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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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尻切れトンボ


 目を開くと、どこかの家庭の食卓の風景が見えた。四人掛けのテーブル、きれいに整えられたランチョンマット、中央には牛乳のパックが一本。四枚のマットのうち三枚にはそれぞれ盛り付けられたサラダと、スクランブルエッグにウインナーが二本ずつ。こんがり焼けたトーストが二枚。シンプルな洋風の朝食。よく見慣れた風景。俺はこんな朝食を、よく知っている。俺がよく知る部屋よりずいぶん手狭だが、それでもこの空気は、馴染みのあるものだった。

『朝ごはんできたわよー』

 台所から少し大きめの声で誰かを呼ぶ女。この声も、ガキの頃から嫌というほど聞いてきた。後姿はまだ若々しく、長くて艶のある黒髪をひとつに束ねている。赤いエプロン、いつもしてるのと同じやつだ。振り返った女の両目は青く透き通っている。この女は、間違いなく、俺を産み育てた母親だ。間違いなく、母さんの姿。
 どうやらこの部屋はアパートらしく、隣の部屋からどたどたと騒がしい足音が聞こえてきた。複数。少なくとも二人。スクリーンが、リビングにやってくる人影を映し出す。

『ごめん母さん、手伝えなくて』
『朝早いんだから、ゆっくり休んでおけばいいのに』
『そういうわけにいかないだろ。母さんだって早く起きて俺たちの弁当まで作ってるんだし』

 俺のよく知る制服。俺も着ていた制服。その制服を纏って、俺の母さんを母さんと呼ぶ、長身の男。聞いたことのある声。聞きなれた声。
 でも、なぜ、どうして、こいつがここにいて、母さんを母と呼ぶのか。

『気持ちだけで十分よ。炎而が頑張ってくれるから生活できるんだもの』
『よせよ。雀の涙みたいなもんなんだから』
『それを馬鹿にすると罰が当たるのよ』

 それはどう見ても、幸せそうな親子の姿。楽しそうに笑う母と、その子供。けれどあれは俺じゃない。俺ではない。あいつがここにいるわけないじゃないか、だってあいつの実家は京都で、こっちに下宿はしていたけどそれもうちじゃない。だから、あいつが母さんとこんな風に生活してるなんて有り得ない。どう考えたって有り得ないだろ!?

『あー!! お兄ちゃんまたひとりで株上げようとして!』
『そんなんじゃないし。みのり、リボン曲がってる』
『そうやって世話焼きのいい兄貴演じるし!』
『焼かれる方に原因があると思うけど?』

 あとからやってきた、中学の制服をきた女、それはどう見ても俺の妹、みのりだ。ショートカットの黒髪に、左目だけがアイスブルーの色を湛えている。あいつは俺の妹なのに、どうして、ここでは炎而を兄と呼ぶのか。

『おはよう、みのり。早くご飯食べちゃいなさい』
『おはようお母さんっ、言われなくともぱぱっといただきます!』

 みのりと、母さんと、そして炎而がそれぞれ食卓に着く。四人掛けのテーブルの一角は、まだ無人のままだ。

『あたしだって高校入ったらちゃんとバイトして、お母さんにお金渡すんだもん! お兄ちゃんにできるんだからあたしにもできる!』
『そんなの無理にしてくれなくていいから、やりたいことやりなさいよ』
『いいの! あたしとお兄ちゃんで頑張ってお金稼いで、お父さんとお母さんに結婚式してもらうの! お母さんのウェディングドレス姿、絶対綺麗だよ! ね、お兄ちゃん』
『そうだなー、どんくらいかかるんだろう』
『あんたたちそんなこと考えてくれなくていいってば』

 親孝行な兄妹に、嬉しそうな母さん。俺の記憶では母さんはもう結婚式は済ませているはずだし、写真だって覚えている。確かに若い頃の母さんが着飾った姿は、見れなくもなかった。
 ならここにいる母さんは、一体何者なんだ。
 その直後、玄関の鍵が外からがちゃりと開き、扉が開いた。

