恋愛遍歴とか聞くようになって、それ聞く限りじゃ不倫だのなんだのろくなロマンス経験してない。しかも全部捨てられてるし。そんなんじゃ尚更父さんとは離れたくないだろうな、とは、思う。でも多分、離れたくないのは父さんとであって、俺ではないし、多分、みのりでもない。俺の顔が父さんに多少似ていても、俺ではない。もう親からは自立して生活できる年齢ではあるけれど、その事実は少なからず衝撃を与える。母さんは、もう結婚して二十年近くになるのに、失くしたその時の恐怖を今も覚えているんだ。そのことは、単純に、可哀想だ、と思う。
 そういうことがあるから、俺からすると椿や樹理はかなり幸せそうに見える。俺だって相当恵まれていることはわかっている。椿みたいに家の縛りはないし、樹理には母親がいない。それに比べて俺は、父さんはもう芹沢と縁を切っているし、両親とも健在だし。ただ、本質的に、母さんの中に俺たちはいないんじゃないか。と、俺がそう感じている、それだけ。それだけなんだけど、俺からは簡単に取り除けないしこりだった。

「あー……ま、椿は別、か」

 樹理と一緒に歩いてるってのに俺はそんなことをつらつらと考えていて、椿はちょっと違うな、と結論づけて思考を止めた。樹理は俺の呟きに、ライトグリーンの大きな瞳でこちらを見て首を傾げる。

「いや、何でもないよ」
「気になるじゃないですか」
「じゃあ気にしてりゃいいじゃん」
「何ですかそれ」

 俺は樹理とは仲がいいけど、樹理の父さんが樹理と一緒にいるところはあまり見たことがない。学校で化学の先生はしているけれど、校内じゃやっぱり教師と生徒だし。見た目が全然似てないから親子だとはバレないし。ああ、でも、樹理が髪染めてまっすぐにして、カラコン入れたら結構似てるのかも。色が違うだけで印象はかなり違うもんなんだな。
 樹理の父さんは、実年齢よりずっと若く見える。実年齢も相当若いんだけど。まだ四十にはなってなかったと思う。樹理は二十歳ちょいの頃の子供とか聞いた覚えがある。全部叔父さん情報だけど。樹理の母さんはアメリカ人で、向こうで死んでいる。元からすごく体が弱くて、孤児院から出る年齢になっても、ひとりで生活するのが危険だからずっと留まっていなきゃならなかったくらいだとか。そんな女に子供産ませていいのかよ、と思わないこともないけどやっぱりそれも置いておく。とにかく、樹理はそうやって生まれた。樹理の父さんが大学を出る年に樹理の母さんは死んで、まだまだ若い樹理の父さんはちゃんと樹理を連れて帰国した。何を置いといても、その事実だけあれば十分だろう。ちゃんと、愛されている。樹理の父さんは樹理のことを考えるから、樹理を連れて帰ったんだ。

「樹理こそ、何か考え事か?」
「へ?」

 緑色の瞳が間抜けに見開かれた。

「叔父さんと話してる時、神妙な顔してただろ」
「あー……、あれは」

 樹理は何か続けようとしたが、十メートルほど向こうに喫茶店の看板を見つけると、

「続きはお茶飲みながらにしましょう」

 区切りをつけるように、そう言った。俺も同感。ひとつ頷いて、まずは暖かい店内へと急いだ。


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2008.01.29(Tue) | 未来話 | cm(0) | tb(0) |

スノウメモリー 3



「おー、樹理」
「大和さん」

 月曜日、よく晴れた空の下、薄く地面に積もった雪を踏みしめながら体育館前を歩いていた。体育館から顔を出した大和さんは、バレー部のコーチらしいジャージ姿で僕に手を振る。その奥に見えるジャージ姿の長身、あれは。 

「真紘さんってバレー部でしたっけ」
「いや? あれは単なる壁だ」

 壁言うなー!! と向こうから真紘さんの怒号が聞こえるが、大和さんはスルー。バレー部の部員がどんどんスパイクを打っているところからして、本当に壁として呼ばれたのだろう。三年生なのに酷なことだ。

