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軽石へちま

Author:軽石へちま
基本自キャラで凄まじく妄想してみる。
隠れ家なのでBLとか黒とか暗とか主。
キャラ崩壊必至。何とも思わないけども。
妄想についてこれる人だけどうぞ。

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過去編② 涙だけが知る恋




 恙なく異動は完了した。
 北エリアには空都の存続に欠かせない鉱山がある。刑務所に収容された囚人はすべてこの鉱山での発掘作業に充てられる。ここで発掘された燃料を、大工場で燃焼させることで浮力を得るのである。工場の従事者のほとんどは刑務所を出た前科者で、そう高くはない賃金で長く働かされている。浮力を生じさせるメカニズムなどは一般人が知る由もない。そういった専門的なことは空都のアカデミーがすべて担うことだ。
 刑務所はあるものの、北エリア自体がアングラな世界と解釈されているのか、後ろ暗い商売などはほとんどがここで行われているし、普通の繁華街でも他のエリアに比べれば違法性が強い。それもこれも、北エリア限定で黙認されているのだ。この底都は、いずれ海に沈む。それまでの間、他のエリアには影響を出さないようにするのが警邏の役割となっている。他のエリアではもちろん犯罪扱いの薬物の売買も、明確な法はないものの各自の判断に委ねられてしまっているし、売春にしたってどんな年齢であろうと本人の同意があればよいとされている。警邏が実質的に逮捕できるのは傷害や窃盗の場合だけだ。腐っている、と拓海は思う。
 拓海自身はあまり正義感の強い方ではない。北エリアでの勤務だって、そこまで強い憤りを覚えているわけではない。ただ、腐っているとは思う。着任した日に、パトロールを兼ねてエリアを見て回った。繁華街では普通の飲食店に混じって薬物が普通に売買され、薬物漬けの人間が何人も路地裏に転がっている。歓楽街ではみすぼらしい少女が身売りをしている。その眼がまだしっかりしていればいい方で、薬を使われすっかり表情の抜け落ちた子供もよく目にした。女だけではない、見た目がほんの少し中性的な少年も、そこにはいた。
 ここが一番ヤバい、と教えられたのは見世物小屋だ。このエリアの歓楽街には何軒もの見世物小屋があり、どこも人で賑わっているが、他のエリアで見られるような踊りや歌、芸の類はない。もう碌にしゃべることもできない女子供を見世物にして晒し、笑いをとることが目的の小屋だ。一番客の入りが大きい小屋は暗く細い路地にあり、それは酷いもので、散々薬漬けにして正常な判断も何もできない少女の指や腕や脚を客の目の前で切断していた。その絶叫を聞いて笑うことのできる人間を、腐っている、としか表現できない自分は人間としてきっとどこかが欠落している、と拓海は思う。その小屋の裏には、もう見世物としての役目が終わったとばかりに並べられた少女たちがいた。四肢がない、耳がない、目がない。それでもまだ少女たちは生きていた。心臓が動いているばかりに、その状態でもまだ生きていた。
 北エリアには、刑務所という特殊な場所があるため、職員用の宿舎が設置されている。拓海の住まいもそこである。金を出して部屋を借りるより安上がりだし、恨みを買いやすい警邏の隊員が一人暮らししているとなれば要らぬ危険を呼び寄せる可能性もある。刑務所の所員用宿舎はエリア内でも比較的安全な中央駅の傍にあり、交代で警備がついている。これ以上のセキュリティはないといってもいい。毎日の勤務が終わると中央駅の傍で夕飯を買い、宿舎に戻って食べて、寝る。これが東エリアや南エリアなら過ごし方も少しは変わったろうが、何せ常駐の辞令である。休日でも申請を出さなければ別エリアへ行くことは許されない。そこまでして別のエリアに行く理由もないので、休日は自然と宿舎にこもりきりの生活となる。
 汚い部屋で、拓海は思う。芹沢はきっと、この一年でチャラにする気なのだ。それはきっと、次男が優秀に育ったからだろう。次男が使えないのならもっと強制的に戻されるはずだ。だから、有事の保険として拓海を芹沢に戻したいのだろう。しかし自由を楽しむだけ楽しんで、それからぬるま湯の生活に戻すのでは何にもならない。だから一年間の罰を与えた。そんなところだろうか。そんなもの求めちゃいない。このままでいい。ずっとこのままだって問題ない。あんな窮屈な家にいるくらいなら、壊れた人間を相手にしている方が余程ましだ、と。
 けれど、そんな拓海でも、エリアをパトロールしていると毎日思うことがある。
 あの少女。東エリア、警邏隊の屯所の陰にいつもいた、美しい少女。長い黒髪、白磁のような肌、透き通った蒼の瞳はいつも力強く拓海を射抜いた。あの子だけは来てくれるなと。あんな綺麗な娘がこんなところにいたら、この狂った世界に何の文句もないはずの拓海自身もきっと、怒りに我を忘れるに違いない。四肢のない、虚ろな瞳の少女を視界の端に入れながら、そう思う。どうやら自分は自分で理解していたよりもずっと強く、あの少女に惹かれていたようである。





