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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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賽は投げられた
『聞いた? A組の水城、新しい彼女できたらしいよ』
『どうせまた別の学校の子なんでしょー? 毎回すっごい噂になるよねえ』
『それがさあ、今付き合ってるのはうちの学校の女子なんだって』
『ほんとに? 水城と付き合えるほどかわいい子なんてそんなにいたっけ?』
『聞いた話なんだけど、罰ゲームらしいよー』
『うわー、やっぱ顔がアレだとやることえげつないなあ。彼女かわいそー』

 放課後、そんな雑音ばかりの廊下をかつかつと歩く。ざわざわとやかましい奴らは俺が歩けばさっと道を開けてくれる。そいつはありがたいが、それよりもその雑音をどうにかしてほしい。
 俺はこの学校の女子と付き合っちゃいけねえのかっつんだよ、しかもそんな可愛い子としか付き合えないってどんだけ俺のハードル上げてくれてんだよこいつら。
 つーか。つーか、つーか、つーか!!

(どこで飛躍してんだその噂ッ、告ったの俺だし、第一罰ゲームじゃねぇし!!!!)

 罰ゲーム罰ゲームと言われているのが腹が立つ。確かにきっかけは罰ゲームで間違ってはいないが、俺の罰ゲームではなかったし、落ち着いた時俺は心底ほっとしたんだ。それがこのザマだ、ほんと、あいつにも申し訳ないことしてると思う。後で謝んないとな、心にもないこと言われてるだろうし。
 食堂の隅にある丸テーブル。そこに腰かけて本を開く女生徒。腰近くまである長い髪はこげ茶色に染められ、綺麗に波打っている。前髪は、最近長めだ。ピンで留めるからそんなに気にならないのだと言っていた。眼鏡は最近たまにかけるのだという。度はあまり強くないらしいから、ファッションの一部でもあるんだろう。前髪を軽く留めるピンと同じ、クリアレッドの縁の眼鏡。レンズの向こうに見えるまつ毛は、実は結構長い。
 彼女は目を伏せて、静かに本を読んでいた。本っつっても、多分参考書か教科書か何かだ。更に近づけばわかる、それは古文の参考書だった。ま、文系だしな。

「お待たせ、葉山」

 言いながら目の前に腰を下ろすと、「わ」と声を上げて葉山は頭を上げる。それから慌てて髪を手櫛で整え始めた。

「は、早いね! 水城のことだからもっとかかると思ってたっ」
「そう思われてんだろうなと思って早めに切り上げた。あんま待たせんのも悪いし」
「気にしなくてよかったのに」
「いーの。聞き始めたらキリないんだ。これくらいがちょうどいいよ、せんせーもやっと解放されたー、って顔してたし」
「それは想像つくかも」
「勉強熱心な生徒への態度としちゃ適切じゃないよなあ」
「水城のは生徒のレベル超えちゃってるの。自覚ナシ?」

 ぷっと吹き出す葉山につられて、俺も笑う。なんつーか、こう、友達の延長で付き合ってるって感覚はこれまで経験したことがないものだったので、新鮮でもあるし、ものすごく居心地もいい。もっとも、今のところこの状況に落ち着いているのは俺だけなんだろう。葉山は俺と付き合ってるって周りに知られてから、いろいろ陰で言われてるみたいだ。俺が納得できる理由は、今んとこ、聞いたことないけど。
 そんなことを思いながら、目で葉山を追っていた。視線に気づいたらしい葉山は、照れたのか参考書で顔を半分隠すと、「なに?」と小さな声で聞いてくる。

「んーん、なんにも。用意できたら、行こ?」

 なんですか、俺ってこんな優しい声出んのな。って、自分でちょっとだけ意外に思ったりしている。 




 試験前で英語が不安だと葉山が言った。
 それなら見てやるよと言ったのは俺だ。
 ついでだったので、親いないしうちに来る? と言ったのも俺だ。
 学校より自分の部屋の方が落ち着く、という意味でその時は言ったのだが、俺の言葉を聞いた時の葉山はひどく驚いていて、きょろきょろ周りを見て、話しかけられているのが自分だけであると十分に確認した上で、更に悩んでいた。付き合い始めて一か月弱、あれって結構爆弾だったのか、と気づいたのはその日寝ようと部屋の電気を消した瞬間だった。
 学校の正門を出て、坂を下る。右隣に葉山。別に珍しくもない構図だけど、見え方が今までと違うのは確かだった。

「水城のおうちって学校から近いんだ」
「近いよ。歩いて通えるし」
「野島くんは遠いのによく頑張るよねー」
「……ほんと、だよな。片道二時間近く掛かんのに朝練とかさ。よく留年しないでこの学校のレベルについてってるなと思う」

 道中の会話はくだらない。A組のこと、C組のこと、授業のこと、先生のこと、部活のこと。いつも通りってやつだ。付き合い始めたからって学生同士だし、急に会話が甘くなるなんてことはない。だからたまに意識が希薄になる。不安とか、そういうんじゃなくて、どこからが現実なのか、よくわからなくなる。
 本当は何度だって確認したい。電話でもメールでも、直接でも、俺のこと好き? って問いかけて、うん、って笑って返して欲しい。それが女々しいことで葉山に対して失礼なことだってわかるから押し殺すけど、そういう感情はゼロじゃない。葉山は、堂々とした奴だから。全部を普通に頑張ってるから、そこが俺にはすげえきらきらして見える。平凡かもしれないけど、それを恥じることも特別に誇ることもない。自分であることに堂々としている。
 ローファーの底がアスファルトを叩く。その音が、二人分響く。別段近くもなく、遠くもない距離。これでいいのか、俺。

