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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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想像できるけど


暇だったので落書きしてました。
ネズミーランドは想像できるが引く。もちろん引く。取りあえず引く。
ルミの絵書いてたらそこそこ似合う。絶対ルミは遊びなれてる。
でもって「あー慣れてますねえ、前はどちらの男性といらしたのやら」とか妙な嫉妬嫌味攻撃を受けてぎゃいぎゃいはしゃいでるといい。
しかし写真撮ってたら本気で引く。大和に絶望する。(笑)


今までに消化した自由帳が6冊もあるんですが……。
数冊前のが絵が可愛い方だなと思った。しかし見直すの痛い。
何描こうとしたのか一切わかんないのとかあるしね。脈絡ゼロ。
ファンタジーやろうとしてた頃のを見て、設定思い返してました。
王女様に好きな要素をたくさん詰め込んでました。灰色の髪に桃色の目とか色合い的には可愛い。
変な髪留めとかな。そういうの好きなんだ、セーラームーン世代だから!!

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2008.07.31(Thu) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |



「花鳥の連中がこっちに挨拶に来るだぁあああああ!?」
「昨日の放課後、向こうからそう連絡が来たらしいよ」
「俺はんな事聞いてねぇぞ……!! 侑、お前いつから知ってた!?」
「朝。玲子先生に呼び出されて。高木君も一緒にいたから知ってるはず」

 淡々と事実だけを述べる侑太郎に、誠司はわなわなと拳を震わせた。
 女嫌いの誠司にとって、ここまで淡白な侑太郎はかなり好感の持てる相手なのだが、だからこそ侑太郎とは仲良くやっていきたいと思うのに、肝心の侑太郎は誠司相手にも淡白な部分がある。そこが気に食わないのだ。会長と副会長なら親密で協力しあうものではないか。それでこそではないか。

「なんで煌一が聞いてて俺が除け者なんだ!!」
「だって、朝に誠司が一緒に聞いてたら、昼休みで帰るとか言い出すだろ。逃亡防止」

 それは否定できなかった。
 昼休みまでいたかもわからない。聞いた直後には早退していた可能性の方が高いような気がした。

「……煌一は」
「先方が来る前に誠司が逃げ出さないように、門番してる。廊下でね」
「………っだぁあああああぁ……、どうして俺がこんな目にぃ……!!」

 流石は実質生徒会長の侑太郎。抜かりがなさ過ぎる。
 頭を抱えて誠司は机に突っ伏したが、他に突破口があるとは思えない。大人しく従うより他ないらしい。
 誠司が観念したのを悟ったのか、ふう、と一息ついて侑太郎は誠司の頭をぽんぽんと軽く叩いた。

「こっちが向こうに行くんじゃいろいろ問題あるだろ? 俺たち男子だし、そもそもお前女嫌いだし。それ分かってて向こうから来てくれるって言うんだから大人しく会長しろよ」
「……大人しく会長したらお前は何のご褒美を俺にくれると言うのかぁ……」
「試験勉強くらい付き合ってやる」
「んなの褒美になるか馬鹿ー!!」

 しかし、これ以上駄々をこねると侑太郎が怒り出すのは目に見えている。ここは大人しく従っておくべきだ。……なんだかいいように操られているような気もするが、あまり深く考えないでおく。
 それでも当然気乗りはしない。男子校だから誠司はこの学園に入ったのであり、合併の話なんてひとことも聞いていない。同規模の男子校と女子校が合併するのだ、誠司が入学する頃に話が出ていたっておかしくはない。それに、担当教員ですらも「今日初めて聞いた」と言っていたのだ。何だ、その週末に喫茶店で長話してたらふとそんな案出たから実行しちゃえ、みたいなノリは。怒りをどこにぶつければいいのかわからずに、誠司は落ち着くことができず指先で机をとんとんと叩いていた。

「前園さん、羽村さん、花鳥の連中来たみたいですけどー?」

 どうやら廊下の窓から校門の様子を覗いていたらしい、一年の高木 煌一がドアを少し開けて声を掛けた。瞬間、誠司の体がびくりと強張る。
 煌一はその誠司の様子を見て笑みを深くすると、今度は扉を全開にして生徒会室に足を踏み入れる。明らかに人工的に染め上げられた、赤茶というよりもだいぶ赤に近い髪が揺れ、まだ一年生なのにかかとが潰された上履きがぺこぱこと床を蹴っていた。

「やっぱ挨拶代わりにバリケードは必須だと思う人ー、はーい!」
 
 悪戯っぽい笑顔が標準装備の煌一は、一人で楽しそうに生徒会室の備品である机を廊下に持ち出そうと、隅に置いてある机に手を掛けた。

「――高木君、選挙期間中部活できないように手足使い物にならなくしようか……?」

 そこを、ゆらりと立ち上がって煌一の後ろについた侑太郎が、シャツの襟首を掴んで動きを止める。
 
「羽村さんちょっと頑固すぎですってー。ちょっとした冗談だし☆」
「今その冗談言うのは誠司の精神上悪い」
「前園さんだって冗談とそうじゃないのくらい聞き分けられますって! まったく、共学化を機に可愛い彼女のひとりやふたり作っちまえばいーんですよ!」
「学校は学問の場であって出会いを求めるところじゃないだろ」
「けど、学校でしか出会えない人ってたくさんいるでしょう」

 それを言われるとさすがの侑太郎も言葉に詰まっているようだった。

「たまたま共学化して、たまたま出会った子が羽村さんの運命の人かもしれない!」
「そう簡単にうちの有能な副会長を渡せるか!! 煌一、バリケードだ!!」
「あいあいさー!」
「って、ちょ、話を戻すな馬鹿共!!!」

 侑太郎が誠司と煌一の襟首を再び掴み、抵抗して暴れると侑太郎も若干苦戦しているようだった。
 花鳥の女だ。その生徒会となれば、お堅い連中ばかりだろう。侑太郎はきっと普通の女子が好きであろうとは思うから、余計な心配などする必要はないのかもしれない。
 でもむしゃくしゃするのだ。自分が女嫌いなのが影響しているのは分かっている。侑太郎は有能な副会長で、誠司の親友で、めちゃめちゃ優しいのである。だからどんな女が相手であろうときっと優しく接するだろう。それがわかるから我慢ならない。一刻も早くバリケードを作らなくては。
 煌一とふたりがかりで暴れて、侑太郎の手が離れ、真っ先にドアに向かったその時、ちょうど生徒会室の扉ががらりと開かれた。



2008.07.31(Thu) | 絶対終わらない学園ネタ | cm(0) | tb(0) |

痛みを負う者




『無理だ』




 震える唇は音を伴わずにその言葉を紡いだ。
 ――本心だった。
 今の自分の手に負えるものではない。自分の力量くらい、ルカだってよくわかっていた。
 日が暮れて段々と暗くなっていく視界。周囲でヒサやシンゴがルカに声をかけていることは分かっていたが、どうしても今のルカには自分と目の前に横たわった盗賊の姿しか見えない。
 もう大分流れただろう血液が、色の薄い砂に染み込んで、インクをぶちまけたような模様を描く。傷口は砂に覆われてしまっている。どれだけ暗くなろうとも、ルカにはその傷口が鮮やかに見えるようだった。
 きっとこの場ではルカしか助けることのできる可能性を持つ者がいないのだろう。薬の類が用意してあったところで、深く抉られた傷を修復することは不可能だ。それは分かる。分かるけれど。

 心臓の音が段々大きくなるのが分かる。

「――無理して助けること、ないんじゃないですか」

 聞こえなかったはずのシンゴの声が、そこだけはっきり聞こえて、ルカはびくりと肩を震わせた。エイイチやイチにはとんでもない薄情者だと思われているかもしれないけれど、ルカは『砂漠にいるはずのない人間』であり、どこまでも普通で、他の誰かならともかく恨みさえある相手を助けることのできるほど大人ではない。それはシンゴだってきっと同じなのだ。だから、ルカにその道を示せるのはシンゴしかいなかった。
 放っておいたって死ぬような人間ではないと思う。それはここにいる皆同じような気がする。しかしそれは精神の話であって、人間である以上、ある程度の生命力を失えば必ず死に至る。
 ――シンゴは、無理することはないと言った。でも、ここで無理をしなかったら、一体どうなるのだろう。

「……ちょっと、離れてくれるか」

 肘まである服の袖を捲り上げて、静かにそう言う。ふたつ、みっつ、離れる音は聞こえるのに、シンゴはルカのすぐ近くにまだいるらしい。振り返ってみると、闇の中で不思議そうな瞳をしているのがわかった。

「あれだけ殺すって言ってたのに」
「見殺しにするのは捕虜になってる相手殺るのより卑怯だ」
「でも手を汚さなくていい」
「それは最低だろ」

 何かを得ようとするなら、痛みを負わなければならない。
 生きるために汚れなければならない。
 確かに腹の立つ相手だけれど、この人間の破滅を心から願っているのかと言えば、多分そうじゃないのだろうとルカは思う。一時の感情だ。一時の感情でなかったとしても、卑怯な真似で満足しようとは思わないし、第一満足なんてできないだろう。

「……下手すると暴発するかもしれない。そしたら俺だってどうなるかわかんないし、退いてろ」

 それ以上ルカは何も言わなかった。すると、ゆっくりと砂を踏む音が遠ざかった。シンゴも退いてくれたらしい。
 今までそう大きな失敗をしていないから余計に怖い。
 怖くて腕がかたかた震えているのがわかるのだ。単なる興味本位で始めたことのはず。それをこんなところで使うことになるなんて思ってもいなかった。
 何度深呼吸しても、それは荒い息になるばかりでちっとも落ち着かない。段々冷えていく砂漠の風が、時の経過を知らせる。あまり長い間こうしてはいられない。
 このまま放っておいてはいけない。相手が誰であっても、どんなに憎くても、ここに自分という存在がありながら見殺しにするのは、相手の生きる権利を奪ってしまうことになる。自分が直接手を下さなくても。ただ見ているだけでも。


『君は永遠に奪う人間にはならない』


 強い声。
 そうありたい。奪われたくないから、奪いたくない。
 痛みの分かる人間でありたい。
 痛みが分かるからこそ、痛みを与える人間にだけはなりたくない。
 今までいろいろなものを奪われてきた。それが偶然でも必然でも、ルカの世界には生きている自分以外のものは存在しないも同然の暗闇だった。
 そこに、シンゴとナオが灯りをくれたのだ。狭い世界にほんの小さな光。それで十分だ。
 自分もそうなれたらいいのに。誰かにささやかな何かを与えられる存在であったらいい。自分が自然にできることで、誰かに何かを与えてあげられたらいい。

 その強い思いはある。
 けれどそう簡単に、誰かに与えることとケレスを救ってやることは繋がらない。聖人になんてなれないのだ。相手が誰であれ無差別に救ってやろうと心から思うのは難しい。けれど願わないと。救いたいと思えなければ救えないのだから。

「っ、……か、……貸しだ、……貸しだからな、覚えとけよ!!」

 それでやっと繋がった。
 覚えたばかりの古代語を震えながら呟いていく。どうしても落ち着かない。集中できない。怖い。間違えているわけではないのに周囲を強い風が覆っていく。細かい砂が風に舞い上げられて、気が散りそうになる。ただでさえ落ち着かないのに。
 力の入らない左手で、服の下に提げている金時計をぎゅっと握った。
 彼女がよく口ずさんでいた旋律を頭の中で思い浮かべる。優しい音、流れるようなメロディー。自分が一番落ち着ける空間。
 命を奪われる恐怖に耐えられたんだから、誰かの命を背負う重みに耐えられないわけがない。それに、貸しなのだから貸せるように助けなくては。
 論理的ではなかったが、その思いで風は収まって辺りが静かになる。震えも収まって、これでやっと集中できる。相手の傷口を覆うように両手を翳して、もう一度、今度は強く言葉を紡ぐ。

「――っ、あんたなら、人の十倍早く治りそう、だよな……!」

 そのイメージでいくことにした。
 センタリアには、傷口に包帯を巻いてやるイメージでと言われていたが、こんな大きな体に包帯を巻くのはきっと大変だろう。こうして術をかけて手伝うことで、きっとこの男の体は勝手に治る。砂に流れ出した分を補い、ケレス自身の自然治癒力を少し強く引き出せれば、簡単だ。
 少しでもマイナスな思考を持てばどうなるかわからない。また震えが止まらなくなるかもしれない。けれど、今度はそんな考えは浮かばなかった。光がケレスの傷口を覆うのを慎重に眺めながら思う。
 
 多分、この男は。
 俺と違って、奪われちゃいけない人間なんだろう。

 だからって誰かの何かを奪うことが許されるわけではない。
 それでも、この男は何があっても自分の何かを奪われることも、失うこともないだろう。ケレスが命を失う時は、ケレス自身がそれを認めた時だけのような気がしていた。
 それに、孤高のように見えて、周囲にこれだけ人間がいるのだ。本質的に孤とは縁がないのかもしれない。それも「俺と違って」だ、とルカは思った。
 次に傷に目をやると、粗方塞がっているように見えた。前にセンタリアが自身の腕を傷つけて実践練習した時よりは当然長い時間がかかっていたが、その時よりずっと短く感じられる。
 もう少し念入りに術をかけ、今度こそ綺麗に傷口が塞がったことを確認して術を止めた。光が消えて、辺りが再び闇に包まれる。これで塞がったのが表面だけだったらどうしよう、と初めてマイナス思考が出た。その時はその時だろう。やれることはやったのだ。
 今の自分にできたことを精一杯できた。ちゃんと、明日の朝でも二日後の朝にでも、立って歩いてくれるだろうか。自分がしたことで、何か得てくれているだろうか。自分は何かを与えることができただろうか。


 そこで初めて、死んで欲しくない、と強く思った。


 貸しなんだから絶対死ぬなよ、そんなひとことでもかけてやろうと思ったのに、全身の力が膝から一気に抜けて、次の瞬間には冷えた砂に頬を擦り付けていた。




2008.07.31(Thu) | rebellion | cm(0) | tb(0) |




 しとしとと控えめに雨の降る、夜だった。
 今日の授業は午前中に入っているだけだったので、午後の仕事はほどほどにして理央は学校を出た。紺色の大きなジャンプ傘を手に、駅に向かう。
 電車に揺られて二時間ほど。目的の駅で降りて、地図を頼りに歩くこと二十分。閑静な住宅街と団地を隔てる通り、その隅に交番があった。
 場所をもう一度地図と照らし合わせて確かめて、意を決して理央は交番に近づく。行かなければ。どうしても、会わなければ。 
 傘を閉じて中を窺うと、制服姿の男が俯いていた。座っているから身長はわからないが、それなりに肩幅のある相手だろう。

「……すいません、ここに桜井拓海という人は、」

 理央が声をかけると、男はびくりと肩を震わせた。それからゆっくり顔を上げる。……居眠りか。警察が居眠りできるのだからこの町はおそらく平和なのだろう。理央が呆れたのもその一瞬で、男は顔を上げてその瞳に理央の姿を捉えると、

「………さ、お……?」

 そう、呟いた。
 意図して呟いたというよりは、寝惚けて無意識に出てしまった言葉のようで、すぐに我に帰ると、ぐしゃぐしゃと頭を掻いて誤魔化していた。

「あ、えーっと、すいません! なんかすげーダメなとこ見せちゃったみたいで。あ、どうしました? 落し物? 道案内?」

 理央よりも年はずっと上だろう。顔つきから言っても、声から言っても。少なくとも五つくらい、流石に十も離れてはいないだろうから、目的の相手だったとしてもおかしくない。
 大らかそうで、優しそうで、緩んだネクタイが少しだらしなさそうで。紗央が手を焼いてしまいそうなタイプだな、と思った。
 どうぞ、と男の目の前の席を勧められ、遠慮なく座ることにする。

「人探しなんですけど」
「人? どなたを?」
「この交番にいるはずなんです。――桜井拓海という人を探してます」

 男の目が見開かれた。

「……俺ですけど、何か」

 ああ、やっぱり。この男が。
 
「……さっき、僕を見て“紗央”と言ったのは」
「いえ、……知り合いによく似てるなあ、と思って。まあそいつ女なんですけど、……本当、よく似てて」

 紗央がいつまでも離れられない男。
 新しく一歩を踏み出そうといつも頑張って、それでもいつもこの男の影に引っ張られている。何年かかっても、どうしても忘れられない相手なのだ。
 そしておそらくはこの男も、紗央を捨てた罪悪感に今も苛まれているのか。見たところ左手に指輪をしている様子は無い。だからと言って結婚しているかどうかなんていうのはわからないのだが。
 