 拓海の着任から四か月ほどが過ぎた。この腐れきったエリアの警邏業務にも慣れ、毎日のルーチンワークをこなす。
 今日はたまたま北エリアでの勤務となっていた穂積がやってきていた。ひと月に一度くらいは北エリアで会う機会があったものの、拓海がエリアから出ることがないため毎回「久しぶり」という挨拶が定着している。

「やー、すっかり悪い顔になりましたねえ桜井サン」
「てめェのだらけっぱなしの顔に比べりゃマシだろ」
「うわひっでえ」

 午前中は屯所で書類仕事を片付け、午後からパトロールに出る。工場の見回り、繁華街から裏の繁華街への見回りだ。ここはいつ来ても腐ってんなあ、などとぼやきながら穂積は拓海の後を歩いてついてきていた。

「なあ桜井サン」
「あ?」
「桜井サンがご贔屓にしてた東エリアの天使いたじゃないスか」
「知らねえな」
「またまたあ、とぼけちゃって!」

 東エリアの天使といえばまず間違いなくあの少女のことである。天使でなければ女神か。心のオアシスと呼んでいた隊員もいた。それだけ、汚い貧民街であの少女という存在は一際白く輝いてみえるようだった。そのことを否定するつもりは拓海にはない。
 贔屓にしていた――というのは、面と向かって後輩に肯定すべきことではないだろう。追及されれば否定はできそうにない。

「で、そいつがどうした」
「俺最近東エリア勤務が続いてたんですけどね、あの子いつも屯所の陰にいたじゃないですか。それがここひと月くらい平民街にいるもんだからおかしいなって」
「は? あいつ屯所の傍から動くなって釘刺されてんだろ」

 確かそのはずだ。大事にしてもらっている貧民街の住人から、平民街に出ては何があるかわからないから、だからあの屯所の傍で、警邏隊の隊員を狙って靴磨きをしていたのではなかったか。
 歓楽街の入口でそんな話を切り出した穂積は、立ち止まる拓海をよそに先を歩き始める。

「俺もそれ知ってたから、こんなとこいたら危ないだろ、って声かけたんスけど。あんたには関係ないでしょ、の一点張りで。どうも金が要るみたいで必死らしい。他の隊員も気持ち多めにやったり、できるだけ気に掛けるようにはしてるみたいですけど、それだって四六時中見てやれるわけじゃないから」

 少女を囲いたいという奴まで出ていたくらいだから、隊員たちも通常よりずっと気を使って見ているだろう。穂積もそれは同じようだ。しかし彼女自身がそこにいることをやめないのであれば、それ以上はどうすることもできない。
 金が要る、というのが怖い。金のためにおかしな輩に絡まれる可能性だってないわけではない。東エリアは北に比べれば平穏だが、北エリアはもはや無法地帯と化している。そんな場所と比べたって何の安心にもならない。となれば残る三つのエリアのうち、一番危ないのは人口が多い東エリアに決まっている。出会う人間すべてが危険だというつもりはないが、金が欲しいという希望に合致した取引を少女に持ち掛けるような奴に、間違いなくろくなやつはいない。

「だから、申請出して今度会ってやってくださいよ。桜井サンが言えば聞くかもしんないじゃないスか」
「はあ? 何で俺が」
「俺を見かけると毎回、あんたあのでっかいのといっつもサボってた奴でしょ? あいつ北エリアで刺されたりしてない? って聞いてくるんで」

 身振り手振りを交えながら少女の声真似をする穂積は、少女のことを思い出したのはぶっと吹き出す。似てねえよ、と後ろから拓海が頭を小突くと、俺渾身の名演技なのに! との弁解がなされた。