(いいわけねぇだろ、俺だって普通に男子高校生だっつの)

 不安なのかと聞かれたら首を横に振る。じゃあどうしてここから動けないのか。俺はやっぱり負い目があるのか。でも俺は、正面からきちんと勝負したはずだ。それは間違ってない。絶対に、間違ってなんかいない。俺は、先手を打っただけだ。
 ……不安なんじゃない。ただ緊張しているだけだ。先手を打てても、あいつはきっと追ってくる。あいつがそういう奴だって、一番よく知ってるのはほかの誰でもなく、俺じゃないか。

「水城?」

 まだ見慣れない眼鏡姿の葉山が、目をきょとんと丸くさせて俺を見上げる。うん、いいんだ、こんなもやもやは、よくあることだ、そうだろ?

「なに見てんの。そんなに俺かっこいい?」
「ぷ、なにそれ」
「てっきり見惚れてるのかと思って」
「否定はしないでおくよ。物憂げな感じも変に似合うからね、水城」
「それこそなんだよ。わけわかんねえ」

 ――きっかけは、本当に些細なことだった。
 ヤマトの家の離れで、俺とヤマトと慎吾と都筑とで集まってポーカーで一勝負。ビリが一位の言うことを何でも聞く、っていうよくある罰ゲームを設定して、いざスタート。ポーカーフェイスなんて気取れるはずもなく、ルールにもギャンブルにも疎いシンゴが負けるのなんてほとんどわかりきった話で、勝てると信じてたのは当の本人くらいなもんだった。俺は知らなかったが、ヤマトと都筑はどうやら慎吾を負けさせるべく手を組んでいたらしく、一位はヤマトだった。
 勝者たるヤマトが敗者である慎吾に命じたのは、『3-Cの葉山ルミに告白してくること』だった。
 ……そんなの、罰ゲームでもなんでもない。慎吾の背中を押しているにすぎなかった。慎吾が葉山に好意を寄せているであろうことは、俺だって知っていた。どうやら球技大会の関連で何度かパスの時やドリブルのフォームをチェックしたことがあったらしい。葉山センパイ、いいっスよね。やわらかな表情と声で、慎吾は俺にそう言ったことがあった。わかりやすい慎吾のことだから、クラスメイトの都筑に相談することもあったのかもしれない。都筑が面白がってヤマトに報告をしたのかもしれない。ヤマトと都筑からすれば、成功しても失敗しても笑い話のネタくらいにしかならないが、俺は、どうしてもそうはいかなかった。
 越されてはならない、と。慎吾が先に口にすれば、それはきっと成就してしまうから。
 知っているんだ、葉山に今彼氏がいないこと。野島くんって大型犬みたい、一緒にいたら絶対飽きないよね。と楽しそうに話していたこと。
 越されてはならない。俺にはわかる。慎吾は“必ず掴む”男だ。だから、先を越されることだけは、あってはならない。いつから慎吾が葉山を見ていたのかは、正確なところまではわからないけれど、それでも俺の方が長く葉山を見てきた。今まで見ているだけでよかったはずなのに、慎吾の顔がちらついた瞬間に、手元に置かなければと心が焦りだす。
 葉山に俺から告白したのは、その日、ヤマトの屋敷から帰る途中だった。合唱部の練習で遅くまで残っていた葉山と、校門でばったり遭遇したのだ。幸いなことに慎吾は妹からの電話があって一足早く帰宅していた。焦りと、嫉妬、いろんな感情がごちゃごちゃになる。見ているだけでよかった、その頃の純粋な気持ちを見失う程度には追い詰められていた。

 ――なあ葉山、俺と付き合わない?

 その時の俺の声は、どうだっただろう。震えていただろうか、真っ直ぐ通っていただろうか。

 ――遊びなんかじゃなくて、マジで。

 その時の葉山の顔は、暗がりでよく見えなくて、けど、「あたしなんかでいいの?」という小さな声は確かに聞こえた。
 葉山がいい。お前じゃなきゃ嫌だ。言葉にしようとすればするほどこんがらがる気持ちを、俺はどう伝えたんだろう。余程焦っていたのか、その頃の記憶はひどくおぼろげだ。
 これが最善のはずなのに、胸につっかえるこの気持ちはなんだろう。どうして、隣にいるはずの、一番大事な人に距離を感じるんだろう。




 あれから慎吾とはなんとなく顔を合わせづらくて、部活に顔を出すのも気が引けていた。俺と葉山が付き合うってなった時、「横取りたぁ大人気ないねぇ」と言ったのはヤマトだけだった。俺はその言葉に反論することも肯定することもできなかった。答えなんて出なかった。

『……軽蔑するか?』

 ただそれだけ問いかければ、ヤマトはゆっくりと首を横に振った。

『別に。いーんじゃね? 葉山がOK出したんなら、野島が無駄に傷つくこともなかったってことだろ。特別好きな奴いないのに相手が水城だからって理由だけでOKするような奴じゃないしな、あいつ』

