プロフィール

軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.--(--) | スポンサー広告 |

うわああああああああ



A-1ピクチャーが私を殺しに来た!!!!


ちょっと見ない間に何、誰あのキャラ!!!!!!!
顔に傷のあるすげえカッコいいオッサンキャラが中井和哉とか私を殺す気だろ絶対殺す気だろ、空気読みすぎだよタイミングよすぎだってやべえ超気になる!!!!
しかも皆川純子キャラと因縁あるっぽいやべえやべえ萌え殺される……!
ウェルキンが千葉さんだからテラしんせんぐみww
明日見返そうと思う。ヤバいヤバい。
そいで頑張ってタっくん妄想するww あんな低い声なのに中井和哉ってあんまりオッサンキャラやってるところを見ないです私。
三刀流の人も若いし、しんせんぐみの人も若いし、ガオモンは人外だし苦労キャラだし、六爪流の人も確かまだ10代じゃなかったかゲームの設定。ときメモGS2だって高校生だしクローバーのあの人もまだまだ若い! そういやクローバーって、杉田の部下が中井和哉とか声ネタで言えばどうしようもなくネタですね。
たまたまチャンネル変えてよかった……! 中井和哉のオッサンキャラとか諸手を上げて喜びます、どうしよう私PS3とヴァルキュリア欲しくなってきた!


ごくせんアニメもアニマックスで見たんですが、沢田の声鈴村www いやあ、無いわ
なんで主役松本梨香じゃないんだろう。なんであんな脇なんだ!? いえ、早水さん好きですけどねモモカン的な意味で。
アニぱらでうみねこ特集やってて見てしまった。おっぱいソムリエww 小野Dのバトラ、楽しみにしてます。赤文字がどう表現されるのか楽しみで仕方ないです。EP2好きすぎて。メタ世界好きすぎて。
おかんが、うみねこのなく頃に、ってタイトル聞いて、「年がら年中鳴いてるっつーの!!(青森県の海辺出身)」と言ってました。ツッコミ入れたら負け。



コテージ予約完了したんだぜ。
前金はないらしい。「コテージに着いたら電話ください」ってメールきてびっくりした。
聞きたいこともあるので電話で確認したらまた全体に連絡します。
ついでに言うと、会津若松まで1時間くらいだと思います。なので、会津若松か猪苗代でレンタカー借りればいいと思うんだけど、その辺もどっちがいいのか聞いてみる。
7人以上で宿泊だとちょっと安くなるので是非全員参加してほしいと思ってます。
洗濯機ついてるらしい。これは本気でPS2フラグか……?


スポンサーサイト

2009.06.30(Tue) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

ごめ、無理。



 仕事で遅くなるとだけ奈央に連絡を入れて、ある程度仕事を終えたら瀬川と一緒に安藤先生の部屋にお邪魔していたその日。いまだに俺を子供扱いする世話焼きの奈央のこと、帰宅すれば「誰といて何時くらいに帰るかくらい連絡くれてもいいじゃない」とでも言われるかと思っていたのだが、玄関のドアを開けてくれた奈央から小言が出てくる気配はない。

「機嫌いいな、紗央でも来たのか?」
「ううん」

 玄関からリビングまでの廊下を、奈央の後に着いて歩く。やはり奈央はいつもより機嫌がいい。
 リビングの食卓は栗皮色のクロスが敷かれ、それにナチュラルなベージュのディナーマットが三人分。卓の中央にはガラス製のフラワーベースに水が入れられ、赤い薔薇の花がふたつ浮いている。普段瀬川や紗央が来てもクロスを変えたりすることはないから、普段来ないような人間が訪ねてきたに違いない。

「さて、誰が来たでしょう? 当ててみて」

 相変わらずの上機嫌で奈央はそう問うけれど、さっぱり思い当たらない。奈央の交友関係はあまり広くないし、大体俺や瀬川と被っている。その俺と瀬川は安藤先生といたのだから、安藤先生ということは有り得ない。いや、思い当たる人物はいるのだけれど、ディナーマットが三枚引かれていることがネックだ。一枚は奈央として、その人物が他の人間といるところをなかなか想像できない。

「……清浦先生、とその執事」
「わ、その名前が出るとは思ってなかったよ」
「だよな」

 上着を脱いでソファーの側に置き、ネクタイを緩めながら腰を下ろすと、奈央はその隣に陣取る。どうにかして俺に答えを出させたいらしい。ということは、話のネタになるような意外な人物ということだろうか。でも俺だって想像力の限界がある。誰だよ、と声をかけると、降参したのが嬉しいのか満面の笑みを浮かべる。

「ヒントは、要さん」

 やっぱりだ。その名前はまず出るだろうなと思っていた。肝心のもう一人は全く浮かばないけれど。響にだって学生時代の知り合いだとかはいるだろう。その交友関係の中から、まとめて奈央が夕飯に招待できる相手なんているのだろうか。クリニックの関係者なら俺は知らないわけだが、問題にされているのだから俺も知っているはず。

「時間切れ、ってことで、正解は?」

 これ以上考えても埒が明かない。俺からそう切り出せば、奈央はくるりと表情を変えて不機嫌そうに頬を膨らませた。

「えー、つまんないよ、知ってる人最初から挙げてくかと思ったのに」
「俺が知っててお前が知らない相手なんてたくさんいるんだからやるだけ無駄だろ。ケレス先生とかだってお前会ったこと」
「はい正解っ」
「……は?」

 で、また笑顔に戻った。俺は相当驚いた顔をしているらしい。それが嬉しくて仕方ないのだろう、性格の悪い妹だ。

「今日ね、仕事終わって買い物して帰ったんだけど、クリニックに携帯忘れたの思い出して。荷物置いてからまた要さんのところ行ったんだけどね、要さんとケレス先生ふたりでお酒飲んでたみたいで」
「……で、招待?」
「要さんってお医者さんだけど不摂生でしょ? それで」

 それで。で、話が通ったつもりなのか。俺にはいまいち理解できない。響とケレス先生が知り合いなのは分かった(もちろん意外だけど)、奈央はクリニックで働いているし響の食生活には対瀬川よりもうるさい。そこまでは分かるが、これでは一方通行だ。奈央は確かに知り合いをよく食事に招待するけれど、初対面の人間をすぐに引っ張っていくタイプではない。会って話して誘いをかけて後日、というパターンが多いだろうが、そもそもケレス先生となんて会ったことないだろう、こいつ。

「あれ? 話したことなかったっけ、前に商店街の近くで会ってね、ちょっとお話したことあるんだよ」
「誰と」
「ケレス先生」

 瀬川が聞いたらぶっ飛びそうな発言だ。会ったことはなくとも有名な先生だ、見た目の特徴さえイメージできていればそりゃあ本人かどうかくらいはわかるだろうが、……ケレス先生と奈央、雰囲気的にも色合いとしても全然合わない二人だと思う。

「初耳」
「そっか。びっくり?」
「かなりな」

 取り合えず瀬川がこの話を聞かないことを願う。瀬川の耳に入ったらうるさそうだ、本人ではなく俺や紗央に。そうなると紗央が余計なことを言って更に騒がしくなるだろうから、それだけは避けたい。
 響にケレス先生、そりゃあなかなかうちになんか来ない面子だ。奈央が気合い入れる気持ちも分からないではない。洋食は紗央ちゃんの方がずっと上手いんだよね、と常々言っている奈央のことだ、外国人のケレス先生に食べてもらうのもいい機会だと思ったのだろう。紗央の方が上手いとか言ってるが、俺にはふたりの腕の違いなんてさしてわからなかったりする。本人たちがそう言って納得しているのならそれでいいだろう、くらいの気持ちだ。

「要さんとケレス先生が揃うと、すごーくインテリって感じの雰囲気になるよね。空君と理央じゃ、ああはならないなぁ」
「悪かったな、低学歴で」
「そんなこと言ってないよ。理央だって十分賢い先生だし」
「無理に褒めなくていいっての」

 響は医者だし、ケレス先生は聞くところによればあの名門大を飛び級で卒業したとかで、正直、なんで日本で教員なんかやってんだ? といまだに首を傾げてしまうような人だ。瀬川だって一応国立大卒ではあるが、世界的に有名な大学とはさすがに張れない。まあ、張り合うといっても化学と日本史で張り合えるわけがないのだが。
 そのインテリな雰囲気の中で奈央がどう立ち回れたのかは定かじゃない。奈央はあまり社交的とは言えないし、響だって人付き合いが上手いとは言えない。ケレス先生も、一度会っただけの女と会話しながら食事というのは難しかったのではないだろうか。せいぜい給仕係ってところだったのかもしれない。――ご機嫌だしそれはない、か。

「でもね、事前に準備してたわけじゃなくて急に呼んじゃったからちゃんとしたもの作れなくて。おいしいって言ってくれたけど、今度はちゃんとフルコース作るから! その時は理央、ご招待してね?」
「その時は俺も混ぜろよ」
「えへへ、理央いなくちゃあたし話についていけないもん」
「やっぱりな」
「ワインがおいしかったからちょっとは頑張れたけどね」
「……なるほど、俺に黙っていい思いしたから上機嫌ってわけか」

 横目で奈央を睨んでやると、えへへへ、と奈央が更に顔を綻ばせる。奈央は酒には強いから酔っているわけではないのだろうが、珍しい人を家に呼ぶことができて満足なのだろう。それはそれで、まあいいか、と思ってしまう。そんなだから理央って呼ばれるのよ、とまるで理不尽な紗央の怒りの声が聞こえた気がした。




2009.06.29(Mon) | 触発されました | cm(0) | tb(0) |

舌を噛んだ


痛い……。
『西洋紀聞』の担当箇所がどうやらスペイン継承戦争の話とかがあるらしい。どうしよう、そうだウィキペディアに行こう。軽く目通さないとまずいことは分かってるんだけどやる気にならないのは毛利が妖精さんだからだと思います。虹持ってとてちて走る毛利は妖精さんにしか見えない。
慶次にもお楽しみ武器買ってあげたけど、正直大武闘会制覇して最強武器持ってるのであんまり使えない。それでも強いけども。難易度ふつうで関ヶ原行ったらホンダム弱すぎるww 究極でやると徳川軍がなかなか撤退してくれないのが悔しいです。京都の町に飽きてきたので、最近は関ヶ原がお気に入りです。ハイカラのOPをBGMに慶次で出陣するだけで滾ります、なんつーイケメン……!!
いつき泣かしておろおろするアニキにきゅんとするのは私だけか。釣竿にライドオンするようなアニキがガキ苦手とか王道過ぎてきゅんきゅんする……!!(笑)


秋臼さんが忘れかけていたものの続きを書いてくれたので私も便乗しようかと思ったけどうまくいかなかった。理央奈央の対話で書いてるのに終わらないとか……!
シュプールの続きを書いてます。低音ボイスが似合う男になってくれ、タっくん。


2009.06.28(Sun) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |




「空が七五三じゃなかったことだけが意外だったわ」
「笑われるんじゃないかってギリギリまでビクビクしてたぞ、あいつ」

 式が終わった後、外の階段で新郎新婦が出てくるのを待つ。後はライスシャワーで送り出して、親しい人間だけで披露宴代わりのパーティーをする予定だ。ウェディングケーキはあたしが作ると前々から主張して、空も奈央も快諾してくれた。もう何ヶ月も前から構想を練って、昨日は一日かかって作った。どんなケーキかはサプライズってことで教えてないけど、ケーキを会場まで運んだ理央は相当苦労したらしい。

「……綺麗よね、奈央」
「羨ましいのか?」
「べっつにー? 着たかったら自分で作るわよ、あれくらい」
「強がりもそこまで行くと空しいぞ」
「強がりじゃないわよ。……奈央が、青い服似合うって言ってくれた。しばらくこれでいいわ、あんな綺麗なドレス、あたしには勿体無いもの」

 友人の結婚式には何度か参列したけれど、ここまで綺麗な式をあたしは見たことがない。誓いのキスで、空の手がそっと上げたベールの向こう、奈央が一筋だけ涙を流した。嬉しいとも寂しいとも、どんな形容詞も似つかわしくない涙。あたしも、多分、理央や他の参列者も、みんなそれをただ綺麗だと思っただろう。空はその涙を拭ってやることも、何もしなかった。奈央の相手は他の誰でもダメだっただろうと思った。あんな危うくて壊れそうな空気を醸し出す奈央を、ガキみたいな笑顔をひとつ作って全部受け止めてやれるのは、日本中世界中どこを探したってきっと空だけだ。羨ましいという気持ちさえ飛んでいくほど完璧な二人。

「でー? あんたはないの、浮いた話」
「あってもお前には言わない」
「何よ、照れてないでお姉さんに教えなさい?」
「誰がお姉さんだ、馬鹿」

 いつもの調子で理央が言う。そのお姉さんにずっとずっと迷惑かけられてたってのに、まったくお人好しだ。
 理央があたしとした約束をいつ思い出したのかは分からない。このダイヤのペンダントをくれたのだから、今はきっと覚えているのだろう。でも、絶対忘れていたはず。長く空白があった。そのままでいればよかったのに、このタイミングで思い出すなんてどこまでも苦労性だと思う。できることなら、理央も早く誰かと幸せになって欲しい。あたしや奈央の世話ばっかり焼いてないで、生徒の世話ばっかりしてないで、どうか理央にも幸せになってほしい。双子より三ヶ月だけ年上のあたしは、暗いけどどこか芯があった奈央より、打たれ弱くて脆そうに見える理央の方が余程心配で、いじめられてる理央を見かけては庇っていた。でも、あたしが苦しい時は庇ってほしかった。そんな小さな我が侭が、こんなに長く続く痛い約束を生むなんて思ってなかったから。
 理央にだって、幸せになってほしい。

「……これ、悪いわね。わざわざ貢いでもらっちゃって」
「調子に乗る前に言っとくけど、これっきりだからな」
「えー、あたしいろいろ欲しいものあったのに」
「ならそれ売り飛ばして好きなもの買えよ」
「そこまで言う? そんなに非道じゃないわよ」
「どうだか」

 これは大切な宝物だ。あの日もらったおもちゃの指輪が、大人になって進化したみたい。青い輝きを放つこの小さな石に、理央の気持ち全部が詰まってると思うと、あのおもちゃの指輪以上に手放せない。あたしの近くに誰かがいてくれる、その証明。理央は、あたしの近くにいてくれる。

「そういえば、……短いのも似合うな、紗央」
「でしょ? 新婦にはだいぶ劣るけど、参列者イチ光ってる自信あるわ」
「自分で言うのはどうかと思うけど、今日だから否定しないでやるよ」

 余裕ありげな上目線。理央のくせに生意気だ。何よ、と理央の肩を軽く叩いてすぐ、「あ!」と誰かが声をあげた。多分参列してる生徒の誰かだろう。声につられて視線を動かせば、教会の扉が開いたところだった。やっと二人を送り出せるらしい。
 真っ白な服がこれ以上なく似合う二人が腕を組んで、参列者の作る花道を通る。入り口に近いところにいた慎吾や大和は面白半分に米粒を空に投げつけている。空はいつもの調子で怒る。それを奈央がくすくす笑って見ている。なんとも微笑ましい。
 あたしと理央は家族だしそれなりに会話もしているから、軽く米粒を降らせてから一歩引いたところで、参列者と言葉を交わす二人を眺めていた。理央もここまでくると妹が心配だとかいう気持ちもあまりないらしい。いつもピリピリしてたくせに、今日はどこか清清しいくらい。空が弟だと思ったらあたしちょっとぞわっとするけど、こいつ分かってるのかしら?
 やがて花道を渡り終った奈央が、手にしていたブーケを高く放る。ブーケトスという奴だろうか。放物線を描く花束をぼんやり見つめる。そのままブーケは重力に逆らえずに落下――する前に、春一番さながらの突風が吹いた。奈央のドレスの裾がばたばたと大きくはためいて、ブーケも風に少し流されて軌道が変わる。それよりも、風のおかげで目が乾く。あたしはぎゅっと目を瞑った。