『朝っぱらから随分楽しそうじゃねェか』
『お父さん! おかえりー! 今ね、お父さんとお母さんに結婚式してほしいねって話してたの。お母さんのドレス姿見たいねって』
『着なくても十分すぎるくらいだけどな』
『お父さんには勿体ないよねー』
『一言余計なんだよお前は。どこで覚えやがった』

 みのりといつもと同じように話すそいつは、どう見たって俺の父親の桜井拓海で、口ではそう言いつつも嬉しそうにぐしゃぐしゃとみのりの頭を撫でる。
 この時間に帰ってくるなんて、夜勤明けじゃないな。第一作業着姿だ。こいつは、何の仕事をして、この時間に帰ってくるのか。
 立ち上がって父さんの上着を受け取りながら、お疲れ様、と母さんが父さんを労う。

『帰り早くなるなら連絡くれれば朝ごはん用意したのに。今作るから待ってて』
『いや悪かった。思ったより道路が混んでなかったんでな、急いで帰ればこいつらの顔くらい見れるかと思って』
『ほんと、親馬鹿なんだから』

 母さんも、嬉しそうに笑う。父さんが言う、こいつら、という集合に、俺はおそらく入ってはいまい。
 さっきみのりの頭を撫でたから、次に父さんは炎而に近づいて、みのりと同じようにぐしゃぐしゃに頭を撫でる。炎而は身を捩って嫌がって、しかし最後が照れたような表情を見せると、

『おかえり父さん、お疲れ』

 そう、言うのだった。






「混乱なさってますわね」

 声を掛けられて振り向くと、そこにはテーブルでティーカップに口をつける椿の姿があった。俺の目の前で起きていることは、俺が何を言っても向こうには響かない。スクリーンで上映されているようなものだ。ここが現実でなく、夢のような世界だということは何となく察しがついている。夢に椿が出てくるなんて運悪すぎるだろ、俺。
 いつの間にかこの部屋は赤い絨毯が敷かれており、空間の真ん中にテーブルと向かい合わせで椅子が一脚ずつ。カップから口を離すと、椿はこちらを見て軽く会釈をした。

「お掛けになってはいかがです? ええと、……お名前は何と仰いましたかしら」
「は? 何言ってんだお前」
「そう言われましても、何十回と出てくるみのりさんや樹理さんと違って、貴方は一度しかお目にかかったことがありませんから」

 俺の名前がわからない、という椿は全く悪びれる様子がない。こうなるといよいよ意味がわからなくなってくる。俺は知っているのに、お前は知らないなんてことがどうして起こり得るんだ。
 仕方なくため息交じりに椅子に腰かけ、「真紘だ、桜井真紘」と伝えた。

「では、真紘様。真紘様は可笑しくて仕方ないと考えておいででしょうが、私に言わせていただければこちらの方が余程正常です」
「は? 正常って、これがか? 炎而がうちにいて、俺がいなくて、炎而がみのりの兄貴やってるこの映像が?」
「ええ。嫌と言うほど見ましたもの。まあこれは珍しい部類に入ると思いますけれど。みのりさんも炎而様も揃ってここまで成長なさっていることは珍しいですから」
「……お前が何言ってんのかさっぱりだ」

 目の前でこうも訳のわからんことを言われると、いろいろ通り越して苛立ってくるのは間違いではないだろう。
 椿は俺の言葉に苦笑すると、軽くまた頭を下げて、「申し訳ありません」と謝った。謝罪がほしかったわけではないのだが。
 こいつは俺の知ってる椿じゃない。俺の知ってる椿は俺のことを様付けでは呼んでいないし(ずっと昔はそう呼ばれていたが)、まず俺の名前を知らないというところからもうさっぱり分からない。

「お前、俺の知ってる椿じゃねえな。なんなんだお前」
「貴方とは出会わない、芹沢 椿ですわ」
「なんだそりゃ。病院行った方がいいぞ」
「特別扱いは言うことが乱暴ですわね」
「は? 何が特別だって?」

