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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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16 (これがラスト、これでラスト)



ふう。







 あの紗央でも、刺されれば倒れるということか。

 
 電気をつけないままの暗い部屋で、理央は他人事のようにそう思った。それ以上思うことは許されないように感じた。
 電話をかけてきたのは何故か芹沢 大和だった。おそらく非常事態だろうに、能天気に笑いながら話すので、怒るとかいうよりも驚いてしまった。紗央はそこまでされて、まだ奈央を追及する気はないという。俺には厳しいくせに、何で奈央にはそこまで甘いんだ。そう思えないこともなかったが、それが紗央のとんでもない優しさであり、短所だと思った。

『近場だから例のクリニックにでも運ばせてもらおうと思ってます。生きてたら来てください』

 それは紗央が、ではなく、理央が。
 
『うちの車、残念ながら救急車じゃないんで。あー、色から言えば霊柩車にはなれるかも? まあとにかく、これ以上面倒なことになると本気で空先生浮かばれないですからね』

 ああ、と返した。
 忘れれば楽になるなんて思ったのがそもそもの間違いだった。忘れようとすればするほど、あったはずの場所にない、と心が騒いで、余計に辛い。
 紗央を助けてくれてありがとう、と礼を言ってみたが、助かってから言ってもらえると後味悪くないです、と軽く返されてしまった。そうか、紗央まで失うかもしれないのか。失う感覚が麻痺しているらしい。どんな感情が恐怖で不安だったのか、うまく特定できなかった。
 空を恨みたくなってしまうほど、瀬川 空という存在の消滅が作り出した穴は大きかった。近しいとは言っても空以外の誰かだったなら、奈央はここまでにはならなかったかもしれない。
 理央は窓に歩み寄って、カーテンを小さく開けた。もう夜は明けそうなのに、雨が降り続いて暗い空が広がっている。家を飛び出したのは真夜中だということを考えると、戻らない奈央が心配で仕方なかった。刃物を持っているから、もしかしたらどこかで警察に捕まってるなんて可能性もある。
 紗央が赦せると言うのなら、自分だって奈央を赦すことができる。それどころか、本当に赦されたいのは理央の方。紗央がそこまでしたのだから、自分だって刺し殺されるくらいの覚悟はある。刺されるだけではきっと足りないくらいだ。

「!」

 鍵が回される音。
 扉の開く音。
 靴を脱いで、部屋へと上がる音。
 近づく足音は、いつものように間接照明のスイッチを入れることなく、リビングへ向かっていた。
 いつものようにぱたぱたと可愛らしいスリッパの音はしない。そもそもスリッパを履くことをしていないのだろう。ぺたぺたと、ゆっくり、疲れきったような速度で近づいてくる。

「……奈央」

 現れた妹の顔はひどく疲れきっていて、泣き腫らした目で、体はずぶ濡れで、見ているだけで痛々しい様子だった。あの明るくて可愛かった妹をここまでにしてしまったのは、一体何だったのだろう。
 奈央は理央の顔を見ると困ったように笑って、どうしよう、と呟く。暗い部屋に、曇った空の光が飛び込んで、奈央の瞳に涙が浮かんでいることを知った。

「……嘘つきなの、神様。ちゃんと私は理央だけ愛してたのに、こんな私はもう助けてなんてくれないんだって。言われたの。帰れって」

 それは嘘だろう、奈央。
 言いたくても、傷つきすぎた奈央にそれを言うことは酷なように思えた。
 俺だけ愛してたって、嘘だろう?
 心の中に誰がいた? 俺だけだった? もっとたくさんの人がいて、確かに俺は大きな部分を占めていたのかもしれないけれど、全部を考えることが苦しかったから、一番大きかった俺に絞ってただけだろ?
 奈央は辛そうだったけれど、神と呼ばれたものが奈央を拒絶するなら、その方がいい、と理央は思う。今は神なんて必要ない。縋れるものはまだ、ここにたくさんある。神に縋るのは最後でいい。或いは、最期まで要らないかもしれない。

「楽園なんてないの、私の祈りじゃ、楽園には、いけないの、紗央ちゃんが言ってた、全部禁忌だって。ここまでして救われるなんて思わないでって。……目を覚まして贖いなさいって。……でも、でもね、」