「なんか恨まれたりしてるんスか? あの子に」
「なんもしてねェよ」
「なら好かれるようなことは?」
「毎回靴磨かせてやってたが。それだけなら他の隊員だって好かれて然るべきだろ」
「そーっスね。そりゃそうだ」

 元気でやっているのならそれでいい。今度の休みには仕方ないから申請を出して久々に東エリアに行くか、などと考える。
 金が目当てなんてろくなことにならない。下手をする前に釘を刺さなければならないだろう。

「仕方ねえから次の休みには東エリア行ってやる」
「お、マジっスか? なら俺とメシ食いましょうよ、奢ってくれるって約束してたじゃないですか」
「んな約束をした覚えはない」
「うわ、警邏として一番やっちゃいけないことなんですよ、しらばっくれるのは!!」

 抗議の声を上げる穂積と共に、もう歩きなれた歓楽街を歩く。気にかけられていると知っただけでこの気分の上がり様だ。子供じゃあるまいし、と自らを情けなく思いながらもこの気持ちを否定する気はやはり、なかった。
 件の見世物小屋の手足のない少女たちを哀れに思う。彼女たちは一体何を引き換えに、なくしたものを差し出したのだろう。――無知とは、恐ろしいものだ。





 一日の勤務が終わる。言いくるめられて夕飯を奢るハメになり、拓海は穂積と共に繁華街への道を歩いていた。囚人たちの発掘作業はもう終わっている時間だ。工場も今日の稼働を終えている。日も暮れ、これからは繁華街の時間だ。正直このエリアはこれからの時間の方が警邏としては忙しいのだが、今日は日勤でよかったと思う。
 繁華街の色とりどりの明りが、作業を終えた工場の労働者たちを誘い込む。店の前では華やかな衣装に身を包んだ女たちが客引きをしている。これはどこのエリアでも変わらない光景だ。

「北は他に比べると美人が多い気がしますねえ、眼福眼福」
「法外な値段で買う男がいるからだろ。簡単に稼げるなら多少汚くてもこっち来んだろ」
「ほう、桜井サンはこっち来て女買ってないんスか?」
「毎日こんなとこ見てりゃ汚くて金払ってまで抱く気になんてなんねェよ」
「あは、確かに」

 適当な定食屋に場所を決め、穂積が先に暖簾を潜る。拓海もその後に続いたが、繁華街の向こう、歓楽街に向かう路地に、気になる人影が映った。綺麗な黒髪の女、そう高くはない背、そう、おそらくは少女だったように思う。
 どくん、と大きく心臓が鳴る音が自分でもよく聞こえた。ついでに悪い予感もする。まさか、だ。行ってみればいい。気のせいなら戻ればいいだけの話なのだから。

「……おい、穂積。先に食ってろ、すぐ戻る」

 視線は穂積には一切向けず、先程の人影を視界から逃さないよう見つめて、拓海は店を離れた。背中に「何スかいきなり!?」と拓海を呼ぶ声が聞こえたが、気にしている場合ではない。
 まさかの話だ。次の休みには東エリアに出向くのだから。そこで少し会話をして、変な考えがあるなら諌めてやればいい。屯所の人間に言って、もっと気にかけて見てもらえばいい。ああ、貧民街の連中にもまともに監視しとけと言うべきかもしれない。だから早まるな。お前はこんなところにいていい人間じゃないんだから――!!
 どくどくと心臓が早鐘を打つ。早くしなければ。早く追いつかなければ。視界に捉えて離さないその人影は、歓楽街の一際暗い路地に向かっている。わかる。あの路地には、あの見世物小屋がある。見世物が見世物だからか深夜にしか営業しないため、今はまだ人通りはない。全力疾走でその影に追いつくと、少女の手を引く中年の男の肩に手を掛けた。男がゆっくり振り返る。次いで、手を引かれる少女も。少女の瞳は、透き通った蒼色。

「……こんなガキを、どこに連れ込もうとしてる」
「いやだなあお巡りさん。合意ですよお」
「答えろ。叩き斬るぞ」

 人通りはない。多少荒い手を使ったところで誰も拓海を咎めはしないだろう。返答次第では武力は辞さない。
 相手の男の眼は昏く淀んでいた。こいつもキメてやがる、とまともな返答が期待できないことに拓海は唾を吐く。

