プロフィール

軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.--(--) | スポンサー広告 |

Impulse of Destruction

秋臼さんの5月企画に触発されました。
点呼どんの5月ネタも何か後日っぽいの書きたかったんだけど収拾つかなくなりそうで!(爽)


取りあえず空奈央を書きたかった。
いつもと違う空奈央を書きたかった。
そしたらこんなんになった。困った。でもノリノリだったよ私。これが深夜テンション……!


奈央は理央殺さないよ! この子適度に怪我させて地下にでも幽閉するつもりだよ! マジで兄貴自分のもんにする気だよ、恐ろしい子!
空は報われないポジションで決定なのか私。
しかし何ですか、理央奈央はちょっと精神弱すぎないか。金持ちってそうなのか。
さらりと殺していいよとか言うな。(自分で書いといて)


なんか空奈央が清純じゃないので一応隠し。(笑)


スポンサーサイト

2008.05.31(Sat) | 触発されました | cm(0) | tb(0) |

霧雨を乞う



 雨の降る夜、秋の日だった。
 夏が終わって間もなかったが、だからといってまだ夏だと言える気温ではなく、雨が降れば思わず震えるほどには寒い。しとしとと止む気配を見せず控えめに降り続ける雨は、容赦なく理央のスーツを濡らし、髪を濡らし、指先を冷やした。
 いつもは降水確率に関係なく鞄に入っている折り畳み傘を忘れたのだ。先日出かけた時に別のバッグに入れたのが原因だろう。
 ――そんなことも、もうどうでもよくなっていた。ここから自宅までの道を、どうやって時間をかけて辿るべきか、ぼんやりとした頭でそればかりを考える。いい案は浮かばない。

「理央」

 ぱしゃん、と水を踏む音。目の前に人影。
 気づけば自分の頭上の雨は止んでいた。俯いていた頭を上げて、影の主を見る。

「……響」

 片手に傘、もう片方の手には珍しくスーパーの袋が握られていた。何か急に入用のものでもできたのだろう。何を買ったのか、いつもなら軽く聞いているところだが、今の理央はそんな気分にもなれなかった。相手の苗字を呼んだだけで、緩慢な動きで再び頭を垂れる。そのまま歩き出そうとすると、片手を掴まれて、そう強くない力で引かれた。自然と足が要に着いていく形になる。元来た道。クリニックは、ついさっき通り過ぎたばかりなのに。

「もういい時間だ。何をしてた」

 理央が着いてくるのがわかったのか手を離し、傘を心持ち理央に傾けながら要が言う。理央は依然顔を俯けたままで、口を開いた。

「……どうしたら、このまま朝になるか、考えてた。……夜ってのは案外長いな」

 朝になって、奈央が仕事に出れば自分も部屋に帰れるだろうと思っていた。 
 今は、どんな顔をして会えばいいのか、わからない。連絡をしなければいつまでも奈央は部屋で待っているかもしれないのに、それさえ怖くてできなかった。
 そうして黙ったまま歩いて数分、要がクリニックの扉を開ける。暖かい、と理央は思った。

「今タオルを取ってくる。逃げるなよ」

 逃げるものか。どこへ逃げればいいのか。雨と闇に身を紛らわせればいいのか。せっかくそうしていたのに、お前はそんな俺と出くわしたんじゃないか。
 閉じた玄関の扉に背中を預けて、まだ理央は俯いていた。
 奈央の暖かさがする。なんだかすごく、居心地が悪い。
 要はすぐに戻ってきた。理央の頭に大判のタオルを被せ、すっかり濡れてしまった髪を粗く拭いていく。

「こんなに冷えてたら風邪引いて、奈央が」
「瀬川にプロポーズされたんだそうだ」

 奈央が心配する、ときっと続くはずだった言葉を、理央は遮った。
 分かっていた。要がきっとそう言うだろうことも、空がそうするだろうことも。
 理央の髪を拭く要の手が、一瞬だけ止まって再び動き出す。

「奈央が断るわけがない。わかってる。俺だって、断って欲しいわけじゃない。……なのにどうして、俺は、」

 おめでとう、も、よかったな、も、何一ついい言葉を言えずに電話を切ってしまったのか。どうしてその報せを拒絶したのか。

「……奈央が、俺に、どうしよう、って言った。断る気なんかないのに、どうしよう、って」

 自分は奈央にとって唯一といっていい肉親だ。だから少しでも意見を仰ごうとするのは仕方のないことで、それもわかっているつもりなのに。
 奈央は、自分が拒絶されたように感じただろうか。そうではないのに。ただ、自分の心が弱いだけだ。随分昔からそんなこと分かっていたのに、奈央の知らせを拒絶する自分の行動に、理央は抗うことができなかった。

「寂しいのか」
「そんな女々しくない」
「そうか?」
「そうだ」

 寂しくなんか、ない。
 自分だけが置いていかれる気はするけれど。
 いつかこうなると知っていたんだから、寂しくなんか、ない。

「……けど、瀬川じゃなくて、お前とか、他の男が相手なら、俺ももう少し違った感情を持ったんだと思う」

 それならきっと、おめでとう、とか、よかったな、とか、ありふれた祝いの言葉を言ってやれたのに。奈央ほどでなくとも、空も理央には近すぎて、二人が共に近くからいなくなるようで、

「……だから、寂しいんだろう」

 要の諭すような声音に、今度は返事をすることができずに、再び項垂れた。
 ふう、と呆れたような嘆息が聞こえ、ばさりとタオルが取られる。

「風邪引いたら奈央が心配する。風呂に入れ」
「……そうやって心配する奈央も、もういなくなるんだな」
「必要なら心配してやる」
「結構だ」

 冷えた手をまた引かれて、靴を脱いでスリッパも履かずに廊下を歩く。
 まだ少し濡れている髪が額に付いて冷たさを理央に齎した。
 要の自室はクリニックの二階部分で、となればもちろん浴室も二階にあるのだが、その階段のすぐ手前まで来て理央は突然立ち止まった。