「……鈴城 紗央ですか。長い黒髪に、青い瞳の」
「っ」

 拓海が息を呑むのが、理央にも目に見えて分かった。
 それからぐっと目を閉じて、その瞼の裏に思い出の女の姿を思い描いているのか、ふう、と大きく息をした。

「……長い黒髪に、青い瞳、目つきは、そうだな、あんたによく似てた。人形みたいに、ぞっとするくらい綺麗な女だ」
「……なら、話は通じそうですね」

 他人が話せばそれくらい誇張したような容姿なのだろう。身内の理央としては分かりかねたが、一般的に紗央が美人と形容されるのは知っている。だから安心して話を始めることができそうだった。
 とは言っても、事態を飲み込んでいるのは理央だけで、当然拓海は突然の来訪者に困惑の色を隠せない。突然現れた、思い出の女によく似た男。しかもその男がその女の名前を口にしたとなれば、戸惑いの程度も知れるというものだった。

「……僕の名前は、鈴城 理央といいます。貴方の知る鈴城 紗央の、父方の従弟です」
「いとこ、……なるほど、通りでな。……ああ、」

 ふと考え込む仕草をしてから、拓海は真っ直ぐ理央を見据えた。

「紗央にあの指輪をやったのは、あんたか」
「……やっぱりまだ持ってるんですね。六歳だか七歳の頃ですよ、あれ渡したの。貴方が知っている紗央が持っていたのなら、今もあいつは持ってる。馬鹿みたいに一途で真面目ですから」
「大事な人に貰ったっていうから、……俺はあんたが紗央を支えてくれるもんだと思ってた」

 そういう、理屈なのだろう。分からなくはない。
 幼い頃の約束。理央はしばらくの間忘れていた約束だったが、紗央は今でもそれを覚えているだろう。理央だって、今はどんな約束をしたか思い出せる。けれど、その約束を履行するには、もう時間が経ちすぎていた。

「……時効です。今僕が約束を果たしても、紗央には他に思うところがあるから、僕なんて用無しですよ」
「そんなことないだろ。あんなに大事にしてんだから」
「もうずっと持ち続けてるんです、捨てるに捨てられないんでしょう。……紗央は、僕なんかより貴方を待っているから」
「は?」

 きょとんとした顔で、拓海はいやいやと手を振った。
 その、どこかからかうような笑い方が、誰かに似ているような気がする。

「俺はあいつを怒らせたよ。何にも言わないで勝手に出てきた。怒りこそすれ、待ってるわけがない」
「紗央は今、貴方と同じ制服を着ています」

 今度は、拓海の表情が強張った。

「……単に貴方が憎いだけなら、ここまでするわけがない。紗央が料理好きだったのは知っているでしょう。他にいくらでもやりたいことがあっただろうに、それでも貴方を追った。貴方を探して、居場所も電話番号も突き止めて、でも一度も連絡を取ることができなかった。……紗央は、臆病だから」

 電話の向こうの拓海が、自分のことを忘れていたら。
 電話の向こうから、知らない女の声がしたら。もしかしたら、小さな子供の声かもしれない。
 自分を拒絶するように、桜井拓海が新しいものを作っていたら。そう想像しただけで、紗央は耐えられなかったに違いない。何度も番号を押して、電源を切って。声を聞きたい気持ちと、絶望したくないという感情を秤にかけて、結局紗央は一度も拓海と連絡を取ることができなかったのだ。臆病だったから。だから何の見返りもない喫茶店の手伝いをして、本当に自分がやりたかったことを補っている。もちろん、仕事が本当に嫌いなわけではないのだろう。理央から見て、性格的にも紗央に警察の仕事は向いている気がしていた。

「っ、……危ねぇ真似しやがって……!」

 拓海からしてみればその感想も当然のものなのだ。
 こんな職業とは一生縁がないだろうと思っていたお嬢様。お菓子作りが好きで、人形のようで、そんなお嬢様が自分を追って警官への道を歩むなんて、拓海は望みもしなかったろうし、想像さえしなかっただろう。

「紗央の支えだった従妹……、僕の妹が、六月に結婚するんです。……紗央は、僕達より三ヶ月だけ年上だから、お姉さんだから、だからしっかりしてないと、って今までやってきた面もあるんです。ちゃんと守らないと、って。けれどそれもなくなる。妹を守ってくれる人間はちゃんと他にいるから。支えがなくなった紗央を、僕じゃ支えてやれません。支えてやりたい、って、今はそう思う。どうして今まで紗央を一人きりにしていたのか、昔の自分を叱責してやりたい。けど、今そう思ったってどうしようもない」
「俺だって支えてやれるわけないだろう。時間が経ちすぎてる」

 分かっていない。
 自分だって今まで紗央との思い出に支えられて生きてきたくせに、自分と同じ感情を相手に適用してみようとは思わないのか。

「今、紗央がしっかり生きていられるのは貴方との思い出があるからです。貴方と同じ制服を着て、使命感にも支えられている。……それもいつまで持つかわからない。紗央は、一旦後ろ向きに考え出すとなかなか抜け出せなくなる」
「他に男でも作ったらいい。……あれだけの美人、近づきがたくはあるが放っておく男ばかりじゃないだろう」

 ここまでくると理央もいい加減頭に来て、強く机を叩いて立ち上がった。

「無意識に名前呼ぶくらい気になってるくせに、関係ないっていうんですか、もう時効だって!? あんたとの記憶があるから紗央は一歩もそこから動けないのに!? あんたが黙ってどっかに消えたせいで、あんたのことずっと好きでいた紗央は警察にまで追っかけにいって、結局あんたと連絡を取ることが怖くて、それでも動けない紗央を放っておくのかあんたは!! 紗央は全然強くない、夜中泣きじゃくって電話してくる時もある、けど、もう俺にはあんたを頼る以外に何もできないんだ……!!」

 寂しい、と泣いて電話を寄越す紗央に、何と声を掛ければよかったというのか。
 今行くと? 迎えに行くと? その言葉に苦しめられた紗央に、またそんな言葉を吐くことは、できない。
 ただ泣きじゃくる紗央の声を、電話越しに聞いていることしかできなかった。そんな自分を無力だと思う。だからせめて、一目でも会わせてやりたいと思うのだ。

「もう、紗央にはあんたしかいないんだよ……! 警察に入ったのも、ボランティアでパティシエやってんのも、全部あんたのためだ、あんたにまた会いたくて、会って驚かせたいって思ってるからだ、俺の入る余地なんてない。……もしまだ紗央を少しでも気にかけてるなら、会ってやって欲しい。六月の第二週の日曜、午後三時頃月見ヶ丘町の教会に、いる」

 理央にただひとつできる贖罪は、紗央の中のこの男との記憶を思い出だけで終わらせてやらないことだ。
 奈央に対して願うのと同じくらい、紗央にだって幸せになって欲しいと思うから。

「――月見ヶ丘……」
「ええ。――ちゃんと俺、言いましたからね。それじゃあ失礼します」
 
 荷物を手に、交番から一歩踏み出すと、待て、と声が掛かった。
 振り向くと、苦しそうな表情の拓海が額に手を当てて低い声を出す。

「……紗央は、恨んでるか。俺を」
「……さあ。本人に聞いてください」
「手厳しいな」

 そこまで教えてやるほどやさしくはない。自分の目で確かめればいい。紗央のことだから怒るに決まっていることは解っているのだろう。
 今度こそ交番を出る。やることはやった。あの男なら、絶対来る。
 許して欲しい。こんなことしかできないけれど、幸せになって欲しい。理央は十分すぎるほど、妹と従姉から幸せを貰った。

 雨の夜が更けていく。



2008.07.30(Wed) | 初恋シュプール | cm(0) | tb(0) |

眠くて

うつらうつらしてます。そろそろ寝るんだと思います。
部長が紗央さんルート上げてくれてるので、デートコース云々ってのを考えてみた。

空と奈央は断然自宅が多いと思います。
空が来て理央も一緒に夕飯、って流れが一番多いだろうけど、最近は奈央が空の部屋行って、ってのもある気がする。週に一度くらい。
どっちも忙しい仕事だからあんまり出かけてるイメージが湧かない。普段忙しいから家でゆっくり、ってパターンだなこれは。空が奈央を家まで送ってあげるとかそれくらいなんじゃ。
みんなでお出かけするって時はそりゃあ出かけるけど、積極的には出なさそう。ヒッキーか。
けどそれでいいんだろうなー。

紗央は基本的に外出も好きなので、どこでも行きそうです。
近場じゃないところに服とか買いに行く時は絶対理央連れてくとか、理央プラス空奈央連れてくとかしてると思います。声かけてくる男とか面倒だからってわざわざ腕組んで歩いてそうです。
お化け屋敷じゃ動じないだろうけど、絶叫弱かったら面白いな。乗ったことないとか。
何が一番好きなんだろう。雑貨屋めぐりとか、東急ハンズみたいなとこ見たりとか、スイーツ巡りのおでかけとか好きそう。でもっていろいろメモってそう。
ハンズとかで新しい型とか見てたり。今いろんな型あるからなあ。見るのは好きなんだけど結局買わなそう。「ハート型とかあたしには需要ないのよねー」とか言いそうだし。

一番いろいろ似合うのが大和とルミ。
部屋の中で怠惰にぼけーっとしてんのも、ネズミーランドで二人で耳つけて騒いでんのも想像できる。二人っきりなら。流風とか交えて行ったら絶対やらないだろうけどな!
さすが若者は強いな……!


取り合えずもう寝ようかな……。疲れたよパトラッシュ……。

2008.07.29(Tue) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

恋に落ちる音



 突然の雨。
 買い物を終えて外へ出た時にはもう雨がざーざー降っていて、さすがに傘なしで帰れる気はしない。ちょっと買い込みすぎてしまったせいもあって、ビニールの袋を持つ手も痛くなってくる。これは、少し困った。
 小降りにならないかとスーパーの軒下から空を見上げる。家を出てくる時は真っ青だったはずの空は、今では厚い灰色の雲に覆われている。分かってたら傘、持ってきたのにな。予報にはちゃんと出ていたのだろうか。天気を気にせず家を出てしまったことを今更後悔。肩を落として小さくため息をつくと、あたしの頭上に影ができる。

「入ってく?」

 顔を上げると、子供みたいな満面の笑み。大好きな暖かさ。
 ネクタイを締めて、割ときっちりした格好の空君があたしの目の前に立っていた。




「めっずらしーよな、奈央が傘無くて立ち往生なんて! いっつも自分で持ってるか理央が持ってくるかどっちかだったし」
「うん、今日はたまたま。理央も出かけてるし」
「初めてかもな、俺が入れる方になるなんて」

 空君はそう言って笑った。確かに、中学の頃も高校の頃も、空君はいつも傘を忘れてた。だからいつもあたしが入れてあげてた。うちの方が学校から近かったから、あたしの家に着いたらそのまま傘を貸して、翌日返してくれる時には甘い大粒のキャンディーを渡してくれてた。母さんに言われたから、なんて言ってたけど、今思うと空君のアピールだったのかもしれない。
 空君の傘は折り畳み傘だったけれど、結構大きい。空君は自分の鞄もあるのにあたしの荷物を持ってくれて、俺の方が背高いから、って傘も持ってくれている。こうして並ぶと、やっぱり空君高校の頃よりずっと背伸びたんだな、と思う。理央なんかは大学入ってからそんなに伸びなくなった、って言ってたけど、あたし、空君見るときこんなに首傾けたかな? いつも同じ、横並びだった気がしていた。

「空君は? どこ行ってたの?」
「ん? 水泳部の大会。暑苦しいだろー? 公式の大会だったからさ、ちゃんとしてかなきゃいけなかったんだよな」
「顧問の先生も大変だね。ご苦労様。戦績は?」

 大会だというから、当然それは気になる。
 空君はまた笑いながら、ぐっと親指を立てた。

「結構いいんだ! 表彰台が四人、かな。強豪校いくつも出てたから、それにしちゃ上出来って感じ。頑張ったなー、って皆にジュース奢ったら金飛んでった!」

 けど、嬉しい出費なんだろう。水泳部ってそんなに少人数じゃなかった気がするから、それなりにお金使ったんだろう。でも懐は痛んでないみたいだ。
 それから空君は、水泳部の子がどれだけ頑張ってたのかを本当に楽しそうにあたしに話して聞かせてくれた。途中でハプニングがあったけど巻き返した、とか、いつも練習してる子がちゃんと一番取れた、とか、たくさんのこと。空君が楽しそうに話してくれることは、あたしだって楽しい。でも、……でも、あたしは空君の話が聞きたい。今更そう思ってしまうのはわがままなんだろう。
 傘を持ってくれる空君の右腕に、あたしの左肩が触れる度にそう思う。空君がそうやって楽しそうに話してくれる、その思い出にあたしはいないでしょう?

「――あ、もうちょっとだな」

 しばらく歩いて、この横断歩道を渡ればあたしの住むマンション。
 赤信号で立ち止まって、車が左右に通り過ぎていくのを見つめる。

「……今日、お夕飯食べていかない?」

 いつも言うその言葉が何故か今日はいやに緊張してしまった。
 会えると思ってなかったから。あんな所で、傘を差し出してくれるなんて思ってなかったから。だから少し、偶然に感謝して。
 空君が部活の生徒さんの話をたくさんするから。楽しそうに話すから。ほんの少し、嫉妬して。
 せっかく会えたから、今日の思い出を水泳部のみんなとだけで閉じないで、あたしもそこに入れて欲しい。多分あたしはそう思ってる。今までにない感情にものすごく、戸惑っているけれど。

「あ、……ごめん。すっげー行きたいんだけどさ、俺これから学校行かなきゃいけないんだ。今日の報告と、明日から始まる夏期講習の講座の用意しないと」
「あ、う、ううん! あたしこそごめん、忙しいのに!」

 そうだ。
 あたしが今まで、空君といるよりクリニックで子供達の相手をしていたみたいに、空君だって区切らなきゃいけない場面はいくつもあるだろう。なんてわがままなんだろう、あたしは。空君は一度もあたしに無理強いしたことなんてないのに。
 信号が青く変わる。白黒の道をゆっくり歩いて渡って、マンションの屋根に入ると、空君はあたしから離れた。それが少し寂しい。

「……俺、急ぐ気とか全然ないんだ。奈央が俺のこと好きー、ってのすごい分かるから」

 その言葉に、体中の温度が上がった気がした。空君には、全部ばれてる。
 自惚れてる? と空君が頬を掻きながら聞いてきたから、あたしは小さく首を振った。

「だからさ、……奈央が、急がせてよ。生温いままじゃ嫌だ、って、俺を焦らせて」

 その台詞は真剣に響く声で言ってくれたのに、空君は照れてしまったみたいで、「なんてな!!」と大声で仕切り直すように言う。
 そんな言葉、あたしだって恥ずかしい。ちょっと前のあたしは、こんなこと言われても平気だっただろうか。もう思い出せない。
 じゃあ、とあたしに荷物を返して、顔を隠すように背中を向けて学校に向かう空君に、できるだけ大きな声を掛けた。

「空君っ」

 ほんの数歩歩いただけの空君はそこで立ち止まって、傘を差したままゆっくり振り返った。

「こ、今度、お出かけしよう? ふたりで! 海とか、プールとか、一緒にあたしも泳ぎたい! ちゃ、ちゃんと、……可愛い水着、選ぶからっ」

 二人だけの思い出が欲しい。
 ちゃんと伝わっただろうか。緊張しすぎて空君の顔をまともに見れない。

「超期待してる!!」

 空君の声。返事をしようと思ったのに、それより先に空君は走って学校へ向かってしまった。けど、それでもいい。期待された。応えないと。
 空君が返してくれたビニールの荷物。ビニールの持ち手の部分がすごく強く握られていたのが分かる。同じようにあたしも強く握って、部屋へと戻った。




2008.07.28(Mon) | 触発されました | cm(0) | tb(0) |

やっと書き出した


秋臼さんが神がかったもの書いてくれたので、続きっぽいのを書いてます。
が、私もともとどう考えても情景描写より心情描写が好きすぎるので困る。心情描写楽しいんだけど、キャラが混乱してると何かいたらいいかわからなくなります。
ケレス先生死亡ルートの流風の話は流風と一緒に私も動揺した。テンパったので意味の分からないことになった。


今回も似た感じで、ルカがめちゃめちゃ動揺してるみたいなので書きづらい。
いろんなこと考えてるけど結局まとまらない。会議が必要だな、脳内会議が。
これ越えたらルカは絶対成長するけど、この後のシンゴが不憫だなと思った。しかしサブはサブということで切り捨てておこう。(笑)
やっぱりシンゴは普通なんだよな、うん。


あああ、仕方ない。眠いので寝ます。

2008.07.26(Sat) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

そうだ、京都にいきたいなあ(何)


北海道に行ったら、今日テレビで見た網走監獄キューピーが欲しい。あんなんあったのか!
ていうかほぼぬりかべ状態(笑)


やりたいなあと思ってたことひとつ思い出しました。絶対やらないけど!
修二と彰パロ。(笑)
有線でかかって思い出した。あれやってみたい!
「あの日交わした 例の約束守れないけど」って、例の約束って何!?
とか、いろいろ考えます。けどちょうどいいキャストが見当たらない……。
流風と大和かなあ。微妙だ。どっちがどっちだ。
空理央ではない。しかし空とアンドゥーではあるかもしれない。(笑)
でもって紗央あたりにウザがられればいいんだ。