「お巡りさん、これは合意ですよお? それがここのルールじゃないですかあ」
「うるせえ、御託は聞いてねェ」
「ああ、それともお巡りさんもこの娘気に入ってましたあ?」

 男は少女の手をより強く引き、腕の中に収める。肩に片腕を回し、もう自分のものなのだと言わんばかりの表情だ。
 ぱちん、とどこかでスイッチが入る音がした。
 男はなおも、光を灯さない瞳でくだらない話を続ける。少し怯えた蒼の瞳は、薄く涙を浮かべて拓海を見つめている。視界の端に、この暗闇に唯一光を与える灯篭の火が見える。

「こんな子がうろうろしてたら、そりゃあお巡りさん、目の毒ですよねえ。生唾モンですよねえ」

 男の太い指が、少女の白い肌を滑り、鎖骨を撫でる。そのままいつものボロボロのワンピースの生地の上から体のラインをなぞり、腰に触れ、

「ああ! そうだ、何ならお巡りさん、今晩が終わったら、一番にこの子を買いませんかあ? これだけの上玉ですけどねえ、お安く、」

 その指が生地を潜り、太腿に触れ、少女が小さく悲鳴をあげた時点で、今度は何かが切れた音がした。

 ――限界だ。考えんのもヤメだ。 

 拓海は腕を伸ばして少女の体を強く引き寄せると、そのまま投げ飛ばすように自分から遠ざけた。狼狽える男には慈悲をくれてやるつもりはない。躊躇いなく腰のサーベルを抜き、少女に触れた指を力任せに腕ごと落としてやった。吹き出した血液が拓海の顔面を汚す。ごろりと転がった男の右腕をゴミを扱うかのように蹴飛ばすと、男ににじり寄った。

「どうだ、いつもてめェがやってる腐ったショーを体験する気分は? あ? 気持ちいいか?」

 悲鳴混じりに拓海から逃げようとする男の毛髪を力任せに掴むと、ぶちぶちと何本もの毛が抜ける音と感覚が掌に残った。なるほど確かにこの弱者を追い詰める感覚は悪くない。そんなことを思いながら男の頭を地面に叩きつけた。仰向けに倒れ込んだ男の胸に強く膝から乗りかかり、サーベルを投げ捨てるとその丸い顔を渾身の力で殴りつけた。右の拳で。左の拳で。殴りつけながら、男に話しかけるのはやめない。


「……やめて」

「なあ、オイ、次も腕がいいか? あ? それとも脚か? 好きなとこ言ってみろよ、耳でも目でもどこでも抉ってやる」

「あたしが勝手に着いてきたの!!! っ、いいじゃない、ここに来るだけで、一晩男の人と過ごすだけで、たくさんお金貰えるのよ!? 気に入ってもらえたら空都でだって住めるんだから!!」

「リクエストがねェなら俺が勝手に決めんぞ」


 少女が泣き叫ぶ声が聞こえる。
 拓海は頭の中で、自分の耳を削いだ。少女の言葉をまともに聞いてしまえば、抱きしめたくなる。何をそんな馬鹿なことを、と。金が欲しいならいくらでもくれてやるのに。
 こいつを囲いたいと言っていたくせにそうしなかったあの隊員を恨んだ。そして一番自分を憎く思った。こんな思いをするなら、どれだけの金を積んででもこの少女を自分のものにしておくべきだった。無知とは恐ろしいものなのだ。けれどこの少女にはこんなことは知ってほしくなかった。こんなことで、こんな場所で、少女への劣情を自覚するくらいならいっそ、早いうちに金で買ってしまえばよかったのだ。
 ああでも、もう遅い。もうこの腕を振りぬくことを止めることなどできない。


「そうだな、歯を全部折るなんてのはどうだ? ショボすぎてそんなんじゃイケねえか?」

「あんたなんか国に生かしてもらってるくせに!! あたしの気持ちなんてわかんないくせに!! あたしがどんな気持ちでここにいるのかなんて……!」

 
 削いだはずの耳がまだ、少女の声を捉える。
 お前がどんな気持ちでここにいるのかなんて知るか。お前の気持ちなんて知るか。国に生かしてもらっている俺の気持ちも、お前になんて分かってたまるか。
 この子供に間違いを犯させたのは誰だ。この子を真っ当に守ってやるには、俺は他にどうしたらよかったんだ。
 振りぬいた右の拳が、男の頭に当たる。次の拳は正面から口にぶつけてやった。何本か男の歯が折れ、これまでの殴打でべろんと皮のむけた拓海の拳が唾液と血液で更に汚れる。少女はもう何も言わなかった。目の前で行われる拷問に、すすり泣くことしかできない様子だった。それでいい、幻滅しろ。それで、こんなところには二度と来るな。そう思ってほっとした時に、拓海の体は後ろから拘束された。