「……寂しい」

 もう二度と言うまい、と理央は思った。
 二度と言わない。誰の前でも言わない。
 要が返すだろう言葉も、それなりに付き合いのある理央には想像できたから、きっと自分はそう返して欲しくて零したのだろうから。

「……そうか」

 淡白な言葉。きっとこれでいい。
 慰めてほしいのだとすすり泣く自分をどこかで感じていたとしても、そんなことは声に出さない。その冷たさが欲しかったのだろう。心臓に氷柱を優しく付きたてたような、そんな冷たい痛みが欲しかったのだ。
 自分が可愛いばかりに妹の幸せも祝ってやれない自分を罰する、痛みが欲しかった。
 ――けれど。
 
「………寂しい」

 冷たさがほしいのに、痛みがほしいのに、なのに今、この手を離せない自分をどうか許して欲しい。
 言葉にはせずに心でそう呟くと、理央はまた、頭を垂れた。



2008.05.30(Fri) | Title | cm(0) | tb(0) |

extra Ⅲ ――Whole New World



「あー、すごい血出てるじゃないですかー。岩場で躓いて転ぶとかすげー子供っぽいっスよ」
「うるさいっ、たまたまだ!!」

 一人で散歩する、なんていうからシンゴはいろいろと心配していたのだ。しかしきっと着いていこうとすればルカは「別に着いてこなくていい」とでも言うだろうし、シンゴはシンゴでケレスに荷物の仕分けを命じられていた。最早シンゴの担当のようになっていた仕事なだけに途中で放り出すこともできなかったのだ。
 この洞窟からしばらく歩いたところに、砂漠には珍しく岩場が存在する。砂自体も少なくて、地面がむき出しで見えている場所だ。雨のほとんど降らないこの土地では夜も晴れて星空が綺麗に見えるから、ゆっくり星を見たいときなどはルカと一緒にそこに寝そべることも多くあった。今は夕方だからそれには当てはまらない。夜に一人で外に出るなんて言い出したら、何があろうとシンゴは着いていく。日中だからあえて見逃したのだ。

「俺手当てとかあんま上手くないですからね」
「別にそんな大したもんじゃないんだから、唾付けときゃ治るって」
「じゃあ俺が唾付けてもいいんですかー」
「そういう問題じゃないだろ!!」

 おそらく暇だったから散歩に出かけたのだろうが、転んで怪我して帰ってくるなんてそれこそ本当に子供だ。別にルカが泣いて帰ってきたわけではないし、ルカも怪我したことなんて一言も言わなかった。シンゴが少し注意深くルカを見ていただけのこと。
 洞窟の奥で手当ての道具一式を傍らに、水を含ませた布で怪我した肘の部分を拭い、砂をとる。それから慎重に消毒液を垂らした。血の滲む傷口からぶくぶくと泡が出る。

「……ずっと思ってたんですけど、消毒の時出るこの泡って何物なんですかね」
「は?」
「前、これもしかして沸騰してんじゃねぇかと本気で思ったんですけどそういうわけでもないし。謎ですよね……」

 泡が少し退いてきた傷口を見て、それからシンゴの真剣な目を見て、ルカは本当に大きなため息をついた。

「酸素だろ。知っとけよそれくらい」
「へ、……酸素ってあの? なんか、こことか、こことかにあって俺らが吸ってる」

 シンゴがどことはなく空中を指し示すと、ルカはひとつ頷いて答えた。
 
「詳しいことは知らないけど、体内の酵素だか何かが消毒液の成分を分解してる……んだったかな、確か」

 図書室で本読んでた時に見かけた、とルカは付け加えた。
 やっぱ物知りですね、と笑いながらルカの肘に乾いた布を巻きつけ、外れないように、けれど圧迫しすぎない程度に軽く縛る。
 ルカは、世界が狭い、とたまに漏らすことがあった。だから本を読むことはルカにとって新しい世界を垣間見ることなのだろうとシンゴは思っていた。自分たちの世界はとても狭かった、とシンゴだって思うことはある。けれど、シンゴの思うそれは『王国』という空間だけの話で、ルカにとってはおそらく、もっとずっときつくて狭い場所だったのだろう。

「俺が物を知れたのはお前のお陰だよ」
「そんなことないですよ。相応しい人にこそ施されるべきだと思いますから。俺、肉体労働派ですし」

 何度も繰り返したやり取りだ。ルカが礼を言えば、シンゴは笑ってそれを否定する。実際シンゴはあまり字を読んだり書いたりだとか、細々したことを覚えるのは苦手だったから、自分の選択は決して間違っていなかったと思う。ルカの話を聞く方がずっと楽しいと思ったし、何より、弟や妹を一番に考えなければと思っていたのだ。――あの頃は。

「あ、そうだ。この前あのエイイチって人とちょっと話したんですけどね」
「何を?」
「術っていうんですか? 魔法みたいな。ヒサさんとかが使う奴」

 シンゴが後片付けを終えて壁に寄りかかって座ると、ルカも二、三度腕を曲げたり伸ばしたりして具合を確かめ、シンゴに倣った。その視線は話を続けろと要求しているようで、それなりに食いつきは良い。 