「おいおい、こんな洒落たモン貰っても使い道ねぇぞ?」

 どこかで聞いた、低く心地いい声。
 目を瞑っている間に、花束はどうやら軌道が変わって男の手に渡ってしまったらしい。まあ、男がブーケもらっても恥ずかしいだけなのかもしれない。
 十分瞳が潤ってから目を開ける。ブーケの花びらがさっきの強風でまだちらちらと舞っている。

「そこの青いドレスの姉ちゃん!」

 ああ、やっぱり聞き覚えのある声。夢で聞いた声。
 参列者の女性は皆黄色や桃色の春色を身に纏っていて、青なんてチョイスをしているのはあたしだけだったから、その『青いドレスの姉ちゃん』があたしであることはすぐにわかる。

「やるよ、あんたのが似合いだろ」

 背後から聞こえる声、それと同時に振り向くと、白い花びらがぱらぱらと降って、また放物線を描いたブーケが今度はあたしの腕の中に落ちる。
 何も見えない。ここはどこだっただろう。聞いたことのある声。あたしの腕の中にブーケがある。奈央の結婚式。でもあたしは高校生の頃。もう何年ひとりでいただろう。ここはどこなんだろう。夢なら早く覚めて、あたしは朝一番で髪を切りに行くの、もう縛られてる自分から脱出したい、もうここから一歩、最初の一歩を踏み出したいの。ここはどこなの。

「……行けよ」

 あたしの肩に手を置いた理央がそっとそう告げる。
 行けない、夢だもん絶対。有り得ない、有り得ない、有り得ない。
 居場所を調べて、何度も何度も電話番号を押して、それから電源を切った。手が震えてどうしようもなかった。怖かった。だから、声を聞けるのは、会えるのは、夢の中だけでいい。



 振り向いた視線の先に、ほんの少し驚いた表情の、あたしが一番あいたかった人がいるなんて、これが現実だなんて、どうせ覚める夢なんだから、あたしは絶対に信じない。





2009.06.26(Fri) | 初恋シュプール | cm(0) | tb(0) |

闇夜にひとつぶを



「あれ? 流風くんこんな時間にお出かけ?」
「んー、ガム切らしちゃってさ。あれないと仕事捗らないわけ。すぐ戻るよ」
「気をつけてね」
「あいよ」

 リビングの掛け時計が午後九時を告げた。部屋を出て階段を下り、リビングを横切った俺は奈央とそんな会話をする。
 ガムを切らすことなどほとんどない。いつも部屋にはボトルガムを常備しているからだ。ところが今日は、学校にそいつを持っていって置いてきてしまったから自室にガムがない。これはもうどっちにも置いとく手に出るほかなさそうだ。ジャケットの襟を正して玄関へ向かうと、どたどたとやかましい足音が近づいてくる。この家でこういう美しくない音を立てる人間なんてひとりしかいない。

「あたしも行くわ。護衛しなさい」
「出かけるならどーぞご勝手に。つーかお前警官なんだし寧ろ守って欲しいくらいなんですケド?」

 紗央に背を向けたままそう告げると思いっきり太ももを後ろから蹴られてつんのめる。この家で暴力的な人間はこいつしかいないし、加減を知らないのもこいつしかいない。加減する気がないんじゃなく、加減そのものを知らないのだ。

「ってぇ……、そんなだからその見てくれで男いないんだよ、いー加減自覚した方がいいと思うけど?」
「うるさいわね、必要ないもの今のところ」
「そうほざいてるうちに人間は年を取るんだよねぇ」
「あんたもね」
「俺には将来を誓い合うスイートハニーがいるから」
「誓い合う“予定”でしょ? あたしも理央もそんなに優しくないわよ?」

 続いて紗央が黒いパンプスを履く。どうやら本当に着いてくるらしい。
 マジかよ、と目で訴えているうちに紗央はさっさとドアを開いて、

「早くしないと置いてくわよ」

 立場逆転。めんどくせぇ女だ、ホント。




「で? どこ行くつもりだったの、あんた」
「あー? ボトルガムだし、コンビニで十分だろ」
「コンビニ行くならスーパーにしなさいよ。せっかく二十四時間営業してるんだし」
「どっちだって変わんないと思うけど」
「家庭持つ気があるなら『節約』『倹約』って言葉を覚えることね、流風クン?」

 春の終わり、夏は間近だが夜はまだまだ肌寒い。外灯の明かりもなんだかちかちかしていて心もとない感じがする。その中を歩く俺と紗央。目的地は近くの二十四時間営業のスーパーだ。
 元々接点ゼロだった俺たちがこうして買い物行くんだから不思議なもんだ。俺が鈴城家に居候するようになったのももちろん不思議なことだが、紗央が居候しているのもおかしな話だし。

「つーかお前何買いに行くわけ?」
「電池」
「なんで」
「部屋の掛け時計が動かなくって。あんた後で直してよ」
「やだ。そういうのはおにーさんの専門」
「雑用は居候のすることだ、って言われたわ」
「なら自分で直せば? お前も居候だろ」
「違うわよ、あんたと違って血繋がってるもの」
「人類みな兄弟って言葉もありますよ、おねーさん」
「は? あたしあんたと兄弟なんて死んでもごめんよ」
「……さいですか」

 この反応は多分そんな言葉自体聞いたことないんだろう。これだから馬鹿の相手は困るんだよなあ。
 紗央はそれなりに綺麗な奴だと思う。そのプラス要素をここまで下げる性格してんだからほんと珍しい。強気なだけならまだしも馬鹿でシスコンで、そんなんどーしろと。奈央は綺麗っていうより可愛い系だし、馬鹿なんじゃなくて抜けてるだけでオールプラス要素、ノープロブレム! 料理上手なのはどっちも同じだけど、多少血が繋がっててこれだけ違うってすげえな。

「時計、でちょっと思ったんだけど、」

 かつかつとパンプスのヒールを鳴らしながら、紗央が俺の顔を覗いて口を開く。

「時間、巻き戻せるならいつがいい?」
「巻き戻しねぇ……。俺、そーゆーのあんま好きじゃないのよ」
「なんで? 回りくどいことしないで、高校の時に奈央口説いちゃえばよかったじゃない」
「高校の頃告ったって多分断られてたよ。俺みたいのより、おにーさんとか瀬川の方が大事だったろうしね」

 意味わかんない、と紗央がつまらなそうに膨れる。でも事実だ。
 高校の頃もすげえ楽しかったし、大学入ってから奈央とちゃんと付き合うようになって、鈴城さんちに居候させてもらって、家族ごっこもできてるし、戻りたいなんて思わない。強いて言えば、巻き戻すならまた同じ生活を送って、今度はもう少し上手く瀬川に伝えられたらいい、とは思う。それだけ。時間を巻き戻しても、奈央と一緒にいるなら同じ生活を送らなければならないと思うから。

「紗央は?」
「あたしは高校の頃、戻りたいけどなあ」
「へー、まあ俺お前の高校時代とか残念なくらい興味が持てないんで」
「持って欲しいなんて思ってないわよ、あんたなんていっぺん死んだらいいのに」

 馬鹿は大概口が悪い。一日数回は口の端がひくひくするのを感じるわけで、俺は今猛烈に奈央に会いたい。紗央の母親の血はどんだけ凶悪なんだ。父方で血ぃ繋がってる理央奈央は清楚なおぼっちゃんお嬢ちゃんじゃないか。

「まあ、じゃああれだ、時計なんか直さないで針巻き戻してろよ。つーことで帰れ、イライラするから」
「馬鹿ね、電池ないんじゃ巻き戻したって止まったままじゃない。針が逆に向いて動くように作ってくれるわけ?」
「体感時間は戻せないけど針が逆に進むだけなら普通に十分可能ですけど」
「なんだ、それじゃあ面白くないわね」
「どこの誰が時間戻せるんだってーの」

 ああ、イライラする。こりゃ早くガムでも買って、帰りはなるべく会話をしないようにしなければ。
 時間を巻き戻せるなら、もうちょい早く家を出とくんだった。そんなとこか。



2009.06.25(Thu) | Title | cm(0) | tb(0) |

落椿 3


 この辺りには何も無いということに彼が気付いたのは、翌日のことだった。窓の外は一面の雪。自殺を試みたあの町並は見当たらない。世話をしに来た彼女に問うと、あの恐ろしく静かな町までは二十分程かかるのだと言う。

「雪がなければまだ違うのだろうが、この辺は冬が長いからな。まだ続くだろう」

 とのことで、この雪の中をあの小さな体で男一人運んだのかと驚愕した。

「町に仲がいい奴とかいるんじゃないのか?」

 流石に、この少女一人で男を運ぶのは無理があるだろう。そう思って彼は尋ねたが、

「何を言っているんだ。あの町で私に手を貸す者などいるはずがない」
「そう断言されても俺は頷けない」
「そうか、そうだったな」

 彼女にとって、手助けの手がないことは当然のことであり、最早そうであるのがおかしいとは思えない領域にまで達しているらしかった。それでもけろりとしているのだから、こんな辺鄙なところにひとりで住んでいても寂しいと思ったりすることはないらしい。

「父親が医者だと言ったな。家族は?」

 彼女に背を支えられながら彼は上体を起こした。家族、と彼女は呟くと、薄く笑みを浮かべた。

「母は随分前に亡くなった。父はほんの数年前だ。父は医者として、自分が治療法を開発しようとしていた伝染病の病に冒されて亡くなった。母に関しては天命としか言いようがない」
「言いようがない、って。親だろう、もう少し言葉を選べよ」
「ああ、すまないな。性分なんだ、あまり気にしないでくれ」

 そう言われても、親の命を軽んじるような言い方をした彼女を、快くは思えない。彼は、殺された両親を思った。父も、母も、彼を国の外へ逃がそうとして、殺された。そんな経験を持つ彼が、彼女の発言を素直に受け入れることはできそうになかった。彼の複雑そうな表情を見てとったのか、彼女は困ったようにまた笑った。

「本当にすまない。……これは私の病のようなものでな。宿命とも言うべきだろうか」
「親の死を軽く見ることがか」
「ああ」

 皮肉ったつもりの彼の台詞は、彼女の短い声によって無きものとされた。

「私は喪失に関連する感情を認識できないんだ。相手が親であろうが、猫であろうが、君であろうが、喪失を辞書的な意味でしか認識できない。そうである、ということしかわからない」
「……感情が付随しないということか」
「そう言っているだろう? 悲しさも寂しさも、理解はできる。実感することができないだけで。泣くことはあるぞ? 怪我をすれば痛いからな。痛みを涙で訴えることはできる。しかし、死を悲しいと思えない。子供が大人になるのも、種が芽吹くのも、死することも、いつか必ず起こることだ。そもそも、自らが死ぬから生き物は子孫を残すのだろう?」

 彼女は、彼が怒るとわかっていて喋っている。そんな様子が伝わってきたので、あえて彼は何も言わなかった。怒らないんだな、と驚いた様子で漏らす彼女が差し出すスープの入った椀を受け取って、怒ってどうにかなるのか? と逆に問う。彼女は再び困ったように笑って、ゆっくりと首を横に振った。

「どうにもならん。これは母の家系からの遺伝なんだ。空しいものだとは思うが、抗ってどうにかなるものならとうにしている」
「だろうな。……しかし、医者にはある意味必要な能力じゃないか? 人の死を重く見すぎるのは医者としてどうかと思う」

 もちろん、逆もまた然りである。死を軽く見ていればいつか慣れが生じる。ぞんざいに扱うこともあるかもしれない。しかし、重く見すぎることで人の死に触れられないというのも、医者としては問題だ。

「だから私は今医者でないんだ。助からない命に長くかかずらわっていても仕方ないと私は思う。けれど、皆はその死を悼んで欲しいと願う。願われても、私にはそれができない。表面的なものを求めているわけではなかろう? それが分かっているから安易なことはできないんだ。……皆が私を魔女と呼ぶのはその冷酷さ故。昔、町の長が死んだ時に悼みもせずに貧乏人に治療を施したのが気に障ったのだろう」
「なら、何故医者になんてなったんだ。死と向き合うなんて分かりきっていたことだろう」

 あまり聞くべきでない質問だったのかもしれない。その疑問は、誰よりも彼女が感じていたはずだった。大きな赤い瞳がすこし、揺れた気がした。彼女がなかなか口を開かないようだったので、彼はスープを一口啜った。冷めて、生ぬるいスープの味が舌の上に広がる。

「……ただ、父のようになりたかっただけだ。皆、父を慕い、頼りにしていた。私もそんな存在でありたかっただけ」
「……で、今お前はこんな辺鄙なところで隔離されるように暮らしているわけだ」
「気にしていることをいやにきっぱりと言ってくれるな、アルファルド。……いくら私が魔女と呼ばれようと、所詮は人間。あの頃の人々は善意の塊のようなものだったんだ。その頃の気持ちをそう簡単には忘れないだろう。私が少し他と違うところで、同じ人間なのだから」

 彼女はとても穏やかな表情で、そう言い切った。彼女が町の人間に、一体どんな風に拒絶されたのか、彼は知らない。知らないけれど、彼がひとつだけ自信を持って言えることは、

「……人間なんて悪意の塊だ。信じるに値しない」

 ということだった。彼女はその言葉に少し驚いたようだったが、すぐに先ほどと同じような穏やかな表情で、そんな寂しいことを言うもんじゃないぞ、と返した。

「そもそも、君だって人間じゃないか。自分も信じるに足らないのか?」
「俺はもう人間であることを否定された身だ。お前だってそうだ、人間として共同体で生きることを拒絶されたから、ここでこうしてひとりで暮らしている。お前は人間じゃない、魔女なんだよ。……人間なんてみんなそんなものだ。世界の平穏、それに秩序が平和に保たれることを望んでいるように言うが、世界の平穏なんて自分の世界のだけだ。私利私欲のためにしか生きられないようになってるんだよ。そこに倫理だの道徳だのは一切存在しない。そういったものは所詮教科書に過ぎないんだ」

 人間は共同体を作って生きる。それは結局、そうするのがよりよいからそうするだけであって、ひとりでも都合よく生きることのできる環境ならば迷わずそうするだろう。それでも人間は共同体を作る。それは、そこで生活することにメリットがあるからだ。ひとりよりは大勢でやる方が効率的だとか、そんな理由からだろうか。ともかく、共同体を作ったからにはそこで、自分と明らかに違う『個』の弾圧を始め、だんだんとその差異は小さくなっていき、最後には同質化するだろう。人間というカテゴリに属すからには、そこのカテゴリ内で自身の安全を確保しなければならない。最後に同質化してしまえば、争い潰しあう必要もなくなる。そのために、その他の『個』は排除されていく運命にあるのだ。

「……君は人間というものを悲観しすぎている」
「事実だ」
「……今はそういうことにしておこうか。薬を飲んでしばらく休んだ方がいい」

 粉薬の乗った紙と、水の入ったグラスを手に、彼女は穏やかに言った。彼の言葉は少しも彼女には届いていない。彼女には彼女の信じる『人間』というものがあるのだろう。それは彼にも同じことだった。ならば、深く関わりあう必要もない。この名医の許可さえ下りれば、すぐにこの家を出て国境に向かうことができるのだ。それまでの付き合いになる相手にそこまで入れ込んでも仕方ない。

「……言っておくが、捻くれてたりだとか、一時の感情で言ってるわけじゃない」

 それだけを了承してくれるのなら、彼はそれ以上何も言うつもりはなかった。

「何?」
「十五年前からだ。その頃からずっとそう思っている。人なんてどんな動物よりも冷酷に本能に従って生きるもの。自己の存続のためなら他なんて関係ない。ましてや相手の心なんて考慮する必要もない」

