プロフィール

軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.--(--) | スポンサー広告 |

胸の中で握り締める告白


 古めかしい台所に、香辛料の香りが漂う。混ぜる鍋の中身はカレー、辛口好きの同居人と、辛口が苦手な俺との折衷案で、我が家では中辛が採用されている。使うルーはいつも二種類、決めているわけではなく、その時安かったものをふたつ買っただけだ。一種類のルーしか使わないものよりかは、多少コクというか深みが出る気がして、いつもそうしている。今日の具はナスとひき肉。これは同居人が好きな具で――といっても、好き嫌いなく何でも食べるのだが。輪切りにして煮込んだナスはそろそろやわらかくなってきているし、ひき肉も程よく塊がほどけてきている。あとは少し煮込んで、仕上げは帰って来てからだ。炊飯器が炊き上がりの音を鳴らして、そちらを確認する。水で濡らしたしゃもじで釜の中を数度かき混ぜておいた。炊き立ての白米はきらきら照明を反射している。炊き上がりは上々だ。二人分のカレー皿を用意して、ちらりと時計を見たときだった。午後八時。玄関の鍵が開いたのは、俺が時計を確認した直後。

「おかえり、きーちゃん」
「たっだいまあ! おー、この匂いはカレーだなあ? 具は!?」
「ナスとひき肉」
「おおっ、さすがシノ!」
「いいから手洗ってこい」

 帰宅した女は屈託のない、邪気0%の笑顔で「はあい!」と片手を高く挙げ宣言すると、ばたばたとスリッパの底を鳴らして洗面所へと向かう。
 時間さえあればもっと煮込みたいところではあるが、俺も学校の授業があるしなかなかそういうわけにもいかない。明日には程よく寝かされた美味いカレーになっているだろうから、今日はこんなもんかと火を止めた。
 廊下の向こう、洗面所からばしゃばしゃと水の音がする。手を洗うついでにメイクも落とすのが流れだから、顔を洗っているんだろう。俺はその間に二人分のカレー皿にご飯を盛り付け、ルーをかける。それが終わったらカレー鍋には蓋をして、右側のコンロに寄せる。それまで鍋を乗せていた左側のコンロにはフライパンを準備。油を引いて火にかけて温める間に、冷蔵庫から卵を二つ分取り出して、ボウルでかき混ぜる。やわらかく仕上げるにはマヨネーズを入れるといいとネットで見かけて、以来そうしている。温まったフライパンに卵液を流して混ぜること10秒。一度フライパンからボウルに卵を戻し、温度が均等になるよう混ぜて、またフライパンへ。後は形を整えて、出来上がったそいつを片方のカレーの上に乗せる。真ん中で切ると半熟になってる、あのオムレツだ。カレーだろうがハヤシライスだろうがオムライスだろうが、このオムレツをいたく気に入っている同居人のおかげでひとつ作るくらいならいつものことなので大した手間ではない。

「あ、オムレツもできてる」
「ん、今作ったとこ」

 ひょっこり居間に戻ってきた同居人は、相変わらず締まりのない顔でへらりと笑った。俺はカレー皿ふたつとスプーンを二本手の隙間に持って、テレビの前の座卓にそれらを持っていく。畳の部屋、二人だけの生活には少し大きな座卓。ここ10年は、二人でここでテレビを見ながら食事をするのが当たり前になっている。今日は時間がなかったから付け合わせなんかは特に準備していない。同居人はそういうのはあまり気にしていない様子で、テレビの電源を入れた。

「あ、ほらほらシノ、この子この子、あんたに似てるなあってよく思うんだよねー、言われない?」
「言われるけど似てない」
「えー、そうかなあ。目のおっきいとことかー、髪の感じとかー、あ、でもシノの方が背高いかな」

 テレビの向こうのバラエティ番組で司会を務めるアイドルグループ。そのうちのひとりに俺の姿が似ているとよく主張する同居人は、リモコンを置くとぱんっと手を合わせて、「いただききます!」とこれもまた高らかに宣言。カレーの上のオムレツを割って嬉しそうにしている。年考えろよ、何歳だよお前。
 俺もまた彼女に倣ってスプーンを手にする。ちらりと横目で見るテレビの向こうには、煌びやかなアイドルの姿がある。
 俺があんな存在だったら、ちょっとは見方を変えてくれるというのか。もう少しだけでも近づいていいと言ってくれるのだろうか。言わないだろうなあ。こいつはそんなこと微塵も思わない。赤の他人であるこのアイドルに言い寄られたって、普通の女のようになびいたりは絶対しないと断言できる。そうじゃなきゃ10年近くも俺をひとりで育てたりできるものか。

「しかしこの料理の腕前は誰に似たのかな、あたしじゃないなあ」

 オムレツの乗ったカレーを頬張りながら大真面目に女は言ってのける。
 俺は答えるつもりはない。テレビの向こうの喧騒を見ながら、カレーを咀嚼する。

(努力ですから、似るわけねえだろ)