「ルカさん、ああいうの向いてんじゃないかなって思いました。古代語云々って言ってたんで俺じゃ無理だと思いますけど、ルカさんなら」
「何だよ、腕じゃ足しにならないって言いたいのか」
「何でそういう風に解釈するんですか。単純に、そういうの興味あるんじゃないのかなとも思ってます。剣振り回す原始的なのより、魔術っていうか魔法っていうか、そういうのって目新しくて気になりません?」
「……非現実的なのは好きじゃない」
「うわー、嘘ばっかり」

 毎日毎日同じことの繰り返し。
 小さな国で、小さな町で、同じことを毎日繰り返して朝も夜も過ごす。
 決まりきったことなどルカはきっと好かない。
 もしかしたらこうして追放の身である今でさえ、広い世界を目にすることで苦痛を忘れているかもしれないのだ。
 ルカもその辺は自覚しているようで、少しばつの悪そうな顔をして頬を掻くと、俺じゃ無理だよ、と言いなおした。

「知った気でいることが多すぎて、俺はまだ知るべきことも全然知らないんだ」

 シンゴは自分の胸がちくりと痛む気がした。けれど深くは考えないでおく。

「新しいことを覚えるのはもっともっと先でいい。俺には知らなきゃならないことが多すぎる。まあ、……剣の技術だとか体力でお前が俺のこと足手まといだって言うならその時は別のこと考えるだろうけどさ」
「そんなこと絶対言いません! つーか思いもしません!!」
「だといいんだけどな」

 色素の薄い茶色い髪をふわりと揺らしてルカが笑う。
 ――なんだかんだで、ルカは結構楽しそうだ、と思った。
 そんなことをシンゴが考えていると、ルカがぶつぶつと小さく呟きながら立ち上がった。聞き取ることができなかったシンゴは立ち上がったルカを見上げ、その瞳に視線を合わせた。

「何ですか、今の?」
「んー、この前教えてもらったんだ、ヒサさんに。その暗唱」
「だから、何を?」

 服についた埃を軽くぱんぱんとはたいて、さっきの微笑みではなく子供っぽい笑顔を満面に浮かべたルカが、口を開く。

「古代語」
「え、」
「手当て、ありがとな」

 はっきりそう言って、ぱたぱたとルカは洞窟の外へ駆けていく。
 外は暗いけれど、火を焚いているのかぼうっと明るく見える。

「……なんだよ、乗り気じゃん」

 新しく光る世界への出口が見えるようだった。



2008.05.28(Wed) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

interlude-Ⅵ ――a headache


 暖炉の火が徐々に弱まっていた。ルカは借りた毛布の中で小動物のように丸まって眠っている。対して、シンゴはなかなか寝付くことができずに、そんなルカの様子をただじっと見ていた。
 自分が家を空けている間、殺された妻と攫われた娘。極寒の、吹雪の土地。きっと殺されてしまっただろう娘。ルカはきっと、姫のことを考えたはずだ。シンゴだって一番に彼女のことを思い浮かべた。彼女が今どうしているのか、生きているのか、あの占い師は生きていると言ったけれど、疑ってしまった。

「ルカ、……とんでもねぇガキだな」
「ほんと、とんでもないですよね。けど、すごくまっすぐなんです」

 シンゴと同じようにまだ眠っていなかったリョウが声をかけてきた。揺り椅子に座って、おそらくは植物の専門書か何かなのだろう分厚い本を眺めている。

「てめぇはどうなんだ。……ルカが王に反抗して追放されたのは頷ける。この国でだって君主に逆らえばほぼ確実に死刑だろう。お前が助けに入ったからルカが死刑にならなかった、ってのは分かるが、そもそもどうして助けに入った? 下手すりゃお前も死刑だっただろう。ルカと違って、お前には家族もいた。……単なる不孝者にしか見えねぇな、俺には」

 毛布をかぶりながら、シンゴはリョウの言葉を聞いていた。
 おそらくこの言葉には自責の念も含まれているのだろう。失うとわかっていたのなら、家を出たりしなかったのに。リョウはきっとそう思っている。
 リョウがそうだったとしても、シンゴはそうしなかった。それが結論で、ゆっくりゆっくり真綿で首を絞められるような苦しさをシンゴは味わっていた。リョウの自責の念だけではない。そこから派生してくる、シンゴ自身を責める気持ちももちろん今の言葉には入っていた。

「……俺だってそう思うんですからそれは仕方ないですよ。俺だってもう少し悩みたかった。でもあの時は無我夢中で、気付いたら砂漠のど真ん中。……無意識のうちに俺は弟と妹を捨てたんです。弟や妹を守って生きるよりも、こっちを選んでしまった。だから俺は、っ、く、」

 言葉をとても続けられないほど、ガツンと殴られたような痛みを頭に感じて、シンゴはぐっと目を瞑った。突然だった。何度も、何度も、鈍器で殴られるような痛み。頭蓋が変形しているんじゃないかと疑うほど、痛みは退かずに続く。
 砂漠でも疲労からか頭痛がすることはあったが、今回のこれは段違いだ。

「……おい、平気か」

 リョウの声色は、突然のことを心配するには低く、冷静さを失っていない。
 そこになんだか違和感を覚えつつも、退かない痛みを堪えてなんとか返事をする。

「っく、ぐ、……っ、はい、平気、です、……疲れてるんだと、思います」
「……なら早く寝ろ。……あんまり気張ってるとルカより先に落ちっぞ、お前」

 落ち着いて告げるその言葉にだけは反論しようと、シンゴは顔を上げた。

「はは、まさか。俺がルカさんを支えるんです。俺が守る。家族見捨ててまでルカさんの近くにいることを選んだんだから、俺が先に倒れたりは、ッああああ!!!」

 退かない、退かない、退かない―――!!!
 疲れているんだろう、わかっている。けれど、こんな激痛が退かないなんておかしい。これまで大きな病気だってしたことはないし、疲れが溜まっているだろうことを除けば体は健康だと思う。ゆっくり深呼吸をしてもガツンガツンと割るような痛みが頭を襲う。髪を掻き毟りたくなるくらいの激痛が断続的にやってきていた。