7月の課題をどうしようかなあと現実逃避しながら考え中であります。
リベリオンにしてもルカ使っちゃいけないってんだと微妙だし。ならいっそツキ高で、と思い始めてる。
一回貴久先生と大和の絡みみたいの見たいなあと思ってたので、それにしようかなあ。
格式高いおうちの人達だし。
ツキ高の流風は、2年までならまだしも3年になってからは全然貴久先生と接点なさそう。
「俺受験に古文とか100%関係ないから」とか言いそうです。だから日本の受験勉強レベルでなら普通にできる。


さて、仕方ないのでヨーロッパしますよー

2008.07.23(Wed) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

眠いすなあ


てな感じでずっとほのぼのっていうか馬鹿らしい学園モノ書いてる反動で、ものっそいえぐいっていうか痛いの書きたい感じになった。定期的に、しかも比較的早い周期でやってくるこの衝動どうしてくれようか。
どっかのブログだか掲示板だかで、牛乳ビン咥えさせてそいつをぶん殴って口の中が酷いことになったとかいう事件が実際にどっかであったらしいというのを見て不覚にもときめいた人でなしの私。
すいません、それうちの大和がやってたら株が上がる自信がある。
ツキ高でなんかどうしようもないの書きたいんだろうな。うん。


リベリオンはまあ、ぼちぼちですか。
このまま進めるのもなあ、うーん。って何が支障になってんだか知らないが躊躇しているらしい。
過去話をぽつぽつ書いていくと、ルカが思ったよりずっと打たれ弱くて、そのくせ芯だけはある厄介な奴だということがわかってきたからかもしれない。
ほら、行き当たりばったりだとこういうことになるんだよ。
ルカとシンゴはもっとすれ違ってていいと思う。それでどうしようもないところまで行けば少しは終わりに近づきそうなもんなのに。
あとは、ルカってじゃあどういう時に術使うんだろうなあ、とか。そんなとりとめもないことをバイト中考えてます。風の盾ってビジュアル的にすごくツボるんだが。ついでに例の治癒の術云々の話とか。


うーん、じゃあそろそろ寝るかなあ。

2008.07.20(Sun) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

続いた。



 格式高い女子高、花鳥学園。
 年季の入った旧校舎の廊下を、二人の女生徒が歩いていく。彼女たちの向かう生徒会室は旧校舎にあるのだ。
 一人は背が高く、少し茶色く長い髪をポニーテールにしている。名は佐伯 琴葉。この花鳥学園の名誉ある生徒会長だ。
 その隣をしずしずと歩く少女は、肩より少し短く、真っ黒な髪を一直線に切り揃えている。背は琴葉よりも5センチほど低い。名を祈山 小夜子という。琴葉の補佐役、つまりは副会長の座についている。

「なぁんていうかさぁ、何も無いのに生徒会室行くってのも面白くないよねー」

 紺色のセーラーを揺らしながら、ため息交じりに琴葉が小夜子に声を掛ける。

「何かあった時のための生徒会だよ、琴葉ちゃん。まあ、確かに粗方先週までで片付いてるし、生徒会室でゆっくりお茶でもしよっか」

 穏やかに小夜子が返すと、おおっ、と琴葉が目を輝かせた。

「小夜ちゃんのクラス、今日調理実習だったんだよね!?」
「うん。琴葉ちゃんのためにちゃんと多めに作ったから」
「やっりぃ! 流石小夜ちゃん、いいお嫁さんになる! ……して、本日のメニューは?」
「手作りのスコーンとジャム! 生徒会室に紅茶の葉っぱも何種類かあったはずだから、淹れるね」

 それを聞いて琴葉の足は自然と速くなった。
 琴葉ちゃん、そんなに急がなくてもー! とその後を小走りで着いて行く。
 そしてその後方から、轟音と悲鳴っぽい高い声。

「……小夜ちゃん、何か変な音するよね」
「う、うん、あとなんか女の子の叫び声みたいなの」

 二人が恐る恐る振り向くと、一人の大柄な男性が猛然とこちらに向かって走ってくるところだった。ぎょっとして二人は一斉に廊下の端に寄る。男は何か引きずりながら二人の前を通り過ぎていく。

「琴せんぱぁあああああああいぃいいいい……!!」

 引きずられている何かが琴葉の名を呼び、数メートル引きずったまま走ったかと思うと、男はぴたりと歩を止めた。
 そしてくるりと振り向き、琴葉と小夜子の姿を確認すると、

「たぁあああいへんなんだよ!!! どうしよう!!!」

 と叫んだ。

「……いや、わかったからさ。取りあえず、ゆーり放してやりなよ。可哀想」

 男に襟首を掴まれたまま引きずられていた小柄な少女、――前園 由梨は瞳を潤ませて、琴葉の言葉に何度も頷いた。




「でー、何だってのメダカー!」

 小夜子が淹れた紅茶と、小夜子が持参したスコーンとジャムを口にしながら、琴葉は文句を垂れた。琴葉の目の前の席で、メダカと呼ばれた男は苦い顔をする。

「だからさぁ、メダカって呼ぶのいい加減やめてくれよなぁ」
「仕方ないじゃん。いやあ、可愛かったなあ去年の春のメダカー」
「メダカじゃなくて日高先生って呼べー!!」

 その話は小夜子も知るところで、メダカ――もとい、日高 元気の隣でくすくす笑っている。小夜子だけでなくこの名の由来については琴葉たちよりひとつ下の学年の由梨も知っているらしく、琴葉の隣で笑顔を隠さない。
 今年で勤務二年目になる元気は、去年新任の教師として赴任してきた際、新人ながら一年の担任を任された。それが去年の琴葉と小夜子のクラスで、自己紹介の際に緊張のあまり『日高』を『目高』と間違えて黒板に書いてしまったのだ。そこから瞬く間に噂が広まり、この有様となる。

「えっと、ですからメダカ先生。用件は?」

 大人しいくせにちゃっかり先生をあだ名で呼ぶ小夜子に琴葉は満足そうである。小夜子までそうでは言っても無駄だと判断したのか、元気はため息をつくと、重い口を開いた。

「半年後にこの学園は風月学園と合併するんだそうだ。で、今から三ヵ月後に生徒会選挙」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょい待ち! そんなのあっさり言われても困るって! 何!?」 

 ティーカップに口をつけていた琴葉はものすごく驚いたらしく、かたん! と音を立ててカップを机に置くと、身を乗り出して元気に詰め寄る。琴葉ほど行動には出ないが、小夜子と由梨もそれなりに驚いているようだった。

「だ、だから! 三ヵ月後に生徒会選挙なんだって! 新生徒会はこっちの生徒会と向こうの生徒会合わせた六人で形成して、取りあえず、佐伯と向こうの会長と、どっちが会長になるかで選挙やるんだって話で!」
「そんなこと言ったって、こっちと向こうじゃ仲悪すぎて合併するとかしないとかそれ以前の問題でしょー!?」

 ついに琴葉は腕を伸ばして元気のネクタイを掴むとがくがく揺すぶった。
 やめてくれよぉぉ、と元気の情けない声が響く。

「仲、悪いから会長だけ選挙なんですよ、琴先輩っ」

 琴葉の隣に座っていた由梨が、琴葉のスカートをくいくいと引っ張りながら小さく主張する。あ、と琴葉も気付いて元気のネクタイを離し、再び椅子に腰を落ち着けると腕を組んで唸った。

「どっちが主導権握るかー、ってことか。数としてはこっちも向こうも同じくらいだろうし、三ヶ月選挙活動すれば向こうの生徒でもこっちに靡くかもしれないってこと?」
「ちなみに、欠席しなきゃこっちと向こうの生徒数は同数だそうで……。けど、合併するってんなら女子票だけってのは嫌だよなあ」

 引っ張られたネクタイを直しながら言う元気に、琴葉も頷いた。
 元々サプライズ好きな理事長だとは思っていたが、ここまでするとは思っていなかった。けれど合併の話が嘘だとも思えない。
 実際に合併する以上は、自分か向こうの会長か、どちらかがそれなりの支持を得なければ。琴葉は完璧主義者からはほど遠いが、元々共学志望であっただけ、共学化へ寄せる思いもそれなりに強い。

「で? 選挙選挙っても、いきなり活動できるわけじゃないでしょ? 向こうに行ける機会とかあんの? もしくは向こうさんがこっちに来てくれるとか」
「風月の生徒会がこっちに来るなんてぜぇったいないですっ!」

 元気相手に問いかけた琴葉だったが、そこに由梨が割って入った。
 
「あ、ああ。前園の言う通りでさ。向こうさんの会長がとんでもない女嫌いとかで、こっちには来ないだろうって。だから明日明後日にでも出向いてくれるか、佐伯」
「いくら風月の会長だからって女嫌いで選挙通りますかってーのよ。これだからボンボンは!」

 腕を組んだまま、はあっと仕切りなおすように息をつくと、琴葉は元気に向けてびしっと右手の親指を立てて気合いを示した。

「ま、共学化賛成だし。やったるわい!」
「さっすが琴葉ちゃん! 男らしい!」
「やっぱりゆーりの琴先輩素敵です!!」
「ってことでメダカ! 明日向こうに殴りこみ行くからその辺の許可とかよろしくv 今日はここでゆっくり小夜ちゃんの手作りスコーンを食べるのだー」

 生徒に軽くパシリとして使われながら、労いの言葉ひとつもかけてもらえない元気はその後廊下で密かに悪態をついたという。



2008.07.19(Sat) | 絶対終わらない学園ネタ | cm(0) | tb(0) |

(下)



「それで?」

 ヒサさんが先を促した。けど、これ以上喋っても本当に面白いことなどない。
 俺とシンゴの少し歪んだ関係。俺は何ともないと思いたい関係。
 ずるずると話し続けては、何だかボロがいくつも出てきそうで嫌だった。

「それだけ。俺はシンゴの妹を無事にシンゴの元へ帰せましたとさ、って感じ。前から俺とは仲良くしてくれてた奴だけど、今みたいにホント犬っぽくくっついてくるようになったのはその時くらいからかな」

 前から俺のことはルカさんルカさんってくっ付いてきてた。でも、そこからもっと勢いが増した気がする。シンゴが友達でいてくれるのなら、それが例え表面的なものであったとしても、シンゴが本当はどんなことを考えていようと、俺は気にしなかった。だから、シンゴが何をどう考えていたのかは今でも俺には分からない。ただ仲良くしてくれるなら、それでよかったんだ。

「さーて、俺はつまんねぇ話粗方し終わったし? 約束だろ、今度はそっちの番!」

 普段はヒサさん相手にこんなことはしないが、寝台に腰掛けるヒサさんの隣に無理矢理座って話を振った。ヒサさんはやはり苦い顔をしたが、当然俺が忘れてるわけがない。貧乏人は交換条件に目ざとい耳ざといんだよ。

「俺の話の数百倍面白いと見た。冒険活劇っての? 何でもいいけどさ、自分の世界では見れないものってすげー興味あるんだよなぁ」

 俺の背の高さでは見えないもの。
 それを、この人達はたくさん見ているんだろう。それを俺も経験したいと思うことまではさすがにないが、話として聞く分には本を読むより楽しいものに違いない。
 今まで術を教わったりなんだりで、俺が自分の知識の及ばないものについて興味を示すことは知っているはずだ。言っとくけど俺、聞きだせるまでしつこいからな。

「……仕方ないですね」

 しばらくして、観念したのかヒサさんは軽くため息をつくと、自分が開いていた本をぱたりと閉じた。

「――面白がるような話だとは思いませんがね」
「少なくともそれ、俺には適用されないから」

 それもヒサさんには分かっているのだろう、短く苦笑する。
 どんな込み入った事情があるんだか。大層期待しながら俺はヒサさんの言葉を待った。




2008.07.19(Sat) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

ある日の出来事



「………え、っと……?」

 グラスに冷たい水を注がれ、差し出される。しかしルカはそれを口にするべきなのか、どうすればいいのか、まったく見当がつかなかった。
 もともと自分は市場で買い物をしていたはずだ。エイイチの店に用事があるというケレスに、買出し要員として連れ出され、イチと一緒に市場を回っていたはずだった。ところが人ごみでイチとはぐれ、仕方なく一人でエイイチの店まで戻ろうとしたところでこの人物と出会った。そして彼の住まいまで案内され、この状況。

「狭いだろ? けど壁近い方が落ち着くんだよなあ」
「……意外と地味なこと言うんだな」
「派手なこと言うような顔じゃないから」
「顔の問題じゃない気が……」

 どうも少し論点がずれている。
 あのケレスに対して啖呵を切った(というのだろうか?)とは思えない質素さだ。
 人物だけでなく部屋そのものもこの上なく質素だ。執政官の地位にあるというのだから、もっと派手な生活をしているのかと思っていたし、第一城に住まうのが普通なのではないかと考えていた。だから彼がこんな生活をしているということを知るのは、かなり目新しい発見だった。

「……いいのか? 俺、一応あの盗賊の仲間ってことになると思うんだけど」
「? 何かまずいことでも?」

 不味いだろう。
 と即心中で突っ込んでみたが、相手に気にした様子は全く見受けられない。
 まずいことだらけだ。本来なら、脱獄の手助けをした自分たちも捕らえられて然るべきなのだろうし、それにケレスはかなりあの時のことを根に持っているのだ。体も本調子の今出くわしたら、姿を認識した瞬間に切りかかってもおかしくない。ここがどんな場所かなんていうのは、ケレスにとっては二の次三の次だろうし。

「いいよ、別に俺と会ったってこととか、ここの場所とか、金髪の彼に話しても。あれはあの時だから互角っぽくて盛り上がっただけで、今じゃ俺は相手にもならないだろうけど」

 それはそうかもしれない。
 ケレスが手負いの状態で互角、それならばケレスが万全なら。
 
「ミンチだな、あんた」
「まあ、ただでは殺されてやれないんだけどさ。俺は人を超えた強さなんて要らないんだ。この剣をこの腕で振るって、この体ひとつでできることを精一杯やれればそれでいい」
「騎士様執政官様のくせに、言う事が農民染みてるな」
「んー、俺にはそっちの方が合ってたのかもしれない」

 皮肉ったつもりだったのに大真面目に返されては、返答のしようもない。
 身の置き所がわからずにルカは仕方なく水の注がれたグラスを手にした。

「――君の話を聞きたかったんだ」
「……俺の?」

 水を一口飲んで喉を潤し、テーブルにグラスを戻す。
 相手はテーブルを挟んでルカの目の前に腰掛けており、ちらりとルカを見て笑ってみせた。

「細かいこと根掘り葉掘り聞く気はないんだけど。……二人旅? あのもう一人の大柄な子と」

 旅、といえばそうなのだろう。どれほどの距離を歩く旅になるのかはわからないが。けれど、旅、というのは少し寂しい気がしていた。

「いや、……帰る途中なんだ」

 確かにルカは外の世界に憧れてはいた。毎日毎日同じ、汚らしい仕事を繰り返して、狭すぎる自分の世界が大嫌いだった。だから今、こうして外で自分の知らない世界を目にできるのはそれなりに嬉しいことではある。
 それでも、あんなことさえなければルカはあの国から出なかっただろう。毎日同じ生活でも、それでも、あの狭い世界でも構わないんじゃないか、と思えていた。彼女がいる世界なら、どんな環境だろうと耐えられる。そう思っていた。
 だから自分とシンゴは今、居場所へ帰る途中なのだ。ルカはあの国に自分を置くべき理由を取り返す。またつまらない生活が繰り返そうとも、それでも、いい。

「家路の途中で盗賊さんと出くわすなんて災難だったね」
「本当にな。けど、砂漠なんて教科書程度の知識しかなかったから、……あいつらに会わなかったら多分、生きてない」
「そっか、まあ、あの二人と一緒にいるなら砂漠で干からびて死ぬことはないだろうし」

 ひとつ頷く。癪だがそれは事実だ。
 それに、あの盗賊と出会って、なんて運が悪い、最悪だ、とも思っていたけれど、毎日自分が何かを得ていることを実感するのだ。 

「一回あの金髪に大事なモン奪られてさ、脱獄手伝った時に本気で殺してやろうかと思った。……でもできなかったから、あの時あいつを退けたあんたに感謝してるんだ。俺の代わりにやってくれた、って思ってる」

 今のルカの存在理由。彼女と同じ世界を生きていることを証明してくれる、時を刻むもの。これを換金してしまえば、あの国など出ることは容易かったけれど、これがあったから、ルカはあの国で過ごそうと決めたのだ。これを奪ったケレスは本当に許せなかったし、奪うことを許した自分にも腹が立った。
 ルカの言葉を真摯な瞳で聞いていた相手は、自分もグラスに水を注いで、一気に飲み干した。

「彼を倒せなかった俺が言うのも何だけど、……どうして殺せなかった? 人を殺すのは思ってるよりずっと簡単であっけない。腰のそれを、」
 
 相手はルカの腰元を指差し、

「振り上げて、」

 それから剣を握るジェスチャーをしたまま腕を上げ、

「下ろすだけ」

 しゅっと軽く下ろした。
 心は単純にいかなくとも、体の動作だけを見ればこれほど簡単なものはない。それはルカも承知のことだった。 

「やろうと思えばできる、と今でも思ってる。やらなかっただけだ、って。……けど、あの金髪には、俺にはできなかった、って言われた」
「殺そうとした相手に言われたら複雑だな」
「そうそう。すげえムカついたけど、……声が聞こえる気がするから、だから、躊躇しちまうのかも、しれない」