「どうせ付属に進学なんだから使ってやろうと思って」
「けど可哀想ですよ。真紘さん、エリートで警官になるって意気込んでるんですから」

 腕を摩りながら大和さんは体育館から出てくると、おー寒い、と肩を竦めた。確かに寒い。今日だって学校サボろうかどうしようか迷ったくらいだ。
 エリートねえ。大和さんが呟く。

「真紘じゃ無理だと思うけどなあ」
「僕もそう思います」
「お前も大概酷い奴だな。可哀想とか言っておいて」
「仕方ないじゃないですか。エリートって真紘さんのガラじゃないです」
「確かにな。それに、あの両親あってのあの真紘だから100%無理。断言できる」

 余計なこと言うなぁああああ!!! とまたも怒号。そしてスルー。
 
「地位が欲しいならうち継げばいいのにな。世界的地位手に入るし。そしたら真紘とうちの椿交換って感じで、真紘は芹沢の一人息子としてみっちり訓練を受ける、と。俺という父親の愛ある指導があれば良き当主になること間違いなしだ」
「それ、冗談ですか?」

 楽しそうに言う大和さんに、水を注してみる。
 大和さんは常日頃から、冗談は言うけど嘘は言わないと断言しているから、なんとなくほんとっぽい雰囲気を漂わせているこういう時、大和さんはどう思っているのか気になった。
 僕の質問に大和さんは先ほどとは少し違う感じの笑みを浮かべて、マジだよ、と返した。

「いい跡継ぎがいることは旧家にとってはいいことだ。真紘は頭は悪いがやる気になると強い。加えて、男だしな。椿は女だし、賢すぎる。少し馬鹿を気取ってああいう成績を取ってきてるのかもしれないけど、バレてないと思ってんのかね」
「……はあ」

 賢すぎる、というほど椿は賢かっただろうか。僕が離れにいればしょっちゅう勉強を教えろといわれるし、確かにお嬢様口調で賢そうに聞こえるかもしれないが、この前見せてもらった試験の結果はそんなに良いものじゃなかった。授業はちゃんと聞いているのにおかしいですわね、と笑っていたのを覚えている。
 土曜日椿が見せた不思議な表情は、こういう大和さんの考え方に関係あるのかもしれない。大和さんは、跡継ぎにするなら椿より真紘さんの方がいいという。それは、女だからダメで男だからいいとかいう、旧家にありがちな問題というよりは、“誰でもいい”みたいなニュアンスに聞こえた。
 ――違う、跡継ぎにするなら、じゃない。多分、大和さんは自分の子供は何だってよかったのだ。子供が賢かろうと馬鹿だろうと、何だっていい。長子なら確実に家を継ぐことになるのだから、イコール跡継ぎという等式ができてしまうのが普通だ。そもそも子供好きなようには見えないし、僕を可愛がるのはきっとお父さんの子供だからだし、なら椿が存在するのはルミさんが望んだからか。それは、僕と同じ境遇ということ?

「おっと、召集の時間だな。また屋敷来いよ、樹理」
「もちろん行きますよ」

 僕がゆっくりひとりになれるのはあの離れくらいだ。
 大和さんも他人に干渉しないし、あそこはとても居心地がいい。

「じゃあ俺は帰るからな、叔父さん」
「おう、お疲れ。地位と名誉が欲しくなったらいつでも言えよ」
「あんなデカいもん要るかっつーの」

 真紘さんはひらひらと手を振ると、スポーツバッグを肩にかけて、体育館脇の出入り口から出てきた。大和さんは入れ違いに体育館に戻っていく。コーチの仕事も大変そうだ。

「あー、面倒だからこのまま帰っかな。樹理も今帰りか?」
「はい。暇だからほっつき歩いてたんです」
「なら途中でどっか寄ってこうぜ」

 真紘さんは笑ってそう言ったが、いくら美形とはいえジャージ姿の人と並んでどこかの店に入るのは僕としては気が引ける。というか、ジャージの方がずっと寒い気がするのだが。セーターもコートもあるし、女子と違って男子は長ズボンなわけだし。