 ヤマトの言葉に俺は頷いた。葉山がこれでいいと言った。俺を選んでくれた。なのに、ヤマトの言葉が真実だと思いたいのに、毎日ゆっくり押しつぶされるような感覚に襲われる。俺は葉山の普通の女の子なところが気に入っていて、好きで、でも、普通の女の子って、どういうことなんだろう。
 焦りすぎて、不安が募って、目の前の理由すらも見えなくなる。

「水城、どうしたの?」

 不意に声をかけられる。はっとして声の方を向けば、困った顔の葉山がそこにいた。ここは俺の部屋だ。小さなテーブルに参考書を広げ、二人並んで床に腰を落ち着けている。ああ、そうだ。葉山の勉強、見てやるんだった。

「わかんないとこに出くわした?」
「んー、この問題集くらいなら平気そう。水城は、……これくらいなら当然だよね」
「まあな」
 
 葉山は、俺が普段何をして、どうしているから今があるのか知っている数少ない相手だ。バスケも、勉強も、俺が人並み以上に練習だったり復習だったりしているのを知っている。だから俺は安心する。葉山の前では楽な自分でいられる。
 でも、まだ葉山だって知らないこともあるだろう。たとえば、どれだけの努力をしても俺が自信を持てないということとか。今もそうして、慎吾がいつかお前をかっさらうんじゃないかと気が気じゃないこととか。俺だって知らなかった、自分がここまで女々しくて弱くて、こんなにも独占欲強い人間だったなんて。

「……今まで怖くて聞けなかったんだけど、」

 葉山がそう切り出す。精一杯明るく振る舞おうとしているが、声のトーンは明らかに落ちていて、覇気がない。
 ちらりと俺の目を見てから、ふいと視線を逸らす。

「……やっぱり、罰ゲーム、なの?」

 ぽつりと呟かれた言葉に戦慄する。
 罰ゲーム。何が。俺とお前が付き合っていることが? 俺がお前に告白したことが?
 葉山は、しっかりしている。堂々としている。本当のことしか受け入れない。そういう奴だ。
 でも、もしかしたら、俺が思うよりずっとずっと繊細で、心無い奴らの陰口にも人一倍耳を澄まして、そして傷ついたのかもしれない。
 ちがう、と大きな声で言おうとしたのに何故か声は掠れて床に落ちた。更に葉山が続ける。

「あたしはいいの。もしこれが水城の罰ゲームなんだとしても、水城と付き合えるなんて普通の子じゃできないもん。ちょっと卑怯だけど、水城と付き合えるなら、って、あたしはそう思ってるんだよ」

 でも、と葉山は笑った。

「でも、水城はそういうの、気にしちゃうじゃない。フェアとかアンフェアとか、人一倍気にしちゃうの、わかるから。……だから、最近様子おかしかったのかなって」 

 それは俺が考えてもいなかった言葉だった。俺は、これが罰ゲームでもたらされた結果でないことを知っているから。だから、俺はその陰口については葉山に申し訳ないと思うだけで特別気にすることはない。けれど、葉山の理解する“水城 流風”があまりにも正しくて、驚いた。そのことをずっと気にしていてくれたことは、素直に嬉しいと感じる。
 俺が気にしているのは、そんなことじゃない。他の誰の陰口でも気にしないで過ごすことはできるけれど、俺にとって、この存在は大きすぎて、未知数で、だからこそ恐怖感が拭えない。
 俺は葉山が普通の女の子だから、好ましく感じる。けど、普通ってどんなんだ?

「………葉山、もし、……俺がお前に告白したあの日、俺より前に、割と一緒にいて楽しいと思える男子から告白されてたら、どうした?」

 普通の女の子だから、もしそんな状況になったら、きっと葉山は、慎吾を選んだだろうと思う。それは、葉山が“普通の女の子”だからだ。これは葉山を馬鹿にしてるのでも、俺の自惚れなんかでもなく、葉山にとって俺は、そういう意味での普通とはかけ離れたところにいる。それを俺が自覚しているから、わかることだ。

「……なんで、そんな話するの?」
「そうなってたかもしれないから。……少しでも遅れたら俺に勝ち目ないってわかってたから、先手打った。負けんの嫌いだから、そうした」

 負けたくなかった。慎吾にだけは、負けたくなかった。
 どう言葉にしたって伝わらないだろうけれど、俺にはその事実を口にすることしかできない。

「葉山がそいつと付き合ったら、って思ったら、黙ってなんていられなかったんだ」

 俺と目が合って、それからすぐ逸らされた。視線のやり場がないみたいで、軽く俯いたその顔はほんのりと赤く染まっている。俺がそうさせてる。俺の言葉で、動揺してる。それを間近で見られるのが嬉しい。

「……罰ゲームなんかじゃないよ、葉山。俺が、葉山のこと好きだから、言いたくて言った。それだけなんだから、もっと堂々としてなきゃダメだ、俺たち」

 堂々としていなきゃ、ダメだ。そうじゃなきゃ、俺はまだ不安だから。もっと自分に自信を持たなきゃダメだ。それと、もっともっと葉山に好きでいてもらえる努力をしなきゃダメだ。
 気持ちだけじゃダメなんだ、慎吾は“必ず掴む”から。慎吾はいろんなものを引き寄せる力を持ってる。そういう奴だ、って俺は知ってる。
 知ってるからこそ、俺にできることは自信持って堂々としていること。堂々と葉山を好きでいることしか、できない。
 葉山は俺の言葉にぷっと吹き出して、軽く眼鏡の下の目じりを拭った。涙のようだった。

