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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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女の子の樹理はかわいい



 初めて何日もケレスと離れたのは、わたしがケレスと暮らすようになってすぐのことだった。たまたまその時ケレスは二年生の担任をしていて、その他のことではいつも一緒にいてくれたけど、修学旅行の引率ばかりは断ることができなかったみたい。センヤの家に預けるからな、と言われて、わたしはいっしょうけんめい考えて、にっこり頷いた。多分、そうするしかなかった。今でも多分、わたしはそうすると思う。修学旅行、も、引率、も、留守、も、難しい言葉はわからなかったけど、ケレスがわたしから離れるんだということは理解できたから。ずっと離れるわけじゃない、ということも大丈夫、わかっていた。ちゃんと毎日わかるようにしていた。それを考えていなかったら、不安で悲しくて、きっと泣き出して止まらなかったと思う。
 修学旅行の最初の日は朝が早いから、わたしはその前の日の夜からセンヤの家に預けられた。わたしの服とか、おもちゃとか、絵本とかが一式入った鞄をタカヒサに渡したケレスは、膝を折り曲げて屈んで、わたしの頭を撫でた。今でも覚えてる。胸の中がひゅっとするような、ぞっとするような、おそろしさ。ケレスに縋り付きたくて、泣き出してしまいそうで、でも、それをやっちゃいけないってわかっていて、わたしはじっとケレスを見ていることしかできなかった。
 ケレスの顔はいつも怒るばっかりが目立っていて、うれしいも、かなしいも、たのしいも、くるしいも、よくわからない。いつも、眉の間にシワを寄せる。わたしは未だにケレスの“心配そうな顔”なんて見たことはないけれど、今思えば、あれがその表情だったのかもしれないと思う。
 預けられている間、わたしはまともに眠ることができなかった。センヤの家には、サクラも、ヒサヤも、アキヒトもいたけど、いつもと違う部屋で眠ることには慣れていないし、何よりもケレスのいない毎日が不安で、不安で、ひとりで布団の中で丸くなって泣いていた。ケレスの前で泣いたらダメ。わたしにはこの人しかいないから、困らせちゃだめ。おとうさんじゃないけど、こまらせたら、だめ。またいなくなっちゃうかもしれないから。また大人たちの中でいろんなところに行かされて、今度はずっとひとりになってしまうかもしれないから。
 眠っていないわたしのことはすぐタカヒサもシラギクも気付いたみたいで、預けられて三日目の夜には、センヤの子供たちと一緒に夜の散歩に出かけた。センヤの家のお庭は広くって、夜なんかに歩いたらどこかに引きずり込まれてしまいそうなのに、みんな一緒だと全然怖くなかった。タカヒサがわたしの手を引いてくれたことも、よく覚えてる。タカヒサもケレスと同じくらい表情がタンパクだけど、でも、ケレスとおんなじくらいやさしい人だと思う。わたしがタカヒサと手を繋いでいると、ずるいずるいとアキヒトがわたしの手をとって、その隣にヒサヤがいて、サクラが一番はじっこで、空はきらきら綺麗な星が輝いていて、流れ星がいくつか流れたのも見た。
 その次の日は、ヒサヤやアキヒトと同じ部屋に布団を並べて、シラギクが枕元で本を読んでくれた。うちにあるのは外国のおはなしばかりだけど、センヤの家にくると日本の昔話を教えてくれる。わたしがうとうとすると、シラギクがにっこり笑って布団を掛け直して、おなかの上をぽんぽんと軽く叩いてくれるのが心地よくて、そんなふうに、センヤのみんなはわたしにすごく優しくしてくれる。だから、今でもずっと、大好き。
 ケレスが帰ってきたのはその次の日だった。みんなにすごくよくしてもらったから、あんまり寂しくなかった。大丈夫だった。なのにケレスが帰ってきたとき、わたしは大泣きしてしまった。お世話になったのに、すごくヒジョウシキだと思う。ケレスが帰ってきた。帰ってきた。大丈夫、この人は帰ってきてくれる。わたしはひとりにならない。ケレスはため息をついてわたしを抱き上げる。あやすみたいに背中をぽんぽんするのは、つい最近までわたしが何かで大泣きしたときはいつもしてくれていたこと。