 彼女の赤い瞳が、ゆっくりと細められる。それから彼女は立ち上がって、彼の頭にぽすんと手を置いた。

「君の言うことは残酷だけれど真実なのかもしれない」

 彼女はこちらの言い分を否定したがっているはずだ。性善説に立てば当然の対立だ。しかし彼女は、彼女自身の意見を否定する彼や、彼女の存在そのものを否定しようとする人々を理解しようとしている。赤い瞳はどこまでも澄んで見える。彼女が次の言葉を紡ぐまでの時間が、彼にはいやに長く感じられた。

「それでも私は、人を生かしたいと思うよ」

 その言葉は、死にたがりの彼の瞳を開かせた。
 きっと誰よりも彼の境遇を理解できるであろう彼女が、彼の口から残酷な真実を告げられてもなお、人を生かそうとするなんて。

「まあ、私は君の言うように魔女だがな」

 魔女がこんなにも優しいはずはない。彼はそう思う。死にたがりの彼がいて、生かしたがりの彼女がいる。どちらも人から疎まれて、行き着いて出会えた場所が、この寒く白い楽園だというのなら、それでもいいような気がしてくる。

「……さすが。精神科も得意と見える」
「? 私は精神分野はからっきしだが?」

 精一杯捻り出した彼からの歩み寄りの言葉は、彼女の素直な言葉にあっさり打ち砕かれた。



2009.06.24(Wed) | 未分類 | cm(0) | tb(0) |

思うところがあって



でも奈央は流風を見つけた時点でいろんなもの捨てる覚悟はしてるんだろうな。(最初のでもはどこから来たのか)
その時点でもう大和と奈央は対等じゃない気がしてきた。ただの女の子ですか。それは大将戦にはならないから奈央を殺すことはしちゃいけないよね。うーん、奈央か。

奈央だって真面目に宗教に身を置いてたわけだし、ゲームに参加してても大和が憎い気持ちはあるだろうし、捨てきったわけじゃないけど、それはその家に生まれてしまった以上最低限最後まで持ってなきゃいけないもので、全部捨てきれるわけではないということで。
それでもゲームに参加してどうしたいのかって、流風の願いを叶えてやりたいわけで、前から気になってたような相手と組むことで一段上の世界から人間界まで落とされてるのに、当の流風の願いってのは親を殺した奴に復讐したいってんだから存在否定まで入ってしまって、それでもいいと思っちゃうんだから、恋はいいよ、って慶次が修学旅行の夜のように何度も言うわけですね。
奈央からすれば、過去とか未来とか立場とかとりあえずどうでもよくて、今が一番大切なんだと思う。流風が万が一勝てば一族滅亡かもしれない、別にそれだって構わないから今一緒に生きてみたいと思ってるのかもしれない。
紗央も今が一番大事なんだ。そういう相手が目の前にいたら大和の気持ちもちょっとは変わらないだろうか。


奈央はネックだなあ。難しい。あのArkもどきの時と違って正気だからもっと難しい。奈央にとっては流風と一緒にいられる時間の方が大事だから、ゲームが始まらなければいいと思ってただろうなあ。始まるきっかけが大和とかこれは亀裂がwww
終わった後の大和と奈央とか書きたいなあ。国とかまだぼろぼろなままで、傷も完全には癒えてなくて、でも馬に乗って奈央に会いに行って、「代表の方にお目通りを!」って扉を叩きに行くとか。
流風倒した後、奈央にちょっかい出すのをケレスさんに止められて、「ただの人間の女じゃ相手になんねぇから二度と戦場で顔見せんじゃねぇ」とか吐き捨ててるんですよ多分。だから奈央に会いに行くって言うより代表に会いに行って割譲云々の話をしに行くんだけど、教皇やってた奈央のお父ちゃんが、悪魔騒動の混乱に乗じて出兵して、そんな混乱の中でも騎士団の精鋭が国を守ってて、お父ちゃんは慎吾あたりに殺されたらいいよね。慎吾も憂さ晴らしできるわけだし。でも大和に右腕やられてるっていう。そんな慎吾に森田ボイスを装備させて、私が悶え死ぬ、と。
「神の御使いはただの人間にはできないけど、女王様はただの人間がなるもんだ」みたいなこと言えばいいと思ってる。戦闘シーンなんて思いつかないのにラストだけ考えるとかwww


もう眠くなってきたので寝ます。
蚊はどこじゃあああああああああああ

2009.06.23(Tue) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

プリズムの拡散


「……何だよ」
「別にっ」

 鍵を開ける音が聞こえて玄関へ走り、入ってきた相手をじっと一分ほど見つめてその一言だ。おかえり、の言葉もない。彼女からすれば、「だってただいまって言われてないもの」という理屈なのだ。それから、別に荷物や上着を預かってやるわけでもなく、くるりと踵を返してリビングへ戻る。しかし廊下で時折立ち止まって首だけ振り向き、後ろを歩くケレスにじとっとした視線を向ける。その度に、「何だよ」「別にー」の繰り返し。
 リビングに戻ると紗央は真っ直ぐソファーに向かい、その上で体育座りをする。テレビもついていない、静かな部屋。網戸から入った風がカーテンを揺らしている、それだけだ。
 ケレスが隣に腰掛ければまた恨めしそうに見つめる。相手のイラついた表情も見えているはずなのにことごとくスルー。

「……言いたいことがあるなら目ぇ見て言え」
「だから、別に何も無いって言ってるじゃない」
「何も無い奴の態度じゃねぇだろうがっ」
「そんなことないわよ、全世界の統計とったわけ? 証明してくれたら謝ってあげてもいいけど」

 そう言い捨てて紗央はふいっとそっぽを向く。ソファーの上で体育座りをしたままの紗央は、ショートパンツから伸びる足を綺麗に畳んで腕で抱えると、そのまま窓の方を向いてゆらゆら体を揺らした。
 網戸から入り、カーテンを揺らした初夏の風は、ゆらゆら揺れる紗央の髪をも揺らす。普段こうして家にいる時は邪魔だからとひとつにまとめている長い黒髪は、今日はすとんと下ろされたままだ。濡れたような艶を放つその髪は、風が吹くたびさらりと揺れてその存在を主張している。

「――髪、切ったのか」

 明らかに呆れた声音でケレスは言ったけれど、紗央にとってはイントネーションや声の響き、相手がどんな気持ちでその言葉を言ったのかということよりも、言葉そのものが重要らしい。ぴくりと肩を一度震わせたところを見ると、待っていたのか驚いたのかそのどちらかだろう。窓に向けられていた顔を戻してケレスに向け、膨れた様子で膝に頭を預ける。

「切り揃えただけよ、何センチも切ってないのに分かるとかっ、気色悪い!」
「あーそうかよ、そりゃ悪かったな」
「べ、別に悪いなんて言ってないじゃないっ」
「思いっきり言ってたと思うがなあ」
「気色悪いって言ったの!」

 気色悪いの方がダメージは大きいような気はしないでもないのだけれど、これ以上突っ込みを入れれば紗央の自分理論がどう展開されるかわかったものではない。確実に言えるのは、もっとややこしくなるだけだということと、単なる照れ隠しなのだから取るに足らないということだ。気分が表情に出るのは昔からなので直しようがない、面倒くさいという感情を口にだけは出さぬようケレスは息をついた。口に出さなくともあれだけ主張すればどんな鈍感だって気付きそうなものだ。そんな気持ちも飲み込んでおく。
 やがて紗央は体育座りを解いて立ち上がると、睨むようにソファーの上のケレスを見下ろした。その表情は逆光で暗くなっているけれど、恐らくは多少赤らんでいるのだろう。

「夕飯の買い物行ってくるっ」
「昨日作ってたハヤシライス余ってんだろ」
「作りたい気分になったの! 全部食べなさいよね!」

 ハンドバッグを手にして、ケレスにびしっと指をつきつけると無駄に足音を響かせて紗央は廊下を闊歩していく。
 今日は夕飯が無駄に豪華になりそうだった。
 

2009.06.23(Tue) | Title | cm(0) | tb(0) |

大将戦
長谷堂城で慶次が3回も出て来てドキドキした!(笑)


大将戦に性別とか体格とか関係ないと思ってます。政治的に子供が擁立されたりするんでそこは微妙だけど、大将戦が行われる時は体張る用意ができてるってことだろう。将としての地位を認識してるっていうか。
だから勝った将が負けた方の処遇を決めるのは真っ当じゃないのかな。咎狗のやりすぎかな。
慈悲を与えられることの方が屈辱か。うーん。

2009.06.22(Mon) | 未分類 | cm(0) | tb(0) |

オルタナティブメランコリー


 ――今日も怒られちゃった。
 メイド長の部屋を出て、後手で扉を閉めるとルミはため息をついた。城のメイドとして仕えてもう二年、仕事はそれなりに覚えたけれどまだまだ失敗も多い。怒られたって仕方ないのは自分のせいだとも思う。自分の不注意だけで怒られる原因が作られているのならまだ納得もできようが、その他の理由については口が裂けても他言できない。これも王城に勤める者の試練なのだろうか。
 肩を落として、王城の端にある使用人室へ帰ろうと足を動かす。落ち込んでいて軽く俯いて歩いていたのが悪かった、目の前に影ができたと感じて顔を上げれば、そこには昨日見たような本の塔がある。

「え、」

 可愛らしい悲鳴を上げる間もなくルミは塔と激突、寧ろ悲鳴を上げたのは塔を運んでいる男の方だった。

「も、申し訳ありませんっ、ちゃんと前を見ていなかったので、あの、本当にっ」

 ぶつかった衝撃でお互い後ろに倒れこみ、しりもちをついたまま相手の顔も確認せずに謝る。相手がもし王族の人間だったら自分は首を切られるかもしれない。それは少し困る。
 どんな叱りの言葉がくるか、ぎゅっと目を瞑って待っていると、俺こそすんませんッ、とそちらからも切羽詰った声が聞こえた。

「すいません俺も前見えてなくて、って、なんだ、ルミさんじゃないスか」
「へ?」

 恐る恐る目を開けば、いやあよかったあ、と安心した表情の慎吾がそこにいた。相変わらずの明るさで、散らばった本――昨日抱えていたものと同じくらいある――をまた一冊ずつ集めては積み上げている。

「さすがにこれだけあると前も見えなくって!」
「ご、ごめん、またあたしのせいで……。これ、また王子のところに?」
「そーです。ぶつかったら危ないと思って今日はずっと書庫からこっち通ってたんスけど、タイミング悪かったみたいっスね」
「今日ずっと、って、え、ていうか王子の部屋行くのに書庫からこっち通ったら遠回りすぎるじゃない!」
「遠回りは遠回りなんですけど、まあ、鍛錬だと思えば。今日はこれで五往復ですけど、これ運んだら終わりなんで気も楽っスよ」
「五往復!?」

 書庫から王子の部屋まではかなりの距離がある。書庫は使用人室からは割りと近い地下にあるけれど、王族の部屋からはかなり離れている。それというのも大体、王族の人間は指示だけして指定の本を使用人に取ってこさせるからなのだが、地下にある書庫から見晴らしのいい三階にある王子の部屋まで行くには最短のルートを通っても十分は掛かってしまうだろう。それをわざわざ遠回りして、五往復。これだけの本を持って、その上慎吾は足が悪いのだ。仕事を通り越して拷問に近い。

「あたし仕事終わったし、手伝うよ」
「や、いいですよ。これで終わりだし、別に辛いわけじゃないんで。それに、昨日と同じような資料運んでるんで、王子のとこ行ったらすぐ帰されちゃいますよ」
「あたし頭悪いからこんなの表紙だけ見たってわかんないし、部屋の前まで行ったら慎吾くんに返すから!」

 せっかく人のいない道だと思って通っていたのだ、その仕事を前方不注意で邪魔してしまった。自分が気付けば慎吾が倒れることもなかったはず。その思いから、どうか半分持たせてほしいと懇願すると、慎吾は珍しく困りきった表情を見せた。
 慎吾は御前試合を勝ち抜き、元々は騎士としてこの王城に仕えていたのだ。どんな背景があれ、騎士として働けなくなった慎吾が城に留まる資格はない。大和が雑用の仕事を与えてくれなければ。仕事を奪うことはいけないことだと分かっているが、足の悪い慎吾にこの先何段もの階段をこの荷物を持って上がらせることは忍びなかったのだ。ルミがそう思っていることを慎吾もなんとなく察しているらしく、最後には、じゃあお願いします、と苦笑を漏らして折れた。






「ルミさんはー、王子のこと嫌じゃないんスか?」

 ゆっくり一段ずつ階段を上がる。持つ本は半分に減ったけれど、それでも右足の悪い慎吾からすれば階段を上るだけでもそれなりに大変な仕事なのだろう。道中沈黙は耐えられないのか慎吾が投げかけた質問に、ルミはうーんと唸り声を上げた。

「どんな人でも王子だし、手出されて嬉しくないってメイドはいないんじゃないかな」
「それって、好きじゃなくても王子だから嬉しいってことスか?」
「それは、……うーん」

 お姫様になれるなんて誰も思っていない。でもちょっとした夢の時間ではある。どんなに性格が悪くても、腐ってても王子様。好きではないけれど、王子様だから、という気持ちはルミにだって少なからずある。大和に手を出されているメイドが自分だけでないことももちろん知っているし、これ以上どうこうなりたいという気持ちも特にはない。好きじゃないのかと聞かれれば自分でも首を傾げてしまう。肩書きを好きなわけではないと思うのに、大和そのものがいい、と自信をもって言えるわけでもない。そもそも恋だの何だのという気持ちなのかどうかもはっきりしない。ただ流されているだけだ。

「俺だったら、やですけどね。仕事じゃないのにそこまで投げ出せません」
「あ、……結構はっきり言うね」

 一段一段確実に階段を上りながら、慎吾ははっきりと言った。ルミよりいくつか年下のこの青年は、両親を失って弟妹を食べさせていくために国に仕え、愛だの恋だのという話題には疎そうな気はしていたのだが、ここまではっきり断言されるとはルミも思っていなかった。大和に拾ってもらった恩も多少はあるだろうに。

「なんつーか、俺、将軍としてのあの人はすげえ尊敬できるんですけど、王子としてのあの人はちょっと、って思ってて」
「? 引き止められてこういう仕事するようになってから、何かあった?」

 将軍としての大和と王子としての大和がまるで違うのだろうことはルミにも想像はできる。けれど、そこまで明確な線引きをしているということは、何かしらの出来事があったからなのだろう。

「や、大したことじゃないんスけど。俺、騎士でいられなくなって、城を出るとき王子に引き止めてもらって、すげえ感謝してたんです。ありがたくって、申し訳なくて、で、必死で頭下げてお礼言ったら、『お前騎士だったの?』くらいの勢いで。覚えてもらってるとまでは思ってなかったですけど、その上、面白そうだから騎士団の雑務でもすっか? とか言われて。対等な立場ならぶん殴ってます」
「それは王子なら言いそう……、だけど、それなら途中でやめちゃってもよかったんじゃない? 家の事情が多少あるにしても、地元に戻れば仕事はあるだろうし」
「それなんスよねぇ……」

 うーん、と今度は慎吾が唸った。
 性格の悪い王子に仕える理由などない。慎吾の方も元々剣を振るうことで国に仕えたいと思っていたはずだ。それが叶わなくなったら、ここに留まらずに弟や妹の側で暮らす方が余程幸せな人生を歩めるだろう。

「あれでも同一人物なんスよね。日常生活でその片鱗が見えると、あの将軍に仕えてるんだって、俺もちゃんと働いてた頃のこと思い出せる。戦争に出る前の準備とかも俺やるんですけど、殺気ばしばし放っててぞくぞくしますよ。やっぱり俺の中であの人の理想の姿があって、それが見えると離れたくなくなるんですよねー。憎い人だ」
「へー……」
「……だから、ルミさんのこと言えないのかもしれないスね、俺も。騎士に戻れるわけないのに、戦場にいる自分を夢見るってのは」
「あたしなんかと比べちゃダメでしょ、そんなご大層なモンじゃないわよ」
「そーですか?」