 椿は慣れた手つきでポットからお茶を注ぐ。椿といえば俺と一緒で茶を淹れただけでカップにヘドロが生じるという天才的な腕の持ち主だが、どうやら夢の中ではそんな心配は要らないらしい。
 カップの中から紅茶のいい香りが漂って、遠慮せずに俺はカップを手に取った。

「まずここはどこなんだ。わけがわからん」
「ここに貴方がいるのは不思議ですけれど、……おそらく、二の次にされたのでしょう」
「二の次? 誰に」
「それはもちろん、」

 椿はスクリーンに視線を移す。薄々感づいてはいたが、俺も同じようにスクリーンを見る。
 そこには楽しそうに食卓を囲む家族の姿。椿の視線は、父さんに注がれている。

「桜井拓海様にですわ」

 何故、どうして。そんなのはもう言い過ぎたので椿もわかっているだろう。おとなしく説明を待つことにする。
 カシャン、と何かが割れるような音がした。見ればスクリーンの画面が切り替わって、どこか大通りの映像になった。そこに映し出されていたのは、青信号の横断歩道に突っ込むワゴン車と、何の落ち度もなく横断歩道を歩いている小学生くらいの子供。見事に衝突して、子供が何メートルも弾き飛ばされた。ワゴン車はそのままのスピードで走り去り、しばらくして、子供に男が駆け寄った。子供の名前を何度も何度も叫びながら、血だまりの中に膝を突く。見たこともないほど慟哭するその男はやはり、父さんで、即死であったろう子供は、よく見れば炎而の顔によく似ていた。さっきは、普通にメシ食ってたのに。つーかさっきは高校の制服着てただろ。

「……なんだよ、これ」
「桜井様は、あの子供を助けるためだけに何度も何度も何年もの時間をやり直しています。あの方にとって、炎而という子供が無事幸せに成長することだけが生きる目的なんです」
「……は? え、ちょっと待てよ、何で父さんが、炎而なんだよ。おかしいだろ」
「先ほども申し上げましたが、私にしてみれば貴方の存在の方が不思議です。桜井様がいつも幸せを願っていたのは、炎而という子供、そして結婚なさった場合は紗央様と娘として生まれたみのりさん。紗央様とご結婚されても、みのりさんが生まれても、どの世界でも桜井様は炎而という名の子供のことを考えていらっしゃいました」

 椿は俺に、事の顛末を話してくれた。この世界では話し相手もおらず暇なのだそうだ。
 桜井拓海は元々芹沢家の跡継ぎ息子、これは変わらない。父さんは窮屈さに我慢ができず、家を飛び出して桜井家に籍を移す。桜井家も名家ではあるが、名家での暮らしなんか飽き飽きしている父さんは奔放な生活をし、金が尽きると子供の誘拐を企てる。その標的になったのが京都のでっかい屋敷で暮らしていた、都筑家の跡取りの炎而だった。普通なら身代金払ってでも取り返すんだろうが、炎而は運が悪かった。その世界では炎而の父親は既に他界、炎而に家を継がせたくない奴らがこの事件をないことにした。つまり、跡取り息子の存在自体がないことになった。炎而は五歳だかそこらで実家に捨てられたわけだ。父さんは間違っても子供好きな性格ではない。金が手に入らないとなった時、やはり一度は炎而を山奥に捨てている。家に連絡しろと小銭を持たせ、公衆電話に置き去りにした。幼い炎而は実家に電話を掛けるが、そこではもう炎而はいないことになっている。途方に暮れて、それでも炎而はひとりで下山する。ガキの足で、長い時間をかけて、それでも泣き言ひとつ言わずに、ひとりで。
 父さんが炎而を見つけたのは、置き去りにしてから数時間後、麓でのんきにメシを食っている時だった。相当な山奥に置いてきたのに、子供がひとりで下山してくるなんて。さすがに責任を感じて炎而を保護して、都筑家に連絡を入れてみるものの、対応はやはり同じだった。
 父さんは仕方なしに炎而を引き取った。しばらくはただ一緒に生活していただけだったが、幼い炎而の記憶から実家や本当の両親が薄れていき、代わりに父さんが父親として刷り込まれた。それと同じ頃に、父さんも炎而の父親として生きていこうと決めたようで、ちゃんと炎而の戸籍を桜井に入れて、学校にも通わせるようになった。仕事もしっかり始めて、裕福とは縁遠かったけれど、父親として頑張って、どうにか炎而を真っ当に幸せにしてやろうと必死だったらしい。そのどこにも、俺は出てこない。桜井拓海にとって、息子は炎而ただ一人ということなのか。