 わたしがいろんなことをため込んだ状態で開けたクリニックの扉の向こうで、ここのクリニックの院長先生は「もう来たのか」と言った。アポなしの突撃だったからその発言はよくわからなかったけれど、そんなことは今のわたしには知ったこっちゃないのですよ。
 診察室でカルテの整理をするカナメを見ながら、わたしは診察台に腰かけて、ため込んだ愚痴を一気に吐き出した。
 ごめんなさい、さっきまでの回想でにっこり笑って頷くなんて言ったけど、わたし我慢できなかった。

「でねでねっ、カナメ聞いてよ! ケレスはね、わたしが何回も行っちゃやだって言ってるのに聞いてくれないのよ!!」
「二年に一回繰り返す問答ならそうもなるだろう」
「わたしがちっちゃい頃はもっと心配してくれてたのに」
「今も十分過保護だと思うが」
「……カナメもいじわる」
「先生の苦労は知っているからな、お前が来た頃から」

 カルテの整理をしながら、カナメはわたしの方なんか見ないでそう言う。カナメはわたしをちいさい頃から診てくれているお医者さん。わたしとケレスのことをタカヒサと同じくらいよく知ってくれている。シラギクがいて、サクラやヒサヤ、アキヒトがいるタカヒサと違って、カナメは一人暮らしだ。だからたまにこうしてクリニックに遊びにきては話し相手になってもらう。ちょっとはかわいがってもらっているんだろうとは思う。
 でも親身になってくれないカナメの意見はわたしの心を満足させてはくれない。ソファーの上でむすっと頬をふくらませると、「戻らなくなるぞ」とカナメが言うので慌ててやめた。お医者さんの言うことは、シンピョウセイが高くてちょっと怖い。
 わたしだってケレスと修学旅行行きたい、と駄々をこねて、もちろんそれだけが理由じゃないけど、わたしはツキ高を受験した。ツキ高の試験は難しいと評判だったけれど、勉強は好きだったから苦ではなかった。でも、せっかく入学したのにケレスはわたしの担任じゃないし、二年生の担任になっちゃうし、だからまた修学旅行に引率で行く。わたしをひとり残して。
 ……わたしだって知らないわけじゃない。わたしを引き取ってから数年は、どうしようもない年以外は担任を引き受けなかったってこと。ずっと副担任だったってこと。担任をまたちゃんと持つようになったのは、わたしが小学校の高学年になる頃だった。それでも三年生の担任は持たない。一応付属大学があるけれど、外部進学も少なくないから、進路指導に時間がとられてしまう。一年生は一年生でまだ手がかかる。ケレスが二年生を受け持つ回数が多いのは、そういうことだった。多分、きっと、わたしのためだ。ケレスはそんなこと口に出さないし、ケレスの周りの誰もそんなこと教えてはくれないけど、これがオシテシルベシということなんだというのは、わかる。

「……ケレスがわたし以外の子におやすみ言ってるのなんていやなんだもん」
「修学旅行でそんな優しい消灯はないと思うが」
「わたしはひとりで寂しいのに」
「今年も扇谷の家に行くんだろう? ひとりじゃない」

 カナメは当たり前のようにそう言う。わたしはいっそう不機嫌になった。

「……腹が立ったので、今年はひとりで留守番する! って言ったら、勝手にしろって言われちゃった」

 わたしだってケレスと一緒に修学旅行行きたいっ、といくら言っても聞いてくれなかった。当たり前かもしれないけど。
 さみしいから一緒にいて、というのも聞いてくれなかった。当たり前かもしれないけど。
 わたしが「今年はひとりで留守番する!」ってやけになって叫んだ時、ケレスは新聞から目を離さずに、勝手にしろ、ってそう言ったのだ。冷たい。いじわる。ケレスはわたしに何があってもいいんだ。大事に育てたわたしに何があってもいいって言うんだあ! そう思って部屋を飛び出した。後ろを振り返っても追いかけてきてくれてるはずなくて、怒りも半分、さみしさも半分。さみしい方がちょっと大きいかも。

「……なるほどな、先生にはお前の行動パターンなどお見通しだというわけだ」
「? どういうこと?」

 カナメがふっと薄く笑う。カナメはケレスと仲がいい。
 カナメのこの口振りからすると、きっとケレスはあの喧嘩のあと、カナメに連絡を取ったんだろう。ケレスにとっては喧嘩ですらなかったに違いない。これもきっと、オシテシルベシというやつなのだ。
 ケレスにはどうせわたしの考えてることなんてぜんぶお見通しなんだ。だからカナメは、わたしが今日このクリニックに来た時「もう来たのか」なんて、言ったんだ。ケレスのばか。むかつく。大好き。