 奈央は、涙と雨粒でぐしゃぐしゃになった顔を必死で手で拭って、それでも笑おうとしていた。無駄なのに。これ以上は我慢できないと表情が訴えているのに。

「目が覚めても真っ暗なの、何も見えないの、それで、あたし、紗央ちゃんまで、そしたら、目が覚めたとしたって、どうしたらいいの!? 何に赦してもらえばいいの!? 理央もいなくなって、紗央ちゃんも、あたし、そしたら、あたしは、どこで誰に会えるの……!?」

 刺したんだよ、紗央ちゃんが邪魔だと思って刺したんだよ、紗央ちゃんがいたら理央までいなくなると思ったの、だからいなければいいのにと思ったの。
 また発作のように早口で喋る。けれど今度の早口は、自分で全部理解してのことだろう。ゆっくり言うには辛すぎて、でも言いたい言葉がありすぎて、溢れて止まらない叫びを、理央はひとつずつ聞いていた。ちゃんと、聞いていた。

「でも、でもね、紗央ちゃん、言ったの、あたしはお姉さんだから、って、ここにいるから、って、言ってくれたの、でも、紗央ちゃんのこと、あたし、紗央ちゃんがいなくなったら、もう、そしたら、あたし、」

 もういい、と言ってやりたかったが、奈央の言葉が止まる様子はなく、しばらく同じような言葉を叫ぶように言い続けて、

「……二人だけで行けるなんて、嘘だよ……。二人じゃないもん、紗央ちゃんも、空君もいなきゃ、そんなところ、嫌だよ……」
「奈央、」
「だから、」

 理央の言葉を遮るように奈央は続けた。
 それから、手にしていたバッグをどさりと落とす。
 右手に握られた“それ”はもう飽きるほど見たはずなのに、こうして構えて見ると何かとてつもなく恐ろしいもののように見えた。鈍い光を放って、それでも鋭い先端。あれが、紗央を。

「空君と紗央ちゃんがいるところが、らくえん、だよね……? ねえ、理央?」

 さっきまで泣きながらではあったけれど冷静に話していた奈央の瞳が、いきなり暗く澱んだ気がした。
 紗央はまだ、死んでない。そう簡単に死ぬような奴じゃない。本気でそう思っているし、伝えなきゃならないと思うのに、言葉が出ない。

「理央ももう、痛いの苦しいの悲しいの嫌だよね……? 私ももう嫌だよ……。もう嫌、痛いのも、苦しいのも、疲れるのも、全部嫌、理央と一緒に、空君と紗央ちゃん、に、会いに行きたいよ……!」

 奈央が、たんっ、と床を蹴った。
 見慣れたその刃が自分の腹に吸い込まれていくのを見て、ああ、紗央もこうだったのか、と理央は他人事のように思った。痛いというよりも衝撃が大きすぎて、しばらくは足に力を入れたまま、倒れることはなかった。刃物を引き抜いて取り落とす奈央は、悲しそうに笑っていた。

「最初から、それがいちばん、楽だったんだよね……? 最初からこうしてたら、全然、辛くなかったよね……?」

 自分たちは、世界を知らなすぎた。
 なかなか違う考え方に辿り着けないのだ。違う考え方なんて、所詮はIFに過ぎなくて、あるわけないことだからと目の前の存在ばかりに目を向けてしまう。神を信じたのも、妹に愛情を抱いたのも、広い部屋にいるのに価値観の視野が狭すぎたせいだ。
 妹は無知だ。自分も、無知だ。こうしていれば楽だったとは思う。あの日体調を崩して熱を出さなければ、辛いと感じたその果てに、こうして死のうとしたかもしれない。

「……なお、……おいで」

 さすがに力が入らなくなって床に膝をつく。すぐ近くにいる奈央を更に近くに呼び寄せて、理央は荒い息をついた。
 奈央はこうではないだろうが、確かに理央は奈央を愛している。それは昔からで、単なる庇護の対象から格上げするようにそういう存在になってしまった。奈央に対してこんな気持ちを抱いたことそれ自体は、あまり後悔はしていない。けれど、それゆえに壊れた奈央がこれ以上痛がらないように、そればかり考えて。

