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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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世界の果てへ花束を



 暗くじめじめした部屋で、もう何日も同じことばかり考えていた。
 自分にとって、その存在がどれだけ大事なものなのかということ。俺だけは、軽率な言葉を吐くことは許されていなかったのだということ。自分のちっぽけな配慮が、逆に彼女を追い詰めて傷つけたこと。……わかる。それはもう、痛いくらいに分かった。理解した。けれど俺にだって一応、主張できる程度の言い訳くらい、ある。
 さあ、俺よ何が言いたいのか。俺の優しさなぞ無用だとあいつのこれまでが主張する。多分それが正しいんだろう。説得力を持つ奴が勝ちだ。


 俺にとっては巻き込まないことが愛情表現そのものだ。


 俺や椿が背負っているもの、それは一桁や二桁で済むものじゃない。四桁規模の歴史を背負っている。その四桁を背負うことがどれだけ重要なことなのか、俺も椿も家を愛しているからよくわかる。親がある程度自由に生きていいというからその中でできる限り自由を謳歌するのが俺、自由に慣れてしまえば後が怖いと真面目すぎるくらい真面目になっているのが椿だ。椿のやりたいことは、わからないではない。椿の考えることも、俺からしてみれば筋が通っている。
 これで、俺がどこぞの社長の息子だ何だって言うなら、俺は迷わず家を捨てたに違いない。俺以外に代わりはいくらだっているはずだ、と彼女の手を取ってどこへでも行った自信がある。だが、それじゃダメなんだ。俺と椿が背負う四桁規模のものは、俺でなければダメだと言う。俺もきちんと向かい合ってその要求を良しとしたからこうして今もその姓を名乗っているわけだ。好きなら飛び出せばいい、とか、自分のしたいように生きればいい、と言う奴がいる。そんなことを俺に言ってみろ、首の骨折って殺してやる。家を考える気持ちを恋愛感情を量りにかけたら必ず恋愛感情が勝つとでも? んなこたない。実際問題俺はそうじゃないからだ。何回量ってみても、優劣がつかない。
 巻き込むことができたら楽なんだろう。好きだから一緒にいてくれ、と。四桁のものに引き込んで、巻き込んで、その渦の中に共にいられたら。……そんなの、自分勝手が過ぎるじゃないか。
 あいつとじゃなきゃ結婚したくないと思っていた。今も思っている。でもどこかでそんな上手いこといくものかと思っていた。俺は巻き込みたくなかったからだ。あいつが叫んだように、確かに俺は線を引いていたんだろう。その線は、俺にとっては必要な線だった。その線がなければ俺は何をしてもいいことになってしまう。常に一歩退いていなければ、迷いなく触れてしまう。


 ……結局俺はどうしたかったんだ、――……たかったのか?

 
 家は捨てられない。
 でもあいつのことは傍に置いておきたい。
 ……でも、家を捨てることなんてできない。
 

 ――別れたかったのか?


 ああ、そうなのかもしれない。俺はきっかけを探していただけなのか?
 ……違う、違う、じゃあ何で俺はわざわざ恋人なんて関係を選んだんだ、最初から別れるつもりなら付き合う必要なんてないはずなのに。
 


「おーい大和ー、生きてっかー?」

 とても生物として生きている気のしない俺に、声が掛かった。使用人が離れの鍵を開けたらしい。掛かった声は聞き覚えのあるもので、こちらに向かってくる足音は複数。和室に寝転んでいた俺は上体を起こすとがりがり頭を掻いた。複数の足音はやがて和室にたどり着き、俺の顔を見ると揃って「げ」と声を漏らす。……ひとり足りない気がするが、ここまで来そうな面子としては妥当だった。

「え、えーと、取りあえず換気しようぜ。この空気じゃいつかキノコ生えんぜ」

 冬二がそう言って窓を開けた。窓の外はオレンジから藍色にその色を変えている。ここ数日時間の感覚なんてなかったが、取りあえず今は夕刻らしい。
 俺は大して動いちゃいないのに何故か散らかる部屋、その床に各自がスペースを作って冬二とケレスと要が腰を下ろした。
 多分、俺が学校に来てないのに気づいてやって来たんだろう。となれば、事の詳細を聞きに来たということだ。言い訳は別として、相手が聞きたいだろう事実を話してやる。俺がどうしようもない一言であいつを拒絶したのだと。もうそんなところは俺にとって問題ではないのだが、事のあらましとしてはそんなところだろう。
 あいつとどうなりたかったのか、今じゃさっぱり分からない。好きだという気持ちはあるのに、その気持ちでどうしたかったのか、わからない。

「……と、言われても、家云々なんじゃ俺らがどうこう首突っ込める問題でもねぇよなぁ」

 冬二は実に謙虚だ。謙虚さの裏に自分は可愛い彼女ゲットしたばっかりだし不幸せとは縁無いんだぜ☆という気持ちが見え隠れするのでそいつは若干ウザいが、そこを妬ましく思ったって俺の問題がどうなるわけでもなし、冬二の方は見ないようにするか、と自分で決める。
 そのまましばらく沈黙。家の問題じゃあそりゃあ首は突っ込めねぇだろう。俺の顔を笑いに来たなら笑うだけ笑って帰りゃいいのに。

「………俺は、」

 すると突然要が口を開いたので、全員の視線が要に向かう。

「ルネと結婚しようと思っている」

 清々しいほど真っ直ぐな瞳で奴はそう言ってのける。一瞬の間。
 「え、ちょ!?」という声がさすがに俺からも漏れた。冬二とケレスは余計そうだったらしい。

「うおい要、空気読めてんの? 馬鹿なの?」
「なんでも相談室やりに来たんじゃねぇんだぞ」
「分かっている」

 その返答にはより目をぱちくりさせる。取りあえず前置きから入んねぇかな、こいつ。いつか医者になったら前置きなく余命宣告するんじゃないだろうか。
 要が先を続けた。結婚する気ではいるが、親に歓迎されているとは思わないという。

「……だが、家のことを始め諸々のことは二人で解決していきたいと思っている。一人で部屋に篭っても納得いくようには運ばない」
「――言いたいことは分かる。でも俺とお前、ルミとお前の彼女じゃ立場がまるで違う」
「何が違う? 家の歴史としては確かに芹沢の方が長いだろうが、後はルネが数年長く生きているだけで他は何も変わらない。寧ろ、お前と彼女の方が俺とルネより付き合いが長い」

 多分要には、俺がどうしてこうしているかなんて解せないのだろう。
 一番違うのは俺とお前の考え方だ。んなことは分かりきってる、いちいち突っ込むことじゃない。

「……つーかさ、付き合うにしろ別れるにしろ結婚だの家のことだの何だのって、会って話しゃいいじゃん、って俺思うんだけど間違ってんの?」

 ぼそりと喋った冬二は俺でなくケレスに話を振る。当然ケレスからは「俺に聞くな」との返事が。

「や、別にさ、大和のやってることが合ってる間違ってるとかそーゆーのは別にして、だ。お前が葉山のこと好きなのは誰が見たって明らかだしさ、葉山のことウザいくらい考えてるってのもわかるし、大事だから面倒に巻き込みたくない気持ちもわかる。でもさ、なあ?」

 なあ? の矛先はまたもケレスだった。いい加減このパターンに飽きたらしいケレスはひとつ息をついてから俺を見る。

「付き合ってる時点で巻き込んで巻き込まれてんの何で分かんねぇんだよ」
「そうそう、それ」

 ケレスの言葉を聞いて冬二は何度も頷いた。

「俺もみのりにはあんま喋りたくないような仕事してっけど、付き合ってる以上隠すわけにいかねぇし俺にできる精一杯の説得はするつもりでさ。説得して、説得されて、それでどうしても理解できなきゃそれって別れる十分な理由になると思う。だって俺のこと好きで、心底心配してくれてるんだ。無碍になんかできるわけねぇよ。だからさ、あー、キツい言い方になってると思うんだけど、お前の場合ひとりで頑張ってるつもりなんだろうけど、それって葉山に愛されてんの当然だってどっかで思ってるからじゃねぇのかなって」
「……付き合いたてが言ってくれるじゃねぇの」
「だからだろ。何も言わなくて分かり合ってんのが当然、ってそりゃ憧れるけどさ、俺はそーゆーの還暦過ぎてからでいいわ。俺は分かんねぇよ、みのりが何考えてて、俺のことどう思ってんのか。俺とどうなりたいのか、一緒にいるだけじゃとんと分かんねぇ。え、俺少数派? 少なくともそこのケレス大先生は同意してくれるって踏んでんだけど」
「紗央の場合言葉だってアテになんねぇよ」
「うわ、上には上がいた」

 ――付き合ってる時点で巻き込み巻き込まれてるって、ああ、それは、俺の悩みが本当に小さいことを証明してくれる言葉だ。
 どうしたって俺はもう、家とあいつと両方に向き合わなきゃならなかった。俺があの腕を引っ張ったのだから、当然。

「家に属する前に人間だ。家の存続なんて自分の生き死にに比べれば瑣末な問題だろう。お前でなければ家を継げないというなら尚更」

 ……なるほどな。
 こいつらに教えられるとは、この問題がどんだけ瑣末な問題だったのかレベルが知れるってもんだ。馬鹿じゃねぇのか俺。

「そうそう、お前のストイックさって機械じみてる感じ。金使うだけが人間じゃねぇぞ! ほら、嫉妬してる時とかってさ、俺今恋しちゃってるなーって最高に思ったりすんだろ?」

 開けた窓から冬の初めの冷たい風が吹く。
 ああ、それは懐かしい響きだ。

「あれ原点だよなあ、あのムカムカする感じだけは疑えねぇもん。……あ、そーですか然様ですか、俺にしかわかりませんか」

 冬二が俺たちの顔を見回して、やれやれと息をつく。……確かにな。要はそうでもないかもしれないけど、ケレスには縁遠そうだ。俺も、わかっていたのにしばらく忘れていた気がする。
 わかる。生きている感覚。誰にも渡したくないと身の内からじりじり焦げていく感覚。震える拳をまだよく覚えている。ぶん殴って顔が二度と元に戻らないようにしてやりたいと本気で思ったあの時。別れたくてそんなこと思ったんじゃない。あいつじゃなきゃ嫌だから、だから無理矢理引き寄せたんだ。俺が人として生きるためにどうしても必要だから。俺に生きている感覚を与えてくれるのは、俺を生かしてくれるのは、俺のために自分の身を傷つけてくれるのは、どの世界探したってどの銀河探したってあいつだけだろ。
 なら、俺がすることなんてあとひとつしかないじゃないか。そうだって紗央も言ってた。
 いろいろ憑き物が落ちた気分で立ち上がる。久々に地に足つけた気がするな。

「お前ら、これから時間気にするか?」

 声を掛けると、揃って「別に」と返答がある。そりゃ頼もしい。

「蔵から一番上等な酒持ってくる。今日は帰さねぇから覚悟しろよ」

 その台詞に爆笑をいただきながら離れを出る。半月が空の低いところに輝いている。……俺は何日こうしてただろう。冷やかしに来たあいつらに当然のことを教えられて、他人の当然を理解していなかった俺は本当に馬鹿みたいだ。その馬鹿に何年も付き合ってたんだからあいつには本当に頭が下がる。並の女じゃ俺とは付き合えねぇよな。やっぱあいつは大した女だ、手放すわけにいかない。


 
 その前に、今宵は月見酒と洒落込もうじゃないか。




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2009.09.30(Wed) | ご近所物語 | cm(0) | tb(0) |

吹いていただけてありがたいww

今いろんな設定がぐわっと出てきてびっくりしました。
さっきまでグラロデ聞きながら落書きしてた。
どう考えても「Darlin’」は赤×白の趣味悪い感じなんだけど。


大和はこれからちょこちょこ書くとして、セブンデイズも設定を詰めます。理央イケメンじゃないっていう根本的な問題があるんだけどそこどうしようかな……。理央がウィークリーで彼女変えてたらぶん殴るんですが、まあいいや。
書ける時なら例のイメクラネタも書けたらいいんだが、そんなことよりも点呼どんに私信です。
ツキ高設定の叡一くんって誰とどの程度知り合い? みたいな。
空使えば楽なんだけど、あんまり自分のキャラばっか使ってもなあ、と思ったので叡一くん借りて考えようかなあと思って。
紗央と叡一くんがたまたま会ったので居酒屋に飲みに行く感じの話です。そこで要君とケレス先生あたりに遭遇して相席で喋ったら私が楽しい。紗央がどこ行ってもアホなんで、ちょっと大人組に混ぜてやりたいと思っただけなんですが。いや藤原竜也イケメンだなマジで……。
他の世界ではまあありえないけど、本筋でならジョッキでビール飲んでるのもアリ。
そうして本筋のキャラ同士ももうちょっと話せばいいんだ。紗央とつながりできたら本筋でもうちょっと自然にアンドゥーとケレス先生が喋るところが見られるというわけで。


よーし、点呼どんの返事を楽しみにしつつグラロデと石川さん聞きながら大和をちょっとずつ進めます。


2009.09.30(Wed) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

セブンデイズ


わかった、これは私への挑戦ですね。
わかりました、やります。別のところで完全パロやります。


スーツをまだクリーニングに出してなかったもんで、早くしないと内定式に間に合わないし、クリーニングに持ってくついでに石川さんのCD受け取りに行く。そのついでに隣駅まで行ってマジアカやって、服とか買ってきたわけです。おかげでびっくりするくらい金がなくなりました。うわあい!
そいで、セブンデイズ上巻だけ買ってて下巻まだだったので買ってきました。
ドラマCDのキャスト今確認したけど、なんか納得いかねえ……! オルタナは「ひゃっはー!」ってなったんだけどな。オルタナ聞きたいな。

ともかく。

いややべえ私こういうのすごい好きだよどうすればいいのこの衝動!!!!
弓弦さんかっこいい、っていうか可愛い、いやかっこいい、冬至くんのキャラがまんま理央wwww
しかし理央はそんなイケメンじゃないwwww
理央と瑤子さんでパロいけるなあ。相手2個上で猪突猛進で感情型で告白とか全部向こうからだし鈍感だし。


樹理と真紘とかだと流れそのままのパロができそうな気がします。秋臼さんとこの水希ちゃん使うとかすると。でも私はBLを書きたいわけでないのでそんなことはしないぞ! 樹理と真紘とか、ルカが「だが断る!!」って割って入ってきそうです。
BLのコミックスって、流れ単純で取りあえず濡れ場ありゃいいんだろ的な感じが私の中であるんですが、これもう少女漫画だよね。卒業式とかどうすれば、この後この子達どうなるんだろう! 写真のところすごくよかった!!
ていうか最近の少女漫画より余程ときめきがある気がするんですが。最近の少女漫画も取りあえず露出させて押し倒されればいいんだろ的流れがありますよね。うわあ、なかよし連載レベルのBL漫画ありがとうございました。




ということでパロります。パクります。オマージュです、リスペクトです。
瑤子さんと理央ってこういう感じかと思ったら、もう理央とかどうしよう。




ご近所の話だと、イメージソング集をプレイリストに作りたいなあと考えている次第。
昨日グラロデの「Darlin’」でツボったのでいろいろ派生させて考える。
シーマスさんと椿は個人的にはスピッツの世界観でもって、冬二くんとみのりはいきものがかりかな、と思ってる。
あ、ダメだ今読み返したらいろんなものが爆発しそうな気がする。設定詰めますおやすみなさい。


2009.09.29(Tue) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

こいつをどう扱うのか

しゃべるのはこっちだけで。

人様のキャラを使わずに自分のキャラだけでしょうもない問題を起こし、しょうもない過程を経て、しょうもないエンディングへ導こうとする試み。
ご近所ばっか書いてると本筋紗央の扱いが難しくなってきます。理央はあんまり変わらないのになあ。いや、瑤子さん出すと結構楽しそうに見えるけどね。楽しいのは私か。なるほど。
早く問題起こしたいんだけど瑤子さん(特別出演)が来ちゃったからまだ先だ! でもこっからだ!
空を出したくてうずうずしてます。あの空がブチ切れるところを見たい。
ご近所の紗央じゃ絶対耐えられないことを、本筋なら耐えてくれると思う。
しかしやっぱり主役は空と紗央か。差別と偏見に塗れた言葉を吐く空とか興味ある……!!
怖いのはオチが決まらないから結局書き上がらない気がすることなんだけど、取りあえず今月中にもう一本上げたいな。


11月28日が大和の誕生日ってことをすっかり忘れてました。覚えておかないと。
聖櫃戦争もちょっと書きたい。
まあ秋臼さんが動いてくれたんで、次書くなら大和かな。その後は空を出すべく適当に頑張りたい。
紗央は何とか捌けたので今日はこれで寝ます。うん。

2009.09.29(Tue) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

ドラスティックバイオレンス





「えー? 大和君には似合わないよー」
「幼馴染ってだけなんだろ? 義理みたいなもんだろ、義理! 美人引っ掛けて遊ぶ方が今後のためになると思うけど」
「ていうか近所に住んでただけで特別とか思ってんの? 信じられない」
「まあどう考えても大和が特別扱いするに相応しいとは思えねぇよ」






 そんな言葉を俺のすぐ後ろでいつも聞いていたあいつは、どんな気持ちでそれを聞いていたんだろう。
 と、夜、暗い離れの部屋で俺は考えた。中学高校と、俺は似たような台詞を何度も言われ、あいつもまた、その言葉を何度も聞かされたはずだ。もしかしたら、俺以上に聞いていたのかもしれない。
 あいつが聞いていたはずの言葉たちは、普通の人間が聞けば段々力を削り取っていくような、そんな残酷さがあった。今思い返してみればわかる。俺が言われた言葉でも、俺はダメージを受けない。実際にいろんなものを削り取られていくのは、あいつだった。言葉は俺を通り過ぎて、静かに後ろにいてくれていたあいつの心を少しずつ抉っていったはずだ。
 それに反応しなかったのは何故だ。他の女がするようにヒステリーを起こさなかったのは? 泣かなかったのは? ただ何も無かったかのように、何も聞かなかったかのように、いつも笑って俺の隣を歩いていたのは。そのあいつが今隣にいないのは、どうしてなのか。

『……遅いのよ、ばか』

 あいつが他の男に告白されたと知った時、焦りと怒りが同時に襲ってきたことをよく覚えている。力任せに相手の顔面をぶん殴って、何度も何度も殴って、その顔がもう二度と元には戻らないようにしてやりたいと思った。拳が震えるのを止められなかった。――あいつは俺のものなのに、と、今思えばどうしてそんな身勝手なことを考えていたのかと。
 とにかく奪われることが怖くて、嫌で仕方なくて、拒否させる気なんか毛頭なくて、いや、拒否される気もしていなかったけれど、結局あいつはそういう返事をした。
 遅いのよ、と不貞腐れたように。ばか、という言葉はやわらかい笑顔と一緒に。
 今になって考えれば、ああもう遅いのかもしれないけれど、恋人という肩書きはどうやったってあいつを守るものに違いなかったんだ。
 中学高校と俺に向かいながら俺を突き刺すことなくあいつだけを狙っていた刃を、肩書きが守ってくれる。どうしたってあいつはその肩書きが欲しかったんだ。傷つきたくないのは誰だって同じだ、どうして俺は、あいつが何も感じていないかのように振舞うのを当然のことだと思っていたのか。今の今まで当然だと思っていたのか。ケレスやシーマス、俺の言葉も、肩書きがなければ傷ついて当然だろ。いくら冗談めかしていたって、受け取る側に痛みが伴えばそれは単なる暴力だ。そいつに過剰に反応する奴がセクハラだなんだって簡単に問題にしたがる、……あいつは、図太かったんじゃなく、ただ、肩書きに全幅の信頼を置いていただけだ。俺を、信じていたから。
 なら俺が告白する日までもそういう性格をしていたことをどう理屈づければいいのか。あの頃からあいつは痛みなんか感じていないように振舞っていた。それは、どういうことなのか。俺が奪ったのか。痛みに苦しむことを、痛みに泣くことを、あいつから奪ったのは俺か。痛みに慣れさせたのは俺か。俺がかけられている言葉に自分が泣くのは不自然だからと、いつも唇を噛み締めていたのだろうか。どんな気持ちで俺の言葉を待ったのだろうか。