「よもや水城大先生に好きって言ってもらえる日が来るとは。生きててよかったぁ」
「なんだよそれ。茶化してんの?」
「ちがうちがう。……嬉しいんだよ、すっごく」
「本当かねえ」
「拗ねないでよ、もう」

 葉山が軽く俺の肩を叩く。その手に触れる。驚いたらしい葉山は一瞬だけ指先をこわばらせた。軽くきゅっと握ると、すぐに緊張を解いてくれる。
 えへへ、と少し照れくさそうに笑うその表情を、俺はすごくかわいいと思うし、見ていてほっとする。俺、安心してんだな。っていうのがすぐにわかる。葉山はそういう空気を持ってる。隣にいることに、少しの違和感も覚えさせないような、そんな空気。

(――俺は、)

 葉山の額に唇を寄せて、それから、額と額を合わせる。自然と視線が合う。まだ見慣れない眼鏡の向こうの瞳が、俺を捉えているのがわかる。瞳が少し戸惑って揺れて、それから、力を抜いて瞼をゆっくりと閉じた。

(――俺は、負けないからな、慎吾)

 本当に触れるだけのキスで、この上なく満足してしまった自分に気づいた。これが優越感という奴なのかと納得した。





 日が暮れて、葉山を駅まで送り届け、歩いて自宅へ戻る途中、会いたくない奴に会ってしまった。
 校名入りのでかいスポーツバッグを肩にかけた、ごつい男子高校生。俺のよく知る男、たぶん、俺の一生のライバル。慎吾。
 慎吾はこれから駅へ向かって帰るらしく、相変わらずきっちり制服を着こんで道を歩いていた。

「あ、……流風先輩」

 いつも俺を呼んでいた時のトーンとはまるで違う声。慎吾はバッグを肩に掛け直して、俺に軽く会釈した。

「よう、今帰りか?」
「はい。生徒会ちょっと長引いて、その後部活顔出して。……先輩、は」
「……今、彼女駅まで送ったとこ」
「そう、ですか」

 慎吾は少しだけ困ったような表情をするだけで、俺がわざわざ“彼女”と言ったことに言及するつもりはないらしかった。
 本当は悔しいんじゃないのかよ。なんで、どうして、って、思ってんじゃねえのかよ。
 慎吾は何も口にしない。勝手に飲みこんで、勝手に消化して、勝手に乗り越えてしまう。そういう奴だ。

「先輩」

 慎吾が口を開く。
 慎吾の目は、いつだって真っ直ぐだ。(俺はそれが怖い)

「俺、葉山センパイのこと、好きでした」

 心が、ざわつく。
 今ここに葉山がいたら、なんて言うんだろう。どう、思うんだろう。それでも俺を選んでくれるんだろうか。
 俺はいつだって、自信がない。

「まっすぐで、頑張り屋で、すごくできるわけでもなくて、でもできないわけでもなくて、だからこそいつも一生懸命で、そういうところが可愛くて、俺、そんな葉山センパイが好きでした」

 慎吾は言う。はっきり言う。
 慎吾は、いつだって自分に自信を持っている。

「ヤマト先輩が俺に罰ゲーム言った時の流風先輩の顔、すごかったんですよ。世界の終わりみたいな表情でしたから、……そうなのかもな、とは、思ってたんですけど。先手打たれたんだな、って、その時は思いました」

 世界の終わり。そうだ、それが正しい。
 お前にだけは、先を行かれちゃいけない。そう思った。先を許したら、俺に勝ち目はないと。

「葉山センパイが流風先輩と付き合うって聞いて、諦めなきゃって思いました。悔しいけど、流風先輩が相手なら仕方ない、諦めなきゃ、諦めなきゃ、って。……でも、ダメです俺」

 予想はしていた。きっと慎吾ならこう言うだろうと。
 怖いけれど、そうやってぶつからなければ、俺たちは互いを打ち負かしたことになんてならないだろうから。

「俺、相手が流風先輩だったからって理由で諦めることだけはしたくない。俺は先輩を追っかけてここまできました。だから、ここまできたら追い越したい。俺たちがぶつかるあらゆるもので、俺が先輩と対等に張り合えるものなら、なんだって俺は勝ちたい。負けたくない!」

 慎吾だから、やっぱりそう言った。言わせたことに後悔もしている。
 俺はいつだって、自信がないんだ。だから慎吾がいつも、羨ましい。
 でも、ここで受けなきゃ男じゃないだろ。自信がなくても、自分の気持ちが本物かどうかくらい、わかる。

「――俺だって、お前に負けるわけにはいかない」

 慎吾の目を見て、言う。慎吾の目はいつだって真っ直ぐだ。俺は、そうじゃないかもしれない。分かっているからこれからは真っ直ぐであるべきなんだと、そう思う。
 誰にだって譲れないものがある。慎吾は、俺の絶対に譲れないものを脅かす。
 だから怖い。だから構えてしまう。でも、ゆずれない。どうしたって譲ってなんてやれない。
 “水城 流風”のカタチとして揃えてきた、勉強やスポーツのスキル。それだって俺は充分努力して掴んできたものだと思う。ただ、葉山は違うから。パーフェクトを形作るために必要としている存在じゃないから。
 俺が、俺の中身を保つために必要なひとだから。
 