「……落ち着け」
「お、ちついて、ます……!!」
「落ち着いてないだろ。……俺から話振っといて何だが、ちょっとルカのことから離れろ。ルカのこと考えるのやめて、弟でも妹でも誰でもいいから少しルカ以外のことを考えろ。で、深呼吸」

 そう言われて、シンゴはまた目を瞑った。
 一番最初に頭の中に響くメロディーに心を任せる。懐かしい旋律。シンゴだって、この音が大好きだった。

「あ、………」

 あれだけの激痛がゆっくりと退いていく。安心したため息よりも、激しく肩で息をしている自分が情けなくて、痛みから逃れるためにルカのことを頭から消し去ったことを少し恥ずかしいと思った。
 極寒の地なのに、暖炉の火はもう小さいのに、額にはじっとりと脂汗が浮かんでいる。手の甲でそれを拭うと、今度こそシンゴは安堵のため息を大きくついた。

「言っただろ、あんまり気張るとお前が先に落ちる」
「……何ですか、……何なんですか、今の」

 何か知っているような口ぶりにシンゴは食いついたが、リョウは核心に触れることなく逆に質問をシンゴにぶつける。

「ルカに何の負い目があんだよ、お前。何の義理立てしてルカを守ってる。何のために家族を捨てた」

 怒るところなのかもしれない。
 ルカの話題なのだから、またあの痛みが襲うかもしれない。
 そう思っていても、自分でもびっくりするくらいシンゴの声音は冷えていた。

「……何も無い。負い目って何ですか? そんなものあるわけないじゃないですか。俺がルカさんを守るのは、ルカさんが誰よりも大切だからです」

 完璧な理由。
 それしかない。理由なんてそれしかない。ルカが大事だから守るのだ。
 それでもリョウは変わらぬ落ち着いた目でしっかりシンゴを見据え、言い切る。

「嘘つけ」

 言葉は更に続く。

「真っ直ぐすぎるこの王子様が何度暴走した。何度お前は煩わされた? いっぺん殴ってやりたいと思ったことは? ……ルカを命がけで守ってるお前が、一番ルカを見下したいんじゃないのか?」

 すう、と規則的に聞こえるルカの寝息。
 シンゴは痛いほどの唇を噛み締めた。
 思い出すのは、砂漠の月の晩。
 蹴られて、殴られて、死ぬかと思って、死ぬまいと思って。
 体中が軋むように痛んだけれど、本当に痛いのは心だった。あんな最低な人間に、見透かされた。振りなんだと見透かされた。
 なら、それならどうしたらいいのか。傷つけたくない、笑っていてほしい、幸せになってほしい。シンゴは、本当に、心からそう願っている。
 これが振りなんだと見抜くのなら、見抜いてしまうのなら、これ以上余計なことを考えさせないほどに打ちのめしてほしかった。心臓が動くのなら上出来だ。それだけでルカを守っていくことができるだろう。
 叶うのなら、下等な生物になりたかった。ルカを守り抜くことだけを本能に刻み込んだ、下等な生き物に。
 殺せない、殺させない、穢さない、穢すわけにはいかない。汚れるなら、汚されるなら、殺すなら、――殺されるなら、それは最初から最後まで、“忠臣”たる自分の仕事で、義務で、権利で、使命だ。この責務を果たすことが、どうしようもない自分をずっと頼ってくれて、どうしようもない自分が裏切りも甚だしく見捨ててしまった、もうきっと会うことも叶わない弟と妹への償いになる。そうシンゴは思っていた。
 無事全てが終わる時までルカを守り抜くことが、自分の幸せにも繋がる。
 ――例えその瞬間に、シンゴの時が終わっていたとしても、だ。

「……もしそうだったら、どうするって言うんですか? ルカさんにバラす? 俺がルカさんを見下したいだなんて、俺はそんなことこれっぽっちも思っちゃいないのに、貴方の思い込みでルカさんにそう話す? ルカさんが頼れるのは俺しかいない。その俺がそんなこと考えてるなんて少しでも耳に入ったら、この人のことだからすごく動揺する。――そんな根拠もないことルカさんに流されるくらいなら、今ここで貴方を殺します」

 さっきまでの痛みはまるで無かったかのように消えていて、代わりに寒気にも似た冷たい空気が自分の周りに漂っていることをシンゴは知った。
 毛布を被っていてもそれははっきりと分かる。じっとこちらを見るリョウを、シンゴも見返す。腰に差した剣の柄に、しっかりと手をかけたまま。

「――なるほどな」

 何か悟ったかのようにリョウが呟いて、くつくつと喉を鳴らした。

「……何」
「何でもねぇよ。とっとと寝ろ。また頭痛くなんぞ」
「っ」

 あの痛みを思い出して、シンゴは眉を顰めた。それは嫌だ。あの痛みにはどうしても慣れることなどできないだろう。
 痛みから解放されて気が緩んだのか、雪崩のように眠気に襲われた。それでも、何が「なるほど」なのか気になって、眠ることなくリョウを睨むように凝視し続ける。

「馬鹿みてぇに人が良いんだな、と思っただけだ。……あれだけ騒いだんだ、眠気あるだろ?」

 人なんて良くない。
 だって俺は、 

 言葉はおろか、思考さえも続きを紡ぐことが出来ずに、シンゴの意識は混濁していった。



2008.05.27(Tue) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

設定だけをつらつら上げます。

思ってるだけだと忘れそうだからいっそ書いておくリベリオン設定。(案)