 階段を上りきり、王子の部屋まではこの廊下を直進するだけだ。ここまででいいです、と慎吾は言い、少し腕を下げてルミが慎吾の持つ本の上に本を重ねやすいようにした。
 そう指示される通りにルミは慎吾の本の上に自分が運んだ本を置く。先刻ぶつかった時と同じ、本の塔ができあがった。

「手伝ってもらっちゃってすいません、助かりました!」
「な、なんにもお手伝いできなくてごめんね!」
「いえいえ、十分です。そいじゃ、また」

 相変わらず右足を引きずりながらの移動は大変そうだ。大和の部屋へ赴く慎吾の背を見送って、踵を返し今度こそ部屋へ戻ろうとすると、

「へえ、勤務時間外にわざわざ来るなんて積極的だな」
「お、王子!?」

 にやりと笑う渦中の人物、大和がすぐ後ろに立っていた。
 手には余り厚くない本が一冊。歩きながら読んでいたのか、途中のページに指を挟んでいる。

「ど、どうしてこちらに?」
「あ? 慎吾に仕事頼んだんだけど遅いもんだから、騎士団の様子見だ。――それより、構って欲しいなら構ってやる、部屋来るか?」
「け、結構です!! 慎吾くん、今たくさん本持って王子の部屋向かいましたよ、行ってあげてくださいっ」
「なんだ、やっと戻ってきやがったか」

 自分の部屋の方向を見やり、挟んでいた指を抜いて本を閉じると、その本で軽くルミの頭を叩き、悪ぃな、と声を掛けた。
 ――その表情にほんの少しだけ心がざわつくのを感じる。
 慎吾が持ってきたものが何なのかはルミには分からないけれど、あれを楽しみに待っていたのだろう。この男はいつだって楽しそうにしているけれど、より楽しさを齎すものなのだろう。

「また今度相手してやるよ、部屋に来い」

 いつだって自分勝手で、周りのものはすべて自分の踏み台で。
 最低だけれど、それが大和そのものであることをルミは知っている。王子だろうが将軍だろうが、あの男はありのまま生きているだけなのだ、使い分けなど考えていない。
 
「おいルミ、返事は」

 なのに名前を覚えてくれている、呼んでくれている、それは卑怯というものだ。これでは遠すぎて夢のまた夢を想像してしまう。そんな自分は、いまでも戦場に焦がれる慎吾よりもずっとずっと愚かなのかもしれない。ぐっと胸が締め付けられる痛みを覚えながら、ルミは小さく頷くことしかできなかった。





2009.06.22(Mon) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

天の川を流れるスピカ



 土曜の午後だった。兄さんは学校で家を出ている。隣の家の姉さんは朝から仕事で、俺も午前は学校だったけれど午後は暇で、奈央は学校が終わってそのまま瀬川とどこかへ出かけるらしかった。珍しく静かな土曜日。久々に簡単な昼食を自分で作ってとり、これからは期末の勉強でもしようかとちょうど腰を上げた時、インターホンが鳴った。玄関へ向かい、ドアを開けると最初に目に飛び込んだのは緑。……意味がわからない。

「あれ、紗央いねぇのか?」
「……失礼ですが、どちら様で」
「あー、俺ケレスのダチなんだけどさ、紗央に“隣の家に運んで”って言われてたもんで」
「はあ」

 よくよく見なくても、その緑は笹だった。その向こうに、俺よりも背の高い大柄な男がいる。そういえば先生の友達って先生と同じくらいでかいの多いよなあ、と今頃思い出す。ちゃんと会って話したことはないけれど、その面子はしょっちゅう先生の家に集まっているから遠目に眺めたことくらいはあった。この人も、あのメンバーのうちのひとりなのだろう。そして姉さんがこの人に笹を運ばせた、らしい。姉さんが笹を調達してうちで七夕の飾りつけをするのは毎年のことだから笹が来ること自体はあまり不思議ではない。嘘は言っていないだろうと思うので、取りあえず大きな笹を玄関の隅に置いてもらった。

「すいません、姉さんが無茶なこと言ったみたいで」
「笹なんて庭の隅に腐るほどあるからな、いいってことよ」
「はあ、ありがとうございます」

 庭の隅に竹が腐るほどある家ってどんな家なんだ。
 その疑問は顔に出ていたらしい。俺は芹沢大和だ、と相手は先に名乗ってくれた。話を聞けば、華道の流派の跡継ぎ息子なのだそうだ。それは世間一般で言う金持ちという奴で、確かにそんな家は庭の隅に竹が腐るほどあるかもしれない、と思う。

「七夕の話をした時に紗央が食いついて、腐るほどあるなら分けなさいよ、ってな。七夕は毎年やってんのか?」
「姉さん、仕事以外であんまり外出ないんで友達も少ないんです。だからイベントは欠かさず身内で」
「なるほどねえ、これじゃあ誕生日もクリスマスもこっちに時間とられちまうな」

 いい加減短冊を書くのも卒業したい年齢なのだが姉さんは許してくれないし、奈央や兄さんは割りと乗り気で書くしでイベントごとからはなかなか逃れられそうに無い。そういえば兄さんの短冊、『字が綺麗になりますように』って何年連続だったろう。

「でも、噂の弟くんとしては結構嬉しいんだろ」
「なんですか、噂って」
「紗央は仕事の話はしないし、喋るのは妹のことかお前ら兄弟かって感じだし、自然とな。あのケレスの恋敵となりゃ俺も気になるわけで」
「そんなんじゃないですよ、先生にはただ勉強見てもらってるだけで」

 へー、と少し気に障る声を出して、それから芹沢さんは笑った。まあ頑張れよ、と。
 俺がこれ以上何を頑張れって言うんだ。この人たちには永遠に縁の無いような気持ちを四六時中抱えている俺に、これ以上何を。

「今年の短冊には“彼女ができますように”って書くこったな、弟くんよ」
「ほっといてください」
「余計なお世話だったか。髪の色といい目つきといい、紗央にちょっと似てるもんな。お前らの方が余程きょうだいぽいし、困っちゃいねぇか」
「……っ、ほっといてください!!」

 語気を強めると芹沢さんは方を竦め、じゃあ退散するわ、と外に出て行く。
 なんで、どうして俺があんなことまで言われなくちゃいけないんだろう。俺はただ黙って姉さんの弟でいるのに。
 去っていく芹沢さんの後姿をぼんやり眺め、角を曲がったのを確認して扉を閉めた。
 
『お前らの方が余程きょうだいぽいし、』

 うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさい。
 何度も言われて、その度にイラついた。そうであったらいいと一番思っているのは俺なのに。
 俺は姉さんの弟じゃないのに姉さんの弟でいなきゃいけない。
 今年の短冊にはどんな嘘を並べ立てたらいい。何を飾って祈ったらいい。
 ――これだから七夕は嫌なんだ。
 玄関の隅、立て掛けた笹ががさりと音を立てて揺れた。




2009.06.21(Sun) | ご近所物語 | cm(0) | tb(0) |

また忘れてた



幸せな夢なんだけど、幸せだと実感する前に目が覚めるんですよきっと。それでちょっと寂しくなるくらいがいいなと思ってる。
基本的に紗央も流風も大和も、ちょっと暗い夢ばっか見そうです。流風なんか火事の夢しか見ない。大和も王様殺して慎吾も斬っちゃう夢とかばっかり見る。で、落ち込む。
流風には奈央がついてるし、紗央には叡一くんがいてくれるから目覚めた後はどうにかなりそうだけど、大和は蓄積するんだろうなあ。そいで憂さ晴らしも兼ねて流風をとんでもない殺し方しちゃえばいいんじゃないかな!! でもってまた奈央に罵倒されたらいい。奈央も女だって差別の視点入れられたくないから強気に出る。悲鳴とか絶対あげない子だなあ。




奈央のポジションが紗央だったらこれでもかってくらい好戦的でジャンヌ・ダルク化すると思うんですけど。(笑)
寝るぞもう……!!


2009.06.20(Sat) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

夕暮れに墜ちる彗星



「遅かったじゃねぇか」
「なら自分で行ってもらえると超助かるんスけど……!」
「そいつは机の上に置いとけ」
「人の話聞く気ゼロっスよね、王子……」

 朝に用事を頼み、その男が再び大和の部屋に戻ってきたのは夕刻のことだった。
 大和はいい加減待ちくたびれており、部屋を掃除しにやってきたメイドのルミを捕まえて無駄話を続けていたところである。
 男は天井に届きそうなほど大量の本を両手に抱えていたが、右足を軽くひきずっているために運ぶ作業も楽ではなさそうで、見かねたルミが手伝おうと本の塔に手を伸ばしたところでバランスが崩れ、何冊もの分厚い本が男の頭を直撃した。ルミはといえば、間一髪で後ろから大和が腕を引いたのでまるで無傷である。

「ご、ごめん慎吾くん、あたしが変に手出したりしたから」
「や、いいんですよ。バランス崩れるのわかってたし、俺が断ればよかっただけで」
「そうだぞ、ホント使えねぇなお前」
「取りあえず王子には何も言われたくないなぁってのが本音っスけど」

 床に散らばった本を、慎吾と呼ばれた男とルミとで拾い集める。大和は手伝う気はさらさらなく、椅子に腰を下ろすと用意させた本が目の前に届くのをただ待っている。
 拾い集められた本は慎吾とルミとで机の上に運ばれた。軽く本の背表紙だけを眺めて大和は目を細め、それからルミへと視線を向けた。

「おい、もう戻っていいぞ」
「あ、は、はいっ」

 仕事を長引かせていたのは勿論大和なのだが、ここから先はただのメイドに聞かせる話ではない。暇潰しの話し相手は必要が無いのだ。
 ぺこりと慌てて頭を下げると、掃除用具を一式持ってルミは部屋を出て行った。

「引き止めてたくせに冷たいっスね」
「あんだよ、気になんのか? あの女のこと」
「まさか。王子のお手つきにちょっかい出そうなんて勇者、少なくとも騎士団にはいませんよ」
「それくらいの度胸は欲しいもんだがな」

 机の空いたスペースにブーツを履いたままの足を投げ出して、積みあがった本のうちの一冊を手に取ると大和はくつくつと喉を鳴らした。
 持ってこさせた本はすべてこの国の昔話やら民話やら、それについての研究やらで、持ってきた慎吾も何のことなのかよくわかっていないのだろう。女の話は慎吾はあまり好んでしないし、大和もこれ以上の無駄口は時間の浪費だと思っている。本題に切り替えることにした。

「それで、本はこれで全部だったのか?」
「コレ見てもそう言えます?」
「あん?」

 右足を軽く引きずりながら大和の目の前までくると、慎吾は懐から一枚の長い紙を取り出した。そこにはずらりと本のタイトルが並んでいる。机の上の本など、この中のほんの一部なのだろうことが窺い知れた。

「こんなの全部は無理だから、って著名なのとかだけ先生に選んでもらったんですよ。ただでさえこの足なのに」
「仕方ねぇな、残りは明日持って来い」
「王子ってほんっと人の話聞く気ゼロっスね……」

 朝、大和付きの従者である慎吾に、封蝋をした手紙を渡し、王族お抱えの歴史学者に持って行けと頼んだ。手紙の中身が、まさに本のピックアップだったのだが、大和が想像していたより遥かに数があるらしい。この城に関わる話だから、当然この城に一番資料が残っているということなのだろう。学者が挙げたものを、実際に慎吾が書庫へ向かって、一冊一冊選んでくる。慎吾の学の無さと不器用さを思えばこの時間になっても仕方のないことだ。元々、剣を振るう以外に能の無かった男なのだ。

「何でまた悪魔関係の本なんか集め始めたんスか? 気でもふれたのかと思いましたよ」
「お前、この城の悪魔伝説なんて知ってたか?」
「学者先生に聞くまではまったく。俺の実家、城からだいぶ離れてますし。まあ先生に聞いても眉唾モンだと思ってましたけど、まさかそんなに資料あるとは思いませんでした」
「俺もガキの頃から聞かされちゃいたが、悪魔だの天使だの神だのは信じる気になれねぇもんでな」

 王族と“彼ら”との争い。大昔に、彼らに代わって王族が封印した悪魔。王の衰弱とともに弱くなる封印。
 父である王に真面目な顔で話されなければ右から左へと聞き流していたに違いない。王となるには封印を継続させなければならない。そうでなくては、国が喰われるどころか、彼らが乗じて攻めてくる可能性さえあるのだから。しかし正直な話、悪魔や天使、神などの抽象的すぎる存在は大和が最も嫌うものでもある。魔術やら呪術やらも同様だ。人を殺すなら、剣を振るわなくては。肉を裂き、骨を砕き、血を浴びなければ殺したとは言えない。視える形でなければ。

「それじゃあ、例の姫君なんてどうなんですか? 象徴ですよ、あれ。噂聞く限りじゃ結構可愛いとかって」
「はァ? 頭ん中お祭り騒ぎな従者なんて要らねぇぞ、俺は。あそこの奴らに両親殺されたのはどこのどいつだ」
「そりゃ当然憎いですよ、あいつらと戦うために御前試合なんて勝ち抜いてきたんですから」

 慎吾は昨年だったか一昨年だったかの御前試合の優勝者だった。裕福でない家に生まれ、信徒の蜂起によって両親を失った。下に弟と妹がいるらしいが、その二人は親戚に預け、弟妹を生かしていくために御前試合に出場し、騎士団の一員として仕えることとなった。体力だけが取り得だったようだが、剣の素質もある程度あったのだろう。振り回すだけが方法ではないということを御前試合の最中に学び、終わる頃には太刀筋に磨きがかかっていた。
 親のコネで入ったような周囲の騎士たちと違い、荒削りでまだまだ成長の余地があった慎吾はその実力を周囲に見せ付けるのも早かった。戦場では大和の隣で先陣を切ったこともある。そこから妬みが生まれ、悪口を言われても後輩としての立場を弁えるあまり言い返さない真面目な性格も災いして、結局は実践訓練の最中に落馬させられ足を負傷し、とても馬に乗って戦うことなどできなくなってしまった。
 騎士団を追い出された慎吾は最後まで愚痴ひとつ吐かないで城を出ようとしていた。反抗しない雑用係が身近に欲しかった大和がそこを引き止めたのだが、あのまま帰していたら向こうの勢力に加担していたかもしれない。

「それだけの決意をしてここにいても、姫君が殺したわけじゃないってのか? はッ、おめでたいな。象徴はそれ全体を背負うものだ、国を背負うのが国王なのと同じでな。女だとか子供だとか、そういう目で見られたら象徴ってのは終わるんだよ」
「性別も年齢も無く、ただそれそのものってことですか」
「俺からすりゃ、あの姫君こそ悪魔だな。もっとも、向こうだってそう思ってるだろうが」

 しかし、悪魔という存在はこの城の中に確かに存在するらしいのだ。大和がどんなに否定していてもそれは変わらない。王となるにはまず敵を知るところから。
 戦いの原点にも関わってくるもの。良くも悪くもこれが国を支えている。
 手に取った本をぱらぱらと眺め、紙とペンを用意しろ、と慎吾に命じると、大和は机の上に足を投げ出した姿勢のまま本を読む態勢に入った。