「狭いアパートで、体格の大きなお二人が楽しそうに暮らしていらして、確かに外見も中身も似てはいませんでしたけれど、とても素敵な父子だと思っておりました」

 懐かしそうに、椿は目を伏せながらそう言う。
 父さんが何度も時間をやり直しているなんて、ファンタジーが過ぎる。けれど夢の中ならそんな戯言も悪くない。目が覚める様子もなし、話に乗っかってみることにした。

「そんな幸せそうな父子で、炎而が真っ当に幸せになったんなら父さんがこんなボランティアするわけないだろ。何があった」
「炎而様は、高校三年の時に家に入った強盗に殺されました。会ったこともない、母親と教えられた紗央様のお写真を守って。……どうしてこんないい子がこんな目に遭って死ななければならないのかと、どうしたらこの子を幸せに生かしてやれるのかと、どうして自分が守ってやれなかったのかと、それだけを考えてあの方が選択したのが、この繰り返しです。いつ終わるともしれない、ゴールがどこなのかどういうものなのかさえ誰もわからない、時間との追いかけっこ」
「繰り返しって、どこから」
「どこからでも。あの方は死神だか悪魔だかと契約を交わして、自分の寿命と引き換えに炎而という子供を救う道を選びました。彼が幸せになるためならなんでもしました。本当は一緒に暮らしたいけれど、それで彼が不幸になるのならと都筑の家から離さずに都筑炎而として幸せに育ってくれるならと、そこに至るまででも何年分をやり直したのか。けれど、どうやっても助からない。一緒にいても、離れても、遠くない未来に死んでしまう」

 それがもし本当なのだとしたら、父さんの頭の中には一体何年分の記憶と、何回分の炎而の死が記録されているのだろう。椿があまりにも沈痛な面持ちで言うものだから、なんとなく、感情移入してしまう。

「……でも、俺の知ってる炎而は、都筑炎而は、ちゃんと高校を出て、大学を出て、家を継いで、婚約をしてる。お前とだ、お前と同じ顔、同じ名前の芹沢 椿と」
「……だから貴方の生きる世界は不思議だと言っているでしょう。貴方のいる世界だから、そこは奇跡みたいなものに、私には思えます」
「俺がいるから?」

 今度は椿は悲しそうに笑った。目の前の椿は、俺の知る椿よりも随分大人びて見える。外見は高校生の頃のようだが、どうもずっとしっかりしているらしい。
 俺のよく知る芹沢 椿は、大人になろうと背伸びはしていたけれど、結局どこにも届いていなかった。お嬢様特有の思慮の浅さもあった。同じ外見でも中身が違うとこんなにも雰囲気が変わるものなのか。

「私は桜井様が繰り返した世界をずっと眺めておりました。あの方は本当にいろんな選択肢でのやり直しをされて、その結果、ほぼすべての世界でみのりさんは生まれるということが分かっています。桜井様と紗央様との子供ではなくとも、紗央様がご結婚されると、そこに生まれる最初の子供は必ず娘で、紗央様はみのりと名付けます。みのりさんは、桜井の娘ではなく紗央様の娘と考えた方が正しいでしょう。そして、桜井にみのりさんが生まれた場合、炎而様は必ず兄となる。幸せな生活ばかりではありませんでしたが、ずっと見ていた私にとっては、みのりさんの兄は炎而様、というのが普通の感覚です」
「こんな、どっからどー見てもあの二人の子供っつー俺が生まれないと。めでたい話だな」
「貴方が存在する世界は、貴方が知っている世界それひとつだけです。貴方の存在はこの流れの中で本当にイレギュラーで、だからこそ奇跡に等しい」