取りあえずヤマトはケレスさんのこと気づいてなければいいと思うんだよ。
ていうか10年近く前のことなんて綺麗さっぱり忘れてればいいと思うんだよ。
で、実際いつか会ってみて、ああそういえば、と思えばいいと思うんだよ。


エンジ君をリベリオンに出そうか出すまいかずっと悩んでたんですが、何かこの前椿と炎而君の話書いたら何こいつら絶対可愛いじゃない、とか自分で思ってついに出そうと決意しました。
エンジ君がどれだけ偽者になろうとも。
でもって、いろいろ考えたんですけど、ツヅキ君よりもエンジ君が先に来た方が盛り上がりそう。
ほらだってエンジ君って外面いいけど冷酷だったりするから暗殺とかいう仕事は寧ろいつもスピーディーにこなしてそう、っていうか、ね!
でもツバキに会って云々って感じでなかなか任務遂行しないもんだから末継さんが代わりにツヅキ君派遣。でメインとサブ入れ替わる。エンジ君の影武者で来たはずなのに立ち位置入れ替わってるっていう、ね!(何)
最後はやっぱりお約束でツヅキ君に(略)
エンジ君がツバキと似た過去を持ってればいいんじゃないかなあと思う。エンジ君はヤマトは最低だし殺しても差し支えないと思ってるんだけどツバキが、っていう。
ツバキの過去話からエンジ君と会うまでとかすごく楽しそうだ。
ヤマトが、エンジ君と見た目まったく一緒なツヅキ君に初めて会うところとかも楽しそうだ。
夜仕事中に背後から狙われたりして。見た目も口調も全部エンジ君に合わせてんのに「お前誰だ」ってのはもはやお約束!!
ヤマトはエンジ君のことは別に雇ったりしてないんだと思う。ツヅキ君に会って、それで気が合いそうだってのが判明して、ってのでどうだ。無理矢理だぞ!(爽)


末継さんは何の脈絡もないところからぼっと出てくるんだとわけわかんなくなるので、私の頭の中ではソラのお父さんということになってます。
実父か母親が再婚したってことにするかは全然決めてないんだけど、前に部誌で書いたむっちゃんと梓のところ見直したら空がやたら城の内情を知ってたので、じゃあそういう事情を知ってる誰かが吹き込んだんだろうと。
裏で何やってる人かはわかんないけど、サオとリオの参謀役みたいなことをしてて、あのアホ姉弟にいろいろ吹き込んだのも末継さんで、エンジ君やツヅキ君を派遣するのも末継さんで。
でもって末継さんに城の内情を聞いて、ナオが追放されたお姫様だってわかったソラがスザク化。(笑)
お約束展開でシンゴと共謀してくれたりしないかなあ。
ソラの敵はリオやサオってよりも寧ろルカ。


いろいろ決まってはいるんだけどラストまでどう持ってくのか。
だからアンドゥーとか砂漠の人たちとかもうちょっと書きたいんだよね。
いつまでかかるんだろうこれ。

2008.05.07(Wed) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

extra Ⅱ――yellow flower



 覚えているのは、ただ吹雪の日だったということ。吹雪だけど、この地に生まれた俺からしてみればすごく生易しいものだった。奴と出会ったのは、そんな日だった。


 そいつは雪の降る土地に来るのが初めてらしく、土地の者なら支障なく歩けるようなところをよろめきながら進んでいた。今思えばあれは疲労からだったのかもしれないし、服装をよくよく思い出してみれば足が凍傷になっていたのかもしれなかった。真実がどうだったのかは今となっては確かめようがないし、だからどうって話でもないのだが、あの頃はまだ十そこそこのガキだった俺だ、その異邦人が、ものすごく奇妙な何かに見えたのだ、とにかく。

「咲くのか、花なんて」

 そいつは俺の目の前で、俺よりずっと低い大人の声で問う。
 咲く、と確か俺は答えた。父が病床に伏している頃だった。俺は吹雪だろうが雨だろうが、日がな一日町の周りに花を植えていた。厚い雪の層を掘り進めて、花の種を蒔いて回っていた。

「あの木は俺の父さんが植えたものだ。気候なんて今と変わらないのに、ちゃんと育ってる」
「陽も射さないのにか? 冬の大神とやらが支配してるとか下らない話聞いたぞ、船頭に」

 下らない話。
 俺はその言葉を聞いて、笑った。

「じゃあこの話を聞いたらもっと下らないと思うんだろうなあ。この土地には春の女神が眠っている。だから春の加護を受けて、どんなに雪が降ろうと実りは訪れる」

 そいつは苦い顔をした。多分、こういう土着の信仰のようなものが苦手なんだろう。それは、俺も同じだ。

「それで、俺は春の女神を喰らった冬の神の末裔」
「そいつが花を植えてるってんだから全部笑い話だな」
「俺もそう思う。俺が誰よりこんな話信じちゃいないんだ」

 俺は、そんな話信じちゃいない。必要ない。冬の神の末裔? だからって縛られる理由がどこにある?