 その俺は、あいつにどれだけの痛みを与えたのか。

 痛みに直に晒されて、どんな言葉にも涙など見せたことのないあいつが、俺の頬をひっぱたいてぼろぼろ泣いた。俺が壊した。あいつを守る肩書きを、俺が壊した。
 痛かっただろうな。忘れていた痛みを思い出して、悲鳴を上げたかったに違いない。
 あの時の涙に、何年分の痛みが詰まっていたのだろう。どれだけ真っ直ぐ俺を愛してくれたのだろう。どれだけの不安と戦って、どれだけの痛みを飲み込んで、それでも俺の隣にいてくれたのだろう。
 俺の馬鹿みたいに小さな配慮なんて、あいつには無用だったに違いない。どれだけの規模の話でも、俺が他の女に手を出したとしても、それが俺に必要なことだとするなら受け入れるつもりだったのかもしれない。嫉妬するのは見苦しいとか、紗央なんかよりも考えていたのはあいつなのかもしれない。どうしてあいつが涙してすぐ、俺は気づかなかったのか。こんな、何日も離れなければ思いを馳せることもできないなんてどうかしている。
 考え始めたら最後だった。涙のシーンだけが何度も何度もリフレインする。見たことのない涙。痛みや苦しみや寂しさが混じって混じってどうしようもない涙。
 いつもの自分でいるために、変わることも許されなかった。俺はきっと、髪型や化粧を変えたり、体重を落としたり、そういうあいつを変だと思ってしまっただろう。いつものお前でいい、なんて残酷な言葉を吐いたかもしれない。『俺が認める存在』でなければならなかったから。そうでなければ刃は激しさを増したのかもしれない。あいつの態度はきっと全部自己防衛のためのものだ。傷つきたくないから信じている、その気持ちに応えるには、信頼の分だけ愛してやるしか方法はないはずなのに。

『そういう風に突き放すなら、最初から夢なんて見させないでよ!!』

 そう叫んだあいつの声は、悲しく今も響く。瞳にいっぱい涙を浮かべていた。今まで流すまいとしていた涙をすべて流すかのように大粒の涙をいくつも零していた。
 俺が知らず殺させてしまった心だ、最後の息の根を止めてしまったのもまた俺だ。俺みたいな男のためにここまでしてくれる女なんて、どの世界探したってあいつしかいないだろ。その糸を俺はどうやら自分でぶった切ったらしい。関係ないから首を突っ込むなと、俺自身が言ってしまった。家柄の違いを意識するのは当然だと思っている。気にしない方がどうかしてる。でも、あいつから伸ばせない手は、俺が引っ張り続けるしかなかった。その力が腕がもげそうな程強かったとしても、着いてくる覚悟があいつにはあったってことなんだろう。あいつのその覚悟も、俺はどうしようもない言葉で滅茶苦茶にした。俺は好きだのなんだのってどうしようもない言葉ばかりで安心させようとして、その裏でどれだけ背伸びして伸ばしても届かない手を俺に伸ばしていたのか気づこうともしていなかった。本当に欲しかったのはそんな言葉じゃなかったんだろうな。
 
 
 汚い部屋に横になって考える。まだしばらく眠れそうにはなかった。





2009.09.29(Tue) | ご近所物語 | cm(0) | tb(0) |

結果。

暇なので怒涛の更新劇。


「「もうちょっと思い出してくれてもいいのにねえ……」」


とおかんと意見が一致しました、最終回@ヴァルキュリア。
多分A-1ピクチャーズの提唱する流れとしては、

ファルディオ:「お前はアリシアを助け出せ!」

ウェルキン先へ進む

ファルディオ爆弾持って突撃、雄叫び、暗転

ウェルキンの耳に届く爆音

ウェルキン:(ファルディオ、ナイスアシスト☆(ぐっ))

あの「邪魔者はいなくなったぜ☆ 二人で幸せになろうな☆」なエンディング、もうちょいどうにかならんかったのか。せめて慰霊碑くらい建っててもいいじゃない!


さて、時期的に書きたいものがそういえばあったな、と思いました。
ハロウィン話。久々に安藤さんちと鈴城さんちで。
ハロウィンは恒例だといいな! 毎年安藤兄弟がお菓子作って振舞うっていう。紗央がお菓子指定して、本番までみっちり稽古つけてくれる。ハロウィン当日は安藤兄弟が自分たちだけで作る、と。
でも最近ケレスさんちに紗央が入り浸りなのを不愉快に思っていた奈央が、

「お姉ちゃん最近圭一さんと理央くんのところあんまり顔出してないよね? そろそろ圭一さんと理央くんも堕落しちゃってるんじゃないかなあ……」

とか言い出す。それ聞くと穏やかでない紗央は奈央の話に耳を傾けてしまう、と。

「だって圭一さんも理央くんも元々お姉ちゃんがやってあげないと料理とか全然ダメじゃない?」

そんなことは全然ないのに紗央はアホの子だから「そうね、そうだった」とか言い出すに決まってます。

「だからちゃんとお姉ちゃんが鍛え直さなきゃ! あの金髪の人ばっかり構ってる場合じゃないよ! あの人はお姉ちゃんと出会う前からちゃんと一人でできてたんでしょ? 圭一さんと理央くんはできないもん!」

とか具体的に言われたらもう傾くよね紗央とかwwww
安藤兄弟だって二人でどうにかなってますよ、紗央が来なくなってからwwww
で、一回ケレスさんちで夕飯作ってから、「明日からしばらく来れないから」って言い残して本当に来なくなる紗央とか。
理央の勉強見てやる日に安藤家行ってみるとすっごい甘い匂いしたりしてなんだこりゃって思って理央に詳細聞けばいいよ。

「……いや、なんていうか、すいません。なんか、……奈央が姉さんに吹っかけたみたいで……」

ってな。
ハロウィン当日まで紗央きっと安藤兄弟につきっきりで、練習で作ったお菓子のおすそ分けに奈央が近所回るんだけど、たまたまケレスさんとすれ違ってめちゃめちゃ勝ち誇った顔してて欲しい。うわ何その女ウザい!
教育し直しの意味も込めて難しいお菓子指定してたりしてな。いつものレベルならアンドゥーと理央もちゃちゃっと作れたりするんだろうけど、難しいから指南が必要、と。
ハロウィン当日には失敗無く作るだろうとは思いますが。鈴城家の姉妹はちゃんとハロウィン用に仮装するよ! トリックオアトリートするよ! けど紗央のことだから「まあ食べられなくもないわね」とか言うんだ。
そのまま安藤家でハロウィンパーティーするんだろうけど、理央が気利かせて「姉さん先生のことまるで頭になかっただろこの数日……」とか思い出させてやるといいよ。そしたらきっと全速力で行くよね。奈央の洗脳だよ恐ろしい……! いつも余計なことばっかり考えてるくせにアンドゥー絡むとぽんっと忘れてしまうらしいな。洗脳だ……。
紗央がケレスさんのところ向かった奈央はものっそい理央にキレそうです。怖い怖い。


そんな話を来月書きたい。が、書くかどうかはわからない。
寧ろこの設定で本気で満足したwwww 楽しかったwwww


10月の集まりはどこでもいいしいつでもいいですよー。無理にシェーキーズじゃなくてもいいし。
平日にオルセー展とハプスブルク展と古代ローマ展回れる人募集してます。会合とは別で。
だって日曜人多そうだし。みたいな。

2009.09.29(Tue) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

泣いた


テレビつけたらファルディオ散華シーン。
やっぱり泣いたよ私。ファルディオ……。


お願いだからみんなファルディオ思い出してくれ、ファルディオいなかったらガリア公国なんてめちゃめちゃだったんだぞ多分!
うわあああダメだ悲しいのが止まらなくなってきた。ファルディオ……!!
ラストシーンの後ろの木に隠れてファルディオいたりしたら本気で萌えたんだがダメか。
いや、ウェルキンが悪いっつってんじゃない。違う。告白シーンはあれでいいと思う。ウェルキンの嫌なところってアレだ、ファルディオに対して抱いていた気持ちが「嫉妬」じゃなく「罪悪感」なことだ。
何故嫉妬しないお前!!!!!!! ファルディオには悪いけど、アリシアは僕のだしなあ、とか思ってたんならそう言え、それはそれでいい!! それを口にしないのがダメなんだ、ファルディオは極めて普通の手順を踏んだじゃないか。
つーか体張って守ってくれたり、その上軍を守るために知恵めぐらしたり、どう考えたってファルディオがMVPじゃないか……。
コーデリアとフラグ立てるでもなく、ただ最後まで軍と仲間と親友とアリシアを思って死んだファルディオはどうしたってかっこいい。いいじゃないアリシアの二股エンドで……。黒ウェルキンと黒ファルディオがバチバチ火花散らしたらいいじゃない……。


あ、ザカとロージーはやっぱり萌えました。何、あの子たちフラグ立ったけどその後どうなるの!?
いやこれ絶対ザカは自動車とかの整備士やって、ロージーは酒場の歌姫に戻って、そいで同棲中だろどう考えても。仕事終わってからロージーのいる酒場に行って端っこで酒飲みながらひっそりロージーの歌聞くザカ、いいじゃないですか。
でもって閉店したら一緒に帰る。うわあああ、ダルクス人嫌いだったロージーが!! おめでとう!(私の頭がめでたい)
喧嘩するときは「あんた臭いんだよ! ダルクスとオイルの臭いがぷんぷんする!」「そういうお前は毎晩毎晩酒臭いんだ、わかってんのか?」「何だい! あたいはそれが仕事なんだ!」「じゃあ俺だって仕事だし生まれだから仕方ねぇだろ!!」ってなるんですね不毛です萌えますごちそうさま。
ウェルキンの告白シーンとかいいからザカ聞きたかったかな! トラックでどこまで行くんだか知らないが、ザカを下ろすために止まった場所でザカがロージー引き止めちゃったらいいじゃない。
「あんたに興味がある」って言ってたザカだけど実際制服着て戦ってるところ見たらどう思ったのかな。イサラが死んだ後絶対いろいろ慰めたりとかあっただろ、後任だし! 
ザカがエーデルワイス号乗ってるとイサラ思い出したりしてな! 「俺はあんた守っても死んだりしねぇよ」くらい言って欲しい。そうだよね、死んだりしないよね!


ファルディオがあまりにも可哀想なのでザカで幸せな妄想するに限るよね。
本気で幸せになってほしいです。いつか子供が生まれて娘だったらイサラって名づけるくらいしてほしい。アリシア? もういいよあの辺は。


2009.09.29(Tue) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

おつかれさまでしたwwww

点呼どんを無理に誘わなくて本当に良かったです。あれに付き合ってたら多分人としての軸が融けてしまったと思います(笑)
帰宅して一番に妹に「お前メールウザい」と言われました。鈴村のアルバム買って、と言ったら「人が買おうかどうしようか悩んでるときにそう言われると買う気なくなる」とも言われました。どんだけひねくれてんのwww
ついでに、「小野Dより鈴村のがよかったよー」と言うと、「だってさ、うん、鈴村いいもん!」と言われたので殴りました。どうだっていい。
自分で作詞してるのとそうじゃないのってやっぱり聞く方も気持ちに差が出ます。栗林がトチった曲って確か作詞畑さんなんだよね。好きだけど! 他のは自作なはず。鈴村は全部自分でやってるし、谷山も自分でやってるよね。「Go For It!」は作詞家だったけど。あとはCooRieも自分で作詞してて好きです。そっか、私歌い手が自分で詞を書いてるアニソンが好きなんだ。
いつか谷山と鈴村が組んで飯塚さんが作曲して曲作ってほしいなあ。そしたらエロくて爽やかな曲ができるはずwww 谷山の描く動物としての人間らしさと鈴村の描く根源的な人間らしさは合わせたらいいものができそうな気がします。キャラソンじゃなくてあくまで個人名義でやってほしい。
そして私はやっぱり栗林が好きらしい。アニサマで「Precious Memories」聞けたんで、「Rumbing Hearts」聞けてよかったです。


昨日生で聞いて、今日久々にウォークマンで聞いて、「うん。」って思ったんだけど、個人的にご近所のケレスさんと紗央のイメージってGRANRODEOの「Darlin’」です。ああいう感じ。
ただグラロデに当てはめたかっただけなのかもと思ったけど、他の曲聴いてもそんな気分にならないので、多分この曲だけ引っかかったんだと思います。
結局一番バカップルってのが今回証明された気がするので曲熱くたっていいじゃないとか投げやりにも考えてるけどごめん馬鹿なのは私の頭だwwww


今回まともなことで点呼どんに報告するとすれば「シーマスさんイケメンwww」くらいかと思う。何故だ、一睡もしなかったのにどうしてそんなことしか報告できないんだ……!
追記で紗央について。喋るより文字にする方が断然楽。(笑)とかつけると笑い話になるし。


2009.09.28(Mon) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

もうすぐバイトorz


最近起きるとすぐバイトなので生きてる感じがしません。そんな夜更かしすんなって話なんですが。
おかんがリビングでワンピース見てるので致し方なく私も見てしまうのですが、中井和哉使いたいなら紗央の声岡村さんでいいじゃないもう、とちょっと思った。私の脳って安直でできてる。


なんかよくわかんないけど海底っぽいものを書きたい。
人魚姫か……? いやでもファンタジーしたいって感じじゃないんだよなあ。
風呂に入浴剤入れる話でも書けと。
ご近所の奈央と空でなんか書こうとしたのに、ご近所は一歩間違うと即デッドエンドなので、まるでKanoso(笑)


今書いてるタっくんと真紘が馬鹿親子すぎて不毛ww
大和は最初はルミさえいればいいと思ってたけど、椿も大事で仕方ない人だと思ってる。
タっくんは真紘とかみのりとかとりあえず二の次な人。大和は三番目の子供だから血が薄れてるんですかねぇ……。取ってつけた長男半端ないっすね。
俺と紗央がいれば真紘とみのりが生まれる可能性はゼロじゃない、って思ってる。その辺空と同じですね。子供より嫁が大事!
……なんかもっと、面白い男キャラはいないのかうちには。

2009.09.25(Fri) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

番外はこっちに。



「やほっ、理央くん!」

 空港のターミナルで彼女を待っていると、彼女がやって来るだろう方向から声がして、そちらを凝視したけれど俺の想像した相手はいない。けれど声がしたのは確かなので視線を泳がせてみると、見覚えのある色の頭が見えた。それに、紺の太いカチューシャ。待ち人来る、と思ってそちらに一歩踏み出す。そこでやっと、違和感の正体に気づいた。
 大きなキャリーを引きながら照れくさそうに微笑む彼女。前にこの空港で彼女を見送った時とは明らかに違う。

「……瑤子さん」

 彼女の薄茶色の髪は、確かに腰まであったはずなのに、今は俺と張れるくらい短くなっていた。





「機嫌直してよー! 仕方ないじゃんっ、理央くんがロングヘアー好きなんて知らなかったもん!」
「別にそんなんじゃないですけど、そんなバッサリ切ったなら写真くらい寄越したっていいじゃないですか」
「普段写真撮ったりしないし」
「知ってます? 今の携帯って写真撮る機能ついてるんですよ」
「知ってるよそれくらい!!」

 空港までは車で来ていたので、助手席に瑤子さんを乗せて走る。再会してから俺たちは終始そんな感じで問答を繰り返していた。傍から見ればこれが俗に言うバカップルという奴なのかもしれないと自覚しつつ、もやもやする複雑な感情は隠しきれなかった。
 そもそもそこまでロングヘアーが好きなわけではない。それは本当だ。

「瑤子さんくらい長い髪の人がそんなに短くするって、紗央がショートにするのと同じくらい驚くもんですよ」

 言えば、あー! と瑤子さんは頬を膨らませる。

「何でそこで紗央ちんの名前出すのー!?」
「単なる例えじゃないですかっ」
「理央くんの場合、単なる例えに肉親使いすぎなの! もっと第三者的なものを使った方がいいと思うっ」
「自分にとって身近なもの使ってこその例えだと思いますけど」
「ううん、理央くんに限っては不安だもん! 私にとって奈央ちんと紗央ちんは敵です、敵!」

 肉親に不安云々言うくらいならどうして単身渡欧なんてしたんだか。俺にはそっちの方が疑問だ。……別に、留学して欲しくなかったとかそういう訳では決してない。俺と瑤子さんが出会ったのは、瑤子さんが大学院に居たときだ。院なんて、研究をしっかりしたいと思わなきゃ進んでない。俺と出会う前からその道を志していた瑤子さんの邪魔をするつもりは毛頭ないけれど、……でも矛盾してる部分は気になって当然だ。

「……だあってさあ、髪長いって洗うのも面倒だし綺麗にしてるのも面倒なんだよー?」
「あー、それは紗央もよく言ってます」
「あ、ほらまた紗央ちんの名前出した!」
「今のは同意の意味で使っただけじゃないですか!」

 信号に差し掛かってゆっくりブレーキを踏む。完全に車が止まってから横目で瑤子さんを見ると、瑤子さんはこちらを凝視していて、なんだかすごくやりづらい。

「……綺麗にしてたって見せたい人もいないし」
「……いない所に行ったのは、瑤子さんじゃないですか」
「あー、ひどいんだーそういう言い方」
「半分冗談ですよ」

 綺麗にしてたって見せたい人がいない、と瑤子さんは言う。その相手に俺が入っているのなら、今日綺麗な髪を見せてほしかった、と少しだけ思う。
 ……まあ、さっきの一言は普通に考えれば殺し文句なわけで、殺し文句に冷静にケチつけるのもどうかと思う。この話題はここで終わらせておくべきだろう。

「俺が悪かったです、すみませんでした」
「いいよ、別に。理央くんが紗央ちん以外に浮気しないでてくれたってのがよーくわかったから」
「だから、紗央は違うし俺は浮気なんて、」
「あーもうっ、そういうのはいいの! 理央くんって学生の頃からほんっと鈍感! 直す気ないんでしょ」
「鈍感とかじゃないですよ、それだけ髪切ったくせに颯爽と現れるから悪いんじゃないですか」
「だぁからっ、それは謝ったでしょー? そんなに気にすると思ってなかったんだもん」

 信号が青になる。不貞腐れた彼女の顔から視線を外して前を見る。

「………おかえりなさい」
「本当は空港で言って欲しかったけどなー。ちゃんと目見てハグしてくれなきゃ」
「無茶言わないで下さいよ」
「はいはい、おねーさんはそういうの寛大だから。車から降りたらちゃんと抱きついてただいましたげるね」

 瑤子さんを空港で見送るまでの自分なら、そんなの要らないです、と断っていたはずなのに、疲れているのか何なのか、今日は断る気が起きない。 
 疲れているなんて言い訳だろうか。やっぱりこれは、自分が瑤子さんに会いたがっていた証拠なんだろうか。その辺は区別がつかない。

「……じゃ、楽しみにしてます」
「おー? ちょっと見ないうちに甘え上手になったね、紗央ちんのおかげ?」
「あのですね、何だかんだって自分から名前引っ張って来てんじゃないですか」
「冗談だよ」

 顔は見ていないのに、余裕の表情で顔を綻ばせる瑤子さんが隣に居るのがわかる。彼女はしばらくすると何も喋らなくなった。長時間飛行機にいてゆっくりすることもできなかっただろうから、きっと疲れているのだろう。と言ってもそれで今日紗央の部屋に泊まると言うのだから、この時間くらいはゆっくり寝かせてやるべきなのだろう。俺より先に向こうでの話を聞くのが紗央っていうのがなかなか不本意な気がするが、ここは彼女の意思を第一で考えてやるとして。そのまま俺は安全運転に専念することにした。





2009.09.25(Fri) | 触発されました | cm(0) | tb(0) |

コレしかねぇよwwwwwwwwwwwwwww


秋に向けて何のゲームを買おうか悩んでいたところなんですが、「君の中のパラディアーム」が個人的1位だったけども、今日ひっくり返されました。


『真剣で私に恋しなさい!』


武士娘恋愛ADVってとこからしてカオス具合が見て取れますな。
ていうかサンプルボイス聞くとわかるんだが、フルボイスで中の人がすんっげええ豪華です。
何ですかあの声優の無駄遣い。女性声優は名前一杯持ちすぎなんでちょっとわかんないんですが、男性声優の豪華さ半端ねえ。小西、鈴村、勝平、諏訪部、飛田、ゆうきゃん、杉田、遊佐、中田譲治(何故かフルネーム)、福山、小野D、池田秀一、藤原啓治、御大。ちょっとしたガンダムができそうな声優陣です。
いや、何気に伊藤健太郎も出てるらしいんだがかなりチョイだろうな。だが構わない。他が豪華すぎるから。しかも密林評価良すぎるだろコレwwwww
豪華声優陣使って声優ネタ使うとか卑怯だろwww ゆうきゃんどう考えてもミスター・ブシドーですありがとうございましたwww
なんか、雑食してるとこういうのでも楽しめるのでほんと得してるなと思います。来月はこれに金を使うことにしよう。買うよコレ。
寂しいのは総理がもう変わってるってことだよね。麻生だったら御大でもいいけど、鳩山が御大はちょっと無理ある。池田秀一ならいいかも知れんな。
杉田が18禁ゲーに出てるのがまた珍しい。あ、SHUFFLEの主役もか? でも他に比べると少ないよなと思う。BLCDもあんまり出ないしな。それだけネタ要素が強いってことか……。