「だったら着替えてきてくださいよ。そっちの方が寒そうです」
「そーか? 割とあったかいけど」
「僕が見てて寒いんですよ」

 何だかすっきりしない表情で真紘さんは渋々バレー部の部室へ向かって行った。そこが一番着替えやすいだろう。
 真紘さんはスポーツは大体何だってできる。勉強はそうでもない。部活は何に入っていたんだったか。取りあえず、バレー部でないことは確かだ。あんな叔父さんがいる部になんか入ったら何されるかわかったもんじゃねぇ、というのが言い分らしい。その通りだと思う。柔道部だったか剣道部だったか、そんな感じだったと思う。昔から警官を目指していたようだから尚更そうだろう。それでも休日となれば助っ人でいろんな部を渡り歩いていた。時間の使い方が上手い。椿はそう言っていたけれど、椿も相当やり繰りは上手い方だ。あとは部屋の片付けと家事ができれば言うこと無し。
 日陰の雪をしばらく踏んで遊んでいると、制服にコートを羽織った真紘さんが駆け足でやってきた。うん、断然そっちの方が暖かそうだ。

「じゃ、行くか」
「寄るっていってもこの辺じゃ限られますよ」
「あー、……仕方ねえ、ババアの喫茶店で我慢するか。代金は出世払いということで」
「利子のゼロがいくつついてるか楽しみですね」

 僕が言うと真紘さんが軽くこっちを睨んだ。黒と青のオッドアイなんて普通日本人じゃ見ないから幻想的で、だからこそ睨みをきかせた時の威力も大きい。……まあ、そんなに怖くないけど。真紘さんだし。
 一応冗談だという事を真紘さんも理解しているので、軽く笑い飛ばして歩き始めた。僕は背の高い真紘さんの後を追って歩く。真紘さんの短くてさらさらの黒髪を羨ましいと思いながら、僕は黒の入り混じった金髪を揺らした。

2008.01.23(Wed) | 未来話 | cm(0) | tb(0) |

スノウメモリー 2



 しばらくして、椿は稽古があるとかで母屋に戻っていった。稽古は昼過ぎだけれど、食事をして着物に着替えて、という手間を考えたのだろう。僕は離れに一人取り残された。テレビも、オーディオも音を出さない。僕はこの部屋でも一人だった。
 お父さんが僕を連れて日本に帰ってきて、一番最初に来たのがこの離れだったと大和さんは言う。僕を預けたいとか、そういう理由じゃなく、ただ大和さんに一番に会いに来たらしい。僕は二歳、椿は生まれたばかりで、ハーフの僕が一緒にいることに流石の大和さんも驚いたとか。その顔は是非見たかったと思う。お父さんが僕と一緒にいたのはそれを含めて最初の数ヶ月くらいで、後は仕事に勤しんでいた。昼間僕をお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに預けて、保護者も実質その二人ということになっていた。僕は同年代の子の中でも物分りのいい方だと思う。その頃から、お父さんが仕事ばかりするその状況を仕方ないものと受け入れていた。
 今だってそう思うけれど、ただ、少し分かった気がするのは、お父さんはあの頃まだ子供だったんだろうということ。ちゃんと両親の決断があって生まれた椿と違って、お父さんはお母さんと結婚することは決められても、僕と過ごすことを受け入れられるほど大人でなく、ましてお父さんは僕を見つけるためにアメリカに来たわけじゃなかったから。

「うわ、ほんとにいたよ」

 がらりと扉が開いた音がして、続いて閉める音。立ち上がって玄関へ赴くと、そこには、

「真紘さん」
「よう、樹理」

 短い黒髪、長身。そして一番目を引く、透き通るようなアイスブルーの右目。
 椿の従兄である桜井 真紘さんだった。
 僕の二つ年上で、僕と同じツキ高に通っている。

「今日は何しに?」

 と僕が尋ねるのは多分おかしいことだ。
 全くの他人である僕がここにいる方が、真紘さんがここに来るよりずっと変なのだ。
 真紘さんのお父さんは大和さんのお兄さんで、つまり椿と真紘さんはいとこ同士ということになる。