「そんな大量に、何ヶ月かけて読むつもりっスか?」

 紙とペンを用意するため、ドアへと向かった慎吾は苦笑交じりにそう言う。大和は本に視線を落としたまま、口を開いた。

「明日残りの本持って来いっつっただろ、今日中に片付ける」





2009.06.20(Sat) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

日常的なのを



聖櫃戦争の話をご近所の紗央にしたら、
「はぁ!? 何であんたたちに負けなきゃなんないのよ!!」
と騒ぐ。

逆に、本筋のツキ高話っていうか未来話の紗央にすると、
「へえ、あたしに勝てると思ってるの?」
って何か余裕。


未来話の紗央は余裕ですな。あといやに高慢ちき。
ご近所の紗央はこういう物語とかだと絶対自分に置き換えて深く考えすぎて沈む。
多分、「何よ退魔師だの悪魔祓いだのなんだのって小難しい! あたしだけ何か馬鹿みたいじゃない!」とも言う。そんなん聞いたら、「いやー、どう考えても一番の道化はあたしでしょ」ってルミが言う。
本あんまり読まないけど、たまに勧められて読んだりするとこの子ヤバいですね。
ケータイ小説は私が読ませたくないので、メジャーどころでやはり『世界の中心で、(略)』とか、『いま、会いに(略)』とか。馬鹿だから読むの遅くて一日十ページ読めればいい方なくらい。で、最初はつまんないとかなんだかんだ愚痴言うくせにラスト泣きっぱなしでご飯作れないという快挙、絶対やる。そいで何か感化されてしばらくケレスさんにべったりになってそれはそれで扱いづらい。
ルミとか典型的スイーツ女だからそんな本読んだら話合うだろうなあ。
ああ、今思ったけどいま会いは流風と樹理っぽいな。あんな感じだ、そういえば。
更に感化されてDVD鑑賞会なんかになった日にゃあ酷いことになりそうですね。
小学校から大変そうだな紗央は。物語深読みしすぎてテストで変な点取る自爆タイプですよ。
引きこもり予備軍だから妄想することには長けてるんだと思います。
そんな小ネタもいい。紗央の話はネタは死ぬほど浮かぶんだけど書けないんだな!! 何故だ。



ケレスさんに止められる大和をボイス付きで見たい。(笑)
生きて戻れるならそれから手出すかとも考えてると思うけど、背景はセイバーなので戻るつもりないんですよね大和。鬱憤晴らすならその場じゃなきゃいかんと。止められる大和がボイs(略)
まあでもどうせ生きて帰るんだが。(何)
オチとしては、ボロボロになった国を一から建て直すのは難しいから割譲しちゃえばいいじゃないとか安易なことを思っている私。いやもういろいろ考えるの面倒だし!
ここの設定の大和だとケレスさんと普通に仲良くなれる気がします。金出す価値は十分とか言われたら紗央は得意げな顔で、「叡一!! こいつら話分かるわよ意外と!!」とか言い出すと思います。空気読まないのは相変わらず。


しかし奈央を地下牢に繋ぎたい大和よりも、取りあえず大和が憎いから殺してあげたいと思ってる奈央の方が遥かに怖いと思うんだ。なんか、何をするのか読めないから怖い。
怖いから流風を横に置いといたのに流風って弱いからすぐいなくなるな。
空が近くにいる奈央は強か。流風が近くにいる奈央は可愛い。という公式が頭の中にあります。空が相手じゃ引き締めて掛からざるを得ない……。空ってでかい男だから甘えるとどんどんダメになりそうな気がするんだと思います。いいんだか悪いんだか。(笑)


家族みんな寝てから2時すぎにお風呂に入って、あがったら黒光り氏が出て死ぬほどビビった。
しかも近くでみたらそんなに黒くなかった。うわあ……。
どんどん聖櫃戦争話が上がっていって楽しいです。みんなのを楽しみにしてるよ!!
大和の武器は普通の刀よりでかいような気がしてる。どこぞのブリーチの黒崎一護さんの持ってる奴くらい。最初慶次の持ってるやつ、と思ってたけどあれ全然見えないけど槍なんだよな確か。あれが槍とか詐欺だろ。

2009.06.19(Fri) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

クリスタル・グリーン



 毎日緑に囲まれて、豪華じゃないけど精一杯工夫して心をこめて料理を作って、仕事で疲れて帰ってくる大好きな人が、今日もおいしい、って食べてくれる。
 全然特別じゃない生活。お城の中に暮らす王子様お姫様、大きなお屋敷に住むお嬢様、そんな人たちとは全然違う、普通の生活。あたしと同じ生活を送っている人は多分、世界にゴマンといる。
 でも、それでいい。そうじゃなきゃ嫌だ。あたしはあたしに与えられた当たり前の時間を、ただ楽しく過ごしたい。できれば幸せでいたい。それが叶えば、他にわがままなんてひとつも言うつもりはないんだから。





 夕食の時燃え盛っていた焚き火は勢いをなくして、炭の赤く燃えている色が闇の中にぼんやり浮かんでいるくらい。叡一はその側で寝袋に包まって眠っている、多分。あたしはそれを木の枝に座って眺めているだけ。生きていた頃と違って、眠らなきゃならないという義務感に襲われることはない。もちろん眠ろうと思えば眠れるけれど、それは体力を回復するっていうよりも、ただ時間を消費したいだけ。霊になるということは、ありあまるほど時間を貰えるということ。契約を交わしたことによって、その無尽蔵の時間にも区切りができた。それもそれで、誰かと契約してみたかった目的のひとつかもしれない。 

「……絶対惨めな死に方するんだから」

 木の上から叡一を見下ろしてあたしは呟いた。あんな粗末なものをこの男は毎日平気で食べている。平気どころか美味しそうに食べるからもっと腹が立つ。世の中には豪華じゃなくても美味しいご飯がたくさんあるのに、あんな最低ランクのものを美味しそうに食べるなんて料理好きの血が騒いで仕方ない。あたしだったら同じ材料でももっと上手く作るのに、そうしたら、あの人によく似た顔で笑って、美味しいと褒めてくれるのだろうか。……それはちょっと癪かもしれない。
 ――不思議な感覚だった。
 昔の恋人によく似た男に死んでから出会うなんて、どこかの物語みたい。そんな特別な経験をする自分なんていらないと思っていたのに、あの時はちょっとだけ偶然に感謝した。こんな出来事でもなければ、死んでいることにも飽きてしまう。純粋で真っ直ぐでとても可愛かった、昔の自分に会えた気がして、死んでまで捻くれ続ける自分は全くご苦労様だと思う。

「――眠らないんですか?」

 ごろりと寝袋が動く。叡一の瞳がこちらを向いた。起きたのか狸寝入りだったのかは定かでない。そもそも、どうだっていい。

「娼婦にしろ幽霊にしろ昼間に出張るもんじゃないわ。夜行性なのよ」
「前者はどうか分かりませんけど、昼間に出張ったっていいと思いますよ。その方が僕みたいな仕事の人間も夜眠れるし」
「あんたらの都合なんてどーだっていいの!」

 そっぽを向くと、はは、と叡一は笑ったようだった。
 妙なゲームに付き合わされたと思っているんだろう。こうして、死んでもまだ生きることはあたしの我が侭だ。死んで、こうして生きて、また死ななければ、あたしは本当には死ねないんだろう。嬉しい思い出より、苦しい思い出の方が多い。叡一はあんなご飯食べてるから惨めな死に方するとは思うけど、あたしほど惨めな死に方もないだろう。あたしは特別な何かを望んだわけじゃない。普通に生きて、普通に苦しいことや悲しいことを経験して、普通に死んで、普通にお墓に入りたかった。普通の幸せな暮らしをしてみたかった、それだけなのに。こうなることを選んだのはあたしなのかもしれない、けれど、こうして叡一に回り逢わせてくれたのが神様の粋な計らいなのだとしたら、あたしはそれを大いに利用してやりたいと思うのだ。

「……人の心配してないで寝たら?」
「紗央さんこそ、寝た方がいいですよ」
「あたしはいいって言ってるじゃない」

 いい加減しつこいと怒鳴ってやろうかと思ったけれど、大声を出すのも躊躇われる。静かな森には、暗闇の中のルールがあるような気がして、大声はそれを裂いてしまうような気がした。
 今度こそ叡一は眠るのかと思ったけれど、顔の向きが変わる様子は無い。

「契約してる限り、身体条件は生前と同じなんですから。綺麗な顔に隈、できますよ」
「え、嘘っ」

 その情報は初耳だ。びっくりしてひらりと木の上から地上へ降り立つと、寝転がっている叡一の上に跨って寝袋を掴むとがくがく揺する。

「ちょっとっ、そんなの聞いてないわよ!?」
「今初めて言いましたから」
「あたし何日寝てないと思ってんのよ! 適当言ったんじゃないでしょうね!?」
「さあ、どうでしょう?」
「頭から水ぶっ掛けるわよ!」
「大変だ、すぐ水筒用意しないと」
「~~~~~っ!!」

 拍子抜けする。イライラする。

「馬鹿じゃないの!? いいわよ、もう寝るからっ」
「寝坊しないでくださいね」

 叡一から離れて、もといた木の幹に背を預け、根元に腰を落ち着けた。

「おやすみなさい、紗央さん」
「……おやすみ」

 拍子抜けするし、イライラするけど、ちょっとだけ楽しい。
 明日の朝はあたしもおはようで始まる。それも、少しだけ楽しみ。




2009.06.19(Fri) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

偶像を破壊



「はッ、頑張るねぇ」

 報せを受けても大和は杯の中の葡萄酒を呷るばかりで動く気はひとつも無かった。厳ついブーツを履いた足を机の上に投げ出し、側で状況を告げる家臣の声もあまり聞く気は無い。
 東の土地でまた蜂起が起こったのだと言う。彼らは機を窺ってはちょくちょく反乱を起こす。国家転覆を狙う勢力との争いは何度か大和も軍を率いて経験しているし、国の歴史上規模の大きなものもあったようだ。しかし、今大和は王子の座についているし、今後国を継いで王となることに何の不安も抱いていない。ということは、恐れるに足らない相手なのだ。
 小さな蜂起では大和の出る幕ではない。現地で勝手に判断して、こちらからの増援が必要となれば下で動くだろう。大和は最後、報告を受けるのみ。小さな反乱に逐一大将が出陣していては威厳も何もあったものではないし、軍はそんなに弱くない。そもそも一時間も経たず終わってしまうような戦闘では、現地に行くまでの時間の方が長いし、興味がない。

「てーことは、姫君は今日も人殺しに精出してるってこった」
「あの女さえ殺せばあちらの戦意も殺がれるでしょうに、王子の考えが分からないと兵たちもぼやいております」
「何言ってんだ、殺したら死んじまうだろうが」
「は、はあ」
 
 そんなの当然だろう、と言いたげな表情の家臣の気持ちも分からないではない。

「女のくせに戦場にいて戦いもしねぇたぁいい度胸だよなぁ、大人しく待ってるだけのお姫様なら可愛がってやろうかとも思ってたが」

 死人の魂が視える不思議な少女なのだという。ならば、戦場ではさぞかしたくさんの魂が視えていることだろう。その珍しさには、確かに天使だの姫だのと持ち上げられて、戦場に勝利祈願の象徴として連れて来られてもおかしくないかもしれないと大和は思う。昔は同情さえしたその少女への認識を完全に改めたのは、もう何年前だったか、彼女の祖父を彼女の目の前で斬り捨てた時だ。


『それで勝ったつもりですか? ――教えは心に宿るもの、お祖父様が葬られても私たちは道を誤ったりしない』


 幼い少女が杖を突きつけ、そう言い放った。
 ああこれはダメだ、死んだって治らない。殺してしまうには惜しい。生かしておくことも殺すことも不愉快だ。

「立場を弁えられないんじゃ仕方ねぇ、年中地下の寝台に繋いで頭から叩き込んでやる」

 泣いて喚いて、そうして疲れきった細く白い喉をゆっくりと絞めて、緩めて、何度でも、殺さずに、あの強い瞳が光を失うまで、何度でも。

「で、神様とやらの次は俺に心を捧げてもらおうか」

 口許を醜く歪めて、杯の中に残った葡萄酒を飲み干し、立ち上がる。

「処理はてめぇらに任せる、適当にやれ」

 それを聞くとようやく家臣は安心したように頭を深く下げ、部屋を出て行った。
 元々事務連絡だ、大和が指示しなければならないことなどひとつもない。伸びをしながら窓に近づけば、訓練中の騎士団が見える。一番手前に見える金髪は、御前試合を勝ち抜いた例の新人だろう。いつ腕試しをしてやろうか。次に大きな戦闘が起きた時か、それは楽しみだ。
 
「今年は楽しくなりそうだな、姫君よォ」

 東の空は今頃何色に染まっているのだろうか。





2009.06.18(Thu) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

きみをひとりにはしないから



 どうしてつばきをつれていかなかった……!!




 一ヶ月に一度は必ず、この夢を見る。
 こころをなくす前の、父様の最後の叫び。こころからの叫び。
 父様にとって、私は生きていくのに邪魔なのだろう。私もあの事故で母様と一緒に死んでしまえれば、父様はもう少し楽だったかもしれない。






「あら」

 ドアを開けて、最初に気付いてくれたのは紗央おばさま。紗央おばさまは、父様のお兄様の奥様で、私にとっては義理の伯母さまだ。小さな喫茶店を従妹の奈央おばさまと営んでいらして、料理の腕はお二人とも天下一品。私はまだ小学生だけれど、調理実習も苦手だからお二人にはいつかいろいろ教えていただきたいなと思っていたりする。

「椿ちゃん! 珍しいね、いらっしゃい」

 奥から奈央おばさまが出てくる。私ひとりで来ることなんて無いから、驚いた顔をしている。ぺこりとお辞儀をすると、カウンター席に案内してくれた。お店はあまり広くない。奥に一組、女の人が二人組みでケーキを食べながらお茶をしている。それくらい。

「学校終わったんだ」
「はい、先ほど一度家へ帰りました」
「そっか。樹理くん中学生になって時間合わなくなっちゃったもんね」

 奈央おばさまがそう言う。当たっているから、私は苦笑した。
 去年までなら樹理さんが大体家にいてくれたけれど、中学生とでは時間が合わない。私は家に帰ってもしばらくひとりになってしまう。宿題をしたり本を読んだり、することがないわけではないけれど、広い部屋にひとりというのはやっぱり、どこか寂しいから。

「ここにだったらいつ来てくれてもいいから。好きなだけ食べて行って」
「そんな、私そんなつもりでは、」

 私はただ、寂しいから誰かに一緒にいて欲しいだけで。甘いものが目的だと思われたらそれも少し寂しい。けれど紗央おばさんがカウンターの向こうで首を振る。

「いいのよ。こっちだって余っちゃうのは困るし、流風が来た時割増で請求するんだから」
「それはおじさまのご迷惑になってしまいます」
「あんたの父親なんだから、それくらいしたって当然でしょ?」



 どうしてつばきをつれていかなかった



 と叫んだ父様の声が甦る。あれ以来聞いていない父様の声。毎日聞いているのは優しいおじさまの声で、私が何を考えていて、どう思っていて、今どんな気持ちなのか、気付いてくれようとしている人。大好きな人。
 私のおとうさんって、誰なんだろう。
 ふいにそんな疑問が生まれて黙り込むと、奈央さんがふわりと優しく笑って私の肩に手を乗せてくれた。

「それよりも、椿ちゃんは紗央ちゃんの可愛い姪っ子だもん。心配しないで」
「そうよ、姪っ子に何ご馳走しようといいじゃない。ご好意ってやつ」

 そう言って紗央おばさまは私の前にパイの乗ったお皿を出した。おばさまの作るレモンパイは大好きだ。
 今紅茶淹れるね、と奈央おばさまもまた奥へ戻っていく。フォークを刺して、一口頬張ったパイの甘酸っぱさは、なんだか今の私の気持ちと似ている気がした。





「なんだよ椿。どこ行ってたんだ?」

 マンションに戻ると、樹理さんが帰宅していた。普段私は帰宅してからあまり出歩かないから、樹理さんも不思議だったのだろう。

「紗央おばさまと奈央おばさまの喫茶店にお邪魔していました。お土産まで頂いてしまって」

 紗央おばさまと奈央おばさまは、余っちゃったから、とパイやタルトをケーキボックスにつめてくれた。色とりどりのケーキは見ていて飽きないけれど、こんなに食べきれるかわからない。おじさまも樹理さんも、男性にしては小食だと思う。それを告げると、あたしのケーキが食べられないなんて流風が言うわけないじゃない、と紗央おばさまは自信満々で言い、樹理だって育ち盛りなんだし賢いんだから糖分取らないと、とも付け加えていた。

