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- » 2008 . 02
- プロフィール
Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
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「学校、行かなくてもよろしいんですか?」
「今日開校記念日だから」
「いくつ学校を掛け持ちしていらっしゃるのやら。月に一度は聞いている気がしますわ」
芹沢邸の離れで僕は寛いでいた。今日は土曜日。僕の通う高校は私立で、休みが法律で決まってたりする公立の学校とは違って本来なら土曜も学校がある。バレバレだけれど開校記念日なんていうのは出任せにすぎない。ただ、雪が降っていて、登校するような気分じゃなかった。それだけ。
この芹沢家の一人娘、椿は僕の二つ年下で、公立の中学に通っている。今二年生だ。だから今日は休み。黒いスカートのプリーツを翻して、お茶でも飲みます? なんて問いかけてきた。
「自分でやる。椿がやると飲めたもんじゃない」
「失礼ですわね。ペットボトルのものをグラスに入れるくらいできますわ」
「寒いからあったかい緑茶が飲みたいんだ」
「それならご自分でどうぞ」
椿はしれっとそう言い、僕からは少し離れた場所に腰掛けた。自分の力量を弁えてくれてるのはいいんだけど、訪ねてきている側の人間にやらせようとするなんて旧家のお嬢様のすることではないと思う。言っても直らないだろうし直す気もないだろうから言わないけれど。
僕は立ち上がって台所へ向かった。芹沢邸の離れはやたら広くて、ほぼ一軒家と同じくらいの広さがある。台所から風呂まで全部完備。その昔、芹沢家の主、大和さんが学生だった頃はここでひとりで優雅に暮らしていたらしいけれど、今は誰も使っていない。だから結構前から僕が好きに使わせてもらっている。大和さんも流石に娘をここでひとりで暮らさせるわけにはいかないと思っているのか、はたまた椿が面倒がっているのかはわからない。どちらにしたって食事面で絶対困ることになるだろうとは思う。ここは一家して家庭科スキルが絶望的だ。中学の頃、椿にバレンタインのチョコレートを貰ってその餌食になった経験を持つ者としては、あの威力を誰よりもわかっている。大和さんの奥さんのルミさんはそんなことないけど、直系はやっぱりとんでもない。
「私の分も淹れてくださいますか?」
「はいはい」
ここまで要求するんだから、僕は椿にとってはもう居候のようなものなんだろう。まあ、否定するようなところもないから構わない。薬缶に水を入れて、火を点けた。
「ふふっ」
二人して湯のみに口を付けていると、椿が突然笑い出した。緩くウェーブがかった髪が揺れて、ぱっと見可愛いのかもしれない。でも長い付き合いの僕としては気味悪いったらない。口の中の緑茶(当然上等なものだ)を飲み込んでから、睨むように椿を見る。
「なんだよ」
「いえ、金髪に緑の目なのにいやに緑茶が似合うなと」
「クッキー片手にオレンジペコでも飲んでれば満足?」
「視覚的には」
とのことらしい。
確かに僕は金髪だし、目は薄く緑がかってるし、肌は普通の日本人よりずっと白い。遺伝って優性の法則ってもんがあるんだと思ってたけど、僕は大部分逆をいっている気がする。中学の理科で習った法則で行くと、白色よりも有色の方が優性のはずだし、それってつまり、目の色は黒が優性、髪の色も黒が優性、ぱっと見で優性遺伝だと分かるのは生まれつきくるんと巻いてしまう髪くらいだ。
ただ、外見が外人ぽいからって英語が全然できない、そんなギャップで売ってる芸能人なんかとは違って、一応僕は英語もできる。向こうにいたのは二歳までだったからけど覚えてる。日本暮らしの方が長いから受験英語の方がしっくりきていると言えばそうだけど、名前だってしっかり日本人のだし、国籍だってそうだ。外人の親戚だってゼロ。中身は典型的な日本人だと思う。
「お父様、心配なさいません? 息子が学校を度々サボって」
「さあ? あくまでも生徒だし、今日うちのクラス化学ないから気づかないんじゃないかな」
