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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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14





紗央がだいぶ可哀想で、だいぶ好き。
お姉さんしてる紗央は可愛いなと思うんだけどなあ。








 パスタを食べ終えた後の皿を洗っている時、雨が降り出した。
 テレビから流れる天気予報。明日の日付には、ついに六月が顔を出した。
 これから一週間、嫌な天気が続くらしい。とは言っても、洗濯物を乾かすのに困るくらいで、雨が降れば仕事も大体暇になるから紗央にとってはデメリットばかりではない。
 蛇口を捻って、洗剤の泡を流し落としてから、水をよく切った。そんな作業の音と混じって、慌しく廊下を走る音がする。雨に降られて急いで帰ってきた人がいるのだろう。ご愁傷様なことだと思った。そう思ったのも束の間、音は紗央の部屋の前でぴたりと止まり、すぐに激しくドアを叩く音と、悪戯のように連続して鳴らされるインターホンの音が響いた。
 これで出てみたら大和の嫌がらせ、とかだったら絶対殺す。黙っていてもよかったのだが、生憎とこういった悪戯を耐え忍ぶような高尚な精神は持ち合わせていない。
 紗央がドアに近づくと、扉の向こうの相手もその気配を察したのか、ドアを叩くこともインターホンをならすこともやめた。あのうるさい音がいきなり鳴り止んで、不気味なほど玄関は静まり返った。

「……私だよ、紗央ちゃん。わかるよね?」

 小さな声だったが、はっきりと聞き取れた。
 こんな夜中に、ひとりで? そうは思ったけれど、相手は奈央だ。この前、理央も分かってくれたようなことを言っていたし、あの日から時間は経っているけれど、何か話したいことがあるのなら聞いてやらないと。
 ドアを開く。理央がきっと自分で動いて、いつもの奈央がそこにいることを期待した。
 けれど、ドアの向こうにいたのは、葬式のときのまま、似合わない真っ黒な服に身を包んで、傘も持たずにずぶ濡れの、空の死以来ずっと会っていない、従妹だった。
 奈央の表情は暗かった。薄く開けたドアを力任せに大きく開いて、内側に入ると乱暴に閉め、黙り込む。
 表情はとても暗いのに、笑っている。そのギャップが大きすぎて、あまりにも奈央の放つ空気はぴりぴりしていて、息も詰まりそうだった。

「……ねえ、何言ったの? 何、適当なこと言って、理央のこと惑わそうとしてるの?」
「惑わす、って、そんなこと、」
「いつもそうだよね。間に割り込んで、勝手に悲しそうな顔して、理央は優しいからそういうの見過ごせないの。でも分かっててやってるんでしょ? 私のこと嫌いなんだよね? でも理央はお気に入りだから私から引き剥がしたくて仕方ないの。汚いよ」
「……誰に物言ってるのよ。甘ったれないで!! 理央がお気に入り? はっ、馬鹿なこと言わないで。理央なんかいくら見限っても構わないの。誰のために言ってやってると思ってんの!」

 確かに理央は大事だ。紗央の精神安定上、存在がどうしても必要。けれど、だからといって奈央を蔑ろにするつもりなどない。そう思って紗央が声を荒らげても、奈央は笑顔を崩さなかった。

「じゃあ見限ればいいじゃない。理央なんてどうしようもないんだよ? 私のこと大好きでしょうがないの。わざわざ手を煩わせることじゃないよ。それに、私と理央と、二人とものためを思って言ってくれたっていうなら、私に話してくれたってよかったじゃない? 理央だけが悪いと思ってるの? 違うよ、理央が悪いなら私だって悪いの。ずっと二人だけで生きてきたんだから、二人一緒なんだよ。結局、理央を私から引き剥がすために、適当なこと言って、私から理央を奪って、自分勝手に一人だけ幸せになろうとしてるんでしょう? ねえ、私から理央  奪うの?」

 多分、奈央は自分でも何を言っているかよく分かっていないのだろう。
 最後の一言に紗央は目を見開いた。こんなにも苦しがっているのに、どうして誰も助けてやれないんだろう。辛くないはずないのに。半年でも、一年でも、何年でも悲しんでいい。理央のために悲しめないなんてそれはおかしな話だ。瀬川 空は、誰よりも奈央を愛してくれた人。理央とは比べられないレベルで、奈央のことを想っていた人。初めて、奈央を妹じゃなく鈴城 奈央という個人として認識した人。最後までその姿勢を崩さなかった人。そんな彼を、奈央だって誰よりも好いていたはずなのだ。