「まあ、美味しいから食べられると思うけど。取りあえず今晩のデザートには困らないな」
「ええ」

 出かけるのに肩にかけていた小さなバッグをリビングの椅子にかけ、ケーキボックスを冷蔵庫に入れるためキッチンへ向かう。ケーキボックスは小さいとはいい難いから、ちゃんと仕舞えるかどうか心配だったけれど、ちょうどいいスペースが確保できそうだった。ボックスを仕舞って、冷蔵庫の扉を閉めると、夕飯どうする? と樹理さんが問いかける。

「夕飯?」
「あれ、お父さんからメール来ただろ? 今日遅くなるんだって」

 急いで鞄から携帯を取り出してみてみると、確かにメールの着信があった。マナーモードもサイレントにしてあるし、喫茶店でながなが話してしまっていたから気付かなかったのだと思う。

「冷蔵庫、何かあった?」
「私に聞いて何かわかるとでも?」
「使えねぇ奴」

 樹理さんが冷蔵庫を確認して、ああ何もないな、とぼやいた。子供が料理をするのに使いやすい食材は確かに見当たらなかったかもしれない。

「じゃ、何か適当に見繕ってくるから」

 樹理さんは自分の通学鞄から財布を取り出すとズボンのポケットに無造作に仕舞う。留守番よろしく、とその足は玄関へと向かっていく。ああ、ダメだ。これじゃあ何の意味も無い。またひとりになってしまう。
 


 わたしもつれていって



「……一緒に行っては迷惑ですか?」

 靴を履く樹理さんの目の前に立って、勇気を振り絞ってそう言うと、

「ちゃんと献立考えるの貢献しろよ」

 と返された。

「ば、バッグ取ってきます!」
「なんだよ、来るつもりなら始めから持ってこいよな」

 くるりと方向転換してリビングに戻る。小さなピンクのバッグから白いつるつるの携帯電話を取り出す。
 マナーモードのサイレントは解除して、樹理さんの待つ玄関へと急いだ。





2009.06.17(Wed) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

ふおおぉおおおお



VOMICのページ行ってみたら新條まゆのコミックの声中井和哉があててたから聞いてしまった……!!!
うあああああ何だあのエロボイス……!!(爆笑)
イヤホンとかマジで殺す気か……!
夢魔と聞いて真っ先に喀血する人思い出しました。愛すべき杉田。
あの中井ボイスはダメだよ、あんなのイヤホンで聞いたら死んじゃうよ……!
少女漫画の男キャラで声あててるドラマCDとかならちょっと欲しいけど、中井キャラが攻のBLCDとか聞いたら死ぬということが判明してよかったです。新條まゆはダメです、やっぱり発禁です。(笑)

BLCDといえばオルタナは買うよ絶対買うよ!
原作好きなのに谷山平川代永とか買わないわけがない。
うあああああ、谷山のミキさん楽しみ平川のケイスケ楽しみ……! 何よりも代永が千葉くんとかぴったりすぎてどうしよう私。


椿の話書いてたはずなのにどこで脱線したんだろうか。


2009.06.17(Wed) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

ゼミの成果


タっくんVS流風で運動会、みたいなフラグも考えたんだけど、やっぱりゼミの最中ずっと考えてた設定を吐き出すのが先!
聖櫃戦争の大和と奈央の関係性をいろいろと幻視してみた。
アニメうみねこのPV見たけどバトラの目でけぇえええええええロマンチカぁああああああ、と思った。
志方さんの曲は相変わらず神。EDのじまんぐが楽しみすぐるwww


やっぱりもうちょっとどうして大和と奈央が対立するのか軸をまともにしないと何もできないな、と思いまして。なので簡単な構図としては、王国と教会の対立って感じかな、と思ってます。そこはかとなくローマ帝国。皇帝と教皇が対立してた時代のアレっぽい。でもキリスト教じゃなくてファンタジーなのでそれっぽい何かということで。
奈央の家は代々その宗教の司教とか司祭とかに就く家系で、奈央のおじいちゃんが前の教皇か今の教皇。大和にやられて死んでてもいいな。奈央はおじいちゃんに可愛がられてる孫娘で、霊が見える不思議な娘っこなので、戦いの現場には勝利をもたらす天使っぽい意味合いで連れて行かれてたりして、現場でもそうじゃなくても大和と何度か面識がある。

で、国土はもともと王族が全部支配してたんだけど、外からその宗教がやってきて信徒が増えて勢力拡大、でもって押さえつけたい王国との間で覇権争い的な。
そんでもってキリスト教っぽいとこだし悪魔を封じる云々ってのも教義かなんだかの中に入ってるんだけど、結局その悪魔が強大すぎて教会が使い物にならなくて、仕方ねぇなあと王族が代わりに封じてやったりして、一応その恩があるので対立が一時沈静化するんだけど、それに乗じて王族が信徒の迫害とかやらかして、後に激化、まだ決着がついてない的な。
宗教は苦手なんで適当にも程がありますが、ローマ帝国とレコンキスタをちょいちょいぶっこんだ感じで。

教会は国から覇権を奪いたいけど、王国としてはその宗教がなくなるととんでもないことになるから、全部排除したいわけじゃなくてある程度押さえ込みたいだけ。なので王国の方から戦いを仕掛けることはない。教会が武装して突っ込んできたり、教徒のいない領土にちょっかい出したりそんな感じ。
そのとばっちりを受けたのが流風、と。流風が住んでたところは森の近くで、その森の木で国の産業の一部を担ってたらいい。奈央のじいちゃんが主導者でそこ焼いて、近くにあった流風の家とお父ちゃんお母ちゃんが焼けちゃって、っていう。
重要な森焼いたら覇権奪えてもその後困るだろ、とかいうのはナシ。愛です、植林です。


絶対城の中とか和睦派とかいるんですよ。「大和様と姫君がご結婚なされば」とか言う奴いるんですよ。大和とかそんな話聞いたら言い出した奴即殺しそうで困るww
聖櫃戦争の大和は基本的に最低男でいいと思ってます。こういう背景もあるから、流風と戦うんじゃなくて「奈央を殺す」って思ってるはず。超皮肉って「神の姫君」とか呼んでますよ多分。
流風は信徒でもなんでもなくてただそこに住んでただけの子なので領民であって大和は殺せない。
「てめぇ、何回こいつ殺したら気が済むんだ? 姫君には慈悲もねぇワケだ、おー怖い」
とかな。森が燃えるところとか奈央は多分見てるんだろうなあ。そういうネタバラシをするのは大和がいいと思ってます。面倒な女だからとっとと殺すか屈服させて飽きるまで自分のもんにするかとか考えてたんですよ。最低男なので、ルミに対してもあんまり本気ではないと思う。一番最後に目覚めて近くにいたのがルミだったらそこで初めて本気になってくれそうです。基本最低でお願いします。


「未熟者が偉そうな口利かないでもらえます? 剣を振り回すしか能が無い上に王族の方が唯一まともにできるはずの封印さえできなくて、挙句喰われた王子になんて用がないんです。そのまま魂喰らい尽くされて死んでください」
「っは、ざけんなよこの戦狂いが。何も知らねぇガキ何度も殺して、怖いねぇ、流石は死神の姫君」
「貴方のその厭らしい物言いが大嫌いなんです私」
「何とでも言え、その口から命乞いしか出ねぇようにしてやる」


に準じた会話をさせてみたくて仕方ない。
元々互いが大嫌いだといいなあ。死ねばいいのに、とか、殺してやりたい、とか常々思ってそうです。
奈央が流風を連れてるのは、多分流風のことどっかで見てて一目惚れとかですよね。気になってたとか。どっかで会ったことあるとか。
少なくとも奈央は大和ほど最低ではない。こうなると叡一くんと紗央が断然可愛く思えてくる。
奈央と流風を倒した後だと、理由の無い二人にはもっとイライラするだろうな。幸せだかなんだか知らないけどこちとら何百万の領民の生活背負ってんだってーの、と。バーサーカーにしてセイバーって何なんですか、私大和は死ねばいいって本気で思ったりしないけど今ちょっと思ったよ。
でも紗央にとってはそんな何百万の人たちの生活より、過去や未来をどうにかするより、今もらえた時間を楽しく過ごすことの方が余程重要なんだと思う。
大和ってロマンチストなんだ。多分、金持ちだからロマンティックなことがすぐ実現可能で、大和からすれば現実的なことなんだろうけど、他の人から見れば現実離れしてるからロマンチストに見えてしまう。どの世界でも大和って多分そうだな。(改定中国史の大和はこの限りじゃないと思う!(笑))


あー吐き出した。楽しかった。
バーサーカーな大和と戦狂いの奈央とか楽しいな。奈央とか大和に捕らえられたら絶対ジャンヌ・ダルクですな。魔女裁判とかかけるよ。しばらくいたぶって楽しんで泣かせて泣かせて最後火炙りだよ。大和のことなのでその辺でちょっと愛着湧いちゃいそうですけどね。この大和はドSになれそうww


2009.06.16(Tue) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

それでいいの



 すう、と深呼吸。ドアの向こうには多分男がひとりきり。
 覚悟を決めると、ルミはノックもせずに扉を開けた。ベッドの端に腰掛けていた男、大和は突然部屋を訪問したルミに目を見開いている。

「よっ、おにーさんおひとり?」
「何だよいきなり」

 ルミの想像通り、大和は少し困ったように笑って言った。なので、押し通さんばかりの明るさで、ルミは両手を顔の前に上げた。

「ふたりで飲もうかと思って」

 その手には、階下から奪ってきた缶ビールが二本。






 二泊三日の予定の旅行、その初日だ。朝早くに出発して、昼過ぎには要の家の所有する別荘に辿り着いた。
 それから水着に着替えて泳いだり遊んだり。みのりとの接点があまりなかったルミにとってはビーチバレーでかなり距離が縮まったと感じたし、普段会うことのできないルネからも声援をもらえて嬉しかった。
 
「それでさ、あの時の鳥尾のスパイクすごかった!」
「あのガタイだからな。へなちょこのがすげえよ」
「あれちゃんと拾ったし、あんたも割とやるわよね」
「俺が綺麗に上げたのにお前がスカったんだろ」
「うるさいっ」

 大和の隣に腰掛け、今日の思い出話をする。話の合間に缶に口を付けるが、ルミがちらりと横目で見る限り大和の缶の中身はそう減っていないだろう。
 なのでルミは更に思い出話を進める。あの時ボール拾おうとして転んで痛かった、シーマスの野次が逐一うるさかった、その全てを大和が微妙にフォローしてくれていた、と思い出話は大体大和への褒め言葉で締めくくられる。最初こそ上機嫌だった大和も、この不自然さに気付いたらしい。缶を口に運ぶ手を止めて、じっとルミを凝視し、それから息をつく。

「俺を持ち上げたいわけじゃねぇんだろ。何の用だよ」

 今、階下ではリビングで残りのメンバーが騒いでいるだろう。大和のいる部屋には他に冬二とシーマスが寝ることになっている。逆に、ルミは椿とみのりと同室だ。リビングに全員が集まるから、わざわざルミがビールなどを持ってここまで来ることには何かあるとわかっているようだった。
 缶を両手で弄びながら、うん、とルミは小さくうなずく。

「ちょっとヘコんでんのかな、って思って」

 大和の目が、少しだけ大きくなる。

「俺が? なんで」

 うん、とルミはまたひとつ頷いた。

「椿ちゃん、一番に気付けなくて」

 浮き輪に乗って波に揺られ、気付けば沖合いまで流されてしまっていた椿。ビーチバレーで遊んでいた大和は、それに気づくのが遅れた。気付いた時には既にシーマスが海へ飛び込んだ後だったのだ。
 それから大和は少しだけ調子を落としているようにルミには見えた。だからこうして今も部屋にひとりでいるのかもしれない。
 今度は大和は何も言わなかった。

「家を大事にするってことはさ、人を大事にするってことよね。人がいなくちゃ、名前だけじゃ家は続いていかない。椿ちゃんもあんたも、芹沢が大事だからお互いを大事に思ってる。それはあたしも分かってるよ。それに椿ちゃんは大和の妹分で、ずっと近くにいたし」

 椿の変化に気付いてやれるのは自分だけなんじゃないかときっと大和は思っていたのだろう。それが、大和よりも先にシーマスが気付いたから、そのショックもあるのかもしれない。
 
「ゲームは負けちゃったけど、結構いいとこまで張り合えたと思うし、あたしは楽しかったんだよね。で、椿ちゃんはシーマスが助けてくれて円満解決! って思ってる。なのにあんたがちょっと浮かない顔してるから、それは何か、あたしだけ空回りしてる気分になるの」
「何で俺が椿のことでそんなしょげなきゃなんねぇんだよ」
「それは大和もよく分かってないんじゃない?」

 はぁ? と大和は眉根を寄せたが、これは言い得ていることだとルミは思っている。
 どんなに頑張っても理解の外にあること。自分はほんの二十年ほどしか生きていないのに、芹沢というふたりのバックグラウンドだけは何百年と続いている。それを守ることへの義務感が、互いの関係を曖昧なものにしてしまっているのだろう。

「恋愛感情じゃないのは分かるのに、単に家族って割り切るのも難しい。だから先越されるとちょっと複雑になっちゃったりして。あたしは外の人間だから、あんたと椿ちゃんはそういう風にこれからも生きてくんだろうなって見えるの。あたしと椿ちゃんどっちが大事なんだろうなあ、なんて変な心配もしたりしない」
「当然だろ、俺が好きなのは、」
「あたしでしょ? 分かってるもの」

 大和が信じろと言うから信じている。嘘など言わない男だから、疑ることも面倒だし必要が無い。だから今日のような出来事があったとしても、不必要に不安に駆られることはないのだけれど、ルミが何よりも嫌だと思うのは、信じろと言った大和が自ら芹沢としての線引きをしてしまうことだ。そうなってはその先にルミが踏み込むことなどできなくなってしまう。大和が自分と椿の関係性についてよくわかっていないままでも構わない。未だに許婚のように振舞っても気にしたりはしない。ただ、芹沢大和としてオープンであってほしい。閉ざさないでほしい。それだけだ。

「あたしのこと好きって言ってくれて、家のことも椿ちゃんのことも大事に思ってて、今日みたいなことでちょっとショック受けてるあんたは、スパイク決めたりブロックしたりするより、正直すごくかっこいいと思う。それがあたしが好きな、芹沢背負ってる大和、って感じするし。あんたが芹沢大和ならずっとそのままでいいから、閉じこもる方がらしくないわよ」

 とは言え、大勢の前でこんな台詞を言える気もしないから、リビングで落ち込まれるよりは都合がよかったのだが。そんな心の声は仕舞っておくことにする。
 ルミの言葉をすべて聞き終えると、大和は黙って缶に再び口をつけ、何口か中身を飲んでからルミに向き直った。しかし口は開かない。ただ黙っているというよりは、何を口にするべきか迷っているように見えた。ルミも急くつもりは毛頭ない。何を言うだろうか、頭の中で粗方の見当をつけながら、大和が口を開くのを待った。

「……やっぱりお前が好きだわ」

 一分ほど経ってから、絞るように大和はそう言った。その言葉にルミは顔を綻ばせる。今までで一番気持ちが篭っているかもしれない。

「言うと思った」
「エスパーか」
「大和って会話のパターン少ないんだもん」
「庶民に合わせてんだよ」
「さいですか、ありがたいですねえ」 

 気持ちが篭ってねぇんだよ、と大和は笑って言い捨て、缶の中身を今度は一気に飲み干す。調子が戻ったらしい。
 飲み終えて中が空になった缶を少し強く握ればべこりとすぐにへこむ。べこべこと音をさせる缶を手に、大和は立ち上がり、戻るぞ、とルミに声を掛けた。ルミはまだだいぶ缶の中身が残っていたが、階下ではドンちゃん騒ぎが続いているだろうから心配はなかった。続いて立ち上がる。