「ダメだ桜井サン、それ以上やったら殺しちまう!」
「………心配しなくても、……もう死んでんだろ」

 あれだけ頭を殴れば死ぬだろう。これだけの力で胸を圧迫していれば死ぬだろう。
 拓海の下にいる男は、もう顔など元の状態が判別できないほどに膨れ上がり、ぐちゃぐちゃになっていた。ひでえ、と拓海のすぐそばで、拓海の体を拘束したままの穂積が眉を顰める。
 拳が痛い。削いだ耳が戻ってきたかのように、世界に音が満ちる。通行人がこの惨状を見て悲鳴を上げる。そこに警邏隊の制服姿の男が二人となれば、ざわめきは異様なものとなっていた。
 拓海は自分の制服のベルトに掛かっている手錠を取り出した。片方の輪を自ら右手に掛け、もう片方を穂積に手渡す。

「逮捕しろ穂積、現行犯だ」
「……っ、けど、ここ、北エリアですよ。こいつも相当ヤバい奴ですし、お咎めなんかないんじゃないですか」
「逆だ。……芹沢に殺人者なんてゴミが必要なわけねえだろ。下手すりゃ裁判すらなくブチ込まれる」

 その事情は同じように名家の出身である穂積には痛いほど分かるのか、ぐっと唇を噛みしめる。なんでてめェが悔しそうなんだよ、と拓海の顔は薄く笑いを浮かべていた。

「……俺なんか別にどうだっていい。だが、ひとつだけ頼みがある。どうしても叶えてほしい」
「……何スか」

 空いた手錠の輪を拓海の左手首に掛けると、穂積の眼がしっかりと拓海を見据えた。

「……あのバカを、平民街のどっかでちゃんと働かせてやってくれ。信用のおける、危なくない場所でだ」

 拓海の視界の隅で、少女はまだ泣いている。
 泣かせたくはなかった。あの子は、あの力強い瞳だから輝いているのだ。こんなところで汚されていいものじゃない。
 思えば、最初からそうすればよかったのだ。真っ当な仕事に就かせて、ちゃんと稼がせてやるのが筋だ。それをしなかったのは、少しでも彼女を視界に入れておきたかったからだ。自分の浅ましさにまたひとつ気付いてしまう。

「……そうだな、女なんだから料理なんかいいんじゃねェか? お前の力ならできんだろ、それくらい」
「そりゃ、できますけど……。いいんですか、そんなことで。桜井サンがムショ行きにならないように口添えだっていくらでもできます」
「お前みたいなクズ、家から切り離されたら生きていけねえだろうが。馬鹿か」

 笑ってそう言うと、あんたが言うんスか、とぐっと唇を噛みしめた穂積の眼に涙が光っていた。気色悪ィ、と言ってやれば、心の汗です、などと意味不明の返答。
 通行人が呼んだのか、屯所の人間がわらわらとやってきた。皆一様に手錠をかけられた拓海の姿を見て唖然としている。
 野次馬はどんどん増えて、拓海と死体を取り囲んでいた。

「……あの、……あんた、」

 連行される直前、立ち上がった少女が涙でぐしゃぐしゃの顔で、拓海に駆け寄った。
 ここに来たのは今日が初めてのようだ。人に買われたのもきっと今日が初めてなのだろう。東エリアでもう誰かに買われて味をしめたのかと思ったが、そうではないようだ。
 そのボロボロのワンピース姿が懐かしくて、本当は抱きしめて叱りつけてやりたくて仕方なかった。でももうそうすることは二度と叶わない。この汚れた手でこの美しい少女に触れることは拓海自身が許せないのだ。
 真っ当に生きろ、と。幸せになれ、と。言いたいことはいくらでもあったけれど、どれも一言では表せそうになかった。そんな自分に拓海は苦笑する。
 この少女が好きだ。さっき腕を掴んだ時、細い体がぶるぶる震えていたことを拓海はわかっている。あんなに震えていたくせに一丁前に強がっていて、本当は誰かが守ってやらなきゃいけないのに。こういう形でしか守ってやれなかった自分を不甲斐なく思う。守ったというのもおこがましい。自分は少女の心に傷を刻み付けただけだ。ああ本当に、自分は、この、姿も心も美しい少女に心底惚れている。