「奈央、そんなんじゃない、そんなことしない、誰もあんたから理央を奪ったりしないから! 理央だってそんなつもりないんだから!!」
「何、言ってるの? 張本人のくせに変なこと言わないで、理央だけは渡したりしないんだから……!! 醜いよね、流石呪われて忌み嫌われてるだけあるよね、理央はそんなあんたにも優しいんだ、小さい頃からそういう人だったから。ねえ、だから未練がましくそれ、持ってるんだよね? ねえ」

 ねえ、と語りかけながら、奈央は紗央の胸元を見た。
 服の下には、確かに未練がましく持っている玩具の指輪がある。どうしても手放すことのできないもの。奈央が一歩紗央に近づく。紗央は合わせて一歩後ずさろうとしたが、それよりも早く奈央の左手に首のチェーンを素早く掴んで引っ張られる。それがものすごい力だったので、そこでようやく紗央は、恐怖らしい恐怖を覚えた。その恐怖を更に増幅させたのが、奈央の右手に握られていた、
 
「な、お、何、それ、」
「救われないよ」

 聞いても、答えになっていなかった。
 首にかかる銀色のチェーンを引っ張ったまま、奈央は大きくそれを振りかざした。

「元々呪われてる紗央ちゃんなんかに理央は渡せない。紗央ちゃんがどれだけ理央を欲しがっても、理央はそうじゃないもの。理央には私がいなきゃダメなの。だから、私と理央の邪魔、しないで!!」
 
 張ったチェーンに、奈央の握る物の刃が当たって、ぶちんと切れる。ついでのように切っ先が紗央の肩に触れて、傷を作った。

「奈央、何、やめて、」
「理央と私をこれ以上苦しめないでよ!! 私達は救われるんだから!! 二人だけで生きていけるの、最後には救われるから、生きていけるの!! かみさまは私達を見放したりしない、あんたなんかじゃなく、かみさまは私達だけ見ててくれてるの!! もうどっか行ってよ、理央に近づかないで、」

 もう何がなんだかわからなかった。
 奈央は完璧に紗央を傷つけるつもりで、右手を振り回す。何度か先端が腕に当たり、髪に当たり、その切れ味を発揮した。
 理央って本当に使えない。自分で動いた結果がコレ? 楽園でも地獄でも行っちゃいなさいよ、もう。
 諦めにも似た感情だった。理央も馬鹿ではないから、それなりに考えたのだろうとは思いたい。けれどその結果、害がこちらに及ぶなんて最悪だ。そう、最悪。このままじゃ本気で殺される。でも突き放せない。奈央が苦しいのがわかる。失って苦しいのが、わかる。でも、死にたくない。もう一度逢うまでは、絶対に死ねない。でも、でも。振り回される銀色の刃を前に、ゆっくり考える時間などない。どちらかに決めなくては。屈するのか、この馬鹿な従妹の目を、自らの命を賭して覚まさせるのか。

「……理央には荷が重すぎたわね、まったく」

 最初からこっちに釘刺しておけばよかった。こっちの方がいろんな意味で賢いんだもの。
 ふう、と大きく息を吐く。所々の浅い傷が痛むけれど、そんなこと気にしちゃいられない。これからもっと大きな痛みがきっと来る。もう避けようと思うのをやめて、その場に直立すると、チャンスと言わんばかりに奈央が切れ味の良過ぎるそれを両手に持ち替えた。うわあ、刺さってる。客観的にそう思ったのは、あまりの痛みと熱さと衝撃に、主観がはたらかなかっただけ。奈央も人の子だ、躊躇くらいするだろうと思っていただけにショックも大きかった。
 
「う、……奈央、っ、聞きなさい、」

 左の脇腹に刺さった刃物を乱暴に引き抜かれる。それにしても切れ味が良過ぎる。是非ともキッチンに一本は欲しい代物だ。
 
「楽園だかなんだか、知らないけどね、……ここまでして、救われるなんて思わないわよね……!?」

 すべての禁忌を犯して、救われるはずはない。
 ほら見なさい、綺麗な手だったのにそんなに汚れてる。

 紗央には神様なんてついていない。見放されてばかりだ。
 けれど、双子にはついていてくれたっていい。存在なんか信じちゃいないが、奈央が信じるのなら、それはそれで構わないと思う。
 でも、ここまでのことをして、それでも救ってくれる存在があるというのなら、そんなの神じゃない。信じちゃいないけど、もしいるのなら、そこまで心広くないだろう。近親相姦して、人殺し手前まできて、それでも救ってくれるってんなら、そんな奴より先にあたしを救って頂戴。取りあえず今すぐ。半端じゃないくらい痛いから。