「やっぱ言わなくていい。……くやしいけど、留守番はやめて、ここに泊まるっ」
「ならよかった。料理が上達したとも聞いていたからな」

 とんとんとカルテを束ねて棚にしまいながら言ったカナメの言葉に、わたしは大きく反応する。ケレスは本当にずるい。そんなことをカナメから聞いたら、どうしたってにこにこしてしまうのを止められない。
 ケレスはずるくてかっこいい男だから、ぜったいナイスバディなビューティーをたくさんはべらせることができるんだ。でもそれをしないのはわたしのため。それは少しどころじゃなく、とってもとってもうれしくて、誇らしい。学校のみんなが、かっこいいなあと思いつつも恐れているケレスセンセイは、何よりもわたしを優先してくれて、わたしのことを一番に見てくれてるのよ!

「ケレスの好みの味付けの料理なら、わたしはなんだっておいしくつくれるの」

 わたしの言葉に、カナメは「そうか」と返事をしてから、わたしの目の前まで来て、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
 ケレスのおともだちは優しいひとばっかり。ルイは友を呼ぶ、ってこういうことなんだとわたしはひそかに実感している。
 その後クリニックの待合室でコーヒーを飲みながら、カナメと話をした。来た時に全部話そうと思っていた愚痴の八割はどこかへ消えてしまって、先生しているケレスの話とか、家にいるときのケレスの話とか、ほんのちょっとだけわたしの話とか。カナメはわたしの話をいつも聞いてくれる。「そうか」って相槌を打ちながら。ただ聞いてくれているだけだけど、それだけで十分。
 ふと壁の掛け時計を見ると、六時半を回っていた。わたしがここに来て、二時間近くが経つ。そろそろ帰ろうかなと思っていた頃、クリニックの扉が開いた。わたしが来た時にはもう診療時間は終わっていたから、ここを開けて入ってくるのはカナメの知り合い以外にない。

「先生っ、遅くなりました!」

 ばたばたと駆け込んできたのは、わたしと同じクラスの男の子。背が高くて、優しくて賢い。わたしが一度もテストで勝てたことのない人。ソラ先生の子供で、今度の選挙に副会長で立候補をするらしい。たしか選挙は来週だから、もう大詰めのところだと思う。
 襟元をぱたぱたさせて風を送り込みながら視線をすこしずらした彼と、わたしと、視線が合う。

「カゲヒロ!」
「あ、樹理か。来てたんだな」
「うん。カゲヒロはまたカナメとお勉強?」
「そう」

 カゲヒロの将来の夢はお医者さんになること。カナメに憧れて、カナメみたいなお医者さんになりたいんだと言っていた。わたしはよくカナメのところに遊びに来るし、カゲヒロは中学の頃からこうして週一回カナメに勉強を見てもらっている。だから、ツキ高に入る前から何度か顔を合わせていた。カゲヒロは学校からすごく急いできたみたいで、肩で息をしながらソファーに腰かけた。

「そんなに根を詰めなくても、学校が忙しい時は休めばいい」
「いえ、先生のご都合なら仕方ないですけど、俺の都合で手を抜きたくないんです。だから頑張ります」
「そうか。疲れているだろう、何か飲むか?」
「あ、俺自分で淹れるんで先生は座っててください! 先生は何か飲みますか? 樹理は?」
「俺たちは今まで飲んでいたところだからな。いいから座って、準備していろ」

 カゲヒロが立ち上がろうとしたところをカナメが止めて、コーヒーを淹れに行く。カナメは普段コーヒーばっかりだから、わたしに出すのもいつもコーヒー。わたしは家でケレスに出すのがコーヒーばっかりで、ついでに自分でも飲むからすっかりコーヒー好きになってしまった。ケレスやカナメが飲むみたいにブラックで飲むのも好きだけど、砂糖やミルクをたっぷり入れて飲むのも好き。まあそれは今関係ないけど。
 カゲヒロはカナメが飲み物を淹れてくれることにキョウシュクしてる様子で、でも言われた通りてきぱきと問題集とノートを用意している。カナメはすぐにマグをもって戻ってきた。中身はきっとカフェオレだ。カゲヒロはすごーく大人に見えるけど、コーヒーのブラックは苦手みたい。だからカゲヒロはここにくると大抵カフェオレだ。マグを受け取って、カゲヒロはにこにこ笑って頭を下げる。