「椿に辞書借りようと思ったんだけど稽古中だって言うからさ。離れにお前いるって聞いてこっち来た」
「なんでまたわざわざ椿に? みのりさんに借りればいいのに」
「学校に置いて来たから無理ー、とか言いやがったんだよ。ぜってー嘘だな」
「でしょうね」

 というかそもそも、今時本の辞書を使っている学生の方が珍しい。いろんな機会費用を考えると電子辞書の方がものすごく得な気がする。
 寒すぎるんだよ外、とぼやきながら真紘さんは首のマフラーを外し、ローファーを脱いで上がりこんだ。もう昼過ぎだから授業も終わったのだろう、制服姿だ。

「つーかお前、学校サボりかよ。いいのかー? 親先生なのに」
「いいんですよ。真紘さんと違って、成績はちゃんとしてますから」
「お前二つ上にも容赦ねぇな……。椿がうつったんじゃねぇか?」
「嫌ですよ、そんなの」

 続いてコートを脱いで、手近な椅子の背にかける。それから、何かあったかいもんもらえる? と僕に向かって言った。緑茶ならすぐに入れられるから、キッチンへ向かうことにした。
 真紘さんは、椿が苦手だ。あの二重人格なところが無理、俺に対しても猫かぶってくるとことか年相応じゃないとことか無理。とよく言っている。確かに椿は二重人格で猫かぶってて年相応じゃない。真紘さんには椿と同い年の妹がいるから尚更そう思うのだろう。ついでに言うと、真紘さんは勉強も苦手だ。こちらに関しては「遺伝だ!」と毎回言い張るので深く突っ込まないことにしている。
 
「まあ、なんつーか流風先生って独身貫いてるっぽく見えるもんな。お前のこと知ってる俺でも」
「そう見せてるんだから当然ですよ。だから僕、家族の話とか学校じゃ全然しないです」
「それ以前の問題だろ。サボりまくりなんだから。俺もサボりてえなあ」

 真紘さんに湯のみを手渡し、朝に椿が持ってきた大福を出す。さんきゅ、と真紘さんはどっかりソファに腰を下ろした。

「真紘さんのとこは情報回るの早いですからね」
「あのクソババア、人脈だけはありやがる。んな悪知恵使えるならもっとマシな頭脳で生んでくれよって感じだ」
「十分じゃないですか。真紘さんもみのりさんも、お母さん譲りの美人ですし」
「このガタイで美人とか言われても嬉しくないっての」
「そうですか? そのマスクがあるから少なくても月に一度は告白されてるって噂ですけど」
「それは否定しないけど、実際全員に好かれてるってよりかはこの顔のせいで半分は引いてんじゃねぇのかな」

 コレ、と真紘さんは右目を指差す。真紘さんの目は、右だけが青い。左は普通に黒。遺伝子は桜井家でも悪戯をしでかしているらしい。真紘さんの妹のみのりさんは左目だけが青い。お母さんは両目青いのだけれど、瞳だって当然黒が優性なわけで、掛け合えば青って消えるものなんじゃないだろうか。

「それ、僕に言うんですか?」
「だよな。言ってから思った」
「まあ、両方より片方だけって方が妙かもしれないですけど」
「それもあるかも」
 
 真紘さんは自分を変だと思っているらしい。それは僕も同じで、真紘さんよりずっと強く思っている。
 外人みたいな風貌で、なのに日本人で、父親には似ていなくて。でも、この容姿だったからこそお父さんは僕を連れて帰る気になったのだ。お母さんの面影があるから。もし僕が、この髪を矯正して真っ直ぐにして、茶色く染めて、目にカラーコンタクトをしたとしたら、お父さんはどうするだろう。僕を捨てるだろうか。お母さんの面影がなくなるばかりでなく、その時お父さんが目にするのは、自分だ。

