プロフィール

軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.--(--) | スポンサー広告 |

Evening Emerald  1/2



 太い木の枝が風に揺れている。この窓から見る冬の景色はもう見慣れたはずなのに、今年はなんだか違って見えるのは何故なのだろうか。
 ストーブの優しい明かりとそれが齎してくれる暖かさ。床に転がる赤い毛布。それから、もう長いことこの孤児院で飼われている大きな犬。その犬のやわらかな頭を撫でる、長い金髪を持つ――彼女。彼女の隣には古いゆりかご。ゆりかごの中では、もうじき一歳になる子供が眠っている。
 窓の外に目を戻すと、雪がちらつき始めていた。今日は降らないかと思っていたのだが、この時期この地域では降らない方が稀らしい。帰るのが面倒だな、とため息をつくと、流風の座る椅子に彼女が近づいてきた。

『ルカっ』

 座る流風の肩に顎を預け、彼女はふわりとやわらかな笑顔を作った。

『ジュリの誕生日にね、先生がケーキ焼いてくれるんだって』
『樹理はまだ食えないのに?』
『うふふ、だからわたしが食べてあげるの! 一歳おめでとうー、って』

 そう、研究、講義、論文に追われているうちに、樹理が生まれてもうじき丸一年になってしまうのだ。生まれるまでは今後の身の振り方に死ぬほど悩んだものだったが、ここまで来てしまうと開き直れてしまうもので、実際この一年、普段は学校に通い、アルバイトをし、週末に長い時間が作れればこちらに顔を出すという生活を何とか続けることができた。そんな状態で樹理に対して父親面をするというのは申し訳ない気もしているが、まだ学生の身分である流風がとれる最善の選択がこれだったのだ。日本を飛び出してきた手前、それに自分の性格としても、勉強を疎かにすることは許されない。だからといって、樹理の存在を流風自身が望み、許した以上、彼女と樹理を放っておくわけにもいかない。年明け提出のレポートはいくつあっただろうかと頭の中で数えながら、よかったな、と彼女の金髪を撫でた。

『……プレゼント、何がいい?』

 そして今はそういう時期だ。ケーキは用意されるらしいから別のものを用意しなくてはならない、と彼女に問いかけると、彼女は姿勢を維持するのに疲れたのか、流風の椅子の脇、カーペットの上に腰を落ち着けた。

『ジュリに?』
『それもだけど、お前もさ』
『わたし?』
『要らないならいいけどさ。俺も金あるってわけじゃないし』

 彼女は子供だから、そうやって意地悪く言えば飛びつくだろうと思ったのだ。
 キャンディーだの、クッキーだの、ぬいぐるみだの。相変わらず子供じみたものをねだるだろうと。しかし彼女に期待していた花の咲くような笑顔は見られず、少し困ったような表情で悩んでいる姿だけが見られた。
 ――大人の表情だ、と思った。
 しばらくそうして悩むと、彼女は顔を上げて、ふるふると緩く首を横に振る。

『クリスマス、ううん、ジュリのお誕生日はね、わたしとジュリとルカと、三人でいられたら、わたしはそれでいいの。言ったでしょ? なんにもいらないの』

 彼女は、“家族”をねだったあの時から、随分大人になった。彼女の子供っぽいところは長所であり短所であり、そこを流風は好ましく思っていたのだが、母親として責任を持ち始めたということなのだろうか。
 あるいは、樹理が生まれてもなおこうして側にいる流風に罪悪感を抱いているのかもしれない。けれど、単に同情でもなければ、子供を産ませてしまったという責任だけで今でも一緒にいるわけではなく、それはやっぱり彼女を好きだと思うから、寂しい思いをさせたくないから、心配だから、――残った時間があまりにも少ないから。
 甘えて欲しいから今でも側にいるのに、彼女は流風が思うよりずっとずっと速いスピードで大人になってしまっている。

『ルカはそういうの心配しないで。ルカはたくさんお勉強頑張って、すごーく偉くなって、わたしはジュリにそれを教えてあげるの。パパはすごい学者さんなのよ、って。だから、たまにパパになってくれたら、それだけですごくすごく嬉しいの。ジュリも、多分おんなじ』

 そのうち、樹理がぐずりだした。
 泣く樹理の声にいち早く反応すると、彼女はゆりかごから樹理を抱き上げ、ミルクを貰いに行くのか台所へと向かっていった。

『随分大人になったでしょう、あの子も』

 代わりに近づいてきたのはこの孤児院の院長だった。優しい笑みを湛える老婆は、彼女がここの門の前に捨てられていたときからずっと彼女の面倒を見ているという。流風よりもずっと彼女の表情を知っているはずの老婆も、この成長には驚いているようだった。

『――俺が急がせたんですね』
『けれど、貴方がいなければあの子は大人になることも知らずに死んでいくことになったでしょうね』

 大人になることを知らずに。
 それは果たして良いことだったのだろうか。
 子供のまま命を終えることは、大人の世界を知った人間は誰しもが夢みることではないのだろうか。

『そうかもしれません、……けど、俺はずっと、樹理が大きくなってもずっと、これでよかったのかと考え続けるんだと思います』

 先のことはわからないけれど、このことが彼女の寿命を縮めているのかもしれないと考えると重い罪悪感に襲われる。
 彼女がいくらこれでいいと言ったとしても、流風は自分がこの先悩み続けるのが手に取るようにわかっていた。彼女はいずれ死んでしまうのだろう。今元気に見えていても遠くない未来に必ず。その時子供と二人残された自分は、ひとつのひかりを失って何を考えるのだろう。

『……ルカ、それはジュリが酷ですよ』

 そんなことも、わかっている。わかっているはずなのに割り切れないのだ。
 どこかで樹理は自分とは切り離れた関係なのではないかと思っている。
 そんな自分は人間として最低なのだと分かっていても、強く思っていても、どこか別世界の話のように思えてしまう。
 
『……俺の方が子供みたいです』

 苦笑しながら言うと、老婆もまた苦笑を返し、そうですね、と言葉を漏らした。

『ジュリが生まれる前の日に、あの子が言っていました』

 そんな話を切り出されるのは初めてだったので、流風は老婆の目を見て疑問の意を示した。
 老婆の唇が、ゆっくりと動く。



『――“この子はわたしの命なの”』



スポンサーサイト

2009.01.09(Fri) | 未来話 | cm(0) | tb(0) |

この記事へのトラックバックURL
http://hechima1222.blog88.fc2.com/tb.php/272-c468ce6f
この記事へのトラックバック
この記事へのコメント
Name
E-Mail
URL
Title

password
管理者にだけ表示を許可
/
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。