「俺は信じちゃいないから花を植える。花が好きで、いずれ俺の物になるこの国にも俺がたくさん花を咲かせたいと思うから」

 びゅう、と一際強い風邪が吹いて、俺は一瞬目をつむった。
 次に目を開いたときに見えたのは、この白い闇が支配する土地には鮮やかすぎるくらいの金色。フードが風で取れたらしかった。

「言い伝えを信じてないくせに、言い伝えを利用するか」
「何が悪い? 自然だろうと言い伝えだろうと、そこに存在するものは誰かに利用されなければ価値を持たない。俺は一生使う立場に身を置くんだよ。俺は俺のやりたいようにするために神話を利用する。それが不信心と言われようと俺は信じてないんだから心は痛まない。俺は一生、俺だけのために生きる」
「……神話以外の世界を見たこともないくせに」
「それは環境。それと年齢」
「それだけ考える頭がありゃ外にも出られるだろうが」
「そうかもしれない。俺はこれでなかなか賢い方だしな」

 出ようと思えばいつでも出られる。
 跡継ぎには困るかもしれないが、出てしまえばそんなことは関係のないことだ。

「けど、俺は出たところですぐ帰ってくる。俺は俺だけのためにしか生きられないけど、それでも、俺を作り上げるものがここにはある。俺であるために守らなきゃならないものがある。それは神話云々は関係ないんだ」

 花を咲かせたい。
 一緒に花を咲かせたい。
 彼女の喜ぶ顔が見たい。
 この白い闇に長く陽が射す日が訪れるのなら、その日には鮮やかな花畑を。
 錆び付いた冬の剣に、暖かな春の息吹を。

「ガキのくせによく言う、と思った? 横柄なのは元からだから許してほしいんだけど」
「ああ、お前今のままで成長止めておけ」
「できるならそうしたい。逃げてられるしなあ。いいんだけどさ、上に立つの嫌いじゃないし」

 雪を掘って土の中に種を埋めて、また土を被せ、雪を被せ、手袋で表面をぱんぱんと叩くと俺は立ち上がった。

「お兄さんは何しに来たの? 一人旅ってことは、元々いたところを出てきたってことでしょう?」

 追放されたか、自発的に出てきたのか――その辺はよくわからなかったが、どことなく自分と似た匂いがすると思った。
 きっと、自分のためにしか生きられない。誰かのために捨てる命はない。それは自分がどんな環境にいたとしてもだ。自分を自分として成り立たせるものを守るためだけに生きることができる。この男は“それ”を自分の中に、俺は自分の中というよりも寧ろ外に多く持っている。それだけの違いだ。
 相手は何も、返さなかった。

「ずっとここにいたら死ぬよ? 宿屋くらい案内する」

 俺が一歩踏み出すと、後をついて雪を踏む音が聞こえた。

「暇ならこれまでの話、聞かせろよ。跡継ぎってのは大抵暇してるもんなんだ」
「俺の話は高いぞ」
「へえ。じゃあ宿代チャラにしてやるよ。それでちょうどいいだろ」

 首だけ振り向いて男を見ると、金髪が雪に打たれて固まっているようだった。その様子は、少し面白い。
 あの種はどんな色の花を咲かすだろう。黄色い花なら運命っぽいのに。
 そう思った吹雪の日だった。




2008.05.07(Wed) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

ごめ、過ぎちゃった……



 自分らしくない、とは思いながらもお約束のイベントは一通りこなしておきたいと思った。
 テーブルの中央に小ぶりのケーキ。手作りにしよう、と思って作り方を教わりに行けたのは、彼が昨日から遠方に仕事で出かけてしまったからだ。今夜帰ってくるというから、今日の昼間は義理の伯母さんに作り方を習っていた。私は昔から料理や家事はちょっとどころじゃなく苦手だったものだから、どうにか食べられるものを作らなければ、と私も、教えてくれる彼女も躍起になって。
 本当はなるべく甘くないものを作りたかったけれど、「基本もできないくせに応用しようなんて甘いのよ!」と言われてしまった。ついでに「あんたが作ったら多分どんだけ砂糖いれても適度に苦くなるわよ」とも付け加えられた。流石にこれはちょっと酷いなと思ったけど否定は出来なかった。
 全部つきっきりで見てもらって作ったはずなのにどうしてか私の作ったケーキは不思議な味がして、「進歩した方よ」と励まされたけれど、何となく情けない。料理さえできたなら、最初から私の勝ちだったかもしれないのに!

「遅い、ですわね……」

 壁に掛かった時計を見上げて思う。もう少しで彼の誕生日が終わってしまう。メールや電話じゃ味気ないから、ちょっと驚かせたいと思っていたのに。学生なのに社会人として仕事もしている彼だから、邪魔することだけはできないけれど。
 プレゼントも用意していない。プレゼントは私です、なんてお決まりの台詞を言っても彼は爽やかに笑顔でスルーしてしまうだろうし、何よりそんなことを言うのはかなり気が引ける。あるのはただ、不思議な味のするケーキだけ。単なるイベントだから。もう終わったゲーム、その延長上に用意されたイベントに乗ってみようというだけ。このイベントにはケーキがきっと必要だから、だから用意した、それだけ。
 緩く波打つ髪を指に絡めて遊びながら、時が過ぎて彼が帰ってくるのを待つ。かちゃり、と鍵の回す音が聞こえたのはそれから間もない時だった。

「ただいまー」

 一日振りに聞く彼の声がどうしてかすごく懐かしいように聞こえて、私は席を立った。

「おかえりなさい、炎而様!」
「お、まだ風呂にも入ってなかったんだ? 珍しい」

 本当にきょとんとした顔で、私が何を考えて今までリビングにいたかなんて分からない様子。どうせ今日が自分の誕生日だったことも忘れているのだろう。それはとても彼らしいと思った。
 今日も疲れた、と疲れをあまり感じさせない笑顔で彼は言いながら、私の後を歩いてリビングに向かう。いつも座る自分の椅子の背に上着を掛けて、それでようやくテーブルの中央に見慣れないものがあることに気づいたようだった。

「まだ少し時間ありますわね。間に合ってよかったです」

 ケーキの皿を覆うラップを外すと、今日何かあったの、とこれもお決まりの台詞だ。彼と出会ってからもう数年になるけれど、毎年毎年彼はこうして自分の誕生日を忘れている。そこまで無頓着にならなくても、と思うくらいに。私や野島流風、他の友人の誕生日や何かは律儀に覚えているのに。