あー、いいゲーム発見した。嬉しいわ。
ていうかみなとそふとって「きみある」作ったとこなんですね。なるほど。アニメちょっと見ただけだけど、カオスだよね。主役智一だったっけ?
今回のマジコイもアニメ化前提って感じがします。その前にゲームやるぜ!
こういうゲームは私でも楽しめそうだ。どこぞの四葉魂はレビュー評価いいのにやったらクソゲーだったからな……。四葉魂は男がゲームするのと女がするのとでは評価死ぬほど分かれそうです。そうか、わかったよ、私ってロリがダメなんだ……。DCのさくらさんも好きじゃないしな……。Kanonのあゆもメインルートだけどそんなに好きじゃないしな……。名雪のが好き。香里さんはもっと好き。
男性向けゲームは男性声優のはりきり具合とはっちゃけ具合が好きです!
アニメ化したら主役の声誰になるんだろうなあ。誰でもいい。ていうかすごい人使いすぎてるから使われてない人が主役ってことで、楽しみです。絶対アニメ化する。


男性向けゲームはたまにこういうネタっぽいのが出てきて困る。
これやるならPS3後回しでもいいや別にwwww

2009.09.24(Thu) | しゃべり隊 | cm(1) | tb(0) |

寝て起きて


ちょっと冷静になる。クールになったぜ私。


今は最近連続で書いてる奈央紗央+空のドロドロした感じのをぽつぽつと続けてます。
空が弱くなる予定なので奈央を電波にするわけにいかないんだけど、奈央は扱いを間違えるとすぐ電波っ子になるので注意してます。
弱い空もたまにはいいじゃない。寧ろそこだけ書きたい。あ、でも瑤子さん出てくるからそこはちゃんと書きたい、うん。


聖櫃戦争はあのまま慎吾視点とルミ視点と大和視点を交互に書こうかなと。
本当は流風と奈央も書きたいんだけどうまいことネタがないっていう。ゲーム開始直前ならあのコンビでも書きたいかな。ていうかそれくらい書かないと可哀想だ。


花子さん見たくなってきた。


追記で反省会。

2009.09.23(Wed) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

アルデラミンの忠誠




 ――それは、二年前のこと。

「慎兄ちゃん、ほんとに行っちゃうの?」

 故郷の町を出る直前、七つ離れた妹は今にも泣きそうな顔で俺に問いかけた。胸が締め付けられる思いで、俺は「そうだよ」と頷く。
 ひとりでできることなんてたかが知れている。俺が動いて何か成せるとするならそれは、駒の一部としてでもいい、自分で戦う立場になることから始まるのだ。だから俺は、修一と双葉を置いて御前試合に臨むことに決めた。もう決めたんだ。

「いいか双葉。お前と修のことは隣のおばさんに頼んであるからな。ご飯は毎日修が作ってくれると思うけど、何かあったら周りを頼るんだぞ」
「慎兄ちゃんは? いつ帰ってくるの?」

 俺の足に縋りつく双葉を、修一が宥めるように引き離した。

「……すぐかもしれない。お前らに会いたくて、すぐ帰って来ちまうかもしれない。でも、もう帰らないかもしれない。兄ちゃん、双葉と修のために頑張るからさ、帰ってこないように祈っててくれよな」
「やだ!! 双葉と修兄ちゃんのためなら、慎兄ちゃんも一緒にいてよ、どこにも行かないで!」

 とうとう妹は泣き出した。両親が死んでから、泣くことなど滅多になかった妹が声をあげて泣いた。決意したはずなのにぐらつく意思をどうにかしたい。決めたじゃないか、修一と双葉を置いてでも、俺は絶対騎士団に入るんだと。そうじゃなきゃ守りたいものを守れないんだ。
 三つ下の弟は泣きじゃくる妹の頭を撫でながら、双葉は大丈夫だから、と俺に言った。年が近いからか、修一は俺のしたいことを大体汲んでくれている。それだけが救いだ。

「……ごめんな、ごめん、兄ちゃん絶対騎士団に入るからな、絶対、絶対、お前たちのこと守れるくらい強くなるからな……!!」

 自分の中のどす黒い感情を弟妹に伝えるわけにいかず、オブラートに包んでそういう言葉にした。
 それでも気持ちは本当だ。修一と双葉の頭を抱き寄せて何度もその頭を撫で、その感触を手に覚えさせてから、ゆっくりと離す。

「それじゃあ行ってくるから。修、あと頼んだぞ」
「うん、……騎士団に入らなきゃ許さないからな、俺たち」

 修一の言葉に、目の周りを真っ赤にした双葉が、うんうんと強く頷く。

「すぐ帰ってきちゃったら追い返しちゃうもんね! 騎士団に入って、うんと強くなって、カッコ良くなった慎兄ちゃんじゃなきゃ家に入れてあげないのだー!」
「……そりゃ、手厳しい」

 それくらい退路を断たれる方がいいのかもしれない。修一と双葉の言葉を頼もしく思いながら、じゃあ、と荷物を抱え直せば、ぎゅっとまた双葉が俺の服の裾を掴んだ。
 驚いてその顔を見れば、一度は止まったはずの涙がまた溢れて、大きな瞳が潤んでいる。

「うそだよ、うそだから、慎兄ちゃん、すぐ帰ってきてもいいんだから、だから、……がんばってね」
「……ああ、頑張るよ。けど、ちゃんとここから応援してくれなきゃ頑張れないからな! 頼りにしてるぞ、双葉!」
「うん、うんっ、双葉、兄ちゃんのこと応援してるからね! 修兄ちゃんも応援してるんだからね!」

 悲しみを押し殺した双葉の明るい声と、淡々としているけれど確かに聞こえる修一の声とに背中を押され、俺は歩き出した。
 目指す先は王城、二週間後に迫る御前試合に出場するために。






「ッ!!」

 町を飛び出したところでいつも目が覚める。騎士団を追われてからは、あの日のことばかり夢に見て、気持ち悪い。
 騎士団にいた頃は御前試合優勝者という肩書きもあって、大部屋ではなくだいぶ立派な個室を貰っていて、何の働きもできていないのに悪いな、とよく思っていた。今も一応個室だけれど、あの部屋の半分くらいのスペースで、場所も囚人たちのいる地下牢に繋がる階段の脇。片足が不自由だからスペースは寧ろ狭い方がありがたいし、残った足の鍛錬のためには王子の部屋から離れているのもありがたい。たまに囚人の呻き声や雄叫びが聞こえることはあるけれど、――それも、自分への罰だと思えば何と言うことはない。
 囚人の呻く声より、何よりも俺にとってはあの日の修一や双葉を思う方が、辛い。
 手近な手ぬぐいで汗を拭い、寝台から降りると足を引きずって、部屋の隅に申し訳程度についている洗面台で顔を洗う。ついでに頭も水に濡らすといくらかすっきりした気がした。
 ぽたぽたと髪の先から水を滴らせながら寝台に戻り、ぼんやりと窓の外を眺める。小さい月がぼうっと白く浮かんでいた。

「………どうしてっかな、修と双葉……」

 会いたくても、会えない。会ってはいけない。
 あのどす黒い感情に対する言い訳が必要だ。
 俺は、両親を殺した奴らが憎くてたまらないのだと、だからこの手で殺してやりたかったんだと、無垢な弟妹にどうして言えるだろう。騎士団に入って弟や妹を守るため生かすために戦うなんて、単なる名目だ。俺個人が、憎くて許せなくてどうしようもなかったから。弟と妹を捨ててでも、自分の手で殺してやりたいと願ったから。その上で俺は、将軍としての王子の残虐性に惚れたのだ。共に先陣を切って戦場へ向かった時は、こんなに幸せなことがあるのだろうかと思ったくらいだったのに、今ではこのザマだ。本当に、修一にも双葉にも顔向けできない。
 騎士団であった頃の俺は、もう俺の記憶の中にしかいない。自分の記憶ほど他人にとって信用のないものはない。確かにあの集団の一部であったことすら、他人には嘘だと思われてしまうのだろうか。それは少し、辛いかもしれない。
 再び寝台に横たわる。真っ暗な天井が見える。
 天井に腕を伸ばせば、肩の辺りが鈍く痛む気がした。大量の本を持って階段を上がり降りしていたからだろうか、筋肉痛だとしたら自分も鈍ったな、と思う。
 王子は悪魔伝承について調べている。城にはそういう言い伝えがあったらしいが、王子は信じていないのだそうだ。王子が信じていなくとも、王位の継承にそれが関わるのなら、王子の意思とは無関係にそれは存在するんじゃないかとふと思ったりもするが、俺の主は王子だ。国王が何と言っても、俺が仕えているのは王子なのだから、王子が無いというならそれは無いものと思わなければ。
 ――帰ってきていい、と妹は泣いたのに、足を引きずって俺は何をしているんだろう。悪魔伝承だの何だの、俺にはどうだっていい。王子が国王になれば、それでいい。
 騎士団を追われた俺が望めるのはあとひとつだけ。王子が国王となり、最強の軍を率いて奴らを殲滅してくれるようにと願うしかない。俺の大事なものが、二度と傷つかなくて済むように、俺はそれを願うしかない。

「――――」

 そのためなら、腕だって捧げる覚悟がある。望まれるのならいくらでも忠誠を誓おう。
 右手で目を覆い、世界を暗闇で満たしてから朝までの眠りを貪ることにした。






2009.09.22(Tue) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

やべえ……


私そろそろ何かになってしまうかもしれない。


暇だ暇だと思って久々にニコ動アクセスして、いつのまにかルルイエのファミマをMP3で取ってた私。やべえどうしよう。ついでに佐野史郎主演の「インスマスを覆う影」を全部見てしまった罠。
なんだかんだでインスマスは大体分かった。原作読むならクトゥルーの呼び声かなとか思ってる時点で私もうダメだwww
コメントでもたくさんあったけど、和製ホラーはクトゥルー神話と馴染みやすいと思う。インスマスの話は普通に日本のホラーでありそうな話だもんね。寒村にわけのわからない宗教があって、いろいろ調べるうちに現地民に襲われて、実は自分がそこの出身だった、なんてありがちです。
海外のホラーは物理的なものによる衝撃が大きいけど、日本のホラーは心理的精神的な不安からくるものだから、ってコメントにありました。まさにそのとおりだと思います。
日本の怪談は大いなる神的なもの、人智の及ばぬものに対する畏怖から成るもんですよね。何にでも神様がいると思ってたわけだし。クトゥルー神話のコズミック・ホラーってまさに人智の及ばぬ神々によってもたらされる恐怖なわけだし、馴染むわけですよまったく。
まあ流石に他の銀河からやってきたなんて設定は日本怪談にはないわけですが。
「インスマスを覆う影」、お勧めです。佐野史郎がいい味出しすぎ。ていうか似合いすぎ。さすがラヴフラフトファンなだけある。五旁星佐野史郎の手書きとかwwww 私はあれを見るとセーブポイントを思い出します。


そして点呼どんへ。
私もそれが言いたかった。(笑) それが言いたかったんだ!!(何)
道化いいですよね道化。道化のキャラって演じてること前提だから、道化なのにどうしてもかっこよく見えてしまう。演じてない人間のが滑稽に見えるって面白いですね。大和さんのことだよ、ちゃんと覚えておけよ!!(何)
ただのダメな人がすごい技能とか知識とか持ってるはずない、って思うのも紗央なら結構後からなんだろうな。最初は全然思ってなさそう。
うん、ちょっと本編書きたくなりました。


さて、お風呂に入ってこようかなー。

2009.09.21(Mon) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

点呼どんの呟きを見て。


溝に気づいていてもあえて埋めないなら、溝に気づいた瞬間はちょっと気になるなと思った。


最初紗央は叡一くんのことどう思ってるんだろうなあ。見た目が昔の恋人に似てるっていうの以外でなら、自分とは違う意味で不器用な生き方をしてるなあって思ってるのかもしれない。ダメな男って評価をしてそうです、すいません紗央のくせに!(笑) うん、なんていうか、現実世界での理央の評価に近い感じかも。ヘタレで優柔不断でどうしようもない、誰かが引っ張ってあげないと。いえ叡一くん優柔不断とは違うと思いますが。ヘタレとも違うと思いますが、上手くいえないけどそんな感じ。
優しくなければ自分と契約したりしないだろうから、って思ってる。ゲームのために無駄な時間取らされるわけだし、叡一くんにさしたる望みもなければ余計そう思うだろうな。だから何だかんだで、すごく優しい人、だとは思ってる。
でも言葉にできないけど「根本的にどこか分かり合えない」って気づいた時の衝撃とか考えると楽しいです。ショックを受けるのは理想と現実に差があるから。結局叡一くんに昔の男を重ねていて、それを捨て去ったとしても紗央の気持ちとはすれ違う部分があって、誰かが引っ張ってあげなきゃ、なんておこがましいことでこの人は自分なんかいなくてもちゃんと生きていけてしまうんだって思ったらちょっと沈んでそうです。悪いのは勝手に理想像を作った自分なのに。
紗央はタっくんに拾われてから特別扱いされることに慣れてしまってるから、その喪失感みたいな絶望は恋人に裏切られた時と似たものがありそうです。


そういうのを大和が見たら、「気色悪ィ」って言いそうな気がします。最低でいいよあの子は。
主従なら主は使うべきで従は使われるべき。互いを思いやるのはアホらしいし分を弁えてない。過ぎたるはなんたらという奴ですが、最低だとしても上に立つ人間なら大和の考え方は間違ってないといいな。もちろん叡一くんと紗央のスタンスも間違ってはいないけど、やっぱり大和にすれば生温いし甘く見える。そりゃそうか。
真剣にぶつかる部分はあってもいいと思う。しかし私には叡一くんのそんな深い部分は(略)
真剣にぶつかってもわからないものはわからないんだろうな。
大和にすれば言葉以上のものを推測しろってのがそもそもアホらしいんだと思います。それは多分自分がケレスさんの言葉に縛られる立場だからだろうし、主従関係に心を持ち出したら破綻すると思ってるからだろうな。
大和に腕落とされた慎吾にしたって、本気で命捨てたいなんて思ってたわけじゃない、と思ってる。上辺の言葉って大切。


こういう考察書くと本編をちょっと書きたくなるんだよね。ゲーム中の大和の心情だけ一人称で全部書き殴りたい。最低だけど、どうしようもないけど、俺はお前が好きだよ!!(ゆうきゃんボイスで)
最低でもどうしようもなくても、自分の中でラインを決めて生きてる大和は書いてて楽しいし、結構好きです。リベリオンの大和も同じ理由で好き。
ご近所大和は死ねばいいのにと思いつつ可哀想になってくるので肩をぽんと叩いてやりたい。(笑)
流風なんか本当にどうでもいいんだカッコ良くなくたっていいんだ、けど大和は本当はもっとカッコ良く書いてやりたいのにならないのは私のせい。聖櫃戦争の大和は腐っても王子様なので、もっと誇り高くもっと気高く見えてもいいのにな。ゼロサムあたりでこういうキャラ出てきたら二次創作始めそうな気がするのに自分のキャラじゃ上手くいかんよ!!!
コルダ3の制作決定おめでとうございます。コーエーってことは声優変わらないよね? 8年後設定でも変わんないよね!? いえこれで新しい声優使って中井和哉がピアノとか弾き出した日には私悶え死ぬ自信がありますが。8年後か……。25歳の土浦ありがとうございます……!!!!!!


取り合えず今はどうやったら奈央が電波にならないか模索中。
奈央は男前でいいと思うんだけどな、いつも道を踏み外して電波になります。
ブラックな感じと電波は当然紙一重だと思うんだけど、黒くしたいわけでもないんだよな。うーん……。

2009.09.20(Sun) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

手を差し伸べるのが自分であれたら。



「……僕、お父さんには一生言うことないだろうなと思ってたんだけど、」

 風呂上りの温まった腰にひやりとした湿布を丁寧に貼り付けると、樹理は深く深くふかーく息をついてから、

「お父さんも老いるんだよ」

 とぼそりと呟いた。

「……お前いい度胸だな、樹理くらいでかい息子いんだから老いるに決まってんだろ!」
「いやそうでなくて」
「そうでなくて何だよ! お前生まれた時点で大人の階段上りきった清清しい気分だったよ悪いか!!」
「そんなことも聞いてないって」

 呆れた顔でまたため息をつく息子を睨みながら流風は起き上がった。バスケ部の指導中にあろうことか腰を痛めたのだ。自分としても年齢を実感せざるを得ない。自他共に認めるアイドルばりの若さを誇っていたために、ショックも普通の人の倍以上だ。

「腰を痛めると老いてしまうのですか?」
「椿、腰ってのはいろんな意味で年齢を実感する部分なんだ……」
「よくわかりません」
「年取れば嫌でも分かるって」

 子供ならこれくらい可愛らしくいてほしいものである。ひとりで育ってくれて大変ありがたい気持ちはあるけれども、要らんことまで言わなくてよいというのが流風の本音で、樹理はつまり真っ直ぐお節介な子供に育ったようだ。
 樹理が冷湿布を冷蔵庫に戻しに行ってすぐ、ドアベルが鳴った。この音はロビーからの音ではない。玄関前に誰かいるのだろう。僕が行くよ、と率先して樹理が玄関へと向かう。ドアの開く音、それから廊下を歩く足音で、誰が来たのかは大体見当がついた。

「よう、嬢ちゃん」
「子供の前でやめてもらえますか、通報しますよ」
「悪人なら俺に任せとけ、これでも本職でな」
「ああもう頭痛くなるんで帰らないならせめて黙っててください」

 手に何やら紙袋を持った桜井 拓海だった。拓海の後ろをついてきた樹理は今日何度目かになるため息を再び。椿はいつも通りの笑顔で、お久しぶりです、と礼儀正しく頭を下げた。

「紗央がクッキー焼いたんだが、癖で大量に作りやがってな。とてもうちだけじゃ消化しきれん」
「はあ、じゃあそれ置いて帰ってもらえますか」
「なんだよ、俺と嬢ちゃんの仲じゃねぇか」
「大した仲じゃないですからね、帰ってもらうのも当然かと」

 冗談が通じねぇな、と苦笑しながら拓海は椿の頭をくしゃくしゃと撫で、その手に紙袋を握らせる。
 
「これ持って部屋戻れ。子供は一緒に遊んでろ」

 どうやらその紙袋は子供を追い払う道具だったらしい。樹理にしろ椿にしろ、空気の読めない子供ではないから、部屋へ戻れと言われれば何か用事があるのだと察することくらいできるのだが、おそらく紗央がクッキーを焼きすぎたのも事実のようだ。聞き分けのいい子供たちは揃って階段を上がっていく。その背中を見送ってから、拓海は流風に向き直った。

「せっかくだから酒でも飲みながら話すか」
「その酒とやらは誰が出すんでしょうかね」
「俺は客人だ」
「いいえ、単なる荒らしです」

 まだ痛む腰を摩りながら、流風は立ち上がって冷蔵庫へと向かった。






「随分いいもの飲んでんじゃねぇか」
「ほとんど飲みませんよ。料理に使うくらいで、毎日子供の世話と仕事とでそうそう飲んでる暇もないですしね」
「健康的だな」
「ええ、部活で腰は痛めましたけどね」
「そりゃご愁傷様」