「つーか、負けねぇし」



 負けられない。ゆずれない。負けたくない。ゆずりたくない。絶対に、負けない。ゆずらない。



「できるんなら奪ってみろよ」

 

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2011.09.26(Mon) | パロディ | cm(0) | tb(0) |

ウィルの声が決まったので

高橋広樹ですって! 聞いたけど外してはなかったから楽しみにしておく!
リオンの声が川澄綾子ですげえはまっててただのセイバーな件wwwwwwww
最近沢城みゆきは仕事しすぎだと思う。ミラかわいいよミラ。


エクシリアを妹と交互に進めてます。交互っつっても私が帰宅するとかなり話進んでて何のこっちゃ的なことがいろいろと起きてるわけですが、まあいい。
杉田おいしいです!!!! 本当に杉田おいしいです!!!!
パーティーメンバーでアルヴィンをフルボッコにする同人誌を誰か作らないかなと妹と話しています。
そいで私思ったよりかなりジュードが好きらしい。15歳であれだけのことを冷静に考えられれば十分だろと思う。いい子だわ……。エクシリアは杉田以外の全員が天使すぎると思う。
ナハティガルだか何だかの過去だかなんかの話を聞いた時に、あれ?それどこの近代戦のタっくん?と思ったのは私だけですね。
イケメンと幼女おいしすぎて毎日楽しい。


うたプリも好き。最新話見ました。
あれは私としては最高に出来のいいトキヤルートだと思います!!!!!!
そうなんだよ、そういう心情の変化がトキヤには必要なんだよ。ゲームの中のトキヤじゃいつまで経っても孤高の人で、周りとは絶対に馴れ合えない。本当にHAYATOとトキヤは別物と割り切って、まったく別の人として活動するんだろうなって感じ。
でもそうじゃなくて、HAYATOをやってたから今のトキヤがあるのであって、HAYATOならひとりだけで頑張るような生き方はしないと思うんだよ。HAYATOも自分の一部として受け入れて、歌うまいのは自分ひとりだけじゃないってちゃんと受け入れて、自分の歌を必要としてくれる人のためによりよいものを届けたいって思えたアニメのトキヤはすげえイケメンだと思う。「こんな出会い二度とない」ってあのセリフすごいよね。トキヤがみんなに頭を下げて、いろいろと告白するシーンの宮野の力の入れようが伝わりました。
いやもう本当に、最高においしいトキヤルートでした。あそこまで深くいろんなことを考えて卒業オーディションに臨むのはトキヤだけなんじゃないかと思うよ。私がトキヤ推しなだけってのもあるけど、学校にあ入ってからのいろんなことがHAYATOとしてのトキヤもHAYATOから逃げ出したいトキヤも、純粋にトキヤとして歌いたいトキヤも全部を成長させたんだなと思うと感慨深いです。A-1グッジョブ。おれはかんどうした!
そしてアニメは翔ちゃんがあまりに心狭いのでいらっとしました。うるせえよ! お前ジャスコと一緒に服おかしいよ!!! とか思いました。ジャスコさん服どうしちゃったんですか? トキヤがマシになったかと思ったら今度はジャスコかよ。ジャスコだけかと思いきや翔ちゃんもなっちゃんもダムも若干おかしいよ。こんなの絶対おかしいよ。


流風→ルミ←慎吾を書いてる。
流風は本当に、いつだって慎吾にビビってんのな。そしてうちのキャラの中でダントツのヒーロー臭をまき散らす慎吾さん。慎吾は掴む男。なんだって掴んでしまう。流風は凡人だから、頑張らないと届かない。でも届かせるためならどれだけの背伸びも努力も厭わない。凡人とスーパーマンの対比というのはおいしいので好きです。なのに慎吾視点では流風こそがスーパーマンで自分が凡人という感覚なので、それがまたおいしいです。
そいつをもうちょっと書いてから寝よう。
大和相手だとしっかりしすぎてるルミは、流風と絡めると普通スキルが増加するのでそれも好きです。

2011.09.18(Sun) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

もうだめだあああああ

今日この前のうたプリ録画したやつ見直したらもうダメだった。私Sクラス半端なく好きすぎる。あ、ごめんアニメのトキヤは元Sクラスだった。
アニメの音也すげえいい子じゃん……。タラシだけど黒さの欠片もないじゃん……。
アニメに限っては私音也を選んでもいいんじゃないかと思ったよ。あんなに一生懸命してくれる子いねえよ……。
6人のユニットで曲を、って言われた時のトキヤが、「あなたの曲を一番うまく歌えるのは自分だと全員が思ってる」的なことを言ってましたが、実際に2話ではるちゃんと組んだ音也以外の5人がどうしてそんな自信満々に「俺こそが!」みたいなことを思えるのか、私には不思議でなりません。
トキヤだけがあの場で「お断りします!」って言うわけだが、相当ショックだったんだろうと妹と結論づけました。あれだけの絡みがあって、HAYATOファンって設定もあるのにトキヤ選ばないとかwwwwww
ジャスコも断ってたが、あれ、翔ちゃんは乗り気になってトキヤは断るって見越したうえで、トキヤ説得にまわるために断ったんじゃないかとかいろいろ深読みしてしまう。ジャスコは基本、人を傷つけるのが嫌、というよりも女の子が傷つくのを見たくない人だと思うので、うん。ジャスコ大人だよほんと。
ぴくしぶ回りすぎて、トキヤとジャスコの対話シーン、「絶対踏んでるよなジャスコ」「100%踏んでる」ってその話ばかりでした。
レン春も可愛いですよねちくしょう。はるちゃんがレンを崇拝しまくってるのがいい。でも当のレンはまったく上から目線じゃないのがいい。
なっちゃんルート終わりました。全部さっちゃんに持っていかれました。CERO判定を上げたのはさっちゃんだと思う。さっちゃんの存在が既に性的な意味でCERO Dくらいだと思う。翔ちゃんの可愛さが中和しています。