 樹理も、椿も、みのりも、父さんがやり直したどの世界でも、どんな形であれ存在する。存在しないのは俺だけで、俺の代わりにそこにいたのは炎而だということ。
 俺は一度しか存在しない。その一度を、父さんがどう思ったのか。

「最後の方は、炎而様を生かすために炎而様とは何年も、そして何回分も会わない生活を続けていらっしゃいました。顔も見れないのに、抱きしめることもできないのに、どうしてこんな苦痛を何度も繰り返さなければならないのかと絶望しかけていた時に生まれたのが貴方のようです。みのりさんが生まれるシナリオは何度も繰り返しました。ですから、桜井様の驚きと喜びは計り知れないものでした。どう見ても自分と紗央様の子供、しかも男の子。桜井様は炎而様を育てるように貴方と接し、貴方を愛し、それでも炎而様を忘れることはなかった。貴方が存在しただけで、桜井様の希望になった。貴方が二十歳の誕生日を迎えたとき、桜井様は遠回しにこう仰ったでしょう、『存在している以上に確かなことなんてない』と」

 それは、二十歳の誕生日に煙草を吸っていた時に、遠回しに言われた言葉だ。あの時は理解できなかったけれど、今なら何となく理解できる。
 父さんにとっては、俺が生まれることのできる可能性そのものが希望。だからこそ俺は二の次にされたというのか。俺はいつか生まれる可能性を確認されただけ十分だと。それより前に、炎而が生きることができる世界を確定させてやるのが先だと。
 それならば、目の前の椿は一体誰なんだ。いつも存在するのなら、いつも炎而と出会う可能性があるはずだ。炎而のことを、炎而様、と呼ぶ椿。俺の知る椿よりいくらか大人びているその声。

「……お前は、どこの、椿なんだ」

 俺の問いかけに、椿は微笑んだ。とても悲しそうで、今にも消えそうな笑い方だった。

「私も、ある意味では奇跡です。奇跡の落とし物」
「……お前は、俺の知ってる椿じゃない」
「わかっています。私は、一番最初の世界の炎而様が、命を奪われることなく生き続ける世界の椿です」

 一番最初の世界。
 椿が話した、父さんが時間の繰り返しを決意した世界。
 その炎而が助からないから父さんは繰り返し炎而を助けようとしているのに、助かる世界があるなんて、それは、なんて残酷な話なんだろう。

「炎而様は瀕死の重傷を負いますが、奇跡的に一命を取り留めます。桜井様が最初に望んだ未来そのものが、私のいた世界です」
「それならなんでお前はここにいる。炎而が助かったのならそれで話は終わるだろ」
「炎而様は助かります。この世界にたどり着けば、確かに桜井様にもいいお話なのだろうと思います。……けれど、」

 俺は想像した。けれど、で始まる世界の話。父さんには幸せでも、椿には幸せでない未来。椿が、こうして数多の世界を眺めていなければならない世界。
 椿の声。俺の知っている椿以上に、炎而を慕ってやまないのがわかる。炎而が幾度も命を奪われるところを眺めることしかできず、そして、父さんにとってのハッピーエンドも、きっとこいつにとってはどうしようもないバッドエンドなのだろう。
 そんなの、考えられる可能性は限られてくる。

「お前、あいつと付き合ってたのか」
「……私は、お慕いしておりました。炎而様とも、親しくさせて頂いておりました」

 気が付くとさっきのスクリーンは切り替わって、一番最初に見た世界のものになっていた。炎而が登校しているシーン。学校の近くで待ち合わせをしているらしく、角にひとりで突っ立っている。しばらくしてやってきたのが、椿だった。なんてことない会話をしながら登校する二人の姿は、俺が知っているこいつらと何ら変わりない。

「生きてんなら、俺の知ってる炎而と変わらないだろ。なんで、」
「変わります」

 椿はそう言い切る。真っ直ぐ俺を射抜く黒い瞳が、怒りとも悲しみともとれない感情を見せる。
 
「一命を取り留めなければ、彼は自分が桜井様の子供でないことを知ることはありませんでした。彼は自分の出自を知りますが、都筑に戻る術もなければ、彼自身にその意思もありません。自分の生まれがどんなものだったとしても、自分の父親は桜井拓海しかいないのだと言い切ります」
「そりゃ言いそうだし、言うだろうな」

