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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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4



一番ノリノリで書いてた頃だと思います。2週間くらい前だけど。









 それは、二月のとある日で、外は昨夜から雪が降り続いて白く色を変えていた。
 理央の高熱はやはり長引きそうだった。ほとんど食べず、外にも出ない生活を続け、それに加えて精神的な負担が大きすぎたことが原因だろう。一向に引く気配のない高熱と、荒い呼吸に苦しむ理央の側で、奈央はそっと額の汗を拭ってやった。奈央にできることは、たったそれだけだった。
 薬を飲ませるために少しは食べさせるようにしているが、粥を作っても米を食べる気力がないらしく、あんな白湯だけでは栄養面で何の意味も無い。
 理央はこんなに弱っているというのに、自分はどうしてこんなにも健康でいられるんだろう。理央と同じように悲しんで苦しんだはずなのに。だから、痛い。自分だけが、心の痛みをダイレクトに受け取ってしまうから、痛い。

「辛いよね、理央……」

 汗で湿った黒髪を撫でながら、奈央が一人呟く。当の理央は熱に魘され、眉間に皺を寄せながら眠り続ける。ちゃんと眠れているのかどうかはよくわからない。起きていても、がたがた震えながら汗を流すのだ。体がとてつもなく異常な状態になっているのは確かだった。
 自分も理央も、そう長くは仕事も休めない。もう子供ではないから、大人なら、近しい人が死んでしまったとしても、自分は生きているのだということを理解しているべきだ。でも。でも、奈央自身はともかくとして、理央は、彼の生きた香りが生々しく残るあの場所で、これまでのように過ごせるだろうか。きっと、無理だ。心が揺らいで、きっと、また自分を無意味に責め続けてしまう。

「理央、生きていけるかな、これから」

 二人の運命は、彼が握っていたのだろうか。彼が一人で遠方の大学に進んで、二人がこちらに越してくるまでの四、五年は、二人だけで過ごしていた。寂しいとは思ったけれど、生きていけないなんて思ったことはなかった。それが今はどうか。理央は高熱に悩まされ、社会復帰もできるか怪しいものだ。できたとしても、今の仕事を続けられるとは、とても思えない。理央がそうなら、奈央もそうだ。理央が困った時、近くにいてやるべきなのは、いつだって自分。今、二人の目の前は、この部屋のように真っ暗で、一寸先も分からない。誰も助けてなんてくれない。多分、彼は光だったのだ。ずっと二人で生きてきた、その中の一筋の光。でもそれは電球のように期限つきの光で、時が来ればやがて消えてしまう。そんな儚い光だったのだろう。
 ――彼を、そんな軽い存在には思うまいとしていたのに。

「……もう、苦しいよ、嫌だよ、理央、なんで、なんであたし、」

 彼が存在していたことを、疎ましく思い始めているのか。
 理央の掛け布団の端を握って、切にそう訴えても、理央は苦しそうに呼吸を繰り返すばかりで、何も返してくれない。一緒にいてくれないと、声が聞けないと、不安と絶望ばかりが募って前が見えなくなる。自分も倒れてしまいたい、と奈央は思う。倒れてしまえれば、体の苦しみが心の苦しみを忘れさせてくれる。そうなったら、誰が理央の看病をするのだろう。現に今、自分は健康なのだから、倒れたいだなんて考えるべきではないのに。
 しばらくそのまま弱音を吐いたことを悔い、一度ぎゅっと理央の手を握り、明るい声を出そうと努めた。

「買い物、言ってくるね。すぐ戻ってくるから。ちゃんと食べないといつまでも治らないんだからね?」

 奈央はそのまま少し待って、それから逃げるように部屋を出た。この間のように、嫌だと抱き締められたら、それだけでさっきの弱い自分も許せそうだったのに、そういう時に限って理央は奈央を瞳に映してはくれない。これでは、いつまでも心に苦しい蟠りが残ったままなのに。



 奈央は喫茶店にいた。駅前の暗く細い路地を入ったところにある、不気味な小さな喫茶店だった。雪の中、傘も持たずにマンションを出て、走るようにいつものスーパーに出かけたのだが、今日は何度もすれ違う人とぶつかり、最後に、先日の黒装束の女性とぶつかったのだ。あの優しい声で、大丈夫ですか、と聞かれたとき、「大丈夫じゃないです」と答えてしまった。とても、大丈夫と言える状態ではなかった。泣き出しこそしなかったが、宥められ、諭され、そうして今に至る。
 心が痛くて仕方ないのだと、今まであったことをすべて話した。いい大人が何日も仕事を休んで今もまだ辛い状態にあるなんて笑われるかと思ったが、彼女は驚くほど親身になって話を聞いてくれた。だから奈央も、相手に促されるままに話を進めた。今までこんな風に話をする相手も、聞いてくれるような人もいなかったから尚更だった。
 吐き出すように奈央がすべてを喋り終えると、女性は神妙な顔をして、口を開いた。