 腰の剣にそっと触れて呟いたルカの言葉に、相手は首を傾げた。

「もっとずっとガキん時の俺の声。死にたくない、って叫ぶ声。あいつはこんな風に死に対してビビったりしないんだろうけど、多分、その声が俺に剣を振り下ろさせなかった」

 死にたくない。
 あの男はそんな風に見苦しく執着などしないのだろう。
 それはきっと潔いことで、きっと格好いいことなのだ。自分だってそうあれたらいいのかもしれない。

「俺が殺される恐怖を感じる。俺がそれを与えられている以上、与える側も必ず存在する。力があれば、俺が与える側になることも可能なんだろう」
「けど、そんな力は君が持つべきものじゃない」

 相手ははっきりと言った。
 
「倒すべき時に、倒さない機会を得たんだ。大事なものは奪り返したんだろう? なら、あとは守るだけだ。――君は、傷つけられることの怖さを知っている。だから君は永遠に奪う人間にはならない」

 淡々と、しかし力強く告げる相手の声が、深くルカの胸に染み入っていく。 
 永遠に、奪う人間には、ならない。
 傷つけられたくないから、傷つけない。

「……っは、何者だよ、あんた……」

 感動しているのか、動揺しているのかわからない。
 わからないけれど、ルカの瞳からはぼろぼろと涙が零れていた。
 わかるのは、少しだけ嬉しい気がする。それだけだった。

「……俺は剣も抜かずに人を傷つけてばかりだ。君が羨ましい」

 とても、人を傷つけそうな人間には見えないのに。
 その腰の刃物が仕事をする時は、倒すべき相手を倒す時だけなのだろう。

「大事な物を金髪の彼に奪られたんだろ? どんなものか、見せてもらってもいいか?」
「……あんたは奪ったりしないだろうしな。いいよ」

 手の甲でぐっと涙を拭うと、首から提げた金時計を外して相手に差し出す。
 大事にいつも服の下に隠していたため、その金色を目にするのは久しぶりのような気がした。
 相手はそれを手のひらに載せると、ふっと目を細めた。時計の裏には薔薇の花が刻印されている。薔薇の花はあの王家の紋章だ。

「……奪われたらいけないな、こんな綺麗なもの。確かに盗賊さんが目をつけるだけの価値はありそうだ」

 薔薇の花を指で撫でてから、相手はルカに時計を返す。
 何か様子が可笑しい気がして、何か知っているのかと聞きたかったが、仕切りなおすような相手の声に遮られてしまった。

「さて、もういい時間だけど、今更自己紹介をしよう。俺はケイだ。この国の執政官をしてる」
「ここ、あんたの家なのか?」
「仕事柄いろいろ町を歩き回るから、小さい部屋ならいくつも持ってる」

 それなら納得だった。金時計を首に提げ直して、ケイの目を見ると、ルカは右手を差し出した。

「俺は、」
「ルカ、だったっけ?」

 あからさまに驚いてしまう。
 あの城での虐殺騒ぎの時、名乗っただろうか。自分が忘れているだけなのかもしれない。
 ルカが多少動揺していることを察したのか、ケイは軽く笑って見せた。

「もう一人の子が名前呼んでたから。覚えてただけだ」
「何だ……。驚かすのやめてくれよ」

 悪い悪い、と笑いながらケイも自分の右手を差し出し、握手を交わした。
 それからすぐにルカは部屋を出た。
 そろそろ砂漠は出るんだ、と出る直前にケイには伝えてみたが、その言葉をちゃんと聞いたのか聞いていないのか、また会った時にはよろしく、と返され、そこだけが腑に落ちない感じではあったが、総じて考えれば心の中がすっきりした対談だった。

(……変な人、だったな)

 心証はいい相手だが、どんな話をしてもケレスは不機嫌になるだろう。
 エイイチの店へと急ぎながら、この話はしばらく封印しておこう、とルカは思った。



2008.07.17(Thu) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

(中)


 シンゴと出会ったのは、母さんが亡くなるほんの少し前のことだった。
 家の事情が事情だったから学校にも行けず、母さんから字の読み書きと簡単な計算程度だけ習った俺は、暇を見つけては学校の傍まで赴き、山のように積まれて捨てられている本を何冊も拝借しては読める範囲の部分を読む、ってのを毎日のように繰り返していた。読めないところは文脈から推測してみたり。基礎さえあれば大半の本は読めるってことがわかったのは今思えば大きい収穫だったのかもしれない。 
 粗末な服と、食事と、何も無い時間。他の子供達は大体学校に通わせてもらっているからそこで友達もできるだろうが、俺にはそれがなかった。母親は病気しながら仕事して、俺も簡単な仕事で手助けしなきゃいけなかったり、看病しなきゃいけなかったりで友達作る余裕なんてなかったし。それに、そもそも、……普通の子供となんてうまくやっていける自信がなかった。
 靴磨きとか、軽い荷物運ぶとか、果実の収穫を手伝うとか、そういう仕事でちょっとは家計助けて、余った時間でわけのわからない本を読む。それが楽しかったし、それでよかった。
 シンゴがやってきたのはその頃だ。隣町から城下のこっちに越してきた。しばらく城下で野菜だのを売る仕事をしていたけれど、数年して夫婦して隣町に戻っていった。今度は栽培の方の仕事に移ったらしい。そのためにシンゴの両親の代わりに店を出す人が町に来たりしていたから、組合か何かでそういうローテーションが決まっているのかもしれない。
 そんな一家が町に来たことは知っていたけれど、シンゴは学校に入ったし、ああいう性格だから友達もすぐにできたようで、やっぱり俺とは違う世界で生きてる奴だと思ってた。
 俺はしばらくシンゴとは面識なんてなかった。なのに、まだ学校に入る前の年だったシンゴの妹や弟と、そうとは知らずに遊ぶことはたまにあった。
 全然友達いなかった俺の方こそ遊んでもらってた感じがしてたのに、シンゴは恐縮してわざわざお礼を言いに来た。なんだかそれが、すごくくすぐったかった覚えがある。
 シンゴは俺を見かける度にルカさんルカさんって追いかけてきて、会うのが暇な時間なら、俺は読んだ本の話をしたりして。だからつまり、結局は幼馴染なんだろう。シンゴに会う時より前の俺には友達なんていなかったんだから。初めてできた友達。初めてできた、ひとりじゃない時間。シンゴが近くにいてくれて初めて、ひとりだった時間は空しいものだったと思い知ったのだ。


 そうしてしばらくして母さんが死んで、俺は“仕事”をするようになって、今まで以上に時間がなくなった。早く借金なんて返してしまいたくて、午前中も頼み込んでいろんな仕事をさせてもらっていたから、余計にだった。
 そんなある日だ。

「フタバがいなくなった……!?」

 仕事でリンゴの収穫を手伝っていた俺を、シンゴが大慌てで訪ねてきた。
 シンゴが学校に行っている間、妹のフタバの面倒を見ているはずのシュウが少し目を離した隙にどこかに行ってしまったというのだ。それで弟のシュウは急いでシンゴの学校に駆け込んだという。
 そう言われても、町から多少離れているここで朝から仕事をしていた俺が知っているわけもない。

「……居場所がわからないから来たんじゃなくて、……着いてきてほしいから、来たんです」

 重々しく口を開くシンゴの言葉でぴんと来た。きっと誰かがフタバが歩いていったのを見ていたのだろう。そしてそれは――

「裏通りに行った、とか」
「確かじゃないですけど、そっちの方に子供が歩いてくの見たって人がいて、けどあっちに一人で行くのもちょっと気が引けて」

 別に俺が毎晩裏通りに“仕事”しに行ってることを知っているわけではないだろう。確かにあそこ一帯にはガラの悪い大男が多かったりするから、俺より多少体の大きいシンゴであったとしても一人で行くのは怖いだろう。
 本当に向こうまで行ってしまったのだとしたら、とんでもないことになるかもしれない。

「っ、急ぐぞ!!」

 ちょうどよく仕事終わりだったからすぐに走りだすことができた。
 あんな小さい子を、あんな場所にいさせてはいけない。いなければそれが一番いいのだが。



 シンゴにはまず家に帰らせて、フタバが家に戻ってきていないか確認させる。そして俺は真っ直ぐ通い慣れた裏通りへ向かった。慣れたとはいえ、嫌な場所だ。一歩進むたびにヘドロが体に纏わりつくような嫌悪感を覚える。
 路地をひとつひとつ辿り、フタバがいないかどうかを調べていく。俺だって長居したくないのだ。早く帰りたい。今夜またここにこなければならないとしても、それでも早く帰りたい。
 もう5本ほど路地を走って調べ回って、もう家に帰ったのではないだろうか、シンゴはここに来にくくて、それを連絡することができないのではないだろうか、と考えた。そろそろ町に戻ったほうがいいかもしれない。

「っ――!?」

 背筋がぞくりとする。嫌な空気。
 恐る恐る振り向くと、例の雇い主の息子が、眠っている女の子を抱えて歩いていた。俺のよく知る女の子。
 何故。どうして。

「な、んで、フタバを……!」
「ひとりで歩いてたから保護してやったんだ、文句あるか」
「な、ならッ、とっとと帰せよ!! 表はこっちじゃないだろ!?」
「折角だからうちで菓子のひとつも食わせてやろうかと思っただけだ」
「ふざけんな!! ……っ、俺の友達の妹なんだ、頼むから、返してくれ」

 何が怖かったって、フタバがこのまま連れ去られることじゃなくて、――またひとりに戻ること。
 何も無い暗闇。そこに置かれた自分の姿を想像するだけで可哀想で仕方なかった。このまま俺が何も見なかったことにしてフタバを放っておいたらどうなるか分からない。俺がここに通ってるのなんて少し人に聞けばすぐわかってしまうことだろう。それを聞いて、シンゴはどう思うんだろう。絶対に今までのようにはいかなくなる。

「ああ、このままこの子に何かあったら、せっかくの友達がいなくなっちまうもんなぁ?」

 男は俺の思考の全てを見透かしたように言った。
 腹は立ったが、実際その通りだったので言い返すことはできず、唇を噛んだ。
 
「ここで止めないと、どうやったってお前は何かしらで疑われるし、孤児ってのは厄介なもんだ」
「……何でもいい、何とでも言えばいいから、だから帰してやってくれよ……! 俺と違ってこんなとこいちゃいけないんだよ!!」

 ――俺だって別にこんなとこいていい人間ってわけじゃないだろうけど。
 そんな考えも頭を過ぎったが、振り切る。俺とは違うんだ。フタバは、シンゴとか、家族とか、周りの町の人とかに大切に守られて生きていくんだ。それなら、町に住んでる俺だって守ってやらなきゃいけない。

「――なあ、ルカ。頼み方、ってもん知ってんだろ」

 にやりと男が笑った。
 頼み方? そんなのどこの法律に書いてあるんだよ。学がないからんなコト知らないんだよ、こっちは!
 言いたくてもひとことも出てこない。俺なりの頼み方。
 噛み千切るほど唇を噛み締めて、俺は地面に膝をついた。


 そこで、フェードアウト。



2008.07.17(Thu) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

試しに。


「……何帰ろうとしてるんだよ、誠司」
「もー俺十分待ったもん。だるい、眠い、疲れた、帰る!」

 学校指定の革の鞄を手にそそくさと生徒会室を後にしようとする、この学校の生徒会長――前園 誠司の学ランの裾を、副会長――羽村 侑太郎は左手で、誠司の顔も見ずに完璧に掴んだ。侑太郎の視線は机の上にあり、英語の教材に向けられている。その間誠司は一刻も早くこの教室を出ようとひたすら出口に向かって足を進めるものの、少しも扉に近づくことができない。侑太郎の異様な握力のために、誠司が部屋を出るよりも先に制服が破れそうなほどだ。

「玲子先生に待ってろって言われてるんだから」
「あんなケバケバババァのいう事なんて聞いてられっか!! それと! 召集掛けられたの俺らだけじゃないだろ! 煌一はどうした!」
「高木君は遅刻5回のペナルティで校内のトイレ掃除中」
「そんなのにあいつが従ってるわきゃない!!」

 ふう、と侑太郎が息をつくのが聞こえて、ヤバい、と直感的に誠司は思ったが時既に遅し。
 侑太郎は誠司に視線を移すと両手で誠司の制服の裾を握り、自分の方へ引っ張った。

「どわぁあっ!?」
 
 侑太郎は華奢なくせに異様に力が強いのだ。剣道の道場の息子で、剣道だけではなく武道全般習っているせいなのかもしれないが、それならぱっと見でわかるくらい筋肉がついていてもいいと誠司はよく思っていた。勢いよく後ろに引っ張られ、床に背中を打ちつける。半端なく痛い。
  
「高木君はまだ一年生。遅刻ばっかりしてるようじゃ生徒会の仕事も成り立たない。それにトップは誠司なんだから君がいなきゃ話にならないだろ?」
「ふ、何だよ侑。プロポーズのつもりか?」
「……誠司、僕は話の分からない馬鹿が大嫌いなんだ。出てってもいい?」

 おまけに冗談がまるで通じない。その上頑固者。
 これで人生面白いのか? と誠司が感じることも度々、……いや、かなりあるが、侑太郎も気を抜くべきところは抜いているようだし、ただ少し真面目なだけなのだ。そう思うことにしておく。

「わぁかったよ、いりゃいいんだろ! 侑が俺と付き合ってくれんなら、とでも言おうと思ったけどぶん殴られそうだからやめとくわ」

 誠司は立ち上がると制服の埃を落とし、手近な椅子に腰掛ける。
 侑太郎はそれを確認してから再び英語の問題集に目を落とした。
 それにしても。
 こんな風に生徒会顧問に待たされることなど普段では有り得ないことだ。
 この学校の生徒会顧問は誠司以上の面倒くさがりで、仕事などは全部プリントにして全て侑太郎にやらせている。そのくせ誠司が仕事をサボると怒るのだ。自分は上司の前でだけしっかり生徒会顧問しているくせに。
 
「言おうと思ったけど、って。言っちゃってるくせに」
「愛だばーか!!」
「何だよそれ」

 侑太郎はいつも通り余裕で笑っていたが、それでも今日の生徒会顧問の行動は腑に落ちないらしく、時折腕時計を確認している。もう大分待たされているのだ。これで校内放送で、ドッキリでしたー、とか言ったら絶対ぶん殴る、と誠司は決めた。
 しかしそんな個人的決定事項も空しく、ちょうど良く生徒会室のドアが開いた。

「はーいはい、じゃあ生徒会会議始めるわよぉ! 席に着きなさいっ」

 入ってきたのはこの学校唯一の女教師、重松 玲子だった。この学校に赴任してきたのもそもそも何か下心があるだろうことは明白だったが、それにしても男子校でコレは不味いんじゃないかと誠司が思うほどに玲子の服装は過激である。似合わないならスルーもできるが、顔立ちや髪型に服装がよく似合っているから性質が悪い。嫌でも生徒達の視線を引いてしまう。だからこそ目立ちたがり屋の誠司としてはどこまでも気に食わない存在だ。

「おシゲー、高木クンがいないので会議できませーん」
「いいのよあの子は。さっき説明してあげたから。それと、次それで呼んだらお姉さんが食べちゃうから覚悟しておきなさい?」
「いつ聞いても怖いねぇ、喰われたら骨しか残んねぇな」
「そーよ、精力から魂からぜぇんぶ吸い取っちゃうんだからv」

 重松 玲子。この高校の英語教師。誠司はいつも「おシゲ」と呼んでいるが、当然彼女はいつも怒る。
 今ここには不在の煌一などは「シゲさん」と呼ぶから余計起こる。
 しかし彼女の怒り方と言うのは、「お姉さんが食べちゃうからv」にいつも留まる。怒りの度合いはその発言の後の行動で一発なのだが、誠司が聞くところによれば煌一は本気で喰われる寸前までいったらしいとのことだ。

「先生、話続けてください。僕も誠司もできれば早く帰りたいので」
「そーそー。ちったぁ考えてくれよ、生徒のことも」
「考えてあげたいのは山々なんだけどぉ、しばらく早めの帰宅は無理そうよ。生徒会役員諸君」

 誠司と侑太郎が隣り合って座り、偉そうに――教師なのだから実際偉いのだが、玲子が二人の目の前に腰掛けた。そして持参したプリントを1枚ずつ二人の目の前に置く。

「……学園合併による新生徒会編成……?」
「3ヵ月間の公示期間を経て、その後……?」
「そ、生徒会選挙よv」

 玲子はばっちり美しいウインクを極めたが、その瞬間に誠司の空気がぴしりと固まった。 

「合併って何だよ合併って!!! まっさか隣の花鳥とじゃねぇだろうな!?」
「そこ以外にどこと合併するのよ、誠司クン?」
「ふざけんな!! そんなの聞いてねぇぞ!」
「だってアタシも理事長から今さっき聞かされたんだし! 聞いてないどころの話じゃないのよー?」