「すいません、ありがとうございます」
「ああ」
「じゃあ早速見てほしいんですけど、あ、樹理も一緒にやってくか? 今日は数学を見てもらうんだ」
「んー、ミリョクテキだけど、今日はもう帰るね」

 ぱたぱたと手を横に振って、そのお誘いを断る。
 もう随分暗くなってしまったし、帰って夕ご飯の準備をしないと。今はいつも以上に、早くケレスの顔が見たい気分なのです。
 わたしが立ち上がって帰り支度を始めると、カゲヒロが「送って行こうか」と声をかけてくれる。わたしは首を横に振る。カゲヒロの勉強の邪魔はしたくない。

「先生には俺から連絡を入れておく。気を付けて帰れよ」

 未だに旧式の携帯電話を手に、カナメがそう言ってくれる。うん、とにっこり頷くと、わたしは鞄を肩にかけてクリニックを飛び出した。
 夏休みの間はもっと長い間明るかったのに、今はもう真っ暗だ。帰り道を急ぎながら空を見上げると、きらきらと星が輝いているのが見える。いつかセンヤのおうちでタカヒサやみんなと見たような、そんな綺麗な星空。
 家へ行くには駅に向かって電車に乗らないといけない。駅前近くの大通りで横断歩道の信号が青になるのを待っていると、よく見慣れたバイクが歩道に寄って来て、止まった。わたしは小走りで駆け寄って、フルフェイスのヘルメットをかぶったそのドライバーにぎゅっと抱き着く。風を切って走るから、わたしの肌に当たるジャケットがひんやりと冷たい。

「遅くなるなら連絡入れろっつったろうが。何時だと思ってんだ」
「はあい、ごめんなさい」

 笑って謝りながらわたしは手首にかけたヘアゴムで髪をくくる。それから、バイクの後ろに収納されてるオープンフェイスのヘルメットを取り出して、自分の鞄を無理矢理そこに押し込んだ。ケレスが来たのは偶然じゃない。わたしを迎えに来てくれたんだ。

「どっかで適当にメシ食って帰るか」
「あ、じゃあね、マックでハンバーガー食べたいっ」
「食事もらってねえガキみたいなこと言うんじゃねえよ」
「え、でもでもあんまり食べたことないんだもん、いいじゃんたまにはー! ケレスと一緒にハンバーガー食べたいー!」

 ケレスの後ろに跨って、腰に腕を回してぎゅうっとすると、ケレスの肺が大きくなって、しぼんだのがわかる。これはため息。諦めてわたしの言い分を飲んでくれる時。
 ケレスがぱしんとヘルメットのシールドを下ろす。

「寝たら落とすからな」

 わたしをバイクに乗せると、ケレスは決まってそう言う。すっごく小さい頃わたしが一緒に乗った時、一度寝てしまったことがあるからだ。その時はわたしはケレスの前に乗せてもらってたから、ずるっとわたしがずれたことにもケレスはすぐ気付けたみたいだけど、後ろだとすぐにはわからないかもしれない。かといって前に乗せられるほど小さくもないし。ということで、嫌味っぽくいつも言うのだ。でももうわたしは小さくないし、寝たりしないし、ケレスにぎゅってしてれば安心だってわかってるもん。
 ウインカーがカチカチと鳴る。流れを見計らってバイクが動き出す。ケレスの腰に回した腕に力を込める。
 わたしはケレスがだいすきなんだよ。パパもママも、みんないなくなっちゃって、わたしにはケレスしかいないんだもの。タカヒサもカナメもエンジもみんな優しいけど、傍にいてくれるのはケレスだけってわたし知ってるんだから。だから修学旅行のほんの短い間でも離れるのは嫌なんだよ。ケレスにとってわたしは娘でしかないかもしれないけどね。
 今のうちに少しでも充電充電。そう思ってわたしはケレスのつめたいジャケットを堪能することに集中するのでした。




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2013.12.11(Wed) | IF世界 | cm(0) | tb(0) |

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