 冷蔵庫にあったのは栓を開けていない白ワインのボトルだった。飲む暇がないというのは嘘だが、ひとりで飲んでもあまり面白くないので普段あまりアルコールを飲むことはない。最近は来客や宿泊客が多いからか、いつもに比べれば飲んでいる方だ。料理に使うためのワインでも、一応美味しく飲めるものを選んでいてよかった、とグラスに口をつけながら流風は思った。一応つまみのつもりで、これも冷蔵庫にあったカマンベールチーズを出した。安物は選んでいないはずだが、おそらく拓海は銘柄や値段などはあまり気にしないだろう。いくら芹沢の長男といっても、家を出てからの方が長い。大和にしても、いやにジャンクフードを好んだりしていたし、不味いものにはいろいろうるさかったが安くて美味いものには文句は言わないし、それに一般家庭育ちのルミの手料理なんてどんな高級料理を出されるよりも喜んでいた。多分、そういう家系なのだろう。

「……それで、椿に何か?」

 この男が流風に接触する時は、芹沢の人間として椿の話をする。そう頻繁に芹沢邸を訪れることができない流風にとっては、芹沢の代弁者としての拓海の存在はとても助かっている。だが、いい話を持ってくるとは限らない。そこだけが問題だった。

「前置きは要らねぇな」
「貴方の前置きなんてあってないようなもんじゃないですか」

 軽口は叩くが、砕けた話ならこんな断りは入れない。あまりよくない話らしい。聞く前に喉にワインを一口流し込む。

「椿が中学に上がるまでにあの馬鹿がどうにもならなかったら、椿を正式に引き取ってくれ」

 流風はグラスに残ったワインを飲み干すと、はあ、と返事ともため息とも取れない声を出す。
 椿を正式に引き取るということは、法律上正式に親子になるということだ。流風としても、その点に別に問題はない。今の関係に法律が後押しをくれるだけだ。
 
「……それじゃあ、ヤマトはどうなるんだ」
「椿が手元にいなければあいつも自由に死ねる」
「俺はヤマトを殺したくなんかない」
「生きてないなら死んだ方がいい」

 拓海の声は淡々としている。
 拓海の言うことは、わかる。どんな事情があるのかもある程度理解はしているつもりだ。でも、流風の心はそれに追いつかない。

「確かに大和には時間が必要だったんだろう、……だが流石に生きてない人間を何年もトップに据えとくわけには行かねぇんだ。俺が継がない以上、芹沢も新しい当主を考えなきゃならん」
「なら椿に継がせればいい、……花を習いたいと俺に言ってきた、花に興味もある、それに直系だ」
「しかし教育を受けてない。それに娘である上にどうしようもない父親と、一般家庭生まれの母親との間に生まれた。分が悪い」

 ルミのことを蔑んでいるわけではないのだ。ルミが一般家庭の人間だったことは紛れもない事実。
 どうすればいい、どう答えたらいい、どう答えれば大和は、そして自分の心は納得するのだろう。どうすれば大和も椿も幸せに生きてくれるだろう。
 自分が大和に貰ったものを、どうやって返せばいいのだろう。

「……椿から父親を奪うことになる」
「嬢ちゃんがいる」

 流風にも、自分が椿の父親になっているという自覚はできている。何年も自分が育てた娘だ、椿の父親になることが嫌だという訳ではない。そうではない。

「ヤマトから椿を奪うのは、残った時間を奪うのと同じことだ……!」

 大和にとってルミは、幸せな過去であり幸せな現在。なら椿は、大和の幸せな未来の象徴。大和が芹沢家で生きる理由。椿が『芹沢椿』だからこそ、大和は芹沢家で生きることができる。
 過去を、現在を、そして未来を奪われたら、大和は本当に命を絶つしかなくなってしまう。あんなに広い屋敷でも、大和の居場所はどこにもなくなってしまう。
 しかし、搾り出したような流風の悲痛な声を、拓海は相変わらず淡々と切り捨てる。

「生きる気があるならとっくに戻ってきてるはずだ。……あの馬鹿にとって、椿は永遠に二番手だ。下がらないが、繰り上がることもない。椿の存在は大和を死なせなかっただけだ、生かすことはできない」
「ッ、椿は父親を待ってるのに、」
「待ってるなら尚更、早くお前が父親になってやれ。芹沢の娘じゃなく、普通の家庭の子供として育ててやれ。椿自身、大和よりもお前に傾いてる愛情の方がでかいだろう」

 声が詰まった。それは、椿自身も言っていたことだ。俺に寄せる気持ちは大きいのだと。
 それでも、見捨てるつもりはないとも言っていた。小学五年生が、だ。

「椿のことを考えても、父親があんな状態の芹沢にいるより、普通の家庭で普通の娘として育った方が幸せだ。恋愛ひとつするのにも、大和が苦労したようにはならないだろう」
「その苦労があったから椿がいるんだろ……」
「その苦労を受け入れられるのは大和本人だけだ。娘にまで同じ経験させたいとは思わねぇよ、俺だってそうだ。嬢ちゃんだって、恋人に先立たれる経験を樹理にもさせたいとは思わねぇだろ」
「俺と大和じゃ考え方も立場も違う!」
「一緒だ。ガキを育てなきゃならねぇ立場に考え方もクソもねぇんだよ、義務なんだから」

 流風が黙ると、拓海はグラスの中のワインを飲み干し、ボトルをグラスに傾けて新しく液体を注ぎいれる。
 
「なあ嬢ちゃん、これでも俺が一応働いたんだ、条件呑んでくれねぇか。そりゃあもちろん芹沢は椿を引き取るって言ってる、でもそれじゃさっき言ったように椿が可哀想だろ? ならいっそ今の生活を続けさせることが一番いいとは思わねぇか」

 直系を手放させるよう、拓海が働きかけているのだという。やはりそうか、という思いがよぎる。
 長男とはいえ、勝手に一族を飛び出した拓海が意見を主張し、それを通すのは簡単なことではないはずだ。その上、大和の代わりに家を継ぐ気もないとなれば意見など言える立場にないことは明らか。
 それでも、拓海はこうして流風に椿を頼みに来ている。簡単なことではないことを、拓海は成そうとしている。
 
「……嫌なんじゃないんだ、椿がずっと手元にいてくれるなら、俺は嬉しい」

 でも、与えられた自分が大和から何かを奪うなんて、気持ちが許さないのだ。

「どうして椿じゃダメなんだ、全部無きゃダメなんてわがままが過ぎる! どうして椿ひとり愛してやるために戻ってこれねぇんだよ、ヤマト……!」

 樹理を連れてこの国に帰ってきた日のことをまだ流風は鮮明に覚えている。雪の日だ。両親にも結局言い出すことができずにその日を迎え、行く当ては芹沢邸しかなかった。事情を知っていた大和と、知らされずに驚いていたルミと、穏やかに眠る椿。幸せそうな家族だと思った、自分は樹理に永遠にこの暖かさを教えてやることはできないのだと。 
 自分は大和に受け入れてもらったからこうして今も樹理を育て、生きることができている。なのにどうしてその大和から今度は大事なものを奪わなければならないのだろう。ルミがいなければ椿は生まれなかったのと同じように、大和がいなくても椿が生まれることは有り得なかったのに。どうして椿のために戻ってきてくれないのか、居場所ならいくらでも作ってやる、けれど、世界がそれを許してくれない。
 大和のことを考えても、椿のことを考えても涙腺が緩む。滲んだ涙を拭う流風を、拓海はグラスに口をつけながらただ眺めているだけだった。

「……もちろん、椿が中学に上がるまでにどうにかなるならそれでいいんだ」
「……けど、二年なんてあっという間だ」

 これまで椿を育ててきた時間もあっという間に過ぎたというのに、その三分の一の時間なんて、きっと星が流れるように一瞬の出来事だ。

「……いいよ、わかった。……それまでにヤマトが戻ってこなかったら、俺が椿を引き取る。堂々と保護者会も参加して、運動会も出て、休日にはデートして、結婚式には一緒にバージンロード逆走する」
「ああ、そうしてやれ。バージンロード逆走すんのも大和よりお前の方が映えるだろ」
「褒められると照れる」

 精一杯の笑顔はどうしたって乾いたものになってしまう。
 全部、大和がルミとしたかったことだ。椿を奪うことで、自分は大和に何を与えてやれるだろうか。答えは出ない。
 何が大和にとって本当に幸せなことになるのだろう。死なないでいる状態から切り離してやることは、本当に大和の幸せに繋がるのだろうか。
 それで本当に、椿は幸せになれるのだろうか。それは不幸にならないだけではないのだろうか。死なないでいるだけの大和と、変わらないんじゃないだろうか。
 
「……なんか、ダメですね、俺、樹理よりも椿とかヤマトのことに頭使っちゃって」
「そんなだから可愛くねぇガキに育つんだよ、樹理は」
「はは、ごもっともです」

 一口に片付けられるものか。
 順序などつけられない。大和のように一番を永久欠番にしておくことは、流風にはできなかった。流風にとって、今の自分を支えるものすべてが一番。
 どうすれば自分も幸せでいられるのか。ワインの白い水面が揺らめいても、答えは出ない。


2009.09.19(Sat) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

ワールズエンドワルツ 3



 部屋で夕食を取り、適当な時間まで仮眠を取る。普段着に着替えるのはやはり面倒だし、動きにくさもあるから服装は出かけたときのまま、マントだけを外してベッドに横になっていた。 
 拓海が目の前で消える様子を見ても、やたら懐いてきた二羽のカラスを見ても、俺は御伽噺を信じる気はない。地下のあの部屋の奥、鎖を断ち切った先には何か手がかりがあると考えて間違いない、それが剣であろうと何であろうと、一応今の状況を打破するものであるのなら喜ばしいことだ。
 出かけるなら自分を伴えを進言した慎吾はどうしただろう。とうとう俺に嫌気が差しただろうか。不貞腐れて部屋で寝ているかもしれない、――その方が俺としては動きやすいから結構なのだが。
 そんなことを考えながら目を瞑り、何時間経っただろうか。不意に窓をかつかつと叩く音で目を覚ました。部屋の中は真っ暗で、月もまだ昇っていないらしい。部屋に差し込む明かりは夜空の星明りばかりで足元も覚束ないほどだ。
 窓の方へ手探りで向かい、ガラスの前で目を凝らせば窓を叩いたのが二羽のカラスだったことがわかる。夜だからか鳴きはしないが、相変わらずこつこつと窓を叩き続けている。窓を開けてやればそれが定位置とでもいうように俺の肩に止まる。

「あー、今はいい。裏に向かうからそっちで待ってろ」

 鳥に言葉が分かればいいのだが。試しに言ってみれば、カラスは鳴くこともなく肩から降り、開け放した窓から飛び立っていった。
 ……さて。

「……お仕事しますかねぇ」

 腰に使い慣れた剣を下げ、ブーツの革紐をきつく縛り直し、マントを肩にかけ、暗い部屋を出た。





「!」

 星明りだけを頼りに城を出て、裏庭に回る。すると、真っ暗な中にきらりと光る二対の瞳があった。例のカラスだ。
 言葉を理解したのか偶然なのか、ちゃんと裏庭にいたらしい。しかも俺がこれから踏み入ろうとする地下道の入り口でぴょんぴょん跳ね、音の違いでそこが木の蓋であることを教えている。まったくありがたい奴らだ。
 夕方やったように木枠を外し、中を覗くとやはりランプの明かりがある。ここよりも断然歩きやすそうだ。

「……お前ら鳴くと煩いからここにいろよ」

 言えばカラスは黙って芝の上まで行き、そこから俺をじっと見ている。
 そこまで言うことを聞かれると若干不気味に思えてくるので、カラスなら鳴けよ、と呟いてみると、二羽は揃って、ぎゃあ、と鳴いた。一層気色悪い。賢いだけで済ませられない問題かもしれない。
 そのカラスは今は置いておくことにして、夕方そうしたように俺は中に入ると内側から蓋を閉める。カラスの姿が視界から消え、視線を階段の奥へ向ける。
 石造りの階段を叩く靴底の音。いやに響く感じがまた不気味で、洞窟を歩く気分に近い。狭い通路、右手で壁に触れながら奥までたどり着く。つい数時間前来た時にはいた、黒マントの男の姿はなかった。本当に奥で待っているのだろうか。
 いかにも頑丈そうな鎖を前に、剣の柄をぐっと握る。……この地下なら、鎖を叩き割ってもそう音が上へ響くこともないだろう。それにこの時間だ、万一魔術云々が事実だったとして、国王やその側近の爺様方がそいつに精通しているとしても、今は眠っているはず。すべて知れるのは明日の朝だ。今すぐ追及されることはない。
 鍵と鎖に触れ、古い部分がないか探る。かなり重みのあるそれは、簡単に破壊することなどできそうにないように思うが、……取り合えず、あの拓海の言葉を信じてみることにして。
 
「―――」

 深く息を吸って、吐いて、剣を鞘から抜く。ランプの明かりを刀身が反射する。
 こんなもん叩いたら刃こぼれじゃ済まないかもしれないな、などと思いながら、剣を振り上げ、力任せに下ろす。

「ッ!?」

 手ごたえは想像と全く違った。鉄の感触を覚える前に、何か見えない膜に遮られているような感覚。これが拓海の言うところの結界という奴なら納得はできる。俺は見えないものを割ろうとしているわけだ、……しかしこの『何か』が割れたところで鎖を断ち切れるわけではない。
 気を抜けば弾かれそうになるのを堪え、振り下ろした剣に力を込める。ぐぐ、と見えない何かに刃が食い込んでいくのが感触で分かった。
 あまり力を入れ過ぎると、コレをどうにかしても次に鎖にぶち当たった時反動がでかそうだ。だからと言って今力を緩めることもできず、ただ今は目の前の何かを破壊するために柄を握る両手に力を入れる。
 すると、ぴし、という想像とは違う音が小さく響いたのがわかった。

(――ぴし?)

 音に対する疑問を考えるより早く、何かを切り裂いた感触を手が覚える。そして閃光が迸り、ガラスが割れたような音が地下道に大きく響いた。
 この後剣がぶち当たるはずだった鎖の鉄の感触はなく、その後俺は空を裂いたように体のバランスを崩してよろめく。
 音は一瞬で止み、閃光もおさまると俺は体勢を立て直し、剣を手にしたまま扉を確認する。――確かに扉の取っ手に絡められていた太い鎖と頑丈な鍵は、何故か床に落ちていた。鎖を切った感触などなかったのに、鎖が綺麗に切れている。どんなに研いだ剣だって鉄の鎖をこうも綺麗に切ることができるはずがない。なのに実際鎖はそうして切れている、常識と事実の不一致のおかげで不気味さが一層増した。
 ともあれ、これで扉は開くはずだ。またわけのわからんものに出会わない限り、鎖が外れりゃ扉は開くものと普通の人間は考える。扉の取っ手を左右両手でそれぞれ持ち、落ちた鎖は脇に蹴飛ばして一気に引き開く。

「――――」

 そこは地下道以上に不気味な空間だった。石造りの部屋はランプがひとつもないのに中がよく分かる。部屋の中央にある台座に祭られているらしい――あの日石碑の前で見たものとおそらく同じ――剣、その刀身が鞘の内側からいやに赤く光っているのだ。この部屋は、あの時拓海に剣を見せられた時以上に悪寒が走る。長居はしたくない。中に入り扉を閉めると地下道のランプの明かりがなくなり、ただ妖しい赤い光だけが支配する空間になる。ここにひとりでいるってのはやっぱり不気味だ、カラスの一羽や二羽いた方が心強かったかもしれない。

「やっぱり馬鹿力だったな」

 突然暗がりから声が聞こえ、反射的に剣を抜いて音源を見ると、暗闇に紛れて黒マントの男が顔を出す。
 俺を馬鹿にするように笑いながら出てきたそいつは、やはり拓海。あの鎖を切らずにどう入ったというのか。……いや、こいつも俺と同じように馬鹿力で破っただけなのかもしれない。こいつがここに入る瞬間を見ていない以上、こいつがどう入ったかなんて俺にはわかるはずがないのだ。
 拓海は俺に危害を加えるつもりがないことは何となくわかっている。剣を鞘に収めると、石の壁に寄りかかって不気味な赤い光を眺めた。

「この前俺に見せた“鍵”とやらはあれか」
「そうだ」

 禍々しい空気が、他とは違う。
 赤い剣は台座の中央で、どんなバランスなのか柄を上に直立している。刀身にはさっき扉にかかっていたものと同じような鎖が巻きつけられている。それ以外は何もない部屋だ。

「……で? これを手にするとお前にどう関係あるって?」
「この剣を手にしなければてめェが黄金を手にすることは有り得ない。俺の主となることもない」
「なら、俺がこのままこいつを見なかったことにして帰ればお前は主人不在となるわけだ」
「厳密には違う。まだ黄金は手放されていない。あの剣を手にしないのなら、あれを手にするまで、黄金は前の所有者が権利を持ったままだ」

 拓海もまた、俺と同じように赤い光を前に石の壁にもたれかかる。
 
「夕方会った時はここに来て欲しくないみたいだったな? 俺がこのまま帰った方が都合いいんじゃねぇのか」

 あの時拓海は、確かに躊躇していた。この先に踏み込むのか、と、そうして欲しくないように俺には見えた。
 想像通り、拓海は「そうかもしれない」と呟く。

「参考までに聞いとく。前、……今か、今の所有者ってのはどんな奴だ」
「聞いたって仕方ねぇぞ」
「参考までに、っつったろ」

 壁に寄りかかったまま、拓海は俯いてため息をつき、それから顔を上げた。
 何か遠いものを見ているような表情。その横顔は赤い光に照らされている。

「……何もかも失った娼婦だった」

 ……だった?
 疑問を口に出す前に、拓海は先を続ける。

「黄金を手にするくらいで割に合った人生を送れるんじゃないかと思った」

 何もかも失ったから、価値の高い黄金を手にすることでプラスマイナスがゼロになる。それを期待したのが拓海ということらしい。
 俺が黙っていると、拓海は更に先を口にする。

「だが、結局俺が殺した」
「……待て、黄金の持ち主はお前の主人だろ、どうして殺す?」

 それにこいつは、俺が剣を手にしなければ黄金は今の所有者が持ったままだと言った。まだそいつが権利を持っていると? 死んでいるのに?
 拓海は俺の疑問に答える気はないらしい。この話を聞いてはこいつに殺されるかもしれない可能性を考えなければならないわけだが、口ぶりからして、そいつを『殺した』ことは拓海にとって想定外のことだったのだろう。表情から後悔がありありと見て取れる。

「……このままてめェが帰れば俺に都合いいんじゃねぇか、っつったな」

 数分前の話を持ち出して、拓海はこちらを向いた。
 ああ、と返事をすれば、確かにそうかもしれない、とまた同じ返事をする。

「だが、帰らないだろう。てめェが帰らないことを知ってるから俺がここにいる」
「帰って黙って寝ててくださいお願いします我が主、っつったら今日はおとなしく寝てやってもよかったんだがな」
「無能のクソガキのくせに口だけは達者で嫌になるな。どうぞ剣を取り正式に黄金を継承してきやがれ我が主」 
「いちいち侮辱ワード挟むなっつってんだろ!!」

 それが主に対する口の聞き方ならあいつの生きる世界はどうしたって間違っているだろうが、奴の言う事は間違っていない。俺は退く気などない。国が懸かっている。俺のこれからも、慎吾のこれからも、いろんな奴の運命が懸かっている。俺が退けば、姫君にいずれ降伏しなければならなくなる。あの力に対抗するための推進力は、俺以外では有り得ないのだから。
 背を壁から離し、中央の台座へと向かう。相変わらず不気味な赤い光を放つ剣は、先日見せられた時とは段違いの空気を纏っていた。本物はやはり違うということらしい。豪華な装飾の澱み具合も実物は半端じゃない。まるで陽炎が剣全体を覆っているようにも思える。
 何度か右手を握って、開いて、を繰り返し、その赤い剣の前に立つ。鞘の内側から放たれる邪悪で赤い光が目の前に広がった。
 