 誠司は立ち上がって玲子に向かって大声を出したが、自分だって遺憾だとばかりに玲子はひらりと交わしていく。熱くなる誠司の傍らで、侑太郎だけが冷静だった。

「花鳥の女共と隣の敷地ってだけでもう吐き気すんのに、合併なんて最悪だ……!! 殺す気か!!」
「アタシだって悲しいわよぉ! 折角“風月の美人女教師!”で通ってたのに女子高生が雪崩れ込んでくるんでしょー? 負けない自信はあるけどこれまでより霞んじゃうわよねぇ」
「ババァのことなんてどーだっていいんだよ! どう足掻いても若さには勝てねぇっつーの、この年増!!」
「はぁい、誠司クーン? 今言っちゃいけない言葉いくつも使ったわよねぇ? 覚悟があるなら今すぐ服脱いじゃいなさぁい?」
「誰が脱ぐかざけんな!!」

 二人が口論を繰り広げていると、バンっ、と大きな音が響いた。
 当然誠司と玲子の動きが止まる。侑太郎が英語の問題集を机に叩き付けた音だった。

「話を続けてもらえますか、玲子先生……?」

 頑固だから、馬鹿みたいに真面目だから。侑太郎は怒るとすごく怖いのだ。
 ――この場合、侑太郎じゃなくても怒るかもしれない。
 と少しだけ誠司が思ったのは秘密である。




2008.07.17(Thu) | 絶対終わらない学園ネタ | cm(0) | tb(0) |

じゃあ取りあえず。



「これ、ありがとう」

 洞窟の中、ヒサの私有する空間となっている場所に、ルカは足を踏み入れた。
 借りていた本を返すためだ。内容を掻い摘めば幼稚な話ではあったが、言い回しがややこしいのと、古くから伝わっているらしい物語のために、ルカにとってはかなり読みにくい本ではあった。

「元あった場所に戻しておいてください」
「了解」

 そう大きくない本棚には古い本から新しそうな本までいろいろと取り揃えてあり、右から左、上から下までぎっちり本が詰まっている。その一番下の段の一番左に本を戻した。この前までなら全く見当もつかなかったような本たちだが、背表紙の文字を見てなんとなく判断がつくようになっていた。

「世界は広がりましたか」

 本を戻してすぐ、棚の前に屈んだままのルカの背中に、ヒサの声がかかった。
 ルカはすぐに立ち上がると、寝台に腰掛けたヒサに視線を合わせる。

「おかげさまで。あんまり実用的な話じゃなかったけどな」
「物語の類で内容を実用しろという方が無理でしょう」
「そんなの分かってるよ」

 神々のロマンスなど、地上の人間からすれば最もどうでもいい話だ。実用どころか共感もできやしない。けれどこれが土着の民話なら、その土地に向かう以上知っていて損はないだろうと思う。ただそれだけだ。物知らずと非難されることはないかもしれないが、特別利益があるとも思えない。内容は至って単純だったから、そうそう読み返さなくとも忘れる話ではないだろう。
 用事が終わったのですぐにシンゴの所にでも戻ろうと踵を返したが、ふと思いとどまり立ち止まる。

「あのさ、……あんたら何で一緒にいんの、って聞いたら、怒る?」

 それは前々からの関心事だった。
 人は見かけじゃないとはよく言うけれど、間違いなく見た目からして反りの合わない気のする二人だ。性格だって全く違うし、共通の趣味があるわけでもないだろう。とすれば、利害関係だけで一緒にいるということになる。そこにどんな過去があったのか、それはきっと神々の恋愛話なんかよりもずっと興味深いし、面白い話のような気がするのだ。

「怒りはしませんよ。けれど、貴方がたに関係ある話とは思えない」
「単なる好奇心だ。嫌ならいい。適当に想像しとく」

 どんな想像も納得いく結末にならなかったから聞いているのだが、やはりそう積極的に話したい内容ではないのだろうか。
 諦めてルカは今度こそ外に出ようとしたが、不意に掛けられた声に再び歩みを止めた。

「貴方がたはどうなのですか」
「俺とシンゴ? 別に面白くも何ともないけど。興味あんの?」
「単なる好奇心です」

 ヒサはこちらを見ないで、先ほどのルカの言葉を繰り返した。
 ……それはもしかして、こちらが話せば向こうも口を割るということなのだろうか。
 いい方にいい方に解釈して、あえて確認は取らずに壁に寄りかかると、ルカは口を開いた。


2008.07.17(Thu) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

少女の休息 (2)


 ヤマトから貰った灰色の馬。それに跨って、雲の立ち込める空の下を走ること一時間ほど。
 かなりのスピードを出して一時間かかるのだから相当な距離だ。とても歩ける距離ではない。
 誰も越えたことのない、恐ろしいほど高い山々が聳える山脈。その麓に、本当に小さな教会の敷地があった。
 こんな辺鄙な土地では、馬なしに生活することは不可能だ。そのために教会でも数頭の馬を飼っている。教会の裏にある厩に自らの馬を預けると、ツバキは改めて正面の聖堂へと向かった。
 教会の主は中に入らずとも会うことができた。修道女の装束を纏った少女が、聖堂の周りの花に水を与えている。彼女はツバキの来訪に気付くと、顔を上げて笑った。

「ツバキさん! 久しぶりです!」
「お久しぶりですわ、シスター。今日もお一人で?」

 この教会の主であり、シスターであるモカは呆れたようにひとつ頷いた。

「あの人は手伝ったりしてくれません。今も、中で一人でお茶を楽しんでます」

 この教会には彼女を手伝ってくれるはずの同居人がいたはずだが、毎度のように彼はモカを手伝うことなく優雅な昼下がりを楽しんでいるらしい。モカもそれは慣れているからか、さして気にした様子もなく花に水を与えていく。白い雪の間から覗く赤い花びらが何とも幻想的だ。

「彼でしたら、小屋で休んでいると思いますよ。今日はまだ顔見てないですし。あ、お夕飯は一緒にとれます?」

 教会の近くにぽつんと建つ小屋を指差して、モカが微笑む。モカはツバキより少し年上のはずだったが、穏やかな性格の割りにその顔立ちが手伝って同い年くらいに感じられていた。ツバキはひとつ頷く。

「午後はお休みを頂けましたので。お料理はモカさんにお任せすることになってしまいますけれど、食器くらい運べますわ」

 ツバキの家事能力が壊滅的なのを知っているモカは、緩く首を横に振って苦笑する。

「いつも二人だから寂しくって。ツバキさんがいないとあの人一緒に食事してくれませんし」

 それは彼なりの気の遣い方なのだろうか? しかしそれはとても彼らしい。
 ツバキは凛とした表情を緩めて、微笑んだ。 



 小屋の扉を開けると、小屋の中はとても暗かった。空気も冷たい。もしかしたら午前中は“仕事”をしていたのかもしれない。段々と暗さに目が慣れてくると、小屋の奥、寝台に座った人影が見える。

「……エン、」

 相手の名を呼ぼうとして部屋の中に入りこむと、開けた扉から差し込んだ曇天の光が彼の全身に色を与える。
 ――髪の色が違う。
 金糸の髪。それは彼のものではない。彼が少し前まで“仕事”をしていた証拠だ。その色の髪をしている時は、彼の“仕事”の邪魔をしないために、彼の名前を呼んではならない。わかっていてもその名前を呼ぶのは、……大嫌いだ。

「……ツヅキ、様」

 絞るようにそう呼ぶ。
 ほんのささやかな抵抗だ。それくらいしか抗う方法が見当たらない。

「いいよ、ここでそう呼んだって意味ないだろ?」

 期待していた声を聞けて満足だった。
 彼はツバキの抵抗を知っているから、笑って受け入れてくれる。普通なら逆だ。抵抗したいと思うのは彼なのに。 
 彼は寝台から降りると部屋の中央のランプを点け、扉に近づく。部屋が明るくなったことでより彼の全身がはっきりと見えた。

「久し振り」

 金色の髪のまま、彼は笑ってツバキを招き入れた。

「……お久し振りです、エンジ様」

 声も、顔立ちも、ツバキが苦手とするツヅキのものとすごくよく似ているけれど。でも、全然違うものだ。だから彼の本当の名を呼ぶことができるのを心から嬉しいと思える。
 ツヅキを相手にする時とは違う。彼の声を聞くことは心地良いし、彼と同じ空間にいることで不愉快になることもない。
 
「せっかく休み貰ったならわざわざ来なくてもよかったのに。遠いんだし」
「最近あまりこちらに来れませんでしたから……。……ご迷惑でしたか?」

 彼はきっと拒むことなどない。それは分かっているけれど、もしそう思われていたら悲しい、とツバキは思っていた。
 本当なら、彼が先だったはずだ。エンジは、今ではツヅキの影武者をやらされているようだが、ツバキにはツヅキこそ紛い物に見えて仕方なかった。あんな人、来なければよかったのに。そう思うことも多々あるけれど、ツヅキがこの国に来なくて済む、ということは、それはエンジが本来の仕事を果たせるということを意味している。それは嫌だ。……嫌だと思うのならツヅキの存在を認めなければならない。それもしたくない。彼に、彼らしく生きて欲しいと思うのだ。
 きっと矛盾しているのだろう。それでも、コピーのような存在が現れるのは、代わりがいるのだと暗に言われているようで気分が悪い。

「迷惑だったらここに入れてないよ。……休みなら、やりたいことあったんじゃないか?」
「エンジ様にお会いしたかったです」

 エンジは単に、ツバキの勉強の邪魔をしたのではないかと思っていたのだろうが、そんな心配は無用だ。ツバキがすかさず言葉を返すと、エンジは困ったように両手を挙げた。

「負けたよ。俺も会えて嬉しいです、お嬢様?」

 影武者である最大の証拠、金色の鬘を外して、エンジは恭しく頭を下げた。



「私達はよく知らないですけど、河の向こうの国の事件、大変だったんですよね?」

 夕食の席で、モカはツバキにそう問うた。河を越えた先の国の話など、一般の国民はよく知らないことなのだろう。モカが辛うじてそれを知っているのは、あの事件のお陰で、それまで定期的にこの教会に顔を出していたツバキの訪問が途絶えたためだ。

「ええ。けれどひと段落しましたし。この件はお父様がいろいろと処理して下さったので、私自身はそこまで大変ではありませんでしたけれど」

 それをツバキの隣で聞いていた青い髪の青年――シアンが口を開く。

「彼は盗賊を捕らえるのに躍起になっていた、ということだった気がするんだけれど」

 彼はこの国に来てまだそう長くない。その上記憶に障害を負っている。それまでの記憶が断片的にしかわからないのだという。しかし新しく何かを覚えるということにおいては問題ないらしく、この国の情勢も積極的に知ろうとしていた。

「お父様が固執するのはルミさんのことくらいです。……国家問題にかこつけて、凶悪な盗賊を罰したい――ゲームみたいなものなのかもしれません」
「珍しいね、ツバキ君が彼をそんな風に言うなんて」

 ヤマトの言うことは何でも聞き、忠誠を誓っているように見えるツバキにしては確かに意外な言葉なのかもしれない。何か理由がある、だからああやって固執しているんだ。模範解答はそれだろう。
 ヤマトがそんな単純に凶悪犯を追いかけるなどというのは少し違和感があった。それはもっともだ。ヤマト自身、正義を翳すような人間ではないし。それは分かっていても、他にこのヤマトの行動を理論付けるような動機が見当たらない。
 ツバキが黙ってしまったために、全員が質素なスープを口に運びながらの静かな夕食が進んでいく。

「えっと、あ、せっかくお休みなんですから、お仕事の話はやめた方がいいですよね!」

 モカが明るく話題転換を提案する。
 国政に関する話題、ヤマトに関する話題は得てして空気が重くなるし、エンジは口を閉ざしてしまう。ツバキは日常生活からいって話題提供できるのはそんな重いものばかりなのだが、食卓の空気が暗くなるのはあまり好ましくないのだろう。元々モカが振った話ではあったが、ツバキもせっかくの食卓を暗い雰囲気で終わらせるのは気が引けた。

「けれど、すみません。仕事以外の話題は生憎持ち合わせていませんわ」
「ありますよ! 少なくとも私はものすごーく気になることが!」

 何やらモカは熱烈に主張しているが、ツバキには全く話が見えない。困ってエンジを見たが、エンジもそれは同じらしく、不思議そうに首を傾げている。

「なんか複雑みたいでしたから今まで聞けなかったんですけど、」
「はい」

 続きを促すツバキの声を聞いて、モカは一度大きく深呼吸をし、

「ツバキさんとエンジさんってどういう関係なんですかっ」

 と、この食卓に似合わない大きな声を出した。

「……はあ」

 そんな声しか出てこなかった。彼女が何を聞きたいのかいまいちよく分からないし、自分の中でもすぐに『これだ』という答えが浮かばない。
 自分とエンジとの関係。どう言えば誰もが納得し、自分も納得できるのだろう。そもそも、もしこの二人がツヅキに会ったとしたなら、どう思うのだろう。エンジの存在を疑わないでいてくれるだろうか。

「恋人、とでも答えれば満足ですか?」

 食事の間ずっと沈黙を決め込んでいるエンジが珍しく口を開き、ため息混じりに告げた。その声は、ツバキがいつも聞くエンジの声よりも少し冷ややかに感じて、何となく寂しい気持ちになった。

「満足、っていうか。そうなら納得だな、って。一日のお休みならともかく、いろいろあってお仕事が忙しい時期に、午後だけのお休みなのに一時間かけて会いに来るんですから」

 モカの言葉を聞いても、エンジの表情はなかなか緩まない。
 恋人、なんて、そんな肩書きで簡単に済ませられるものだろうか。
 もし自分とエンジが恋人同士の関係にあるとするなら、エンジを知らないその他の人々に、自分は誰と恋仲にあると思われるのだろう。

「済まないね。この年頃の女性の関心事なんだよ」
「ちょ、あの、シアンさんっ、私が悪いこと言ったみたいじゃないですか! そもそもあなたがもっとちゃんとしてくれてたら私だって、」
「食器の類はモカ君が下げておくから、食事が済んだら二人で戻るといい。こう騒がしくては話すことも話せないだろう」
「なんで私だけに下げさせるんですか! ちょっとは手伝って下さい!!」

 この二人のこういった掛け合いは、綺麗だなと思えるのに。
 ヤマトとルミもこんな感じだ。結局互いをしっかり考えているのが分かる。
 自分とエンジは?
 ツバキは考える。彼を知りたいと思うことは多々あるけれど、深い仲になりたいと思ったことがあったろうか。
 ――この人の傍に置いてほしい、なんて、そんな気持ちは二度と抱くまいと心に決めているのだ。
 だからこそ今のツバキがある。国のため父のために一生を捧げようと決意できた自分がいる。

「ツバキ、食事が終わったら来てくれるか? 町まで送る」

 先に食事を終えたエンジが、食器を手に立ち上がった。

「あ、いいんですよエンジさん! 私たちで片付けますから!」
「お世話になってるんだからこれくらいさせて下さい」

 これはどちらが引くべきなのか難しいところだ。
 モカだって割と頑固な部分がある。誰かが早く真ん中に入るべきだ。

「そうですわ、モカさん。片付けくらいさせて下さいな」

 そしてそれはきっと自分の役目なのだろう。
 連れ立って台所へ食器を片付けに行く途中、エンジの表情が少しだけ緩んだような気がした。



2008.07.15(Tue) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

とりあえず


ヤマトと盗賊さんの関係については適当にでっちあげたので大丈夫です。
過去話はちょいと待たれよ。今ツバキの方仕上げてる。


他人のために誰かを殺せるかどうかってお話ですが、シンゴの場合は今そう思いたいとかじゃなくって。
それまでのシンゴは、誰かのために誰かを殺せるというのは美徳だと思ってました。国にいたままのシンゴなら、もしくは数年前までのシンゴなら100%そう考えていた。
だから今本当のことに気付いて、誰かのために誰かを殺せるのは美徳なんかじゃなくてすごく汚いことなんだって分かって、今までの価値観と違いすぎて単に揺らいでいるだけ。
童話でだって何だって、正義の王子様は囚われのお姫様を救うために魔女を殺すじゃないか。
それを美談だと感じていたのは子供だったから。王子様は自分がお姫様を助けたかったから魔女を殺したんであって、他の誰に救助を頼まれたとしても、最後に実行するのは己の意思。
だから、すべて責任は自分に返って来る。今まで、誰かのために何かをできるっていうことはいいことだとしか思ってこなかった16歳のガキに、いきなり生殺与奪の責任すべてを背負えってのは酷な話のようだけど、それでもそれを受け入れなきゃこの先に行けないこともわかってる。
っていうのがあるから、今まで責任なんてそんなに負わされてこなかった子供だから、これが現実なんだ、本当なんだっていうのを何度も確認したがる。何度も思い出して、何度も聞いて、何度も納得する。


それと。
小さい怪我じゃなくて、放っておいたら死ぬんじゃないかなくらいすごく大きい怪我しないかなケレスさん!(爽)(なんてことを)
多分ルカは、ヒサさんがそんな怪我したら迷いなく術使って治そうと思えると思う。すごく恩とか感じてるだろうし、それで今までの悪い心証もチャラになってるっぽい。
けどケレスさんだったらそうもいかないじゃない!(爽)みたいな。
ルカとしてはケレスさんに与えられたイメージが全然ないし、寧ろ奪われてばっかりで、どんな状況だろうが結局は助けられた形になってるくせに尊大だし、とか生意気にも思ってるんです。
リベリオンのルカはツキ高の流風と違って、ケレスさんに対する好奇心なんてのよりは、恐怖みたいのがずっと勝ってる気がする。これまで自分を虐げてきた大人と同じ感覚がちょっとしてるといい。
奪うだけ奪っていって、傷つけるだけ傷つけて、見返りなんて期待してないけどぼろぼろになっても放っておかれて。助けたことで優位に立ったつもりだったのに全然そんなことないし。
きっとまだ優位にいるつもりだから生意気な口利けるんだろうなあ。
そんなだから絶対心から治してやりたいなんて思えない、気がしてきた。
ましてや大きい怪我なら尚更で、心臓バクバクいいながら、どうしようどうしようどうしよう、って頭の中で騒いでればいい。術かけようにも集中できなくて体とか震えちゃって無理みたいな。放っておいたら死んでくれるんじゃないの、とか思う自分も確かにいるけど、それでもやっぱり自分が死にたくないと思った気持ちも強い。
で、結局、「……っ、か、貸し、……貸し、だからな!!」とかぼろぼろ涙流しながら自分に言い聞かせるみたいに言って治したらいいのに。復活したら怪我さした相手ミンチにするくらいの勢いで殺っちゃえばいいのに、ケレスさん。お決まりでルカ倒れたりすればいいのに。
全部願望だけど今の書いてなんか満足したからもういいかも。
そう思ってケレスさん治せたらシンゴが一歩進めたのと同じくらい、ルカとしても成長したことになるんじゃなかろうかと思う。なんにしろとんでもないキーパーソンだよね!


