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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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見たくないものまで見えるので

「起床の時間ですよ、穂積さん」

 冷たい床、固い布団。ここで寝泊りするようになって数日、未だこの環境に慣れず痛む背中をさすりながら、いつもと違う声が耳に入り起き上がる。
 枕元に置いた腕時計は午前8時半を示している。今日は土曜で非番だ。この時間でも慌てるようなことはない。

「……おはよ、みおちゃん。今日はみおちゃんが俺の専属メイドさんなわけ?」
「ご冗談を。たまたまいつも貴方を起こす方がこちらに向かうのが見えたものですから、ご挨拶のために代わって頂いたんです」
「へえ、俺なんかに興味持ってもらえるなんて光栄だなあ」
「ええ、貴方の処遇はとても気になっていましたから」

 全身を黒いワンピースに包んだ、女。物憂げな黒い瞳が、透き通るように白い肌によく映える。濡れたような真っ黒な長い髪もまた、彼女にはよく似合う。美意識が高い自負のある穂積から見ても、彼女は美しい。つい先日対峙した杉信由良に似た、眩暈のするような美しさを纏っている。彼女は名を一条 深桜里という。数年前この教団にやってきたばかりだが、地位としてはおそらく穂積より上になるのだろう。美人は得だねえ、と思ったことは何度もあるが、代わりたいとは思わないし、穂積自身地位というものにあまり興味はない。実力や実績が地位に伴って判断される場所だと考えていないというのもあるが、何よりも幼少期の体験――かの神との接触から生還し、今もこうしてここにいるということ自体に穂積は誇りを持っている。
 今回の一件で、穂積は軽く精神を病んだ。一般人が患うそれよりも随分と軽症ではあったものの、医学や心理学に心得があるくせに何たる失態、ということで、出勤・退勤時に逃げ出さないよういつも通勤は車での送迎がついていた。仕事も事情を説明し、基本的に内勤だけになっている。先輩である佐伯みやびには鼻で笑われる始末だが、自分でどうこうできるものではない。

「俺がこんな立派な部屋貰ってんのが羨ましいんだ? 代わろっか? それとも一晩一緒に寝てみる?」
「結構です。他山の石とするには十分な事例を目の前で見られて、大変お勉強になりました」
「いやいや、なかなか快適よ? 朝はちゃんと決まった時間に起こしてくれるしさー、床は固いけど、そうねえ、鍛えられてるってカンジ?」

 狭い牢に無造作に投げられているタオルを首に引っかけ、洗面台へと向かう。毎晩ここで過ごす度に凝り固まっている気がする腰を摩り、歩きながら解していく。深桜里はと言うとまだ何か用があるのか、託されたらしい牢の鍵を使って開錠し、中に入ると壁に凭れかかって穂積の様子をじっと見ている。
 教団の建物は大きな洋館となっている。穂積が入れられているのは地下に設けられた牢だった。ほとんど拘置所の独房に近い。しかし意外と快適に感じられたのは事実で、今が夏ということがあるだろう。日差しのないこのフロアは、地上に比べれば幾分かひんやりとしていて、空調がなくとも十分寝起きができたのだ。
 ばしゃばしゃと簡単に洗顔をし、手早く顔の髭を剃り、歯磨きをする。壁に備え付けられた小さな鏡越しに、深桜里と目が合う。しばらくそのままでいると、深桜里はふっと薄く笑って視線を逸らす。

「“神童”形無しですね。仕事も遂行できないのなら大人しく食われてしまえばよかったのに」

 歯ブラシを洗い、両手で水を掬って口の中を濯いだ。鏡で念入りに綺麗になったかどうかのチェックをする。

「ほんと、警察もココも、上の奴が言うのは楽で羨ましいねえ」

 何度陰口を叩かれたか知れない。あれだけ神童ともてはやされていたのに、今の体たらくときたら、と。そんなものは、穂積には知ったことではない。ずっとあの神秘性を維持しているのも、それはそれで素晴らしいことではあると思うが、自分にはできることがもっとあった。ただ崇められるだけの存在に比べれば、今のこの立ち位置の何と生きやすいことか。だから穂積は、これでいい。失敗して牢に放り込まれようと、この組織は自分を手放しはしない。
 首にかけたタオルでぐいっと顔を拭うと、つかつかと深桜里に歩み寄る。こうして目の前に立つと、数十センチの身長差がある。深桜里からは完全に見上げる形、穂積からは見下ろす形になる。右の掌を開いて、深桜里の顔の目の前で止める。彼女の小さな顔は、穂積の掌で簡単に収まってしまいそうだ。