「……あ」


 そこでどうしてか
 
 自分の剣がとても邪魔なもののような気がして

 腰に提げていた剣を

 鞘ごと床に置いた


 目の前の邪悪な剣に手をかけるまでに、迷いなどなかった。剣を置いたのだから、新しいものを手にすべきだと頭のどこかで誰かが訴えていた。俺が手にする剣は、目の前のこの剣以外有り得ない。疑いを持つこともなかった。
 今までの剣よりも少しごつい柄を握ると同時に、刀身に掛けられていた鎖が外れて重力に逆らえず台座に落ちる。
 ――我に返ったのは、腰に新しい鞘を下げ、そこから刀身を抜き出した時だった。扉の鎖を斬った時と同じような閃光が、ただし今回は真っ赤な光が視界を覆う。それから、体中を何か得体の知れないものに舐め回されるような感覚、それと共に強烈な吐き気に襲われて、剣を杖代わりに膝をついた。
 意識はいやに鮮明で、ずっと共にあったはずの自分の剣が何故床に放り出されているのか、何故自分は新しい剣を手にしているのか、この吐き気は一体何なのか、意識は鮮明なのに何も理解できない、まとまらない。刀身から放たれる赤い光は右腕に纏わりついて離れない。ぞくりぞくりと背筋を徐々に伝ってくる、『認識してはならない感情』を必死に押さえつける。呼吸をするのも辛い、突き立てた剣を支える右腕が、『認識してはならない感情』のためにがくがく震える。

「分かってんだろ、その剣には悪魔が封印されてる。剣を手にすることができるのは本当に剣の腕の立つ奴だけだ、だが、悪魔を押さえつけることができるのはその道に精通する魔術師だけ」
「づ、ッ、お前、知ってて、」
「この後のシナリオを教えてやろうか? 力のない王子様は剣の悪魔に体を取られ心を殺されて父親の国王始め家臣を殺していく。もう血を見たくて仕方ないんだろう、その剣、もといてめェは」

 ――血が、見たい。
 そうだ、この感情は戦場に出た時の高揚とよく似ている。血が見たくて仕方ない、骨を砕き肉を裂く感触を早く味わいたい、ああ殺してやりたい、あのどす黒い欲望によく似ている、寧ろそのものだ。剣が欲しがっているのはその感触であり血液の温かさ、窮地に追い詰められた人間の悲鳴。

 与エナケレバ

 いや、その欲望に支配されてはそいつの思うがままだ。くそッ、第一悪魔なんざ信じてねぇんだよ、なのに何故俺が体を乗っ取られなければならないのか。でも悪魔じゃないとしたらこれは何なんだ、どういうことなんだ、畜生まとまらない! 俺が望んだことか? いい加減ジジイ共に付き合うのに飽き飽きして謀反起こすって? 何だよ次期国王の謀反って、意味分かんねぇ、取り合えズ血ヲ見ニ行コウカ?
 目の前が赤く染まっていく。抗わなければこの酷い吐き気からもきっと逃れることができるのに、それをすることだけは俺が、俺の自我が、
 かつかつと拓海が近づいてくるのが分かる。奴は俺が床に置いたらしい剣を手にすると、左の親指を浅く傷つけ、

「……早く狂っちまえ、じゃないと始まりも終わりもしない」

 その指をそのまま俺の口の中へ突っ込んだ。舌が血の味を美味デアルと認識する、背筋を駆け上が美味イる悪寒が止ま美味イらない。 
 口の中の拓海の指を食い千切る勢いで歯を立てる。傷をつけたわけデナイ場所カラモ赤イ液体ガ流レ始メル。

 完全にスイッチが入った。頭のどこかでばちんと音がして、視界が一瞬血の赤に染められ、次に闇へと放り出される。



 

 吐き気が完全に治まると剣を支えに立ち上がる。口の中に血の味は残っているが石造りの部屋には誰もいない。
 俺は台座から降りると部屋の奥に向かう。長年見てきたから分かる、この壁には細工がしてあって、ここから国王が出入りするのだ。この先に憎むべき国王が。
 仕掛けをいちいち解くのも面倒で、力任せに剣を突き立てれば魔術でなされた細工は積み上げられた石と共にぼろぼろと崩れていく。王子の持つ反魔力性と反魔力の塊であるこの剣があれば魔術師の一族など怖くはない。
 崩れた石を蹴散らしながら俺はその向こうへと向かう。上る階段の先には国王の寝室が――。




 どこか遠くでカラスの鳴き声が聞こえた。






2009.09.19(Sat) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

ひさびさに

「これ、椿ちゃんと樹理くんに」
「子供にばっか優しくて俺に優しくする気はない、と。上等なスーツの一着もプレゼントしてもらえたら夕飯も張り切って作るってのに」
「なんで僕がお前にまで優しくしてやんなきゃなんないんだよ」
「そりゃあ昔からの付き合いってことで」
「却下」

 最近は入れ替わり立ち代わりで人が来る。今日の来客は樹崎 ミナトだ。椿と樹理に渡して、と手渡された紙袋の中身を見れば上等なブランドの服だった。サイズが合っているのかどうかは知らないが、そういうミスをする男ではないだろう。来客のため、樹理と椿は自主的に部屋に下がっている。夕飯のときにでも渡そう、と流風は紙袋を床に置いた。
 今日の夕方のことだ。流風が勤務する月見ヶ丘高校に、ミナトがふらりと立ち寄った。流風自身も、そして流風やミナトが学生だった頃の担任なども酷く驚いていた。当然だろう。ミナトは親の仕事の都合でアメリカに引っ越し、そちらで就職したと聞いていたからだ。

「今度から東京の支社で仕事任されることになってさ。下見かねて小旅行、みたいな」
「みたいな、じゃねぇよ。連絡くらい入れろ」
「水城に会う気はほとんどなかったんだから仕方ないだろ」

 ミナト用と自分用、ふたつのマグにコーヒーを注ぐ。砂糖とミルクはどうする、と問えば、いらない、との返答が聞こえ、流風はそのままマグをミナトの目の前に置いた。ネクタイをきっちり締め、眼鏡のよく似合うミナトは典型的なインテリに見える。それでも俺の方が頭はいい、と声には出さず流風は思った。

「芹沢の屋敷行ったら拍子抜けしちゃってさ。水城にでも会うか、って」
「俺は息抜き用でもなんでもないぞ」
「けど、……ルミに線香あげるついでだったのにさ、相変わらずあれじゃあ気が抜けるって」

 マグを両手で包むように持って、ミナトは苦笑した。大和に会ったのだろう。葬儀からもう六年、あの葬式の時と変わらない大和を見、未だに椿が流風の元にいるのを見て、ミナトは気落ちしているに違いなかった。 
 
「……死にそうな顔してた、芹沢」
「あの頃の豪傑はどこへやら、だろ?」
「何言っても聞きそうになかった。何も考えてない目で、ぼーっと椿の木見てるだけでさ。椿ちゃんいないみたいだったし、住んでそうな感じもなかったから多分いないんだろうなって思って。……芹沢にとって椿ちゃんって、娘でしかないのかな」

 手のひらを暖めるようにずっとマグを手にしているミナトを目の前にして、流風はコーヒーを一口啜った。舌に伝わる熱と苦味。それから流風もミナトのように目を伏せる。

「……水城には全然わかんないのか? 芹沢の気持ち」

 それは、流風もまた伴侶を喪う経験をしたことを知っているから出た質問だろう。同じ質問はたくさんの人にされた。拓海にも、紗央にも、奈央にも、空にも、椿にも。
 
「解らない」
「同じじゃないってことか」
「同じじゃない。――樹理の母親は、遠くないうちに死ぬことがわかってた。樹理を産めばそれまでの時間がもっと短くなることも」

 そう、だから、訪れた死が突然であったとしても、受け入れることができた。何もしてあげられなかったけれど、それでいいと彼女が言ったから。樹理と流風と三人で、家族になることができたのだからそれでいいと。けれど大和は違う。無限の未来を描いて、これから三人の時間をもっともっと作ろうとしていた矢先だ。立ち直れない大きな傷になるのも致し方ない。

「……それに、葉山は芹沢の生き方を変えた。自分さえ良けりゃいい、自分が生きてりゃどうにかなる、って奔放に生きてた奴だったのに、」
 
 結婚の許しを請う時、大和は言ったのだという。
 葉山がいなければ、真っ当に生きていくことができない。だからこの人が必要だ。
 と、戸惑うことなく言ったという。

「……俺が樹理の母親のことを愛してなかったとか、俺が薄情者だとか、そういうことじゃないんだ。ただ、金持ちのぼっちゃんは基が脆いからな、耐え切れないんだと思う」
「それは解る。理解はする。……でも、納得はできないし、ルミも天国で離婚届に判押したくなってると思う。……椿ちゃんを放ったままなんて、どうかしてる」

 ミナトはルミの近くにいて、大和のことを良く知らない。ルミの側に立った意見を言ってしまうのも仕方がないこと。
 ミナトの発言を流風は理解はするが、とても納得はできない。離婚届に判など押さない。ルミはきっと、ほんっと仕方ないわね、と大和が自分で立ち上がるのを気長に待っているはずだからだ。

「芹沢に言い分があるのも分かる、ルミが大事だったのもわかる、すごくわかる、でも、椿ちゃんはルミが勝手に産んだ子じゃないだろ」
「……そうだな」

 どうして椿を連れて行かなかった、と泣きながら叫んだ大和を、流風はまだよく覚えている。
 その声は悲哀に溢れていて、病院に駆けつけた流風も紗央も思わず目を背けた。ただ、痛ましかった。父親の慟哭を聞く椿のあどけない表情も、正直、流風には直視できなかった。
 一人になれば死ぬことができたのだろう。妻と娘を一度に喪えば、大和も後のことなど全く気にせず、自分勝手に死ねばよかった。でも、椿を殺すことはできない。椿を生かすことは、ルミと、他の誰でもない大和が決めたこと。椿を殺すことはできなかったのだ。

「ヤマトのこと、庇うわけじゃないんだけどさ」

 マグが段々ぬるくなっていく。

「……ヤマトは、本当に本当に、葉山のこと愛してたんだ。逆もそう、どんだけわがままでも、葉山は受け入れてくれた。葉山だってヤマトのこと、すごく好きだったと思う。俺はああはなれないな、ってよく思ったよ。だからさ、やっぱりヤマトの中で、椿は二番なんだ。一番はずっと葉山だ、死んだって繰り上がるわけじゃない。そう思ってたから、葉山が死んだ時ヤマトもすぐ死ぬんじゃないかって思ったんだけどさ、結局今まで生きてるんだよな」
「……当然だろ、父親なんだから」
「そうでもない。ヤマトは基本的に自己中心的なんだよ、自分さえ良きゃいい。本当はいつ自殺したって全然おかしくない、でも生きてる。ってことは、」
「一応椿ちゃんのことを考えてる、だから生きてるって? あんなの、生きてるうちに入らない」
「俺もちょっとはそれ思った。いやあ、だけどさ、これで俺が育てた大事な椿に母親の影を見出して変なことでもされたら、と思うとぞっとするんだよな。ヤマトには悪いが可能性を否定できないもんで」

 流風の言葉に、ようやくミナトはぷっと吹き出した。
 
「ま、それやられたら僕も怒る」
「だろ? そういう俺の父親的事情もあるわけで、ヤマトが全部整理できるまでは時間をやってもいいのかな、と思う。何よりも椿がそう言ってる。だから平気だ」

 テーブルに肘をつき、ミナトは感心したようにため息をついた。
 ルミを大事に思っていた者が、大和を生かしたい気持ちは分かる。そして芹沢の人間が当主を生かしたいという気持ちも、わかる。
 だが、それでは大和の味方が誰もいなくなってしまう。突然樹理を連れて帰国した流風を、笑って出迎えた大和だからこそ、流風は自分だけでも味方にならなくてはならないと今痛切に感じた。
 他の誰が大和を急かそうとも、自分だけは傍で味方になってやらなくてはならない。傍に誰も必要ないというのなら、残された椿は責任を持って自分が育ててやろう。
 椿を引き取って育てているのが、同情ではないことが確かにわかった。どうして自分だけが本当に椿を愛してやれるのかもわかる。芹沢大和という人間が、歪な形をして生きている水城流風をそのまま受け入れたからだ。

「……ヤマトのこと許せとは言わないよ」
「……いいよ、ちゃんと話せるようになったらぶん殴る。水城に愚痴っても仕方ないもんな、他人の子ここまで育ててるお前には言っちゃいけないよな。悪かったよ」
「いや、それはいいんだ、別に」
 
 それ以上、流風とミナトの間に大和の話題は出なかった。マグの中のコーヒーを飲み干すと、ミナトは話題を切り替えるように明るい声を出す。

「椿ちゃんと樹理くんに会わせてよ。ちゃんと会うの葬儀以来だ」
「そんなになるか……。椿は母親似だぞ、かなり」
「ルミに似てもいいことなさそうだけどね。……話に聞く限りじゃ両親に似ず聡明だね」
「そこは俺の影響」
「流石は二児の父。否定はしないよ」

 今日は水城家に宿泊するというミナトに、どんな夕飯を振舞うべきか。
 喋りたいのなら鍋物にでもするべきだろうか。そんなことを考えながら、流風もまたマグを空にすべくコーヒーを喉に流し込んだ。



2009.09.18(Fri) | ほんとうのさいわい | cm(0) | tb(0) |

爪磨きの成果


いくら爪磨いてぴかぴかにしてもその上からトップコート塗るんで私はほとんど意味ないんですが、妹はひとりで感動してました。100円で感動できるって素敵です。
あの爪磨きと、メガスター見るのが同じ料金なんて、うーん。



点呼どんが続きを上げていたので。
叡一くんがそういう一面も持っているなら、確かに紗央とは溝ができるよな、と思います。
もうくどいですが、紗央は何か隠されてるのがすっごい嫌いな子です。何かあるなら言いなさいよ、って強気に思えるのは最初だけで、段々疑心暗鬼に陥って大抵どんどん暗くなる。聖櫃戦争だとそうネガティブになることもないかもしれないけど、それでも嫌なものは嫌だろうな。
やっぱり理解できない部分が溝になるんだろうなあ。紗央の場合理解できない部分は受け入れることも無理なので、見て見ぬ振りをするしかないような。



追記は紗央についてぐだぐだ。


2009.09.16(Wed) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

ワールズエンドワルツ 2



「どこ行ってたんスか」
「ちょっとそこまで」
「ちょっとそこまで、じゃないっスよ!! あー服も汚れてるし! 膝とか気にしたことあります!? そりゃあ王族の方にしちゃそんな服ボロみたいなもんでしょうけど、もうちょい優しく扱いましょうよ! あ! あとブーツの裏の土はできるだけ落としてから入ること!!」
「うっせぇな、お前はどこのジジイだ」
「王子が無頓着すぎるんです!!」

 城に戻ったら慎吾からの質問タイムが待ち受けていた。部屋に出入りするなとは言ったが、部屋の前で待つなとは言っていない。慎吾は俺の部屋の前に仁王立ちになり、俺を部屋へ通そうとしないのだ。

「ったく、何なんだよいきなり。暑苦しい」
「城のお偉方が王子探してるもんで、俺までとばっちり食らったんスよ! 知らないっつっても、どうせ隠してるんだろー、とか言われるし。王子がどこで何して遊んでるかなんて俺が知るわけないじゃないスか! あ、それとカラス部屋に連れ込まないでくださいよ。ただでさえ王子が部屋散らかすのに鳥なんか入れたら余計散らかってメイドさんたちの仕事増えるでしょう! ちゃんと自然に帰してあげて下さい!」
「えー、こいつら慎吾より余程賢くて大人しいんだけどな」
「自分で世話できないものは飼っちゃいけないんですよ!!」
「慎吾が世話すりゃいいだろ」
「どーして俺が! とにかくっ、賢いなら勝手に生きてもらってください!」

 何という心の狭い奴だ。仕方なく両肩に止まったカラスを赤い絨毯に下ろすと、またな、と声を掛けてやる。二羽は相変わらず、ぎゃあ、と鳴いて絨毯の上をぴょんぴょん跳ねていき、開いていた手近な窓から空に飛び立っていった。その様子を確認してからようやく慎吾は息をついた。

「何なんスかいきなりカラスなんか連れちゃって。王子って王族らしくないと思ってたのに目覚めちゃったんスか?」

 突然そんなことを言い出すので、はぁ? と俺が首を傾げてやれば、慎吾に訝しげな視線を向けられた。

「だってそうでしょうが。王子の方が何度も馬車に乗ってるから分かってるもんだと思ってましたけど?」
「馬車? ――あ、」

 すっかり忘れていた。
 二羽のカラス。至る所に存在するモチーフは、これまで俺が理解していなかっただけで王族の象徴となる動物なのかもしれない。国王がカラスを連れているところなんて見たことがないが、なるほど、言われてみれば確かにこのタイミングで俺がカラスを連れていれば慎吾も奇妙に思うわけだ。その上、国王の側近に詰問されたというのだから、先刻足を踏み入れたあの場所が関係していることは間違いなさそうだ。拓海が言っていたように、あの先に何かあるのは確かなのだろう。今はそのどちらもどうだっていい、今夜あの場所に忍び込んでしまえばはっきりする。
 
「で、慎吾。俺は探されてたんだろ? 結局どう撒いた」

 ここに慎吾がいるのは、俺をそいつらの場所へ連れて行くためか、単にあったことを愚痴として報告したいか、はたまた何か別の用事があるかのどれかだ。しかし慎吾に俺を急がせたい様子はない。急ぎなら靴の土云々カラス云々言う前に俺の背を押してどこでも連れて行くだろう。

「俺は王子の邪魔するつもりはないんで、知りません分かりません見当もつきません、長旅の後だしどっかでメイドさんにでも言い寄ってるんじゃないスか、で通しました。ま、実際俺は知らないし分からないし王子がどこで何してんのか見当もつかないんで強ち嘘じゃないんですけど、メイドさん引っ掛けてることはないだろうな、くらいですね」
「でも奴らはそれで信用したんだな」
「そりゃそうですよ、王子の素行見てれば説得力溢れる回答だと思いますし」
「………まあ、いい。納得してやる」

 慎吾とあのクソジジイどもの中の俺がどんな奴なのか分かってきた気がした。そこまで不真面目に見えてたってのか。後で粛清してやる、覚悟してろ。
 
「……何かヤバいことしてるんスか? 向こうは王子にアタリつけてたみたいっスけど」
「ヤバかろうとそうじゃなかろうと、俺が国を継ぎゃいいって話だろ。……やってやるさ、そのためにわざわざ城を留守にしたんだ」

 収穫はあった。俺だけが知っていればいい収穫。
 肩のマントを今一度掛け直すと、部屋の前から動こうとしない慎吾に一歩、二歩、近づく。慎吾は諦めたように軽く頭を下げて、扉の目の前から退いた。

「俺は王子の従者ですから。王子が国王になるのを一番に祈ってますよ、ええ、どんな方法だとしてもね」
「人聞きの悪い言い方をするな。明日の朝には王位継承の儀があってもおかしくない」
「は? ……なんだ、本当にちゃんと仕事してたんですね。安心しました」
「結局疑ってたんじゃねぇかよお前っ」
「とんでもない。素行の悪い王子が悪いんじゃないスか」

 悪びれる様子もなく肩を竦める慎吾を横に、扉に手をかけ押し開く。 
 暗い部屋に廊下の明かりが薄く差し込んでいるだけだ。ルミは言い付け通り出入りしなかったらしい。外出前に散らかしたままになっている。
 部屋に入り、振り向いて「じゃあまた明日な」と慎吾に声を掛ければ、慎吾ははたと何かに気づいたように、王子、と俺を呼ぶ。
 
「言い忘れてました。俺じゃないって弁明も含めてなんスけど」
「何だ」
「書庫の鍵が壊れていたそうで」
「書庫の?」

 ……と、言われても俺は出入りしていないからどこがどう壊れたのか分からない。必要な資料は全部慎吾に取りに行かせていたから、だから慎吾は『自分ではない』と最初に断りを入れたのだろう。

「古かったんじゃねぇのか? 老朽化ってやつだろ」
「まあ確かに古かったんですけどね。でも鍵ってそう簡単に壊れないよなー、と思いまして。俺が最後に出た時も別に異常なく閉まりましたし」
「細かいんだよお前はいちいち。留守中のことだ、気にしたって仕方ねぇだろうが」

 慎吾は腑に落ちない様子で、うーん、と唸っていたが、しばらくすると「そうですよね」と一応納得したらしい。書庫に出入りするのは何も慎吾だけじゃない。慎吾だって俺に用事を言い渡されるまでは踏み入れたことのない場所だったはずだ。俺以外にも資料を使う爺さんはいるだろうし、どうせそいつらが乱暴に扱ったんだろう。一件落着だ。
 欠伸を噛み殺して、散らかった部屋に入る。