「明日も楽しくなるといいね」
「それよりも俺は二日酔いが心配だ」
「あんたらは自制って言葉を覚えるべきよ」

 大和の背中に向かってルミは声を掛ける。冬二やケレス、シーマス、要、みんな同じように大柄で背中も広いけれど、これほど押してやりたくなる背中はない。まだ縋るには早いような、そんな気がしている。そんな自分の思考にくすりと笑いを漏らしつつ、ドアノブに手をかける大和の背中を押して急かした。






2009.06.15(Mon) | ご近所物語 | cm(0) | tb(0) |

夏休みはやっぱり短い



「それで、酷いんですよアイツ! せっかく選びに来てるのに、どれだって一緒だろ、とか抜かしやがって!」
「一緒に来てくれるだけいいんじゃない? 結局選ぶのは手伝ったんでしょ?」
「コレ履いてエスカレーター乗ると指切れんだろ? コレにしろよ、とか言ってましたけどね。それはそれは嬉しそうに」
「大和らしいじゃない」
「らしいで済ませていいことじゃないですって」

 今日は紗央さんとデートです!
 夏休みは響のところの別荘に行くとか言うからこの前サンダルを新調して、今日は水着を選びに。これはまあ、一応。大和は「俺に選ばせろ」なんて言ってたけど、奴に任せると妙なもの選びかねないし。しかも絶対露出が高いものとかじゃなくて芸人ぽいの選ぶに決まってるんだから放置! 去年まではサークルの友達と見に行ったりしてたけど、今年はせっかく紗央さんも同行するんだから一緒に選ばない手は無い。ていうか紗央さんってどんなの着るんだろう、何着ても似合いそう。

「紗央さんはこういう買い物とかあんまり来ないんですか?」
「うーん、妹に引っ張り出された時くらいね。服とかはそういう時に適当に見繕って」
「適当でそれなら十分じゃないですか……。でも勿体無い。歩けば街中の男の視線掻っ攫う感じですけど」
「うちの妹がね」

 で、相変わらず自分に無頓着。妹さん見たことないけど、でもなあ。これだけ主張するってことは余程可愛いんだろう。美人姉妹なんてすごい、漫画の世界みたいだ。美人姉妹が単体で歩いててもそりゃあ目は引くと思うんだけど。あたしが男ならまず目持ってかれます。
 時期が時期だからかフロアの一角が全部水着コーナーになっている。これだけあっても似合うものなんてそうそうないっていうのが悲しいところだ。大和はともかく、シーマスあたりはあたしごときが何来たってぷくくと笑いそうだ。ていうか笑うでしょ絶対。どんだけ頑張って選んでるか苦労を知れってーのよアイツは。
 紗央さんはいつも通りらしく適当に見繕っている様子。自分のなんかより紗央さんが何選ぶのかの方が気になってしまう。

「わ、白ですか! 似合いそうっ」
「そう? ならこれでいいかな」

 ……え、即決?

「え、な、こんなに並んでるのに即決!?」

 紗央さんが手にしたのはシンプルな白のビキニ。紗央さんって髪真っ黒だし、そういうの映えると思うし似合うと思う。思うけど、こんだけずらっとたくさん並んでて即決っていうのは、ねえ!?
 紗央さんは水着を手にしたまま、ルミはどうするの? とフロアを歩き回り、途中でくるりとあたしの方に振り返った。

「だってあたし、水着の上に服着るもの。拘ってもあんまり意味無いわ」
「なんですと!?」

 ちゃ、着衣水泳、ということ? 警察レベルになるとそれくらいしないとダメってことなんだろうか、いや、でも休暇でしょ?
 困惑するあたしを見て、紗央さんは笑いをこらえ切れない様子で長袖をまくって見せた。その肌は透き通るように白い。

「真っ白でしょ? 肌弱いのよ、日差しとかもう全然ダメで。すぐ赤くなって痛くなるから夏も長袖に日傘ないと。水着で走り回るなんて論外よ」
「……じゃあ極端な話高校のスクール水着でも」
「問題ないわ」

 いえ、すごくあると思うんですけど。
 話をちゃんと聞けば、紗央さんにとって海は初夏に入る前に眺めにいくものらしい。例の妹さんも同じく肌が弱いとかで、海って綺麗だねー、と、これまた例の初恋の人と毎年見に行くのだという。海水浴と無縁ということだ。

「言ってくれたらよかったのに。そしたらショッピングでも水着じゃなくて最初から服見たりできたし」

 あたしの水着なんてそりゃどうでもいいし。わざわざ付き合わせてしまうことの方が悪い気がする。
 それなのに紗央さんは、いいのよ、とまた笑った。

「……別に、全然興味ないわけじゃないし、ね」

 ――これを進歩というのか。
 はにかむ紗央さんのこの表情を知っているのは多分あたしだけなんだろう。それを思うとほんの少し誇らしい。ケレスが見てる紗央さんの表情なんて、ツンツンしちゃって強がってばっかりで全然素直にならないところばっかりなんじゃないだろうか。
 
「……何よ、何か文句でも?」

 今度は打って変わって不機嫌そう。まあ、これが紗央さんらしさだとは思うんだけど。

「いーえ! 紗央さんすぐ決まったんだからあたしのちゃんと選んでくださいよー? 紗央さんと違って何でも似合うわけじゃないんですから」
「はぁ? 言っておくけど、あたしセンス悪いわよ?」
「じゃあそのセンスの悪さにすっごい期待してます」
「何それっ」

 今度の旅行で紗央さんともっとお友達になれたらいいなあ。寧ろ女子だけで旅行とかしたいかも。フロアを歩き回る紗央さんの後ろについて歩きながら、そんなことを思った。






2009.06.13(Sat) | ご近所物語 | cm(0) | tb(0) |

ねらいうち


双子ネタって弟が兄ちゃんに嫉妬するタイプが一般的だけど、逆の方が燃えないか。
そういった意味でシンクロはすごいなあと思うわけなんですが。

しかしタっくんと大和が本当にふっつーの双子だとか兄弟だったら、タっくん普通に馬鹿だと思うからなあ。馬鹿なくせに俺様って手に負えないww
そんなのどう考えても拓海→紗央という新しい展開。

「やっぱあれくらいの美人じゃねェと俺には釣り合わねぇな」
「そーだよなー、言うだけならタダだもんなー」
「大和てめぇ、兄貴に対する口の利き方をだな、」
「あーはいはいサーセンww」

なんだ仲良く出来るじゃないか。
なんだちょっと楽しいじゃないか妄想男なタっくんというのも。武蔵くんあたりと仲良くできそうですね!
これご近所がベースだったらもうタっくんに勝ち目ないよww 妄想もこの辺にしとくか。
見たいのは中井ボイスと伊藤ボイスの掛け合いです。死ねる……!!



ご近所でヤンデレな奈央をもうちょい書こうかなと設定つめをしてたんですが、どう書き出せばいいものやら意味不明な感じなので設定だけ吐き出して放置します。
ヤンデレな奈央がメインでなくて、反論する紗央がメインだったりする。
紗央はなんだかんだいろんなものの前に、そもそも空と奈央が付き合ってるのを認めたわけじゃないと思うんだ。

「あんなちっさいのに奈央やれるわけないでしょ!!」
「じゃあ小さくなかったらいいの!? 空君の成長期はこれからだもん! あたしだってね、あんな人相悪い人にお姉ちゃん任せられないの!」
「人相悪くないあいつなんて寒気するわよ!」
「だったら背高すぎる空君だって寒気するもん!」
「空の成長期はこれからって言ったじゃない!」
「来ないかもしれないもん!!」

というどうでもいい姉妹喧嘩。
ケレスさんに爽やかに笑みを振りまかれた日には周囲が凍りつきますよね。
呪いのかぶとでも装備したんじゃないかという話になると思います。教会行かないと解けないよ!
今日バイト帰りに自転車こぎながら流風とか慎吾が大学生組と同い年だったらどうなるんだろうなあ、とか思ったけど、あんまり仲良くなれそうになかった。やっぱりF5はあれで完成ですよね。


2009.06.13(Sat) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

迷わず引き金を引くから




 もし叶うのなら、躊躇うことなく一撃でその胸に穴を空けてやるというのに。



 物置のような小さな納屋で目を覚ます。背骨が軋むように痛むけれど、その痛みは日常ついてまわるものだから特別気にしたことはない。
 扉を開けて外に出る。それから、屋敷の敷地の一番端にある水道で、顔を洗う。納屋に戻って、隅に掛けてある制服に着替える。
 裏口から母屋に足を踏み入れたら、足音を立てないように廊下を歩く。まだ寝ている人間を起こせば大目玉を食らいかねない。床板の軋む音ひとつにも神経を使いながら、目的地である屋敷の奥へと向かう。
 その場所は屋敷の一番奥。入ってきた裏の入り口とは正反対の場所にある。正面玄関から入ればそれなりに近くはあるのだが、生憎とそれが許される身分ではない。誰にも見つかってはならない。だというのに彼の主は毎朝彼に朝起こしに来るよう命じる。毎朝のこの仕事が、どれだけ神経を使うものかわかっていて言っているのだろう。
 静かに襖を開ければ驚くほど散らかった部屋。そのど真ん中で大の字になって眠る男。

「お時間です、起きてください」

 自分と瓜二つの顔。
 髪型も、顔立ちも、声も、立てる寝息の音でさえもよく似ている、否、同じだというのに。

「……兄様、お時間です」

 肩を軽く揺すってそう声を掛ければ、自分と同じ瞳がきろりとこちらを向いた。
 それは不機嫌の色を伴って。
 起こされたことへの不満なのか、そもそも彼への不満なのか、あっという間に眉間に皺が寄る。そんな時にはただ黙って時が過ぎるのを待つしかない。これも毎朝のやりとりだ。どうして今日に限って兄などという単語を出してしまったのか、それだけが彼の不覚とするところだった。
 起き上がってばりばりと頭を掻くと、にやりと笑って、兄様ねえ、と意味ありげに呟く。

「違うだろ、礼儀がなってねェなお前は」
「っ、」
「夕霧に聞かれでもしたらどうしてくれんだ? 兄貴がふたりいるなんて気付かれたら」
「申し訳、ありません」

 言い訳すらしない彼を嘲笑う、彼と同じ顔の男は、その場にどかりと腰を下ろして胡坐をかいた。

「自分の立ち位置はわかっててもらわなきゃ困るんだよ、大和」

 今はこの家で彼の名前を呼ぶ者などこの男しかいない。同じ年、同じ顔、同じ血を分けて、ほんの数時間だけ産み落とされた時間が違っただけのふたり。
 兄は家を継ぐ将来を約束され、奔放に生きている。弟はある日を境にただ闇の中を生きる存在となり、名前で兄に縛られている。 
 彼の名前は小さな島国。

「――はい、拓海様」

 兄の名前は島を取り囲む、広大な。





2009.06.12(Fri) | パロディ | cm(0) | tb(0) |

落椿 2



 彼が目を覚ますと、窓の外はやはりしんしんと雪が降り積もっていた。一面の雪。窓から見える限りでは、側には何の建物もない、一面の銀世界である。ゆっくりと体を起こしたが、全身に走る激痛に耐え切れず再び白いベッドに体を沈めた。
 ――死のうと思ったはずなのに。
 確かに、剣を突き立てた。他人を傷つけないために、自分をこれ以上苦しめないために、死のうと思った。人間というものの持つ悪意に、人間そのものに、絶望していた。感情を押し込めて、自分を傷つけることに苦しんで、疲れて、解放されたくて、死のうと思った。剣を刺した腹部に触れると、痛みと一緒に包帯の感触があった。不思議だったのはその痛み。傷のために感じる痛みというよりは、いつもと同じ痛みだ。ガタがきた体が訴える、内側からの痛み。どちらにせよ生き延びてしまったのは事実らしい。

「なんだ、目が覚めたなら声くらい上げたらどうだ」

 部屋の奥の扉が開く。やれやれ、と呟きながら入ってきた少女は洗面器を手に、全身を黒い服に覆った少女だった。黒衣と同化してわからないほどの、濡れたように綺麗な黒髪も目を引いたが、何より目立っていたのは、彼女の血のように紅い瞳で、彼はしばらくその瞳から目を逸らすことができずに、ベッドに横たわったまま首だけを彼女の方に向けた。

「自害しようとしていた自分がこんな所で介抱されているんだぞ。もう少し叫んだり暴れたりしてもよいものだろう」
「できるならしている」
「そうだろうな。そうされては困るから、運んだ時に鎮静剤を打っておいた」

 なら聞くな、と彼は思ったが、彼女の態度は淡々としたものだった。ベッドに近づいて、近くに置いてあった適当な椅子をベッドの隣に置くと、彼の枕の隣に洗面器を置き、手ぬぐいをその中に浸してから軽く絞って彼の額を拭う。水の冷たさが、熱を持った体に染み入るようで心地よい。

「君、名は何と言う?」
「訊ねる前に名乗るのが礼儀だと思うが」
「ああ、そうだな、すまない。失念していた」

 ここは普通怒るところだと彼は思う。一方的に世話になっているのはこちらなのだから、感謝しこそすれ今のような態度は間違っていると思うのだ。

「私はカメリア。カメリア=ラトゥール」

 彼の額を拭いながら彼女は名乗り、一度手ぬぐいを洗面器に戻すと右手を彼に向かって差し出した。それが握手を意味するものだと気付くと、彼もまた横になったままその手を握り返した。

「……アルファルドだ」
「アルファルド、……偽名じゃないだろうな?」
「さあ、偽名かもしれないし違うかもしれない。名前なんて単なる記号だろう、固執することじゃない」
「なるほど、それは一理あるな。……しかしアルファルド、君は少し礼儀を知った方がいいぞ」

 握っていた手を解くと、彼女はその細い指で彼の鼻をぴんと弾いた。

「まったく、男一人ここまで運ぶのにどれだけ私が苦労したかわからないか?」
「この場合はお前が俺の無礼を怒るのが遅かったのが悪い」
「む、そうか。それはすまなかったな」
「謝られるようなことじゃない、気にするな」

 どうも彼女は理に適っているように思われることを言われるとそちらに流されてしまうらしい。よく言えば素直という奴だろう。全身黒ずくめ、深紅の瞳、の妙な女。彼女にすれば自分はもっと変なのだろう、と思いながら、彼は生き延びたことを喜ぶよりも、生きながらえてしまったことを嘆いていた。

「……何故助けた」

 彼の言葉に、彼女は目を細めた。

「あの時聞こえなかったか? どの道死ねないと。お前が思うより傷は浅かった。私が放っておいたところできっと誰かが助けたさ。残念だったな」

 自分の立場上、誰かに助けられるという展開は想像しにくかったが、あのまま死ねずに放置されていたら誰かに殺されていたかもしれない。誰かの手にかかるよりは、自分で自分にケリをつけたい。ならば、彼女に助けられたことは間違いではなかったのかもしれない。

「まあ、あの傷では死ねないが、君が長くないことは私も分かっている。体が内側からぼろぼろだな。どんな無茶をしてもここまで酷くはならないぞ」
「分かるのか?」
「私をただの妙な女と思うなよ、アルファルド。こう見えても私は医者だったんだ」

 彼女は少しだけ目を伏せてから、言った。だった、という言い回しを彼が不思議に感じるのに気付いたのか、今は違うからな、と穏やかに言い直した。

「父が医者で、私も父のような医者になりたかったんだがな。……私はどうも医者に向かないらしい。魔女は魔女でしかいられないようだ」
「魔女……? っ、つ……」

 再び疼くような体内の痛みに襲われ、彼が眉を顰めると彼女は困ったように微笑んだ。

「安静にしていることだ。一応医者だった人間だ、傷ついた奴をそう簡単に放り出したりしないさ。好きなだけここにいればいい」
「っ、待て、俺は長居はできない……!」
「それが路地裏でくたばろうとしていた男の言う事か? しかし相手が悪かったな。ドクター・ストップという奴だ。アルファルド君、安静に寝ていたまえ」

