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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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大和を擬似タっくんとして紗央と絡めるのが大好きな私。






「もうすぐ六月ね」
「意外と早いもんですねー」
「で、あんたはどうしてわざわざこんな素敵な貸切の時間帯に来るのかしら? 健康な男子高校生がこーんな早起きなんてジジイ以外の何者でもないわよ」
「うっわー、それ自分で墓穴掘ってるってわかってます? そのジジイと一緒にこの場にいるそっちはババア以外の何者でもないですよ」
「……あんたってほんっっっとにムカつくわね」
「そうですか? 俺はそう思ったことないですけど」

 紗央が喫茶店でパイ生地を練り始めた時、ドアベルが鳴り、扉が開いた。時刻にして午前六時。自分の出勤も相当早いと思うが、こんな時間にこんな場所にある喫茶店に入ろうとする客の方が余程珍しい。開店前なんですけど、と言おうとした紗央の動きを止めたのは、その人物だった。
 芹沢 大和。丘の上にある私立高校の三年生、と紗央は記憶している。華道の一流派の跡継ぎ息子。姉がひとりいて、そちらが跡を継ぐとかいう話も聞いたことはあるが、未だに男子の力が強い旧家でなかなかそれは許されないだろうと思う。大和のことは、諸々のことが原因で、よく知っている。
 大和は「別にお茶しに来たわけじゃありませんから」と爽やかに言い、カウンター席に腰掛けた。そうして今の状態がある。

「調子、いかがですか?」

 唐突に大和が発言し、紗央は眉を顰めた。

「意図が読めないわね。ぼちぼちでんなー、とでも言えばいいわけ?」
「調子聞いたらまずかったですか? 一時期は元気がなかったようでしたけど、今はそれほどでもないな、と思いまして」
「わざわざそんな話をしにこんな時間にこんな所まで? おぼっちゃまには悪いけど、帰ってもらえるかしら? まだ開店前でこっちも忙しいの」

 わざわざそんな話を蒸し返すために来たのなら、大和を殴ってやったっていいと思うくらいだった。みんな、やっと癒え始めた傷を抱えて歩こうとしている。それをわざわざ抉るような真似をするのは、非情にも程がある。
 確かに、少し前まで調子は悪かった。薬がなければ眠れなかったし、立ちくらみもしょっちゅうあった。血を見るのが怖くてしばらく生肉や魚の調理ができなかったくらいだ。でも、段々治ってきた。段々と、時間が傷を癒していってくれた。

「紗央さんはもう動けるのかもしれない。こうして朝早くから仕込みをできるくらいには回復したんでしょう」
「だから、」
「まだあの日から動けない人がいるでしょう?」

 はっとして、作業の手を止めた。 
 大和は可笑しそうにくつくつと喉を鳴らして笑う。それで、彼の来店は善意で行われているわけではないことを知った。本当に、人でなしだ。

「ねえ、紗央さん。理央先生が変なんですよ。知ってました?」
「理央、が?」
「そう。……うちの学年の先生たち、最近会議多いんですよ。流風って先生にバンバン質問するんですけど、その会議のせいで捕まらないこと多くて、この前たまたま理央先生見つけたから質問したらしいんです。その時に流風、学年会が多くて嫌だ、って愚痴ったんだとか」

 それがどうしたのか。
 紗央は黙ることで続きを促す。

「分からないですか? 人手足りないんですよ。一人減ったから」
「あ、」
「空先生が死んで、理央先生が酷く体調崩して長いこと休んでたの皆知ってるから、そういう話題に触れないように気使ってるんです。学年会が多いってのも遠まわしにそれ言ってることになるから、流風も不味いなって思ったらしいんですけど、……おかしいんですよ、理央先生」
「……何が、おかしいのよ、何が!!」

 焦れていた。
 自分が双子から目を逸らしている間、二人がどうなってしまったのか。
 自分の痛みを癒している間に、二人の傷がどうなったのか。

「自分で言ったらしいですよ。人手が足りないから仕方ないだろう、って。思ってても誰も口にしなかったことを、自分で言ったんです、あの人。もちろん、うちの学校元々教員が少数精鋭な面あるんで、そういう意味で言ったのかもしれない。けど俺はそうじゃないと思ってる」

 理央は、小さいことで折れやすい。何年生きても図太くなれないのだ。だから、それが前からの事実であったとしても、人手が足りないなんてことをさらりと言えるわけがない。奈央はともかく、理央はそういう人間だ。
 春とも夏とも言えない微妙な室温で、パイ生地がぐにゃりと柔らかくなった。また冷やしてやり直さないと。でろんと柔らかくなってしまった生地をラップに包みながら、紗央は口を開く。