「――王子、どこか出かけるなら俺を伴ってください」

 閉めかけた扉の向こうから小さな声。

「……用事を一息に済ませるってことを知らねぇのか」
「いえ、今言わなきゃ、って突然思い立って。……ぞくっ、て、なんか、胸騒ぎがして」
「…………」

 それはさっきも言われた言葉。胸騒ぎがするから気をつけろとルミにも言われた。そしてこいつにも。
 まさかグルになって俺をハメようとしてんのか? だとしたら何のために? でも、慎吾からもルミからも、俺をからかおうとする雰囲気なんて感じられなかった。第一そんなことしても面白くないだろうし、俺が不愉快になれば即首を切られるかもしれないのだ。娯楽のためにそんなハイリスクなことをするとは思えない。慎吾もルミも、馬鹿ではない。多分、本当に胸騒ぎとやらを覚えているからこそ俺に忠告しているのだろう。

「忠告感謝する。だが、足の悪い従者ひとり伴うより自分ひとりで動く方が効率がいいこともある」
「それは分かってます。王子としての事情があることも分かります。ですから、せめて行き先だけでも告げてもらえればと。……さっき上の人が王子探してたことといい、鍵といいカラスといい、変に重なって不気味なんです」
「お前を安心させるために俺がお前に付き合えって? ざけんなよ、身分弁えろ」

 慎吾が言葉に詰まった。
 邪険にしてはいけない、だが必要以上に近づけることもしてはならない。それが主と従者のあるべき距離だからだ。この先は身分を弁えてもらわなければ困る。お前はたまたま俺が拾っただけのクズ騎士で、間違っても王族ではない。慎吾は馬鹿ではない、冷静になればそこまで理解するだろう。
 押し黙った慎吾に、また明日な、と声を掛けて扉を閉めた。その後慎吾が扉にどんな言葉を掛けたのか、俺は知らない。




2009.09.16(Wed) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

ひまつぶし


結局新紀元社のクトゥルフ神話買いました。でも意味がわかりません。(爽)
ポイントでポルノの新曲も買ってきたので、うきうきしながら聞いてます。いやあ、これ使うわ。ありがとうハルイチ。


クトゥルフ神話と一緒に、「セブンデイズ」ってBL漫画も買ったのですが、これがなかなかいい話。構成としてはBLじゃなくても全然いける話だと思う。つーかこれのパロをやりたい、BLじゃなくして。
なんとなく冬至くんのポジションがご近所理央なので、紫乃さん紗央で、冬至くんの兄貴がアンドゥーで、と思うと弓弦さんは瑤子さんかな、とか。唐突に「私と付き合ってよ」っていう瑤子さんと、段々傾いていくんだけど遊びなら早く別れないと、って思ってる理央とでそういうのいいなあ。
まあアンドゥーと紗央付き合ってないし、その辺はケレスさんにでも余裕で置き換えられるような気が。まんま踏襲したいわけじゃなくて、雰囲気がそんな感じってだけだし。
一週間を使って恋愛の始まりから描くのってキリがいい気がするけど変な感じもします。連載には三年くらいかかってるっていうんだから、やっぱりそういうものなのかもしれない。
ああ、瑤子さん弓道似合いそう。理央は気色悪い。
化物語の続きを見て、ひたぎさんは何であんなにもデレデレしてるのか、こっちがデレデレしてしまいました。


聖櫃戦争を書く合間にご近所書いたり理央書いたりしてるけどどれも終わる気がしない。
聖櫃戦争は慎吾がおかんぽくなってきたのでちょっと楽しい。
うちの父上は一人で青森まで釣りに出かけました。やっぱり高速使って行ったらしい。お土産にままどおるを頼んだ私です。馬鹿かお前はといわれました。


聖櫃戦争のアンドゥーと理央も妄想しがいがありそうです。聖職者だけど歴史家、瑤子さんも交えてキャンパスライフしてくれないかなあ。

「おめでとー! 出世したね、監督者に選ばれるなんて!」
「いえ、俺もどうして自分が選ばれたのかぴんと来なくて」
「そりゃあやっぱり実績と将来の有望さでしょ。お供には理央くん?」
「一応そのつもりで頼んでみるつもりです」
「理央くんいなくなると私の仕事大打撃なんだよねー……。考え直して?」
「大打撃って僕に始末書全部任せてるだけじゃないですか瑤子さん! 安藤さん、聞く耳持たなくていいですからね!」
「はあ、……ああ、そうだ鈴城君、話が」
「聞いてました。お供させていただきますよ、他人の泥かぶらなくてすみますし」
「ひっどーい!! か弱い女の子を本の海に放り込んで二人だけで歴史的イベント楽しむなんてー!」

誰が誰だかわからなくなってきたので終わります。
クトゥルフ理解できるといいなあ。クトゥルフ神話って創作なのに、さも当然ある神話のように解説されてるから、「あれ? 旧支配者ってマジでいるの?」って気分になってきます。
カタカナ長すぎwww タイタス・クロウは伊藤健太郎だと思ってればいいんですね。やっぱりクトゥグァが音としても炎の精ってとこも好きかも。アトラック=ナチャも単なる技の名前じゃないのねww
つーかそもそもアーカムシティってww と思います。北欧神話とクトゥルフ神話はある程度知ってるだけでいろんなゲームとか漫画とか楽しめそうですね。引用される頻度はギリシャより多いのかも。北欧神話なんて音が綺麗だからよく引っ張られるよね。
聖櫃戦争は北欧神話でよかったです。クトゥルフとかカオスですよね。大和が大いなるクトゥルフで海底のルルイエでうんたらかんたらとか書く気にならん。ていうか一応彼も人なので! 声的にはタイタス・k(略)


2009.09.16(Wed) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

ワールズエンドワルツ 1



「突然城に戻って次は何するっつーんですか……」

 数日間の旅を終え、城についたのは翌日の昼頃。俺が部屋に入ると慎吾は荷物を床に置き、大きくため息をついた。俺は真っ先に机に向かうと、これまでメモしてきた資料に目を通す。
 次は鍵の在り処で、と拓海は言った。もし鍵が実在するのなら、そこに奴がいるのなら、俺はどうでもいい存在を信じなければならない。それは心底癪だ。
 皮肉なことに、「存在しない」ことの証明は難しい。ないことを証明するために、あることの痕跡を探すなんて滑稽だ。でも、ないことを証明するために可能性のある場所を探るのは当然だろう。俺は夢なんか見ていない。あの時、あの石碑の前にあの男は実在した。

「慎吾、しばらく部屋に出入りするな」
「はぁ!? あそこまで引っ張っていって次はそれっスか!?」
「悪いな。一段落したらまたコキ使ってやる」

 はあ、と慎吾は納得できない表情で曖昧に頷いた。
 それから、扉に手を掛ける。

「いいっスけどね。王子より人使い荒い人はいませんし」
「束の間の休息って奴だ。ありがたく休んでおけ」
「そーさせてもらいます。でも、ご用があればいつでも参じますので」
「当然だろ、それが従者だ」
「ちぇ、やっぱ性格悪いっスね」

 言い残して慎吾は部屋を出て行く。その背を見送ってから、俺はまた膨大な量のメモに目を落とした。
 隠された歴史。どこかに安置されているらしい、封印の核となる剣。そしてその歴史とは別次元にある、ゲームの話。全く結びつかない。
 しばらくの間何度も何度もメモを見直したが、それらしい記述があったようには思えず、作業は中座する。作業しないのに机に向かっているのも何だか腹立たしく、立ち上がるとベッドへ向かい、そのまま倒れこんだ。
 話が万が一本当なら、慎吾をそこまで巻き込むことはできないのだ。王族に仕える者にある程度心を許すのは必要なことだが、引っ張り込んではならない。それはこちらが最低限引かなければならないライン。仕える者がいつでも身を引ける程度の距離を置くのは、雇い主として当然の役目だ。
 枕に頭を預け、ごろりと寝返りを打つと、ズボンのポケットに違和感を覚える。起き上がって右のポケットに手を突っ込み、取り出してみれば、なるほどそんなものも持っていたな、と思い出す。随分前のことのような気がして、すっかり忘れてしまっていた。

「……一段落してから、だな」

 からかうのはその後でもいい。
 取り出したものをまたポケットに突っ込む。今のを見たら何となくやる気が戻ってきた気がしないでもない。
 だがやる気云々で進捗は左右されない。俺は起き上がると着替えもせずにそのまま部屋を出た。気晴らしに庭を散歩するというのもアリだろう。
 部屋を出ると、ちょうど掃除道具を持ったルミがこちらへ歩いて来ていた。声をかけると、わ、と驚いた声をあげる。

「お、お戻りになってたんですか」
「ついさっきな」
「いつもと服装が違うので、雰囲気も違いますね」
「惚れ直したか?」

 俺の言葉にルミは掃除道具を手にしたまま、え、と固まった。
 ……世辞というのを知らんのかこいつは。俺だって傷つくぞ一応。

「……まあいい。それと、俺の部屋の掃除なら今は要らない」
「あ、で、でも毎日のことですので、」
「今はちょっと見られちゃマズいもんが散らばってんだ。上に何か言われたらそう言え。直筆で何か書いた方がいいか?」
「い、いえ! そういう理由でしたら平気です、ちゃんと報告しますので」
「ならいいんだが、……つーか、掃除したってすぐ散らかるんだ、一日くらいサボったって罰は当たんねぇだろ」 
「それはダメですよ。あたしこれでお金貰ってるんですから。庶民は王子とは違うものさしで動いてるんですからね」
「ふうん」

 何にでも手を抜くところは必要だと思うのだが。手を抜くことは怠けることではなく合理化すること、となれば上手く手を抜ける人間は上手く生きるコツを知っているということなのだろう。まあ、俺の場合は手を抜きすぎている感がある。こんなだから機密事項を機密のままにされるのか、それじゃ仕方ねぇな。

「王子はどちらへ? 騎士団に?」

 ルミの言葉で、そういやそんなモンもあったな、と思い出す。出て行く直前と外出中は割と城を心配していたものだったが、何もなかった、という今の結果を見りゃそれまでの懸念が杞憂だったことは明白なわけだ。俺が城を出れば攻めるチャンスではあっただろうに、情報網甘いんじゃねぇのか、あいつら。
 いいや、と首を振ると、それではどちらへ、との言葉。

「庭に空気吸いに行くんだよ。サボりついでに逢引するか?」

 吹っかけてみたがルミは頑として首を縦には振らない。

「王子のお部屋の掃除が要らないなら、お隣の部屋を二倍掃除しますので!」
「いつも大層な時間かかるのに二倍なんてご苦労なこって」
「い、いいじゃないですか! 仕事は丁寧にする派なんです!」
「ものは言いようだな」

 それ以上反論できないルミの顔の面白さったらない。俺には掃除の大変さはまるで分からないが、まあ、丁寧にされることに越したことはないんだろう。すぐ散らかすから理解の低さも人一倍なのだ、俺は。あまり長話をしても後でこいつが叱られるだろうし、無駄話はその辺で切り上げて俺は庭に向かうことにした。
 じゃあな、とルミに手を上げて挨拶して、そのすぐ横を通り過ぎると、王子、と何か気づいたようなルミの声に呼び止められる。

「? どうした?」

 首だけを声のする方向に向けると、ほうきを手にしたルミが、いえ、と自分でも驚いたような表情を見せている。

「胸騒ぎがしたので、つい」
「庭レベルで心配されるなんて愛されてるねぇ、俺も」
「茶化さないでください! ……お気をつけて」

 庭に出るだけで胸騒ぎなんて茶化す以外にどうしろと。忠告だけはありがたくいただいておくが、庭にまで神経を張り巡らせるつもりは毛頭ない。第一気分転換しに行くのに神経使ってどうするんだ。
 欠伸をかみ殺しながら、庭へと向かう道をのんびり歩いた。




 夕暮れの庭は薄暗く、昼間の明るさはどこへやら、といった感じだ。普段色とりどりの花が咲き乱れているだだっ広い庭は、夕暮れの橙と夜の藍色が入り混じった光のおかげでどことなく不気味なものになっている。芝生の上を歩き、裏庭まで出てから腰を下ろす。裏庭は広いだけで大した物はない。もちろん木や花は植わっているが、表の華やかさとは段違いだ。
 明るい間は騎士団やら城下町やら音源がたくさんあるものだが、この時間帯はぞっとするほど静かで、芝の上に寝転ぶと燃えるような空を眺めた。風もどこか生ぬるい。部屋で寝た方が気分転換としては相応しかったかもしれない。そのまましばらく空の色が変わっていくのを視界にいれていたが、やがて、ぎゃあ、と特有の鳴き声が聞こえた。――カラスか。
 体を起こせば視界の隅に二羽のカラス。俺がそちらを向いたことに気づけばそいつらは鳴くのをやめてじっと俺の方を見ていた。……カラスに見つめられるってのも不気味な話だ。
 ここからカラスのいる場所までは少し距離がある。暇つぶしに、と立ち上がるとそちらへ向かう。カラスがまた、ぎゃあ、と鳴いた。
 カラスの目の前まで来ると、二羽のカラスは、ぎゃあ、ぎゃあ、と交互に鳴いて飛び跳ねながら移動する。どこかの童話のような展開だが、これも面白い。黙ってカラスの後に着いていけば、奴らは飛び跳ねながら、掃除の手も行き届いていないような隙間に身を投じた。そこは構造上、国王の寝室に一番近い場所。じっと目を凝らせば、地面には何かで蓋をした跡がある。意外と簡単に外れそうだった。 

「この先で愛人でも囲ってたら笑い話なんだけどなー……」

 地面に膝をつけ、木枠を外せばおあつらえむきの細い階段が長く地下に延びている。
 ぎゃあ、と鳴いたカラスは二羽とも何を思ったか俺の肩に止まった。うざいから降りろと払い除けてもまた止まるので最後には面倒になってそのままにしておいた。目突いたりしないならどうでもいい。
 こういう怪しい場所は探検するに限るだろう。後でなんだかんだと言われるのも面倒だから、木枠は内側からまたはめこんでおいた。暗くなっては足元が見えないかと思いきや、ご丁寧にランプが点いている。今点いているということはいつも点いているということか。誰かが毎日のように歩く場所なのだろう。長居すれば厄介に巻き込まれるかもしれない。
 カラスを肩に、長い階段を下りきり、そこからまた長い廊下を歩けば突き当たりにどうも頑丈そうな扉と黒い人影が見えた。まずい、と思ってもこの一本道では隠れる場所もない。

「……やっと来たか、遅ぇんだよガキが」

 こちらが様子を窺っているというのに相手はその砕けた口調で声を掛けてきた。黒いマントの影、間違いなく拓海だ。

「お前、ご主人様に向かってなんつー口の利き方だよ」
「遅ぇっつったら遅ぇんだよ。ここまで来るのに何年かかってんだ」
「お前と別れてから一日しか経ってねぇだろうが!」

 やれやれ、と相変わらず拓海はこちらを苛つかせる表情で扉に背中を預けた。
 拓海は、鍵の在り処で、と言った。ということは、この先が。

「この先にあの剣があると?」

 訊ねればやはり拓海は頷いた。

「この先だ。かなり大掛かりな結界が張られているようだが、まあてめェの馬鹿力と反魔力性ならその腰のザコ剣でも十分破壊できる」
「いちいち侮辱ワード挟むのどうにかなんねぇのかお前」
「将来のために慣れておいた方が為かと思ってな」
「国王様にんな無礼な口利く奴があるかよ」
「……それは失礼した、我が主」

 扉には鎖、そしてでかい鍵。そんなものはフェイクに過ぎないらしい。本当の意味でこの扉を閉じているものは結界とやらのようだが、もちろん俺には見えないし感じないからそれがどんなものなのかは全くわからない。

「……この地下、マメに出入りしてる奴がいるな。長居すると面倒だ」
「次期国王が無能となればマメに封印をかけ直すのも当然だろうな」

 この暴言は真に受けずにスルーすべきなんだろうな、うん。

「……ま、やることは早い方がいいだろ。今夜にでも忍び込むさ」

 俺が言えばカラスが相変わらずぎゃあと鳴き、目の前の拓海は目を細めた。

「本当に行くつもりか?」
「あぁ? 俺がここ入んねぇと、お前はお仕事になんねぇんじゃねぇのかよ」
「………」

 拓海が目を閉じた。何を考えてるのかは読めない。
 わかるのは、俺をこの先へ向かわせることへの躊躇。俺のことを心配しているようには見えないから、奴なりの事情があるのだろうとは思う。
 でも、俺は、信じるかどうかも決めていない存在の決心を待ってやることはできない。奴もそれを把握しているのか、目を開いた。

「分かった。……ならば今夜この先で待つ」
「扉の近くに立つなよ。馬鹿力で粉砕するからな」

 カラスが俺の言葉に反応するように、ぎゃあ、と鳴いた。
 拓海は口元を歪ませてどこか諦めたような笑みを作ったが、すぐにマントを翻して消えた。
 狭い通路に残されたのは俺と二羽のカラスだけだ。

「……戻るか」

 誰に言うでもなく呟けば、賢いカラスは揃って、ぎゃあ、と返事をした。


2009.09.14(Mon) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

あー

ポルノグラフィティの「この胸を、愛を射よ」が好きです。なんだあのタイムリーな曲は。
人間の紗央が死んだ後、その死体を見つけるシーンとか、ラストで紗央が消えるシーンをタっくん視点で、この曲BGMで書きたい。
倉木麻衣可愛すぎだろう。「わたしの、しらない、わたし。」すごい可愛くて好きなんですが。
エスプリークのCM流れる度にぼへーっとして見てます。可愛いなあ。MJ見ながら「可愛い……」とキョン状態になってました。


聖櫃戦争、大和視点でまた書き始めました。
「祈りに似て非なるもの」は「大和序」という副題がついていたので、今度のタイトルには「大和破」という副題をつけました。エヴァか。
今度は大和が剣を見つけて契約云々までのところかなあ、と思ってる。
大和は自分で体傷つけると剣の性能で傷が治らなくなるので、慎吾に負わされた傷が深くて瀕死くらいでいいんじゃないかな!(軽)
で、事前にタっくんにゲームのことは聞いてるから、俺が死んだら俺と契約しろってケレスさんに言えばいいと思ってます。ゲーム開始してから自分が実は生きてるってことを教えられたらいい。
タっくんは、黄金の所有者が変わるってことは紗央が死ぬってことだから、大和が本当に無能でゲームなんか参加できなきゃいいと思ってるだろうな。
書きたいシーンはたくさんあるんだけど力量に限界あるし、元々私ファンタジー向きじゃないし、みんなとの兼ね合いもあるっていうか、寧ろ点呼どんとか秋臼さんの見たいから一歩引くっていうか。
書き始めだからまだまだなんだけどね。


明日本返さなきゃ、と思ってたら返却期限25日だった。明日は本買いに行くし荷物増やしたくなかったんだよね。よかった。

2009.09.14(Mon) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

取りあえず



 それは一ヶ月前のことだった。
 たまたまあたしとルネの休みが合って、そこにルミやみのり、椿も加わって五人で集まろうということになった。男がいるとやかましいし、第一あいつら手に負えない馬鹿だし。女だけでゆっくりお茶するのもたまには必要よね、なんてルミとは話していた。
 そして集まったお茶会当日。話題の中心はほとんどみのり。一番恋人同士らしい付き合い方をしているだろう二人は、みのりの話を聞く限り、順風満帆そのものといった感じで、羨ましさなんて通り越して若干うざったく感じるくらいだ。楽しそうだからそれでいいんだけどね。円卓で、あたしの右隣に座るルミはアイスティー、あたしはカプチーノ、左隣のルネはブラックのコーヒーを飲んでいる。ちなみに椿はロイヤルミルクティー、件のみのりはキャラメル・ラテというラインナップ。

「なんか、あたしから手繋いであげたりするとものっすごい喜ぶんですよねー。単純、っていうかなんていうか」

 嬉しいのかそうじゃないのかよくわからない発言だ。それ以前に、あたしには経験がないからわかるはずのない話でもある。

「まあ、あたしたちは子供の頃からの付き合いだから、その程度で喜んだりとかってことはないけど。そうよねー、鳥尾ってそういう小さいことでも暑苦しいくらい喜びそう」

 そう言ったのはルミだ。
 確かに、ルミは大和の腕を引っ張ってどこかに連れて行くこともよくあるし、よく見かける。手を繋いでいる、なんてそんなシンプルなものはあまり見かけないけど、いつもくっついているのが当たり前の二人だから、それくらいのことで喜んだり沈んだりするレベルはとうに過ぎているのだろうと思う。ルミの言葉に、そうなんですよ暑苦しいんです、とみのりは嬉しそうに返す。あたしやケレスにはまったくもってご縁のない話だ。ケレスは冬二とはぜんぜんタイプが違うし、暑苦しいことをいちいち喜んでくれるような人間じゃないと思う。第一感情表現が薄いのよね、冬二ほど極端にしろっていうんじゃないけど、なんていうか、もうちょっと、あたしにわかりやすくしてほしい。大和とかシーマスと馬鹿笑いするところは見ても、それ以外じゃいつも眉間に皺寄せて新聞読んでるか本読んでるか、テレビはあんまり見ないし、流風にいたずらされて怒ったりしてるところは見ても、嬉しそうにしてるところとか楽しそうなところとか、そういえばあんまり見たことないかもしれない。……あんまり、っていうか、あたしの記憶の中じゃゼロなんじゃないだろうか。
 まあ、その辺は今は置いといて。みのりの春真っ盛りな話題についていくことにしよう。そう思ってカプチーノに口をつけると、ルミとみのりの発言を受けてルネが話し出した。

「鳥尾さんは普段受身になることが少なそうですからね。そういう男性は女性からのアクションを喜ぶのかもしれません」

 ……ふうん、ルネが言うと妙に説得力がある。

「そんなもんなんですかねー。あ、ルネさんも経験者?」
「ふふ、秘密です」
「えー、ずるいっ! 響さんがルネさんの大人な魅力に動揺してるとことかすっごい興味あるのにー!!」

 あの要が動揺するところなんて、それは確かに見てみたいかも。あたしも興味ある。
 要もあたしが見てる限りじゃケレスと同じように感情表現が薄そうだ。変に人間くさいところもあるけど、差し引きするとよくわからなくなるから置いておく。ルネは普段要のどういう表情見てるのかな、なんて一丁前に考えてみたりして。あたしがどんなに察してみようとしたところで、プライベートな部分なんて全然想像つかないんだけど。

「紗央様は普段ケレス様とどのように接してらっしゃるんですか?」

 そこであたしに話を振ってきたのは椿だった。純粋無垢なお嬢様だけに、この状態のあたしを輪に入れない可哀想な子とでも思ったのだろうか。一瞬カプチーノを吹き出しそうになってどうにか留まり、ナプキンで口元を拭えばみのりの視線も今度はあたしに移っていた。それは言うなれば、ええと、……水を得た魚、って言うのかしら?