そして私今日通販で6000円ほど散財しました。もちろん4日にあったオンリーの委託本を漁っていたからです。まあしかしNL少ないんだよな。


ぴくしぶの小説もちょっとだけ見てるんですが、うたプリの100users入りしてる人の作品がすごいなあと思う。BLですが、四角関係で設定もまあ凝っていて、文がすごく綺麗。
何故NLで小説書く人いないんだ。どうしてだ。



ということを考えつつ、4日に秋臼さんとしゃべったくだらないwwwことについてメモまとめてます。
楽屋裏いいなあ……。琴也にむちゃくちゃ嫉妬されるタっくん、いいなあ。おそらく最終的にタっくんに殺されるアンドゥーも、いいなあ。あの世界で安泰なの真紘と水希ちゃんだけだということに気付いたwwwwww
あ、エンディングだけ考えれば炎而くんと椿もか。
絶対もう死んでると思ってた炎而くんが生きて帰ってきたらぜったい椿はどの世界の椿よりも感情むき出しで泣いて喜ぶと思うんだよね。それもちょっと見たい。
炎而くんが戻ってくるまでは流風が椿のそばにいると思うので、そこで流風に会って「はじめまして」って挨拶するシーンを見たいです。もはや炎而くん主役wwww 


琴也と織夏を書きたいんだけど、こいつらで一本書くだけのネタは浮かばん。
基本的にこいつら付き合い始めたらスピード結婚だと思ってるので、あんまり学生時代にデートとかはなさそう。琴也音楽やってるし。インディーズでCDとか出してるし。割と売れてる(願望)し。
琴也の音楽活動のギャラについて真紘が突っ込むところとか見たい。
「お前のCDの印税とかってどーなってんの?」みたいな。
収入分については基本メンバー4人できっちり分ける。誰かが多いとかない。多分ちょっと少な目に4人で割って、半端分とか使い切るためにご飯食べに行ったり飲みに行ったりする。
琴也さんは真紘ほど金使わない人間でもないが、荒いってほどでもないので普通。服買ったりCD買ったりゲーム買ったりするくらい。バイトもしてると思われるので、音楽活動で得た金はほぼ貯金状態。
少ないって額でもないけど、多すぎって額でもないくらいだと思う。
なので、
「CDで入ってきた金とか何に使ってんの?」と聞かれたら、
「全部貯めてたけど丸ごと織夏にあげた」って答えると思います。(話がぶっとんだ)
通帳とカードごと織夏にあげてそうです。俺がここまでやってこれたの織夏のおかげ!って本気で思ってる。
最初は物をあげようとして、「何がいい? 旅行? アクセサリー?」とか聞いてたと思うんだけど、うまくいかなかったらしい。
織夏は、琴也が頑張って手にしたお金なんだから私のためなんかじゃなくて自分のために使ってほしいって心底思ってるんだけど性格的にうまく言葉にできないとか。琴也は琴也で、織夏がいたから今までもこれからもやってけるんだから織夏をもっと幸せにしてやりたいんだけど織夏が可愛すぎて上手く行動に移せない。
まあきっとその金で婚約指輪を買って、残りを織夏に全部託してるんだと思う。織夏は真面目に将来のために積み立ててる。
そんなバカップルの間に割って入るタっくんがおいしいです、という話。
「うわああああ俺の織夏が桜井の血に穢されていくうううう」
「どうも琴は俺とガチで喧嘩してぇらしいな……。あ? やるか? いいぞ俺は」
「すいませんそんなことないです辞退いたします」
の流れは2回くらいやってそうだ。がんばれことや!



そしてもう寝る!


2011.09.06(Tue) | しゃべり隊 | cm(0) | tb(0) |

ためしにやってみる




「おー、おはよルカ。今日早いじゃん。これから?」
「コトヤさん。おはようございます」

 おはよう、とは言ってもさっき昼休みを告げる鐘が鳴ったばかりだ。俺は部屋から出て、相変わらず暗い路地を歩いていただけ。まあ、用事があったから出かけたわけだけど。
 コトヤさんは俺の2個上で、俺と同じ部屋で寝起きしてる人。明るくて、歌がすごく上手い。酒場なんかにしょっちゅう呼ばれて歌っているらしい。たまに歌を聞かせてもらうけど、本当に、耳がざわざわするくらいに上手かった。
 俺と似たようなボロい服着たコトヤさんはいつものようににかっと笑う。

「これからタクミさんとこ行くんです。時間取れたから読み書き計算教えるって」
「あー、そっか、お前タクさんに教わってんだもんな。孤児院行きゃいいのに、セイさん別に帰したりしないぞ?」
「それは、そうなんですけど、」