「……来んな、っつったろうが、紗央」

 それだけを伝えると、自ら警邏隊に着いて歩き出す。彼女の傍には穂積がいる。穂積はクズだけれど、腐ってはいない。しっかり彼女を送り届けて、真っ当な職を斡旋してくれるはずだ。
 人ごみの中を歩きながら、彼女の名前を何度も小さく呟く。
 そしてようやくひとつの事実を思い出す。
 ――彼女は拓海の名前を知らないのだということ。
 気づいてひとり俯いて笑った。そうか、彼女にとっては、名も知らぬ警邏の男が気色悪い薬漬けの男を殴り殺しただけの記憶になるのか。
 


 はじめて覚えた正義感が、涙に変わるなどとは、考えてもみなかった。



ここまでが書きたかったから正直あとはどうでもいい。
あ、でも穂積が紗央を連れて北エリアが云々という話は書きたいかもしれない。


タっくんすげえ一般人。もしかしたら本筋よりすごい人なんじゃないですか。
愛の強さはシュタゲルートのタっくんくらいな気がする。本当に本当に何よりも紗央が大事。裁判なしで刑務所に入って、何度も泣いてる紗央の夢を見る。また馬鹿なこと考えてやしないかとか、真っ当に働けてるかとか、心配してばっかり。出会いから書くと長くなりすぎて途中でやめそうだからやめたんだが、タっくんから紗央への気持ちはいつも通常運行でした。ありがとうございます。


紗央は紗央で毎日タっくんを思い出す。名前は穂積に教えてもらった。
あの後見世物小屋も穂積と一緒に見に行く。その恐ろしさおぞましさを目の前で見て、あの人はここから守ろうとしてくれたんだ、ってわかる。どうして来るなって言ってたのかもわかる。
まあきっと紗央のことだから、そもそも北に来たのも、いざとなったらあの人に会えるかもしれないくらいの打算があったんだろうけど。しょうもない子や。
本当は芹沢の跡取り息子だったこととか、空都の勤務が決まってたこととか、全部穂積が教えてくれる。
穂積は決まった人に心を開くととことん懐く奴だと思ってる。境遇が似てるからタっくんにはよく懐いてたんでしょう。
二年間死ぬ気で料理勉強して、頑張って働いたらいい。


リア充ばくはつしろ。


空都のF5と瑶子さんも書きたいんだけどどうしたらいいもんやら。
ルミってどうなってるんだろう。聖歌隊とかかなあ。大和とルミはくっついてなくて、大和が片想いして花とか贈ってたらいいなと今思った。ルミは平民出身で、歌がうまくて空都の教会にいるとか。妬まれてなんか喉が荒れるもの飲まされたりとかありそうだ。
この世界の大和は割と理央寄りな感じで慎ましい子だといい。道明寺ぽくはない。一歩引いたところからルミの歌聞いて応援してる。瑶子さんとかシーマスさんあたりはああもうこいつらまどろっこしい!と思ってたらいい。


みのりがホームシックでおとーさんのとこ帰るーとか泣き出すのはいつですか。
冬二くんが慰めるんだけど手ひどく拒否られて落ち込んでたらいい。
個人的にはひとりになったタっくんはその後風哉くん炎而くんの双子に出会ったらおいしいなと思ってる。
そっからどうするのかは全然考えてないけどね! タっくんと身寄りのない双子が一緒に暮らしてたら、それはとっても俺得だなって! このタっくんは最終的に紗央忘れそうで怖いけどな。だんだん思い出せなくなって夜狂ったように呻いてそう。それを傍で見てる都筑さんちの双子というのが最高に熱いと思います。
都筑さんちの双子はやんごとない家の血は引いてるけど、当主様のお手付きの女が妊娠しちゃったときの子とかで捨てられたとかな。ふわっと設定は決まるんだけどちゃんと決めないから後々SO☆GOに苦しむんだよな。


よし、そろそろ風呂に入るぞ。
秋臼さんは何か妄想固まったのかな? うん?
点呼どんは早くパロネタ進めるべきwww パロに埋もれるwww
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2013.06.04(Tue) | 空挺懐古都市パロ | cm(0) | tb(0) |

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