 きーちゃんこと、長屋 季映。この家の持ち主であり、十歳年上の俺の姉であり、片想いの相手であり、生物学的に母でもある。
 身長は女性としては平均的なくらいだろう。体格は華奢だが、仕事が肉体労働だからか、腕についた力こぶをよく自慢してくる。大食らいだが食べるのは遅く、こうして俺がカレーを一皿完食した時点で自分はまだ半分ほどしか食べていない。テレビ見ながら雑談してるのが原因の7割近くを占めているとは思うが。髪は肩より少し短いセミロング。顔はまあ、十分、かわいいと思う。
 この家は元々ばーさん……俺からすれば曾祖母にあたる人の持ち主だったが、その人が死んできーちゃんがいくばくかの遺産とこの家を相続した。その時きーちゃんは22で、俺は12だった。それまで姉として接していた相手が、急に母だと名乗って頭はついていかなかった。まあ、細かい生い立ちみたいなのは割愛する。話せば長くなるし。
 彼女は高校を卒業してからがむしゃらに働いていた。ばーさんはあまり体が強くなく、いずれ俺をひとりで育てなければならないと見越していたようだった。転勤する仕事にはつけないし、お世辞にも頭がいいわけではなかった。今は宅急便の配達スタッフとして働いている。この華奢な体でよくやるよ、とこれでも俺は敬服しているのだ。家は相続したものがあるから家賃はかからないとしても、毎月毎年の税金と、生活費と、俺の学費がある。すぐに払えるものではないから教育ローンは組んでいるが、それでも俺はこの十歳年上の母親に一生頭が上がらないだろう。

「うん? シノもう食べ終わったの? おかわりすれば?」
「そんなに腹減ってないし」
「おっきくなれないぞ」
「十分でかいっての」

 立ち上がって皿を流しで水につけ、戻るついでに鞄から本を取り出し、居間に戻る。食器を洗うのはきーちゃんの仕事だ。
 建築史のレポートの提出があるから、課題書だけでも読んでおかないと後が辛い。だからといって歴史に興味があるわけではないのが辛い。
 小さい口でまだカレーを頬張りながら、きーちゃんは俺の顔をじっと見つめる。この女、年ももちろんまだ若いが童顔だ。一度妹と間違えられた時のしたり顔といったらなかった。

「それ何の本?」
「日本建築史」
「あたしにわかる言葉で」
「日本の建築の歴史」
「それくらいはわかる」
「じゃあいいだろ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「シノ冷たいなあ。なに? 反抗期かあ?」
「だったらメシなんか作るかよ」
「だよねー」

 俺が本を読み始めて十数分。やっとカレーを食べ終えたのか、流しに皿を置いてから、壁に寄りかかって本を読む俺のすぐ隣に腰を下ろして、きーちゃんは俺の顔をにやにやしながら見ているだけだ。集中できない。邪魔だからどいて、という意思をこめてその頭をぺしんと叩いてやると、何故だか嬉しそうに笑う。

「叩かれて笑うってなんなの。変態?」
「かっこいい息子とスキンシップとれるなんて幸せだなあって」
「次から金とるか」
「うわ、鬼だ! こんなに頑張って働いてるのにっ」

 そりゃそうでしょうとも。俺は高校出て働くっつったのに、シノは賢いんだからちゃんと大学出なきゃダメ! とか言って大学に通わせていただいてるんですから。自分の申し出を無碍にされても、きーちゃんの言い分には逆らえない。俺さえいなければもっと違う別の人生を歩めたかもしれない、きーちゃんの提案はきーちゃん自身が辿りたかった道かもしれない。そう思うと、どうしたって俺は弱くなってしまう。俺を産んでくれてありがとう、生かしてくれて、育ててくれてありがとう、俺のために生きてくれてありがとう、――なのに好きになってごめんなさい。一生言えるはずのない謝罪の気持ちを抱えながら、ぬるま湯の辛い日々を生きる。
 よよよ、と目頭を拭う振りをするきーちゃんの目の前に、ひらりと左手を出す。何も持っていないことを確認させて、ぐっとそのまま拳をつくる。

「いち、に、」

 三拍子の掛け声。
 さん、と呟いて、同時に拳を開く。そこにはきーちゃん愛用のミルク味のソフトキャンディーがひとつ。歯にくっつくから俺はあまり好きではない。
 包装を剥がして、飴をつまむと彼女の口に指を近づける。あ、と開いたその小さな口の中に飴を放り込むと、ぱっとまた花の咲くような笑顔が広がった。

「おつかれさん」

 きーちゃんが傍にいてはいろんな意味で邪魔なので、とっとと自室に退散することにする。本を片手に立ち上がると、もごもごとキャンディーを噛みながらきーちゃんが俺を見上げた。

「シノのこれはいつもながら魔法みたいだよね。今度タネ教えてよう!」

 これはまあ、マジックを披露すると毎回言われることだ。カードマジックなんかやると特にうるさい。
 で、俺の返答はいつも決まっている。襖を開けて居間から一歩踏み出して、首だけで振り向く。

「やだね」
「もう、けちー!!」

 何と言われようと承諾しかねる。
 タネがわかったらもう気にしてくれなくなるだろ、ばか。




スポンサーサイト

2014.02.23(Sun) | 星霜館 | cm(0) | tb(0) |

/
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。