「奈央さん、その悲しみは喜ぶべきことですよ」

 そのとんでもない言葉に奈央は唖然とした。しかし相手は奈央の動揺も気にせずに話を進めていく。

「貴女は幸運な人です。神に愛されたのですから」
「……かみさまなんて、いるわけないです」

 流石にそこまで流してしまうわけにもいかず、奈央は言葉を返した。本当に神がいるのなら、きっとこんなに辛い思いはさせないだろう。相手は神の存在を信じているようだったので、否定するようなことを言っては怒られるかと思ったが、意外にもにこにことした表情を崩さない。

「いいえ、神はいらっしゃいます。そして貴女は確かに神に愛されている。だってそうでしょう? 神は貴女のために、貴女を元の貴女に戻してあげるために、貴女の恋人を、或いはお兄様の親友を、在るべき場所へと還されたのですから」
「あたしの、ため、……って、どういうことですか?」

 奈央が食いついたためか、相手はもっと笑みを深くして、コーヒーのカップに口をつけて喉を潤してから、再び奈央を見つめた。

「お話を伺っている限りでは、貴女はお兄様と二人でいることに何の不満も不自由も感じていなかった。そこに割り込んで現れたのが彼でしょう? 貴女は優しいから、彼を受け入れた。拒めなかった。貴女のその優しさを神はちゃんと見ているのですよ。だから、貴女を思うからこそ髪は彼を彼に相応しい場所に還した。今、貴女はお兄様と二人きりで何も不満に思うことはないはずです」
「そんな、違います、あたしは、だって、今も苦しくて、」
「その苦しみは安らぎを更に深く感じるために必要なものなんです。神は、貴女に安らぎを与えるために、そこまでお考えなんですよ」

 甘いものを食べる合間に塩辛いものを食べると甘みが増しますでしょう? それと同じことです。そう彼女は言い、微笑んだ。
 言われてしまえばそうなのかもしれない。理央との間に突然現れたのは彼の方で、彼は、二人の近くにいなくてもきっと問題はなかった。理央と奈央にとっても、彼は最初からいなくても問題はなかったのかもしれない。そうだ、さっきだって少しだけそう考えた。やっぱりあの考えが正しかったのだろうか。これからはずっと理央と二人きりだ。それが在るべき状態? あの頃に戻るだけ。二人だけで生きていた、あの頃に、戻るだけ。それが神によって為されたことなら、確かなのかもしれない。彼がいたから、失って苦しい。彼がいないのなら、もう失うことはない。二人で、二人だけで、お互いだけを大事にしていけば、それでいい。他人を守ることはできなくても、理央なら命に代えても守れる。守ってみせる。そうするだけで、あの頃の安らぎを手に入れることができる。それは神が与えてくれるもの?

「奈央さん、貴女は“それまで”に還るだけでいいんです。あとは、お兄様だけのために尽せばいい。彼を愛し、彼に愛されなさい。そして、大いなる神に愛されたことを感謝し、神に報いなさい。優しさを忘れないことです。その優しさを神は愛したのですから」
「理央、だけに、優しく?」
「ええ。そうすれば神は必ず貴女を方舟へ乗せてくださいます」

 『方舟』。その聞きなれない言葉に奈央は首を傾げる。相手がクスリと笑ったので、すみません、と自らの無知を詫びた。

「いえ、いいんですよ。……そうして神の思し召し通りに生きるだけでは、魂は救われないのです。この地上では、生命に限りがありますでしょう? けれど、神の御名の下に等しく救われるべきすべての魂は、この大地からの永遠の解放を望んでいます。神は、そんな私達の魂を大地の縛りから解き放ってくださるのです。神を信じれば、私達の魂は方舟に乗って還ることができる」
「……かえる?」
「そう、還るのです。“楽園”に。魂の永遠の安息が約束された場所。苦しむことや悲しむこともない永遠の幸福と安らぎを得られる場所。すべての始まりの場所。貴女のお兄様と、貴女が、いちばん安らいでいた頃のまま、愛に満たされたまま、終わることなくそれが永久に続く世界」
「えいえん、に、ですか……?」
「ええ。今の貴女方の苦しみは一時的なもの。あとは、大地の縛りの終焉を待てばいい。貴女はお兄様だけを心から愛することで、神を信じることで、必ず神に救われる。――優しい貴女がこの大地でずっと苦しむ必要はひとつもないんですよ、奈央さん。貴女は、本当に大事な人と、永遠の安らかな生活を送るべきです」

 奈央は、ひとつも疑うことなく相手の話を聞いていた。相手があまりにも理路整然と話しているように見えたから、この話の中に疑う余地などひとつも見出さなかった。
 更に、信じ始めている自分も全く疑わなかった。苦しくて、とても疲れている。相手がそれに理解を示してくれて、労いの言葉をかけてくれて、もう二度と苦しむ必要などないのだと言われれば、その一つ一つの言葉は染み入るように奈央の心の中に入ってきた。

「お兄様も、苦しみから解き放たれたいはず。苦しみから解放される時が来るのなら、その時は貴女と一緒にいたいはず。貴女のためだけではなく、十分に苦しんだお兄様のためでもあるんですよ。神は必ず救ってくださいます。神を信じれば、必ず。貴女方の苦しみは一切取り除かれる」

 相手は、本当に、天使のように、笑った。


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2007.12.28(Fri) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

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