ついでに言うとリベリオン関係ではあとヤマトとツヅキ君あたりが気になってます。
前自分でふと思ってから、リベリオンのヤマトはすげえ受くさい気がしてきたので自分で書くととんでもないことになりそうです。(爽)




2008.07.14(Mon) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

ポリンキー(笑)
FC2の人気ブログの中の、「ポリンキーの三角形の秘密探ってた友人が死んだ」っていうのが面白いです。
ちなみに国連「はーい好きな国同士でペア作ってー」も面白いです。笑いました。なかなか的を射てる感じがいい。
昨日ケーブルテレビ付けてて「ロッカビー事件って何だっけ……?」としばし悩んだ私。中東受けてるのにダメ人間☆


昨日あれを仕上げて疲れたのでなんか下らない話でも考えたい。
いきものがかりの「ブルーバード」は名曲だと思います。
ルカ以外の人間が普通のくせに不幸多すぎなので、ルカはもうちょっと普通っぽくしたい。とか言いつつ過去設定が既に普通じゃない。どうやって帳尻合わせるんだ私!(爽)
過去があまりにもすさまじいとか、背負ってるものが大きすぎるとか、そういうキャラが一同に会してしまうのはいつもあまり好きじゃないんだけど、やっぱり誇張するのが楽しいじゃない。
まあみんな大げさに書いてるだけなんだけどね。ルカとアンドゥー以外は別に凄まじい過去持ってない。シンゴ別に凄まじくない。
「何こいつら不幸自慢してんの?(笑)」とか思うからやめたいんだけど、やっぱりなあ。普通すぎても書いてて楽しくないし。
ルカとシンゴの不幸自慢が一番ウザいです今。ウザいけど何故かよく進むので書いてしまいます。


次はルカとアンドゥーの話でも進めるかな。
せっかく創兵君に耳が遠いという老人設定(何)をつけたはずなのに面倒だから外す?とか思っている次第。
遠くからの声は聞きづらいんだろうなあ、と他人事のように思ってますが適宜設定外す気がします。(ぇ)

2008.07.11(Fri) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

片翼の小鳥の足を折る



「ッだぁあああああ!!!」

 まだ暗い、朝早く。盗賊たちのアジトの近くではここ数日毎日のようにそんな雄たけびが聞こえてくる。
 剣を抜く動作も以前に比べれば格段に速くなったし、かわすことはできなくても相手の動きがだんだん見えるようになってきた。それは進歩だ。相手に傷ひとつ負わせることができなくても、単なる町の子供だった自分がこうして剣を持って、『戦う』ということを覚えたのはつまり、この環境がシンゴをその道へと歩かせたということだ。
 砂を蹴って剣を振り上げ、町から帰ってきたばかりのケレスの背中に飛びかかる。こんなことを毎日続けているお陰で動きは大分速くなったのだ、完全無防備な背中にこの速さで飛び込めばどうにかなるかもしれない。そう思ったのも束の間だった。剣を振り下ろした瞬間にケレスは体勢を低くして、一握り砂をその手に掴むと後ろ手で空中に撒いた。それなりの速さでケレスに向かっていたシンゴは当然その砂を顔面に食らい、砂が目に入ったおかげで動きが止まる。早く洗い出したいくらいに目は痛んだが、膝をついたら負けだ。それまでになってしまう。
 本能的に目を守るため涙で視界が覆われたが、シンゴは倒れることなく薄目のまま砂の上に立っていた。ほんの一瞬目を逸らしただけなのに、もうケレスがどこにいるのかわからない。

「ッ!!」

 空気の流れる音。それでわかる。
 ――蹴られる!
 蹴られる、ということが予測できただけで十分だった。腹部を強く蹴られたが、前もって腹筋に力を入れておけたために痛みはそれほどでもない。もちろん、砂の上に膝どころか腰を落ち着けてしまったために今日の鍛錬はこれで終わりだ。




「っはー、あー、目ぇ痛かった!! ぜってー赤くなってんだろコレっ」

 鏡でも見なければわからないが、オアシスの清水で目をいくら洗浄しても違和感が拭えない。砂が目に入るとよくあることだ。異物感がいつまで経っても取れない。
 ついでのように頭も水に浸して、まるで水浴びをした後の犬のようにぶるぶる体を震わせる。汗を流してすっきりしたところで近くの木に体を預けると、もうじき夜明けだった。
 夜はいつも早くに寝てしまうシンゴにとって、過ごしやすい時間というのは夕方だった。けれど最近ではこの夜明けの時間こそが一番美しく、清清しく過ごせる時間なのではないかと思えていた。ルカがまだ眠っているから、ひとりでいろんなことを考えられる。その大半は面白くもなんともないことだが、それで十分だった。

「…………」

 夜明けの砂漠を見ると、答えを得た日のことを、思い出す。
 くだらないことを聞くなと一蹴することもできただろう、けれど結局ケレスはそれをしなかった。それだけは純粋に評価してやろう、とシンゴは思う。知っているのと知らないのとでは心の持ちようがいかようにも変化する。



『人間の行動で究極的に他人のためになることなんて存在しねぇ。人殺しなんて最たるもんだ。どんな理由があろうと、人殺しはエゴ以外の何物でもない』



『それを“他人のために”なんて言えるわけねぇだろうが』



 分かっていた。
 そうなるのだろう。どう考えたって、そうなのだ。
 誰かの命を奪うということ。それにはどんな正当な理由もおそらくは存在しない。誰かの生を奪う権利など誰にも与えられていないのだから。理由があるとすれば、自分を満たすため。自分のためにしかなりえない。
 だから、『誰かのために』人を殺すということは、文言として矛盾しているのだ。自分のためにしかならないことなのに、誰かのために殺すというのは、それは。


「その誰かに、重荷を押し付けるっていう、こと」

 
 そんなことできない。誰も望まない。そんなことは、してはいけない。気付いているのなら尚更だ。
 ルカはこんなことに気付かなくていい。誰かのために何かをすること、誰かのために誰かを傷つけることを美徳だと思っていればいい。そうして知らないまま幸せに生きて、何十年も経って、いつか、本当に遠いいつか、ふと気付けばいい。それでいい。
 分かっているくせにどうしてこんなことに拘るのか、とケレスの目が言っていた気がする。仕方ないじゃないか、答えが出たのはつい最近なのだから。


『単なる快楽目的に人を殺す奴だっている、人殺しを経験したいが為にそうする奴もいる。そういう下衆もいる一方で、本当に他人の為に人を殺せると思い込んでる奴もいる。そいつは自分が尊いことをしたと思い込んでるんだろうが、“分かってない”だけで実際は頭のイっちまった奴と同程度だ』


 だがな、と頭の中で声が続く。


『無差別に人殺しするような輩より、てめぇの方が余程得体が知れなくて――気色悪ぃ』


 気色悪い。
 ああ、その言葉はなんて、今の自分を的確に表しているのだろう。
 気色悪い。自分が気色悪い。分かっていて固執してしまう。
 分かっている、分かっている、分かっている。
 許されない。誰も許してくれない。
 すべて自分のため。ああそうだ、これから誰かを殺すとするなら、それはすべて自分のため。誰のためでもなく自分のため。
 そして襲い掛かる重い痛みを心に身体に感じて、喜びに咽び泣くのだろう。それでいい。それしかない。気色悪い自分はすべて悟ったのだ。そして自分の行く末が見えるのだ。重い罪を自ら作り上げ、自ら背負い、そうして罪を与えられて喜ぶのだ。

「……何呆けてる」

 あの日と同じようにオアシスに赴いたケレスが、珍しくシンゴに声を掛ける。
 シンゴは木の幹に背を預けたまま、ぐうっと体を伸ばして、笑った。

「呆けてねぇよ。……俺がめでたくヒトゴロシになったらさ、ついにやりやがったかー、って鼻で笑って、腹にまた蹴りでも拳でも入れてくれよな。そしたら俺、いつかあんたのこと殺せるくらいまで心置きなく強くなれる気がする」

 陽が昇る。
 ははは、と笑っていたシンゴだったが、耐えられそうになくて顔を俯けた。
 まだ目の中に砂が残っていたのだろうか。ずきずきと痛む。いつもの頭痛でなく、どこかが痛くて仕方ない。
 俺まだ十六だぞ、と心の中で泣き笑いしながら叫ぶ自分がいる。
 得た答えは、たった十六年生きてきただけの子供の心には大きすぎる穴を空けた。

「あー、いってぇ……。あんたが砂なんか投げっから目ぇ痛くて仕方ねぇよ……!」
「――人のせいにすんじゃねぇ」
「しねぇよ! ……人のせいになんか、しねぇよ……!!」

 何のために痛みを負ったのか。
 いつになったら目の中の砂が消えるのか。
 覚悟をしただけでこんなに痛い。
 

 いつかこの痛みも喜びに変えなければならないのだろうか。
 これよりも恐ろしい痛みが襲うというのか。
 絶望が重く圧し掛かってきて、背を預けるこの木が今すぐこちらに倒れて、この身を押し潰してくれたらいいのに、と思った。



2008.07.11(Fri) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

少女の休息 (1)


 鏡台の前に立って、髪を結い直す。外は雪だ、外出すれば当然髪型は乱れるだろうが、やはり出かける前には欠かすことの出来ない習慣だった。
 彼女の父であるヤマトが、突然ツバキに午後の休みを与えたのだ。定期的に休みを貰ってはいるが、こうして突然暇をもらえることは珍しい。きっと、隣国の事件との関係や、ヤマトが持ってきた植物の成分解析などで最近は忙しかったことをちゃんと分かってくれていたのだろう、とツバキは思った。
 ツバキは家事以外ならなんでもこなす。政治的な調整のために会議に出席することも多いし、まだ早いということで外交の場に立つことはないが、実行できるだけの力量は備えている。ヤマトがツバキを娘とした頃からずっと、ヤマトは毎回の会議にツバキを連れてきていた。それでこういったことはすべて熱心にヤマトが教え込んだのだ。また、当然のようにヤマトの秘書としての役割も任されている。ツヅキも似たような立場にはいるが、厳守が要されるスケジュール管理を得体の知れない存在にすべて任せるのはどうか、と、これはツバキ自身が進言したことだった。加えて、薬師としての勉強もしている。今はまだ薬の調合ができる程度だが、ゆくゆくはこの国の人々をしっかり看てやれるようになりたいと考えていた。
 やらなければならないことや、やりたいことが多すぎるために休みをもらっても特別な用事以外では勉強のために屋敷に篭っていることが多い。だが、折角こうして特別に休みがもらえたのだ、その特別な時間を普段通りに使うのは少し面白くない。

「お休みでっか、ツバキはん? ええなあ、俺も休みたいわー」

 ツバキのずっと後ろの扉に寄りかかる金色の髪が鏡に映る。ヤマトの側近のツヅキが扉に背中を預けて立っていた。ここはツバキの私室だ。ツバキの部屋はヤマトやツヅキの部屋と違い、処刑場の真反対、つまりは地下に設けられている。用でもなければ誰も近寄らない場所の上、地下は廊下だろうとどこだろうと音がよく響く。誰か来たのなら足音ですぐに気付くはずだ――いつの間に入り込んだのか。
 だから得体が知れなくて嫌なのだ。ツバキは内心そう思っていた。

「……女性の部屋に無断で入るなんて感心しませんわね。すぐに出て行っていただけます?」
「あっははー、誰かさんと違うて女性として見とらんからなあ」
「ありがたいことですわ。貴方に好かれるなんて吐き気がしますもの」
「永遠に在り得へんから安心しときー」

 ツバキは、ヤマトがこの男をこの国に受け入れた時から好きになれなかった。
 ツヅキと会うよりも先に“彼”を知ってしまったからだろうが、それにしたって落差がありすぎるのだ。顔が、声が、すべて似ているのに、同じといっても良いくらいなのに、ツバキの心がツヅキを拒絶する。受け入れられない。この人間は自分たちとは違う。そんなひょうきんな表情を作って、軽口を叩いて溶け込もうとしても、騙されたり、しない。

「彼と貴方とでは天と地ほどの差がありますのね。あまり長く喋っていては悪いものがうつりそうですわ」
「何とでもどうぞ。あの腑抜けと同じ扱い受ける方が癪やし、それに、……コレが仕事の俺と比べれば、ツバキはんの方が余程堕ちとるし野蛮やと思うわあ。俺の見解やから聞き流してくれはって結構やけど」

 ツバキの表情は意識せずとも翳る。
 だから嫌なのだ。ヤマトと彼以外には話したことがないのに、どうしてそれをこの男が知っているのか。
 ツバキの表情の翳りはほんの一瞬のことだったが、ツヅキはその一瞬を見逃さなかった。

「ヤマトはんにくっついて、若いのにぎょーさん仕事して、それで贖いきったとでも? はッ、まだまだ子供やなあ」

 二つ三つしか年の違わないツヅキに子供扱いされるのはかなり不愉快なはずなのだが、どうしてもその言葉の響きにはどこか説得力があって、ツバキの反論する余地を奪う。

「いくらここで働いたところで浄化されるわけもない。それはツバキはん自身よう分かっとることやろ? ヤマトはんかて分かっとるやろなあ。ツバキはんが義務感と罪悪感に塗れて足掻いとるの見て楽しんどるだけなんとちゃう? あのお人」

 それは、一般の人間の考えることだ。
 そして、ツヅキはヤマトがそんな人間ではないことを知って、あえてツバキを挑発するためにそんな発言をしているのだ。ヤマトに忠誠を誓うツバキを怒らせたいがために。
 本当のヤマトを知っているくせに、そうやって貶めるように言うことは許さない。ツバキは鋭くツヅキを見据え、一歩ずつ歩み寄っていく。

「私のことをどうこう仰るのは構いませんが、お父様のことを適当に発言するのは許しません。私はお父様を心から信じていますもの」

 ヤマトはそんな人間ではないが、ヤマトがもしツバキを見てただ楽しんでいるだけだったとしても、それはそれで仕方ないと思うし、自分を救ってくれたヤマトがそうしたいのなら構わないと思う。
 けれどヤマトはツバキを娘だと言ったのだ。父が娘をそんな目で見るはずが無い。

「そんな風に私を見て楽しんでらっしゃるのは貴方でしょう、ツヅキさん? どうとでもお好きなように考えればいいですわ。けれど私は、私を救って下さったお父様を心から信頼して、この国に尽くすだけ。それだけです。……では、失礼します」

 言いたいことはすべて言い切った。ツヅキの横を、凛とした表情で通り抜ける。本当に、ツバキにとってこの生活は、仕事は、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

「どうぞ、ごゆっくり?」

 部屋を出ると同時にツヅキがからかうような口調で言う。
 ツバキは立ち止まって振り向くと、少しも睨まずにやわらかな笑顔を返した。
 やはり、この男は好きになれない。寧ろ、大嫌いだ。


2008.07.10(Thu) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

19――the Answer


 頭が、痛い。
 痛いほどに体が熱い。
 痛いほど、心臓が脈打っているのが分かる。
 叫びだしたいくらいの激痛が体中に走る。けれど、叫んだりすれば目の前のルカの命はないだろう。

 ――俺が守る。ルカさんは絶対、俺が守る。

 ここでルカを失うわけにはいかなかった。折角砂漠を出て、少しはあの国に近づけたかもしれないのに、こんなところで訳も分からずにルカを失うわけにはいかない。
 左胸をきつく押さえて、唇を噛み締めてシンゴは考えた。
 明け方の砂漠。疑問の答え。その答えには、痛みを伴わなければ手が届かない。それを知るのは自分だけでいい。ルカはどうか知らないままでいて欲しい。

『それを知らなきゃ、知っていなきゃ、俺はいつか大事なことを間違えそうな気がする』

 そう言ったあの日の自分に言ってやりたい。今がそれを知るときだ。
 俺は間違わない。間違えたりしない。
 あの男の言葉は正しい。正しいということを忘れてはいけない。決して逃げてはいけない。


 誰かのために人を殺すことは、できるんだろうか?