「あ、あたしは別に、」

 そう、別に、だ。
 別に特別なことなんてしていない。いつも通りをしているだけ。いつも通りご飯作って、食べてもらって、一緒にいるだけ。
 ふううううん、とみのりとルミの嫌な視線がこちらに向く。椿とルネは変わらずにこにこしているだけだ。

「え、だってケレスさんってアメリカ人でしょ? 海外ドラマの恋愛描写ってどぎついの多いからなんとなくそういうイメージだったんですけど」
「全然違うわよ!! そういうのと一緒にしないで!」
「でも案外過激なくらいが好みだったりして?」
「え、えぇ!?」

 右隣のルミが突然そんなことを言い出して、あたしの動きは止まる。 
 正面に座るみのりはこちらに身を乗り出して、うんうん、と意味深に何度も頷いた。もう、何なのよ、意味わかんないっ!

「海外ドラマみたいな女も好みだけど、紗央さんも好き、天秤にかけて今は紗央さんをとってる、ってことかも」
「期待されてるのかもしれないですよ、紗央さんっ」
「ケレスのことだから、余計なこと言うとまた面倒になるかもしれないって黙ってるだけだったり?」
「今のままで十分満足してるのかもしれないけど、察してあげるのも女の力量ですよ!!」

 ルミとみのりが交互に捲し立てる。 
 そんなこと言われたって、海外ドラマなんかそもそもあいつ見てないわよ、多分。あれ? あいつにとっては日本のドラマの方が海外ドラマなの? ……よくわかんなくなってきた。
 助けを求めるためにルネを見たけれど、相変わらずの女神の微笑み。その上、

「可能性がゼロとは言い切れませんね」

 なんて言われたらあたしには返す言葉がない。
 ……確かに可能性がゼロってわけじゃないと思うし、……れ、恋愛、に、もうちょっと積極的な女が好きとか、あるのかもしれない。でもそうやって突き詰めて考えていったら、ケレスがあたしのどこを好きなのかとか、何で、どうして、ってたくさん疑問が湧いてくる。疑問っていうのは答えがわからないものだから、つまり、不安だ。疑問が浮かべばあたしの中に不安も蓄積されていく。うーん、と考え始めたあたしの肩を、ルミがぽんと軽く叩く。

「まあ、アレよ。試しにちょっと頑張ってみたら、びっくりしちゃうケレスが見れちゃったりするかもしれないし」

 う。

「……あ、あいつにそんな時間かけてあげられるほど暇じゃないのよ!」

 さっきのルネの言葉と相まって、びっくりするケレスはすごく見たいかもしれない。
 心と裏腹に叫ぶあたしに、みのりは「ちぇー」とふてくされた顔をし、ルミは「はいはい」と苦笑した。この見透かされてる感が悔しい。
 


 ……取りあえず、帰り道の途中で買い物ついでにDVDを借りてみた。




2009.09.12(Sat) | ご近所物語 | cm(0) | tb(0) |

花濡らす雨が来て 2



 ベッドの隅で毛布に包まって猫のように丸くなりながら、紗央は俺に背を向けたままぽつりぽつりと語り始めた。
 その言葉ひとつひとつ漏らさず聞いていたが、そのどれもを紗央が心から悔やんでいるということが痛いほどよくわかるから、迂闊には言葉を返すことができなかった。
 本当は小さな牧場の一人娘だったこと。料理が得意だということ。結婚を約束した相手がいたということ。結婚する前に子供を身ごもったこと。――妊娠が分かってから、恋人と会う回数が減っていったこと。臨月を迎える頃には相手の姿はどこにもなかったということ。そして、それだけの事実すべてを紗央の小さな体が受け入れきれなかったということ。

「……あたしは、新しい命のことなんて考えずに、自分が悲しむことを優先してしまった。悲しいなんて、苦しいなんて思う暇なかったはずなのに、あの子の方が、きっともっと苦しかったはずなのに、ずっと元気だったのに、あたしが殺してしまった……!」

 その子が無事に生まれていれば、きっと紗央はこんなところまで自分を追い詰めなくてもよかったのだろう。黄金を手にすることもなく、こんなところで俺に抱かれることもきっとなかった。両親のいる小さな牧場で、一人娘を大事に育てて、女手ひとつでも、自慢の料理を振舞って、一人前の人間に育て上げただろう。それを思うと悔やんでも悔やみきれないだろうと思う。臨月なら、無事に生まれていた可能性だって否定はできないのだ。それまでの時間、自分の体に抱えた命を殺したいだなんて、いくら悲しくても紗央は思っていなかっただろう。思っていたなら、こんなに悔やむことはない。 

「……子供のために死ねないのか」
「……自分のためにあの子を犠牲にしたのに、自殺なんかしたらあの子が可哀想で、そんなことできないんです」
「なら、真っ当に生きねぇのもおかしい話だろ」
「……あたしはもう、生きてる実感なんかいらない。罪を贖うために、ただ残された時間を務め上げることができれば、それでいいんです」

 将来を約束した男に裏切られ、子供を失い、それでもこいつはまだ二十にも満たない少女だ。二十年も生きていないくせにこれだけの経験をすれば生きることに嫌気が差してもおかしくはない。死にたいと懇願する紗央の声がまだ耳に残っている。紗央がその言葉を口にする度に、煩いと俺は口を塞いでやったわけだが。
 投げやりに生きることは許されない。でも、人生を楽しむわけにはいかない。ひとつの小さな命を殺してしまった罪悪感は、紗央の中からけして消えることはないのだろう。こんなガキのくせに考えることは一丁前で、俺には何も言えない。黄金がこいつにとって幸せを運ぶものとは限らないのだ。
 若いんだから、また新しくやり直せばいいと人は言うのだろう。俺もそう言ってやりたい。家を出たって、料理が好きなら料理のできる仕事について、やり直せばいい。また新しく恋をして、今度こそ信じられる相手を見つけて、家庭を持てばいい。過去のことと割り切れないのはきっと、心も体も削りすぎたからだろう。忘れるには、痛みが大きすぎる。だから多分、これから先生きていたってこの女は、誰かの「愛してる」という言葉を真剣に受け止めることなどできないのだ。紗央の中で信じられるのは自分の気持ちだけで、人の気持ちはみんな上辺だけのもの。信じられるのは自分の痛みだけ。他人だって自分と同じように生きているのに、他人は分からないから信用ならない。なんつー方程式だ。
 火の消えそうな暖炉に薪を入れ、シャツを羽織る。それから何か手持ち無沙汰な気がして机の上を見れば、――ああ、ここでの俺は喫煙者らしい、ご丁寧に煙草と燐寸が置いてあるのがわかった。その中の一本を銜えて火を点け、使った燐寸は暖炉の中に捨てる。

「で? お前はいくら欲しい」

 煙を吐き、紗央に声をかける。それからベッドの縁に腰掛けると、毛布のかたまりがもぞもぞと動いた。

「……それは拓海さんが決めると仰いました」
「参考までに」
「……必要ありません」
「生きてくのに金は必要だろ。どこで働くにしても、生きる気があるなら金は必要だ」
「……一日生き延びられればそれで十分です」
「料理好きの女が言う台詞じゃねぇな。時間かけて煮込む料理は苦手か?」

 問いかければ、毛布の端から青い瞳が見えて、ふるふると首を振っているのがわかる。
 
「なら、ここで作ってくれ」
「……? 何言ってるんですか?」
「俺は自分で作るのが苦手でな。道具もろくなもん揃ってねぇし、そいつを調達して、あとは食材だな」

 立ち上がり、灰皿に灰を落としてからまた煙草を銜え、金庫へ向かう。金庫の番号は俺しか知らないことになっているらしい。問題なく番号を合わせると鉄の扉が開く。その小さな鉄の箱の中から適当に札束を掴むと、紗央の元へ戻った。

「こんなもんでどうだ」

 紗央の顔のすぐ横にそいつを積んでやると、え、と毛布をしっかり体に引き寄せたまま紗央は起き上がった。
 これまで小さな牧場の一人娘だったというなら、こんな金額とは縁がなかったのだろう。少なくとも、一日汗だくになって働いてもこれだけの金を貰うことはないはずだ。

「だ、ダメです、違います、こんなの、」
「俺が決めた。お前が参考金額も教えてくれなかったからな。少ないか」
「違います! こんなの、ダメですよ、こんな価値、ありませんっ」
「ある。これがお前の一晩の価値だ。相手が相手ならもっと出すかもしれねぇな。お前みたいな上玉が一晩でも自分のものになるなら安いもんだろ」

 紗央の目が不安そうに揺れる。
 ――お前は少しくらい金の呪いにかかった方がいい。
 そして現世に執着すればいい。金に心を乱されて、儲けることに喜びを覚えるべきだ。たった一晩を男と過ごすだけでこれだけの金が手に入る。

「悪いこと言わねぇ、うちで働け。お前を他の店に取られるのは癪だ」

 俺がこいつを雇いたくなるのを承知で、神は俺をここに遣わしたのか。そりゃ滑稽な話だ。
 悲しく痛ましく、けれど美しい決意を持って生きる人間を見るのは面白い。紗央も多分、そういう部類の人間に入るはずだ。ただ、紗央の終着点は生き抜くことというよりも死に行くことにある。俺という存在は、紗央にどう干渉して、生きることに執着を持たせるか。これは一種のゲームだろう。

「金はまあ、お前くらいなら毎回この程度支払う。汚れ仕事がしたいなら店の仕事を勝手に引き受けりゃいい。一人なら料理振舞う相手もいねぇだろ、俺に振舞ってくれて構わんぞ」
「あ、……あたし、働くなんてひとことも、」
「体売るのには抵抗がある、か? 確かに商売道具だ。俺もお前を商品として見る。だが、商売だからこそ俺には商品を守る義務がある」

 これまでの所有者にはいなかったタイプで、女で、特殊な環境に俺も感化されているのかもしれない。

「……俺がお前を傷物になんかさせねぇよ」

 こういう類の言葉に、こいつはきっと心を動かさないとわかっているのに。
 照れなのか何なのかよく分からない感情に支配されて、結局俺は紗央の傍を離れ、椅子に腰掛けた。灰皿に短くなった煙草を押し付ける。

「……料理、食べてくれるんですか」

 紗央の声がぽつりと聞こえる。

「……あたし、いつも作りすぎちゃうんです、それでも、食べてくれるんですか?」

 ……とりあえず今は、こいつとしても人恋しいらしい。
 紗央が俺の主である限り、俺だけは何があっても傍にいなきゃならないんだが、それは言っても無駄だろう。こいつにとっては、手料理を食べてくれる誰かが近くにいれば、今はそれで十分なのだ。

「美味いモンならな」
「あたしのシチューは評判いいんですよ」
「そりゃ楽しみだ」

 俺の言葉に紗央が目を細める。――笑った顔は初めて拝んだな。 
 悲壮な覚悟をお持ちの紗央さんも、こうして見りゃただの少女だ。
 朝日が窓のガラスを通り抜けていく中、まどろみ始める少女の表情を俺はしばらく椅子から眺めていた。





2009.09.12(Sat) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

花濡らす雨が来て


 仕事のため、次に俺が呼び出されたのは雪の町だった。窓の外でしんしんと雪が降り続く。でかい机を前に、上等な椅子に腰掛ける自分はそれなりに上の身分の人間であることがわかる。部屋にはベッドやら台所やら、一通り生活できるレベルのものが揃っている。ということは、『俺』はここで生活することになるらしい。
 目の前の書類を眺め、ここがどこで俺は何をしている人間なのかを把握する。……売春宿の店主、これまでになかった居場所だ。ここに俺がいるということは、この近くに次の継承者がいるということだ。俺が現れて、一番最初に声をかけてきた相手が、次の所有者となる。
 取り合えず今日はこれで終いということにして、壁にかけてあった黒い厚手のコートを羽織ると俺は一度この建物を出ることにする。部屋を出ても誰もいない。広間に掛かっていた時計を見れば、夜明けには少し早いくらいの時間。従業員も皆帰ったということなのだろう。続いて扉を押し開け、雪の道に一歩踏み出す。もちろん、さっきいた部屋で俺は生活するのだから外に出てもすることなどないのだが、中に誰もいない以上外を歩かなければその人物とは出会えない。石畳に降る雪。それなりの厚さになったその道に足跡を残しながら歩く。あまり雪の町に呼び出されることはないから、どこか新鮮な気分だった。
 数歩歩いてから、視線に気づく。意識しなければ気づかなかった。その方向に目を向けると、柱の影に誰かいるらしい。俺が店から出てくるのをじっと見ていたのだろう。もしかしたらそいつが次の所有者なのかもしれない――そう思って俺は柱に近づく。雪を踏みしめて俺が近づけば、ずっと見ていたくせにそいつはビビって、ひゃ、と声を上げてしりもちをついた。声が高い。どうやら女のようだ。雪の地面に腰を落ち着けては寒いだろうと俺が声をかけるよりも早く、女が口を開いた。

「……あ、あの、あのお店の、人ですか」
「――――」
 
 そこで契約が成立する。俺がここに呼び出されて最初に声をかけてきた人物。次の黄金の所有者。俺はこいつが問題なく黄金を手にすることができるよう働かなければならない。それが売春宿の店主なんて、妙な話もあったものだ。
 雪の上に座り込む女を、俺は立ったままの視点からじっと眺める。見た目で年齢を推測するのは難しそうだが、おそらくまだ少女の域を出ないだろうと思う。腰まである長く黒い髪、白い肌、それから、あまりお目にかかることのない青い瞳。きつい目つきをしてはいるが、疲れているのかあまり覇気は感じられない。いろんなものを差し引きしても、十分美人といえる風貌をしている。しかし美人に似合わず髪はそこまで手入れしていないのか、ただ無造作にゆるく二つに結っているだけだし、靴はどこかで脱げたのか白いはずの素足が真っ赤になっているし、服にしてもボロ布を縫い合わせただけのようなものを着ている。もう少し気をつければ見違えるだろうに、と思わざるを得ない。

「……あの店の人間だが、何だ」

 女の問いかけに答えてやると、相手は目を見開いた。それから体勢を整えて、土下座の格好を作る。……おいおい、主に土下座されるシチュエーションなんてアリなのか?

「……もう死にたいんです、でもどうしても死ねないんです、死んじゃいけなくて、……けど、このままじゃあたし死んじゃう……!」

 そう言って雪に額を擦り付けるように頭を下げる女の布が体からずれる。この雪の中だというのに、彼女はこのボロ布一枚しか身に着けていないらしい。見える素肌にはいくつも傷や痣の痕がある。この光景を誰かが見たら、俺が女を酷使しているように見えるのだろうか。そりゃ心外だ。
 それにしたって、女の言うことは意味がわからない。彼女自身も混乱しているのか、要領を得ない。
 死にたいのに、死ねない、死んではならない、なのにこのままでは死んでしまうという。
 ――死ねない、と、死んではならない、はもしかすると同義なのかもしれないな。
 死にたいけど、死んではならない、でもこのままでは死んでしまう。
 最後の言葉は体の傷跡に関係しているだろうか。確かに、この見てくれの女が町や森をうろついていれば何が起きても不思議ではない。散々弄ばれた末に殺されるなんてことも十分考えられる。

「あたしを、そこに置いてください、お金なんか要らないんです、ただ、あたしを生かして、死ぬまで雑巾みたいに使ってください、床磨きでもなんでも、人が嫌がる仕事全部あたしにやらせてください、何にでも従います、どんな命令でも、あたしちゃんと従いますから、あたしを生かして、使ってください、お願いします……!」

 女は何度も「お願いします」と繰り返した。
 たまに俺の顔を見上げては、青い瞳に大粒の涙を湛え、俯いてまた頭を下げてはその涙を零した。

「……それは、自分じゃ死ねないから俺に殺してくれっつってんのか」

 俺がそう問いかけると、女は動きを止めた。
 女が死ぬためには、生きたという建前が欲しいのだ。何のためにそんなものを必要としているのかは知らない。だが、それは女にとって馬鹿みたいに大事なものなのだろう。
 嘘をつけないらしい女は、そういうことになるのかもしれません、と返した。

「……ここに来る途中の森で、何度も襲われました。最初はこれで死ぬならそれでもいい、手っ取り早いと思ってました、……けど、そんなんじゃ許してくれないんです、それじゃダメなんです、それじゃあたしは会えないんです……!!」

 会えない。
 何に?
 誰に?
 誰がお前を許さないというのか。
 少女の肩に雪が降り積もっていく。寒そうだ。
 契約は完了しているのだから、彼女の言うように店に置いてやればいい。その方が対象が近くにいてくれて俺も仕事がしやすい。これまでの俺なら面倒な方法なんてとらなかった。むしろ、こんなところで体調を崩されて万が一死なれたりする方が厄介だ。
 だが、――この女を、あの店に連れて行くのが適切なのかどうか、俺にもわからない。売春宿の店主、という役を与えられているのはあくまでも俺であって、彼女には何の役もない。彼女に『そこで働く娼婦』という役が与えられているとするなら、このまますぐに店に連れて行くのが正しいんだろう。しかし、黄金を継承させるのに不都合がなければいいんだから、わざわざ彼女をあの店で働かせる必要はない。最悪この町のどこかにいてくれればいいのだ。
 見てくれはともかく、こんなガキみたいな考え方する奴に娼婦なんて務まらないだろう、と思う。

「……雑巾がけだ靴磨きだ、そんな汚れ仕事だけやりてぇなら他あたれ。あれが何の店か分かんねぇわけじゃねぇだろ」
「わ、……わかってます」

 店の看板をちらりと見て、女は言う。
 男女問わず人間を雑巾のように扱って殺してくれる人間なんざこの町にだっているだろう。しかし、この女がそこに行ってみろ、娼婦と同じ仕事を本当に何の見返りもなくさせられるだけだ。早く死にたいから、汚れ仕事だけやりたいという気持ちは一応理解はしてやれる。理解はするが、すぐに死なれてはまたすぐに所有者が変わってしまう。そいつは面倒だ。