「今日、お誕生日でしょう?」
「あ、そっか、そういえば」
「祝日で覚えやすいのにどうしてそう忘れられるのか不思議ですわ」
「ひとつ年取るってだけでそんなに特別なものだと思えないからかな」
「人のことは盛大に祝うくせに」
「自分と他人は違うだろ? 誰かの誕生日を祝えるのは、その人が生まれてきてくれてよかったって思えてるからだと思うし」
「あ、……」

 私は、どうだろう。そうなのだろうか。少し違う気もする。
 深く考えようとして、蓋をする。深く考えようとするとぎゅっと胸の奥が苦しくなるようで、これ以上考えたくないと思ってしまう。
 私は、違う。頑張ったのはイベントだからだ。一緒に生活するようになって一番最初のイベントだから、外せなかった。それだけ。
 私が変に黙ってしまったのに気づいたのか、彼の方が「これは?」と話題を振ってくれた。

「折角ですから作ったんです。一緒に生活し始めて一番最初のイベントですもの、逃す手はありませんわ」
「………もしや手作りですか椿サン……」
「去年や一昨年を思い出してもらっては困ります。今年はちゃんと紗央おばさまに付き添っていただいて作ったんですから」
「へー……。何か意外だな、いつもの調子でとんでもないの作るのかと思ったのに」
「それは、……お料理を、おばさまに習おうと思って、それの第一作です」

 そんなこと思っていなかったのに、口から変にリアリティのある嘘が零れた。どうしてちゃんと作ろうと思ったんだろう。この家に来てから、自分の至らなさに色々気づいたから? 家事が何一つできないことを再認識したから? それだけなんだろうか?

「……食べて、いただけますか?」

 正直それだけが不安だった。これまでなら有無を言わせないところなのだけれど、今日はなんだか緊張してしまってそんな余裕もなくなっていた。
 彼は、私が調理実習でも失敗できる人間だということを知っている。教えてもらったからと言って確実に上手くいっているものとは限らない。

「食べるよ。椿も成長したんだなー、ってことで」
「貴方の成長を祝う日でしょう? 逆ですわ」
「成長祝われるような年じゃないよ」
 
 フォークを差し出すと彼は普通にそれを受け取り、普通にケーキに刺して、一口食べた。

「……なんていうか、不思議な味がするんだけど」
「教わった通りに作ったはずなんですけれど、おかしいですわね」
「けどすごい進歩だよな。不味くないし」

 不味くない、と言われるのは多分女相手には最悪の言葉だろうが、私も自分をよくわかっているつもりだから心は痛まない。多分、少しも。もしかしたら少し複雑かもしれない。でも、彼の言っていることはよく理解できる。
 彼がいなければきっと、こんな台詞を言われることも、そう言われることが実は複雑な気分になるのだということも、私は知らずにいた。

「――お誕生日おめでとうございます、炎而様」

 貴方といると、新しいことにいくつも出会うんです。
 いつか私も知らない私と出会うんじゃないかと思うくらい。
 それは嫌じゃない。寧ろ、好ましいと思う。
 それなら私は、彼と出会えたことをきっと後悔はしていないのだろうと思う。まだよく、わからないけれど。

「俺のために頑張ってくれてありがとうな、椿」
「いえ、外せないイベントですもの。当然ですわ」

 こうして感謝の言葉をかけられるのも心地いい。
 こうして穏やかな時間を過ごすのも、心地いい。
 本当にちゃんと料理を習ってみよう。もう少しくらいなら上手に作れるようになるかもしれない。
 そんな風に考えられる私にまた出会った。



2008.05.05(Mon) | 未来話 | cm(0) | tb(0) |

16――missing



「あー、てめぇら雪だるまが歩いてるみたいだぞ。軽くは落として入れよ」

 男の後を追って歩いて数分も経たないうちに、小屋に辿り着いた。
 先に小屋の扉を開け、中の光がこちらに差してようやくルカは相手の顔を認識することができた。シンゴよりも大きな体、顔つきもずっと大人だ。ルカよりも十以上は年上だろう。
 男は小屋の隅の暖炉の傍に、おそらくは先ほど外に出て持ってきたのだろう薪を置いた。ルカやシンゴに危害を加えるような素振りはない。
 それを用心深く確認して、ルカは体中の雪を払う。シンゴもそれに倣った。

「あの河を渡るなんて珍しい。普通はこっち側の知り合いに馬と案内を頼むもんだ」
「生憎と知り合いなんていないからな。雪が酷いって話は聞いてたけど、ここまでだと思わなかったし」
「余程のワケアリだな。何だ、集落でも追い出されたか? 信仰に反対したとか」

 追い出されたのは砂漠ではない。砂漠は自発的に出てきたのだ。
 フードをかぶったままシンゴの背中の雪を払ってやりながら、ルカは首を振る。

「砂漠でも集落にいたわけじゃなかったからな。信仰云々とは無縁だよ」
「砂漠で集落にいない? 何だ、じゃあ幽霊かてめぇらは。あー、俺の目もついにイカレたか」
「悪いけど人間だ。多分生きてる」

 シンゴの体の雪を粗方払い終えたところで、ルカは小屋の中央のテーブルに向かう。男が腰掛ける目の前の席。濡れたフードを取り、マントも外して椅子に掛けた。

「……声聞くだけじゃ男だと思ったんだけどな」
「ああ、本当に目がイカレてんだな。こんな薄い女がどこにいんだよ。それとも雪ん中だと育ちが悪くてこの辺の女は皆薄いのか?」