「みおちゃん、“神童形無し”でも俺はここには捨てられねえのよ。すごいでしょ、羨ましい?」

「それはね、この掌にちょっと力を込めるだけでみおちゃんを簡単に殺せる力があるからなんだよねえ」

「みおちゃんだけじゃなく、この屋敷の人間全員を、やろうと思えば俺は殺せちゃうの。俺はそれを昔ほんとうにやって、できんの、今も」

 
 記憶を持って今を生きていることが、最大の抑止力になることを穂積は知っている。神の気まぐれのために生きることを許された子供を、今も恐れているのだ。それが穂積の唯一で最大の誇り。今こうしてここで生きていること。手広く自由に歩き回ること。このフットワークの軽さ。


「奴らが本当に俺に罰を与えるなら、俺がここを抜ける時だろうな。でもその時は、生半可じゃないモンをくれると思うよ。羨ましい?」


 いいえ全然。
 深桜里はゆっくりと穂積に視線を合わせると、にっこりと微笑んだ。




 牢暮らしの休日とはいえ、用事があった。黒のネクタイを締め、夏用のライトグレーのスーツに身を包む。警察の先輩である佐伯みやびには、「お前それホストにしか見えねえ」と言われたが、どんなスーツを着ていても大概言われるので、似合ってるって意味か、とポジティブに解釈するようにしている。こうしてポジティブに考えるだけで、大分世界は平和だ。自分の精神状態は良好だ。教団幹部にもそれは伝わっているらしく、今日は見張りはつけられなかった。元より逃げるようなつもりはない。
 電車を乗り継ぎ、やってきたのは空木大学だった。まだ夏休み期間ということもあって学生の姿はまばらだが、その中でも一際人気のない場所に向かって、穂積は歩いた。まったく人気のない校舎の裏にあるベンチに腰掛け、一息ついて腕時計を見る。約束の時間は午後2時。今は少し早いくらいだが、腕時計に影が落ちたので顔を上げると、一人の女子学生が屈託のない笑顔で立っていた。

「すみません渡会さん、お待たせしてしまいましたか?」
「んーん、今来たとこだよ。みっちゃんはゼミ平気なの?」
「はい。ゼミっていっても、自主学習ですから。強制じゃないので、今日はもう終わらせました」

 嬉しそうに穂積のすぐ隣に腰かけたのは、先の事件で一度は精神を病んで入院した、妹尾倫子だった。一度捜査のために病院でカウンセリングの真似事をしてからというもの、事件後も精神科医かカウンセラーのように対話を求められることが度々あった。当初は恐怖のため、退院したくない、病院から出たくないと泣いていたが、地道に対話を続けてこうして学業に復帰できる程度まで回復した。俺割とすごくね? と思う穂積である。
 元々精神医学や心理学は専攻していたわけではない。教団のために使える知識を身に着けに行ったので、本来の専攻としては内科なのだが、外科も必要性があってそれなりに学んだ。精神医学や心理学はほとんど一般教養に近い気分で履修したのだが、案外役に立つものだ。

「新しい先生は? どう?」
「はい、まあ、一応やりたいことがあって安仁屋教授のゼミに入っていたっていうのはありますけど、でも、学ぼうと思えばできないことないですし、今の先生もとっても親身になってくださるので不自由はありません」

 担当教授が逮捕されたのだから、学生の衝撃は大きかっただろう。特にゼミは専門的分野を扱っているだりうから、教員が変われば本の読み方ひとつとっても変わってくる。
 倫子は取りあえず、心理学を学ぶということについて拒否反応が出なかったのは素直に喜ばしいことだ。真面目な学生が一人減るというのは社会にとっても損失になる。

「あー、そりゃ残念だなあ。それじゃあ俺新学期からお役御免になっちまうなあ。まあ、それがみっちゃんにとっては一番いいことなんだろうけど」

 このまま生きるなら、それが一番いい。すべてを忘れることはできないだろうけれど、本当は関わらなくてよかったのだから。彼女は優しさ故に損をした。
 すべてを知る自分からすれば、彼女のような存在はとても愚かだけれど、だからこそ誰にでも好かれるのはよくわかる。
 倫子の思い詰めるような表情から、噛みしめる唇からひしひしと伝わってくるその愚かさは、誰にでも好かれるだろう彼女だからこそ、今ここで漏らすものではない。
 意を決したような瞳が、穂積を捉える。

「あの、渡会さん、私――」


 ごめんねみっちゃん、言われなくても全部わかっちゃうんだよね、俺。


 右手の人差し指で倫子の額に触れる。きょとんとした倫子の表情を見ながら、彼女には聞こえない大きさで短い呪文を唱えると、倫子の瞳はいっぱいに見開かれ、そして全身の力がかくんと抜けた。
 それを隣に座ったまま支えると、そのまま彼女が目を覚ますまでずっと、待った。


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2016.04.24(Sun) | パロディ | cm(0) | tb(0) |

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