 セイさんはここから少し離れたところにある孤児院の院長さんだ。孤児院の奴らがここに遊びにくることなんてまずないけど、コトヤさんみたいに孤児院に顔出して読み書き教えてもらってるような人から噂を聞くことはよくある。すごく優しい人で、“父親”みたいな人なんだそうだ。

「俺は時間、合わないし」

 夜働いて昼まで眠る俺は、孤児院の時間はなかなか合わない。だからこそ、タクミさんも仕方なく自分で俺に教える気になったんだろうと思う。教わるっつっても、まあ、こんなモンもわかんねェのか、だの、だからそんな暮らししてんだ、とか罵倒されることばっかだけどな。
 コトヤさんは、そっか、と笑って、それ以上は突っ込まなかった。俺たちは互いの仕事に関して深くは干渉しない。同じような境遇の子供がたくさんいるって言っても、やっぱり自分のことを理解しきれる奴なんていないって壁を誰もが作ってる。コトヤさんみたいに底抜けに明るい人でも、そのスタンスは変わらない。
 ここイルミナの首都テソロの隅っこにある、通称エスクラボ地区。簡単に言えば家だとか仕事だとかが無い、社会的に底辺の奴らが寄せ集まって暮らしてる地区だ。俺やコトヤさんはもう長いことここで暮らしてて、一応、タクミさんって大人の庇護の下で生きている。仕事の斡旋をしてもらって、ちょっとのお金を貰って、そこからタクミさんに徴収される分を差し引いた分を貯金したりして。簡単なものだけど食事も出るから、ここにいる分は簡単に死ぬってことはない。
 コトヤさんは、十年前に起きた市民暴動で両親を亡くして、身寄りがなくなってここに来た。暴動鎮圧のために派遣された兵士が度を過ぎた虐殺をして、そのとばっちりを受けて死んでしまったのだそうだ。俺は俺で、七年前に母さんが死んで、母さんの借金を背負ってここに来た。父親はいない。それでも生きてるだけマシだって思ってる。死ぬのは怖い。そう思ってる。
 今日はどこで仕事をする、何時くらいに終わって帰る予定、などなど、同室で暮らすうえで必要になる情報の交換をしていると、奥の通りをひとりの女の子がきょろきょろしながら通り過ぎるのが見えた。女の子が全然いないわけじゃないが、見ない顔だ。

「今の子、新しく来た子ですか?」

 それにしては綺麗な身なりをしていたように思う。肩より少し上で整えられた髪、腕や足はほとんど服で覆われて露出は少ないが、布が汚いという印象もない。コトヤさんはここにいる時間が長いだけあって、新入りの情報は早い。コトヤさんが知らないことなんてない、と俺やまわりの子供たちは思っている。
 コトヤさんはやっぱり知っていたらしく、自慢するように胸を張った。

「新入りっちゃ新入りなんだけどさ、孤児院の子なんだ。オリカって名前」
「へえ、孤児院からこっちにくるなんて珍しいですね」

 俺がそれを言うと、コトヤさんは声のトーンを落とした。

「優しくって気立てがよくってさ、料理とか得意で孤児院でよく振る舞ってたんだ。……したら、それ目ぇつけられて、タクさんに召し上げられたらしい」
「タクミさん、に」

 タクミさんに目を付けられるということ、ここにいるということが、どういうことなのか、俺もコトヤさんもわかるからその彼女に同情を禁じ得ない。 

「……きっと無理矢理連れてこられたんだ。俺はやめといた方がいいっつったのに、オリカの奴、内気だからさ、断りきれなかったんだろうな」
「……じゃあ、その人は、タクミさんと?」
「タクさんの身の回りの世話とかも頼まれてるらしい。んっとに、いい年なんだからあのオッサンも結婚でもなんでもすりゃいいのにさ! ガキなんか世話につけてどーすんだっての! 第一あのオッサン怖ぇんだから凄まれたらオリカ断れるわけねぇだろってんだよ!」

 どうやらコトヤさんはある程度その彼女と親交があるらしい。それで、友情よりももう少し深い感情を抱いているのだということも、わかる。

「コトヤさん、その人のこと好きなんですね」
「は!? え、あ、ば、っ、ちがっ、そんなんじゃ!!」
「そんな否定しなくても。心の声ばしばし聞こえてますし」

 真っ赤な顔をしてあたふたしながら、コトヤさんはぶんぶんと両手を顔の前で振った。コトヤさんもこんな風にうろたえることがあるのかと少し新鮮な気分だ。
 そんなことをしているうちに、例の通りからあの女の子がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。こっちにくるのが見えているのにコトヤさんは顔の色がどうにもならなくてもう必死だった。

「こ、コトヤ、くん」

 俺とコトヤさんの前でぴたっと止まった彼女、オリカさんは、少しどもりながらコトヤさんの名前を呼ぶ。

「お、おう、オリカ」
「あ、の、タクミさんの、おうち、」
「あ、ああ、そうな、タクさんの家、な」

 ……あのコトヤさんが会話らしい会話を構成できないなんて、珍しいこともあるもんだ。

「ここ、道、暗くて、えっと、入り組んでるし、迷っちゃって」
「俺で良ければ送りますよ。ちょうどタクミさんに用事あるし」
「あ、ほ、ほんとですかっ」
「はい。道も分かってますし。ご一緒します、うぐ」