「あたしがいるうちは、まだゆるし、て、あげられるから……! 誰もあんたから理央、取らないから!! だから、目、さまして、贖いなさい……!!」

 奈央は赤く濡れて光る刃物を持って、二、三歩下がった。

「あ、紗央、ちゃ、」
「……あ、たしは、あんたたちの、お姉さん、なんだから、」

 紗央の場合、そうだった。
 失ったけれど、とても痛かったけれど、あんたたちのお姉さんなんだから、わかってたから、救われなくても生きてこれた。
 救われなくてもいい。魂なんて概念、どうだっていい。この世で精一杯生きて、辛いことが四割でもそれなりの幸せが六割を占めるなら、魂がその後救われるかどうかなんて、今の自分には知りえないことなのだ。
 だから、楽園なんてなくていい。

「ここにあたしは、ちゃんと、いるから」

 それだけわかってくれてれば、二人がひとつになって孤独になることなんて、ないでしょう? 紗央は精一杯微笑んだつもりだったが、奈央から見れば痛みで引きつっているのだろうと思った。
 



 だいぶ痛む、そう思っても、こういう時ってどうすればいいわけ? と冷静に思ってしまう自分に、紗央は笑った。こういう時なんて後にも先にもきっとないだろうから、自分ひとりで冷静に対処できるわけがない。あたしって馬鹿だったのよね、と今更のように思い出す。
 奈央は、血を見て震えて、そのまま部屋を出て行った。ここにいたことなど誰も言わないだろう。紗央が公言しない限り。このままで行くと、数日後に遺体を発見、なんてことになりかねない。

「……いいわ、別、に……」

 その覚悟もあったことだし。
 いきなり死体なんか出てきたら報道くらいされるだろう。それを見て、「死亡したのは鈴城 紗央さん」なんて名前を読み上げられて、夜勤明けの朝、軽く食事を取りながらニュースを聞いた彼がびっくりして、自分は何てことをしたんだと悔いて、葬式にでも来てくれたら満足だ。まだ意識があるうちに何か手紙でも残しておこうか。葬式に参列なんかしたら絶対化けて出てやるけど。

 その方が、彼に会える可能性が高い気がして、泣けてきた。もちろん体の痛みも伴って。

 デニムのポケットに入れていた携帯を取り出して、血に塗れた手で電話を掛ける。
 三回のコールの後、相手はすぐに出てくれた。

『珍しいですね』
「……あん、たの、声じゃなきゃ、嫌なの」

 あんたの声はとても似ているから。だから敬語を使われるとくすぐったいけど、それでもあんたの声の調子を聞いていると、とても落ち着く。
 思っていてもそんなに多く喋れそうにはなかった。

『……どうかしたんですか』
「っ、う、したわよ、大、惨事、よ……」

 苦しくて咳き込む。初めて口から血なんてものを吐き出した。なんか本当に死ぬかも? どうしてこんなに他人事なのかと思うくらい、苦しむ自分を、紗央は遠くから見ていた。

『119番でもしますか? それとも110番?』
「あ、はは、そう、ね、銃刀法違反、で、捕まえればよかった、の、かも……。それと、救急車、は、勘弁して」

 自分なら赦してやれる。まだ、許してやれる。
 こんなこと、奈央はひとつもしたくなかったのだと、信じてやれる。
 目を覚まして贖ってくれるのなら、この痛みくらい抱え込める。

『じゃあ行きますよ。俺に電話くれるなんて本当に珍しい。鍵開いてますよね? 借りなきゃならないとなると大事になりますから』

 うん、と力なく頷く。
 返答が相手に届いたかどうかはわからなかった。

「あんまり、責めないで、あげて。あの子、理央までうばうの、って、言ったから」

 半狂乱になって捲し立てた言葉たち。早口で、けれどその言葉を逃してしまっていたら、紗央は刺されてもいいなんて思うことはできなかった。

 [私から理央まで奪うの?]

 一番悲しく響く言葉。ちゃんとわかっている。逃げたくても逃げたくても、存在し得ないものを信じようと躍起になっても、本当に彼のことが好きだった記憶からはどうしても逃げられなかった。そんな奈央を可哀想だとも、愛おしいとも、思う。電話からは、甘いですね、の一言。それもわかっている。厳しくなりきれない。最初から最後までそうだ。奈央にチェーンを切られて飛んでいった小さな指輪、そのトップに鈍く光る青いガラスが、こちらを見ていた。

『他に何か、欲しいものは?』

 手に力が入らなくなって、それでも必死に電話を耳元に押し付けて、

「……気の利いた言葉、ちょうだい」

 とだけ言った。
 相手は少しの間を空ける。すう、と空気を吸い込む音。紗央は相手の言葉を、待った。

『……おやすみ、紗央』

 ……確かに、それが一番気が利いている。
 通話を切るよりも先に、紗央の瞼が落ちた。


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2007.12.28(Fri) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

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