「あんたみたいな人間が、それだけの不確かな情報でわざわざ来るわけないわよね? 何持ってきたのよ」

 待ってました、とばかりに大和が笑った。

「奈央さん、宗教の餌食になってますよ。本当にいるんですね、ああいうのに引っかかる人」

 数枚の写真をバッグから取り出し、カウンターに並べる。体を乗り出して見てみると、黒い服に身を包んだ奈央が怪しげな講堂に入っていく姿が映し出されていた。
 見慣れない建物だ。この辺ではないだろう。

「理央先生と奈央さんは俺にとってもお客さんですからね。ちょっと調べてみたんですけど、理央先生の態度もこれで合点がいきましたよ。二人とも最近、黒ばっかり着てるし、何より、距離が近すぎる。普通の兄妹じゃ在り得ない」
「あの子たちの距離が近いのは、いつもの、ことでしょう?」
「目、逸らしてるでしょう? 今までもあの二人は近かったですけど、最近は異常ですよ」

 大和は嬉しそうに笑っている。本当に、善意ではないのだ。ただ、二人が今までと違っておかしくなったから、面白い。それだけ。それを報告するためだけに、わざわざこの時間、人のいない時間を見計らってやってきたのだろう。
 しばらくの沈黙の後、再び大和が口を開いた。

「紗央さん。もしも話をしましょうか」
「……何よ」
「あの二人に子供が出来たら、それは法的にどんな位置づけになるんでしょうね? お互いの甥か姪か、ご両親からしたらどっちも孫ですか。不思議ですね」
「っ、ふざけないで!!! 何、何でいきなりそんな話になるのよ!? 兄妹よ!? しかも双子の! 距離が近いからってそんな想像してんの、あんた!? 信じられない!!」
「じゃあ、」
 
 どんなに紗央が声を荒げても、大和は動じない。紗央が動揺して声を大きくすればするほど、それは今の大和の発言を受け入れてしまっていることを意味する気がしていた。けれど止められない。

「じゃあ、あの二人に無いって言い切れます? 普通の兄妹なら絶対有り得ません。でも、あの二人ならわからない。傷を舐め合って、最後に繋がりを深くしてしまっても、全然不思議じゃない。知り合ってそう長くない俺がそう思うんですから、紗央さんはもっと現実味もって聞こえるでしょう?」
「……っ、ないわ。理央も、奈央も、痛いからってそこまで落ちぶれちゃいない。変な宗教に引っかかったり、自分たちが殻に閉じこもることで本当に救われるなんて、思ってないはず。デタラメ言わないで」

 そう強気を言ったが、カウンターの後ろの紗央の足は震えていた。有り得る。あの二人は苦しいことをきっと知らないから、失うことを知らないから、失った部分を互いで補おうとする可能性は、高い。辛いことを知らないから、目の前に何か都合よく自分を救ってくれるものがあるのなら、縋ってしまうかもしれない。弱った心は堕ちやすい。それは紗央自身、よくわかっている。

「……失う痛みは紗央さんもよく知ってるんでしょう? でも今ここでこうして有意義な生活を送っていられる。……よく思い出してください。一人で立ち直ったんですか? きっと違うでしょう? 一人だったらどうなっていたか、……あの二人と大差ないことになってたって可能性は?」
「っ、」

 そうだ。一人では立ち直れなかった。いなくなった彼が残した、一枚のポストカード。青い色なんて大嫌いなのに、紗央を怒らせるのを分かっていて置かれていたそれは、怒りと憎悪という感情を生み出し、その感情が確かに紗央を今まで生かした。失ったままでは生きられない。傷を舐め合うだけでは損失は補えない。だから、新しい感情が必要だ。兄妹が互いを愛するだけでは、きっと生きていく力にはならない。ましてやそれが、瀬川 空が存在していたということそのものに目を背けることになるのなら尚更だ。

「あんた、何したいのよ……! 理央と奈央が堕ちてるの見るの楽しいなら、こんなことあたしに言わなくてもいいじゃない!」

 気づかせる方が、生かす方が、きっと難しいし、辛い。宗教なんて、一度漬かってしまえば抜け出すのは容易でない。

「余計なこと、しましたか?」

 善意でないことは分かりきっているのだ。けれど、結果的にそれが二人を良い方向へ導くかもしれない。大和のしようとしていることが分からなくて、歯痒い。結局、紗央に動けといっているのだ。余計なことではない。現実問題、二人の一番身近で動けるのは紗央くらいなものだ。

「……あんたが困ってんの見んの好きなんだよな、俺。結構ときめくんだこれが」
「ルミに怒られるわよ、そんなこと言ってると」
「生憎と、あいつはそんな可愛い奴じゃないんだよ。俺が男と寝たって言ったって多分“あんたよくそんなこと報告できるわね”くらいでスルーする」
「いい彼女じゃない。せいぜい大事にしなさいよ、人でなし」

 もちろん、と爽やかに笑う大和を見て、紗央は舌打ちをするのだった。


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2007.12.28(Fri) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

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