 少しきついくらいに返すと、男は盛大に笑った。そんなことねぇぞ、と否定もしながらだ。
 女と間違えられることは昔から多かったし慣れている。それに、今まではそれを強みにしていた部分も確かにあった。でもあまりこれに頼りすぎるのは男として微妙だと思い始めていた。生きるためには必要な知恵だったことは今でも否定はしないけれど。

「ルカさんに変なことしてみろ、俺が殺すからなっ」
「物騒なんだよお前は!!」

 ルカに続いてシンゴもその隣に腰掛ける。
 男は笑って、そんな趣味はないから安心しろ、と茶化すように言った。

「何せ女房がいるもんだからな。女に浮気ならともかく、相手が少年じゃあ」
「結婚してるのか。……思いっきり一人暮らしっぽい小屋だけど?」

 ぐるりと小屋を見回す。寝台がひとつあり、それに本棚が壁に沿ってずらりと並んでいる。もちろん棚の中にはぎっしりと本が並べられていて、入りきらなかったらしい分は部屋の隅に積んでいるようだった。このテーブルの隅にも二、三冊の本と紙が数枚積まれている。

「今は一人だよ。少なくとも二年以上、……本当はもっと長いのかもな。こっちも突っ込んだこと聞いていいなら何でも聞けよ、等価交換って奴だな」
「じゃあ聞く。あんたが出てったのか、家」
 
 自分について聞かれることは何とも思わない。ルカは一番最初に思った言葉を素直に口にした。
 ルカ自身、父親に捨てられている。借金を作って母親とルカを見捨て蒸発した父。その借金を返すために自分が、そして母が、どれだけの苦労を背負ったと思っているのか。この男もそんな理由で家族を捨てたのだとしたら、相容れない存在になりそうな予感がしていた。

「俺はこの国で植物の研究をしてる。河を渡って、あの砂漠にしかない万能の植物を調べに行くところだった」
「……万能の、ってもしかして、傷の治りも異様に早かったり、どんな病気にも効くっていう植物っスか?」
「そう。あれが実在して、こっちの国でも増やすことができればと思ったんだが」

 ルカとシンゴは顔を見合わせた。
 砂漠で一番初めに辿り着いた大きな目印。ルカの背中の鞭の痕を癒したあの植物。それは今もシンゴの担いできた麻袋の中にいくつか入っている。

「河を渡るのは初めてだったが、家を離れて調査に行くことは珍しくない。いつも通り家を出たつもりだったんだが、運悪く遭難した上に目的のものは見つからないし酷い熱中症になって、生きて近くの町の人間に拾われたのが奇跡なくらいだ」
「……それがどうしてあんたが一人になることと繋がる? 生きてたならまた河を渡って帰ればいい。せっかく生きてたのにまた調査しようなんて思うほど馬鹿じゃないだろ?」
「まあな。しかし長引いたんだ。こっちは年中雪の降る土地、向こうは年中灼熱の地獄だろ? 環境があまりにも違いすぎたせいで体が弱っていくつも病気を併発した。まともな食事ができるまで二年近く病人してた」
「……なるほどね」

 元いた国とあの砂漠では確かに環境がまるで違う。この男の場合はそれが顕著だったのだろう。ルカの国はまだ年中温暖だが、ここは真冬だ。体感温度の差はルカよりもずっと大きかったに違いない。肌に触れる空気や砂、あの熱さは、この土地に暮らす者にとってはまるで炎か何かのように感じられたのではないか。

「完治して、また河を渡って帰ったときには、……もう、妻も娘もいなかった」

 そこで初めて、妻だけが家族でなかったことをルカは知った。言葉にし難い、泣きそうな顔で笑いながら、男は続ける。

「……妻は誰かに殺されたって話を、村の連中に聞いた。娘は行方知れずで、妻と娘が消えたその日は、娘の、ルナの十一の誕生日だったとかで、」
「……攫われた?」
「その可能性が高いな。探そうにも誰も行方を知らない。この土地のことだから、攫われたにしてももう絶望的だろうって話だ」

 窓の外の吹雪の音、強い風が窓を揺らす。どこにもいない少女。誰かに連れ去られた十一歳の少女が、この吹雪の中を生き抜いていけるのか。母親を殺して娘を連れ去るような人間が、そうそういい待遇をさせてやっているわけがないようにも思える。
 無力な少女が、誰の庇護も受けられずにたった一人で。

「っ、………」

 ルカはテーブルの下で、相手の男に見えないようにぐっと強く拳を握った。
 大丈夫だ、あの子は違う。あの占い師が確かに言った、ちゃんと同じように時間を生きていると。彼女の時は、止まってはいないと。

「さて、俺の話はこんなもんだろ。俺はリョウ、そっちは?」
「俺はルカ。こっちはシンゴ」
「俺の話聞いたんだから、こっちも聞かせてもらうぜ。何てったって毎日毎日吹雪だし、他に話し相手もいないし退屈してるんだ」

 ぎ、と音をさせてリョウが椅子の背に体重をかけた。
 確かに退屈させないような話ではあると思うが、話す方としては億劫になる。

「ま、どうせ思い出話ですし、いいじゃないですかルカさん」
「後味最悪な思い出だけどな」
「はは、それは確かに」

 極悪の女王の話はともかく、砂漠に関しては本当にもう二度と縁の無いような思い出話だ。退屈しているというのなら、聞かせる分には支障ないだろう。
 ――家族を失ったなんて、妙な共通項もあることだし。

「別に面白い話なんてできないからな」
「そこらへんに積んである本より人間味ある話なら何だって面白い」
「……まあ植物よりは人間味あるだろうけど」

 暖炉から聞こえる、パチパチと薪が燃える音。
 首にかけた金時計を服の上からぐっと握って、ルカは少しずつ話し始めたのだった。



2008.05.04(Sun) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

/
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。