 手に触れる束の無機質さ、重さ。もう握りなれたそれをいつも以上に強く掴んで引き抜く。
 温かく赤い空間に、シンゴの意識は埋もれていった。




 まだガンガンと鈍器で頭を殴られるような痛みと、額に触れる冷たさでシンゴは薄く目を開いた。

「う、……っ」

 灰色の天井。薄暗くて、物静かな部屋。やわらかな寝台。

「あら、お目覚めですか?」

 それに、凛と通る声。
 ゆっくりと目を動かすと、緩く波打つ長い黒髪が見えた。その黒髪の少女は全身を真っ白な服で覆っている。彼女は優しく微笑んで、シンゴの額に置かれた布巾を取って再び水に浸した。
 いつか見た時よりも大人びた表情。しかし、その穏やかな微笑みは変わっていない。

「……?」

 いつか見た?
 見たはずはない。この少女とはどう考えたって初対面だ。
 
「こんな急性発症はなかなかお目にかかれませんわ。……ツヅキさん、そこの注射器取っていただけます?」
「哀れな旅の青年を薬漬けにしようやなんてさっすがやなぁ」

 気品高そうな少女の後方から、あまり聞き慣れない口調で喋る男の声。注射器を少女に手渡してひょっこりと顔を出した男は鮮やかな金髪の持ち主で、寝台に横たわったままのシンゴは、またか、と心の中で呟いた。

「人聞きの悪い。ちゃんと調合していますもの。副作用もあまりないはずですし、余程摂取しなければ薬漬けになることなんてありませんわ」

 安心して下さい、と少女はシンゴの左腕をとって、軽く皮膚の表面を消毒してから、針の先を沈めていく。注射器の中の液体が少しずつ体内に注入されていくのがよくわかった。
 心理的な効果からか頭痛が緩和された気のする一方で、シンゴはじっと目の前の少女を見る。一体、どこで会ったのか。会ったのではなくすれ違ったとか、それだけかもしれない。けれどそう昔の話でもないような気がするのだ。

「……あ」

 そうか。
 ほんの半日前だ。リョウの手によって描かれた、母親と娘の絵。その娘の姿にそっくりなのだ。長くて、緩く波打つ黒髪。年齢の割に大人びた微笑。大人びているとはいってもシンゴよりは年下だろうし、リョウが話していた年齢とも合致しそうだ。

「……君、」

 シンゴが声を掛けると、はい? と少女も応える。
 液体はやっとすべてが体内に入ったらしい。
 ――彼女の名前は、確か。

「……名前、……ルナ?」

 その短い名前を呟いた途端、シンゴの腕から針を抜こうとしていた少女は酷く動揺したようで、腕に沈んだままの針が抜けずに中でブレた。鋭い痛みが左腕を駆ける。

「っ、つ……!!」
「あ、す、すみません……!」

 少女は慌てた口調で謝りつつも、冷静に針を抜く。普通に注射するよりも多く血の滲んだ傷口にガーゼを当てながら、彼女は深く息を吸った。

「……貴方は、誰かと勘違いなさっているようですわ。名乗らせていただきますと、私はツバキと申します。お見知りおきを」
「ツバキ……?」

 別人なのか、と納得しようとしたところで、ツバキの後ろから例の金髪の男がずいっと出張ってくる。

「ほんでもって俺はツヅキや! よろしゅうなv」
「で、ツヅキ……?」

 音が似ていてややこしい。自己紹介を終えて満足したのか、ツヅキは「邪魔ですわ」とのツバキの小言に大人しく従って壁に寄りかかり、黙った。
 ツバキは寝台の脇の小さな椅子に腰掛け、どうやらシンゴの看護をしてくれるらしい。年下の女の子に面倒を看られるというのは、妹に世話をかけているようで何だかくすぐったかった。途端、ちくりとまた頭痛が襲ったが、以前のような痛みではなく、先ほどの薬でそれなりに緩和されているらしい。
 シンゴはもう一度目を動かして部屋の全体を見回した。彼女くらいのサイズの服が壁や椅子にかけられているところを見ると、ここは彼女の自室なのだろう。そんなに広い部屋ではない。窓がシンゴのいる寝台の側の壁にひとつ、それから向かいの壁にひとつ。そちらには部屋の割りに大きめの立派な机が置いてあり、彼女の容姿からはおよそ想像もつかないほどに散らかっている。その全てが書類やら本の類らしい。彼女も勉強家なのだろうか。
 そもそも、ここはどこなのか。普通に考えれば捕らえられたということなのだろうが、何故彼女の部屋に?

「……記憶は? 薬が効いてきていると思いますけれど、お体は大丈夫でしょうか?」

 ツバキの声で、そちらに目を戻す。先刻の薬は眠くなるようなものではないらしい。ただ純粋に痛みだけが緩和されている。もう大丈夫だろうとシンゴは上半身を起こした。

「おかげさまで体は平気。記憶、は、」

 フラッシュバック。
 鮮血。振り下ろした剣の重みと、皮膚を裂き骨を砕く鈍い感触。
 ――あの男を殺すことに、何の迷いもなかった。
 分かっていた。やはり答えは同じだった。綺麗事を言っていては帰せないのだ。

「……記憶、も、大丈夫。ちゃんと、分かってる」

 ツバキも事の経緯は承知しているのだろう。そうですか、と目を伏せた。
 体のことを気遣ってくれるのはありがたい。けれどそう酷いものでもないのだ。確かに時折襲ってくる頭痛は激しいものがあるが、単に過労のためだろうと思うし、それよりもシンゴには重大なことがあった。

「俺シンゴって言うんだけど、俺と一緒にいた、もう一人の、……ルカさんは?」

 ルカの安否が一番気になる。
 ちゃんと守れたのだろうか。ここにいないということは、無事ということなのかそうではないということなのか。
 その気持ちが簡単に表情に出ていたらしく、ツバキはくすくす笑って黒髪を揺らした。

「お連れの方でしたら別室でお話を伺っています。もう少しできっとおいでになりますわ。それまで短いですけれど体を休めてください」
「別室、……じゃあ、無事、なんだよな?」
「ええ。ですからそんなに心配なさらなくても。ちゃんとこちらにいらっしゃいますから」

 明らかに自分より年下の少女にそう諭されてはシンゴとしても少し恥ずかしい。ここは大人しく彼女の言葉を信じて休んでいることにした。
 ――それにしても。
 彼女は自らをツバキであると名乗ったが、やはりあの絵の面影によく似ている。あの母親の面影も色濃く残っている。先ほどの動揺を見ても、彼女がリョウの娘であると考えてきっと間違いないだろう。もしそうだとするならば、この国の最高権力者が彼女の母を殺し、彼女を攫ったというのか。なら何故、母を殺したような人間の下に彼女は身を置き、こうして捕らえたはずのシンゴの看護などをしているのか。意味がわからない。

「……お偉いさんのお出ましや」

 壁に凭れていたツヅキがぽつりと呟くと、部屋の扉が音を立てて開いた。
 寝台からその様子を見ていると、扉の向こうからはルカ、それからその後ろに大柄な男――こちらはツバキと違って本当に見覚えがある。

「! あ、……あんたっ、砂漠の、」
「よう、久々だな。調子はどうだ」
「ちょ、え、何であんたがっ!!」

 一番最初に砂漠に着いて、ルカが倒れ、一人で町まで赴いたシンゴからあの不思議な植物の葉を買い取った男。シンゴが砂漠の者でないと見抜いた男。あの時の男とこんな所で再会するとは、夢にも思っていなかった。

「ま、ツバキが調合した薬使ってんだから大丈夫だな、今のところは」
「勿論です。任されている以上、何かあるなんてことは万に一つもありません」
「……ツバキ?」

 ルカが男に問う。その後シンゴに目を合わせてきたので、シンゴは黙ってツバキに視線を向けた。金髪の男の方でないことは分かっているらしい。ツバキはルカの視線を受けると椅子から立ち上がり、あの絵の中と同じ穏やかな微笑みで一礼して見せた。
 それで、ルカも絵の中の少女を思い出したらしい。驚いたようにシンゴを見る。

「ルカさん、でよろしかったですか?」

 ツバキの問いかけに、ルカは跳ねるように視線を彼女に戻して、頷いた。

「そちらのシンゴさんのお友達ですわね。初めまして、私はそちらのヤマト議長の長女、ツバキと申します」

 さらりと流れるようなツバキの言葉に時間が止まる。シンゴも聞いていないような事実が含まれていなかっただろうか?
 再び時を動かすきっかけとなったのはツヅキの吹き出した声だった。

「っははははは、なんや、この口上何べん聞いてもおもろいなー!!」
「おーいツヅキー、口は慎まないと怒るぞー」
「お父様はそろそろこの方の処分をしっかり考えるべきですわ! こんな得体の知れない人を一番近くに置いておくなんて言語道断です! それに、私は事実を述べているだけです。貴方を面白がらせるようなことはひとつも口にしておりません」
「俺かて事実を包み隠さず言うてるだけどす。どー考えたっておっかしいやろ、なあルカはん?」

 急に話を振られたルカはそれにも驚いたようだった。しかし、確認するようにツバキの顔を眺め、それからヤマトの方に向き直って口を開いた。

「……娘?」
「そうだ」
「……あんた、俺と大して年変わらないように見えるんだけど?」

 少なくとも、ルカより年下には見えない。けれど、年上と言ってもそこまで離れているわけではないだろう。二十になっているか、なっていないか。それくらいが妥当なように見えた。その男の娘がおそらく十四、五なんて普通にはとても考えられない事態だ。

「あ、……お前な、養女に決まってんだろ。言っとくけど俺はまだ十八だ。この年で十四の実父ってどんな超人だ、馬鹿」
「んなこと分かってる!! 誰がそんな馬鹿な想像するか!! 普通妹だろっつってんだ! 十も離れてない娘があるか!!」
「いや、娘だ。それでも、どうしても、な」

 シンゴの隣で、ツバキが嬉しそうに笑った。それが不服なのか、ツヅキは面白くなさそうな顔をしている。
 ――この男にも、何か絶対に譲れないものがあるのだろうか。
 この男に同じ質問をしたら、何と返ってくるのだろうか。 
 

 誰かのために人を殺すことは、できるんだろうか? 赦されるのだろうか?


 冷えた朝の砂漠。砂の流れる音。煌きだす太陽。
 (風の囁く声。)
 冷たく突き刺さる言葉。金色の盗賊。
 (大好きな旋律。)


「ッ、く、うあ、あ、」


 ずきずきとまた頭が痛み出す。痛がる必要なんてないのに。
 もう答えは出たじゃないか。答えを握り締めてこの土地に来たんじゃないか。

「……ツバキはん、ちょーっとヤバいんとちゃう?」

 遠くでツヅキたちの会話が聞こえた。

「……どうしましょう、お父様。あまり薬に慣れさせるのはお勧めできません」
「……取りあえず寝かせとけ。それくらいなら問題ないだろ?」
「平気なのかよ、シンゴは……」

 ルカに心配されている。
 もう進めるのに。大丈夫なのに。

「……お前がいる限り平気だ、多分」

 ――そう、ルカが無事でいる限り自分は何度でも立ち上がれる。
 自分でそう主張しようと思ったのに、ちくりと腕に痛みを感じたと思うと、頭の痛みと一緒に意識が泥のように溶けていく。


 流れ出す赤の温かさ。
 骨の砕ける音、感触。


『無差別に人殺しするような輩より、てめぇの方が余程得体が知れなくて――気色悪ぃ』


 ああ、それは、俺も。俺も、そう思うんだ。
 溶けていく意識の中で、もう何度目かになる肯定の返事をした。



2008.07.10(Thu) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

それはちょっと

B'zの「Calling」ってラブソング?
私には友情ソングにしか聞こえないんだけども。
ていうかそうだったらかなりいろいろとツボりそうだよ!!
コンビっぽい歌も探したいなあと思うのですがどうすれば。片っ端からいろいろ検索してみるっきゃないかなあ。

先進めたいけど下書きばっかり進んでてもなあ、と思う私。
主人公らしくルカを立ててやりたいんだけどいかんせんリベリオンの芹沢一家に愛着湧きすぎた。(笑)
ルカは搾取されたり奪われることが今まで多すぎて、与えられることにも慣れてないけど、何よりも与えることに飢えている気がする。
奪われるんじゃなくて、自分の意思で与えてみたいとか思ってるから、治癒の術には本質的に向いてるような、感じ?
奪われることに慣れすぎてるから、自分が奪うことについても、覚悟してるとか言ってても躊躇がある。からあまり攻撃的なのは向かないんだろうなあ。炎とか似合わない顔してるしね!ルカはあの世界のうちのキャラの中では一番特殊な環境を持ってるような。
まあ、つまりやっぱり甘いんだろうなあ。自分の心情を相手に適用できることは大体いいことだけど、自分の命がかかる場面でそうなっちゃうのは単なる馬鹿だ。とはいえ、最後まで殺さないってのが主人公の特権であり美徳という奴か。

なんかそんな感じのルカとヒサさんのやり取りだとか、そんなルカとは対照的に厳しくならざるをえなかったシンゴとか楽しいな。
最後の日にケレスさんに挑んでくシンゴはいつか書きたいんだけど私の能力的に無理!(爽)

やっぱりB'zのCallingいいよなあ……。

2008.07.09(Wed) | 未分類 | cm(0) | tb(0) |

疲れた…
中東の間ずっとルミとツヅキ君の話書いてて、いい加減手が痛いです。
更にバカップルさが強調されました。どうしようもないです。

大和は普通に未来話でできなかったところをリベリオンで全部フォローできそうな気がします。
親子関係と恋人関係はあれでいい気がしてきた。
終わりの見えてる戦いって燃えるじゃないか。

あ、図書館バイト来週休むって言ってない…。
そして何故通準が練馬に停まることになったのか。謎だ。


日テレの大脱走のドラマ見てて、うちのキャラはどう考えるんだろうなあと思ってみた。
ルカとかシンゴは確実に大泉型なんだろうな。けどヤマトは軍曹タイプってよりはやっぱり中立的なのかなあ。国のために死ぬっていうのも分かってるし義務だとも思うだろうけど、魂だけはくれてやらないのがヤマトさん。
もうあれなんだ、武士道を地で行くのがきっと大和なんだ。愛情表現も日本的だろう!(子供に対してだけ)
打ち込みやらないとなあ。ルカの術云々の話も書きたいんだけど、取りあえずやること終わってからで。

2008.07.08(Tue) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

設定だけ設定だけ。


実際に書き始めると楽しくなくなるから設定だけ考えるの巻。
大和の婚約者さんが通ってるような学校を作りたかったってのの延長線。


まあ、ツキ高とホシ高の焼き直しみたいなもんですが。
ツキ高から何駅か離れた土地に、男子校と女子校があって、どっちも歴史ある由緒正しい学校なんだけど、元々創立者が親戚同士でもって現理事長がいとこ同士とかで、何故か合併することに。(その辺適当)
しかしここの学校同士は昔から仲が悪い。体育祭とかのイベントをいつも合同でやるから、応援マナーとかいちいちお互い癇に障るらしい。とにかく仲が悪い。
それが合併するってんで生徒達大騒ぎでして、これから奴らと一緒に授業受けるのかよふざけんなバカじゃねぇの、みたいになって、結局関心はどっちの学校の生徒が新しい学校でリーダーシップを取るのかというところに落ち着く。
なので合併に先んじて、新しい学校の生徒会役員を決めることになりました。新生徒会は、両校の現生徒会役員から選挙で選ばれるので、この選挙で生徒会長の座についた人の学校が実質合併後に主導権を握れるという。
だけど会長さんに問題があるのは当然で、金持ちのお嬢さんばっかいる学校で、女子校の会長は庶民出でガサツで超鈍感。男子校の会長は極度の面倒くさがりやで高飛車でその上ホモ。
なのに両校の副会長さん同士は何故か熱愛中、っていうカオス。