 真っ直ぐで真面目な炎而ならそう言うだろう。十年以上親子として暮らしたのなら、今さらどこへ行くわけにもいかないだろうとも思うが。

「けど、父さんは炎而に真っ当に幸せになってほしいんだろ」
「真っ当な幸せというものに明確な基準は存在しません。ただ桜井様は、炎而様が理不尽に命を奪われることに納得がいかないだけで、その後の幸せについては炎而様自身が幸せと思える道を歩ければ良いと考えていたようです」
「……なら、炎而がお前を選ばなかったということか」
「そうです」

 スクリーンがまた別の映像を映し出す。そこに映るのは、俺のよく知る世界。現在の炎而と椿だ。なんかいろいろあったようだが婚約をして、結婚式も目前。高校時代から知っているやつのことだから俺もそれなりに嬉しいし、何より水希の兄貴――俺の義理の兄になるからっていうのもある。椿は椿でガキの時から知ってる親戚なわけだし。……まあ、俺の目の前にいる椿は、俺といとこ同士に当たるなんてこともどうだっていいんだろうし、知りもしないだろう。

「……彼は、お優しい方ですから。家に見放された、血も繋がらない子供を、戸籍の面倒も何もかも見て本当の子供としてこれまで育ててきてくれた桜井様を見放す、というか、離れて暮らすことはまるで考えられなかったのでしょう。私には家がありますから、そこも考えてくださったのだと思います。桜井様はそんなことは望んでいないと反対したようですが、これだけは彼自身が譲らなかった」
「一生、あいつは父さんとふたりでいるってのか」
「彼は、高校を出てすぐ就職をして、職場で出会った女性と結婚します。お子さんも生まれて、もちろん桜井様と同居をなさいます。それを真っ当な幸せと呼ぶことには、誰も反論しないでしょう」

 それは、この椿には辛い現実だったのだろう。炎而と別れて、きっとこいつは家のため他の誰かと結婚する。炎而も炎而で、家庭を築いていく。一生独身でいてくれたのなら椿もいくらか救われたかもしれないが、それは叶わなかった。それどころか、父さんにとっては椿のその後はどうだっていい話で、相手が誰であろうが炎而が結婚して家庭を持ってくれたということだけを見て満足したのだろう。

「……貴方の世界に生きる私が羨ましい。炎而様に出会って、自分でもわからないうちに恋をして、炎而様に手を引かれて、結婚の約束をして。炎而様から心から愛の言葉を頂けて。貴方の世界の炎而様が、そこに生きる私を本当に大事にしてくれるのを見て、泣きたいほどに胸が痛みました。私だって同じ芹沢 椿なのに、どうして同じように私のことは愛してくださらなかったのかと。わかっています、貴方の世界にいるのは都筑炎而で、私がお慕いしていたのは桜井炎而であること。でも、羨まずにはいられません。だからここでずっと見てしまう。炎而様が生き延びる世界があるように、私の想いも遂げることができる世界があるのではないかと、いつまでも、探してしまう」
 
 俺はよくわかっていないが、俺の知る椿と炎而は、俺の知らないところでいろんなことがあったようだ。
 俺が知っているのは、二人がいつも一緒にいたことくらい。気が付きゃ一緒に暮らしていて、気が付きゃ婚約していた。確かに長い時間をかけたのだろうが、それでも、自然に見えた。それは高校の頃から言われていたこと。とてもよく、似合いの二人だと。
 俺からすれば絶対願い下げな椿を受け入れて愛せるのは、あの性格の都筑炎而以外にはいないだろう。けれどそれは、椿が椿だからじゃなく、あの性格であの生き方をしてきた、あの芹沢椿だからだ。