「……お前に痛い思いは、させたくない、よ……。……お前が考えてるより、すご、く、痛い」

 熱を持って全身を駆け巡る痛みに、理央は顔を顰めた。伝えないと。奈央の心の中には空や紗央、もっとたくさんの人がいるだろう。たくさんの人がいても、最後に奈央に本当のことを伝えられるのは、きっと自分しかいない。そんな自負があった。血を分けて生まれ、一緒に育ってきた。今も多分成長過程で、誰かがいなければとても生きてなんかいけない。
 痛い思いはさせたくない。そのために昔からこれまで、紗央を犠牲にした。紗央は未だに痛がっている。そんな紗央がいる。体の弱い理央にばかり構って、少しも省みてもらえなかった、今はもういない空だって随分痛がったはずだ。そんな空がいた。
 初めて知る痛みから逃げようとしたって、らくえんなんてところには行けるはずもない。

「っ、けど、お前は、もっと痛がれ、痛いことからは逃げなくていい、みんな一緒だから、俺を思って我慢することもないし、俺たちは、俺たちはもっと、」

 もっと、痛みを知るべきだったんだ。

「……りお……?」
「死なせない! そんな簡単に、逃げたら、それこそ瀬川に、なん、て、」

 死んでも会えない。
 紗央はお前を赦すという。俺だって赦せる。瀬川だってきっと、ひとつも責めちゃいない。あいつはお前のことが本当に好きだったから。
 全部言いたい。全部伝えたい。なのに血が失われるのがやたらと早いようで、自分の運の悪さを呪いながら、それでも腹に当てた血塗れの手を奈央の肩に乗せた。

「あ、……や、だ、理央もいなくなるなら、あたしだって死ななきゃダメなんだよ、理央言ったじゃない、双子は離れちゃいけない決まりがあるって、言ったじゃない、だから今までずっと一緒だったのに!!」

 嫌だ嫌だと首を振る奈央の頬に頭を擦り付けて、囁いてやる。

「馬鹿、っ、お、前がいるんだから、俺だって、いなくなるわけない、……双子は離れちゃ、いけないんだよ」
「でも理央、血が、紗央ちゃんみたいに、理央、り、」

 理央はそれ以上の奈央の言葉を許さず、文字通り渾身の力を込めて、奈央の腹に拳を入れた。床に倒れた奈央を抱き起こすことは体力的に無理で、理央も床に座り込むと、薄く開けてあったカーテンを引っ張って無理矢理開けた。
 雨が上がっていた。灰色の雲の間から朝日が硝子を突き抜けて、真っ暗な部屋を照らす。いつの間にか揃えられていた真っ黒な家具。以前は白で統一してあった気がするのだが、それももう定かではない。元々白かった部屋がこんなにも黒くなって、つまり自分たちは、どこまでも白に近かったのだ、と思い知らされる。

「……奈央、……あ、いして、る」

 長く伸びた奈央の髪を指で梳きながら紡がれる、酷く滑稽な五文字。ぎこちない発音。心からの言葉だったと奈央は知っていてくれるだろうか。それとも、一時の激情に流されただけと思うだろうか。どちらでもいい。どちらにしても、理央にとっては報われない片想いだった。奈央の心にはいつも空がいたことを、知っていた。
 大きく息をする。小さいくせにずるい、と理央は思った。奈央をここまで堕としてしまうほどの存在には、きっと勝てなかっただろう。
 奈央が目を覚ますのは何時間後だろうか。すぐかもしれないし、ここ最近眠れていなかったようだから、ずっと先かもしれない。ただ、叶うなら、ここから見える空一杯に青が広がっていますように。傍らにいる理央がどのような状態だったとしても、体を起こして、一番最初に、視界一杯の青空が広がっていますように。
 手を伸ばして、奈央の左手に触れる。薬指に未だにきつく巻かれている絆創膏を外し、自分の左手の薬指の絆創膏も、外す。一番最後に傷をつけたのは、いつだったか。……そんなことはどうでもいいのだ。とにかく、薬指の傷は、綺麗に塞がっていたのだから。


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2007.12.28(Fri) | eternal damnation | cm(0) | tb(0) |

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