「苦労しちゃいないからいいんだけどさ、別に」

 真紘さんはそう言う。
 そりゃそうだろう。それは、親が苦労させないようにしているのだ。
 僕は苦労している。それは、一体どういう意味なんだろう。


2008.01.20(Sun) | 未来話 | cm(0) | tb(0) |

スノウメモリー 1




「学校、行かなくてもよろしいんですか?」
「今日開校記念日だから」
「いくつ学校を掛け持ちしていらっしゃるのやら。月に一度は聞いている気がしますわ」

 芹沢邸の離れで僕は寛いでいた。今日は土曜日。僕の通う高校は私立で、休みが法律で決まってたりする公立の学校とは違って本来なら土曜も学校がある。バレバレだけれど開校記念日なんていうのは出任せにすぎない。ただ、雪が降っていて、登校するような気分じゃなかった。それだけ。
 この芹沢家の一人娘、椿は僕の二つ年下で、公立の中学に通っている。今二年生だ。だから今日は休み。黒いスカートのプリーツを翻して、お茶でも飲みます? なんて問いかけてきた。

「自分でやる。椿がやると飲めたもんじゃない」
「失礼ですわね。ペットボトルのものをグラスに入れるくらいできますわ」
「寒いからあったかい緑茶が飲みたいんだ」
「それならご自分でどうぞ」

 椿はしれっとそう言い、僕からは少し離れた場所に腰掛けた。自分の力量を弁えてくれてるのはいいんだけど、訪ねてきている側の人間にやらせようとするなんて旧家のお嬢様のすることではないと思う。言っても直らないだろうし直す気もないだろうから言わないけれど。
 僕は立ち上がって台所へ向かった。芹沢邸の離れはやたら広くて、ほぼ一軒家と同じくらいの広さがある。台所から風呂まで全部完備。その昔、芹沢家の主、大和さんが学生だった頃はここでひとりで優雅に暮らしていたらしいけれど、今は誰も使っていない。だから結構前から僕が好きに使わせてもらっている。大和さんも流石に娘をここでひとりで暮らさせるわけにはいかないと思っているのか、はたまた椿が面倒がっているのかはわからない。どちらにしたって食事面で絶対困ることになるだろうとは思う。ここは一家して家庭科スキルが絶望的だ。中学の頃、椿にバレンタインのチョコレートを貰ってその餌食になった経験を持つ者としては、あの威力を誰よりもわかっている。大和さんの奥さんのルミさんはそんなことないけど、直系はやっぱりとんでもない。

「私の分も淹れてくださいますか?」
「はいはい」

 ここまで要求するんだから、僕は椿にとってはもう居候のようなものなんだろう。まあ、否定するようなところもないから構わない。薬缶に水を入れて、火を点けた。




「ふふっ」

 二人して湯のみに口を付けていると、椿が突然笑い出した。緩くウェーブがかった髪が揺れて、ぱっと見可愛いのかもしれない。でも長い付き合いの僕としては気味悪いったらない。口の中の緑茶(当然上等なものだ)を飲み込んでから、睨むように椿を見る。

「なんだよ」
「いえ、金髪に緑の目なのにいやに緑茶が似合うなと」
「クッキー片手にオレンジペコでも飲んでれば満足?」
「視覚的には」

 とのことらしい。
 確かに僕は金髪だし、目は薄く緑がかってるし、肌は普通の日本人よりずっと白い。遺伝って優性の法則ってもんがあるんだと思ってたけど、僕は大部分逆をいっている気がする。中学の理科で習った法則で行くと、白色よりも有色の方が優性のはずだし、それってつまり、目の色は黒が優性、髪の色も黒が優性、ぱっと見で優性遺伝だと分かるのは生まれつきくるんと巻いてしまう髪くらいだ。
 ただ、外見が外人ぽいからって英語が全然できない、そんなギャップで売ってる芸能人なんかとは違って、一応僕は英語もできる。向こうにいたのは二歳までだったからけど覚えてる。日本暮らしの方が長いから受験英語の方がしっくりきていると言えばそうだけど、名前だってしっかり日本人のだし、国籍だってそうだ。外人の親戚だってゼロ。中身は典型的な日本人だと思う。

「お父様、心配なさいません? 息子が学校を度々サボって」
「さあ? あくまでも生徒だし、今日うちのクラス化学ないから気づかないんじゃないかな」
「不思議ですわね。親子して通っているというのに気づいている人がいらっしゃらないなんて」
「知られるの嫌なんだと思う。再婚するにもこんなでかいガキいたんじゃ微妙だしさ。保護者代わりは全部お祖父ちゃんがやってるから困ってないよ。調べれば父親が誰かなんてすぐわかることだから、そこまで必死に隠すことだとは思ってないんだろうけど」