「不思議ですわね。親子して通っているというのに気づいている人がいらっしゃらないなんて」
「知られるの嫌なんだと思う。再婚するにもこんなでかいガキいたんじゃ微妙だしさ。保護者代わりは全部お祖父ちゃんがやってるから困ってないよ。調べれば父親が誰かなんてすぐわかることだから、そこまで必死に隠すことだとは思ってないんだろうけど」
それに、親子して通ってるのが多いんだ、うちの学校は。
瀬川先生の息子と娘、あのやかましい双子の櫂と黎もそうだし、音楽の鳥辺山先生の娘だって通ってる。
みんな親にすごく似ているから校内でも目立つ。僕みたいに単なるハーフなんかはそこまで注目を浴びることもない。親子だってバレないのは似てないからだ。
「再婚、して欲しいんですか?」
「は? あー、だって見た目もそれなりだし、まだ若いし。僕もいい加減ひとりで何でもできるんだから結婚でもして楽になればいいんだよ」
「親思いですわね」
と言うよりも、単に恩返しの義務を感じているだけなのだろう。僕がここに存在できるのは間違いなくお父さんのおかげだけれど、僕を欲しがったのはお母さんだ。お父さんは、お母さんを愛するが故に、その手助けをしただけ。
“何があってもお父さんを恨まないでね”
と、死ぬ直前にお母さんが言っていたのを、僕ははっきりと覚えている。お母さんは、お父さんが僕を置いて日本へ帰るのだろうと思っていた。僕も、何故そうしなかったのかと思う。お父さんも、お母さんがそう思っていたのを知っていたと思う。それでも、まだまだ若いお父さんは、僕を見捨てることなく日本に連れて帰った。だから僕は、こうして今不自由なく暮らせることに感謝しなければならない。特大の感謝を。
「大切に思えることに越したことはありませんわ。樹理さんのお父様は素敵な方ですから、大事にしてあげて下さい」
「何だよその言い方。自分はそうじゃないみたいに。あんだけ仲良いくせに、親不孝」
湯のみの中のお茶を熱いうちに飲み干す。隣の椿は、少し大きめのタートルネックのセーターに顎を埋めるようにして、目を伏せた。
たまに椿はよくわからないことを言う。あれだけ親とも仲がよくて、両親とも健在で、家庭的にも恵まれている。それなのにあまり幸せでなさそうだ。ただ椿がそう見せたがっているだけなのか、実際にそうなのかはわからない。でも仮に本当に何か事情があるにしても、僕のような境遇の人間からすれば、幸せな悩みだな、と思ってしまう。
「結局、母屋よりも離れの方が落ち着きますもの。親離れしたい時期なのかもしれません」
「落ち着くのは逐一僕が片付けてるからだ。散らかすなよ、あんまり」
本人がそう言うのだから、そうなのだろう。長いこと一緒にいても分からないことは多い。中学生だし、親とあんまりくっついてはいたくない。そういう時期と言われれば頷ける。
「大和さんとルミさん、もし離婚でもしたら再婚してほしいと思う?」
「まさか」
それはどこにかかる「まさか」なのか。図りかねて僕は椿を見た。
「別れるなんて有り得ませんわ」
「あるかもしれないじゃないか、意外と。大和さんはああいう性格だし」
ことん、と湯のみを置いて、椿は伸びをした。僕の台詞はくだらないものと受け流されたらしい。
「ああいう性格だから、ですわ。……まあ、私が存在するんですから、可能性はなくもないのかもしれませんけれど」
「……お前の言うことはさっぱりだよ」
「でしょうね。多分、樹理さんには一生かかっても理解なんてできませんわ」
「そうかよ。別にいいけどね」
別に、そんなに気になるものではない。何か暗いものを内に抱えているとしても、それは僕が踏み入るべき問題ではないと分かっている。僕だって踏み込まれたくない部分はある(お父さんのこととかお父さんのこととかお父さんのこととか)。許容しているのは相手が椿だからだ。椿は年齢の割に大人だから、節度を知っている。
「寒いなあ」
「雪ですもの」
窓から見える雪は一片ひとひらが大きい。山が近いからだろうか。
部屋を暖めるヒーターの働きに感謝しながら、僕はまた茶を啜った。
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