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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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流風が笑えるほど一般人。





「なんかさ」

 大和が店を訪ねてから、何事もなく、というよりも紗央が何も事を起こさなかっただけなのだが、とにかく何も無く一週間ほどが過ぎた。
 最近はバイトとして仕事する回数もめっきり減った流風が、今日は珍しくウェイター姿で一言ぼやいた。紗央はクリームを泡立てる手を止めず、何よ、と問う。不思議なんだけど、と流風もまた、返す。

「理央せんせーがさ」
 
 そこで手を止める。
 その名前が出たからには、話をきちんと聞かないわけにいかない。聞き流すわけにいかない人物。

「理央が?」
「指に絆創膏してんの。絆創膏ってだけなら紙で切ったりカッターで切ったりするかもしれないから納得なんだけど、結構付け根に近いんだよな。しかもまめに換えてんだよ。血がすごい滲んでて、かなり深い傷なんだと思う。どうやったらあんなとこ切んだろうなって思ってて」
「……あいつ馬鹿だから。ぼーっとしてて切っちゃったんじゃない?」
「えー、それならあんた今頃指なくなってそうだけど?」
「はい坊や、それはどういう意味かしら? お姉さんにわかるように教えてくれるー?」

 何かと思えば些細なことだった。指を切るくらいなら誰だってやってしまうだろう。位置はともかくとして、指を切るなんてこと、絶対有り得ないことではない。そんな話よりも自分が馬鹿にされたことの方が余程問題だ。

「けどさ」

 自分の身の危険を感じたのか、流風が話と一緒に目線も逸らす。
 ははは、と茶化すように笑いながら、流風は続けた。

「単に怪我だったとしても、左手の薬指ってのが何かカッコいいよな。高い指輪はめてるより余程絵的に綺麗だと思わねえ?」
「……左手の薬指?」

 ――果たせない約束を、これ以上重ねる気なのか。それだけは許さない。約束は破るためにあるんじゃなくて、果たすためにあるのだから。
 手を止めたまま持っていたクリーム入りのボウルを置くと、紗央は帽子を取り厨房を出た。 

「流風、あたし帰るわ。店長来たら適当に言っておいて。明日はちゃんと来るから」
「は!? 給料もらってないからって自由奔放すぎんだろ」
「悪いわね。でも外せないの」

 紗央がこれから自分らしく生きていくために、どうしても必要なことだった。唐突であるとは思う、けれどどうしても外せない。今日を逃したら永遠に過去に縛られたまま生きてしまう気がする。
 これ以上約束なんてさせない。それは現実から目を逸らすことだから、紗央から目を逸らすことだから、許さない。今以上を妹に捧ぐなんて、許さない。これ以上約束を重ねるつもりなら、紗央も目を逸らすことをしない。とても面倒だけれど、それがお姉さんとしての役割なのだろう。



 事情が事情であったが、そのために長く続いた休職から復帰した奈央はいくらか吹っ切れた顔をしていて、その顔を最初に見た時要は少なからず驚いたものだった。無理をして笑っているのかもしれない、一時期はそうも思ったけれど、そうではないということと違和感に気づき始めるのに長い時間はかからなかった。
 理央との距離が近くなりすぎているということを始め、毎日毎日やたら機嫌がよかったり、服の趣味、というかそもそも黒ばかり着るようになったり、おかしな様子がずっと続いていた。それで、瀬川 空というひとりの人間の死から吹っ切れたというよりは、死どころか彼が存在していたことさえ奈央の中では無かったことになっているのではなかろうかと気づいた。弱りすぎていたことには気づいていたが、ここまで堕ちるのが早いと誰にもどうしようもなかったに違いない。
 あの日、紗央に忠告とも言えない進言をして、睡眠薬を処方した。それでも紗央の調子が戻るのには時間を要し、精神的に彼女自身が回復したと自覚できてからすぐに紗央は双子の元に向かったようだったが、

『私達、大丈夫だから。紗央ちゃん、今日は帰って?』

 そうして帰されたという。追い詰められた様子もなく穏やかな口調だったために、それ以上突っ込むことはせずに紗央は引き下がった。その日も奈央は黒い服を着ていたらしいが、空が死んでちょうど一ヶ月だったこともあってそこまで気にしなかったのだろう。
 そして今も奈央は機嫌がいい。要はそれについて深く聞くことはしない。こなす仕事に支障をきたすのならそれは問題だが、手際のよさはこれまでと何ら変わりない。寧ろ、更に良くなっているくらいだ。深入りするつもりはない。堕ちるも這い上がるも自らの選択。堕落の心地よさを味わいたいのなら、それも自由だろう。その選択に言及する権利を、他人は持たない。だが、空気が長続きしないのだ。普段もそこまでたくさんしゃべることはなかったが、空気がとても固い。以前は奈央の方からよく話しかけてきたものだが、今は勤務時間が終わることの方が余程重要らしく、仕事をこなす上で必要な会話以外はすることがない。
 だから、気まぐれに一言だけ要は声を掛けた。

「機嫌がいいな」

 客観的な事実を、そのまま述べただけだった。
 話しかけられたことに戸惑うわけでもなく、奈央はそれまでと一切変わらない笑顔で、はい、と返す。

「お友達が、たくさんできたんです。みんな同じ気持ちだと思うと、嬉しくて」
「そうか」
「今日も会いに行くんですよ。みんな黒い服を着て、何にも染まらないんです。それが信じ続けることの証なんです」

 無視するように要は机に向かった。ああなっては例え今から誰かが救おうと思っても簡単にはいかない。不可能である可能性も高い。
 表情だけはにこやかで可愛らしい笑顔なのに、空気が一切笑っていない。そこに誰かが入り込める余地を持っていない。奈央が真剣に話せば話すほど、要にはその様子が滑稽に映る。

「すごく素敵なところなんですよ。要さんも来たらいいのに」
「遠慮しておく」

 そこだけは完全に否定する。冷気を纏った奈央は不愉快そうな表情ひとつせずににこやかな笑顔のまま、そうですか、と答えた。巻き込まれるなんてごめんだ。それでこの態度を薄情だの冷淡だの言われようと一向に構わない。傍から見ていてとても奈央は痛々しいのだが、それが彼女にとって何らかの意味を持つのであれば、それも仕方の無いこと。
 それ以上は、ひとつの会話もなかった。



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2007.12.28(Fri) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

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