っていう話を考えました。
ちなみに女子校の副会長さんが大和の婚約者なんですよきっと。
最初百合っぽい展開でもいいかなあと思ったんだけど、せっかくだから男子校と対立させた。
で、女子校の会長さんは高等部から女子校入って、実はツキ高が第一志望だったんだけど不合格で、って感じか。
楽しいなあ。
ツキ高とかをたまに軽く絡ませるくらいならいいんだけど、ほとんどを完全オリキャラでやってみたいなあと思ったりします。
ただ落書きしづらいっていう。男キャラ書けないっていう。
けどキャラ考えるのは楽しいです。


リベリオンの打ち込みもやらないとなああああああ。
いつ終わるんだあれ。
旅行の夜は大ネタバレ大会になりそうな予感がします。(笑)

2008.07.07(Mon) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

新キャラさんみたいな。


大和の婚約者筆頭候補のお嬢様が通ってるような女学校を作りたいんだけど。(突然)
でもみんながみんな超お嬢様ってんじゃなくて普通の子も欲しいっていうか。
作って満足したいだけなんで別に書きたいわけじゃないんだけど、うーん。

女の子キャラで大和みたいな考え方する子が欲しいなって!(絶対無理)

絶対無理だと思っていつつも、残酷性無視ならいける気がする。
大和の考え方って限りなく女性的な気がしないでもないのでそのせいか。別に女系一家ってわけでもないのになあ。身近にいたのがお姉さんだからかも?
全然関係ないけどバイトから帰ってきたら鼻血が止まらなくて大爆笑しました。(何)


ルカの設定を一応もうちょっと詰めようと思ってたのに、ルカはその後しか想像できん。
ヤマトと一緒にいてどの程度大きくなってくれるかもわかんないし。
リベリオンのヤマトには本気で友達いないくさいから(笑)、友達づきあいしてやってほしい。
ある面でヤマトのことわかっててくれて、けど全部を納得することはできなくていい。ヤマトさん極端なんで自分と自分の本当に大事な人以外はみんな死んでもいいとか思ってるけど、ルカはきっとそれには同意できないと思う。
ルカが納得できない部分を、癪だけど理解してくれるのがエンジ君だったら楽しいなあ。
こいつら絶対その後の方が楽しいじゃないか……!!
キャラ間の距離が近い分、家族じみたやりとりが書きやすそう。(きっと書けない)
砂漠ってだって頑張ってもものすごくぎこちない感じするじゃない……!
私賢くないので嫌味ってどう書いたら効果的なのかわかんないんですよね!(何)
「あー、ここでツヅキ君絶対嫌味言うし」とか思ってても何言ってるのかは空白で。
この前のヤマトとルミの話も、ルミがツヅキ君捕まえて白状させた、って、あの時絶対めちゃめちゃ嫌味言ってるよ!! とか思ってても何言ってるのk(略)
でもヤマトは完璧スルーだし、ルミもヤマトに「誰に何言われても俺だけ信じてればいい」って死ぬほど言われてると思うからムカついてもスルーしてそう。ツバキはまだ若いけど奴なら口で対抗しそうだし。つまんねぇ奴らだな……!!
強いて言うならアンドゥー相手かな! あれ楽しかったです!(爽)


次に集まる時までに本編ひとつとinterludeひとつくらい進めるかな。
ツバキと教会出しておきたいだけです。エンジ君相手にしてるときのツバキが、未来話の椿と違いすぎてどうしよう。誰この素直な子。

2008.07.06(Sun) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

あれですよね(笑)


誰の女性キャラをとってみても、なかなか単に可愛いだけの子ってのはいない気がする。
全員強かではないか。(笑)
ていうか男性キャラ陣が尻に敷かれすぎなんだよもう!


これからいろいろ書こうとは思ってるんだけども、ヤマトのあの国は法律はあるけど全部慣習法で、その上不文法という設定があります。
あの土地じゃあどこかに移住するっていうのも相当の覚悟が必要だから、新しい人も来なければいなくなる人も少ないのでわざわざ成文化する必要がなかったんだろうと思う。
そこを今度ヤマトが成文化するってんで起草作業云々とかあるけど私のやる気がどこまで続くかわからないので、どこまで書けるかはわからない。
しかし花を踏んだら処罰されるってことも慣習法になってるとするなら、あれよりも前にもっとすごいことがあったんだろうと思う。それは多分ブチ切れたヤマトが直々に公衆の面前とかで処刑してると思うから、インパクトもあったしあちこちに噂が飛ぶのも早かったんじゃなかろうか。
ツヅキ君が来た直後とかが一番ぽいかなあ、と思ってみる。ヤマトは設定ばっかり走ってカッコよくなるけど、実態はただのダメ男だということを忘れてはいけません。
全部推測なのは多分細かいこと決めるの面倒だからです!(爽)


騎士道物語に手出したい。(いつまで言ってる)


ヤマトの設定ばっか決めてて肝心の主人公の装備が全然なってないという!(笑)
今ツバキの話書いててやっと教会出せたので、エンジ君の設定とかも考え出したんだけど、その分いつも主人公が疎かに!
ルカはあれ以上に制限加えられそうにないからなあ。
ルカは多分最弱だけど、ヤマトやシンゴとは違うベクトルの強さを持っているんだと思います。
もうこれ以上ない底辺を知っているから、あとは上っていくことしかできない。底辺を知らなければ、どれくらい底が深いのかわかってないから落ちるのが怖くて仕方ない。けどルカは現在地からどれくらい落ちたら底辺なのかを知ってるから、落ちること自体はもう全然怖くない。落ちたくないだけで。
だからルカをどうしても見下してしまう一方で、そういう強さには憧れていそうな気がする。
単にルカに主人公らしさを加えたいだけです。一応主人公なんだろお前、と。


ヤマトの国が選挙で元首選んだりしたらどうなるんだろう。
ヤマトとか落選したら即ルミ連れて国を出ると思うんだけど。
カリスマ性はあるかもしれないけど、そういうことしたい子じゃないのよあの子。
図体でかいけどひっそりつつましく暮らせればそれでいいのよあの子。


2008.07.05(Sat) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

うわ。

interludeの数字間違えてる(笑)
後で直そう。

ヤマトが何で盗賊さんに執着してるのか考え中です。単に気に食わないから、とか、国家元首として、とかでもいいけど、昔間接的になんかあったんじゃないかなあとか。
けどそれが何か分からない…!
難しいなあ。
その辺も来週に!!

2008.07.04(Fri) | 未分類 | cm(0) | tb(0) |

interlude-Ⅶ ――snowy night


 それは、控えめに雪のちらつく真夜中だった。

「ヤーマートー……!!!」

 聞きなれた声が背中にぶつけられ、まずい、とヤマトはゆっくりと首だけ振り向いた。屈んで土を掘っている体勢では、体ごとふりむくことができなかったのだ。
 思った通り声の主はヤマトの最愛の人物で、その表情は不機嫌そのもの。それも仕方ないことか、とヤマトはため息をついた。

「……一応聞くが、何でここにいる?」

 余計怒らせることはわかっていたけれど、聞いてみた。
 案の定彼女は更に不機嫌そうな表情になる。これは三日くらい同じ寝台で寝かせてくれないかもしれない。

「いっつもいっつもいーっつも部屋に戻ってくるの遅いから、そんなに会議って長引くもんなのかと思ってツヅキ君捕まえたの! 簡単に白状してくれたわよ!」
「ったく、余計なことを……」
「何が余計よ! 種蒔くのは週一回、あたしと一緒にって言ってたじゃない!」

 確かに言った。ルミをこの屋敷に無理矢理連れてきた頃からの約束だった。これまでも週一回は欠かさず一緒に雪の下の土を掘り返し、少しずつ種を蒔いていたのだ。
 けれどヤマトはその週一回以外も暇があれば夜中にひとりで種を蒔く作業を行っていた。ルミに嘘をつくつもりは毛頭ない。ちゃんと週一回一緒に作業するという約束は破っていないのだから。

「ち・な・み・に、屁理屈言ったら怒るわよ……?」
「……流石。お見通しか」
「当然。何年一緒にいると思ってるのよ」
 
 そう先手を打たれては仕方ない。これは嘘ではなく屁理屈に分類されるのだ。
 ヤマトは立ち上がり、素直に頭を下げた。

「悪かった」

 ヤマトだって、毎日こうして一緒に作業ができればいいと思っている。ルミも花が好きなことは十分わかっているし、だからこそ惹かれたという事実もある。
 ただ、親元から無理矢理引き離してヤマトの自己満足のためにこうして屋敷に囲っているのだ。万が一にも風邪を引かせるような真似はできない。吹雪でないと言っても夜中になれば昼間よりぐっと気温は下がる。毎日のように外に出すわけにはいかなかった。
 目に見えてヤマトよりも薄着のルミに自分の外套を掛けてやる。わざわざ上着を持ってくるのも忘れるほど怒っていたのか、心配してくれたのか。どちらにしろ嬉しいことではあった。

「……何もこんな時間にひとりでやることないじゃない」
「仕方ないだろ。昼間は無駄に忙しいんだ」
「それは分かってる。……あたしの体心配してくれるのはいいけど、あんただって一応人間なんだから風邪引くわよ。少しくらい休まないと」

 そのひとことで、ここまで来てくれたルミがただヤマトを案じていたということが分かった。ここは町の中ではあるが、屋敷からは多少距離がある。町全体が寝静まっているこんな時間では、体感温度もずっと低いだろうに。
 ヤマトはルミに着せた外套のフードをルミの頭に被せて、雪が積もるのを防いでやる。

「そんな心配されるなんて俺も愛されてるねー」
「か、からかわないでよっ」
「別にからかってない。お前いなかったら倒れんじゃねぇかってくらい多忙なのは事実だし、な」

 ルミは言葉に詰まってそっぽを向いたようだった。
 すべて事実なのに、何を照れることがあろうか。本当のことだ。ルミの存在がなければこの多忙な毎日は送れない。彼女が傍にいてくれると言うのなら、この国の人間全員が死んだってヤマトの世界はおそらくは保たれるだろう。けれど、それはルミが望まない。それを分かっているから、自分の責務はきちんと果たそうと思っているだけで。

「お前は先に部屋戻ってろ。俺もすぐ戻るから。風邪でも引かれたらおじさんとおばさんに合わせる顔がない」
「嫌。あたしに黙って種蒔いてた罰!」

 ルミはヤマトの腰に下がっている小さな皮袋を奪い取ると、子供のように笑って見せた。袋の中には、各地から集めた花の種がたくさん入っている。どれがどんな花を咲かせるのか、咲くまでわからない。咲くまで待つのが、冬の国で暮らす二人のささやかな楽しみだった。

「……大丈夫よ。そんなに体弱くないんだから。あんたは心配しすぎなの」

 確かにそうなのだろう。自分だけのものにしてしまいたいと強く思う一方で、自分だけのものではないという事実がヤマトの脳裏にいつも過ぎる。大切にしないと、と思いすぎてルミに苦しい思いをさせたかもしれない。

「ね、これそこに蒔いていいの?」
「……ああ」
 
 ヤマトが観念したと分かると、ルミは袋に手を入れて、ほんの一つまみの種をヤマトが掘った穴に蒔いた。
 大きな屋敷の中の、ヤマトの大きな部屋。普段そこでしか生活できないルミにとっては、週に一度、こうして外で大好きな花を植えることが何よりの気分転換で、楽しみだったに違いないのだ。その証拠に、たった一つまみの種を植えるだけなのに、ルミの表情はどこまでも楽しそうだ。

「半年くらいかな?」
「だろうな」
「楽しみだね、花が咲くまで」

 ああ、と頷く。
 ルミの前ではあまりにも素直な自分に気色悪さを感じることも多々ある。
 けれど、花が咲くのを本当に楽しみに思うのだ。それと同時に、彼女への愛しさも当然に募っていく。
 一度にたくさんの作業を行わない二人は、その後二箇所ほど穴を掘って種を蒔いては上から土を被せる作業を重ねた。一通りの作業が終わり、穴を埋め終わった箇所の表面を手でぽんぽんと叩く。すぐにうっすらと雪が積もっていた。

「今度は庭だ」

 近くに置いていた麻袋を担ぐと、ルミに声をかける。
 ルミはすぐに麻袋の正体に気付いたようで、屋敷に向かって歩き始めるヤマトに小走りでついてきた。

「それって、砂漠であの男の子から超安値で買った植物兵器?」
「人聞きの悪い。戦争しようってんじゃないぞ」

 人を虐げたり、痛めつけたりするのは確かに気分がいいが、だからってヤマトは戦争をしたいと思ったことがなかった。戦争のために別にエリアを設けるとか、相手側の陣地でだけ戦えるというのなら考えても良いが、この土地や、二人で植えた花を踏み躙られると思うと我慢がならない。

「……株分け、できないかと思ってな。大抵の怪我や病は治せるとんでもない植物だ。古い本に、葉だけで株分けできるくらいの生命力って書いてあったし」
「株分け、って……良からぬことに使うの?」

 その言葉には少々ヤマトもがっくりきた。戦争はしないと言っているのに。国としての利潤を血眼になって追求しているのは年寄り連中ばかりで、ヤマト自身はそこまで固執していないのだ。

「ばーか」

 歩きながら、ヤマトは懐から古い紙切れを取り出してルミに手渡した。
 小さく折りたたまれたそれを、慎重に開いていく。少し力が入れば破れてしまいそうだ。
 開くと、ルミは小さく、わあ、と声を上げた。

「綺麗な花が咲くんだそうだ。木だから栽培に何年かかるかわかんないけどな。実際に見てみたいもんだから、今成分の解析させてるところだ」

 古い本の切り抜きの隅に、絵の具か何かで描かれたその花。鮮やかな色。
 この花を実際に、二人で見てみたい。ヤマトの考えはただそれだけだった。
 大真面目に言った台詞だったが、ルミは紙切れを手にくすくす笑っている。

「何だよ」
「え? ……ふふっ、本当にそれだけ?」
「それだけだ。他に何がある?」
「ううん。ヤマトって偉いし偉そうなくせに、いっつもそうなんだなあ、って」
「良からぬこと考えててほしかったのか?」

 そんなわけないでしょー、とルミは首を振る。
 けれど、話の文脈からすればそういうことではないのだろうか。

「ヤマトのそういうところ、あたし好きなんだなあ、って思っただけ」
「限定的だな。全部の間違いだろ」
「あんまり自惚れてると怒るわよ?」

 そうは言っていても、ルミの顔はどことなく嬉しそうで。
 空いたヤマトの左手に自分の右手を重ねて、指を絡める。
 ヤマトは表情を少しも変えることなく、繋いだ手にぐっと力を込めた。



2008.07.04(Fri) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

どうでもいいんですが


最近大和ばっか書いてるのでいろいろ考えてしまうんですよ。
でもって女性関係あんまりちゃんと書いたことなかったんだけども、「こいつ女嫌いだ!!」と確信しました。元々好きじゃないんだろうな。え、あれですよ、いくらCV伊藤健太郎だからって芳賀みたいのじゃないですよ、奴はああいう変態ではないですからね!!(何)
結婚することもさせられることも別に嫌じゃないっていうか仕方ないことだとは思ってるだろうけど、好きか嫌いかどっちかって言われたら絶対嫌いなものだし。
中学まではともかくとして、高校入ってからは近寄る女が別目的だったりするから余計になんだろうなあ。流風が近くにいるから本当はそっち目当てとか。(って全部多分思い込んでるだけで、大和って第三者が表面的に見れば悪くないから本当はそうでもないんだと思う)

だから信用できる女っておねいさんかルミかだけなんじゃないのこの子。
紗央さんもそこまで好きってわけじゃないと思う。からかうのは面白いけど、結局自分からタっくんの面影見出してるだけなんだろうなあって思っちゃうんだろう。誰にも言わないけど。思ってるだけだけど。


ていうかルミってなんで大和にこんなに愛されてるんですか。
放課後とか学校で暴れてるっての知って、それで大和そのものに興味持ってくれたからなのかな。
怖いとかじゃなくて、不思議と思ったからなんだろうか。うーん。
しかしどっちもなかなか照れたりしないので書いてて楽しい二人ではある。ルミは最初戸惑ってそうだけどスルー覚えただろうしな……!!


点呼どんが楽しそうなことしゃべってたので、「やっちゃいなよ!」とエールを送ります!(笑)
そうか、コルシカ島か……。(週に二回もナポレオンって聞いてると頭おかしくなるんです)
あれだよね、相手がアンドゥーなら、どこぞのコードギアスみたいに「私の騎士になって!」とか言われるんだけど、自分器じゃないんで、とか言って断るんですよね。
で、クレメンティナちゃんの誕生祭かなんかを国を挙げてやるってんで急務とか言われて、アンドゥーみたいな子は断りきれないので(セオリー)、「騎士でなく護衛であれば」とか言って引き受けるんだ。人がきっかけを与えてくれると妄想は捗ります。なんなんだ私。


この前授業中にリベリオンキャラの年齢差をもそもそ考えてたんだけどどこいったかな。

2008.07.03(Thu) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

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