 後ろから二の腕を思いっきり抓られて、ぷるぷると全身が震える。オリカさんはきょとんとした表情で首を傾げていた。犯人はコトヤさん以外ありえないので二人してオリカさんに背を向けてひそひそ声で会話する。

「何すんですかっ、痛いです!」
「おまっ、何いきなりオリカ送るとかっ」
「だって同じ場所行くんですから効率いいじゃないですか! 別にコトヤさんが送りたいならそれはそれで全然いいですけど」
「そんなんじゃねーけどっ」

 あの、とオリカさんから声がかかって、コトヤさんはひとつ小さく舌打ちをした。

「オリカに変なことすんじゃねぇぞ!」
「何で俺がそんなことしなきゃいけないんですか……」
「あと! ちゃんとオリカ見ててくれよ!!」
「……どこまでできるかわかんないですけど、まあ、善処します」
「よし、許す」
「許すって……」

 ぱん、とコトヤさんに背中を叩かれ、二人揃ってオリカさんに向き直る。

「オリカ! こいつ、俺と同じ部屋で生活してるルカって言うんだ。タクさんに世話んなってるからさ、連れてってもらって」
「あ、う、うん。よろしくおねがいします」

 ぺこりと頭を下げたオリカさんに、俺も軽く頭を下げた。




 タクミさんの家は割と広場に近いところにある。エスクラボの道は細いしぐちゃぐちゃだから初見じゃ迷っても仕方ないと思う。
 昼間でもまだまだ暗い道を、俺が少し前を歩いて、オリカさんが後ろをついてくる。

「オリカさんは、どうしてここに?」

 孤児院から来たことを俺が知っているって伝えるのもどうかと思ったので、遠回しな言い方にしてみた。
 後ろを気にしてみると、オリカさんは言葉を選んでいるようだった。

「……わ、わたし、どんくさいので、……おとうさんおかあさんに、置いていかれて、しまって」

 両親に置いて行かれた。
 国全体で見ればそんな子供はほとんどいない。けれど、このエスクラボの中で見ればそんな境遇の子供は決して少なくないだろう。孤児になるなんて環境がそう多くてたまるものか。
 俺だって両親がいないことに変わりはないが、健在な両親に置いて行かれたのだとすると、オリカさんの方が深刻ではあるのかもしれなかった。
 それでも、オリカさんは薄く微笑む。

「でも、……タクミさんが、拾ってくださったから。だから、たくさん、恩返ししないと」

 どもってばかりだったオリカさんが、その言葉は力強く口にした。
 そりゃ俺にしたってタクミさんは恩人には違いないけど、およそいい人には見えない。もしかしたら女の子だから優しいのかも? とも思ったが、それは違う。同じように孤児としてここで生活している女の子だっている。女の子だからってタクミさんがそいつらに優しく接しているかといえばそうじゃない。有無を言わせず体売らせたりするのを、俺もコトヤさんも知ってる。俺たち子供が断れないのをわかっててそれを強要する、そういうやり方をする人だ。どんなに嫌でも、この人の仲介なしに俺たちは生きていけないだろう。それを、わかっているから。
 オリカさんがタクミさんの何を見て、恩返しをしないといけないと思っているのかはわからない。もしかしたら、俺たちにはわからない何かがあったのかもしれないし。

「オリカさんにはタクミさん優しいんだ、羨ましい」
「そ、そんなこと、ない、です。たくさん怒られるし、すごく、厳しいです」
「話聞いてる限りそんな風には聞こえないんですけど?」
「え!? え、あの、じゃ、じゃあ、どう言えばっ」
「何言ってもタクミさん褒める言葉になってますよ」
「あ、け、けなすつもりは、」
「わかってますよ」

 そんな会話をしながら、何度目かの曲がり角を曲がる。その路地の一番奥に、タクミさんの部屋がある。
 ここまでくればオリカさんも見覚えがあるらしく、あそこですよね、と指を差して問う。もちろん、それには縦に頷いた。
 扉の前まで来て、ひとつ深呼吸をする。来いと言われたから来たのに、虫の居所が悪いと殴られたりするから慎重にならないと、と思った時には、もうオリカさんが扉をノックしていた。内心焦る俺をよそに、オリカさんはきらきらした目で扉が開くのを待っている。
 しばらくして、扉が開く。いつだって寝起きみたいな、ぎいい、と、けだるい音。当の本人もやっぱり寝起きだったみたいで、目つきがすげえ悪い。ぎろりと俺とオリカさんを睨む。

「おはようございます、タクミさん」

 オリカさんはその目にもまったく動じない。にこにことタクミさんに頭を下げる。タクミさんは軽く膝を曲げて、オリカさんの顔を覗きこむ。それから、

「腹減った」

 とだけ言ってオリカさんを部屋の中へ通す。オリカさんは元気よく「はい」と返事をして、ぱたぱたと駆けていった。……何があった。

「入んねェのか」

 残された俺にタクミさんは一瞥くれると、自分も部屋の中へ戻っていった。
 
「え、ちょっ」

 いや、せっかく来たのにここで帰るわけないだろ! 閉まりかけた扉に手をかけて、俺もオリカさんタクミさんの後に続いた。




2011.09.02(Fri) | rebellion | cm(0) | tb(0) |

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