 それに、親子して通ってるのが多いんだ、うちの学校は。
 瀬川先生の息子と娘、あのやかましい双子の櫂と黎もそうだし、音楽の鳥辺山先生の娘だって通ってる。
 みんな親にすごく似ているから校内でも目立つ。僕みたいに単なるハーフなんかはそこまで注目を浴びることもない。親子だってバレないのは似てないからだ。

「再婚、して欲しいんですか?」
「は? あー、だって見た目もそれなりだし、まだ若いし。僕もいい加減ひとりで何でもできるんだから結婚でもして楽になればいいんだよ」
「親思いですわね」

 と言うよりも、単に恩返しの義務を感じているだけなのだろう。僕がここに存在できるのは間違いなくお父さんのおかげだけれど、僕を欲しがったのはお母さんだ。お父さんは、お母さんを愛するが故に、その手助けをしただけ。
“何があってもお父さんを恨まないでね”
と、死ぬ直前にお母さんが言っていたのを、僕ははっきりと覚えている。お母さんは、お父さんが僕を置いて日本へ帰るのだろうと思っていた。僕も、何故そうしなかったのかと思う。お父さんも、お母さんがそう思っていたのを知っていたと思う。それでも、まだまだ若いお父さんは、僕を見捨てることなく日本に連れて帰った。だから僕は、こうして今不自由なく暮らせることに感謝しなければならない。特大の感謝を。

「大切に思えることに越したことはありませんわ。樹理さんのお父様は素敵な方ですから、大事にしてあげて下さい」
「何だよその言い方。自分はそうじゃないみたいに。あんだけ仲良いくせに、親不孝」

 湯のみの中のお茶を熱いうちに飲み干す。隣の椿は、少し大きめのタートルネックのセーターに顎を埋めるようにして、目を伏せた。
 たまに椿はよくわからないことを言う。あれだけ親とも仲がよくて、両親とも健在で、家庭的にも恵まれている。それなのにあまり幸せでなさそうだ。ただ椿がそう見せたがっているだけなのか、実際にそうなのかはわからない。でも仮に本当に何か事情があるにしても、僕のような境遇の人間からすれば、幸せな悩みだな、と思ってしまう。

「結局、母屋よりも離れの方が落ち着きますもの。親離れしたい時期なのかもしれません」
「落ち着くのは逐一僕が片付けてるからだ。散らかすなよ、あんまり」

 本人がそう言うのだから、そうなのだろう。長いこと一緒にいても分からないことは多い。中学生だし、親とあんまりくっついてはいたくない。そういう時期と言われれば頷ける。

「大和さんとルミさん、もし離婚でもしたら再婚してほしいと思う?」
「まさか」

 それはどこにかかる「まさか」なのか。図りかねて僕は椿を見た。

「別れるなんて有り得ませんわ」
「あるかもしれないじゃないか、意外と。大和さんはああいう性格だし」
 
 ことん、と湯のみを置いて、椿は伸びをした。僕の台詞はくだらないものと受け流されたらしい。

「ああいう性格だから、ですわ。……まあ、私が存在するんですから、可能性はなくもないのかもしれませんけれど」
「……お前の言うことはさっぱりだよ」
「でしょうね。多分、樹理さんには一生かかっても理解なんてできませんわ」
「そうかよ。別にいいけどね」

 別に、そんなに気になるものではない。何か暗いものを内に抱えているとしても、それは僕が踏み入るべき問題ではないと分かっている。僕だって踏み込まれたくない部分はある(お父さんのこととかお父さんのこととかお父さんのこととか)。許容しているのは相手が椿だからだ。椿は年齢の割に大人だから、節度を知っている。

「寒いなあ」
「雪ですもの」

 窓から見える雪は一片ひとひらが大きい。山が近いからだろうか。
 部屋を暖めるヒーターの働きに感謝しながら、僕はまた茶を啜った。


2008.01.19(Sat) | 未来話 | cm(0) | tb(0) |

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