「あれは俺の店だ。分かっちゃいると思うが、売春宿、娼館って奴だな」
「……わかってます」
「うちで働きたいなら、華も汚れもいっぺんに背負ってもらう。そういう覚悟のある女でなきゃ雇えねぇ」
「あ、……あたしに、体を売れって言ってるんですか、あたしなんかお金にならないです」

 おいおい、お前の鏡は曇ってんのか? ちゃんと磨いて使えよ、鏡くらい。
 女は動揺したように雪をぐしゃりと握り締めた。

「あたしなんか、ずっと田舎にいた、使えない女です、誰かを満足させてあげることもできなかった、生かしてあげることもできなかった、本当に何も能がないんです、あたしみたいな女、床掃除に従事してるくらいがちょうどいいんです、日の光なんていらない、華になんかなれない、綺麗なものとは生きられないんです!!」

 もしかしたら、契約が完了した後でも、どうにかすればこいつを心変わりさせて町から出せるかもしれないと思った。
 黄金は奪い争いあって手にするものだった。噂を聞いた大国が争いあうこともあった。たまたま手にした旅人が仲間に無残に殺されたこともあった。黄金そのものに呪われた力はなくとも、人間の欲が勝手に呪いになってしまう。黄金というものそのものに、呪いを喚起する力があるんだろう。悲劇のヒロインのオーラを放つこの女に、これ以上の悲劇を背負わせたところで滑稽なだけだ。
 ――だが、こいつは本当に自分を汚い何かだと思っているようだから、それなら、最高の形で黄金を手にさせてやろうじゃないかと思う。
 この女に纏わりつく何か汚いものを、少しずつ剥がして、最後に鏡を見せてやりたい。その時この女がどれだけの華に化けるのか、楽しみでもある。

「お前は金になる。うちで働くなら間違いなく稼ぎ頭になる。うちじゃなくてもお前なら皆欲しがる」
「だからあたしはお金になんかなりません!!」
「なら最初に俺が買う」

 口走ってから、何を言い出すんだこの口は、と自分で呆れてしまった。主を買う従者がどこにいるってんだ。
 まあ、こいつを納得させるにはこの方法しかない。

「金は要らないとか言ってたが、見返りなく自分の身を削るほど馬鹿なことはない。報酬は支払う。だが、そんなに自分が金にならないというなら俺がお前の働きに見合う分だけ払う。その後のことはそれから決めろ。……とりあえず、お前の今晩を俺が買う」

 女はしばらく俺の顔を見ていた。俺も女の顔を見ていた。

「……使えない女だってわかったら、……汚れ仕事をさせてもらえるところを紹介してください」
「分かったよ。この町だろうが隣町だろうが選り取りみどりだ、好きなところに行きゃいい」

 その言葉でようやく女は納得したらしい。
 俺は彼女の目の前で両膝をついて、小さな肩に積もった雪を落としてやった。薄い布一枚を羽織っただけの体は冷え切っている。

「お前、名前は」

 自分の着ていたコートを女に羽織らせると、さお、と小さな声が聞こえた。

「……俺は拓海だ」

 一応この姿をとる時に使っている名前を告げると、紗央は、拓海さん、と繰り返して見せた。
 冷え切った足で立つこともままならない紗央を抱き上げる。さっきしりもちをついたときのように、ひゃ、と声があがったが、俺の首にしがみつくとそれ以上は騒がなかった。



 紗央の無茶苦茶な言葉の真意を知ったのは、明け方のことだった。




2009.09.11(Fri) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

詳しいことは放置
詳しいことを放置して黄金郷妄想をすると、もれなく魔ロキ状態になりますね!(爽)
ラグナロクは絶対に来るものと予知されてたけど、何時来るのかわからなくて、絶対に来るものの引き金を引いたのがロキだと思ってます。バルドルでもいいけどね。フリッグでもいいけどね。
フリッグが「ヤドリギとかまだ若いからお願いしなくてもいいかなと思って☆」とか言って死亡フラグ立てなければバルドル死ななくて済んだのに。おのれ許さんフリッグ……!(太子ボイス)
バルドルが死んだからアースガルズが混乱して、巨人達が攻めてくるきっかけになってしまった。ロキは元々巨人族だからとかまあそのへんは細かいしどうでもいいや!
紗央は猫にめっちゃ懐かれればいいんですね! なんかフルバの夾みたい!


それだけです。
いつ髪切りに行こうかなあ。


暇なので、旅行中に出たリベリオンの話をする。
書くかわかんないから追記で壮大なネタバレをメモ代わりに。

2009.09.10(Thu) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

こんなん私のテンションが上がる。



「にーちゃん、早く行こうよー!!」

 流風は大きな黒いランドセルを背負ったままドアの前でぴょんぴょん跳ねる。ランドセルの金属部分ががしゃがしゃと音をたてた。
 現時刻は七時半を少し過ぎた頃。黄色い帽子をかぶる流風は小学校二年生で、学校までの方向が同じケレスと途中まで一緒に登校している。もちろん、この時間に家を出るのは小学二年生にしては早すぎるくらいだし、教室についたところで友達はしばらく来ないことが多いのだが、流風は教科書を眺めたり、教室に保管されている本を読んだりすることが得意だし、家でも一人でいることが多いから特別それを寂しいと感じることはない。仲の良いお兄さんと登校する方が面白いに決まっているのだ。
 ケレスの家の前でしばらく待っていると、先歩いてろ、という声が聞こえた。小学生と登校なんて高校生のケレスにとっては面倒以外の何物でもないのだが、小学生の流風がそこまで察せるかといえばそれは当然否である。ケレスがすぐに追いつくだろうことはわかるのか、うん、と大きく返事をすると流風は先に道を歩き始める。何度も教えられているように道路は右側の白線の内側を歩く。
 角を曲がってしばらく歩くと、そこにも仲良くしてくれている家が並んでいる。ここから見て奥が鈴城家、手前が安藤家。鈴城家の姉妹は料理上手で、お菓子や料理を作っては届けてくれるし、流風がひとりでいることを知れば家に招いてくれる。安藤家の兄弟にしても同じで、何だかんだで兄弟も快く流風の相手をしてくれる。
 安藤家の前を通り過ぎたところで、鈴城家の扉が開いた。戸締りお願いね、とその人物が中に声をかけると、はーい、と小さな声が奥から響く。

「紗央ねーちゃん、おはよう!」

 流風が真っ先に声をかけると、その影が振り返る。長い黒髪に、綺麗なガラスのように青い瞳。目の青い人なんて、流風は紗央以外に見たことはない。

「おはよう、流風。あんた早いわね」
「うん! 教室で教科書読んで待ってる!」
「偉いのねー。あたしには絶対無理だわ」

 白いジャケットと揃いの白いスカートは、ここから割と近い女子高の制服だ。白い上下に紗央の黒髪はよく映える。
 紗央は屈んで流風と視線を合わせると、教科書を読むのだと笑う相手にため息をついた。それから、話題を逸らすように、あ、と声をあげる。

「流風、あんた今日誕生日じゃなかった?」

 その話題に流風が食いつかないわけがない。花の咲くような笑顔で、うんっ、と大きく頷く。
 
「じゃあ今日は家族でお祝い?」

 続いた言葉にはしゅんとしぼんでみせる。

「おとうさんもおかあさんも今日は忙しいんだって。ごめんね、って」
「そう……。残念ね」
「でも、今度の日曜日おやすみだからどっか連れてってくれるって!」

 取り合えず流風はそれで十分だった。両親がいないわけではないし、祝ってもらえないわけでもない。寧ろ隣に住むケレスの方が、父親とも母親とも離れているから可哀想、と思っているくらいだ。
 紗央はそっか、と頷いて流風の頭を優しく撫でる。

「じゃあ、今日はあたしがケーキ焼いてあげる。何のケーキが好き?」
「チョコ!!」
「分かったわ。夕飯の時間くらいには持っていくから、家で待っててね」
「うん、待ってる!」

 流風の返事ににこりと微笑むと、紗央は腕の時計をちらりと見る。それから少し眉間に皺を寄せた。高校生としてはこの時間は割りと遅めらしい。

「ごめんね、もう行かないと」
「紗央ねーちゃんも勉強がんばってね」
「努力するわ。あんたも頑張るのよ」

 手を振って紗央が早足で歩き出す。紗央の学校は流風の小学校とは反対の方向にあるらしい。つまりは流風が今通ってきた道を辿るようだ。流風も手を振ってその背を見送る。
 角を曲がるその瞬間、向こう側からやってきた人とぶつかりそうになっていたが、白い制服の影はすぐに曲がり角の向こうに消えた。紗央とぶつかりそうになっていた人影は相変わらずの人相の悪さで流風の立つ場所へ歩いてくる。

「歩いてろっつったろ」
「歩いてた! でも、えと、……あ、そうだ! にーちゃん!」

 追いついたかと思うとスタスタ先を歩くケレスに早足で付いていきながら、首を傾けてケレスの表情を窺う。

「何だよ」

 今度はケレスの声が上から降ってくる。

「俺っ、今日誕生日なんだ!」
「そりゃよかったな」
「でね、今日はおとーさんもおかーさんもいないけど、今度遊びに連れてってくれるんだ!」
「へー」
「だからにーちゃんの誕生日は俺がお祝いしてあげる!」
「お前、話繋がってねぇぞ」
「つながってるよ!」

 そんな他愛もない話をしながら、学校までの道を歩く。流風の早足は自然と弾んだものになっていた。






2009.09.10(Thu) | ご近所物語 | cm(0) | tb(0) |

限界、で、す、


CDの編集を終えた私が通りますよ……。撃沈しそう。
何故早く終わらせたい時に限ってトラブルが……。
去年の北海道旅行で確か3枚持ってったと思うんですが、少なかったよなあ、と思い、結果8枚というとんでもないことになりました。私死ねばいいのにwwww
そして大半がアニソン。歌じゃないものがたまに混じる。その上どのディスクに入ったか私にも分からないという悲劇。
本当は渚の家系図5連続とかで入れたかったけど無理だったよ……。機械のトラブルの前に人は無力です。
トラブルあったけど全部CDプレーヤーで再生できるの確認したので、あとはレンタカーで聞ければいいんですが。まあその辺は大丈夫でしょう。


明日早寝するために、土曜予定あるけど睡眠時間短めでいこうと思う。
用事から帰ってきたらそのまま旅行の準備して、ご飯食べて風呂入って寝る。そう首尾よくいくもんか!!(何)
私は朝何時に出ればいいんだろう……。6時半で間に合うのか? つーか起きられるのか?


点呼どんの質問にちゃんと答えてませんでした。
①聖櫃戦争の世界の人はまあ、日本人みたいなもんと考えたら楽でいいんじゃなかろうか。大和の国では特別に信仰を強制されているわけではないけど、禁止もされてない。信じたい人が信じればいいんじゃないだろうか。悪魔だろうが天使だろうが。
②これはさっき書いたけど、紗央は首飾り持ってます。大和が首飾りを手に入れることが決まっているので、大和の手に渡るまでは紗央が持ってないといけない。紗央の死体を誰かが見つけて首飾りを持って行くってこともナシで。


6時頃寝ようかな。それまでタっくん視点妄想してくる。
明日地図印刷しなきゃ……。運転する人は本人確認書類忘れないように、ってここで言っても仕方ないんだが。

2009.09.05(Sat) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

罪の詰まった蜜



 その日、私は父に呼び出された。


「……王子が城を出た? 騎士団の遠征以外では戯れに城下に出る程度と聞いていますけれど」
「その筋に詳しい者の話によれば、国王の老齢化とともに封印もだいぶ弱まっているということだ」
「……ついに己の無能さに気がついたということでしょうか」

 父の話は、王子が城を出たらしいという話だった。そこからまず北の町へ向かったらしい。今の王子は騎士団を率いる将軍。あの国の中で戦力となっているのは御前試合を勝ち抜いて騎士団に入団したほんの一握りの人と、騎士団を率いて将軍となっている王子だけだ。その国防の要が城を出たということは、余程のことがあったと考えていいはず。元々暴れたいだけの男だろうとは思っているが、これまでの王族にない武の力を持っていることは確かだし、あの男が暴れるだけでも攻撃を仕掛けるこちら側にとってみればかなり厄介な存在。これで今あの国には一握りの精鋭と、使えない烏合の衆が残されているだけということになる。
 大きな机、その向こうにいる父は実に愉快そうだった。長い歴史を覆す時が近い。

「あの王子に剣の封印を継続させる力はないぞ、奈央。そしてこちらにはお前という切り札がある。次に国を治めるのは間違いなく我々だ」
「ですが、王子が王族であることは疑えません。封印を行える可能性も否定はできないと思います」
「自分の力で封印が行えるなら町を駆け巡る必要はあるまい。王子は城に代々伝わる悪魔の伝承さえ隠されていたと聞く。国王め、息子を見限るとは大したものだ」

 父はそう言って豪快に笑う。
 国王が息子を見限った、ということは、国を捨てる覚悟も同じだ。こちらと血が混じっていることを公にされるくらいなら、封印の解けた悪魔に国を滅ぼされる方が威厳を守れると考えたのだろう。確かに、長く争ったこちらと血が混じっていることが国民に知れれば国を揺るがす事態になることは必至。打開には次期国王に封印を継続させるしかないけれど、国王と正式に承認されるには国王と正妻との子供である必要がある。性別は問わないが、とにかく正妻との子供だ。その正妻は、例の王子を産んでしばらくして亡くなり、新しい候補者は永遠に現れない。これまで産後の肥立ちが悪く、亡くなった王妃もいたということだが、生まれた子供は全員王位を無事継承している。つまり、異常事態は初めてなのだ。前例がないから、後妻を立てるという考えもなかったのだろう。あったのかもしれないが、後妻を立ててから子供を産ませ、育てるには例の王子が育ちすぎてしまう。それで国を捨てる覚悟をしたというなら、剣に悪魔を封印した時の王と同じくらいの英断と言えるだろう。私は鼻で笑ってやりたいが。

「……そうですね、私がいる限り、私たちが負けることは有り得ません。王子の暴力には屈しませんから」

 見限られた王子がいる。
 その逆の立場の私がいる。男系が生まれ続けたこの家で、ひとりだけ女として生まれた私。その上ひとりだけ魔術の適性を持っている、私。
 私だって父や祖父と同じように、剣を振るって戦いたいのに。自分の腕の力で、迫害の歴史に終止符を打ちたいのに、それは叶わない。王子と違って私は必要とされているだけいいのだろう。城にあの王子という存在があることが、混血の証明となってしまうように、こちらに私がいることも混血の証明になる。私がいる限り、いくら王子を見限ったところで終わりは無い。
 ――その日までにゲームが始まらなければ、の話だけれど。






「おかえりなさいませ、奈央お嬢様」

 一通り話を聞かされ、父の結論は「しばらく様子見だ」とのことで。疲れた耳と一緒に部屋に戻ると、流風くんが出迎えてくれた。
 流風くんは私のお世話をしてくれるけれど、家の中はあまり歩かせないことにしている。庭を散歩する時、テラスでお茶を飲む時以外はほとんど私の部屋にいてもらうことにしている。私は、ゲームへの参加を決めてもまだ、彼に事実を告げるのが怖いのだ。すべてを捨てる決意を私がしていたところで、彼には理解してもらえない。ゲームで優勝する以外に、私が許してもらえる道は、きっとない。いつか始まるゲームで彼を勝利に導いて、その特典として彼の願いが叶ったその時初めて私は戦狂いの姫君と付けられたその名で私の一生を終えることができると思うから。

「お父上は、どんなお話で?」
「うーん、長くてつまんなかったから忘れちゃった」
「これだけ大きなお屋敷のお嬢様なんですから、大変な用事なのでしょうね」

 大事な用。
 そうだろうか。
 祖父を殺された頃までは、私にとっても大事なことだったけれど、今はどうだろう?
 あの王子のギラギラした瞳に、同じように対抗したいとは少しも思わない。
 もちろん神様も信じているけれど、……単に王子の相手をするのが面倒になってきただけなのかもしれない。戦いたいのならお生憎様だ。私はこれから、命をかけなければならないから、貴方の相手をしている暇はないの。

「そうだ、流風くんの淹れたお茶が飲みたいなっ」
「はい、そろそろお戻りになられるかと思って用意させていただきました」
「わ、すごい。ちょうどよかったんだ」

 部屋を突っ切り、バルコニーへ出る。見晴らしの良いその場所にもテーブルが置いてある。流風くんが引いてくれた椅子に腰掛けて、お茶が出されるのを待つ。
 私はこうしてお嬢様気取り。本当のことを知ったら、この景色さえ流風くんは消したいと願ってしまうんだろう。でも、覚えていたい。私は楽しいの。こうして一緒にお茶を楽しめることが、私は楽しい。

「どうぞ、お召し上がりください」
「ありがとう」

 カップからはふわりと爽やかな柑橘系の香りがする。流風くんはいつの間にかフレーバーティーも覚えたみたいだ。

「書庫に紅茶の本なんてあったの?」

 私が訊ねると、流風くんは、え、とちょっとうろたえる。

「あ、……やっぱりお嬢様には見抜かれてしまいましたか」
「流風くんの淹れてくれる紅茶だもん。違いくらい分かるよ」
「書庫にそんな本がありましたので、読ませていただきました。あとは執事長さんにお願いして」

 私の部屋の隣には書庫がついている。幼い頃はそこに閉じ込められてひたすら歴史を頭に叩き込まれた。
 流風くんは最初文字もまともに読めなかったけれど、文字を覚えてからが驚くほど早かった。私が外出している時は部屋から出られないから、ずっと書庫に篭って本を読んでいるのだという。好き嫌いなく片っ端から読むから、歴史の知識は私に劣らないと思うし、家庭教師の先生が来る直前なんかは私が勉強を教えられているくらい。飲み込みが早いんだろう。お茶の淹れ方も最初となんか比べられないほどずっと上手になったし、他の執事やメイドさんよりも流風くんの方が上手いんじゃないかな、と思っちゃうくらい。これは単に贔屓かもしれないけど。
 カップに口をつければよくわかる。やっぱり流風くん、上手になったなあ。

「すごくおいしい。ありがとう」
「ありがとうございます。俺みたいな素人の淹れたものを褒めてくださって」
「ううん、素人かそうじゃないかなんて関係ないよ。流風くんが頑張って勉強してくれて、こうしてお茶も淹れてくれるの、あたしには伝わるもん」
「……そりゃあ、お嬢様のためですから、俺もみっともないことはできません」

 流風くんはそう真剣な顔で言ってくれる。私は嬉しくなる。
 私の側に立ったままの流風くんを見上げて、私は笑いかける。

「流風くんも座って。一緒にお茶しよう?」

 こう言えば、流風くんは絶対断る。

「いけません。俺はお嬢様にお仕えする身ですから、」
「あたしの話し相手になってほしいの。お仕事だよ?」
 
 そう言えば、流風くんは絶対断れない。
 私ってなんだか卑怯だ。でもそういう手を使わないといけないくらい、流風くんが頑固だってことも知ってる。

「……それでは、失礼致します」

 流風くんが私の目の前の席に座る。
 私は流風くんのために、新しくお茶を淹れてあげる。私は普段淹れてもらってばかりだから、流風くんほど上手く淹れられないと思うけど。
 流風くんの頑張りが私に伝わるみたいに、私の気持ちも流風くんに伝わってくれたらいいなあ。

「――今日は風が気持ちいいですね」

 その声に私は頷いて、ポットから紅茶を注ぐ。
 ふわりとやわらかい風に乗って爽やかな紅茶の香り。

「明日も明後日もずっとこういう日だったらいいのに」
「そうですね」

 ずっと、ずっと、こういう日だったらいいのに。終わりなんて、始まりなんて、永遠に来なければいいのに。
 陳腐な言葉だけれど、この時間が止まってしまえばいいのに、と思う。
 流風くんにカップを差し出して、庭の緑を眺める。
 いつゲームが始まるのか、いつ終わるのか、王国が倒れるのが先なのか、どうなのか。私にはわからない。

「……次は違う香りのも飲んでみたいな」

 今が幸せであるほどに悲しく感じてしまう。

「勉強しておきますね」

 優しい声に泣きたくなってしまう私の気持ちに、いつ気づいてくれるだろう。
 



2009.09.05(Sat) | 聖櫃戦争 | cm(0) | tb(0) |

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