「……俺の知ってるあいつらを羨むなんて無駄もいいとこだと思うけどな。確かに、お前と炎而の外見には変わりないが、中身は大いに違ってると思うぞ。椿だって、お前の方がずっと大人らしくて落ち着いてる、俺の知ってる炎而はあれで結構変なとこ抜けてたからな。……お前が欲しいのは桜井炎而なんだろ。父さんがどうしても欲しくて、でもたどり着けない世界にお前がいるんだから、お前にとってのそんな世界だってあるに決まってる」

 あるに決まっている、そう思う。父さんの望む世界に生きる椿がいるなら。たった一度しか生まれない、俺がいるなら。それを観測できるかどうかは別の問題だが、観測してしまったらきっと、幸せになれないのは自分だけなんだともっと惨めになるかもしれない。だからこいつのハッピーエンド探しは、あまりいいものじゃないんじゃないかとも、思う。それを止める権利は俺にはないから、そこまでは言わないけれど。
 椿は俺の話を、少しだけ目を丸くして聞き、それからまた、笑顔を作った。少しだけ割り切ったような、諦めたような表情。

「……存在自体がハッピーエンドの象徴みたいな人に言われても、惨めなだけなんですけどね」
「ひとこと余計なのは変わんねえのかよ、お前ら」
「いいえ、安心したんです」

 聞き返すより早く、椿が続きを紡ぐ。

「……桜井様は、炎而様を育てるように貴方を育てたのだと、分かりましたから」

 






尻切れなんですけどもう面倒になったので途中で切る。
これちゃんとやろうと思ったらシュタゲルート全部になりそうで……。


イレギュラーでタっくんにとっての奇跡の象徴である真紘と、タっくんが一番最初に求めた未来にいる椿。この椿はきっとすごく大人びてる。本筋未来の炎而くんと椿が学生時代取り戻しに来たくらいの感じ。
炎而くんはどこにいてもしっかりしてるけど、タっくんがかなりアレなんで、桜井バージョンだと輪をかけてしっかりしてそう。しっかりしてるイケメン(ただし貧乏)と、清楚で大人びてるお嬢様という組み合わせはおいしい。秋臼さん公式の、椿とはくっつかないってので考えてみたけど、椿がものっそい引きずりそうで笑った。結果、シュタゲルート介入してきた。メタ世界だけど。


タっくんはきっと炎而くんを育てるように真紘を育てたんだろうな、と思うと胸熱。
炎而くんあんな子と違うけど、みのりが生まれるまでの間はどの世界のみのりよりも大事に愛されて育ったと思うし、やっぱりタっくんにとって真紘ってすごく特別。みのりも合わせるとより特別。


真紘と水希ちゃんの結婚式で、タっくんと炎而くんがちゃんと話できるといいな。
親族はみんな控室で談話してるときに、タっくんはひとりで外で煙草吸ってて、そこにたまたま炎而くんが来るといい。
そこからなんか他愛もない会話をすればいいと思う。
「可愛い妹が嫁に行くと思ったら複雑だろ」とか、割とタっくんからしっかり話題振りそう。
真紘はタっくんにとっては生まれてくれたことが奇跡なので、自分で選んだように、好きなように生きてほしい。
それでもまあ、初めて子供を送り出すことになっていろいろ複雑な気持ちがぬぐえなかったりして。
あとは、椿と結婚する炎而くんのことも心配だし、なんだかんだその辺も聞き出しておく。
風哉くんはきっと、結婚そのものよりも相手が芹沢ってところにおぞましさを感じてて結婚の心配とかそれどころじゃないと思うから、タっくんがそんなことを気にしてくれて炎而くん的にはちょっと驚きがあったりして。
真紘の兄貴になるなら俺にとって息子も同然だろ、とか言わせたい。炎而くんなら、それなら水希の父さんは俺にとっても父さんですよね、とか言ってくれそう。



奥出先生の声、ほかにいないかなと思っていろいろ考えたら、ビタXの公民の先生とかそれっぽい。
ナレーションばっかりであんまりアニメ多くないから例が出せないけど秋臼さんはわかってくれるはず!!
そして最近謎の腹痛がやばい。

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2013.01.25(Fri) | 擬似親子 | cm(0) | tb(0) |

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