 医者なのは過去の話なんじゃなかったのか、と彼は内心思っていたが口に出すのも面倒だし、痛くては動くのもままならないのでこのまま横になっていることにした。再び彼がベッドに深く身を沈めたのを見て、彼女は洗面器を抱えて立ち上がる。

「なあ」

 その背に、彼は声を掛けた。

「何だ」

 くるりと彼女は首だけ捻る。真っ赤な瞳が彼の目をじっと見ていた。

「アルでいい。略せ」
「いや、私は名前を略されるのが好きじゃないんだ。ほらよく言うだろう、自分がされて嫌なことは人にもするなと。私はこの信条に基づいて君をアルファルドと呼ぼう」
「……カメリア、……略すと鈍足みたいだからか」
「お、君はなかなか鋭いな。その通りだ」
「だからって相手に要求されてることまで断る道理にはならない」
「いや、やはり名前というのはちゃんと呼ばれてなんぼのものだろう? 記号とはいえ、せっかくある名前じゃないか」

 確かにカメリアは略しようがないし、略してカメというのもかなり抜けていると彼は思う。自己満足な納得をして、よし、と意気込んだあと咳き込んだ彼女の背が遠ざかるのを眺めながら、彼は厚手の毛布を被った。




2009.06.11(Thu) | 未分類 | cm(0) | tb(0) |

ちょっとまえのつづき



「樹理、お前そろそろ春の保護者会の案内とかもらってんじゃないのか?」

 夕食の最中、目の前でハンバーグを頬張る樹理に流風が声をかけると、樹理はあからさまにぎくりとした表情で視線を逸らした。この反応では隠していることがバレバレで、樹理の隣に座る椿もその様子を見てくすくすと笑っていた。

「何だよ、別にお前が嫌がるようなことひとつもしてないだろ。役員とかだってできるわけないんだし」
「お父さんが保護者会来ると翌日蜂の巣になるから嫌なんだよ……」
「光栄に思え」
「思えないって」

 中学に上がってそろそろ二ヶ月が過ぎようとしている。保護者会の案内が来てもおかしくない時期。何よりも、自分も教員をしているために保護者会の案内を作成中だったりするのだ。
 樹理の保護者会にもできるかぎり毎回参加をし、椿の保護者会にも代理で参加しているのだ。参加の頻度としては椿の保護者会の方が高いかもしれない。特別しゃしゃり出て発言したりするわけではないが、子供の頃から何かと人目を引く容姿で、現在もそんな悪癖は直っていない。こればかりは直そうと思っても直せない、致し方ないものではあるのだが、樹理はそんな父親を恥ずかしく思うようだ。

「そんなこと仰っても、おじさまと同じくらい樹理さんも人目を引きますわ」

 椿がそう言う。流風も頷いた。樹理の母親も整った顔をしていたが、その母と父である流風の血を引いているのだから、遺伝の力だけでも相当なものだろうに、樹理は母親譲りの緑色の瞳に金髪だ。流風以上に人目を引いていてもおかしくない。

「僕はいいんだよ、慎ましく生活してるから」
「俺だって慎ましく出席してる」
「お父さんは身から滲み出るオーラがアイドル的なんだよ」
「何だそりゃ」
「僕が受験する時、絶対ツキ高の倍率これまでの倍以上になるよ、お父さんのせいで」
「受験料たんまり頂けてありがたいな」
「うっわ、最低だ」

 軽蔑するような目で樹理が流風を見、流風もまた上から目線で樹理を見る。その態度の違いに折れて先に視線を逸らしたのは樹理だった。いいよ、あとで出す。と諦めたように言うと、そのままかき込むように食事を続けた。
 贅沢な悩み持ちやがって、と陰での人気者なのだろう息子に思いを馳せながら椿に視線を移すと、何か声をかけたそうにこちらを見ている瞳にぶつかった。

「椿? どうかしたか?」
「あ、いえ」

 いえ、という表情ではないのだが。なおも何か言いたげな瞳で食事を続ける椿に、そうか、とだけ流風は返した。何かあれば樹理のいないところで声をかけてくるだろう。





「……あの、おじさま」

 その日の夜。
 部屋でひとりコーヒーを飲みながら小テストの採点をしていると、控えめなノックの後に扉の向こうから椿がひょっこり顔を出した。入っていいよ、と声を掛けると、パジャマ姿でてくてくと部屋の中に入り、ベッドの縁に腰掛ける。

「何か話あるんだよな? どうした?」

 樹理は今頃部屋で勉強しているか、もしくはもう寝ているのかもしれない。椿もいつもならばこの時間には床についているはずだ。流風自身は中学生の頃から就寝時間などまちまちだったから、子供にもあまり強くは言わないことにしている。言われずとも翌日に支障をきたさないよう自主的に行動してくれる子供たちで、流風はあまり親らしいことはできていないのが現状だ。
 ならば子供が何か相談があるときくらい親らしくせねば、と流風は椅子ごとくるりと振り向いた。椿は俯き加減でこちらの様子を窺っている。

「……な、習い事、を、させていただきたいな、と思いまして」
「? なんだ、それくらい言えばいいのに。何を?」

 すっかり乾いた黒髪が、ぱさりと落ちた。

「……お花を」

 一瞬ぽかんとしてしまい、椿が不安そうな表情で流風を見つめていた。我に返ってすぐ、なんでもないよ、と苦笑いを浮かべてしまう。
 ――いつか言い出されることだろうとは思っていたけれど。
 それでも流風には意外だったのだ。椿が五歳の頃からずっと面倒を見てきている。椿は自分がそういった家の生まれであることは知っているだろうが、詳しいことはほとんど知らないのだ。それまで稽古をつけられていたわけでもないようだったし、単に花を愛でるのが好きなだけなのかもしれないとも思っていた。

「……椿、それはもう少し待たないか?」

 嫌なわけでもない。いずれ椿が芹沢を継ぐということになるのなら、早い段階からちゃんと稽古をつけてもらうべきなのだろう。けれど、それならば父親に教わるのが一番だろうし、流風は詳しいことはよくわからないが、下手に別のところで教わるわけにもいかないのだろう。大和が落ち着くまで、もう少し待たせたいのが本音である。

「そう言われると思っておりましたわ」

 流風の言葉を聞いてすぐに椿はそう言って顔を上げた。椿も自分の置かれている状況は把握しているのだろう。それならば今こうして花を習いたいと申し出たのは、ちょっとした我が侭のようなものなのだろうか。

「……樹理さんがおじさまと仲良くされているのを見て、ほんの少し羨ましくなってしまって」

 今度は腰を上げて、笑う。
 夕飯の時のやり取りでそう思ったのだろうか。それとも、

(ずっとそう思ってたんだよな、椿)

 そういうことなのだろうか。多分、そうなのだろう。椿はずっとそんな思いを抱えて生きてきたのだろう。心から甘えることもできず、本当の母親を亡くし、父親も今はまだ遠いところにいる。寂しさを抱えてどうしようもない椿を、どうにかしてやれるだろうからこうして引き取ったのに。

「お仕事邪魔して申し訳ありませんでした。おやすみなさい、おじさま」

 ぺこりと頭を下げる椿の手を、そっと握ってやる。
 驚きと戸惑いが入り混じった表情だ。椿、と名前を呼んでやると、律儀に返事がきた。
 ――こんな時に、流風が父親としてしてやれることなど限られている。

「今日は一緒に寝ようか」




2009.06.10(Wed) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

どうしたもんやら



「ヤマト、調べ物があるから書庫の鍵貸してくれ」
「あ? 俺がんなモン管理できるとでも?」
「ツバキー、悪い、書庫の鍵どこにある?」

 明るい茶色、そして長い髪。それはよく似合う鬘だ。
 山吹色の服の上に、上着のように大きな桃色の布。動く度に頭の簪がきらりと光る。純銀でできた高級品なのだ、光り方もいちいち品がある。
 それらすべてを命じられて用意したのはツヅキで、それらすべてを身に纏った彼は今や立派な妾もどきとなっている。屋敷内での噂やご老体からの評判も事前にヤマトが想定していた通り。大衆とはかくも踊らされやすいのかと、屋敷の内部をよく知るツヅキにしてみれば内心ほくそ笑んでしまうような会話ばかりが聞こえてくる。
 ルカはツバキから書庫の鍵を受け取ると、早速書庫へ向かうようだった。自然にその後を着いていくヤマトを見て、ツヅキもその背を追う。執務室を出てしばらく廊下を歩くと、不意にルカが立ち止まってくるりと振り向いた。

「……あんたらまで来る必要ないと思うけど」
「暇つぶしで」
「俺はヤマトはんがおるとこやったら例え火の中水の中!」
「ツヅキはともかく、あんた暇じゃないだろ全然!!」
「暇だと思えって脳が命令しててだな、」
「だーまーれ」

 明るい色の服を着て、長い髪の鬘を被ったルカは女性そのものに見える。ヤマトとのやりとりもサマになっている。庶民の娘を側におかれて、下手に身篭りでもしたら手に負えない。この気ままな君主が新しいものに目をつけ、それが男だと言うのならご老体の面々も安心している部分がある、強くは言えまい。

「ちッ、面白くない奴」
「それで結構。つーか、あんたが押し付けた仕事だろ。俺はやりたいこと山ほどあんのにこんなびらびらした服着て仕事させられてんだ、あんたは最低限やんなきゃなんねぇことくらいしろよ」
「あーあ、妾の分際で主に口答えたぁ度胸あっていいねぇ」
「るせぇよ、とっとと戻れ!」

 どこからどう見ても華奢な女。そんな女に背中を強く押され、ヤマトは仕方なく執務室へ戻るようであった。もちろん、ツヅキはその後を追う。

「慣れたらちぃと気が強うなりましたなあ、ルカはん」
「俺の分まで仕事こなすんだ、たまに鍛錬の相手するだけで書類が減るなら安いもんだろ」
「しかもヤマトはんがやるより丁寧で正確やてじいさま方ぼやいてはったわ」
「人の仕事頼まれてんだから丁寧・正確で当然だ」
「うわあ、やなお人やわ」

 ヤマトは飄々としていて、毎日暇そうに見える。が、見えるだけ見せているだけで実際は忙しくなければならない。ルカがこういった事務作業をするのが得意でヤマトも大分助かっているのだろう。毎日毎日執務室に山のように積み上げられていた書類は、最近では半分あれば多い方だ。とかくルカの作業は速くて効率がいいのだ。
 その代わりにヤマトがしてやっていることと言えば、数日置きにルカの鍛錬に付き合ってやることくらいで、驚きなのはそれでルカが満足していることだ。ルカは朝から晩までヤマトの仕事を押し付けられて働き、命令があれば妾を装ってヤマトの側に仕える。そして夜は毎日欠かさずに剣と術の鍛錬を行い、ヤマトの寝室で眠る。いくら契約が交わされていると言っても、ここまでの屈辱的な束縛はツヅキには耐えられそうにない。これでいいと思っている人間もおかしいが、束縛する方もする方だと思ってしまう。

「――あのバカはどうしてる」

 あのバカ、とヤマトが指す人物。それはおそらく、ルカの相棒である――シンゴのことなのだろう。ルカがヤマトの側に仕えるようになり、これまでヤマトの部屋で寝泊まりをしていたルミがツバキの部屋で暮らしている。シンゴはその間、ルミの実家の護衛を任されていた。事情を説明すればルミの両親はシンゴを歓迎し、シンゴはルミの両親と寝食を共にしている。しかしシンゴはやっかいな病持ちだ、下手なことがあってはルミの両親に危害が及ぶ可能性だって否定はできない。ヤマトは、その先でルミが傷つくのが嫌なのだ。

「なんて返せばええんやろなあ、“順調”?」
「ならいい」
「定期的にルカはんに会わせて、ツバキはんの調合した薬使うとったら平気やと思いますわ。畑仕事もよう手伝ってはるようやし、村の評判は上々ってとこです。力仕事も得意やしな、シンゴはん」

 そこまで話したところで、元いた執務室の扉の前までやってきた。ヤマトは、そうか、と答えて扉に手をかける。重い扉が開くと、そこには先刻ここから退室しなかったツバキがいる。

「? お父様、ルカ様とご一緒に書庫へ向かわれたのでは?」
「追い返された」
「お父様がいらしても仕事をしてくださるわけではありませんものね。ルカ様のお気持ちもお察しします」
「お、生意気言うじゃねぇかよ」
「そんな、滅相もございません」

 ツバキは困ったように笑って、軽くヤマトの机の上を片付け、どうぞ、と声をかけた。
 ヤマトもその声に促されるがまま、椅子に腰掛ける。それから、ふう、と深く息をついてから顔を上げた。

「仕事する。出てってくれるか」
「はい、かしこまりました」

 ヤマトがそう指示すれば、ツバキはすぐにそう返事する。
 ヤマトが仕事のために人払いをすることは少なくない。しかし少し不思議なのは、執務室だけではなく自室でもそうすることがあったり、人がいても仕事をすることだって度々ある。何より不思議なのは、人払いが例外なく徹底されていることだ。つまり、――あのルミ相手でさえも部屋から追い出してしまう。そんな時、ルミは大抵ツバキの部屋に身を寄せているようだったが、何年も連れ添っている彼女でも、どうしてここまで徹底させるのか解せないのだという。

「ツヅキも。そんなに邪魔したいのか?」
「いーえ。ほな、お国の為に退散させていただきます」

 わざとらしく恭しい礼をすると、ツヅキとツバキは揃って執務室を出た。
 扉は閉まってしまえば中でヤマトが何をしているのかなど、流石のツヅキでも知る術はない。

「貴方もお父様に形だけであっても仕えているというなら、仕事のひとつもなさったらどうです?」
「逐一うるさいなあ、あんさんも。言われんでもツバキはんよりは余程役に立っとるわ」

 執務室から持ってきたのであろういくらかの書類を腕に抱え、ツバキは苦い顔をした。娘であり、秘書の役目も負っているツバキではあるが、所詮内務。対外的に動き回れるツヅキの方が『役に立つ』という言葉には相応しいのだということを知っているのだ。

「俺はあんまり口うるさいことは言いたないんやけど、――自分の評判も多少勘定に入れて動き」

 ご忠告までに。明るい作り笑顔でツバキの肩に手を置いて告げると、ツバキの整った顔が一層嫌悪感を露にした。

「……ありがとうございます」

 ぱしん、とツバキがツヅキの手を振り払う。払われた手をひらひら振って、ツヅキはまるで何も気にせずにツバキに背を向けた。




2009.06.08(Mon) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

………

久々にリベリオンの設定を詰めてみる。っていうか、いろいろ触発されて雪国のその後を書きたいんだけど。
ツヅキくんのスタンスがなかなか決まらなくて結局書けなかった。
ヤマトとツヅキくんの間ってよくわかんない執着があっていいと思ってるんだけど、でも形式的主従関係があって、ツヅキくんはツヅキくんで本当のご主人様がいて、その辺突っ込んだ何か書いてみたいなあとか思ったんですが。


もうちょっと書いてみたけどやっぱり難しかった。うーん。
緋色やってるとどうしてもアンドゥーが書きたくなる。姫様って言わしたい……!!
翡翠の雫が気になってます。何でってそんなの伊藤健太郎が弟とか……!
タっくんの声は暫定中井ボイスでもいいけど、稲田さんとかもぽいなあと思いました。とかくああいう感じなんだ。低くて挑発の似合う声がいいんだ。あと和風。(何)
ウィル・オ・ウィスプのプロモ眺めたら、ウィルの声いいなあと思ってきた。ときメモでは何喋ってるかわかんなかったらしいが、ああいう爽やか美少年もできるんですね。声はいつも通りだけど寧ろそれがいい。


リベリオン、ラストまで書けるかなあ。
アンドゥーと紗央の話は書きたいんだけど。騎士とお姫様って、なんか、いいじゃない。
エンジ君と椿でそれやってボイスつけたら私卒倒するんじゃないかな!


あ、玉ニューのチケット取れる……。

2009.06.03(Wed) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

/
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。